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ウルトラマンダイナ#38「怪獣戯曲」 〜評1 歪んだ真珠 ――実相寺昭雄の『ウルトラマンダイナ』
(文・旗手 稔)
怪獣映画『モスラ2 海底の大決戦』(97年)のラストでヒロインの手に渡されたひと粒の真珠はやがて漆黒の宇宙に浮かぶ水の惑星・地球と二重映しになる。
真珠はこうやって美しさという感覚を誰にでも分かるように表現するときの比喩としてよく用いられる。
だが、中には真珠を醜さと結びつけたがる人間もいる。
実相寺昭雄(じっそうじ・あきお)はウルトラシリーズの演出デビュー作『ウルトラマン』(66年)第14話「真珠貝防衛指令」で真珠を食らう醜悪な汐吹き怪獣ガマクジラを登場させた。
美しい真珠によって全身を飾り立てられた醜いモンスター。美と醜のいびつな組合せという皮肉な意匠。
そして真珠は実相寺監督のウルトラ演出最新作『ウルトラマンダイナ』(97年)第38話「怪獣戯曲」(98年5月30日放映)にいままた登場した。
ただしその真珠はいびつな形をしている。バロックという言葉の語源となった〈歪んだ真珠〉。
劇作家の妄想が現実世界に馬の糞から出来た驚異のバロック怪獣ブンダーを出現させる「怪獣戯曲」のストーリーを彩るのは劇画をそのまま使った映像やお馴染みのワセリン・フィルターを始めとしたバロック的な画面装飾だ。
現実の都市を劇場空間にするという前衛的なプロットは、格闘場面が突如歌舞伎芝居調になってしまう『ウルトラマンティガ』(96年)第37話「花」の試みを更に推し進めたものだろう。
躍動するヒーローの肉体美を描き出す特撮の佐川和夫は作品の狙いを非常によく汲み取っている。
落下の衝撃によって凄まじい量の粉塵が吹き上がる着地の瞬間、或るいは足もとに砂塵を巻き上げながら疾駆するダイナの映像はあたかもオリンピックの記録映画の一コマを見ているようだ。
(編:「落下の衝撃によって凄まじい量の粉塵が吹き上がる着地の瞬間」。このイメージは次作『ウルトラマンガイア』(98年)において、毎回のガイア登場〜着地シーンのイメージに引き継がれることとなった)
篇中、劇作家=錬金術師によって“驚異の種”と名付けられた〈歪んだ真珠〉そのままに輪廓(りんかく)の定まらないいびつな画面。
ビルのガラス窓に映ったバロック怪獣ブンダーは無数の断片に分割されてバベルの塔の如きシルエットを容易に把握することが出来ない。
勇者ダイナの勝利という「美しい」大団円を迎える怪獣戯曲の当初の結末に満足出来なかった劇作家は人類滅亡/怪獣の勝利という歪んだ幕切れを夢想する。
「怪獣戯曲」のいびつな映像表現は劇作家の心象風景そのものでもあった。だが、彼の逞しい想像力も最後にはダイナの「肉体美」の前に滅びさる。
けれどもその肉体の「美しさ」は極端に誇張されているのでどこか「グロテスク」でもある。
映像の錬金術師・実相寺にとっての“驚異の種”とは、屹度(きっと)魚眼レンズを入口として見たような世界の「歪み」のことなのだろう。
それが死者の復活によってひとびとの前から死がどれだけ隠蔽されていたかが明らかになる『ウルトラマン』第35話「怪獣墓場」での企てや、見慣れた日常風景を異化する『ウルトラセブン』第43話「第四惑星の悪夢」の説話の核心なのだ。
「怪獣戯曲」という作品そのものについては観念的に過ぎるきらいはある。肝心なところを台詞でアッサリと説明するあたりは、観客に対して不親切との批判もあるだろう。
19世紀のドイツの記憶喪失者カスパー・ハウザーに準(なぞら)えられた例の記憶喪失者も結局正体不明のままだ。
ゴテゴテとデコレートされたゴシック調の装飾のその過度の重みに耐え切れず自壊した建築物に例えられるべき過激な失敗作、或るいは映像の力業(ちからわざ)でそれらの不備を強引に押し潰した超異色作、というのが本作に対する差し障りの無い評価だろうか。
そんな実相寺作品の「歪み」こそ、筆者にとっては寧(むし)ろ“驚異の種”であったりもするのだが。
本作には他方で「寝る」という主題の頻出がある。『ウルトラマンティガ』「花」&第40話「夢」の実相寺二部作でもひとびとがそこで「寝て」いたような気がする。これについてはいずれ考察してみなければならないかもしれない。
ウルトラマンダイナ#38「怪獣戯曲」 〜評2 二大異色作に見る自分にとっての『ウルトラマンダイナ』感想 その1
(文・JIN)
