忍風戦隊ハリケンジャー 〜後半評1
(文・久保達也)
もう何が起きても驚かへんでぇ〜!
英語と野球と三味線を操る全くもって正体不明の6人目の戦隊ヒーロー・シュリケンジャーの登場により、私はおぼろ姉さんのごとく
「もう何が起きても驚かへんでぇ〜」
との心構えで『忍風(にんぷう)戦隊ハリケンジャー』(02年)を見るようになっていた。
だが、2クール目後半から3クール目前半にかけては意外や意外、毎回レギュラー人物の誰かに焦点を当てた話が連続することとなった。
思えば初めから新キャラ新メカのつるべ打ちでブッ飛ばし過ぎて、各人のキャラクターが十分に描き切れずにいた感が強く、単純に考えると順序が逆のようにも思える。
だが、先ずは徹底的にオモチャ的な魅力を強調してグイッと惹きつけておけば、子供たちが人間ドラマに入り込める余地も生まれるというものであり、むしろ理想的なやり方かとも思える。
少なくとも最初の作風が子供たちに難し過ぎて低視聴率を招いたために、あとでグッと低年齢向けに路線変更なんてことになるよりはマシなんじゃなかろうか?
肯定派も否定派も「ハードSF作品」などと誤った認識をしている『ウルトラセブン』(67年)だって、前半はむしろオモチャ箱ひっくりかえしの娯楽活劇路線であったと私には思える。
・ホラー色の強い第2話『緑の恐怖』
・宇宙怪獣エレキングVSカプセル怪獣ミクラスの本格的怪獣バトルが絶品の第3話『湖のひみつ』
・モロボシダンやフルハシ隊員に果てはケバいネエちゃんにまで変身しちゃうゴドラ星人が楽しい第4話『マックス号応答せよ』
・スーパーロボット・キングジョーが超カッコイイ第14・15話『ウルトラ警備隊西へ』
なんてあたりは明らかに「ハードSF」や「人間ドラマ編」「テーマ至上主義作品」なんかではない。
『セブン』2クール目に連打された侵略宇宙人が手下の怪獣を連れて来襲するパターンは、『帰ってきたウルトラマン』(71年)で特撮マニアには大不評でも実は最も視聴率を稼いでいた第4クール目の先駆けの路線でもある。
こういう土台を築き上げたあとだからこそ、第37話『盗まれたウルトラ・アイ』や第42話『ノンマルトの使者』に第43話『第四惑星の悪夢』あたりのアダルト路線にも、当時の子供たちはなんとかついていくことができたんじゃなかろうか
(特撮雑誌『宇宙船』での特撮ライター・金田益美氏の連載『ウルトラ・ゾーンの時代』で、『セブン』後半が「子供心にも地味だった」(大意)というリアルタイム世代による、美化・権威化に走らない貴重な証言も最近は聞かれるようになったけどね)。
第3話でいきなり正義のヒーローを相対化するような疑問を投げかける、子供向けとは云いがたい作劇の『悪魔の預言(よげん)』なんてやっちゃった『ウルトラマンティガ』(96年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19961201/p1)とはそこが違うと思うのだけれど。閑話休題。
さて『ハリケンジャー』のメイン監督を務める東映の渡辺勝也氏は、角川書店の特撮雑誌『特撮ニュータイプ』No.004(02年10月刊)によれば「日本一のアイドル好き監督」なのだそうだ。
先述の各キャラ主役話の続いた時期の作品の中でも、氏の監督回に限らず半ば「アイドルドラマ」と化した作品は、どれも出色の出来であったように思う。
アイドルマニアでもあるアタシ的には感性直撃ビビビてなわけで、今回はやはりこれらについて述べさせてもらうことにしよう。
巻之二十五『オバケと女学生』
厳密にはハリケンイエロー=吼太(こうた)が主役の回。
だが、復活忍者バンパ・イヤーンの復活光線でナゼか女子高生の姿で再生した吼太の祖母・あやめ婆ちゃんを演じた戸田比呂子がまさに美少女アイドルだったので、ここに含める。
ついでに云うなら蚊のように小さなゲスト怪人バンパ・イヤーンが、女敵幹部ウェンディーヌの胸に吸いついて離れないシーンにも大半の殿方は大喜びしたハズだし(笑)。
