假面特攻隊の一寸先は闇!読みにくいブログ(笑)

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パシフィック・リム:アップライジング 〜巨大ロボ×巨大怪獣×ロリチビ少女×中国大企業×東京&富士山!

(2018年9月8日(土)UP)
『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』 ~多民族が「共生」ではなく「棲み分け」(笑)する未来像!
『レディ・プレイヤー1』 ~ガンダムvsメカゴジラ! 仮想現実に逃避するオタの心理描写が秀逸(涙)
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[特撮洋画] ~全記事見出し一覧


パシフィック・リム:アップライジング

(18年4月13日(金)・日本封切)

巨大ロボ×巨大怪獣×ロリチビ少女×中国大企業×東京&富士山!

(文・T.SATO)
(18年6月16日脱稿)


 巨大ロボット軍団vs巨大怪獣軍団の大抗争を描いた、環太平洋防衛軍こと『パシフィック・リム』(13年)の5年後の待望の続編で、前作の10年後の世界を描く。
 主人公はエピソード7こと『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15年)やエピソード8こと『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(17年)でも副主人公として活躍した少々ガタイのイイ黒人青年クンが演じており、日本語吹替版ではイケメンボイス声優・中村悠一がアテている。


 しかし、副主人公でもあるヒロインは、小学校高学年みたいなメカフェチの白人ロリチビ少女であるあたり、なんだか本作も日本のいびつなオタ向けアニメみたいではある。日本語吹替版では、彼女を実力派人気声優・早見沙織がアテていた。
 先の傑作アメコミ洋画『ブラックパンサー』(18年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180607/p1)でも、ブラックパンサーの妹嬢は各種のコンピューターを自在に操る天才ロリ少女であったけど、ナンなのダこの怪しい符合は!? 巨大ロボットや巨大怪獣のことでは我らがニッポンを見習ってくれてもイイけれど、オタク男子好みの理系女(リケジョ)なロリ美少女嗜好については、世界の労働者諸君は見習わない方がイイとも思うゾ(笑)。


 巨大ロボット軍団の操縦士メンバーには、本邦ニッポンからも、我らがジャンル作品の雄・千葉真一のご子息であられる新田真剣佑(あらた・まっけんゆう)も参戦!
 世界市場・中国市場も意識してか、勃興する中国の巨大IT重工業を登場させて、往年の名作ビデオアニメ『マクロスプラス』(94年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19990904/p1)みたく、有人戦闘機(巨大ロボ)と無人戦闘機(巨大ロボ)のコンペティション・営業合戦みたいな話ともなり、クールビューティーな黒スーツに身をつつんだ美人で痩身の女社長が率いる中国企業とドローン(無人巨大ロボ)が、巨大怪獣以上にワルものの役回りになるのかと思いきや……。それとは別にラスボスがいて、女社長も実はいいヒトで、環太平洋防衛軍に最後は協力を惜しまない、今では莫大な収益を上げる中国市場を意識した(笑)展開ともなっていく。


 世界を動かすハイテク大企業の役回りを我らがニッポンが務めなくなったことに、マンハッタンを買収しまくっていたバブル期のニッポンを知るオッサンとしては隔世の感もいだく。
 しかし、ラストバトルでは、前作でも舞台としなかった本家・元祖である我らがニッポンの大東京の大都心&冬山の富士山のピーカン晴天下で、黒人青年クンと白人ロリ少女が並んで操縦する最後の1体の巨大ロボットvs敵巨大怪獣とが組んずほぐれつ超高速でゴロゴロ転がり背負い投げしたり振り回されつつ、ロケット噴射で超高空に飛翔して富士山の斜面に落下し、裂けた装甲のスキ間から外を覗きながら操縦する、ニッポンのオールドオタにはドコか既視感もあふれる実に暑苦しい超絶バトルが繰り広げられる!――富士山が背景だなんて、ゴジラ映画『怪獣大戦争』(68年)や『マジンガーZ』(72年)に昭和のあまたの東映特撮のオープニング映像みたいでもある――
 ニッポン人としては、葛飾北斎富嶽百景じゃあるまいに富士山はあんなに急峻な円錐じゃないヨ! 東京の目と鼻の数キロ程度の先に富士山が迫って見えるのはドーよ!? あんなに激しくバトルしたら富士山が山体崩壊しちゃって自然破壊だヨ! とツッコミもしたくなる(笑)。
 もちろんリアルな東京&富士山ではなく、世界の人々の脳内での最大公約数としてのニッポン&富士山イメージのあくまで虚構世界内における誇張・単純化されたかたちでの再現なのだから、小者的にウッキームッキーと反発せずに、そこはオトナの余裕ある態度で泰然自若に構えて笑って流そう。


元祖の前作と比すると本作はやはりイマイチか? その原因とは!?


 しかし、ウ~ム。出来についてはイマイチかなぁ。前作と比すると悪いイミで少々人間ドラマ寄りかもしれん。それに世界規模での切迫した危機感があった前作と比べれば、あくまでも戦後の局地戦にすぎないスケールの事件ではあったし。
 ではドーすればよかったのか? 前作と同じような攻防劇・総力戦を描けばよかったのか? いや、前作を超えるのは困難だから、あの世界の戦後を別の角度・側面から切り取って新鮮な物語を作ってみせるべきであったのか?
 おそらく発想としては、後者であったのだろうと私見する。そして、コレが連続TVドラマ展開としての前作の続編であったなら、こーいう少々ミニマムな人間ドラマやSF設定を積み重ねていった果てに帰着するストーリーは、むしろ単発映画でのそれよりも、視聴者にさらなる感慨を催すようにも思うのだ。
 しかし、しょせんは2時間尺の戦闘シーン主体の映画では、綿密でていねいな人間描写の「積み重ね」による手法が適しているとは思われない。むしろ印象的な「点描」での人間描写の手法の方が適していると思われる。
 ……なぞと思ってしまうのも、あくまでも前作の神懸かったテンション・高揚と無意識に比較してしまうからであって、コレが独立したオリジナルの単独作品であった場合は、本作はフツーに楽しく観られた作品であった可能性も高い(笑)。げに作品評価とはムズカしい。


巨大ロボvs巨大怪獣を描く元祖『パシフィック・リム』の設定&作劇をふりかえる!


 元祖の前作『パシフィック・リム』の設定も整理してみよう。
 異次元に通じた太平洋の海溝の底から、ぞくぞくと出現するKAIJUこと巨大怪獣。
 太平洋沿岸部の各国の諸都市は巨大怪獣に蹂躙・破壊され、巨大怪獣の侵入を防ぐために、日本の漫画『進撃の巨人』ばりに万里の長城で都市を囲って生活している。広大な太平洋もまた、日本の近未来海洋戦記漫画『蒼き鋼のアルペジオ』(共に09年・共に13年に深夜アニメ化・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190922/p1)みたく、巨大怪獣の勢海圏となって通交も途絶えている。
 そんな危機に敢然と立ち向かうのは、往年の変身ブーム時代の円谷プロ製作の特撮巨大ロボット『ジャンボーグA(エース)』(73年)やロボットアニメ『闘将ダイモス』(78年)に『機動武闘伝Gガンダム』(94年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/19990804/p1)みたく、機械と人間を接合し、搭乗者の突きや蹴りなどの動きと連動したかたちで巨大ロボットの手足身体も操ることができる、世界各国な無骨な二足歩行の巨大ロボット軍団!
 日本の往年のジャンル作品群の記憶に満ち満ちた設定&映像を、それらに影響を受けた海外のオタクたちが最高級のCG特撮を用いてハリウッドで再現した作品であった。


 クサれオタの筆者としては、奇しくも巨大怪獣vs巨大ロボット軍団の戦いを描いて、巨大ロボも2人1組で操縦していた、本映画をさかのぼることちょうど10年前の深夜アニメ、渡辺宙明センセイが楽曲を手掛けて串田アキラが主題歌を歌うことで、絶滅寸前のオールドオタクをねらいまくっていた快作『神魂合体ゴーダンナー!!』(03年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20040405/p1)との膨大な類似なども想起したモノだ。
 しかし、「萌え」や「美少女」に急速に特化しつつあった当時の若いアニメマニマ間では空気と化したマイナー作品でもあった。残念ながら日本の後代の若いオタたちも、『ゴーダンナー』なぞ振り返らないし、ジャンルの歴史に残った作品ではないので(筆者個人の評価はまぁまぁ高いけど)、『ゴーダンナー』が『パシフィック・リム』のアイデア・ソースであった可能性は低そうだ(涙)。
 ギリシャ神話のオルフェウスと日本神話のイザナギは、共に冥界下りでカミさんを取り戻しに行くけど、日本と彼の地の間に類似した神話がナイ以上は、独自に成立したと推測されるように、神ならぬ身の人間の想像力なんてのも無限ではない以上は、パクらなくても互いに似通ったモノを創造してしまうことも往々にしてあるのだろう。エジプトと中米のピラミッドの類似もしかりだ(笑)。


 要は前作は、ロボ&怪獣がビル街・海浜・浅海・深海で戦っているだけの作品で、あるいはいかに怪獣を倒すかの作戦だけを描いた攻防劇であり、その過程でイイ意味で申し訳程度に登場人物たちの人間像を描くような作品にすぎなかったワケである。しかしそれゆえに、原初的・プリミティブな起承転結は満たしていて、観客にも敵の怪獣を倒してメデタシメデタシのカタルシスを味あわせてくれる作品にはなっており、斯界(しかい)の評価も実に高くて、筆者個人の私的評価も高かった。


元祖の勝因は怪獣の「超獣」化!? 怪獣から小難しいテーマや悲劇性を剥奪したこと!?


