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仮面ライダークウガ 〜前半合評5 周辺事情 & 敵怪人考察


『仮面ライダークウガ』評 〜全記事見出し一覧
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『仮面ライダー』シリーズ評 〜全記事見出し一覧


(2000年7月執筆)

仮面ライダークウガ 〜前半評10 仮面ライダークウガとその周辺事情

(文・森川由浩)
 『仮面ライダークウガ』(00)がスタートして半年が過ぎた。
 11年振りのテレビシリーズと言うことで盛り上がりを見せているが、何度もリバイバルされている過去の「仮面ライダー」とは周囲を取り巻く事情が大幅に変化している。
 そして何より旧来の「子ども番組」という概念では括れない幅広い層の好評を得ることに成功しているのが特徴である。
 作品にあらゆる面からの考察を試み、その魅力の要素や、そこから来る変化を分析して、今の特撮番組を取り巻くもの、または放送界、テレビ界の変化を考えてみよう。

☆ 復活路線の宿命と原点回帰の要素

 過去のヒーローのシリーズを名乗った限り、その先人の呪縛からは逃れられない。「仮面ライダー」(71)はもとより、「ゴジラ」(54)、「ウルトラマン」(66)、「機動戦士ガンダム」(79)、「宇宙戦艦ヤマト」(74)等々……。
 元祖となるオリジナルとの比較を自然に強(し)いられ、オリジナルからかけ離れたものは駄作扱いされ、オリジナルのスピリッツを守り、イメージを崩さないものは評価される。
 そのため「仮面ライダー」も何年かの休息の後、新シリーズがスタートする時は、必ず原点を強く意識した作品となり、特に「改造人間の悲哀」「怪奇アクションドラマ」を必須条件として製作、他作品との差別化に尽力した。


 今回の『仮面ライダークウガ』は「改造人間の悲哀」という、かつて原作者・石ノ森章太郎が漫画『サイボーグ009(ゼロゼロナイン)』(64)の地下帝国ヨミ編(66)で明確に描いた、008がギルモア博士に再改造され、水中活動強化用に首から下に施されたウロコに覆われた人間離れした外観を嘆く描写に端を発する、「人間でなくなった者の悲しみ」の要素。
 その「石ノ森らしさ」の一つの特徴を代表する要素がオミットされているところに、原作者不在の中新たなる「仮面ライダー」を製作する意欲が伺える。
 原作者が描く、作者の意図を最も投影したコンセプトを削ぎ落とすところから新時代のヒーローは誕生した。


 そこで考えてみよう。「仮面ライダー」を評価する際、「改造人間の悲哀」を持ち出して評価するのはマニア層が中心だ。
 一般層はヒーローとしてのインパクト、キャラクター性、デザイン、アクションを中心に評価したり、持ち出したり、懐かしんだりする。
 その「一般層」が評価する点を「原点」とし、その要素はきちんと押さえた新作を登場させた。


 「原点」の要素は一つではない。
 そのもう一つの要素を重視した、新たなるライダーが『仮面ライダークウガ』である。それが故に一般層にも支持されているのだ。


 そこで一つ思い出したものがある。
 朝日ソノラマの漫画単行本レーベル・サンコミックスから石ノ森章太郎の特撮ヒーロー原作漫画「仮面ライダー」(ISBN:4257960116)「変身忍者 嵐」(ASIN:B00007CDJP)「人造人間キカイダー」(ISBN:4257960310)「ロボット刑事」(ISBN:4257960396)「イナズマン」(ISBN:4257960302)「秘密戦隊ゴレンジャー」(ISBN:4257960434)をはじめとする各漫画家による往年の懐かしヒーロー漫画が再刊(84〜85)された、何度目かの再販ブームがあった(ちょっとした規模の本屋ならば書棚の一角を占めていたものだ)。
 模型誌ホビージャパン」(69)増刊『Mark1(マークワン)』第2号(85年10月号・ホビージャパン社刊)でも連動して4ページにも及ぶ石ノ森章太郎(当時・石森章太郎)に対する、特撮ヒーロー原作漫画に関する長文インタビュー記事「スペシャルインタビュー・石森章太郎 ヒーロー今昔」が掲載された。
 その中で、ネクラな70年代から明るい80年代への世相の変化に関する述懐に加えて、70年代の特撮変身ヒーローの心情にあった「コンプレックス」や「人間ではない悲しみ」が、異形(いぎょう)であっても可愛らしくて愛されてしまう宇宙人を描いたスピルバーグ監督の「E.T.」(82・アメリカ)などが大衆にも大ヒットしてしまうような昨今、


 「わりと人間じゃないことへのコンプレックスが現在、もうないと思うんです」


 と作者自身、80年代中盤にその事項を確認していた点である。


 その時点で既に「仮面ライダー=改造人間の悲哀」のドラマというコンセプトは揺らぎだしていたのかも知れない。何かしら暗示的なコメントである。今思うと。

☆ 視聴率は好調と言うけれど…。

先日、視聴率が11%を突破したそうだが、この日曜朝の時間帯では今のところこれ位の数字を上げていれば及第点らしい。
 『クウガ』は平均で9〜10%(*1)で、平成ウルトラマンよりは多少なりとも数字が高いということだ。


 とはいえ、かつてこの枠では東映メタルヒーローレスキューポリスシリーズ」(『特警ウインスペクター』(90)『特救指令ソルブレイン』(91)『特捜エクシードラフト』(92))が平均で14%、最高で18%位の数字を獲得、日曜の朝8時という普通なら視聴率の取れない枠で、ゴールデンタイム(金曜夜7時半)だった東映メタルヒーローの始祖『宇宙刑事』シリーズ(『宇宙刑事ギャバン』(82)『宇宙刑事シャリバン』(83)『宇宙刑事シャイダー』(84))の数字を取り戻したことがあった。
 この時期の戦隊シリーズが関東では金曜の夕方5時半で7〜8%位だったから、その倍近い数字を獲得したということでもある。


 レスキューポリスが朝の8時で20%近い数字を取っても話題にはならなかったが、『クウガ』は10%を越えただけで話題になる。この差は何か? 作品としての知名度の差か?
 それとも時代の流れにより、テレビ全体の視聴率が著しく降下している現在の状況の尺度で数字を見るべきなのか?
 ここ10年の内に衛星放送やケーブルテレビによる多チャンネル化、低価格下によるビデオデッキの普及により(今や「一家に一台」から「一人に一台」の域に迫ろうとする)、リアルタイムで見なくても番組が容易(たやす)く見れる状態が完備、テレビ視聴の多様化は急加速した。
 この状態に従来の形式の調査方法では、視聴率の数値が高く取れる筈がない。やはりライフスタイル多様化の時代を認識させられる。

☆ どうしてテレビ朝日に移ったのか?

