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ラブライブ!サンシャイン!! & 劇場版 Over the Rainbow ~沼津活況報告 & 元祖に負けじの良作と私見!

『ラブライブ!』・『Wake Up,Girls!』・『アイドルマスター』 2013~14年3大アイドルアニメ評
『ラブライブ! The School Idol Movie』 ~世紀の傑作!? それとも駄作!?
『22/7』『推しが武道館いってくれたら死ぬ』『音楽少女』『Re:ステージ!ドリームデイズ♪』 ~アイドルアニメの変化球・テーマ的多様化!
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 『ラブライブ!サンシャイン!!』(16年・17年)が東京MXとBS日テレにて2020年4月~9月予定で再放送中記念! とカコつけて……。『ラブライブ!サンシャイン!!』&映画『ラブライブ!サンシャイン!! Over the Rainbow』(19年)評をアップ!


ラブライブ!サンシャイン!!』 & 後日談映画『ラブライブ!サンシャイン!! Over the Rainbow』 ~沼津活況報告 & 元祖に負けじの良作と私見

(文・久保達也)

ラブライブ! サンシャイン!!』

(土曜22時30分 TOKYO MX他)


(2017年12月25日脱稿。2018年1月22日・2月22日大幅加筆)


 2016年7月~9月、および2017年10月~12月に放映されたアニメ『ラブライブ! サンシャイン!!』1期と2期は、静岡県沼津市内浦(うちうら)地区の高校で結成された9人のアイドルグループ「Aqours(アクア)」を主人公にした作品である。
 舞台背景の絵面(えづら)としては対極的ともいえる、東京は神田明神(かんだみょうじん)近辺を舞台にした元祖である大ヒット作『ラブライブ!』1期(13年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160330/p1)と2期(14年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160401/p1)の熱狂的大ブームの影がどうしても散らついて割りを喰ってしまうのだが、それを差し引いて冷静に観れば、「群像劇」と「泣き演出」の完成度の高さは、元祖『ラブライブ!』を超えたかと思える。
 自分たちの「輝き」を求めるためのアイドル活動だったものが、いつしか「廃校阻止」が主目的に変遷を遂げていき、最終的に本作第1期第1話と係り結び的に着地したのは見事だった。


 個人的な傑作は北海道は函館(はこだて)へ出張する前後編。Saint Snow(セイント・スノー)という女子高生アイドル姉妹との夢のコラボを盛り上げるためとはいえ、1年生のメンバー3人だけで独自にできることを! などという展開も元祖ではなかったことだ。
 1年生メンバー3人による、黒づくめのゴスロリ調の衣装で身を包んだオカルト美少女を演じつつも内心では恥ずかしがっているのでカッコよく決まらない痛々しい中二病少女のヨハネ――本名は善子(よしこ)・笑――をいじる花丸とルビイのコミカルシーンも様式美として見事に定着している。


 3話に1回(笑)、第3・6・9・12話それぞれのクライマックスには、高作画&高品質のモーションキャプチャーによる2D-CGによる新曲のライブ場面も配している。
 もちろん関連楽曲を売っていくための商業的都合なのだが、これはそれこそ近年の特撮変身ヒーローで頻繁に描かれるタイプチェンジによるパワーアップ劇のように、それまでに描かれてきた人間ドラマの延長線上にある結晶として結実させているので、取って付けたような感はなく本編ドラマ部分と遊離することがない。
 すぐあとにその新曲CDのCMが入るあたりに(笑)、露骨な商業主義を感じて嫌がる輩も多いようだが、やはりアイドルアニメや子供向けヒーロー番組でもスポンサーとの共存共栄を図るのならば、こういう特撮やアクション場面やライブ場面に必然性があるように思わせるように持っていく、前段・助走台としてのドラマ構築&玩具宣伝を主流にするべきだろう。


 元祖『ラブライブ!』の最終展開で視聴者をおおいに泣かせた学校の存続問題の決着は、本作ではあえてボカしたが、閉校式や卒業式にその役割をシフトしたのも差別化の意味で正解だったかと思える。



 近年はアニメや映画の舞台になった場所をファンたちが訪れる、いわゆる「聖地巡礼」が流行となっている。本作『ラブライブ! サンシャイン!!』も例外ではない。放映自体はすでに終了しているものの、現在もその人気は衰えてはおらず、内浦地区をはじめとする沼津市内ではいまだに全国から人々が訪れる活況が続いている。


 沼津商工会議所が主導し、市中心部の商店街や名所を巡る『ラブライブ! サンシャイン!!』のスタンプラリー企画は、昨年2017年5月中旬にスタートしたが、当初9カ所だったスタンプの設置場所が、現在47カ所にまで急増し、いまだに設置を希望する店が多いことから、今後も順次拡大を予定しているほどである。
www.llsunshine-numazu.jp


 沼津仲見世(なかみせ)商店街振興組合の担当者はこのスタンプ企画を活用し、商品開発推進による各店舗ごとの商店街の活性化を狙っている。
 沼津市観光戦略課もSONYグループのソニー企業(東京都)などと連携し、『ラブライブ! サンシャイン!!』のキャラクターの絵柄が入ったマンホールを市内に設置しようと、インターネット上で資金を募るクラウドファンディングを行ったところ、開始から約30時間で目標額の2217万円を達成しており、作品の注目度による経済効果は絶大なものがある。
https://first-flight.sony.com/pj/butaimeguri-numazufirst-flight.sony.com
www.mdn.co.jp


 沼津駅8番バス停から内浦方面に向かう東海バスは『ラブライブ! サンシャイン!!』のキャラクターが描かれたラッピングバスとなり、日産レンタカー沼津駅前店では昨年2017年12月から同じくラッピング車両のレンタルを開始した。
animestari.com
nlab.itmedia.co.jp
ザ・バスコレクション バスコレ 東海バス オレンジシャトル ラブライブ!サンシャイン!! ラッピングバス4号車 ジオラマ用品 (メーカー初回受注限定生産)


 沼津市西浦(にしうら)・内浦・静浦(しずうら)で生産されるみかんの代表「寿太郎みかん」は、昭和50(1975)年に山田寿太郎(やまだ・じゅたろう)さんが栽培中の「温州(うんしゅう)みかん」の一部に変異枝を発見、観察を続けたところ、たくさんの実がなり、果実の着色時期が早く、甘みと酸味のバランスに優れた濃厚な風味のみかんができることを確認、その後育成して増殖を図り、「寿太郎温州」と命名した、沼津が誇るブランドみかんである。
 『ラブライブ! サンシャイン!!』でも数回登場したほか、内浦の菓子店「松月(しょうげつ)」で実際に販売されている「寿太郎みかん」を原料にした菓子「西浦みかんパウンド」や「みかんどら焼き」などを主人公たちが口にする場面があるほどだ。
ASIN:B06WP5CJ2N:image:large
ASIN:B06WP5CJ2N:detail
store.shopping.yahoo.co.jp
www.shougetsu-web.com
https://sweetsguide.jp/product/31869sweetsguide.jp
https://sweetsguide.jp/product/31872sweetsguide.jp


 「JAなんすん(南駿)」では、静岡県東部の愛鷹山麓(あしたか・さんろく)を中心に栽培され、過去三度も「皇室献上茶」の栄誉に輝いた沼津茶を「ぬまっちゃ」と名付け、缶やダンボールに『ラブライブ! サンシャイン!!』のキャラクターをあしらった商品も販売している。
www.ja-nansun.or.jp
numazukanko.jp
www.sake-online.com
ぬまっちゃ 『ラブライブ!サンシャイン!!』 オリジナルデザイン缶 400g×24本


 内浦漁協直営「いけすや」は、内浦漁協と魚を知り尽くした漁師の奥さんたちのチームIKS(いけす)がタッグを組み、熟練の漁師が丹精込めて育てた一級品の「活(いけ)あじ」を目の前の海で水揚げし、最高に美味しい状態で食べられる食堂であり、干物(ひもの)などの特産品も販売している。
www.shizuoka-navichi.net
 この「いけすや」も『ラブライブ! サンシャイン!!』の中で背景として描かれている他、CDに収録された音声のみの番外編ドラマ『レアな沼津をめしあがれ♥』で、主人公たちが人気メニューの「二食感活あじ丼」や「アジフライ定食」を食べる描写があるほどで、製作協力として【内浦漁協直営「いけすや」】がクレジットされている。
 『ラブライブ! サンシャイン!!』の人気から、最近は土日祝日はオープンから満席となるために整理券を配布するも、客をさばききれないほどの活況であり、数量限定メニューの「二食感活あじ丼」を食べることは困難となっている。

(音声ドラマ『レアな沼津をめしあがれ♥』収録)



 2017年12月20日(水)付の『静岡新聞』朝刊には、『ラブライブ! サンシャイン!!』(2期)最終回の1本前のエピソードである第12話『光の海』が12月26日(火)深夜に放映される旨(むね)を告知する全面カラー広告が掲載された――独立UHF局やテレビ東京系列の局がない静岡県では第1期と同様、TBS系列の静岡放送で放映されていた――。
 この広告の件は本作の公式サイトでも事前に報じられたことから、『静岡新聞』のショッピングサイトでは通販開始から15分で完売、静岡新聞社東京支社では直接来社した者に販売する方式をとるも、こちらも30分で完売となり、早くもマニア向けのぼったくり店でプレミアがついて売られているほどである。
http://lovelive-sunshine.info/44811lovelive-sunshine.info
getnavi.jp
3枚セット 静岡新聞 12/20 朝刊 ラブライブサンシャイン!! Aqours 浦の星女学院 全面カラー広告


 私事で恐縮だが、筆者はここ10数年、静岡で一人暮らしをしており、静岡新聞社の関連会社に勤めていたため(後日註:当時のこと)、この朝刊をタダでもらってしまったのだが、実はこの通販にはウラがあり、『静岡新聞』のWEB会員登録が購入の条件となっていたため、買った人には今後アレ買えコレ買えという、うっとうしいメールが散々届くことになるハズだ(笑)。


 そんなアコギな商売を考えた、静岡新聞社の読者プロモーション局にもたまに出入りすることがあるのだが、そこの連中もウチの社の人間も、今回の大当たりを喜びながらも、


「こんなもんのどこが……」


などと、『ラブライブ! サンシャイン!!』とそのファンたちのことを、徹底的に罵倒(ばとう)していたのであった……(汗)


 いくら大ヒットしたアニメでも、そしてそれを享受するオタたちも、やはりいまだに社会的地位はこんなものなのか? と、今回の一件はとんだヌカ喜びとなってしまったものだ。


 それにしても、人口流出率ワースト2位を2年連続で記録してしまった静岡県、それも特に衰退が激しい県の東部地域にある沼津市内浦を全国に注目させ、地元を活性化させることとなったのは、いったい誰のおかげだと思っているのか!?
 本来なら『サンシャイン!!』に足を向けて寝られないハズではないのか? 『ガールズ&パンツァー』(12年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190622/p1)を5年間も応援しつづける、茨城県の大洗(おおあらい)町商工会や大洗観光協会の人々の爪のアカでも煎(せん)じて飲むがいい!