 もちろん感情的な好悪だけを云うのは、評論オタクに悖(もと)る行為なので、多少分析チックなことも云わせてもらおう。前作は「怪獣」がイイ意味での「超獣」化、生物兵器化していたことが、作劇の勝因であったと思うのだ。
 往時のオタク第1世代のマニアたちの活動によって、昭和ウルトラシリーズや昭和ゴジラシリーズの堕落の歴史・変遷の象徴のようにも云われて、あるいは1960年代の第1次怪獣ブームまでの作品群を神聖視して、上の世代に粗製濫造だと思わせた1970年代の変身ブームや合体ロボットアニメブームに登場した怪獣怪人・敵ロボットを揶揄するために構築された論法がある。
 60年代までの初期東宝特撮怪獣や初期ウルトラ怪獣たちは、「恐怖」や「核兵器の隠喩」や「大自然の象徴」に「大自然からの警鐘」などのテーマ性を持っていた。しかし、70年代に入るや、東宝怪獣やウルトラ怪獣はテーマや命題を抱えた「生物」としてではなく、ヒーローに問答無用で倒されてもイイように、その同情すべきかわいそうな属性は剥奪され、打倒されるだけの無個性で「武器」や「技能」などの戦闘能力に特化した存在に堕(だ)したからこそ、特撮ジャンルは70年代以降に「冬の時代」を迎えたのであるウンヌンカンヌン(大意)という論法である。
 コレはコレで一理はあったのかもしれない。しかし、今度はそれと引き替えに、マニア世代が作り手側にまわった90年代中盤以降、本邦ジャンル作品は「怪獣」を倒すことに躊躇や罪悪感を過剰にいだくようになってしまった。大怪獣ゴジラだって、水爆による被害者なのである……といったロジックによってである。
 これはこれで誠意ある態度でもあるのだが、このロジックを徹底していくと、悪人にも恋人や家族や子供がいたかもしれないと悩むことになり、怪獣モノにかぎらず勧善懲悪の娯楽活劇作品の存在自体を自己否定しなければならなくなる(爆)。ハリウッドでリメイクされた両『GODZILLAゴジラ)』映画(98年・14年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190531/p1)とて、この弊からは完全には逃れることができなかった。


 しかし、『パシフィック・リム』に登場するKAIJUたちは、『ウルトラマンエース』(72年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070430/p1)に登場した「超獣」たち同様、異次元空間から来襲する侵略的外来種なのだ。多分、我々人類は今のところはちっとも悪くない――今後の追加設定いかんでは知らないが(笑)――。
 生物・動物ではあろうけど、我々炭素系生物とは異なり、古典SFではおなじみ懐かしのガラス・珪素(ケイソ)系生物であるから、ますます遠縁・疎遠でもある。人類とも共生できそうな愛玩動物的な愛嬌もナイ――怪獣各個の形態や得意能力に特化したデザイン的なカッコよさはあれど――。
 よって、罪悪感・同情・憐憫の余地なく、安心して心おきなく戦って、『進撃の巨人』同様に「相手を駆逐」してやる(笑)こともできるのだ。どころか、KAIJUたちには、戦い合った果てにドチラかが死んでしまっても恨みっコなしの古(いにしえ)の武人たちのような潔(いさぎよ)さ・爽快感までもが漂う。ナンという再発見であり再発明(笑)。


 もちろん、このような「相手を駆逐」してもイイ設定&作劇が特撮ジャンルの最終的な到達点であり、「怪獣」の存在にもそれなりの理や情を与えて、同情の余地や人類側へも反省の余地を求めるような作劇がまったくのムダであり寄り道であったのだと云いたいのでもナイ。それはそれでジャンルに純粋娯楽活劇的にはやや遅滞・停滞をもたらしたかもしれないが、同時にドラマ&テーマ的にはたしかに豊穣をもたらしたとも思うのだ。
 しかし、コレで3度目あたりであろうか?(笑) またまた少々煮詰まってきた感もある本邦ニッポンのジャンル作品――煮詰まってきたというのは、あくまでもフワッとした筆者の私見です(汗)――。コレを賦活化(ふかつか)するためにも、改めてキン肉バカな作品である元祖『パシフィック・リム』の設定&作劇については、我々も学ぶべきことが多いのではなかろうか?


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2018年初夏号』(18年6月17日発行)~『仮面特攻隊2019年号』(18年12月29日発行)所収『パシフィック・リム:アップライジング』合評2より抜粋)


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ヴァレリアン 千の惑星の救世主 〜多民族が「共生」ではなく「棲み分け」(笑)する未来像!

(2018年9月8日(土)UP)


『パシフィック・リム:アップライジング』 〜巨大ロボ×巨大怪獣×ロリチビ少女×中国大企業×東京&富士山!
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ヴァレリアン 千の惑星の救世主

(18年3月30日(金)・日本封切)

極彩色の目くるめく映像! 多民族が「共生」ではなく「棲み分け」(笑)する未来像!

(文・T.SATO)
(18年6月16日脱稿)

米ソの有人衛星ドッキング〜宇宙ステーション建造〜常夏の南洋の惑星種族を描く導入部


 大繁栄を誇る星間文明の千の惑星を一挙に壊滅させるほどの大クライシスを、外患から救ってみせる超スケールのお話か……と思いきや。千の惑星の民が住まう多民族な超巨大宇宙ステーションに迫る小クライシスを、プロフェッショナルな特殊捜査官でもある少年少女コンビが内憂から救ってみせるというお話であった。


 本作の物語は1975年にはじまり、我々オッサン世代には懐かしい洋楽デビッド・ボウイの楽曲が流れる中、コレまた懐かしいアメリカのアポロ18号と旧ソ連ソユーズ19号の衛星軌道上でのドッキングと互いにハッチを開けて米ソの宇宙飛行士が笑顔で握手を交わす映像が描かれる。
 ここに80年代・90年代・21世紀を通じて、次々に世界各国の宇宙船がドッキングしていくことで仮想歴史と化して、東洋・中東・黒人などの人種・民族・文化の違いを超えた宇宙飛行士たちが次々と握手を交わしいき、ドッキングを重ねて人工衛星になった宇宙船群を中核に資材が運び込まれて、巨大な宇宙ステーションが建造されていくサマも描かれる。
 あまりにも巨大になった宇宙ステーションは自重による地球落下の危機を避けるためか、バーニアを噴かせて外宇宙へと大航海に乗り出す。その航海中にも次々と遭遇していく数十数百の宇宙人種族たち。彼らとも平和裡に後楽園ゆうえんちでボクと握手していく、これら一連の数分にわたる映像がすばらしい。
 もちろんコレは本作の主要舞台となる超巨大宇宙ステーションの成り立ちで、多民族が共生するエスニックな本作の世界観をも端的に映像で表現してみせる見事な導入部だ。


 凶暴・凶悪・侵略的な宇宙人はいなかったのかヨ!? 言語体系・メンタルからして意思疎通が困難な昨年の洋画『メッセージ』(16年・日本公開17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20170516/p1)みたいな、初見では人類に吐き気さえ催させる巨大タコ型宇宙人もいなかったのかヨ!? 『新スター・トレック』(87年)の宿敵で、政治的な悪しき「全体主義」を象徴させていた集合生命の機械生命体・ボーグみたいな存在とも遭遇しなかったのかヨ!? 握手が友好を意味しない宇宙人はいなかったのかヨ!? というイジワルなツッコミを想起しないでもないけれど――手が粘液まみれの宇宙人はいたけど(笑)――。
 もちろんそのへんに脱線すると、本作はあまりに煩雑になるし、今までにも散々あったアリがちな侵略SFや異文化交流SFになってしまうので、しょせんはフィクションなのだから「この作品の世界観ではとりあえずはそーなっている」ということで割り切るのが粋(いき)というものだ。


 続けて、陽光まぶしく南洋の浜の真砂も美しい惑星に住まう、おそらく元はモーションキャプチャーであろうけど、人間のプロポーションよりも多頭身な3D−CGで描かれる牧歌的な宇宙人種族の老若男女たちが、簡素な竪穴住居に住まう平和で質素で高貴でもある日常と、その惑星のディズニーでピクサーで漫画チックなかわいらしい小生物に真珠(?)を食べさせると、その真珠が数十倍返しにもなって潮吹きされる、質量保存の法則に反した(笑)光景も描かれる。
 そこに近隣で勃発した宇宙戦争の余波により、撃沈された超巨大宇宙戦艦群がはるか超高空に小さくボンヤリ姿を現わし、破片もろとも幾艘もが爆煙の細い尾を引いて落下してきて、恐竜大絶滅的なカタストロフが訪れる。
 今落下してきたけど辛うじて無事であったモノか元からあったモノかは不明なれども宇宙戦艦の残骸に、辛うじて一部の住民は避難する。逃げ遅れた王女さま(?)はハッチの窓ガラス越しに人々と手と手を合わせるものの、そこにマッハの猛烈な爆風が押し寄せてきて……。
 という夢を見て、主人公少年がハッと目覚める(笑)。


 物語後半のキモとなっていく、小動物・亡国の民・王女さまの残留思念を伏線として披露する、第2の導入部もまた、別項でふれた同年早々のジャンル系邦画『牙狼〈GARO〉 神ノ牙―KAMINOKIBA―』(18年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180601/p1)の世界観説明の第1の導入部と予知夢的な伏線の第2の導入部同様、作劇の基本に教科書的に忠実でもある――ベタともいう――。


 その後は展開が散漫だとの批判もあるようだ。エ〜、そうかなぁ。その後をストレートにヒネりなく描くと、この作品はエラく単調な作品になってしまうと思うけど。


極彩色の目くるめく映像! 多民族が「共生」ではなく「棲み分け」(笑)する未来像!