 『仮面ライダー』の過去のシリーズは全て関西(大阪)の毎日放送(TBS系列)で制作、放映。
 映画『仮面ライダーZ0(ゼットオー)』(93)公開時の宣伝特番(『仮面ライダーBLACK(ブラック)』(87)最終回1週後、『仮面ライダーBLACK RX』(88)放映開始1週前の回の特番「仮面ライダー1号〜RX大集合」中の「ライダー」シリーズの歴史などを流用・再編集)も毎日放送でオンエア。
 今回の新作も当初は『ウルトラマンガイア』(98)の後番組として毎日放送でスタート予定が、局を移動してのスタート。これは一体?


 平成ウルトラマンの視聴率面での不振がTBS・毎日放送側にOKを出させず、『ライダー』新作を放映しなかったということらしいが、それだけでなく、意外にも過去の旧作の放映権の話がここで出てくる。
 関東地区では『仮面ライダー』の再放送が他地区に比して、非常に少ないが、これは権利関係絡みらしい。


 今から15年位前(1985年=昭和60年頃)に一作目の『仮面ライダー』がニュープリント化され、各地で再放送されるようになったが、このとき関東地区では再放送が無かった。それで疑問を抱き、恥ずかしながら蛮勇をふるってTBSの番組編成部に電話にて質問したら、「仮面ライダーテレビ朝日さんが権利を持っていて、そこから買わないと放映できない」という返答が返ってきた。
 素人相手に適当な返答をしている可能性もあるが、もしも本当であれば、1975年4月のTV局の関東関西ネット改変・腸捻転解消(*2)で『仮面ライダーストロンガー』(75)以降のシリーズの放映権は得ていても、関東ではNET(現・テレビ朝日)で放映されていた初期「仮面ライダー」シリーズ(『仮面ライダー』一作目〜『仮面ライダーアマゾン』(74))の放映権までは得られなかったとは意外であるし、またテレビ朝日の営業面での賢さも伺える。元々TBSに「奪われた」ような形で当時の高視聴率番組である「仮面ライダー」の放映権を移された訳なのだから。
 (ネット改変以降、TBSでは79年の土曜早朝に『仮面ライダー』一作目の再放送が一度は行なわれ、テレビ朝日では初期「ライダー」シリーズの再放送が一度も無かったため正確な放映権の所在を断言はできないが、15年前の各地での再放送の先陣を切ったのはテレビ朝日系列の九州朝日放送であった)


 ならば以後のTBSに移ってからのシリーズを再放送すればという気もするが、後期の「ライダー」シリーズでは人気もさほど無く、視聴率も取れないと判断しているのだろうか?
 それよりTBSは『ウルトラマン』という大ヒットシリーズの権利を持っているから、自局TBS製作ではなく毎日放送製作の作品を借りてまで、別に『ライダー』を再放映する必要もないのだろう。
 この点から腸捻転時代の関西製作のテレビ番組の関東地区における権利関係の複雑さが伝わってくる。地方では、民放の数の少ない地区もあるから、比較的権利関係がフリーの地区もあるのだなと推測できるが。


 だからテレビ朝日が新作の「ライダー」を放映しても別に不思議ではないともいえるのだ。
 TV局のネット関連の話で紙数を費やしたが、確かに近年の復活路線に対してのテレビ局の対応のシビアさは他作品にも伺え、アニメの方では、『∀(ターンエー)ガンダム』(99)も当初、歴代ガンダムシリーズを放映してきたテレビ朝日に企画が持ち込まれたが、平成ガンダムシリーズの視聴率面での不振がOKを出させず、フジテレビに持ち込んだらOKになったそうだ。
 その他テレビ東京系で放映中の復活アニメ路線の大半が、主要4テレビ局(日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日)の作品の都落ちである点にも、近年の復活路線に対する主要4局のシビアさが反映されている。ひょっとしたら今後のウルトラマンシリーズもテレ東にいく可能性が大?

☆ 和製『Xファイル』を目指せ

 本作のプロデューサー・東映の高寺成紀(たかてら・しげのり)は「和製『Xファイル』(93・日本放映95)を目指す」とコメントした。
 が、過去の『怪奇大作戦』(68)、『緊急指令10−4.10−10(テン−フォー.テン−テン)』(72)といった円谷プロの作品が、文字通り和製Xファイルでもあった。
 本作もスローペースではあっても、捜査や発掘、発見のプロセスを丹念に見せ、リアルなSFドラマの構築に挑んでいる。


 元来ヒーロー番組の大半が破天荒な設定ではあるものの、対象年齢を上げていくためには、それを緻密な設定考証で視聴者にあからさまな嘘と感じさせないだけの奥行きが必要である。
 よくあるヒーローが最初からその名を名乗っている点の不自然さを廃するため、クウガを怪人と同様の扱いである未確認生命体4号と警察や人々に呼ばせ、敵は超古代民族で彼らの話す独自の言語「グロンギ語」が存在し、更に現実世界の接点としての警察の捜査活動とのリンク描写により、フィクションを構成する虚構の中のリアルを楽しめる仕上がりになり、年長の視聴者にも納得のいく作品世界を構築している。


 70年代中盤以降、SFアニメには「ワープ航法(『宇宙戦艦ヤマト』)」「ミノフスキー粒子(『機動戦士ガンダム』)」等のその作品独自の専門用語による、作品世界のリアリティを強調することは多々あった。しかし、過去の実写ヒーローものは意外にそれが重視されてこなかった。
 『ガンダム』にはじまる「リアルロボットアニメ」で育った「設定のディティール」を楽しむ世代のマニアのハートも本作は掴んでいるのだ。

☆ 刑事ドラマとしての『仮面ライダークウガ

 主人公・クウガこと五代雄介(ごだい ゆうすけ)の協力者が警視庁の刑事というのは、過去の『仮面ライダー』シリーズでは例を見ない。
 ただ前述の「レスキューポリス」のように本格的刑事ドラマがコンセプトではなく、飽くまで作品を彩る要素の一つに過ぎず、それが出過ぎないようにしていて、尚且つ作品世界のリアリティを保っていることにより、非現実的な変身ヒーローや怪人と現実的な警察組織とのバランスが取れた作劇になっているのは見事である。


 ただ第16話で婦警の笹山望見(ささやま のぞみ)が言った「桜井さんとか、紅林(くればやし)さんとか」の名前には思わずニヤリとさせられた。この名は東映を代表する刑事ドラマの名作『特捜最前線』(77)の登場刑事の名前であり、前者の名前には勿論(もちろん)何が言いたいかこの本の読者なら大多数の人がわかるはずだ。(*3)
 高寺は以前「マニアに向けたお遊びもあるから楽しみにして下さい」的コメントをしていたが、その一つがこれだとは……。確かに『特捜』ファンと「特撮」ファンのリンク率は高いし、予想通りのお遊びだとは思えなくもないが。