 まぁ、仮にも地方新聞社でありながら、地元に恩恵(おんけい)を与えてくれた偉大な作品に対し、こんな程度の認識しか持てない企業には、そのうち痛いしっぺ返しが来るだろう(爆)。
 そして、静岡に大きく貢献した『サンシャイン!!』を理解しようともしない、あさはかな一部の静岡人をあざ笑うためにも、近いうちに本作をじっくりと語らせてもらうこととしたい(笑)。
TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』ED主題歌「ユメ語るよりユメ歌おう」


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.80(17年12月30日発行))


ラブライブ! サンシャイン!! The School Idol Movie Over the Rainbow』

(配給/松竹)
(2019年1月18日脱稿)


 全校生徒が100人足らずで統廃合の危機にあった静岡県沼津市内浦の女子高・浦の星女学院の存続のために、9人の美少女が結成したスクールアイドルグループ・Aqours(アクア)を描いた『ラブライブ! サンシャイン!!』(1期・16年 2期・17年)の後日談映画『ラブライブ! サンシャイン!! The School Idol Movie Over the Rainbow(ザ・スクール・アイドル・ムービー オーバー・ザ・レインボウ)』(19年・松竹)。


 元祖『ラブライブ!』(1期・13年 2期・14年)の後日談映画『ラブライブ! The School Idol Movie(ザ・スクール・アイドル・ムービー)』(15年・松竹・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160709/p1)が比較的お祭り映画に徹していたのと比べ、今回はテレビシリーズ2期で描かれたAqoursが直面した「厳しい現実」のその後を描くことに重点が置かれている。


 つまり、Aqoursの健闘もむなしく、入学希望者を集める目標を達成できなかったがために、元祖『ラブライブ!』とは異なり浦の星女学院の廃校が決定(爆)、統合先の女子高に行かねばならなくなったのだ。
 元祖のスクールアイドルグループ・μ′s(ミューズ)が3年生の卒業で活動を休止したのに対し、本作では3年生の卒業後もAqoursの存続を選んだ現2年生と1年生のメンバーの奮闘と成長が描かれていくのである。


 2年生の渡辺曜(わたなべ・よう)のいとこで統合先の高校に通う、帽子もパンツルックも黒で固めたボーイッシュな渡辺月(わたなべ・つき)が新キャラとして登場。男性キャラが皆無(かいむ)に近い(笑)『ラブライブ!』シリーズについに男が登場か!? と、曜と親しく話す月をメンバーたちが曜の彼氏と思いこむギャグを兼ねたミスリード演出も快調だが、浦の星女学院の統合に一部で反対の声があがる中、月はAqoursの活動をサポートする重要なキャラとしても描かれる。


 そして『ラブライブ! サンシャイン!!』2期中盤の前後編で、Aqoursの姉妹メンバー・3年生の黒澤ダイヤ&1年生の黒澤ルビィと対比させるかたちで描かれた、北海道は函館のスクールアイドル・Saint Snow(セイント・スノー)の鹿角聖良(かづの・せいら)&理亞(りあ)の姉妹も再登場。
 聖良の卒業で今後のアイドル活動に悩む理亞の姿が、同じくダイヤの卒業で悩むルビィと重ね合わせるかたちで語られていく。



 このAqours存続問題については、本来の主人公である2年生・高海千歌(たかみ・ちか)以上に、この気弱でシスコンで依存心が強そうな妹キャラであるルビィを中心に描かれている印象が強い。
 実際公開2日目でルビィの各種グッズがほぼ完売状態だったり、10代や20代の観客たちが――その中でただひとりの中年だった筆者はやはり「変なオジサン」だと思われていたのだろう・爆――、皆一様に


「ルビィちゃん、ルビィちゃん」


と口走っていたことからすれば、やはりAqoursの中では断然人気が高いのだろう。


 臆病(おくびょう)で人見知りで泣き虫で、今回も


「おねえちゃん!」


とダイヤに抱きつく描写が何度もあったほどの、幼くて甘えん坊な赤毛ツインテールで低身長のルビィは、ただでさえAqoursメンバーの中では最もオタから好感度を得られそうなキャラなのだ(多分)。


 そんなルビィが、3年生の卒業旅行先のイタリアでのライブ会場を自ら選ぶと進言したり、ラストで描かれる沼津駅南口の特設ステージで、大勢の群衆を前にひとりで挨拶(あいさつ)するまでに至る姿こそ、3年生=おねえちゃんたちがいなくなる厳しい現実を乗り越えたAqoursの成長ぶりが、最も印象づけられるに相違ないだろう。


 そのステージを観たおねえちゃんたち=黒澤ダイヤ松浦果南(まつうら・かなん)・小原鞠莉(おはら・まり)といった3年生キャラたちが、群衆の中からそっとそれぞれの道へと旅立っていくカットは、今回最大の「泣き演出」だった。
ASIN:B08BWWQP5W:detail


 しかし、北海道地区予選のステージで転倒したがために、姉妹の全国大会出場の夢を断ってしまったことがいまだにトラウマとなっている理亞に、延長戦としてAqoursがSaint Snowとの2組だけのステージを開催する、実にイキな計(はか)らいもそれに匹敵するものなのだ。


 1期第8話『くやしくないの?』、そして今回も、理亞がAqoursに向けて放った


「『ラブライブ!』は、遊びじゃない!」


というセリフを、理亞と同じ立ち位置にあるルビィがここで理亞にそっくりそのまま返してみせる描写、70年代に人気絶頂だった現実世界のアイドルユニット・キャンディーズの『やさしい悪魔』歌唱時を彷彿(ほうふつ)とさせる小悪魔的な衣装で、ヘビメタ調の歌曲を激しいダンスで披露するSaint Snowの絶大なカッコよさが、「ラブライブ!」本選出場を断念せざるを得なかった姉妹の無念さをより強調することとなっており、観客の涙腺(るいせん)を絶妙なまでに刺激する!


 さらに今回秀逸(しゅういつ)なのは、鞠莉を強引に結婚させようとするイタリア人の金髪セレブママを悪役(笑)として登場させ、幼いころから鞠莉をママの束縛から解放してきたダイヤ&果南と鞠莉の結束の固さが再度示されたことで、鞠莉が高校のみならずママの束縛からもついに「卒業」するさまが描かれたことだ。


 イタリアのスペイン広場で繰り広げたステージが群衆から喝采(かっさい)を浴びたことで、ママは鞠莉の「卒業」をやっと容認するに至るが、先述したAqoursやSaint Snowのライブ場面が、こうした「人間ドラマ」の延長線上のクライマックスとして描かれるからこそ盛りあがる、という部分はたしかに大きいのだ。


 だが、そういった作劇術のことは抜きにしても、沼津市内の中心部や内浦地区の数々の観光スポット、そして仲見世商店街を貸切(笑)にして浦の星女学院の女子生徒たちがバックダンサーを務める中で披露されるAqoursのミュージカル仕立てのアバンタイトルが象徴するように、そのあまりにキャッチーなライブパート演出それ単独でも、独立して鑑賞するに足るほどの完成度の高さこそが、『ラブライブ!』最大の魅力なのではあるのだろう。

仲見世商店街


 「浦の星女学院」も「3年生」も自身が想いつづけるかぎりは常にここにいる! という千歌の結論は、同時期公開の映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER(フォーエバー)』(18年・東映https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190128/p1)の結論とも奇しくも共通している。
 仮面ライダーもそうだが、我々が想いつづける限り、Aqoursは今もここにいる。
ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow [Blu-ray]


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.82(19年6月16日発行予定⇒8月1日発行))


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22/7・推しが武道館いってくれたら死ぬ・音楽少女・Re:ステージ ~アイドルアニメの変化球・テーマ的多様化

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『22/7』『推しが武道館いってくれたら死ぬ』『音楽少女』『Re:ステージ! ドリームデイズ♪』 ~アイドルアニメの変化球・テーマ的多様化!

(文・久保達也)

2020年・冬アニメ

(2020年2月20日脱稿)

『22/7(ナナブンノニジュウニ)』

(土曜23時 TOKYO‐MX他)


 現実世界のアイドルグループ・AKB48(エーケービー・フォーティエイト)や乃木坂46(のぎざか・フォーティシックス)などのプロデューサーとして広く知られる作詞家の秋元康(あきもと・やすし)のプロデュースにより、2016年12月24日に誕生したのが、11人のキャラクターと声を担当する声優=リアルメンバーで構成されたデジタルアイドルグループ・22/7(ななぶんのにじゅうに)である。
 彼女らを主人公として、現実世界と同じく2016年12月24日を起点とする物語を描いたアニメ化作品が本作だ。


 もちろん生身でのアイドル活動の方が主軸なのだろう。22/7のPV(プロモーション・ビデオ)の中には乃木坂46がよく着ているような、胸にリボンが付いた薄いパープルのワンピース姿でメンバーが歌唱するものも見られる。
 ちなみにユニット名の22/7とは円周率=3.14……の近似値(きんじち)であり、「無限につづく可能性」「想像の象徴」としての意味を示している。


 芸能プロダクションから届いた黒い招待状によって全国各地から集結した8人の美少女が、ゴリラみたいな風貌(ふうぼう)の大男のマネージャーによって動物園の地下深くにある事務所へと案内される。
 途中の階ではそこで生活するのに必要なさまざまな商業施設や娯楽施設が完備されており、いざたどり着いた事務所は室内すべてがゴールドで彩(いろど)られたゴージャスな雰囲気。
 マネージャーは自分たちはその事務所の「壁」の指令で動いており、今回の美少女たちが選ばれた理由やアイドルユニットを組む真の目的は何も聞かされていないという……