自分のことを「あやや」(これで脚本の荒川稔久がアイドル歌手・松浦亜弥のファンであることは明白である・笑)と呼ばせるあやめに散々引っ張り回される吼太。
しかし、バンパ・イヤーンが倒されることによって、あやめと別れを迎える切ない話。
だが今回はそんな心暖まるエエ話だけにとどまらない。
バンパ・イヤーンによって五大宇宙忍者が復活して各地を襲撃。
札幌にカブトライジャー、
名古屋にハリケンブルー(近くやんけ〜、会いたかったなあ〜)、
大阪にハリケンイエロー、
博多にハリケンレッド、
沖縄(「めんそ〜れ」の看板はかえって嘘っぽいぞ・笑)にクワガライジャー
……が飛んで激闘を繰り広げる一大スペクタクルも用意されていただけに、エエ話が嫌いな御貴兄(そんな人もたまにいるのよ……)も満足できたことかと思う。
ちなみにイエローが大阪に行ったのにはちゃんと意味があるんですな。
バンパ・イヤーンに
「血ぃ吸うたろか」
と云わせるためです(笑)。
それにしてもあやめ婆ちゃん、
「戦争で死ぬのは爺ちゃんだけでいい」
とイエローを助けに行くのは判りますが、忍風館からどうやって大阪に行ったんでしょうね?
笑えて燃えて泣けてと三拍子揃った荒川脚本の典型の作品と云いたいところだが、あいにく氏の作品を全部見たわけじゃないから控えておく。『仮面ライダークウガ』(00年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20001111/p1)は全然そうじゃなかったし(笑)。
巻の二十六『弓矢と海水浴』
人々が恋愛ばかりに夢中になることによって都市機能は麻痺、経済も破綻、やがて地球は腐る……
という恋煩い忍者チューピッドの作戦は、『帰ってきたウルトラマン』第48話『地球頂きます!』のなまけ者怪獣ヤメタランスを使って地球人を無気力にさせた宇宙怪人ササヒラーの侵略計画に酷似した最も有効な手段であり、80年代からはびこる「恋愛至上主義」によってすっかり堕落したこのニッポンに対する痛烈な揶揄(やゆ)のようで小気味良い。
宇宙忍群ジャカンジャの手にかからなくとも既に地球は腐っているのかもね(笑)。
チューピッドの矢に刺されたことでハリケンブルー=七海(ななみ)に恋をしてしまったクワガライジャー=一鍬(いっしゅう)と、人気アイドル・三崎和也が珍妙な三角関係を繰り広げる。
硬派な男は恋愛にオクテなものだが、「女の子はカワイイ動物を好む」と聞いて牛を連れてきてしまう一鍬の発想はホントによう判らん(笑)。
七海は当然「牛はパス!」して和也と海へ出かけるが、アレ? この海、前回の沖縄の海によく似てるなあ。ついでに海水浴に来ていた女の子たちもみんな一緒じゃねえか?(爆)
ファン待望の七海の水着編であるが、近年流行の重ね着タイプのもので露出度はほとんどゼロ。
戦隊シリーズ第3作『バトルフィーバーJ』(79年)の夏季作品で初代ミスアメリカ=ダイアン・マーチンや2代目ミスアメリカ=汀(なぎさ)マリアが着ていた超ビキニはスゲエ眩(まぶ)しかったもんだ。
こんな中途半端なものを見せられるとかえって欲求不満がたまってしまって、結局『Happy Blue』(02年・ワニブックス・ISBN:4847027256
・要は七海の写真集だよ)なんかを買うハメになってしまう(笑)。
まあ所詮子供番組だからあまり刺激の強いものは見せないようにしようなんて傾向は今後も続くと思うので、そんなことならいっそのこと水着編なんて一切辞めてもらった方が良いと個人的には思うけどね(!?)。
それよりも今回のチェックポイントはチューピッドの術が解けたにも関わらず、
「カッコ良かったよ」
と七海に握手してもらった左手だけに、一鍬がそっと手袋をはめる場面でしょう。
私もWINK(ウインク 〜90年前後のバブル期に人気があっただけに今イチ実体が掴めず、バブル崩壊とともに人気が凋落したアイドルユニット)の鈴木早智子(さちこ)と握手してもらった日には、手を洗わなかったものでした(笑)。
巻之三十『アイドルと友情』
これについては書く人多いと思うが、やはり外すわけにはいくまい。