 それとこの項を締め括る上でふれておきたいのだが、一作目『仮面ライダー』初期の企画にも、殺人容疑の掛かった主人公を追う刑事のレギュラー人物の設定があった。
 考え方によってはその設定を今に甦らせて、一条薫(いちじょう・かおる)刑事に転生させたとも解釈できる。これも一つの原点回帰かも知れない。

☆ 五代雄介と一条刑事の関係

 少年時代、特に小学生時代、それも男性の読者ならば男の友情に憧れた時期はなかっただろうか。
 自分が全てを犠牲にしても大事にしたい同性の親友の存在。その男の友情への憧れを年少の児童に抱かせる作風も、男子層をターゲットにした番組には必要だ。
 特に80年代〜90年代前半の「(週刊少年)ジャンプ系作品」の「友情、団結、勝利」をキャッチコピーに掲げた時代の作品は、男子層の絶大なる支持を受けていた。
 本来、この二人の友情とはそういうものなのだ。今になってよくこの「男の友情」を同性愛にイコールして解釈する者が多いが、これも「同人(誌)文化」の一般化による弊害だろうか?

☆ ヒーローの恋の行方は?

 恋愛ドラマの要素を導入すると、作品の活性化に繋がり、特に女性層の視聴者の共感を得られるのは知ってのとおりだが、本作では一条刑事に恋する二人の女性、婦警・笹山望見とバツイチの女学者・榎田(えのきだ)ひかりの存在が、この作品の恋愛ドラマの軸であり、対する主人公・五代雄介の方にはそういう要素は見られない。
 当初はメインヒロインの考古学者・沢渡桜子(さわたり さくらこ)がその役に該当するのかと見ていたが、2000年7月現在のところそうした描写はなく、単なる協力者という印象にしか見えない。だかやがて恋に発展する可能性は大として見ている。
 雄介に恋心を抱き喫茶店ポレポレで働く少女・朝比奈奈々(あさひな なな)は、一方通行の恋だからパターン通りなら恋仲にはならないだろう。

☆ ハイビジョン映像の成果

 ビデオ作品になると、昔のフイルム作品の質感と大幅に異なるのが気に入らないと言うファンが多いが、今回はかなり健闘していると言えるだろう。
 ビデオとはいえ、近年のオリジナルビデオ版『ウルトラセブン』(98)のようにフィルム風に見せる処理をしているのでもなく、ビデオ撮りにしか見えない画面でもそんなに気にならないのだ。
 何故かと自問自答したが、それがニュースや情報番組のレポートに近い感覚で見れるからだ。


 ビデオ特撮番組の先人である『電脳警察サイバーコップ』(88・東宝)、『電光超人グリッドマン』(93・円谷プロダクション)は、どちらかと言えばドキュメンタリーやニュースというより、ビデオ映像が所詮作り物は作り物でしかないという粗を際立ててしまい、見た目ではドラマというよりも、バラエティのコントやパロディにも見えかねない点が作品を陳腐に見せてしまう結果にもなり、作品自体の賛否双方の評価はもちろんあるものの、特撮ファンの一部にビデオ映像に対する不満や不信感、嫌悪感を募らせてしまった。


 今回は作り物のドラマというのでは無く、ドキュメンタリー的に見せるということを意識してか、光線技や光線の攻撃をなるべく避け、肉弾戦でリアルなバトルを見せている点にも、ビデオ映像フォーマットのメリット・デメリットを研究し、ビデオによる特撮フォーマットを確立せんとするスタッフの意欲が伺える。

☆ ライダーの所以(ゆえん)・バイクアクション

 今回主人公が駆るマシンは、警視庁の白バイとなるべきマシンであったというリアルな存在のトライチェイサー2000(にせん)。
 それがさらにファンタジックな存在の超古代遺跡の昆虫型生命体ゴウラムの合体で誕生したトライゴウラムにもなるという設定の特異さである。
 一度合体して敵を倒したものの、元の化石状になって分離したのには驚愕させられた。ゴウラムは玩具的な存在ではあるものの、ドラマの謎をまた深めて作品を活性化した作劇は評価している。


 それとトライアル競技の一人者、成田匠(なりた たくみ)によるバイクアクションの華麗さも魅力である。本当にバイクを手足に、生き物のように操る様は過去のライダーにはない魅力の要素である。


 現時点での『仮面ライダークウガ』について気のつく点を掲げて検証した。
 視聴者の層も拡大し、昔の子ども番組の概念では視聴者を獲得できない。その中様々な魅力を取り込んで健闘している面は率直に評価したい。
 アラの目立たない映像と緻密な作品設定は一昔前では考えられない高水準の作品に結実、日本特撮を「チャチ」「アラだらけ」と酷評していた時代が過去になりつつあるのには、古くからのファンとして喜びを禁じ得ない。
 それをビデオ映像でここまでやったのには大快挙だろう。東映製作の原田知世(はらだ・ともよ)主演のTVドラマ版『ねらわれた学園』(82・フジテレビ)から18年の歳月を経て、ビデオ特撮はようやく新時代の映像技術と、それに相応しい視聴者の支持を受けることに成功したのかも知れない。


(文中敬称略)



*1
 『クウガ』は平均で視聴率9〜10%を獲得しているが、嘗(かつ)て『仮面ライダーBLACK』(87)『仮面ライダーBLACK・RX』(88)は日曜朝10時という時間帯で、尚且つ裏番組の強敵『笑っていいとも! 増刊号』を向こうに回して10%台の視聴率を獲得、大健闘していた。


*2
 1975年4月のTV局の関東関西ネット改変・腸捻転解消:大阪の毎日放送毎日新聞系列)がNET(現・テレビ朝日朝日新聞系列)系だったのは、朝日放送がテレビの放映を始めた昭和30年(1955年)当時、NETは開局していなかったため、朝日放送朝日新聞系列)とTBS(毎日新聞系列)がネットを結んだ点に起因する。そのため朝日放送はTBS系となり、NET(朝日新聞系列)開局時(昭和34年・1959年)に毎日放送は系列を結び、NET系となったのだ。
 しかしいわゆる「腸捻転」のネジレでニュース報道などの際に新聞社の系列上の弊害が出るため、昭和50年(1975年)4月1日をもって新聞社系列を統一するためのネット改変を行い調整した訳である。