 前半の目玉は、違法取引されている危険な「エネルギー変換器」の奪取作戦中における超現実的な映像だ。主人公少年&少女は、さる惑星の地表にある巨大マーケットに赴く。一見すると砂漠に囲まれた閑散とした土地なのだが、特殊ゴーグルを付けるとVR(仮想現実)なのかAR(拡張現実)なのかもよく判らない、多分両者が入り交じった、膨大な宇宙人種族が行き交う猥雑な巨大バザールへと変わる。
 だけでなく、高層建築や地下階層にも潜入ができる。現実世界でのほぼ何もナイ広々とした平坦な土地や、売買や奪取した物品の現実化・物質化と、VR&ARとはツジツマが合っていないようにも思うので、電脳世界だけではなく、半ばは異次元、畳み込まれた拡張余剰空間を物理的にも往還しているようなデタラメさも少々感じるけれども……、今どきの作品だから、きっとSF考証のヒトがもっとらしく後付けしたウラ設定などもあるのだろう!?
 ここでゲットした「エネルギー変換器」というのが、小型犬やネコを入れるような堅牢なボックス檻であり、柵の中には先の亡国の「小動物」の最後の一匹がいた(笑)。


 後半の目玉は、「変換器」を届けた先の超巨大宇宙ステーション内での大騒動。宇宙ステーションの最古層に近い最深部で、実は原因不明の放射能汚染が発生しているという。そして、主人公少年&少女が護衛についた放射能問題専門の司令官がステーション内で拉致される! ナンとその不逞の犯人たちは先の「亡国の民」たちだ(汗)。
 ステーション内にはあまたあるらしい巨大空隙を縫って、高速戦闘機でチェイスするやら、その原理が筆者にはよくわからず元からダミーの壁だったのか超近代的な科学力ゆえなのか、途中から少女の遠隔アドバイスで主人公少年は徒手空拳でステーション内の隔壁を奥に上に下へと次々に自在にスリ抜けたり浮遊したり落下して、陰気な動力室やら、黄や青や緑などに彩られた極彩色のアミューズメント(?)空間やら、「多民族の共生」と云いつつもやっぱ「棲み分け」じゃんとシニカルな筆者なぞはツッコミもしたくなる(笑)多種多様な宇宙人種族ごとの居住ブロックやら、怪しいネオンに満ち満ちたオトナの歓楽街やらを横断したり縦断したりしていく、一連の超巨大宇宙ステーション内における東方見聞録的でエスニック・民族学的なCG特撮映像も実に見事だ。


 で、いろいろあって、追いついた少女と少年がついに辿り着いた先は、亡国の民が住まうステーション内の超巨大半円筒型の屋根に包まれた空洞空間。今回の一連の事象は主人公少年にやどっていた亡国の王女さまの残留思念の導きでもあったらしい!? そして、2時間ミステリドラマのラストのごとく、空洞空間に投影された立体映像で明かされた亡国の真相とは……。惑星近辺での使用を禁じられていた超兵器の使用を勝利に逸って起爆させた軍人司令が、先の司令官そのヒトであり、以後も司令官はその隠蔽に走っていた! といったところで、ナゾ解きドラマの方は終了。
 もちろん本作は推理ドラマでもないので、水戸黄門の葵の印籠にはヒレ伏す悪党も、暴れん坊将軍の葵の紋だと一瞬ヒレ伏しても逆切れして刃向かってくるパターンで(笑)、指令官は配下の多数の等身大ロボットともども、主人公男女と亡国の民の抹殺にかかってくる!
 しかして、組織の上層部は全員悪人だ! オトナはみんな汚い!(笑) みたいなマルクス主義的な安直な階級闘争図式はさすがに今の時代にアンフェアで単純にすぎると思ったか、組織全体が腐敗していて悪党であるということではなく、世界連邦の善なる特殊部隊もそこに突入してきて、悪の司令官相手にドンパチがはじまって、時限爆弾の解除も並行して描かれることで、クライマックスを作っていく……。


本作もそこまで酷評すべきではない水準作では!? 美男美女主人公の是非!?


 で、ググってみた。この作品もボロカスに酷評されているなぁ(汗)。キミたちは「スキとキライだけで、フツーがないの」か? 中間のなだらかな無限グラデーションのところを行きつ戻りつ是々非々で語るような技量はナイのかヨ(笑)。筆者も別に本作を大ケッサクだと強弁する気はないけれど、そこまで拙い底抜け凡作でもないでしょ。


 本作は線の細い繊細ナイーブさ&顔面にもあどけなさを残した白人美少年&白人美少女が主人公。白人美少年の方はマーベル社のアメコミ洋画『アメイジングスパイダーマン2』(14年)の親友にして敵にまわった怪人グリーンゴブリン、白人美少女の方もDC社のアメコミ悪党洋画『スーサイド・スクワッド』(16年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160912/p1)のラスボスの魔女エンチャントレス役かつ魔女に憑依される女考古学者役で出演していて、ジャンル的にも縁がある御仁のキャスティングといったところか?


 加えて、この白人美少年の方は登場早々から一応は職務中にも関わらず、白人美少女に軽薄なトーク口説き落とそうとしつづける。日本で云うなら80年代以降的、異能のジャンル脚本家・井上敏樹的なキャラでもある(汗)。
 対する美少女キャラもいわゆるイイ女ではあるけれど、コレが腰軽オンナであったりウブであったりマンザラでもないと男に対してイロ眼を使ったりするようであれば、男に媚びを売るイヤ〜ンな感じが微量に漂ってくるかもしれない。
 しかし、彼のナンパに動じるでもなく徹底無視するでもなく、当意即妙に言葉を返し冗談であしらい続けるあたりのクールでサバけた感じも、このテの男女コンビのキャラシフトのアリがちなお約束かもしれないけど、幼い愛くるしさも残る見た目とは反するのでポイントは高い。日本語吹き替え担当は、またまた登板した少々姐御ハダな美人ボイスの沢城(さわしろ)みゆき嬢。


 主人公が10代後半(?)のようにも見える美少年&美少女というあたりで、筆者のようなオタは日本のアニメやラノベっぽさも想起する。こんな若造たちが歴戦錬磨の特殊捜査官!? アニメ作品ならば実写作品と比して、良くも悪くもリアリティの喫水線が下がるので、この作品ではそーいうことになっていると無意識に割り切ってしまえるのだが、実写だと少々引っかかってしまう。
 いやもちろんそー感じてしまうのは、筆者がオッサンの年齢に達したからでもあるだろう。ここで初老のブサイクなオジサン・オバサンを主人公に据えてしまったなら(笑)、P・C、ポリティカル・コレクトネスで、「(左翼)政治的には正しい」のかもしれないけど、映画としては少々華に欠けてしまう。地味なオジサン・オバサンばかりの宇宙船クルーが登場したSF洋画『エイリアン:コヴェナント』(17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20171104/p1)という作品も昨年あって、筆者のような映画慣れしたオッサンはそれでも実は多分OKではある。
 しかし、自分が年少だったころも振り返って思うに、漫画・アニメ・劇画的にルックスや性格が適度に誇張・単純化されたキャラがいなかったり、劇中内での視点人物たりうる成長過程の少年少女がいない作品だと、子供や青少年の観客にとっては感情移入がしづらいようにも思うので、本作の若年男女コンビもあながち間違いではないのだろう。


 さらにググってみると、本作は1967年から50年以上(!)も連載がつづいているフランスの人気SF漫画が原作で、2007年には下請けを日本のアニメ製作会社にしてTVアニメ化もされているようだ。であれば、少年少女向けなキャラシフトや若造なルックスは、出自的にも生誕地・フランスにあっては必然であったかもしれない!?
 とはいえ、多民族が平和裡に共生する世界観の一見リベラルな本作でも、大衆向けの通俗娯楽作品である以上は、主人公/脇役というカースト制度や、社会的身分制度が撤廃されてもなお残るイケメン/ブサメン、モテ/非モテカースト制度までをも撤廃したような、ウルトラ絶対平等の超モダンな未来像の作品までは達成ができなかったようである……。
 もちろんコレは冗談で、「(画面から浮かび上がって見える)主人公/(画面に埋没ぎみな)脇役」などの区別・濃淡を付ける作劇的な「制度」それ自体を、物語作品一般の根底から否定し尽くすことができるなぞとは、筆者もまったく思ってはいない。むしろ、この「制度」自体が人間の主観に映じる光景や、周囲のあまたの事物との距離の方位・高低・遠近感などにも抜きがたく根差している以上は、排他的差別の域に達しないかぎり、許容されてしかるべき必然・必要悪であるとすら思っている(……ンなオオゲサな話か?・笑)。


ジャンル系映画としての訴求力不足は、敵も味方も「ただの人間」であったことか!?