悪の組織を裏切って正義側の懐(ふところ)に入り込むが実は……
という元宇宙コギャル(笑)である女敵幹部・暗黒一の槍フラビージョは、『仮面ライダー』(71年)第79話『地獄大使!! 恐怖の正体?』でショッカーを裏切ったと見せかけて仮面ライダー1号=本郷猛を罠にはめたショッカー幹部・地獄大使を思わせる。
フラビージョが宇宙忍群ジャカンジャの暗黒七本槍(ななほんやり)に入ったのも、自分と同様の元は落ちこぼれの忍者だったからだと共鳴した七海が、彼女と「ビジョッ娘(こ)セブン」なるアイドルユニットを組んで「しあわせSHAKING HANDS」でデビューする。
しかし、全てはフラビージョの芝居であったことを知り、怒りに燃える……
アイドル以前に既に演歌歌手でもあった七海の持ち歌である「忍び恋」をバックに、和服姿で戦闘員マゲラッパたちをバッサバッサと倒す七海はさしずめ女ヤクザ映画や女桃太郎侍の趣(おもむき)だ。
フラビージョがビジョッ娘セブンのチラシを破り捨てる場面は、小さい子にはかなり衝撃が強かったのではないか。
派手にビルを破壊したり大量殺人を繰り広げるよりも、たった1枚のチラシを破り捨てるだけでそれまでのおちゃらけムードを一変させ、視聴者に対して「悪」を強烈に印象付けることができるのだ。
特に子供たちには最もストレートに届いたであろう。
七海が破れたチラシを手にとって涙するラストシーンを重く受け止め、お友達を大切にしてほしいものだ。
巻之三十四『キノコと100点』
巻之三十一『流星と三匹の狼』から巻之三十三『死神と最終奥義』に至る宇宙狼ファングール三部作直後の、それまで目立ってはいてもメインは張らなかった女幹部・暗黒四の槍ウェンディーヌを主役にした回。
ショッカースクールならぬジャカンジャスクール(笑)で洗脳した子供たちに正義のヒーローを襲わせるという、かつての『仮面ライダー』シリーズ等で活躍したベテラン脚本家・伊上勝(いがみ・まさる)の作品で頻繁に描かれた定番中の定番ネタでありながら、非常に強い印象を残す作品に仕上がったのは、生徒募集に躍起になるウェンディーヌの華麗なコスプレもさることながら、何と云っても彼女の巨大化。
『ウルトラマン』(66年)第33話『禁じられた言葉』で悪質宇宙人メフィラス星人に巨大化されてビル街で暴れた科学特捜隊のフジ・アキコ隊員を思わせるが、巨大フジ隊員は無表情で口から火も吐かなかったしウルトラマンとも格闘しなかったもんねえ(笑)。
それに対してウェンディーヌはカラクリ巨人(戦隊巨大ロボ)を高々と持ち上げたりして……
演じる福澄美緒(ふくずみ・みお)は近年の戦隊「悪の華」の中でもかなり美形の方で、普通こういうの嫌がりそうなのだが、いかに良い雰囲気の現場で作品がつくられているかの象徴になっていると思う。
またストレスが頂点に達して巨大化する際のコミカルなCG(顔がプク〜と膨れ上がってまん丸くなった目をギョロギョロさせて……)も絶品。
『仮面ライダー龍騎』(02年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20021106/p1)の強化形態・仮面ライダー龍騎サバイブが契約モンスターの赤い龍・ドラグレッダーをバイクにCG変形させて突撃する必殺技・ドラゴンファイヤーストームなんてのも良いのだが、こんな使い方もマンガチックな場面には積極的に取り入れてもらいたいものだ
(巻之三十八『魔剣とふうせん』で人々が風船のように膨れあがって宙に浮かび上がる描写も面白かったよなあ)。
さてウェンディーヌはバイト先のスーパーのイケメン店員・橋本クンを見かけた途端にストレスが消滅し、元の大きさに戻った。
この橋本クンを演じたのは『激走戦隊カーレンジャー』(96年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110521/p1)のブルーレーサー役・増島愛浩(ますじま・よしひろ)なのだそうで。
なんでもシュリケンジャーの仮の姿の人間を演じているのは「戦隊」の出身者なのだそうだ。