*3
 『特捜』で紅林刑事に扮したのは横光克彦(現・衆議院議員)、桜井警部補に扮したのは仮面ライダー1号・本郷猛こと藤岡弘である。劇中名前のみしか出なかったが、実際の姿も見てみたいと思ったファンは多いことだろう。桜井は『クウガ』本編にも実際に姿を現したが、当然藤岡弘とは似ても似つかぬ容姿であった。実際このお遊びは、インターネット上の『特捜最前線』系のサイトでもかなり話題となった。



(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2001年準備号』(00年8月13日発行)〜『仮面特攻隊2001年号』(00年12月30日発行)所収『仮面ライダークウガ』前半合評4より抜粋)


仮面ライダークウガ 〜前半評11 解析〜グロンギ怪人研究〜

(文・鷹矢凪弥寿士)

序.概 談


 2000年1月30日、TV放映作品としては11年ぶりの、そして20世紀最後の『仮面ライダー』シリーズとなる『仮面ライダークウガ』(以下『クウガ』)が始まった〈註1〉。
 番組製作陣は従来の『仮面ライダー』シリーズに様々な異色の要素を取り入れたシリーズを目指していると見受けられ、一部ファンの間では厳しい意見もあると聞くが、現在までのところはマニア系に留まらず一般のファンにも概〈おおが〉ね好評のようで、斯〈か〉く申す筆者も毎週楽しみに見ている。


 語りたい部分はいろいろあるのだが、今回はテーマをクウガの宿敵たる怪人=“グロンギ”に絞り、その特徴・魅力・側面などについて、第21話までの番組視聴及び2000年6月末現在までに発行された『クウガ』関連書籍の記述に基づき、自分なりに解析していきたい。
 暫〈しば〉しのお付き合いを……。

一.邪 群

 “グロンギ”は『仮面ライダー』[71]のショッカーに端を発し『仮面ライダーBLACK・RX』[88]のクライシス帝国に至るまでの『仮面ライダー』シリーズに登場した、いわゆる《悪の秘密結社》を踏襲していると思われるが、画面を見る限りあまり《結社》や《軍団》或いは《組織》という印象を受けない。
 寧〈むし〉ろ《集団》または《群族》という呼称の方が相応しい気がする。


 “バラのタトゥの女”〔演:七森美江〕の元に一応まとまってはいるものの、統率は取れていないように思える。一定の掟は存在するようだが《統率》というよりも《恐怖による束縛》という状況をより強く醸し出している。
 また根拠は後述するが「一匹狼が偶々〈たまたま〉群れを成している」という雰囲気が強い。その意味では『仮面ライダーV3』[73]後期のデストロンにおけるキバ族・ツバサ族・ヨロイ族らの結託部族や『仮面ライダーアマゾン』[74]前期のゲドンなどに近いだろうか。
 いわゆる戦闘員の類が一切登場していない点もその証明であり、その部分で既に過去の悪組織とは一線を画していると言えよう。これは同時に、クウガと怪人の一騎打ちにストーリーを費やせるという利点も在るのだが。


 更に幾つかの集団が存在し、しかもランク付けがされているようだ。
 まず“ズ”集団、その上に“メ”集団が存在することが確認されている。そして第20話では更にそれを越えるらしい“ゴ”なる集団の存在も彼らの口から語られた。さりげなく奥の深さをアピールする演出は見事と言えよう。


 もう一つ見逃せない特徴として“グロンギ語”なる独自の言語を使用していることが挙げられる。
 従来の悪組織では、怪人は時折奇声をあげる〜元となる生物の鳴き声などをもじった〜ことはあったが、一部を除き基本的には人間語を使っていた。例こそ希少だが基本的には人語を発せず鳴き声のみだった『仮面ライダーBLACK』[87]のゴルゴム怪人も然りである。


 しかし“グロンギ語”は人間語をかなり強烈に崩した印象で、実に奇天烈で滑稽だ。世代人の方々なら嘗てタレントのタモリ氏が駆使した“ハナモゲラ語”或いは若い方々なら昨今の“コギャル語”を思い起こされただろうか。
 しかし“グロンギ語”は滑稽な分、却って彼らの不気味さを増幅する効果がある。とはいえ全くの意味不明なものではなく、ちょっと耳の肥えた人なら多少は想像がつくものである。


 例えば第6話・第8話でズ・バヅー・バ〔演:小川信行〕やメ・バヂス・バ〔演:河合 秀←『忍者戦隊カクレンジャー』[94]のニンジャイエロー=セイカイが懐かしい〕がクウガに『命拾いしたな』と推測される捨てセリフを吐くシーンが在った〈註2〉。
 また第11話ではズ・ザイン・ダ〔演:野上 彰〕の独断専行を知り気がはやるメ・ビラン・ギ〔演:大橋寛展〕を、“バラのタトゥの女”が敢えて覚え始めた人間語でたしなめるシーンなどもあり、意外と柔軟なようである。
 尤〈もっと〉も、年少の視聴者には判り辛かったためか、最近では人間語の使用率の方が高い。それはそれで良いのだが。

二.潜 在

 グロンギ怪人は人間〜彼らの言葉でいう“リント”〜の殺戮及びそれを妨害するクウガの孅滅以外明確な作戦行動を取らず、基本的には単独で活動している。
 第7話でズ・ゴオマ・グ〔演:藤王みつる〕がバヂスの足を引っ張る隙を狙うかの如く監視するなど例外は有るが。最終目的も世界征服なのか人類絶滅なのか、未だはっきりしていない。


 その殺戮活動は一見無軌道かつ無目的だが、第13話・第17話でビランとメ・ガドラ・ダ〔演:西川義郎〕がそれぞれ申請したように、“バラのタトゥの女”の認可を受けた上で一定時間に一定の人数を殺す――という決め事もありそうだ。
 その殺戮はかなり獰猛かつ残忍で、しかもいつどこからやってくるか判らないため“リント”にとっては充分過ぎるほどの恐怖となり得ている。更に彼らの殺戮には“殺戮”そのものへの享楽すら垣間見られ、より慄然とさせられる。
 ショッカーやデストロンなどの“殺戮”に比べれば表現的には幾分ソフトになってはいるが、それでも視聴者にかなり恐怖感を与えている。


 少々脱線するが、近年、特に若い世代が起こす陰惨な事件が相次ぎ、筆者も心を痛めている。それも一重に他人の痛みや恐怖を理解しない連中に因〈よ〉るものが多く目に余る。またそれに対し「(本作のような)ヒーロー番組の暴力シーンがそうした事件を助長しているのでは」という御門違いな批判も後を絶たない。
 寧ろ筆者はそういうシーンをこそ子どもたちに見せ、“痛み”や悪事への報いを教える必要があると思う。無論その場合、親や先生など周囲の大人の補助的“教育”も必要となるが。それでも尚、他人の痛みや恐怖を理解しない不心得な外道連中は……やはりグロンギに抹消してもらうしか無いかも知れない〈註3〉。