 これでは「昭和」の東映変身ヒーロー作品に登場した、正体不明の首領の指令で暗躍した悪の秘密組織と同じなのだが(笑)、


「相手が誰かなんてどうでもいい。これはチャンスよ」


と金髪ショートボブに水色リボンをした帰国子女風の華(はな)やかな少女がアイドル活動に乗り気を示す一方、


「まるで別世界。私のいる世界じゃない」


とマネージャーに告げ、ただひとりその場を去っていく少女がいた。


 第1話では紺髪ショートヘアで外の世界では周囲からその表情や視線が見えないように、常に前髪を長く垂らしている女子高生・滝川みうのモノローグを中心に描かれる。


 病弱な母の代わりにコンビニでバイトすることで幼い妹を含めた家族の生計を立てていたみうだが、


「前髪あげた方がカワイイのに」


と無神経にもみうの前髪を上げようとしたり、それを


「やめてやれよ」


と嘲笑(ちょうしょう)する同僚たちみたく、日々あたりまえのように仲間とじゃれ合って笑うことがどうしてもできないほどに、みうは極度の人見知りで人と話すのが大の苦手である。


 冒頭で


「世界平和なんか興味ない」


と語るみうにとっては、優しい母と無邪気(むじゃき)な妹との生活だけが「全世界」だった。


 しかし、同僚たちが怖(こわ)がっていてやりにくい、無愛想(ぶあいそう)だと客からクレームが来るなどとして、みうはクリスマスイブを前にバイトをクビになる。


 そう。彼女の「全世界」は破滅の危機を迎えるのだ。


 かつて趣味として曲づくりをしていたみうに


「おねえちゃんのコンサートに行くのが夢」


と語った妹に


「その話は二度としないで!」


と風呂場でヒステリックに云い放ってしまったみうを心配した母に


「ううん、なんでも」


とみうが見せる笑顔は、これ以上「いい子」でいることの限界が端的に示された名カットだろう。


 少しでも生活の足(た)しにとみうが売り払ったキーボードの鍵盤(けんばん)とみうが渡る橋をダブらせた演出がまた秀逸(しゅういつ)。
 夕焼け空の中、母と妹の写真が表示されたスマホの画面にみうの涙が落ちるカットは、その絶望感を最大に表したカットとなり得ている。


 その夜(=2016年のクリスマスイブ)に、一度は立ち去った地下のひみつ基地みたいな芸能事務所に、背に腹は代えられない、一家の生活のためにと再度姿を見せたみうは、人を無慈悲(むじひ)に選別する社会をつくった勝手な大人たちに対する不信とアイドル活動を


「バカみたい!」


と罵倒(ばとう)した上で、


「いちばんやりたくないことをしなきゃ大事な人を守れないのなら、なんだってやってやる!!」


とタンカをきった!


 その途端、事務所の黄金の壁がまばゆい光と轟音(ごうおん)をあげて発動し、8人のアイドルに対する指令を記した金のプレートが放たれた!


 実にドラマチックでカタルシスにあふれる演出だが、徹底的に追いつめられ、それしか選択肢(せんたくし)がなかったゆえの捨て身の行動に出たみうの悲壮感は決して拭(ぬぐ)い去れるものではないだろう。


 本作はプロデューサーの秋元氏による簡単なプロットを元にオリジナルのストーリーを組み立てたものである。だが、みうの声を演じるリアルメンバーは実際、人と関わるのが嫌いだった自身に対する危機感から最も苦手なことで自分を変えようとオーディションに応募したそうである。
 滑らかな早口トークや会話に強引に割って入ることがいかにも苦手そうな気弱さが如実(にょじつ)に感じられるぐぐもって少々低音の彼女の声は、男性の庇護欲を誘うような、もっと云うなら弱者男性でもこの娘なら自尊感情が低そうだから値踏みをしてこないであろうと妄想させる安心感を抱かせるものともいえるのだが(笑)、それはともかく自身と完全にリンクしているであろうみうの演技には弱そうなのに妙な決意や力強さが感じられるのだ。


 だが、みうが「これは決定事項」として「壁」に勝手に選ばれたことに対し、


「わたしの代わりに選ばれなかったコがいるだけ」


と舞い上がって自惚(うぬぼ)れることなく実に冷めて語ってみせている。それはそうなのだろうが、これで家族全員がようやく喰いつなげてようやっと一安心という状況下でも、見ず知らずの選ばれなかった不運な他人のことまで気遣ってしまうような「いい子」にすぎる子だから、この弱肉強食の現実世界で苦労するのだが……


 現実世界で黒い招待状が来るハズもなく、


「ずっと選ばれずに終わる人」


に対するケアもまた、今後の本作で示してほしいように思えてならないものがある。


 みうをクビにしたコンビニの店長が、「仕事」を「雪かき」にたとえて語る、「自分の家の前」を雪かきするのは当然で、「人の家の前」もしなければならない=やりたくないこともやるのが「仕事」だとする主張はたしかに正論である。個人的には座布団(ざぶとん)3枚あげてもいいと思えるほどだ(笑)。


 ただその「やりたくないこと」ばかりでも、それなりに真面目に(?)数十年もやってきて、その間に選別されない苦悩も散々味わってきた筆者からすれば(大汗)、みうのように店頭やバックヤードでの雑談や愛想笑いでさえも拒絶したくなる人々にも理解を示さざるを得ないというのが正直なところだ。


 アイドルアニメに大胆にも(ひとり)ボッチアニメの文脈を採用した本作の今後におおいに期待したい。
僕は存在していなかった

アニメ 22/7 Vol.1(完全生産限定版) [Blu-ray]


『推しが武道館いってくれたら死ぬ』

(木曜25時28分 TBS他)


 桜の木の下で「ライブやるから来てください!」と通行人にビラを配る少女たちの姿に、何十匹目のドジョウか? と思いきや……


 たしかにこれはアイドルアニメの変化球だ。主人公はアイドルの一員ではない。それぞれの推(お)しのアイドルメンバーに熱をあげるアイドルオタの主観で物語が進行するのだ。


 ただ主人公とともに7人組の地下アイドルグループを追いかける、30代らしきデブメガネこそは典型的なオタの趣(おもむき)だが、主人公は金髪ポニーテールのモデル体型なのに、常にサーモンピンクのジャージ(笑)を着てガニマタで歩き、パン工場でバイトしてる20歳のフリーター女子・えりなのだ。


 導入部でライブのビラをもらう際のえりはどこぞの大企業のOLかと思えるほどにカッチリとしたファッションだったが、そのライブで歌う茶髪セミロングの内気で人見知りな少女・市井舞奈(いちい・まいな)に手を振られ、


「あの日、君に殺されかかった」(笑)


ことから、以来えりは収入のすべてを舞奈につぎこむ日々を送っている。


 えりが常にジャージ姿なのは――ちなみにサーモンピンクは舞奈のメンバーカラーだ――、それこそ特撮ヒーロー作品の円盤やフィギュアを買いたいがために、毎日弁当を持参したり会社の飲み会を拒否したりで節約の日々を送る特撮オタのOLが主人公のマンガ『トクサツガガガ』(実写ドラマが2019年にNHKで放映・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190530/p1)を彷彿(ほうふつ)とさせる。
 しかし、その主人公が職場の同僚に特撮好きを知られるのを恐れる隠れオタなのとは180度異なり、えりは舞奈好きを全開にさせているのだ。


 それがとにかくアツ苦しい。夕陽に向かって舞奈のことを


「愛してる~~~!!」


と絶叫したり(笑)、どちらの推しがカワイイかをめぐってデブメガネとムキになってケンカしたり、ライブで興奮しすぎて失神ではなく鼻血を出してブッ倒れたり(爆)という調子である。


 そのえりのアツ苦しさが内気で人見知りな舞奈から敬遠され、いわゆる「塩対応(しお・たいおう)」をされているどころか、えりのいささか度のすぎた熱狂ぶりはアイドルオタたちから舞奈をも敬遠させてしまい、メンバーの人気投票で舞奈が最下位となる悪影響を及ぼしているほどなのだ(笑)。


 だが、えりはいざ舞奈を前にするとそのアツ苦しさとは真逆のなんともいじらしい姿を見せる。右手が鼻血で染まったために舞奈との握手を遠慮するのはまぁ当然だろうが(爆)、推しといっしょにチェキが撮れる撮影会のために真夏の炎天下に早朝から並んでいたものの、汗まみれで身体がクサくなったことを気にしたえりは、せっかくのツーショット撮影で舞奈に自分とは離れて撮ってくれるよう頼みこむのだ。


 自身の大切な存在を不快にさせたくないというえりの感情は、たとえアイドルオタではなくとも多くの視聴者を共感させたことだろう。


「好かれてなくても嫌われてなければいい」


というえりのセリフが実に象徴的だが、握手会にしろ撮影会にしろ常に真っ先に権利をゲットしているハズのえりが、実際の舞奈に対してはその独占欲をいっさい見せないどころか


「舞奈はみんなのものになってほしい」(笑)


とさえ語るほどに多面的に描かれることで、視聴者の感情移入を誘う効果をより高めているのかと思える。


 えりが決してただのアツ苦しい女オタではないことが舞奈にも充分伝わっている証(あかし)として、えりの腕だけが写ったツーショット(笑)のチェキに、楽屋で舞奈が


「明日こそ素直に想いを伝えたい」


と語るのには感動すらおぼえたほどで、あまりに痛いアイドルオタたちの生態描写の数々には、実は高いドラマ性とキャラクターの魂(たましい)が秘められていたのだ。


 もっともエンディングテーマとして2000年代前半に人気のあったモーニング娘。を擁する「ハロー! プロジェクト」の一員でもあった大人気アイドル・松浦亜弥(まつうら・あや)――今の若い層では知らない人の方が多いのでは?(大汗)――の名曲『桃色片想い』(02年)が使われているのは、本作がアイドルアニメの変化球だけではなく、女性同士の恋愛を描く「百合(ゆり)」モノ(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191208/p1)の変化球でもあることを露呈(ろてい)させている。
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「推しが武道館いってくれたら死ぬ」DVD1


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.84(20年3月8日発行予定→4月5日発行)


2018年・夏アニメ

(2018年9月6日脱稿)

『音楽少女』

(土曜25時 TOKYO‐MX他)


 『THE IDOLM@STER(アイドルマスター)』(11年~・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20150615/p1)、『ラブライブ!』(13年~・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160330/p1)、はたまた『Wake Up,Girls!(ウェイク アップ ガールズ!)』(14年~)など、すっかり手垢(あか)がついた感のあるアイドルアニメに、いまごろになって手を出すとは、キングレコードもすっかりヤキがまわったのか?