前年度の『ウルトラマンティガ』(96年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080913/p1)に続く、平成ウルトラシリーズ第二弾として開始された『ウルトラマンダイナ』(97年)。
それは、硬質なイメージが強かった『ティガ』世界とは実に対称的に、あくまで陽性の主人公アスカのキャラクターや防衛隊スーパーGUTS(ガッツ)の正攻法のフロンティアスピリッツ精神など、今までのシリーズに見られなかった数々の斬新な独創性を次々と打ち出していくこととなります。
また、それと同時に、一連のスアィア球体編などに見られる宇宙開発の是非など、『ティガ』世界からのテーマ性の継承発展などといった面をも合わせ持つなど、そのバラエティに富む展開の数々には初代『ウルトラマン』以来の歴代シリーズの中においても屈指のものがあるとすらいえそうです。
しかし、それだけに、そうした数々の要素を全て押え切るには余りにも時間が無く、今の段階においては正に手に余るといった感じです。
そこで、ここにおいては、シリーズ屈指の代表的異色作といえる第38話「怪獣戯曲」と第42話「うたかたの空夢」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971210/p1)の二本を素材に、『ダイナ』という作品について自分なりの感想を簡単に述べていきたいと思います。
#38「怪獣戯曲」
「怪獣ブンダーが来るよーっ!」
一人の青年の唐突な叫びと共に始まった、『ティガ』における第37話「花」と第40話「夢」の二作品に続く、平成ウルトラシリーズ実相寺昭雄監督作品第三弾というべきこの作品。
あの全シリーズ屈指の問題作として未だに語り継がれる、『ウルトラマンエース』(72年)第4話「3億年超獣出現!」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060528/p1)において漫画家・栗虫太郎(くり・むしたろう)を演じた、清水紘治(しみず・こうじ)氏をゲストに迎えることによって、その放送前から多くのファンの期待と注目を寄せられることとなります。
実際、「記憶を無くした青年」や「人形」といった様々な謎と魅力に満ちたギミックが豊富に存在するこの回は、つまるところ、一人の「劇作家」が「錬金術」をもって「現実」を「舞台」として自作自演した、巨大な「芝居」というわけで、その時点においてすでに「夢」と「現実」が交錯する「空間」と「世界」に異様なまでの説得力が与えられることとなります。
そのため、「花」や「夢」の時点では、いささか強引かつ鼻に付いた感じの強かったその舞台劇感覚も、今回においては作風とテーマにおいて完全にマッチしているといった感じです。
(また、効果音以外の一切のBGM使用を禁じてしまったことも、そうした独特の作風に更なる妙味を加えており、エンディング曲の「ULTRA HIGH(ウルトラハイ)」(ASIN:B000064CCG)についても、あたかもTVアニメ『少女革命ウテナ』(97年)のバトルシーンで毎回流れる歌曲「絶対運命黙示録」(ASIN:B000058A7S・ASIN:B000BKJHMQ・ASIN:B001AAZ3V0)を連想してしまったくらいです)
(編:「絶対運命黙示録」も元々は、はてなダイアリーのキーワード辞書によると、『故寺山修司の舞台音楽を担当していたJ.A.シーザー主催の「演劇実験室◎万有引力」による公演作品「カスパー・ハウザー―人間の謎への序章、あるいはわたしのモーシェのために―」(1995年)での劇中歌』だったとのこと。奇しくも、カスパー・ハウザーと縁がある歌曲を執筆者は連想されている)
だからこそ、この回における、自分にとっての真のハイライトは、なんといっても「夢」と「現実」の交錯する戦いによる疲れのためか、今にも眠りにつこうとするかのような、ラストのアスカの場面です。
「この世界においては、TPCもスーパーGUTSも存在しない」
そうだ。「奴ら」はそう言った。
だとすれば、このまま眠りに就いて再び目覚めたときに、この「世界」は存在しているのだろうか?
ひょっとしたら今見ているこの風景もただの「夢」でしかないのだろうか?
「知るもんか。とにかく俺は今眠いんだ。そのときはそのときだ。俺は寝るぞ」
そう。これこそが正に「アスカ」であり『ダイナ』なのです。
少なくとも私個人にとっては。
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