 本作はジャン・レノ主演の殺し屋映画『レオン』(94年)やSF映画『フィフス・エレメント』(97年)などを手掛けたフランス人監督リュック・ベッソンによるフランスの大作SF映画でもある。
 ただし、クリスチャン作家・故遠藤周作原作の洋画『沈黙―サイレンス―』(16年・日本公開17年)で、ポルトガル人宣教師が英語をしゃべっていたのと同様(?)、世界市場でも売るためにか、本作でも登場人物はフランス語ではなく英語をしゃべっていた(笑)。
 日本の特撮マニア的には、昭和〜平成の「仮面ライダー」や「スーパー戦隊」を手掛けてきた映像派の鬼才・故長石多可男カントクも私淑したカントクさんの作品でもある。スキューバ・ダイビングを扱ったベッソン監督の映画『グラン・ブルー』(88年)の、水平線が横切る青暗い星空と海面に小さくダイバーとイルカが戯れている姿が描かれた宣伝ポスター。『超光戦士シャンゼリオン』(96年)の主人公の探偵事務所や、『電磁戦隊メガレンジャー』(97年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20111121/p1)の高校生戦隊が集うデジタル研究会の部室の壁に、それが貼られていたことを思い出すロートルオタクもいるであろう。


 夢幻感あふれるカラフルで多彩な映像は実に凝っていてすばらしい。ただしSF映画的なハデなメカ戦や、ヒーロー映画的な異能のキン肉バトルはない。
 敵さんも味方も「宇宙人」や「未来人」や「超能力者」などの外敵や異形の超越キャラではなく、「ただの人間」である(笑)。
 直接的な怒りをぶつけて戦いを挑むべき相手が敵キャラだったのではなく、間接的な遺恨の相手の正体が上層部の上官であったと特殊捜査の過程で判明するあたり、コレはコレで物語のバリエーションのひとつとして充分にアリだとは思う。平常心で鑑賞する連続TVドラマシリーズの積み重ねや伏線の果ての終盤にコレを配置したら、卑劣な悪党に対する懲罰のカタルシスがもっと出て効果的だったとも思う。
 しかし、もう少し直情的で非日常的な高揚を大勢が手っ取り早く味わいたいであろう「映画」という媒体では、正義と悪との間接的な関係性が少々物足りなかったのかもしれない。本作に不足を感じる御仁の根っコを勝手におもんばかると、そんな感慨が働いているのではなかろうか?


 その点ではイッキに目的地に辿り着かず、超近代的な宇宙ステーション内にも存在する歓楽街やら暗黒街へと寄り道するくだりは、連続TVシリーズや連載漫画の一編としてならまだしも、2時間で完結させる映画媒体ではオミットした方がよかったか、ラスボス司令官とも通じているなり反発しているなりの感情的な接点や因縁を、たとえご都合主義でも世間が狭くても歓楽街や暗黒街のキャラたちにも持たせた方がよかったのかもしれない。ただまぁそのへんは筆者も後知恵の見解であり、まぁまぁタイクツせずに鑑賞することができたのも筆者にとっての事実である。


 ……エッ、主人公の少年(?)の役者さんの実年齢って30歳を過ぎてたの!?(爆)


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2018年初夏号』(18年6月17日発行)〜『仮面特攻隊2019年号』(18年12月29日発行)所収『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』合評2より抜粋)


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ブラックパンサー

(2018年3月1日(木)・日本封切)

アメコミ黒人ヒーロー映画で傑作だが、新型のポリコレ・黒人搾取でもあるか!?

(文・くらげ)
(2018年3月31日脱稿。6月15日改訂)


 ヒーロー集団・アベンジャーズの一員でも地味な存在の『ブラックパンサー(2018)』が、アメリカで社会現象とも言える大ヒット。連日の興収トップでマーベル単体ヒーローで最大の成功作となりました。とはいえ日本人が観てそこまで面白いか? と言われると疑問が残ります。変身ヒーローなら何でもいいという我々のような人種はともかく(笑)、終映後の映画館にも「なんでそんなにヒットしたの?」的な空気が漂ってました。


 アメリカでの『ブラックパンサー』の大ヒットの理由は明白で「黒人のヒーロー」だからですね。黒人ならこれまでもアベンジャーズには、主役ではないけどアイアンマン2号のウォーマシンや、キャプテンアメリカの相棒ファルコンがいたわけですが、やっぱりああいうオモシロ黒人の扱いだとダメなんでしょう。1966年にデビューしたブラックパンサーはアメコミ史上初の黒人ヒーローで、西欧社会に溶け込まない架空のアフリカ国家“ワカンダ”の王ティ・チャラが変身する正統アフリカンヒーローです。あらゆるアメコミヒーローで一番金持ちなのはバットマンでもアイアンマンでもなくこのブラックパンサーですね。国王がそのままヒーローですからケタ違いです。アメコミは「金持ちしかヒーローになれない」傾向がますます強くなってます。


 監督はライアン・クーグラー。『ロッキー(1976)』シリーズの最終作『クリード チャンプを継ぐ男(2015)』の監督です。『クリード』で主演したマイケル・B・ジョーダンは本作でも敵役エリック・キルモンガーを演じます。この映画は主役から脇役までほとんどが黒人で、主要キャストに白人が2人しかいません。英語に加えコサ語やらイボ語が飛び交う本気のアフリカ向け映画です。『ブラックパンサー』が黒人監督・黒人キャストでも大ヒットが出せると証明した功績は大きいでしょう。今年2018年のアカデミー賞は女性と黒人が高らかに権利をうたい上げる「政治的に正しい」オスカーでしたが、そういう時流にもうまくハマったわけですね。このタイミングで黒人ヒーローを持ってきたマーベルとディズニーの作戦勝ちと言えます。とはいえ同じディズニー配給で女性と黒人を主役に据えた『スター・ウォーズ』がどんどん評判を落としてるわけで、政治的に正しきゃいいってもんでもないですが。


 かつてアメリカで『黒いジャガー(1971)』とか『コフィー(1973)』とかやたらクールな黒人が白人の支配層をブチのめす映画が流行りました。そのジャンルは皮肉交じりに「ブラックスプロイテーション(黒人搾取)」と呼ばれ、その利益が白人の懐に入るのがバカバカしくて廃れたわけですが、流行りのPC、「ポリティカル・コレクトネス(政治的に正しい)」も結局は形を変えた「ブラックスプロイテーション」じゃないかって気がします。黒人の支持を取り付けて白人が儲けるわけですね。今こそTVドラマ『ルーツ(1977)』をリメイクする時だ! と思ったら2016年にひっそりとやってました。クンタ・キンテ。まあアメリカの人種問題も白人対黒人で割り切れるほど単純じゃないだろうし、そっちはもっと意識の高い人たちに任せて(笑)、特撮ヒーロー同人誌『假面特攻隊』としてはブラックパンサーが如何にヒーローとしてカッコいいかだけ論じることにしましょう。


 ブラックパンサー=ティ・チャラを演じるチャドウィック・ボーズマンはウィル・スミスを思わせるハンサムですが、黒の全身タイツというのはヒーローとしてはいかにも地味です。マントや突起もないのでやられ役の戦闘員みたいに見えます。ただ黒人の体形美というか筋肉を強調したフォルムがカッコよくて、アメコミはやっぱり筋肉ですよ。
 やれアフリカのヒーローだから呪術で戦うんだろうとか、太鼓を叩いて踊るんだろうとか、漫画『ジャングル黒べえ(1973)』あたりをイメージすると裏切られます。ワカンダは現代社会の遥か上を行く超先端国家で、迷信や呪いの入り込む余地はありません。アフリカ文化が白人の搾取を受けず、欧米の影響を受けずに発展すればこうなるかもという未来社会のイメージで創られていて、ちょっと『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス(1999)』の惑星ナブーっぽかったですね。ジェダイ評議会みたいな国会も出てくるし。