 80年代に中高生だったオッサンである筆者の世代にとっては、あのウルトラマンシリーズの劇中音楽をはじめて商品化し、特撮やアニメの音楽集の先駆け的存在となった『ウルトラオリジナルBGMシリーズ』(79年)や、『SF特撮映画音楽全集』(83年)をはじめとする東宝特撮映画音楽の音盤化で、特に故・伊福部昭(いふくべ・あきら)の作品を積極的に世間に啓蒙(けいもう)したり、テレビ時代劇『必殺』シリーズ(72年~・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19960321/p1)の劇中音楽までをも商品化するなど、キングレコードはマニア御用達(ごようたし)のメーカーという印象がいまだ強いものがある。
 もちろん我々の世代にとっては、なんと云っても元祖『機動戦士ガンダム』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19990801/p1)の主題歌や劇中音楽を発売したメーカーであることが最も印象強いところだろう。最初の音楽集のLPレコードが、モロに「テレビまんが」という趣(おもむき)の、絵本のようなジャケットだったことには、中学生としてはレジでおもいっきりハズい想いをさせられたものだが(笑)、のちに発売された『アムロよ……』と題したドラマ傑作集の2枚組LPに、最初のLPには未収録だったものの、劇中で使用された頻度(ひんど)は高かった曲が、ボーナストラック的にいくつか収録されたのは実にうれしかったものだった。
 90年前後から00年前後はキングレコード大月俊倫(おおつき・としみち)プロデューサーが中核となって角川書店のオタク系アニメと組んであまたの作品を輩出し、業界のトップランナーであったことはご承知の通り――その最大のヒット作が巨大ロボットアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(95年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220306/p1)――


 そんなキングレコードも、先述した『ラブライブ!』や『ガールズ&パンツァー』(12年~・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190622/p1)など、近年の人気作品の権利を有するバンダイ系のランティスをはじめ、新興メーカーに押され気味ではあるのだが、さすがに何の勝算もなしに無難な路線に追随(ついずい)したのではあるまい。


 先述した『ガールズ&パンツァー』のお上品キャラ・ダージリンから『宇宙戦隊キュウレンジャー』(17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180310/p1)のチンピラ幹部怪人マーダッコに至るまで、七色の声を駆使する人気アイドル声優喜多村英梨(きたむら・えり)は、近年は『夜ノヤッターマン』(15年)のドロンジョや『タイムボカン24』(16年)のビマージョ、『はじめてのギャル』(17年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200202/p1)のヤンキー女子高生・本城蘭子(ほんじょう・らんこ)など、妙にチンピラキャラが多いが(爆)、ポニーキャニオンランティススターチャイルドキングレコード)→トムス・ミュージックと、レコード会社の移籍を繰り返している。
 しかし、喜多村の全シングルの中では、スターチャイルド時代に発売した『Happy Girl(ハッピー ガール)』(12年)がオリコン第5位と最高位であり、スターチャイルド以外のレーベル在籍時には、ベストテンにランクインしたことは実は一度もなかったのだ。


 かのアイドルグループ・AKB48(エーケービー・フォーティエイト)もその活動の初期数年のCD売上不振を理由にかのソニーミュージック系の子会社レーベルに契約を解除されたものの、キングレコードに移籍した途端、イベントの抽選券をオマケにした詐欺(さぎ)的商法(笑)でバケモノ的に売上が爆発したのは周知のとおりである。
 近年では05年にデビューし、鳴かず飛ばずだった演歌歌手・丘みどりが、やはり16年にキングレコードに移籍するや、翌年末にはNHKの『紅白歌合戦』に出場するまでに至ったのだ!
 こうした事例を見ると、やはりキングレコードの企画力・営業力の強さはいまだ健在であり、この『音楽少女』がバケる可能性もあるのかも!?


 本作の第1話では、音楽家の両親のツアーに同行するかたちで日本に帰国することになった、元気ハツラツ・オロナミンC(笑)的な天真爛漫(てんしんらんまん)な美少女ぶりとは相反する名前の主人公・山田木はなこ(爆)が、成田空港のロビーにて、数十人のアイドルオタくらいしか客が集まらないほどのC級アイドルグループ・音楽少女のライブに偶然遭遇し、実に軽薄な感じのマネージャーに目をつけられ、公開オーディションに出場するハメになるという運命の、いや、ご都合主義的な出会いが描かれる(笑)。


 音楽少女は11人ものメンバーで構成されている。彼女たちのキャラを毎回ひとりづつ掘り下げていたら、それだけで最終回になってしまう(爆)。
 なので、マネージャーがはなこを音楽少女に加入させることに強く反発したパープル髪のショートヘアのキツ目の少女が、はなこから


「声がステキ」


と云われた途端に


「ありがとう……」


と赤面したり、はなこに最も興味津々(しんしん)なピンク髪のメガネっ娘(こ)の好奇心旺盛ぶりなど、各メンバーがどんな娘なのか、はなこに対する反応ややりとりの違いによって、視聴者が第1話の時点で半数くらいは把握できるようにされているのは好感が持てるところだ。


 個人的にはライブの成功を願って会場に塩を盛ったり、まじないとしてメンバーのおでこに梅干しをはりつけたりする、低身長の茶髪ポニーテールのスピリチュアルな少女が、はなこにごほうびとして2回も


「飴(あめ)ちゃんをあげましょう」


とやらかすのには注目してしまう。


 同時期に放映が開始された『ウルトラマンR/B(ルーブ)』(18年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180826/p1)の主人公兄弟の妹である女子高生・湊アサヒ(みなと・あさひ)も、序盤では


「ハイ、飴ちゃん」


と、兄弟ゲンカで熱くなった湊イサミに飴を与える描写があったが、これはアサヒがじゃんけんすらもイヤがるほど、争いが嫌いな平和主義者であることを象徴していたのだ。
 アサヒのキャラ最大のアイデンティティとして、「飴ちゃんをあげましょう」は定番描写にしてほしいものである(笑)。


 初対面のアイドル少女たちにダンスや歌唱指導をするほどのサラブレッドぶりを披露したはなこが、実は歌が「どヘタ」(笑)なことを露呈させる第1話のラストは、はなこと音楽少女の今後に期待を持たせるヒキとしては、あまりにも絶妙であった。
シャイニング・ピーシーズ


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.81(18年12月29日発行))


2019年・夏アニメ

(2019年10月13日脱稿)

『Re:ステージ! ドリームデイズ♪』

(日曜22時 TOKYO‐MX他)


 いったい何匹目のドジョウとなるのだろうか? またまたアイドルアニメの登場である。
 もっとも原作となる小説はKADOKAWA(カドカワ)の『月刊コンプティーク』2015年8月号から連載が開始され、翌2016年には声優が歌唱するキャラクターソングCDが発売、2017年にはそのライブやスマホゲームの配信もされていたほどに、すでにプロジェクト自体はかなり以前から動いてはいたようだ。


 女子高生のスクールアイドルたちの全国大会を描いた『ラブライブ!』シリーズ(13年~)をまんまパクったかたちで、主人公たちが廃校ではなく部活の廃止を阻止するために、中学生アイドルの全国大会・プリズムステージの優勝をめざしている。
 主人公の少女はアイドル集団の中でもビジュアル的にやや浮き上がって見えるオレンジ髪のショートボブヘアで、これがそもそも『ラブライブ!』(第1期・13年 第2期・14年)の主人公・高坂穂乃果(こうさか・ほのか)や、『ラブライブ! サンシャイン!!』(第1期・16年 第2期・17年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200628/p1)の主人公・高海千歌(たかみ・ちか)の髪型&髪色の色彩設計とも共通する鉄板(てっぱん)パターンのパクリである(笑)。
 そんな主人公・式宮舞菜(しきみや・まな)が一度アイドルの夢を断念しているのは、『Wake Up,Girls!(ウェイクアップ・ガールズ!)』シリーズ(14年~)の主人公・島田真由(しまだ・まゆ)の出自を彷彿(ほうふつ)とさせるものだ。


 こんな調子ではよほどの差別化をはからないことには見向きもされないかと思えるのだが、その点では本作はかろうじてギリギリセーフではないのかと。


 まず導入部で描かれた、駅の改札から舞菜の転校先の中学校に至るまでの実在する高尾山周辺の背景美術の美しさに目を奪われる。
 その背景とは相反するかのような、巨大モニターに映しだされる3人組のアイドルのステージからそそくさと逃げてしまうことで、舞菜に秘められた過去があるのを端的に示した演出には「おっ!」と思わせてくれるものがあった。


 金髪ショートヘアでメガネ少女の生徒会副会長に各部活を案内された末に、薄暗い廊下の先にある怪しい部室にたどり着いた舞菜は、濃い紫のロングヘアにピンクの和服姿の部長におっとりとした関西弁で大歓迎される。
 その茶室のような茶道(さどう)部としか思えない部室には実際、障子(しょうじ)に毛筆で「○」(まる)の中に「茶」と書いてある(爆)。しかし、この部室こそが、謡(うた)って踊ることを楽しむ


「謡舞踊部(ようぶようぶ・爆)」、


つまりアイドル部であるという想定外の描写には舌を巻いた(笑)。


 謡舞踊部の部員が部長とあとひとりのみで廃部寸前であることを知った舞菜は、情にほだされてつい入部を承諾(しょうだく)しそうになる。


 しかし、


「そんな理由で入部してほしくない」


と、1年生の新入部員で薄い紫のポニーテールの少女・月坂紗由(つきさか・さゆ)が現れ、実際の活動を見てほしいとして音楽にあわせてダンスを披露する。


 そこについ加わった舞菜が紗由と呼吸がピッタリと合ったことで、部長と紗由は舞菜がタダ者ではないと察知し、昨年のプリズムステージで優勝した3人組アイドルグループのリーダーの名字が舞菜と同じ式宮であることを指摘した。すると舞菜はそそくさと帰ってしまう。


 追いついた紗由が


「いっしょにアイドルめざそう!」


と誘うも、


「もう人前で歌ったり踊ったりしないと決めてるの……」


と、舞菜は寂し気に素っ気(そっけ)なくスクールバスに乗りこんでしまう。


 そよ風で桜の花びらが舞い散る中、舞菜に強いインスピレーションを感じた紗由はあきらめきれず、スクールバスを、舞菜を追いかける!