が、私『電磁戦隊メガレンジャー』(97年)も『地球戦隊ファイブマン』(90年)も見てないからどれが誰やら判らないんだわ(笑)。
それどころか『救急戦隊ゴーゴーファイブ』(99年)は全話見てたクセに、巻之二十四『タイコと稲妻』にゴーレッド=西岡竜一朗が出てたのも気付かなかったくらいで……基本的に野郎には興味ないんだわ(笑)。
しかしこうして見ると「戦隊」にも結構イイ男が出てたんだよねえ。
それでも『龍騎アクターズ』(同名のカレンダーまで発売されているのだとか)みたいなムーブメントがこれまで起きなかったことから考えると、一般の主婦層はやはりチャイルディッシュな作風は好みじゃないのだろう。
『ハリケンジャー』のハリケンレッド=鷹介(ようすけ)を演じる塩谷瞬も私から見ると『龍騎』の主人公・城戸真司(きど・しんじ)役の須賀クンとほとんど同じくらいのイケメンに見えるのだけど(笑)あまり騒がれてなくてちょっと不憫に思える。
まあこのこと自体が、主婦層が単にイイ男目当てだけで『龍騎』を見ているわけではないことの証明にもなっている気がする。
が、同時上映の劇場版の反応を見る限りでは、子供たちには『忍風戦隊ハリケンジャー シュシュッとTHE MOVIE(ザ・ムービー)』(02年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20021112/p1)の方が圧倒的にウケが良かった。
いいんじゃないかな、上手に住み分けができて。居場所がないのは口うるさいマニアだけだぞホントに(笑)。
私事で恐縮だが原稿締切直前に二歳半の甥を預かるハメになり、最近ウルトラマンに興味を示し出した彼とソフビで遊びながら、バンダイビジュアルの『ばっちしV・ウルトラマンワールド』を何本か一緒に見ていたら実に興味深いことがあった。
ナイトシーン等の暗い場面になると甥が「コワ〜イ」と異常なまでの拒否反応を示したのだ。
それが頻繁に出てきた『ウルトラマンティガ』や『ウルトラマンガイア』(98年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19981206/p1)のダイジェスト映像よりも、青空の下で戦うことが多かった『ウルトラマン』や『ウルトラマンタロウ』(73年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)の方に強い関心を示したのである。
思えば『劇場版 仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL(エピソード・ファイナル)』(02年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20021104/p1)もずっと画面が暗かったし、やはり子供には明るく開放的な画面作りの方が喜ばれると思う。
主婦層にはウケなくても、「戦隊」には現状の製作方針を今後も貫いてほしいものだ。
そんなわけで一見イロモノに思えるアイドル編を振り返ってみた。
これらの中にもかつて我々が夢中になった作品群に含まれていた勧善懲悪娯楽活劇のカタルシス要素のエッセンスが、絶妙に凝縮されて詰まっていることがおわかりになったかと思う。
コメディー的色合いが強いために結構見落とされがちだが、そんな作風だけに状況が一変したあとの盛り上がりの効果が絶大なものとなり、ヒーローたちの活躍やその回のテーマまでもが強いインパクトとして視聴者の胸に残ることとなる。
毎回登場する宇宙忍者たちのユニークな作戦もさることながらネーミングのセンスも抜群。
むかしは良かったなどと美化されがちだが、70年代の作品に登場していた単に悪さをするだけの倒される悪に過ぎなかった大半の怪人たちに比べればキャラクター性も遥かに高い。