 アフリカの内陸国であるワカンダが何故そんなに発展したかというと、500年前に“ヴィブラニウム”という鉱石で出来た隕石がアフリカのど真ん中に落ちました。このヴィブラニウムは何でもありのチート物質で、有名どころではキャプテンアメリカの盾がヴィブラニウム製です。これを資源として活かすことでワカンダは超科学文明を築いた設定で、ブラックパンサーはヴィブラニウムの守護者として受け継がれたワカンダ国王の称号なんですね。ティ・チャラは『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(2016)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160701/p1)の時に爆破テロで死んだ父ティ・チャカに替わってワカンダ国王の座を引き継ぐことになります。ワカンダはヴィブラニウムを白人の搾取から守るため、おもてむきは牧畜を主産業とした貧しい小国ということになっていて、地上はよくあるアフリカの風景ですがこれは世を忍ぶ仮の姿で、地下には広大な未来都市が広がっています。貧しい仮面の下は超大国。つまりワカンダは「国そのものが変身ヒーロー」という世にもめずらしい国家です。


 ブラックパンサーのスーツはヴィブラニウム文明の粋を集めたハイテクスーツで、これを開発したのが国王の16歳の妹、シュリちゃん(レティーシャ・ライト)です。いくら王族でも16歳でハイテクスーツの開発って日本のアニメ並みに嘘臭いです(笑)。ブラックパンサーのスーツには敵の攻撃のエネルギーを溜め込む機能があって、弾をはじくだけでなく銃弾のエネルギーを吸収し攻撃の力として使えるんですね。変身のプロセスも牙型のネックレスからモザイク状に全身を覆っていくスマートな物で、本当に16歳の少女が開発したの? 天才少女で売りたいだけでゴースト開発者がいるんでしょ? というくらい凄いスーツでした。


 ブラックパンサーは事件があるとUFOのような乗り物(ロイヤル・タロン・ファイター)に乗って世界を飛び回ります。タロン・ファイターのモチーフはアフリカの仮面だそうですが、デザインが飛行機じゃなくて宇宙船なんですよね。他にもトビウオみたいな戦闘機とか出てくるんですが、もう少し現実味というか「ちゃんと飛びそうな」デザインにして欲しかったです。全体にメカニックは好みじゃなかったですね。これもシュリちゃんが作ったのか?


 韓国で武器商人がヴィブラニウムの取引をすると聞いた国王は自らプサンの街に潜入します。黒人美女二人を連れて007みたいな白スーツを決めているのでえらい目立ちます。市場の中に秘密のカジノがあるという情報を掴み、魚屋のおかみに話をつけてカジノへ潜入します。このおかみさんが『ブレードランナー(1982)』で“強力わかもと”を口にしてたゲイシャさんらしいんですが、面影が残ってて嬉しくなりましたね。カジノでは武器商人が闇取引の真っ最中で、ここで登場するのが『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン(2015)』でウルトロンに左腕を吹っ飛ばされたユリシーズ・クロウ(アンディ・サーキス)です。吹っ飛ばされた左腕をアームキャノンに改造しての再登場ですが、アンディ・サーキス(『猿の惑星』新3部作(2011・2014・2017・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20171107/p1)主演や、『ロード・オブ・ザ・リング(2001)』シリーズの小人ゴラム!)の濃い演技もあって出色のキャラです。今作で死んでしまうんですが、今後のアベンジャーズでレギュラー化して欲しいくらいのいいキャラでした。


 逃走したクロウと取引相手を追ってプサンの街でカーチェイスが始まります。ここでも天才少女シュリちゃんが大活躍で、車を操る遠隔操縦シミュレーターでワカンダにいながらにして韓国でカーチェイスしてしまいます。未成年が運転していいのかという疑問は残りますが、遠隔操縦だからいいんでしょう。ブラックパンサーと共に大立ち回りを演じるのがティ・チャラ国王の幼馴染のナキア(ルピタ・ニョンゴ)と国王親衛隊“ドーラ・ミラージュ”のリーダー、女戦士オコエダナイ・グリラ)です。特にオコエさんがカッコよかったですね。ブラックパンサーとは対照的な鮮やかな深紅の出で立ちで、ヴィブラニウム製の槍を操って敵をバタバタとなぎ倒します。ドーラ・ミラージュのメンバーは女性ばかりでみんなスキンヘッドなんですが、アフリカ系の女性は頭の形が綺麗ですよね。


 武器商人クロウを殺しヴィブラニウムを手に入れたのが真の敵、エリック・キルモンガー(マイケル・B・ジョーダン)です。彼はワカンダ人にも関わらず、ある事情でアメリカにとり残され、戦場を渡り歩くうちに歪んだ人間です。お坊ちゃん育ちのティ・チャラもアメリカ社会で生きればこうなったかも知れないわけで、キルモンガーは単なる悪役としては描かれません。彼の目的はヴィブラニウムの力で軍事的に白人世界を支配することです。彼もまた王の血筋であることが中盤で明かされます。ワカンダの血族であるキルモンガーは王位継承を懸けてティ・チャラに挑戦し、掟によりティ・チャラはこの戦いを受けることになります。


 キルモンガーは一度はティ・チャラに勝利し王位とブラックパンサーの力を手にします。ティ・チャラはこの戦いで命を落としますが、ヴィブラニウムのパワーを秘めたハーブの力で蘇ります。クライマックスは王座を手に入れたキルモンガー軍と、蘇ったティ・チャラ軍の全面対決です。終盤ではキルモンガーもブラックパンサーと同じスーツを身に纏って戦いますが、ティ・チャラにとっては自己の分身との戦いでもあるわけですね。戦いの末ブラックパンサーはキルモンガーを破り、キルモンガーはティ・チャラの腕の中でワカンダの夕陽を浴びながら息絶えます。


 欧米世界がアフリカにしてきたことを考えれば「白人は皆殺し」というキルモンガーの主張にも分があると思うんですが、そのキルモンガーを倒して白人世界のヒーロー集団・アベンジャーズに参戦したブラックパンサーの行動にどう整合性を付けるかが今後の課題になるでしょう。物語のラストでティ・チャラ国王は、世界の表舞台から姿を隠してきたワカンダの秘密を世界に公開することを決意します。悪いこと言わないからそれだけはやめとけと思うんですが、国王の決意ならしょうがないですね。ティ・チャラ国王がアメリカ進出の拠点に選んだのがキルモンガーが子供時代を生きた場所(オークランド)というのがなかなか感動的でした。


 ブラックパンサーは翌月4月公開の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180619/p1)でも活躍するでしょうが、アベンジャーズでの出番が増えればワカンダよりもアメリカのために戦うことになるわけで、今後のブラックパンサーの身の振り方が気になるところです。これだけヒットすれば当然続編もあるでしょうしね。ラストでいつものようにオマケ映像がありますが、唐突にキャプテンアメリカの旧友ヒーロー・ウィンターソルジャーがワカンダの大地に現地の子供たちと出てくるよく分からないオマケでした。ネットではウィンターソルジャーがホワイトウルフ(ブラックパンサーの義兄弟キャラ)になるという噂がありますが、現時点では未確定です。考えてみると今回アベンジャーズの客演はこのラストだけでしたね。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2018年春号』(18年4月1日発行)〜『仮面特攻隊2019年号』(18年12月29日発行)所収『ブラックパンサー』合評2より抜粋)


ブラックパンサーの故郷・ワカンダ国の開国に反対する(笑)

(文・T.SATO)
(2018年4月15日脱稿)


 アフリカの最貧国・ワカンダの正体は、ウルトラの星・U40(ユー・フォーティ)――実写の『ウルトラマン』シリーズとは別世界であるTVアニメ『ザ☆ウルトラマン』(79年)#20「これがウルトラの星だ!! 第2部」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090914/p1)におけるウルトラマンの故郷――が鎖国体制を敷いたような、緑豊かな大地の地底に超近代的な高層ビルが乱立する、アイアンマンの科学力もメじゃない、オーバーテクノロジーで未来都市な超先進国で、ワガンダ1国さえあればアベンジャーズも要らないんじゃネ? というほどでしたけど、当方も本作ラストにおける、ワカンダ国の開国には反対いたします(爆)。


 少なくとも、徐々に小出しにワカンダ国の真相を明かしていくのならばともかく、「ボクのことをすべて解ってほしい!」(笑)ばりの思春期の少年少女みたいな、すべてを一挙に明かすような振舞いは、リアルに考えたら百害あって一利ナシの、世界各国の軍事的パワーバランスを崩してしまうような行為だよなぁ。
 それに価値中立的な超金属・ヴィブラニウムだから、すべてをオープン・透明に披露する行為が絶対正義のようにも見えるけど、アレが放射性物質核兵器の元となるような危険な超物質であったなら、安直な情報開示は「悪」だろう(汗)。


 『動物戦隊ジュウオウジャー』(15年)最終回における人間世界と獣人世界が融合しちゃうラストなどもそうだけど、個人的には学校のクラスや職場での「みんな仲良し」というテーゼに息苦しさを感じてきた我々オタが、異文化コミュニケーションどころか同じ日本人でも性格類型の違いだけで、イケてる系やヤンキーDQNやファッション&スイーツな連中や一般ピープルどもと、コレでもか!? というほどに解り合えない、ということがすでに判明しているというのに(笑)、こんな歯の浮くようなキレイごとに、非コミュのオタどもが安易に同調・協賛しやがって! なぞと不満であったりもする……。