 紗由、そして車窓から紗由を見つめる舞菜が胸の高まりをおさえられず、両者に心臓の鼓動が鳴り響く演出が「運命の出会い」を絶妙に印象づけている!


 「夢なんか忘れたはずなのに」とつぶやいた舞菜が翌日部室に姿を見せ、紗由と手を合わせるに至るまで、第1話がこんなキャッチーな演出でつなげられたら、散々使い古されたネタでもつい見入ってしまうというものだろう。
 個人的には今後も暖かく見守りたいと思えたものだ。
TVアニメ「Re:ステージ! ドリームデイズ♪」第1巻[Blu-ray]


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.83(19年11月3日発行))


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#ナナニジ #ナナブンノニジュウニ #推し武道 #音楽少女 #Reステージ #リステ #リステージ



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マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 ~『まどマギ』が「特撮」から受けた影響&与えた影響!

『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』『せいぜいがんばれ! 魔法少女くるみ』『魔法少女 俺』『魔法少女特殊戦あすか』『魔法少女サイト』『まちカドまぞく』 ~爛熟・多様化・変化球、看板だけ「魔法少女」でも良作の数々!
『はたらく魔王さま!』『魔王学院の不適合者~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』『まおゆう魔王勇者』『異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術』『百錬の覇王と聖約の戦乙女』 ~変化球の「魔王」が主役の作品群まで定着&多様化!
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『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』 ~『まどマギ』が「特撮」から受けた影響&与えた影響!

(文・T.SATO)
(2020年3月3日脱稿)(2020年8月11日脱稿の小文も追加)


 ご町内を守るために魔物と戦う10代の少女たちを描く魔法少女モノに、リアルロボアニメ的な手法を持ち込んで2010年代の深夜アニメの金字塔ともなった『魔法少女まどか☆マギカ』(11年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120527/p1)と世界観を同じくする作品。スマホゲームの方が先行して、ひらがなの「けやき坂46」(現・日向坂46)主演の2.5次元ミュージカルを経て、ついに深夜アニメ版が放映された。キャラクターデザイン以外の監督&脚本陣は交代している。
 まぁ凝りに凝ったSF&人間ドラマのストーリーで一度は完結してしまった作品の外伝を作るのは至難のワザ。その上で云うけれども面白くないなぁ(汗)。



 2010年代のTVアニメ史に残る名作深夜アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』。その世界観を借りて、ご町内レベルの平和を守る女子中学生であれば、別の街々でも魔法少女たちがひそかに魔物と日夜戦っていても不思議ではナイだろうと、放映当時から世界観は同じでも市町村や主人公集団を別とするマンガ作品などがメディアミックスで展開されてきた。
 本作はその手法で、本家が続編劇場版(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201122/p1)をもって完結したあとに、改めて公式の製作委員会が本格的に製作を開始した本流作品となる。


 ただし、まずはスマホゲームでの展開で、次に2.5次元のミュージカルで。ビッグタイトルのゲーム化なので、ゴールデンタイムでもフィギュアスケートの外人少女をフィーチャーしたCMをゴールデンタイムで長期にわたってバンバン流していたので、2020年冬季では一番知名度が高いオタ向け深夜アニメであることは間違いがない。


 原典たる『魔法少女まどか☆マギカ』を大雑把に云えば、女児向けアニメ『美少女戦士セーラームーン』(92年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041105/p1)以来のヒロイン戦隊vs悪の組織との攻防をハイブロウに、ヒーローロボットアニメに対するリアルロボットアニメのような手法で描きつつ、魔法少女同士も抗争する姿を描いた作品でもあった。


 もちろん、13人の仮面ライダーがそれぞれの夢を叶えるためにバトルロイヤルしたTV特撮『仮面ライダー龍騎(りゅうき)』(02年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20021109/p1)の大ヒットの影響は大きい。この作品以降、ゲームやアニメでは『龍騎』の影響を受けた同工異曲の作品が氾濫! 同じくバトルロイヤルものの『Fate/stay night(フェイト/ステイ・ナイト)』(06年)シリーズの原作者をはじめ、作り手側も『龍騎』からの影響を公言してはばからなかったモノだけど、本作の脚本を務めたゲームライター上がりの虚淵玄(うろぶち・げん)もそれを公言。
 この作品でその実力が認められて、その後は深夜アニメ『サイコパス』(12年)、ロボットアニメ『翠星(すいせい)のガルガンティア』(13年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20140928/p1)や『仮面ライダー鎧武(ガイム)』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20140303/p1)、セル画ライクな3D-CGアニメ映画『楽園追放』(14年)や『GODZILLAゴジラ) 怪獣惑星』シリーズ3部作(17~18年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20171122/p1http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180622/p1http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20181123/p1)などで八面六臂の活躍をすることになるのはご承知の通りである。


 ただし、原典たる『まどマギ』もあまたのバトルロイヤルものと同様に、作り手や評論オタクが騒ぐほどには価値観の多様化・価値相対主義を訴えるものではない。
 主人公以外のバロルロイヤル参画者たちがいかに「ミーイズム」から来る動機や、せいぜいが社会全体の「公共」よりも身内・仲間・恋人といったウチワな「私」のみを優先して、あるいは「アナーキズム」(無秩序・無政府主義)や「サイコパス」(先天的な冷血や攻撃的・嗜虐的な性格異常)といった人物たちがバトロワに参戦していたとしても、だいたい主人公はそのバトルロイヤル自体をとめるべく邁進している善人ではあり(笑)、『まどマギ』の主人公も同様であってそれを最後まで貫いていく。


 『龍騎』でも『Fate』でも『コードギアス 反逆のルルーシュ』(06年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20081005/p1)などでもバトルロイヤル・システムを構築した御仁が仮に登場したとしても、その正体はチンケな小人物であったり彼なりの同情すべき動機があったり、単に時系列の最初に位置していただけであってラスボスたりえず、一応の巨悪は別に設定されたりもしていた。
 仮にシステムを構築した御仁を打倒できたとしても、人間の欲望や動物的本能にも根差したバトルロイヤル・システムそれ自体は止まらずに動きつづけるあたりが、専制的な王さまや安倍ちゃんやトランプなどの人格悪を首チョンパさえすれば即座に平和が訪れるというような「革命幻想」・旧態左翼的な「階級闘争図式」――熟議による求心的な議会制民主主義ではなく、単なる遠心的な無政府主義に陥りがちなソレ――を乗り越えており、ついにジャンル作品もココまでの境地に達したか……と実に感慨深いものもあったのだ。


 そう、『まどマギ』でも白い小動物型マスコットキャラ・キュウべぇはラスボスや人格悪ではなかったのである。真のラスボスと目されるべきはもっと上位の事象にあった。人間が動植物を食するように、高次元宇宙の存在であるマスコットキャラもまた人間の精神エネルギーを補給しないと絶滅してしまうという食物連鎖の生態系、あるいは劇中世界における「宇宙の法則」(システム!)それ自体! という抽象的なモノが根本原因・ラスボスであったというオチ!
――『ウルトラマンオーブ』(16年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20170415/p1)でも星間文明存続を審判する役割を務めているロボット怪獣ギャラクトロンが、高次な精神生命体などにはまだ進化しておらず低次で残酷な「食物連鎖の生態系」に留まっている存在ゆえに全地球生命を滅ぼそうとする前後編があったなぁ(汗)――


 そんなモノは現実的には解決不可能な宿痾なのだけど、そこは広義でのSF。それまでの展開における幾度もの時間ループ要素で蓄積した「因果のエネルギー」という仮想的な要素を援用して、宇宙の法則・システム・ルールの土俵それ自体をズラして改変を試みる!――単なる代案なき反体制ではなく、真の意味での民主主義的な立法!――


 超過去~超未来に至るまでの歴史の大局それ自体は変えない。すなわち、個人の人生途上における切実な選択や決断、街の平和を守るための正義感やヤリ甲斐に、その過程でできた仲間・戦友たちとの小さな喜びや充実感などの人生体験といった歴史それ自体は肯定する!
 しかし、魔法少女たちとマスコットキャラがその最期(さいご)に到着する運命(不幸)だけをなかったことにするために、一応の各話における暫定的な敵の化け物でもあり、古今東西の歴史に出現していた「魔女」を「魔獣」で代替する!
 そして、歴史上のすべての魔法少女のみならず、陳腐凡庸な作劇であればラスボスとして撲滅されたであろうマスコットキャラまでをも救ってみせるような大歴史改変をも行なってみせる!
 そのためにも、我が身を「空間」的には「宇宙」全体、「時間」的にも超過去~超未来を貫く「時空」それ自体へと超拡張!