 また自動車の騒音や煙を嫌悪するザイン(第3・11話)のように人類文明に敵意を示す一方でそれなりに興味も抱いているらしく、第3話でズ(第13話よりメ)・ガルメ・レ〔演:森 雅晴〕が雑踏を行く人々の服装を、バヅーが人々の金銭使用を各々〈おのおの〉面白そうに眺める描写は眼を引く。また第15話ではメ・ギャリド・ギが、貝の代わりにトラックに潜り込んで悦に入るシーンがある。結構好奇心は旺盛なようだ。


 さて明らかに人間を遥かに凌ぐ能力を持つ彼ららしからぬ、単独活動やアジト転向の理由は何だろうか。これは筆者の推測だが、超古代に先代クウガに封印された時を教訓として、いざという時の“リント”の底力、団結力に潜在的な恐怖を持っているからという気がする。
 或いは未知の《文明》に警戒をしているのだろうか。また身体的耐久力も強いが、一箇所を集中或いは限度を超えて攻撃された場合は、案外脆〈もろ〉いようにも見える。
 それでもクウガをギリギリまで追い詰める場合も多いし〜クウガがまだ戦い慣れしていないせいも有るのだろうけど〜彼らが本気になって襲撃してくれば“リント”など物の数ではないのかも知れないのだが。

三.陰 魔


 グロンギ怪人は、作戦に応じてのみ人間体になったこれまでの怪人とは逆に、普段から人間の形態を取っていることが多い(ズ・グムン・バなど、画面には現われていない人間体もあるが)。但しそれが彼らの本来の姿であり怪人としての力は後から与えられたものなのか、それとも怪人の姿が本体で人間体は擬装に過ぎないのか、その点は今のところ判明していない。
 設定通り彼らが地球の先住民族ならば、何らかの方法で他の生物の生態や能力を自分たちの体に取り入れる技術を持っていた――という考え方も可能なのだが。
 彼らの服装はありがちなパンクロッカー風で、見るからに怪しい。と言ってもライトノベルスレイヤーズすぺしゃる』第1巻・第2話『りべんじゃあ。』(←誤植に非ズ)他に登場した“千の偽名を持つ魔道士”〈註4〉の如く「まるっきり『おれはあやしいぞぉぉぉっ!』と絶叫しているよーなもんである」(←リナ・インバース談)というほどではないけれど(笑)。だがそれ故日常に溶け込み易く、隠れた脅威を暗示する。


 衣装を含めたそれぞれの風貌も、タトゥをワンポイントにモチーフとなる生物を連想させる部分が強い。特にメ・ギイガ・ギ〔演:白井雅士〕は銀のとんがり帽子と衣装でピエロ的だが、いきなり水中から襲う性質も相俟って得体の知れなさを打ち出している。
 ザインやズ・メビオ・ダ〔演:白鳥智香子〕も血の気の多さを感じさせる。このふたりを演じられた野上・白鳥の両氏がプロレスラーという事実は後で知ったが、それも納得できる(誉めてるので念のため)。


 怪人としてのフォルムはショッカー怪人に近いが、程好くアレンジが成されている。ただ戦法はどちらかというとゲドンの獣人(『アマゾン』における敵怪人)連を思わせる。鎧〈よろい〉のような無機質さを取り込んでいる辺りは『仮面ライダーX』[74]前期のGOD〈ゴッド〉神話怪人を連想させる。
 それらの特徴が巧みにミックスされ“グロンギ怪人”を造り出している――という趣〈おもむき〉である。


 各人の武器たる特殊能力も、火を吐いたり電撃を出したり――といったサイボーグ的なものでないし、ゴルゴム怪人のようにモチーフからかけ離れた能力でもない。
 モチーフとなる生物の機能をグレードアップした能力を発揮するのが主である。猛スピードで疾るメビオ、驚異的なジャンプ力やキック力を誇るバヅー(素速い動きを連想させる『ズバズバ』という擬音をもじったネーミングも秀逸)、高空から針を撃ち込むバヂス……etc.中でも爆発力を持つ墨状の物質を吐くギイガのアイデアは秀逸だ。
 しかも画面上は登場していない怪人=未確認生命体第7〜13号及び第15〜20号〈註5〉の存在も暗示され、グロンギのみならず『クウガ』物語世界の広がりや奥行きが感じられるのも流石〈さすが〉である。


 ところで、バヅーはそのモチーフ=バッタや戦闘手段から初代仮面ライダーを彷彿させるし、マニアならば全員が気付いたことだろう。それに対し先代ライダーや石ノ森章太郎先生への冒涜ではないか……という批判も少数耳にするが、寧ろ『先代ライダーを越えてやる』という“クウガ”(番組製作陣含む)の気概や不敵さの暗喩として、筆者は素直に拍手したい。


 また「ゴオマはモチーフがコウモリである割に優柔不断なところが無い」という御意見をお持ちの方もおいでかも知れないが《コウモリ=どっちつかず》という喩えはイソップ寓話からのもので、実際はそんな生態は無いはずである。不名誉な揶揄を背負わされたコウモリくんやゴオマさんこそ、いい迷惑だろう(笑)。
 そんな中で特に興味深いのは、やはりメ・ガルメ・レだろう。第7話では仲間にラジオを見せ「未確認生命体……オレたちのことさ」と笑いながら解説(?)し、第9話ではなかなか出番が来ず苛立つザインをわざと“リントの言葉”を以て「ルールはルールだ」と牽制する態度に、順応性の高さが窺える。
 反面第13話ではゲームの権利を失ったゴオマを、自らの昇格〜画面に現われない部分で手柄を立てたらしい〜を誇示しつつ嘲笑する辺り、陰険さと不遜さが覗く。モチーフがカメレオンだからでもないだろうが、なかなか柔軟な知恵を持つ変幻自在の奴である。
 クウガとの決着も近そうだが、実力と地位を二分するメ・ガリマ・バ〔演:山口涼子〕共々、その暴れっぷりに注目したいところだ。

四.軋 轢


 先述の通り、グロンギ怪人は必ずしも組織立ってはいない。彼らのボスと思しき“未確認生命体第0(ゼロ)号”には忠誠を誓っているようだが、それぞれの関係は決して良好ではない。“バラのタトゥの女”を別格に、己れの保身と昇格しかその視野・目標には無いようである。
 ザインやゴオマのように、彼ら独自のルールにすら常に不満を抱き、場合によっては抜け駆けを図る者すら居る始末である。第7話でのビランとザインの一触即発状況や、第15話においてギャリドが「恥ずかしいぞ、リントの造ったもの(筆者註=トラック)に入って」とからかうゴオマに「これはこれで良いんだ!」と言い返すシーンなどはそれを顕著に表わしている。
 ゲーム参加の資格を喪失したゴオマも巻き返しを狙っているのがアリアリだし、表面上は穏健派のガルメも、その実伸し上がろうとする野心が見え隠れする(第13・20話など)。
 これほど結束力の薄い敵チームも『仮面ライダー』では珍しい。強〈し〉いて言うなら『仮面ライダーストロンガー』[75]後期のデルザー軍団が最も近いだろうか。
 その仲間意識の希薄さを上手く突けば、クウガや“リント”にも勝ち目は在ろう。但し、それでいていざとなれば案外団結してくるかも知れないので、油断は出来ないが。