 とはいっても、解り合えない者同士が殲滅戦をやれ! と推奨しているのではなく、イジメっ子/イジメられっ子、肉食系/草食系、体育会系/文化系は、ムリにベタベタと生活圏をいっしょにせず、「棲み分け」的に少々の距離を置いた上で「共生」すればイイ、というのが当方の個人的な結論。
 移民などが増えて、自己主張が強い御仁の方が望ましいという「グローバル・スタンダード」(爆)がますます強まっていったら、良くも悪くも日本的ムラ世間な「いたわり」「察し」「思いやり」の手弱女(たおやめ)的な文化もますますウスれて、我々「性格弱者」が暮らしにくい世の中になり、コレに生きづらさを感じる連中の一部が、またまた秋葉原通り魔事件なぞを起こすと思うゾ(汗)。
――コレが個人単位ならぬ集団規模での反発になると、排他的ナショナリズムへと容易に転化していく――


 まぁ開国後のワガンダで、時代小説作家・山本周五郎の『人情裏長屋』(1948年)に出てくるような弱々しい江戸の庶民・難民ではなく、実は周辺諸国からワカンダへなだれこむ難民・貧民の方も、刹那的・享楽的・旅の恥はカキ捨ての犯罪者的ヤンキーもけっこういたり、ワカンダ国民に迷惑をかけるどころか悪事を働いたりして(汗)、それに対するワカンダ国民側の道義的反発心が、かえって排他的なワカンダ・ナショナリズムを勃興させる逆説・パラドックス・風刺劇を、その後の『アベンジャーズ』シリーズでも延々と描いていけば、実に現代的であり、個人的には大絶賛するけれど(笑)。


 どうしても「棲み分け」がムリで、「和合」するしかないのだとしても、人間は大文字の「人道」や「理想」や「理性」や「ロジック」のみにて生きるにあらず。「漸進主義」での少人数ずつでの徐々にでの移民流入で、お互いに慣らしながら和合していくべきだと考える。


(了)
(初出・拙ブログ当該記事)


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ガーディアンズ

(18年1月20日(土)・日本封切)

酷評のロシアのスーパーヒーロー集合映画を擁護する!

(文・T.SATO)
(18年6月16日脱稿)


 アメコミ洋画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(14年)シリーズではない。なんとロシアのスーパーヒーローチーム集結映画である。キャッチコピーも、


 「日本よ、これが露(ロシア)映画だ。」(笑)。


 コレはもちろんマーベル社系アメコミヒーロー大集合映画『アベンジャーズ』(12年)のキャッチコピー、「日本よ、これが映画だ。」のパクリではある。
 なのだが、このコピー自体が我らが日本特撮の快作映画『オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー』(11年)のキャッチコピー、「世界よ、これが日本のヒーローだ!!」の本歌取りであったことを、みんな忘れているゾ。てか、そもそも知られてない?(汗)


 ヒーローとしては4人所帯。


・手の甲からカギ爪を出すX−MENのマッチョなオジサンキャラを少々想起させるヒゲ面のムサい中年は、念動力(磁力?)で石材や鉱物を自在に宙へ浮かせて飛ばし、拳と腕には膨大な瓦礫をまとって、ウルトラ怪獣・EX(イーエックス)レッドキングのように極太長と化した巨腕と巨拳で敵を殴りつける!


超人ハルクを連想させる科学者の兄ちゃんは、ゾアントロピー(獣人化現象)を起こすと、上半身の服がハダけてムキムキマッチョに膨張した裸体をさらし、顔面から両肩が獣毛におおわれたムクつけきクマさんと化して大暴れ!


・DC社のアメコミヒーロー・フラッシュそのまんまな、眼にも止まらぬ超高速で俊敏に移動できる東洋人(だよネ?)の青年は、鎌のような半月刀を二刀流で用いてバッサバッサと敵を斬り裂いていく!


ファンタスティック・フォーの紅一点キャラみたいなクールビューティー・痩身長身の白人美女は、水中をスイスイ泳いで透明人間にもなり、高い身体能力&戦闘力も誇る!


 映像&アクション面では、冒頭に『攻殻機動隊』などでも見たことあるような重厚感・金属感・実在感あふれるCG表現のミリタリックな多脚型戦車が登場して、ジャンル作品のお約束で車輪は超小さいのにインチキにも超高速で走行する!(笑)
 ロシアの各地を舞台に、山間の斜面の森林、ピーカン晴天下の白く乾いてヒビ割れた超広大で平坦な湖底、さらには屋内や屋外で、アクロバティックな超人アクションを戦闘員や強化兵や特殊車両を相手にバッタバッタと大披露!
 あげく、ラストバトルの舞台は、白昼のガラス張りの近代的な超高層のっぽビルで、ついにはそれが横倒しで倒れていくリアルなCG特撮も見せてくれる!


 はてさて、こーいう本作みたいな「メジャー感」というオーラがない作品は、往々にして最初から先入観で下に見られて、マニア間ではボロクソに叩いてもイイ映画として扱われがちだ。ググってみると、やはり本作はボロカスにCG特撮やアクションや演出がチャチで、粗や矛盾や飛躍があると酷評されている。
 たしかに、ハリウッドの大作アメコミ洋画は、カネ&手間をかけたCG特撮&アクロバティックなアクションという側面ではチャチさはナイ。
 しかし、筆者に云わせれば、アメコミ洋画もDC社作品であろうがマーベル社作品であろうが、日本特撮に負けじ劣らじ(笑)、カナリ粗や矛盾や飛躍や作劇的な瑕疵(かし)があったり、バランスやまとまりの悪い作品もあって玉石混淆だとも思うゾ。続編や連続シリーズ作品に至っては、前作での予告と本編に矛盾が生じている作品すらある。


 すでに今となっては、(特にマーベル社の)アメコミ洋画自体がブランド・権威、悪い意味での保守本流ヒエラルキーと化していて、観客やマニアの方でも虚心坦懐ではなくバイアスのかかった見方や思考停止に陥っている面もあるようにも思う。本作よりも面白くないアメコミ洋画だって、けっこうあったと思うのだが(汗)。


本作はドラマ性がウスいのか!? 出自設定的にはむしろ濃ゆいのでは!?


 本作にはドラマ性がウスいという批判もある。筆者個人はドラマ至上主義者ではないので、このテの娯楽活劇作品に辛気クサいドラマが必須だとは思わないけど、いやいやいや、本作にもドラマ性は一応はあったでしょ(笑)。
 そもそも彼らは、今から50年も前、前世紀の東西冷戦時代の旧ソ連の特殊機関で非人道的な遺伝子操作で改造されて誕生した、我らが日本の歴史的名作漫画『サイボーグ009(ゼロゼロナイン)』(64年)のような出自なのだ。加えて、不老もしくは長命の肉体となってしまって、その異形なる正体を隠すために、それぞれが他人と極力交わらず孤独に人里離れた土地に隠れ住んでいたり、サーカスの団員などの定住せずに各地を移ろうのがデフォルトな虚業の職業に就くことで糊口をしのいでいたり……。


 人前にあえて出ることや戦いなどは望んでいなかった彼らだが、冷戦終結から30年後に、50年も前の旧ソ連の「負の遺産」がよみがえり、新生ロシアに危機をもたらさんとする!
 その「負の遺産」とは、4人の産みの親でもある狂気の天才科学者! 彼は自身の肉体をも改造して、電気を操りハッキング攻撃をも可能とする悪の強敵超人と化していたのだ。この国家的危機に際して、ロシアの諜報機関のクールビューティーな姐御上官は、悪の超人に対抗できる因縁の前世紀の4人の超人を探し出していく……「父殺し」の物語が今始まる……といった導入部は、充分にドラマチックではあるまいか!?