 「神」そのものではナイけれども「神近き存在」としての万能に近い超能力を駆使して、魔法少女たちが死後に宇宙の法則で「魔女」と呼ばれる宿敵怪物へと変貌してしまう必然・運命それ自体を変えてしまう。魔法少女たちの末期・臨終の瞬間には救済を与える存在に自らが成ってみせる。
 そのために、キュウべぇの故郷である高次元世界よりもさらに上位に位置している高次元世界(天上世界)の存在へと上昇して、その高みから地上・3次元世界の超過去~超未来にわたって永遠に絶え間なく干渉しつづけてみせるという、既存の「宇宙の法則」の一部に新たに上書き・付加された新しい「宇宙の法則」を担う一端・概念・作用にすら昇華する。
 しかして、彼女が住まっていた現世や歴史からはその痕跡を永遠に消滅させて、最初から存在しなかったことになってしまう究極の自己犠牲が描かれることで、視聴者に滂沱の涙をこぼさせる。


 しかしこのオチは、よりリベラルな御仁たちからは、中学生の少女ひとりにここまでの滅私奉公・キリスト的な受難を背負わせる作劇自体がヤリ過ぎで封建的ではないのか? といった反発をも惹起していたものであった。
――こう書いてくると、『龍騎』の影響で誕生した『まどマギ』は、今度は『仮面ライダービルド』(17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20181030/p1)と『仮面ライダージオウ』(18年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191020/p1)における、ライダーも敵怪人もその両者の戦いそれ自体もそもそも存在しなかったことになった歴史改変ラストにも逆影響を及ぼしていたことが見て取れる。『ウルトラマンジード』(17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20170819/p1)冒頭で超時空消滅爆弾で破壊された並行宇宙のひとつを救うために、そこの宇宙でウルトラ一族の長老・ウルトラマンキングが宇宙大に拡大して宇宙と一体化、破壊された大宇宙自体を弥縫・縫合していたのもまた同様――



 そーいうワケで、作品世界の大ワクはすでに確定してしまっている作品なので、作劇の自由度が狭まるのかもしれないのだけど、この外伝『マギアレコード』は敵の不定型生物が「魔獣」ではなく「魔女」の名称のままなので、歴史改変前の時空を舞台としていることがわかる。


 で、観てみた……。


 ウ~ム。個人的にはあまり面白くは感じられないなぁ。


 たしかに安直な作りの外伝ではない。原典と同じことをしてもインパクトはナイのだから、別の要素――新主人公少女の世界では物理的な記録からは消えてしまっているらしい、主人公の「妹」探し――を投入して、そこで引っ張ろうというのもまぁ作劇アイデア的には正しいとも思う。


 しかし……。なにか爽快感やカタルシスがナイよなぁ。果たして、その原因とは何か?


 コレを脚本家や総監督の交代に求めるのはトートロジー・同語反復にすぎず、作劇術の分析にはなっていないだろう。
 そうか、わかってきた。筆者も先に本作の原典作品のドラマ・テーマ・SFギミックの解題などを散々にやってきていてナニだけど、そこだけを腑分け・解剖して俎上に上げてみせても、その作品のトータリティをわかったことにはなってはいなかったのだ。


 作り手たちも、あるいは評論オタクたちも、原典作品のドコが面白かったのかについての誤解もあったのではなかろうか?
 後出しジャンケンで思うに、本作『マギレコ』は「人間ドラマ」の方が中心となっており、各話ごとの「変身」・「魔空空間での戦闘」・「必殺ワザでの勝利」! といったところがヤマ場にはなっていないのだ。


 思えば、原典作品はいかに「人間ドラマ」が陰鬱にコジれても、「戦闘シーン」で強制的に「カタルシス」(快感)が発生することで盛り上がりが作れていたし、「各話単位での一応の終わった感」も担保されたりして、一方でヘビーな描写や悲劇があってももう片方の重りでシーソー的に作品のバランスが取れていたのだとも私見をするのだ。


 やはり、ドラマやテーマ以前の作品の「インフラ」の次元における「基本フォーマット」といった「下部構造」にも作品は規定されている。原典作品でも結局はヒロイン(魔法少女)vs敵怪人(魔女)との美麗な異空間での戦いの場面が各話のクライマックスとなることで、そこで勝利も描かれて強制的に各話にカタルシスも発生し、それにより各エピソードのメリハリや起承転結感も強めていたのであったのだ。


 そしてこの外伝作品は、各話のアクロバティックな魔法少女vs魔女との壮快な戦いの場面よりも、ドラマ・テーマを描いたシーンの方をクライマックスとすることで、皮肉にもかえってドラマやテーマが埋もれてしまっているのである。
 やはりインフラ・ハードウェアといった基盤、ひいてはグーデンベルグの「活字印刷」や蔡倫が発明した「紙」のような根っ子にある技術のごとく、「勧善懲悪物語作品」における歌舞伎的な「型」といった作劇上での技術・ベースがあってこその、その上に乗っかるモノとしての「文学」や「人間ドラマ」や「社会派テーマ」に「近代的自我」やイジイジとした「内面描写」(笑)なのである。


 つまりこの外伝作品は、ヒロイズムや戦闘のカタルシスを軽視することで、かえってそのトッピングであるドラマやテーマとの相対的な「落差」も減ってしまって、それらが際立ってこないのだ。
 原典作品では「戦闘場面」での「異世界背景美術」や「魔女のデザイン」といった、「特撮」ジャンル作品でいうならば「特撮班」「特撮美術デザイナー」「特撮監督」に相当する役職を担当していた「劇団イヌカレー」のメンツが脚本&監督に昇格しても、こーなってしまうとは何たる皮肉!


 古い世代のオタクが挙げる例で恐縮だけど、1970年代前半の第2期ウルトラマンシリーズでは、それを先駆けるところの60年代後半の第1期ウルトラシリーズとは異なり、「怪獣」や「SF性」や「事件」に対する驚き・サプライズよりも、70年安保前後の学生運動の挫折や公害の頻出に伴なう科学や明るい未来への幻想の崩壊といった時代の空気・風潮や、TV局側の担当プロデューサー・橋本洋二の意向もあってドロくさい「人間ドラマ」や「社会派テーマ性」が指向されていた。
 しかしそれは、同時期に同じTV局の担当プロデューサーが担当した児童向け実写TVドラマ群と比しても、そのドラマ性やテーマ性がカナリ重たいものなのだ。


 憶測するに「ウルトラマン」などの戦闘ヒーローものは最後の必殺ワザで敵を倒してしまえることで、そこに強制的にカタルシスが発生して物事が晴れて見えてしまうので、むしろプロデューサーもイイ意味でそこに無意識に甘えて重たいドラマやテーマを各話の脚本家に要求し、あるいは脚本家の側も直感的にそのように執筆してしまい、それでも番組の様式美的なアクションやヒロイズムとの対比で「テーマ」の方もかえって際立ったのではなかろうか?
 そして、この機微が――筆者も含めて――判っていなかったがために、後年のマニア上がりが作ったシリアス志向・テーマ志向のジャンル作品群が概してツマラなくなってしまったのではなかろうか? ドラマやテーマの基盤となるインフラ、シリーズのフォーマット・型を作ってきた、昭和の「ウルトラマン」であれば金城哲夫(きんじょう・てつお https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210718/p1)、昭和の「仮面ライダー」であれば伊上勝(いがみ・まさる)に対しても、そのような観点からの深掘りが改めて必要なようにも思うのだ。



 で、ググってみても本作『マギレコ』はあまり評判が良くないようにも思えたのに、20年冬季アニメの円盤売上は1位の1万枚超え! ……いやまぁもちろん、作品評価も最終的には個人の好みなのだけど、批評・感想屋たちの感慨と素朴に楽しんだり信者的に観ている層の感慨との違いの大きさが(笑)。


 結論。筆者も先年に観劇したアイドルグループ「けやき坂46(フォーティシックス)」(現・日向坂46(ひなたざかフォーティシックス))が演じた2.5次元ミュージカル版(18年)の『マギアレコード』の方がドラマ的にもエンタメ的にも良作だったと思う(笑)。イヤ、マジで。機会があれば詳述したいと思います。


(了)
(初出・当該ブログ記事~オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.84(2020年3月8日発行予定⇒コロナ禍で即売会中止により4月5日発行)に、オールジャンル同人誌『SHOUT!』VOL.77(20年8月15日発行)に発表した小文を追加)


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『異種族レビュアーズ』合評1 ~東京MXでの放映打ち切りをドー見る!?

(文・久保達也)
(2020年2月20日脱稿)


 人間・エルフ・妖精・獣人・魔族・妖怪・天使・悪魔などが共存する世界で、黒髪ロン毛の風来坊の人間男性と金髪小柄なエルフ男性の主人公が、あらゆる種族とエッチをするために怪物退治などをしつつも各地の風俗店をめぐる大冒険を繰りひろげ、そのエッチの相手をクロスレビューで評価するという内容だ。


 たしかにかなり過激な性描写が目についたとはいえ、その作風はきわめて陽性でカラッとした明るさにあふれていたことから、個人的には本作に対しては低俗だの下劣(げれつ)だの不快だのといったマイナスイメージはほとんど感じられなかったものだ。


 だが、同じ地上波でもKBS(ケイビーエス)京都とサンテレビ、そしてBS放送のBS11(ビーエス・イレブン)では放映を継続し、CS放送のAT‐X(アニメシアター・エックス)では無修正版まで放映しているにもかかわらず、唯一(ゆいいつ)TOKYO‐MX(東京メトロポリタンテレビジョン)のみ放映打ち切りとなってしまった。


 ただ、外見は美少女だが実際は500歳のバアさんのエルフを推(お)す人間男性と、人間の50歳の太ったオバサンの風俗嬢を推すエルフ男性が云い争いになり、獣人や妖怪などさまざまな種族に判定させたら人間の太ったオバサンの方が高い評価となってしまう場面は、そうした多様な価値観の尊重を描くことで、さまざまな種族が共存可能である世界に説得力を与えているとさえ思えたほどだ。


 またここに書くのもはばかられるほどの主題歌の過激な歌詞の中でも、「同じ(風俗)店に行ったら種族が違っていても仲間だ」という一節は、趣味を共有できる仲間を求める我々のような種族にはおおいに共感できるものではなかろうか?


 少なくとも同じように人間・ウルトラマン・宇宙人・アンドロイドなどの「共存」を訴えながらも、実に湿っぽい陰鬱(いんうつ)な話に終始していた『ウルトラマンタイガ』(19年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200108/p1)に比べれば、たとえエロ描写ばかりとはいえ、本作の方がその「理想郷」をはるかに的確に描いていたのではないのか?