五.忌 称


 グロンギ怪人の名前は“ズ・バヅー・バ”のように3つの部分に分けられる。
 ファーストネームは先述のように集団名。ミドルネームはモチーフの生物をもじった固有名であることは明白だろう。
 では、ラストネームは何だろうか。筆者が考察したところでは、モチーフである生物の種類・棲息場所を表現していると推測される。現在までに出現〜画面未登場のもの含む〜している限りでは、以下の通り分類されると思われる〈註6〉。


“バ”=昆虫またはそれに近い節足動物
“ダ”=陸棲哺乳類
“レ”=陸棲爬虫類
“グ”=鳥類或いはコウモリなどの飛行能力を持つ哺乳類
“ギ”=魚・貝類、或いは水棲哺乳類
“デ”=植物及び菌類


 この他にも、まだ登場していないタイプの怪人が存在するかも知れない。例えば、霊長類タイプの怪人は“ダ”ではない名を持つとも思えるし、アメーバなど単細胞生物の怪人も居る可能性もある。
 またもし亀の怪人が居るなら、ゾウガメのような陸棲亀と、タイマイのような水棲亀との二種類が現われることも考えられよう。
 それらまだ見ぬグロンギ怪人について想像を巡らせてみるのもまた一興だろう。

六.妖 花


 さて、現在までのところグロンギに関して最も興味深い存在が“バラのタトゥの女”であることは念を押すまでもないだろう。
 『RX』の女幹部マリバロン〔演:高畑淳子〕にも迫るその妖艶な雰囲気、及びそれとは裏腹の怪人たちを圧倒する貫禄は、相当のものと言える。失礼ながら演じる七森氏はあまりキャリアは長くないようだが、にも拘らず静かな威圧感を漂わせるたたずまいは結構凄い……と筆者は感じる。
 立場的には従来のライダー敵組織の幹部を踏襲しているが、他の怪人たちが彼女に対し余り尊敬する態度を見せず〜それなりに畏怖はしているようだが〜ある意味渋々従っている感が強いことから、〈司令官〉というよりは〈まとめ役〉というイメージを受ける。


 敢えて近い立場の存在と言えば『ストロンガー』後期のデルザー軍団におけるジェネラルシャドウ〔声:柴田秀勝〕だろうか。それでもズ・メ始め怪人集団を統率する役割を担っていることは確実。
 それは牙のような形の指輪を怪人たちのベルトの紋章に当てる(第5・7・13話他。怪人の戦闘態勢を整え、戦闘意識を高める儀式のようなものか?)仕種からも見て取れる。
 そして、怪人たちの態度から〜これは筆者の勝手な憶測だが〜、“第0(ゼロ)号”の妻、或いは愛人なのでは? という気もする。
 第3話や第21話でゴオマを折檻した際の腕の変形から、これまでの例に倣〈なら〉い正体も多分怪人だろう……と推察できるが、先述の意味からもストレートにバラの怪人ではなく、バラと幾つかの生物の融合という可能性もある。


 そして遂に第20話ではその名の一部“バルバ”が他のメンバーの口から語られたことから、いよいよその全貌が明かされる日も近そうだ。いずれにせよこちらの意表を突く実体を期待したい。

七.黒 幕


 そして“バラのタトゥの女”とは別の意味で特に興味深い存在が“第0号”ことグロンギの首領(仮称)だろう。今のところその正体は全く謎に包まれているが、知能・戦闘能力・残忍性・カリスマ性など、全ての怪人を凌駕する存在であることは間違いあるまい。
 ただ『クウガ』という作品の性質や方向性から、宇宙生命や『仮面ライダーZX(ゼクロス)』〈註7〉[84]のバダン総統〔声:納谷悟朗〕のように《悪意の集合体》などといった象徴的な存在、もしくは巨大な心臓だった『BLACK』のゴルゴム創世王〔声:渡部 猛〕のような人間の一部を誇張した姿である可能性は低い。
 やはり怪人なのかも知れないし、またその方が自然だろう。で、その実体だが……クウガのモチーフがクワガタムシというところから、その永遠のライバル(?)と目されるカブトムシモチーフの怪人なのでは? と筆者は考える(半分は願望だが)。或いは百獣の王ライオン、または過去地球に存在した中で最強の生き物として、ティラノサウルス或いはマンモスゾウという予想もできよう。無論そうした予想を覆す正体も大歓迎なのだけど。

結.展 望


 以上、グロンギ怪人を中心に『仮面ライダークウガ』の特徴及び賛辞を述べさせて頂いた。
 グロンギ怪人は怪奇性を背負いつつもどこか愛敬のあった従来の怪人連とは異なり、こちらの感情移入を撥ねつけるようなクールさに満ちている。それでも筆者などは、これまで語ってきたように、彼らについてひと味違った面白みを見い出しているのだが、皆様は如何〈いかが〉だろうか。


 ここで改めてお断りしておくが、本文では解説の必要上従来の『仮面ライダー』シリーズに登場した組織や怪人を幾つか例示させて頂いたけれど、それらの組織や怪人、ひいては作品自体を落としめ、殊更『クウガ』を持ち上げる意図は毛頭無い。あくまで説明を容易にするための方便である。
 筆者自身はこれまでの組織や怪人群にも、それぞれの特徴や面白さが有ると思っているし、また各々に愛着も感じている事実を強調しておく。それでも不快を感じられた読者諸賢には、この場をお借りしてお詫びするしか無いが。



 さて『クウガ』もシリーズ後半に突入し、クウガの新変身やグロンギ新種族など、燃える要素が目白押しのようだ。佳境に向けて様々な展開を期待したい。


【2000年7月1日】



〈註〉
1 但し筆者の在住する静岡県では、2/6の開始でネット一週遅れの日曜朝7:30放映となっている。


2 ニュアンス的には違うかも知れないが、第9話でもギイガがこれに近そうなセリフをクウガに向けて残している。


3 暴言は承知だが、本当にそう言いたくなってしまう輩が多過ぎる気がするのだ。


4 文字通り“千の偽名を持つ魔道士”。キャニーという少女の兄を殺した際リナの名を名乗ったため、リナはキャニーに仇呼ばわりされ襲われる。その後誤解は解けるが……。当人は雄羊の頭蓋骨(!)を被り真っ黒いマントを羽織った、確かに見るからに怪しい姿。本名は不明。