 いやまぁアメコミ洋画のように、友人がほしかったからとか、給料が良さそうだったからとか、憧れのヒーローチームだったから加入した、みたいな脱臼した展開も充分アリではあるけれど。
 しかし、それらはもうアメコミ誕生以来の80年をかけて、あらゆるパターンをすでにヤリ尽くしてしまったジャンルの爛熟の果ての代物なのである。
 云うなればそれらの展開は、経済的ピークは過ぎて没落していく予感はあるも、日本でいうなら1980年代以降的な、まだまだ飽食で平和で徒花で高度大衆消費社会な先進国の民のゼイタクな実存上の悩みであったり、ナンちゃって的なメタや反則や楽屋オチねらいの浮き足立った展開なのである。
 よって、こーいうリアルな戦災の傷跡や圧制下の国家の民や貧困・飢餓・不幸・不遇や傷心にヒリヒリと苛まれて、懊悩する陰影のヒダヒダがあるヒーローの出自の方こそが、物語としては本来は王道・古典・普遍であったとは思うゾ。


 とはいえ、そのへんを本作は過剰に重苦しく描いていたワケでもなく、そこはやはり最終的には善と悪の超人たちのド突き合いのカッコよさ・暴力衝動の擬似的発散・爽快感の方をこそ優先するおバカな娯楽活劇作品ではある。
 あくまでもドラマ性は点描に留めて、サクサクと集結劇を進めて、その後の展開もカッタるくなりそうになる寸前になるや、敵さんが現れて脳みそキン肉なアクションにシフトするあたりも悪くない。
 むしろ、集結場面や人間ドラマ部分で空回りしてモタついたり、ウダウダ愁嘆場と化してしまうアメコミ洋画もままあることを思えば、本作の方がその点では拙(つたな)さは少ないようにも私見する。


本作の弱点。ラストバトルの尺がイマイチ短い! 突きや蹴りの一連が粘り足りない!(汗)


 とはいえ、個人的には大きな弱点に思えた点が一点。それはラストバトルの尺が短いことだ(笑)。
 ここを適度にクドくならない程度に粘って、敵vs味方の突きや蹴りの一挙手一投足をもう少しボリュームをもって描いてくれないと、先鋒や中堅の敵キャラとは異なるラスボスの強敵感、ラスボスとの最終バトルでの拮抗&苦戦、ついには大逆転といった爽快感・カタルシスが弱くなってしまうようにも思うのだ。
 このへんは脚本に描ききれるものではない、ドラマやテーマにも還元されない、撮影現場での本編監督とアクション監督の裁量やアイデアやこだわりになるのであろう。だが、こーいったところでの最後の一押しが、ラスボスの強敵感や憎々しげ感と、正義の超人たちのヒロイズムや凜々しさ、両者の力の図り合いや、善悪はいったん棚上げしたところでの双方の器量・度量の認め合いを際立たせ、ひいてはそれが観客の高揚や勧善懲悪感情を満たすことで、作品も彼ら登場人物たちの人物像も観客の心の中で完成・完結させることができるのだとも私見する。
 それを思えば、序盤〜中盤までのアクション演出の疾走感が、終盤ではもう一押しで失速してしまったようにも思えて惜しい。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2018年初夏号』(18年6月17日発行)〜『仮面特攻隊2019年号』(18年12月29日発行)所収『ガーディアンズ』評より抜粋)


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牙狼〈GARO〉 神ノ牙-KAMINOKIBA-

(2018年1月6日(土)・封切)


(文・T.SATO)
(2018年6月16日脱稿)


 雨宮慶太(あめみや・けいた)カントク原作&脚本による、深夜特撮『牙狼〈GARO〉(ガロ)』シリーズの幾度目かの劇場版である。


 黒系のゴシックな服装や小道具で身を包んだ魔戒騎士(まかいきし)と呼ばれるイケメンやチョイ悪たちが、黄金や白銀に赤銅や青銅のオオカミお面のキンピカ金属ヨロイをまとった姿に変身して、都会の夜の闇に巣くって人間に憑依したり人間を捕食したりする魔物=ホラーを、ハイクオリティでスタイリッシュなアクション・剣殺陣・3D−CGで撃滅していく、2005年にスタートした『牙狼〈GARO〉』シリーズ。
 作劇の次元に還元してしまえば、着ぐるみの特撮変身ヒーローvs怪人との戦いを描くだけの作品なのだが(笑)、それを映像的にチャチくなく、舞台設定&キャラ設定にも少々凝ってみせて、ハイブロウにシックに描くところがミソである。
 とはいえ、ハイブロウというのはビジュアル面のことであって、各話のエピソードのストーリー自体は特別にハイブロウであったり技巧的であったり難解であったりするワケでもない。ワリとシンプルなものではあり、ストーリーもほどほどにアクロバティックな戦闘シーンへと流れ込む(笑)。
 そのイミでは、「華麗なCG特撮」&「アクロバティックなアクション」で間が持っている作品ではあり、コレぞ「特撮」&「アクション」という映像的目玉が両立した「特撮」ジャンルの理想型! と持ち上げてもイイ作品のハズではあるのだが……(無いモノねだりかもしれないけど、もう少しだけ技巧的なお話がほしかったような気もしていた・汗)。


ゴーカイシルバー&仮面ライダーデューク vs 仮面ライダーディケイド


 本作は初作のシリーズとは設定がリセットされて、2013年に放映が開始された『牙狼〈GARO〉 〜闇を照らす者〜』と、翌々年度の2015年に放映されたその続編『牙狼〈GARO〉 ―GOLDSTORM―翔』に続く、さらなる続編だ。
 しかし、それらの前日談の作品群を未見である一見さんの観客でも大丈夫。要は3人の変身ヒーロー&1人のヒロインが、吹けば飛ぶような若造で声にスゴみもナイのに態度がデカい芝居が妙にハマる大ショッカー首領、もとい仮面ライダーディケイドの井上正大(いのうえ・まさひろ)演じる強敵と激闘をくりひろげるというモノである。難解さのカケラもナイ(ホメてます・笑)。
 設定面や物語・人物面での無意味なわかりにくさもなく、適度に紆余曲折やダマし演出も散りばめることで、ストーリー展開も単調には陥らせない。


・黄金の狼ヨロイをまとった我らがヒーロー「ガロ」に変身するプレーンな主人公青年。
・『海賊戦隊ゴーカイジャー』(11年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20111107/p1)のゴーカイシルバー・伊狩鎧(いかり・がい)役でおなじみ、接近戦を得意とする赤銅の狼ヨロイ姿に変身する熱血青年。
・『仮面ライダー鎧武/ガイム』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20140303/p1)の仮面ライダーデューク・戦極凌馬(せんごく・りょうま)役でもおなじみ、遠方から弓矢を射込む青銅の狼ヨロイ姿に変身するクールなメガネ青年。


 悪い意味ではなく云うけれど、ジャンル作品にアリがちな3人組の既視感あふれる記号的なキャラシフトでありつつも、そのキャラ・人物像自体はそれまでのシリーズにおいて充分に確立され切っているからであろう、人物リアクションや演技面においても、足許がフラついているような脆弱さ・覚束なさは感じさせず、作品世界も人物像も盤石な感じで仕上がってはいる。


 むろんマニア目線では、他作・各社を越境した「特撮OB」大戦の様相を呈してもいる『牙狼〈GARO〉』シリーズ。ゴーカイシルバー・仮面ライダーデューク・仮面ライダーディケイドが共演するだけでも胸が躍るではないか(笑)。
――コレまでのシリーズでも、『仮面ライダー555(ファイズ)』(03年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20031107/p1)で仮面ライダーデルタにも変身した幹部級怪人のニコニコ笑顔な知恵遅れにも見えかねない(汗)無邪気な青年を演じた藤田玲や、『仮面ライダー響鬼(ヒビキ)』(05年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070106/p1)の仮面ライダー斬鬼ザンキ)なども演じた松田賢二、映画『ウルトラマンサーガ』(12年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20140113/p1)でも戦う姐御肌のメインヒロインを演じたアイドルグループ・AKB48(エーケービー・フォーティエイト)出身の秋元才加(あきもと・さやか)、『獣拳戦隊ゲキレンジャー』(07年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080817/p1)で伊藤かずえ演じる後見人の娘役を演じた桑江咲菜などの特撮OB&OG、スタッフ面でも東映の女性カントク・荒川史絵などを助監督として招聘したりしているが、そのあたりはむしろ読者諸賢の方がくわしいであろう――


適度に意外性ある、変身ヨロイの争奪戦〜中ボスの策略〜ラスボス登場のメリハリ展開!


 筆者個人は『牙狼〈GARO〉』シリーズの熱心な視聴者とはいえないので(汗)、そーいやこの3人がメインメンバーのシリーズがあったなぁ程度の認識ではあった。しかし、それでもフツーに楽しく、むしろTVシリーズ以上に面白く観ることができた。ということは、単なるファン・ムービーではなく、普遍性がある作りにもなっているということだと私見する。
 逆に云ってしまうと、TVシリーズを観てきたファン向けの細かいクスぐりネタについては筆者は理解ができていないのだが、仮面ライダーディケイドもとい本作のラスボス・ジンガが、『〜闇を照らす者〜』の続編『―GOLDSTORM―翔』に登場して絶命した敵キャラ・ジンガであり、記憶を喪失しながらも復讐の念で復活した存在であることなどは、ごていねいにも漏れなく劇中で説明されているので、そのへんでも一見さんお断りの狭い作りにはなっていない。


 本作における魔物ことホラーを研究している学者先生が、助手に化けていたホラーにパクッと丸呑みに喰われてしまうことで、ホラーという存在とは何たるかも、一見さんに説明&映像の実地で一挙に端的に説明してみせる導入部。
 主人公青年が異空間で修行していたら、倒したハズの敵キャラ・ジンガの幻影を予知夢的に観てしまい、修行に失敗してしまう次の場面。
 実に教科書的な作劇の基本にあまりにも忠実な冒頭でもある。