 意外にも、TOKYO‐MXでの打ち切りをネット上では「当然だ」「しかたがない」「どうでもいい」とする声ばかりで「残念だ」との声が皆無(かいむ)に近い(!)のは驚きだが、「表現の自由」が次第に失われつつあるこの国の風潮(ふうちょう)に、我々はもっと危機感を持つべきだと個人的には考えるのだ。


 案の定、この『異種族レビュアーズ』は2020年1月28日にBPO(ビーピーオー=放送倫理・番組向上機構)で開かれた「第221回 青少年委員会」の席上において、


・「性的なアニメが年齢制限もなしに青少年が観られる現状に憤(いきどお)りをおぼえる」
・「風俗店を男性が評価しており、女性キャラクターを蔑視(べっし)している」
・「下ネタばかりのアニメは子供に悪影響を与える」――深夜25時30分に子供にテレビを観せている親の方がよほど問題アリかと思うが(大爆)――


といった視聴者からのクレームによって審議されたものの、


・「気持ち悪いから」「下品だから」という視点での評価は、言論・表現の自由との関連で慎重に扱わねばならない。
・遅い時間帯の子供の視聴については、保護者にも配慮してもらいたい――当然だ(笑)――。
・テレビは子供だけを視聴者として対象にしているものではない。
・こうしたものが深夜枠から普通の時間帯に入ってくることには気をつけておくべきだ。


との意見が大勢を占め、BPOとしては本作を決して否定することなく、静観する構えを示したのだ。


 だからこそ、TOKYO‐MX以外の局では放映を継続することが可能となっているワケであり、TOKYO‐MXの過剰(かじょう)反応がより不可解に思えてくる。


 すっかりマニア御用達(ごようたし)の局となっているTOKYO‐MXではあるが、実は一部の報道番組やワイドショーの内容が、あまりにも安倍(あべ)政権に忖度(そんたく)しすぎとの批判がよく見られることからしても、今回の件は「巨悪」が濫用した大きな力にTOKYO‐MXが萎縮(いしゅく)したことによる自主規制なのか? と勘(かん)ぐらずにはいられないものがあるのだが。


 実際、BPOに同様のクレームが寄せられたアニメ『最近、妹のようすがちょっとおかしいんだが。』(14年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20221211/p1)は当初土曜22時30分に放映されていたのを、第5話以降土曜26時に枠を変更することで放映を継続できていたのであり、それよりも遅い枠だった『異種族レビュアーズ』のみが打ち切りとなるのはやはり不自然極まりないだろう。


 本作が打ち切りとなった真の理由は不明だが、これを前例として認めてしまったら、ヘタをすれば将来的にはTOKYO‐MXの深夜アニメの放映が激減することにもなりかねないのではないのだろうか?
 繰り返す。これは断じて許してはならない暴挙なのだ。


(了)


『異種族レビュアーズ』合評2 ~異世界性風俗を描いたアニメで、性風俗の是非を考える!?

(文・T.SATO)
(2020年3月3日脱稿)


 異世界モノもジャンルの長い歴史の果てに、勇者ではなく魔王になったり、食堂・喫茶店・居酒屋を開店したり、冒険者だけど子育てがメインだったり、勇者だけどペットショップやプロレス興行(笑)していたり、書籍を作って司書になろうとしたり、中世に近代社会を招来せんとしたり(!)、ありとあらゆる職業を題材としたヒロイズムとも程遠い異世界作品が勃興して、異世界を舞台にヒトのすべての営みを包含せんとするメタ・ジャンルといった感を呈しており、爛熟の極みに達している。


 この作品はその中でも極め付け、異世界の「性風俗」(爆)を題材とした作品だ。より正確に云うならば、異世界の繁華街にある風俗街に足繁く通ってムッフンしたあとに風俗体験レビューの記事を書いて、それを冒険者が集うギルドの館のロビーの壁に貼り付けることで、小銭を稼ぐという作品である。
 もう少し云うなら、人間・妖精・獣人・悪魔・天使などとの異種通婚(姦通?)モノでもある。ぶっちゃけ、行き着くところまで行き着いた感もある。


 しかし、ワンアイデアだけの出オチ作品といった感じで、個人的にはあまり面白くない。しかもエロくない。具体的なサービスなり決定的な瞬間も描かれない。絵柄もリアルでナマっぽい肉体性を感じさせるモノではなく、まるっこくて柔らかそうなデフォルメされたモノである。
 もちろんそれが悪いというのでなく、だからこそリアリティの階梯も下がってコミカルなギャグとしても成立するのであって、コレをナマっぽい肉体性も感じられる絵柄で演じられたらシャレにならないとは思うけど(笑)。


 リアル寄りな背景美術やキャラデザだと、自然と作品世界のリアリティの階梯もあがってしまう。仮にお話のスジ的にはまったく同じストーリーであったとしても、非リアルな作品と比したらもっとインモラルに感じられてくるであろう。
 女を買いに行っている野郎も十人十色で、身勝手・喜悦だけの輩から逡巡・プチ罪悪感を抱いている輩まで。
 春を売っている女の方にも、イヤイヤ仕方なくから天性のビッチまで、あるいは地味な反復の炊事家事洗濯・農作業・職人仕事はタイクツで、華美な服装をして虚栄心も満たして異性とムダなおしゃべりでテンションを終始上げていたい! マジメで無口な男なんてツマラなくて大キライ!(爆) みたいな内面・自意識・各自の境遇、生まれついての「性に奔放」や「性に保守的」といった価値観の相違や先天的な性格の違い。
 リアリティの階梯があがれば、そんなモノまで浮上してきて、視聴者にもヒシヒシとそれを感じさせてしまうだろうとも思う。


 フィクションとはいえ、個人的にはそーいう多様な女性キャラ像をぜひとも観てみたい! とは思うのだけれども、往年の人気美少女アニメかんなぎ』(09年)非処女騒動なども思い返すに、おそらく潔癖なオタク視聴者の大勢にはウケないだろうとは思うので(汗)、本作のような記号的な絵柄と描写が適度な塩梅なのだろう。


 まぁフェミニズム的には性風俗・売買春なんぞは男尊女卑・ミソジニー女性嫌悪)な風潮に基づく社会的制度・文化的装置であり、近年の最新フェミ思想はともかく80~90年代においては、


「人間という存在は動物とは違って『性欲』という『先天的な本能』が壊れており、『後天的な文化』によって『性欲」が誘発されるだけであり、今ある男尊女卑的な文化を抹消して新たに「政治的に正しい」文化(笑)を樹立さえできれば、真の意味での男女対等な性愛文化も構築できるのだ!」


なる主張をしていたモノだ。


 もちろん野郎であれば、女の子のパンツ見たい・オシリ見たい・オッパイ見たい・裸を見たいという、個人差はあれども思春期以前の幼少時からある「性欲」が「本能」ではナイという言説は、実感的にもアリエないし生物学的にもナンセンスではある。
 心理学者・フロイトが喝破したように、人間は啓蒙思想的な「理性」だけでも動いておらず、「無意識」や「性欲」や動物的な「リビドー」などの鼻の先のニンジンでも駆動されている事実に到達した西欧思想史には疎(うと)い連中が、赤勝て白勝てレベルでフェミニズムになびいているようでもある。


 筆者からすれば、フェミニズムに一理も二理も認めつつもプチ違和感も手放さないのであれば、「男性中心主義」でも「フェミニズム」でもない「第3の学問」を樹立する絶好の契機であり、それこそが真の意味での理性的なふるまいではないのか? とは思えるものの、本作ごときのレビューにそのような大仰な話題は似つかわしくない(笑)。



 性風俗や売買春を積極的には肯定しないし減らすべきではあったとしても、人間に……特に男性側に男尊女卑以前の動物・オス的な本能がある以上は、そして禁酒法が施行されようが飲む・打つ・買いたい人間も相応にいるからには、かえってアル・カポネのようにウラ稼業でヤクザが肥え太るのが世の習いである以上は、日本でも売買春は禁止されているのに実際にはソープランドでは本番が可能というダブル・スタンダードで適度に発散させるのが、現実的な落としどころだとは思うのだ。


 性にまつわる問題といえば、古い世代には名作と名高い名脚本家・山田太一による往年のNHK土曜ドラマ男たちの旅路』第4部の第3話「車輪の一歩」(79年)で、車椅子の青年が両親も笑顔での公認で念願のソープ――当時はトルコ風呂と呼称――にひとりで行くも、あまたのお店で断られて終わって屈辱にまみれる名エピソードなども思い出す……。
 この作品のことも思い返すに、今や東京大学の総長にまで登り詰めた日本のフェミニズムのドン・上野千鶴子センセイは90年代、性的弱者の男性に対して「自力で女性をゲットできないモテない男性はひとりでセンズリしながら死んでいってください」と語っていたモノだけど(爆)、一理はあるにしてもそこまで逡巡なく断言してしまってイイのであろうか?
 筆者には昨2019年のエリート私立小学生20名を斬りつけて自殺した男に対して「ひとりで死ねばイイのに……」と語っていた言論人たちと、依って立つ立場&敵認定の対象が異なっているだけで、メタレベルでは同じ思考形態だとしか思えない。


 とはいえ、欧米に習って売春を禁止したのに、当の欧米では女性や障害者の「性的自由」の名のもとに「売春」や「身体障害者の買春」まで公認、国家が売春婦を登録制で管理する動きが90年代以降、拡充しているのは皮肉だ。
 たしかにヤクザやギャングが売買春を管理・搾取するよりかは、いっそ国家が管理するのも完璧とはいわずとも一理はあるのだろう。


 この延長線で、近年では往時の日本にだけ奴隷のように存在していたとされてしまった従軍慰安婦の世界的な見直しも望みたいところではある(爆)――むろん正当な商行為ではなく、女衒(ぜげん・仲介・ブローカー)にダマされて慰安婦になった女性や慰安所外で性暴力にあった女性の救済は必須――。
 仮にアナタやワタシには不要であっても、幼稚園~小中高の同級生たちのヤンキーDQN(ドキュン)やヤンチャな男子の比率を思えば、良心からではなく罰則があるから悪事をしないだけの人間が人類の過半なのであるから(汗)、前近代的・古代中世的なメンタル以前に食欲や性欲をも併せ持つ「動物」でしかない人間一般の性情をも見据えて、先回りして網も張ることが、真の意味での合理的な制度設計・社会デザインではないのかとも思うのだ。


 ただまぁ結婚制度や性道徳も地域・時代・個人で異なる相対的なモノではある。
――15年ほど前に(2004年)10代の女子ふたりがダブル芥川賞を受賞した際、清純派ではなくギャル子ちゃんの方の受賞作『蛇にピアス』で、ピアスを付けたワルの感じがする男にしか惹かれないギャル主人公が「健全とは何か? 餓死するくらいなら風俗で食べていく方がよほど健全だと思う」との価値観を躊躇なく語っていたくらいだし(笑)――


 だから、「性的自由」や「不倫」さえをも賞揚し、配偶者以外の第三者や社会が「不倫」を批判する必要はナイとする意見が一部のリベラル文化人の間では勃興している。
 しかし、コレは3手先・4手先が見えていない浅知恵に思える。この流れは男女対等の自由な性愛ではなく性的「新自由主義」となり、不倫や一夫多妻制もオールOK、女性の側でも金持ち男の2号・3号となっても豪奢な生活をしたい! という性道徳の自堕落な変容が起こって、数十年後にはディストピアが到来すると予見(爆)。