5 詳しくは『仮面ライダークウガ超全集』上巻を参照されたい。


6 逆に先代『ライダー』では、仮面ライダーストロンガー=カブトムシや仮面ライダースーパー1(ワン)(81)=スズメバチなど嘗て敵だった生物を主役ライダーのモチーフに据えているくらいだから、そう目クジラ立てることは無いと思う。


7 厳密にはこのタイトルではないが(TVタイトル『10号誕生! 仮面ライダー全員集合!!』)、便宜上こう記させて頂いた。御了承を。


※ 文中、『仮面ライダークウガ超全集』上巻(小学館/刊・00年・ISBN:4091014739)・『宇宙船』91〜92号(朝日ソノラマ/刊・00年冬号〜初夏号)・『電撃特撮通信』2号(メディアワークス/刊・00年・ISBN:4840214662)・『スレイヤーズすぺしゃる』第1巻(神坂一富士見書房・刊)・オールジャンルTV評同人誌『SHOUT!』21・22号(00年)の各誌を一部参考にさせて頂きました。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2001年準備号』(00年8月13日発行)〜『仮面特攻隊2001年号』(00年12月30日発行)所収『仮面ライダークウガ』前半合評10より抜粋)


仮面ライダークウガ 〜評EXTRA1 混迷〜グロンギ怪人研究・中盤編〜

(文・鷹矢凪弥寿士)


 2000年12月現在、いよいよ物語が佳境を迎えつつある『仮面ライダークウガ』[00](以下『クウガ』)。
 『假面特攻隊』2001年準備号に執筆させて頂いた『解析』(編:直上記事)に続き、今回も“グロンギ”に絞り、第21〜39話の番組視聴及び2000年12月上旬現在までに発行された『クウガ』関連書籍の記述に基づき、自分なりに解析していきたい。暫〈しば〉しのお付き合いを……。
 尚、今回は執筆時間その他の事情により、一部話数並びに俳優名に調査が及ばなかったことを、お詫びすると共に御了承願いたい。


 第21・22話で遂に本格的に動いたメ・ガルメ・レ〔演:森 雅晴〕の口より、“グロンギ”の人間殺害の目的が、文字通りただのゲーム〜彼らの言葉で言う〈ゲゲル〉〜に過ぎないことが判明した。
 逆に言えばただそれだけのために、人間の及ばぬ特殊能力を使っているわけであり、世界征服などという俗っぽい〜飽くまで一般論だが〜野望を(今のところ)示さない辺り、褒めてはいけないのだろうが、或る種潔〈いさぎよ〉さすら感じる。


 ガルメに関しては、前回順応性の高さ及び陰険さと不遜さについて解いたが、その〈ゲゲル〉の手段は“姿を隠して舌で獲物を襲い、絞め殺す”という狡猾かつ陰険なものであり、ある意味彼に相応しかろう。
 だがズ・ザイン・ダ〔演:野上 彰〕やズ・ゴオマ・グ〔演:藤王みつる〕を嘲笑したその自信とは裏腹に、クウガには割とあっさり倒されてしまった。彼の手段は基本的に影から狙うもので、腕力は脆弱だったためのようだ。


 対照的にメ・ガリマ・バ〔演:山口涼子〕は巨大な鎌を振るうだけあって腕力は相当強いらしく、クウガの強化バイク・トライゴウラムの突進をも跳ね返した。
 更に既に自分が“ゴ”集団に昇格することを意識・確信してか、“ゴ”集団と同様一定時間で一定の人数を、それも自分で決めた条件で殺害するという行動に出た。ガルメに劣らない自信の程が窺える。



 さて、第23話より“ゴ”集団が台頭してきた。彼らの行う〈ゲリザギバス・ゲゲル〉(セミ・大なるゲーム、か?)は、先述したように一定時間(または一定範囲)で一定の人数を、しかも自ら定めた条件下で殺害する形を取ることが、これまでの物語で明らかになっている。
 また彼らは“ズ”・“メ”集団とは違い手持ちの武器を使って殺戮を進める。ゴ・ブウロ・グは吹き矢、ゴ・ベミウ・ギは超低温の鞭、ゴ・ガメゴ・レは鉄球、ゴ・ジャラジ・ダはダーツ、ゴ・ザザル・バは強酸を帯びた爪……という風に。
 しかもそれは〜メ・ギャリド・ギ〔演:石橋 直〕が乗ったトラックのように〜決して自己の非力を補うものではなく、モチーフとなる動物の特徴を上手く形にし、彼らの能力を最大限に活かし、尚かつ確実に獲物を仕留めるために必要なものである事実が、画面で示される状況からも明らかである。


 これまでの極めつけと言えば、やはりゴ・バダー・バ〔演:小川信行〕であろう。“バギブソン”なるバイク(!)を縦横無尽に乗り回し、しかも「バイクに乗っている者を叩き下ろし轢き殺す」という壮絶な手口に戦慄させられた。
 これは誰もが考えるだろうが「ライダー」シリーズに幾人か登場した“偽仮面ライダー”のグレードアップ版という印象で、人によっては初代『仮面ライダー』[71]や原作者・石ノ森章太郎先生への冒涜ではないか……という批判も出ようが、筆者は敢えて今一度言う。
 『先代ライダーを越えてやる』という“クウガ”(番組製作陣含む)の気概や不敵さの暗喩と褒めるべきだ、と。クウガとの激突も併せ、筆者などは痛快さすら覚えたほどだ。真似るだけがオマージュではない、目標たる相手に正面からぶつかって越えることも、敬意の現われなのだ。


 まぁ殆どのマニアはバッタモチーフでマフラーを付けてバイクに乗る怪人の登場に良くも悪くも大喜びしていたのが真実だろうから、気張って主張するほどのことではないだろうが。
 また同じくモチーフがバッタであるズ・バヅー・バ(第5・6話)の双子の兄という泣かせる設定もあるが、こちらはあまり前面に出なかったのが残念と言えば残念。


 前後するが、ジャラジの卑劣にして悪辣な〈ゲゲル〉も憤慨もので、これはクウガに徹底的にぶちのめされても文句の言えないところだろう。


 そして“ゴ”集団怪人の人間体時の服装も、ありがちなロッカー風だった“ズ”・“メ”集団と違い、より一般市民に近い形になっている。
 これは“ゴ”集団がより理知的な能力を具えること、“ズ”・“メ”より遥かに手強い事実を暗示しているのだろう(その点、ザザルのヤンキー(不良)然とした風貌や言動は、却って異彩を放っていた)。