 そして、通常回のように変身ヒーローもののゲスト怪人に相当するホラーがゲスト庶民を襲うのではなく、正義側陣営と同格の闇落ちした同業者が我らがヒーローたちのオオカミお面ヨロイを強奪する事件を発端とすることで、映画的な番外感・イベント感・別格の強敵感をも醸し出す。
 まずは赤銅ヒーローのヨロイが強奪される。次にその強奪事件の犯人の闇落ちした女魔戒法師に協力しているのは、青銅ヒーローだった! とすることで、敵味方には分かれているという変化球を付けつつも、早々に主要なレギュラーヒーローたちが登板する。
 ケバ可愛いレギュラーヒロイン・莉杏(りあん)嬢にも単なる賑やかしではなく有能だとの描写を与えるためか、女犯人の正体を突きとめさせる。
 女犯人の動機は、すでに死したかつての恋人でもあった闇落ちした魔戒騎士を甦らすことであった! ……といったあたりで、敵キャラにも私心とはいえ、悪事を働いてしまうに足る同情の余地はある動機を与える。


 そして1回戦では、この女犯人にお約束で主人公ヒーローが負けてしまい、そのヨロイも強奪されてしまうことで、変身できない3大ヒーローのピンチと女犯人の強さも描いていく。
 そうなると、3人のヒーローの動機&目的は、たとえ変身できない生身であっても、このヨロイを奪還することに集約されるので、コレまたお話はくぐもることなく明快である。


 とはいえ、TVの30分ではなく映画の90分尺なので、すぐに奪還に成功してしまっては物足りないし、悪党にも小物・ザコ感が漂ってしまう。
 そこで、展開にヒネりを入れて、復活の儀式の果てに蘇ったのはかつての恋人ではなく、大ショッカー首領もとい井上正大演じるジンガであったとする!――冒頭の学者先生の助手に化けていたホラーによって、依り代が秘かにジンガにスリ替えられていたとする――
 冒頭にこの助手ホラーとラスボス・ジンガが伏線として印象的に登場していたこともあって、この急展開に観客は驚かせられつつも、そこにムリはなくナットクもいくものにはなっている。


 井上もといジンガはその持ち前の態度の大きさで(笑)、その場の小悪党集団をたちどころに子分として掌握する。
 そして、会社員たちがまだまだ残業する、夜の闇に浮かぶ小ギレイでモダンなビジネス高層ビルを占拠。周囲には出入りが不可能な結界・バリアを張りつつ、この高層ビルを異形の力で「神ノ牙」という伝説の箱船へと変えてしまうことで、夜空に飛ばして月へ向かわんとする! この「神ノ牙」も冒頭で学者先生が研究していたシロモノだ。
 「月に辿り着けば、地球を見下ろす王になれる」というあたり、科学的・合理的・SF的根拠はまるでなく(笑)、このへんはイイ意味での呪術的世界観のファンタジーだが、筆者個人はこーいう呪術的な世界観はキライではないし、むしろシチ面倒クサい合理的理由付けが不要となるあたりで、娯楽活劇作品には科学SFよりも呪術ファンタジーの方が適しているとさえ思う。


 ココからはジャンル作品お約束のブルース・リー主演のカンフー映画死亡遊戯』(78年)パターン! ビルに閉じ込められて怪異現象に悩まされる会社員たちを救って逃がしつつ、各階で敵と戦って、上層階に陣取るラスボス・ジンガへと迫っていく展開になっていく。
 学者先生の助手に化けていたホラーが、「『「神ノ牙」で月へと至ることで王になれる』というのは真っ赤なウソで、『神ノ牙』で達成できる真の行為は、魔界の深淵(しんえん)に棲まうホラーの始祖にして白亜の裸体の女巨人『メシア』の復活が真の目的なのだ!」と明かすさらなるヒネり、プチ・サプライズも入ってくる。
 しかし、そんな悪の組織・バダン幹部の暗闇大使に変装していた仮面ライダーZX(ゼクロス)の猿芝居なぞは百も承知であった! とバダン首領もといジンガが余裕たっぷりに反駁することで(笑)、助手に化けていたホラーはラスボスには昇格せず、ジンガのラスボス感・強敵感の方がいよいよ増していく。


 高層ビルが3D−CGで次々とパズルのように変形しつつ、ビル内に生じた白黒モノトーンな閉鎖異空間で、おなじみの迫力あるアクロバティックで様式美的・舞踏的な剣殺陣を長尺でボリュームいっぱいに披露!
 ついにラスボスを倒したあとは、成層圏から高層ビルの破片に乗って、夜明けの地上へと帰還していく姿も美しい。
――リアリズムが優先される世界観ではナイのだし、彼らも一応は超人たちだから、成層圏なのに呼吸ができるのか? 肌寒くはないのか? 大気圏突入時の風圧で吹っ飛ばされちゃわないのか? 自然落下時の大気との摩擦の超高熱で燃えて溶けちゃうんじゃ? などのヤボは云ってはイケナイ。往年の女児向けアニメ映画『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』(93年)ラストの大気圏突入シーンみたいだと思ったのも、ココだけのナイショだ(笑)――。


平和のための戦いという矛盾・東南アジア的都市ビジュアル・並行世界の初作のラスボス!


 てなワケで、深夜特撮の劇場版にふさわしい、適度にスケール感ある攻防劇を描いた作品には仕上がったかと私見する。
 テーマ的に高尚なモノがあるような作品ではナイけれど――とはいえ、筆者個人もテーマ至上・テーマ必須主義者ではナイけれど――、強いて云えば映画の神さまのイタズラか、同時期公開の巨大ロボットアニメ映画、ジンガならぬ『劇場版 マジンガーZ/INFINITY』(18年)とも同様、ラスボスが主人公に――引いては我々観客にも――「キサマも戦いを楽しんでいるのだろ!?」と問い掛けて、「『平和』のための『戦い』」という、根底には常に矛盾をハラんでいる正義のヒーローの無謬性と、悪に鉄槌をくだすという行為にいくばくかの破壊的な興奮・快感を覚えていることソレ自体に、疑義を向けてみせるセリフを吐かせたあたりは個人的には好印象――この矛盾はおそらく永遠に解決できない命題ではあると私見するけれど――。


 あと、おそらく美術スタッフのデザインではなく、雨宮慶太カントク自身によるデザインかとは思うけど、1カットだけ、夜の闇に煌々と浮かび上がる東南アジア的な猥雑なネオンに満ち満ちた都市ビジュアルの遠景が登場する。
 このイメージの元祖の続編でもあるSF映画『ブレードランナー2049(ニーゼロヨンキュウ)』(17年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20171110/p1)や、実写映画版『ゴースト・イン・ザ・シェル(攻殻機動隊)』(17年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20170510/p1)にも同様の東南アジア的な都市ビジュアルは登場していた。しかし、今ではテンプレ・陳腐化してしまったのやもしれないそれに、個人的には驚きや風情を感じられなかったのだが、本作のそれは実にそれらしくてすばらしい。
 おそらくデザインの細部の意匠で、「らしさ」の誇張や過剰があって、そのような感慨の相違が生じてくるのであろうけど。


 エンド・クレジット後は、本作のラスボス・ジンガが、死後の世界の魔界で、ホラーの始祖である女巨人「メシア」と遭遇して、闘志を燃やして戦闘を開始するサマで幕となる。ググってみると、この女巨人は本作とは並行世界である初作のラスボスだそうナ。
 なるほど、並行世界をまたがって、両方の世界の「地獄」に女巨人は存在し、あるいは女巨人の出現以降に世界は2つに分岐して、もしくは「この世」は2つ(以上)あっても「あの世」や「地獄」は並行世界を通底して1つに集約でもされているのか?
 そのあたりへの「世界観消費」とでもいうべき知的(?)妄想もそそらせる趣向は、本シリーズを長年観てきたマニア諸氏には堪らないかと思われる――もちろん初作のラストを未見の観客にあっても、疎外感をいだかせるようなモノではないのだから、独り善がりだと問題視されるようなモノにも当たらない――。
 併せて本作公開前月には、井上が座長&主役を務めた、TVシリーズ&本映画との空隙(くうげき)を埋める舞台劇も上演されたようだ。このような趣向が実現されるのを見るに、作品間のタテ糸やヨコ糸を知りたくなるファン心理が、やはり古今東西で普遍的なモノなのだとも痛感する。


追伸:
 ゴーカイシルバーこと池田純矢(いけだ・じゅんや)は本作公開の同時期に、深夜アニメ版『恋は雨上がりのように』(18年)で、主人公女子高生とクラスメートであり、彼女をねらって同じファミレスのバイト先の厨房で働く、根は善良な元気いっぱい金髪男子高校生役をその暑苦しいボイスで好演。
 仮面ライダーデューク・戦極凌馬こと青木玄徳(あおき・つねのり)は読者もご存じの通り、本映画公開終了後の4月に強制猥褻容疑で逮捕されてしまい残念なかぎりだ。
 なお、仮面ライダーディケイドもといジンガを主役とするTVシリーズ『神ノ牙 ―JINGA―』が今年2018年秋から放映決定との報が本稿執筆中に入ってきた。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2018年初夏号』(18年6月17日発行)〜『仮面特攻隊2019年号』(18年12月29日発行)所収『牙狼〈GARO〉 神ノ牙-KAMINOKIBA-』評より抜粋)


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