 天地創造の神さまが定めた「絶対普遍の正義」ではなく、人間社会の「便宜的な取り決めごと」にすぎなかったとしても、最大多数の最大幸福は一夫一婦制、不倫も実態はともかく社会的には糾弾しておこうというタテマエにしておいた方が、社会の安定や子供たちの感情の安定のためにも無難だとも思うゾ。
――むろん離婚しちゃイケナイとか、不倫は石打ちの刑に処すべきだ! とまでは云わないが(笑)――


 エッ、東京MXにつづいて神戸サンテレビや海外でも放映・配信中止なのが「表現の自由」に対する侵害だって? そんな「弾圧されてる俺、カッケーーー」みたいな映画『新聞記者』(19年)みたいなモノではないだろう。BS11やAT-Xでは観られるどころか、新たに岐阜では放映開始だし。
 つーか、コミケで販売中止処分を喰らうとハクが付くエロ・コスプレ円盤同様、放映中止になることを作り手・受け手も共犯関係で見越していて、放映中止自体でハクを付けたりネタや祭りにしてもらうことが前提の出来レースだ! くらいのことは云おうヨ(笑)。


(了)
(初出・当該ブログ記事~オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.84(2020年3月8日発行予定⇒コロナ禍で即売会中止により4月5日発行))


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『映像研には手を出すな!』 ~イマイチ! 生産型オタサークルを描くも不発に思える私的理由

(文・T.SATO)
(2020年3月3日脱稿)


 高校の部活動である映像研究会、実質的にはアニメを製作するサークルが舞台のNHKで放映中の深夜アニメ。


 こう書くと、山脈が近くに見える地方の高校のアニメ研究会でアニメ製作にいそしんでいた美少女キャラ5人が上京してアニメ業界の底辺で右往左往する大ヒット深夜アニメ『SHIROBAKO』(14年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20151202/p1)の#1冒頭や、暑苦しい黒縁メガネのオタク少年が学園№1や№2の美少女たち――その実態はガチな女オタク(笑)――とゲーム製作に明け暮れる大ヒット深夜アニメ『冴えない彼女(ヒロイン)の育てかた』(15年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191122/p1)の二番煎じや三番煎じを想起する。


 あるいは、00年代からあったような、高校大学や校内校外を問わずに生産者型から消費者型までさまざまなオタク系サークルを描いたマンガやアニメ――『げんしけん』(02年・04年に深夜アニメ化)や『ヨイコノミライ』(03年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071021/p1)――。超メジャーなところだと、マンガ家を目指す少年たちがその作劇術をメタ的に開陳もしていく群像劇を熱血に描いた『バクマン。』(08年・10年にTVアニメ化・15年に実写映画化)といった「週刊少年ジャンプ」連載の大人気マンガなども想起する。


 そーいう意味ではオタク的な気質がある人間の全員とはいわずとも、本作のようなオタ趣味それ自体を単なる消費で終わらせずに批評・生産・創作に昇華していかんとするオタク集団を描いている物語についつい惹かれてしまう御仁も多いことであろう。


 本作の場合も、小学6年の夏に引っ越した先の高層団地群をつなぐ高架の通路やそこから見下ろせる光景や足許のコンクリ河川を、もう思春期に入る時期であろうに精神年齢幼稚園児の純粋さで(半分揶揄・笑)、冒険物語の舞台に見立ててコーフンしてハシャギまわって、そんな彼女が深夜に布団に隠れて宮崎駿が初カントクした往年の名作アニメ『未来少年コナン』(78年)モドキの劇中アニメを鑑賞して激甚なショックを受けているサマなども描かれる。
 コレをもってして人生を変えられてしまった彼女は、アニメ研究会がある高校に入学するものの、諸般の事情でそれとは別の映像研究会を立ち上げることになってしまう……といったあたりが、本作の導入部となる。


 ウ~ム。題材は面白いハズなのに、出来上がった作品は個人的にはあんまり面白くないなぁ――本作を評価する方々にはゴメンなさい(汗)――。


 多少の異世界感を作品世界に醸すためにか、この作品はSF洋画の名作『ブレードランナー』(82年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20171110/p1)モドキのウス汚れた東南アジア的な近未来の日本を舞台としているのだけれども、その舞台設定って意味があるのかなぁ。
 むしろ背景美術に「非日常」的な要素が混入すると、主人公たちが作ろうとしている冒険アニメの「非日常」的な妄想の映像表現部分との「落差」が減ってしまってメリハリも弱くなってしまっているような……。


 そして、小柄な主人公少女のメンタルやルックスにそのボイス。
 意識的にか無意識にか男に媚びている気配がまるでないガラっぱちなところからして、往年の『ジャリん子チエ』(78年・81年に劇場&TVアニメ化)みたいな感じなのだが(笑)、それならば性別は少年でもよかったのではなかろうか? 性別が少女であることにさして意味がナイというか、むしろ女性の方が男性よりも同性内でのファッション&スイーツなカースト優劣意識が強いことを思えば、今どき化粧っ気もなくてボサボサ髪の女子高生の彼女が、クラスメートたちにそーいう目線で見られて少々の劣等感やダメ意識をいだくことがフツーのハズだと思えるのに、この作品世界は1970年代以前の学校の教室ですか?(爆)


 今季2020年の冬アニメだと、アイドルアニメも爛熟の果ての変化球で、『22/7(ナナブンノニジュウニ)』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200621/p1)では主人公のアイドル少女が、『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210418/p1)では主人公のヤンキー女子に推されているアイドル少女が両方ともに極度に内気なコミュ力弱者で、かたや浮わついたことがキライだけど成り行きで母子家庭の貧困のタシのために、かたや歌や踊りがスキでも(ヘタだけど・汗)人前トークはあまりできないというキャラ付けで、昆虫パニックものの『7SEEDS(セブンシーズ)』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210509/p1)でもロリ可愛いけどそれを端(はな)にかけて媚びたりはせずに単に意志薄弱でトロいだけなのに、コレまた女リーダーに「ドジっ娘を演じて男に助けてもらおうと媚びるのはやめなさい!(大意)」――一般的には正論なのだが、彼女の場合は素でトロいのに……(爆)――などという人物描写をスパイスで入れることで、ストーリー展開以前のところで視聴者の感情移入の端緒を作って、それがフック・引っかかりにもなっていく。
 しかし、本作にはそーいう創作活動の動機・触媒にもなりうる劣等感・欲求不満・内的葛藤といった、オタク視聴者にとっての感情移入のフックがさしてナイように思えるのも個人的には引っかかるのだ。


 良くも悪くも、というか悪しきことに、コレだけスクールカーストコミュ力ルッキズム(見た目至上主義)に苦しんでいることが、日本のみならずアメコミ洋画『スパイダーマン:ホームカミング』(17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20170901/p1)や『パワーレンジャー』(17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20170715/p1)などでも議題となっていて、先進各国共通の若者間でのテーマとなっているご時世だともいうのに……。
 まぁそもそも本作では、放課後の部活動の光景のみが描かれて教室やクラスメートがほぼ出てこないので、そこは意図的な確信犯での除外なのやもしれないけれども、その意図が成功しているようには見えずに不自然さに帰結してしまっている……というのが、筆者個人の見立てである。


 同じような議論は、小学校低学年ならばともかくとっくにイロ気付いているハズの小学校高学年なのに、色恋やスクールカーストの匂いがしてこない部分が不自然だ……などといった議論もあった、かつて同じくNHKで放映された地方都市を舞台にVR(仮想現実)ならぬAR(拡張現実)を題材としていた、インテリオタク間では高評価であった『電脳コイル』(07年)という作品をめぐってもあったけど。


 加えて、美少女であるとも平均的な少女だとも描かずに醜めにクズした絵柄の女の子キャラたちのキャラデザは良く云えば挑戦的だけど、良くも悪くも通俗エンタメの本質とは文芸批評用語で云うところの「俗情との結託」なのであり、無意識に根差した男尊女卑感情なども視聴時のモノサシに入ってくるので、この絵柄だと健気な美少女キャラだから応援してあげよう! という情動はまずは喚起はされないような気もしてしまう(汗)。
 もちろんその代わりに、アニメ作りにおける艱難辛苦(かんなんしんく)を突破していく少年マンガ的な熱血ド根性で視聴者の感情移入やストーリー展開を強制的に駆動していく手法もあるけれども――アマゾンが「あなたにおすすめです」と教えてくれた月刊「ジャンプSQ(スクエア)」連載で本作と同じく高校の生産型アニメ研を舞台としたマンガ『戦場(いくさば)アニメーション』(13年)などはそーいう少年マンガ的な作りで駆動されており面白かったけど――、本作はそーいう感じの作りでもなく、ワリと淡々と事態が展開していくのだ。


 作品を作る前に主人公少女が開陳する、往年の月刊模型誌に連載された『宮崎駿の随想ノート』(84~90年・97年に書籍化・ISBN:4499226775)みたいなラフな鉛筆書きのデッサンに淡彩画のような色彩を付けた架空メカや背景美術、そしてそれに細々とした手書き文字でビッチリとウラ設定や演出意図が描き込まれたノートのような「妄想」も映像化されていくのだけれども、それはあくまでも劇中キャラの脳内妄想にすぎなくて、アニメ製作における実際やその苦労などには直結していかないので、「達成感」のようなカタルシスにも帰結していかない。
 だけれども、「カタルシス発生装置としての物語」という下部構造・インフラ部分には眼を向けずに、社会派テーマだの良心的な作風といった上部構造のみで判定してしまうプチインテリオタクの皆さまがいかにもホメそうな作品には仕上がっているとは思うのだ(汗)。


 深夜アニメ『四畳半神話体系』(10年)やその変型続編映画『夜は短し歩けよ乙女』に『夜明け告げるルーのうた』(共に17年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190621/p1)や『デビルマン crybaby』(18年)といった佳作をものしてきた湯浅政明カントクにしても、原作マンガありきとはいえこの程度の作品に留まってしまった……というのが、あくまでも筆者個人の感慨にすぎないけれども極私的な見立てである。


(了)
(初出・当該ブログ記事~オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.84(2020年3月8日発行予定⇒コロナ禍で即売会中止により4月5日発行))


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