 また“ゴ”集団出現以来、“ヌ”・“ラ”なる集団も存在することが判り、いよいよ“グロンギ”の奥の深さも本格的になってきた。
 ヌ・ザジオ・レ〔演:高月 忠〕は“ゴ”集団が〈ゲゲル〉で使う武器を製作すること、ラ・ドルド・グ〔演:婆裟羅天明〕は怪人が殺した人数を確認するのがそれぞれの役割で、〈ゲゲル〉には直接参加せず怪人体も今のところ明らかではない。
 地位的には“ズ”より低いかと思われるが、〈ゲゲル〉に不可欠な存在ならば、意外と隠れた実力者なのかも知れない。


 殊〈こと〉にドルドはモチーフが不明なこと(ドラゴン? 架空の生物だが)や、フードを被り顔も殆ど判らず、言葉もあまり喋らないことや配役〜婆裟羅氏は周知の通り2000年3月上映の映画『ウルトラマンティガ THE FINAL ODYSSEY(ファイナル・オデッセイ)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19961209/p1)で超古代のウルトラマンの同族、闇の巨人・ヒュドラを演じられた〜から、筆者などは彼こそ首領と推測されている“未確認生命体第0(ゼロ)号”ではないか――と想像した程である。


 最近の展開を見ていると、残念ながら見当違いのようだが……。それはともかく、彼らの正体にも注目したい。


 さて、いよいよ“未確認生命体第0号”も姿を見せ始めた。
 “バラのタトゥの女”〔演:七森美江〕の言葉によると“ダグバ”がその名の一部であり、しかもそれは《究極の闇をもたらす者》を意味するらしいのだが……。


 それに伴い、見え隠れしていたゴオマの叛意〈はんい〉も遂に表面化し、謎の破片を体に埋め込んだことで強力になった彼は、クウガをも軽く退け“ダグバ”に挑む。


 「デゼボギ・ダグバ! ゴラゲゾ・ボソグ!!(出て来いダグバ! お前を殺す!!)」(第39話)


 だがそんな彼ですら“ダグバ”の足元にも及ばず、敢え無く返り討ちに遭い果てた。
 この事実からも“ダグバ”の底知れぬ恐ろしさが覗き、ますます興味津々である。前回その正体を「カブトムシモチーフの怪人なのでは?」と筆者は予想したが、ゴ・ガドル・バの登場を考えると、その可能性は無くなった。となると……?


 更にクウガの究極体=アルティメットフォームとは、実は“ダグバ”であり、それは或いはクウガが闇に囚われた姿ではないか……という不吉な予想も成り立つ――と指摘されたファン諸氏もおいでと聞く。願わくば、その予想が外れていることを……。


 そして〈ザギバス・ゲゲル〉とは……ゴオマの行動を考えると《“ダグバ”を倒し次の“グロンギ”の支配者となる者を決める》ためのものではないか、と思える。
 そして“バラのタトゥの女”=“バルバ”はその審判役であり“ダグバ”に尤〈もっと〉も近しい存在であることは間違いないようだ。
 果たしてその真相は……?


 以上、グロンギ怪人を中心に『仮面ライダークウガ』中盤編の感慨・解析を述べさせて頂いた。『クウガ』も終盤戦、“グロンギ”のみならず如何なる展開、そして終焉を迎えるか、様々な意味で目が離せない。期待と不満に苛まれつつ、最後まで視聴してゆきたい。そして完結の暁には、“グロンギ解析”の完結編を書いてみたく思う。


 「デパ、ラザギズメ……」


【2000年12月7日】


※ 文中、『仮面ライダークウガ超全集』上・下巻(小学館/刊・00年・ISBN:4091014739ISBN:4091014747)・『宇宙船』91〜93号(朝日ソノラマ/刊・00年冬号・初夏号・盛夏号)・『電撃特撮通信』3号(メディアワークス/刊・ISBN:4840216053)の各誌を一部参考にさせて頂きました。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2001年号』(00年12月30日発行)所収『仮面ライダークウガ』後半合評6より抜粋)


仮面ライダークウガ 〜評EXTRA2 クウガ不良視聴者の戯言

(文・仙田 冷)


 本誌主幹のT.SATO氏より、「クウガについて何か書け」との事。
 しかし小生、実は視聴が目茶目茶遅れ倒してて、最早順調に遅れているなどと言うレベルではなくなっている。というわけでここでは、本作を見ていてふと浮かんだ疑問について書いてお茶を濁す事をお許しいただきたい。


 疑問その1。
 小学館から発売された『仮面ライダークウガ超全集』(00年)を読んでて知ったのだが、本編未登場の敵怪人こと未確認生命体が結構いるようだ。道理で10番台がごっそり飛んでると思った。視聴者的には、文字通りの「未確認」生命体だ。


 で、私が知る限り、本編で彼等が起こした事件については余り言及された記憶がない。
 お陰で、ズからメへの主力集団の交代劇とか、カメレオン種怪人ズ・ガルメ・レのメ集団への昇格など、少なくとも本編での初見の時点では結構唐突な印象の展開が幾つかある。グロンギ語で状況説明されてもさっぱりわからないし。余談だが、ズ時代のガルメが一番目立ったのが変身スーツのCMというのも何だかなぁ。


 それにそういう事を抜きにしても、名前だけで姿が出てこない怪人がいるというのは、メニューにある品が置いてなかったみたいで、どうも落ち着きが悪い。
 個人的には、警官隊との交戦中に謎の自爆を遂げたというネズミ種怪人ズ・ネズマ・ダとか、ライダー怪人としてはかなり珍しい(と言うか、前例がない?)モチーフを採用したメ集団の三怪人、キツネ種怪人メ・ギネー・ダ、ウサギ種怪人メ・ウザー・ダ、ペリカン種怪人メ・ガベリ・グあたりに興味を引かれるのだが、本編でフォローされる事は……ないのだろうな、多分。


 疑問その2。
 大した事ではないのだが、何故東京から地方に疎開しようという動きがないのだ?
 地方の小学校で「東京にはなるべく行かないように」というお達しが出るくらいなら、逆に『仮面ライダーBLACK』(87年)の終盤みたいに、東京脱出の動きがあってもいいように思うのだが。
 普通のヒーロー物なら別に気にする事もないのだろうが、本作の場合リアル志向の作風なだけに、妙に気になってしまうのだ。


 まあ私の場合、前述の通り未見の話数もかなりあるので、そこで何か言及があった可能性もあるのだが、いかがなものか。
 取り敢えずはそんなところ。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2001年号』(00年12月30日発行)所収『仮面ライダークウガ』後半合評3より抜粋)


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