エンディングの前にチラッとやる『宇宙忍者ファイル』は、ケイブンシャ亡き今『全怪獣怪人大百科』――71年末発行の『原色怪獣怪人大百科』を前身とし、以後20年近くに渡って毎年刊行され、ジャンル作品登場の怪獣怪人をほぼ網羅していた――の役割を果たし、かつてのウルトラ怪獣同様の親近感を子供たちに与えているかと思われる。
3クール目後半で敵幹部・暗黒三の槍・新生マンマルバを我らがカブトライジャーが倒すに至るも、最後の暗黒七の槍・サンダール
――声を演じているのは『機動戦士ガンダム』(79年)のライバルキャラ=シャア・アズナブル役=池田秀一。世代人としては放映中のリメイク版『ガンダム』(『機動戦士ガンダムSEED(シード)』(02年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060324/p1))なんかよりこっちの方がたまらんわ――
が新たに登場、更にシュリケンジャーとハムスター館長しか知らない「御前様(ごぜんさま)」の正体等、まだまだ興味の尽きない『ハリケンジャー』。
ホントにもう何が起きても驚かへんでぇ〜!(笑)
忍風戦隊ハリケンジャー 〜後半評2
(文・内山和正)
残り2ケ月、ハリケン評
ハリケンジャー3名と第2戦隊ゴウライジャー2名だけでなく、別勢力のシュリケンジャー1名が参入してきたことにより、異なる「戦隊」の寄り集めという趣向が味を持ってきた。
この趣向は、これからの「戦隊」でも繰り返し使用されても良いのではないかと思えるようになった。
シュリケンジャーが特定の人間体を持たないのは当初不満でもあった。
が、人間関係がこれ以上猥雑になっても困るだろうからちょうど良いのだろう。
過去の戦隊ヒーロー役者がシュリケンジャーの変装体を演じるという趣向がその寂しさを補ってくれるのが嬉しい。
これは25作記念のビデオ作品『百獣戦隊ガオレンジャーVS(たい)スーパー戦隊』(01・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20011102/p1)での先輩登場で盛り上がったあとのポスト25作記念企画ともいえるのだろう。
その反面、子供たちにはともかくマニアには誰がシュリケンジャーの変装体であるかがミエミエとなってしまうのでドラマ展開が面白くなく、知ったうえでも楽しめる配慮をした回が少ないのは今後――と言っても残り少ないし、この同人誌が出る年末には撮影も終了しているのだろうが――の課題だ。
女性に変装できないわけではないそうだが、いまのところ出てこないのも誤解を生じさせるだろう。
そういえば6人目の戦士にはまだ女性がおらず(02年現在)、そろそろ登場を考慮したら如何(いかが)か?
敵幹部の方に話を移す。
幼体から成長した敵幹部・マンマルバはゴウライジャーを狙い続けてばかりいたために、恐ろしい強敵というよりも執念深いイヤなヤツというイメージとなって(彼の考えも正当ではあるので律儀なヤツと言えぬこともないが)、登場当初の印象からすれば矮小化してしまった。
それゆえに、ある意味では新種の敵といえるかもしれない。
彼によって体内に宇宙サソリを埋め込まれたカブトライジャー=霞一甲(かすみ・いっこう)に迫り来る死のサスペンス。
それは迷惑をかけてきたハリケンジャーに黙って死んでいこうとする一甲の姿勢とともに盛り上げた。
しかもそれを、往年の特撮作品やテレビドラマのように最終回まで引き摺らずに回避し、後味の悪さ・辛気(しんき)くささを避けたのも好ましい。
駄洒落ばかり発してテンションが猛烈に高い敵幹部・サタラクラは脚本家・荒川稔久氏ならではの個性的キャラクターだが、それ故に他の脚本家の方が使いこなしきれないようだ。
ヒーローものの「悪は敗れる」お約束上、仕方がないが最近ではただのお馬鹿なだけの存在になっている気がする。
最後の幹部・サンダールは圧倒的な強さはともかく人物像的な個性には欠ける。
ナゾめかせて共闘を呼びかけつつ他の幹部を利用していくというところか?
どちらにしろあまり新鮮さはないだろう。
ただ、彼の登場によりシュリケンジャーの万能――でもないことは宇宙サソリのエピソードなどで現れていたが、頼れるイメージはある――さに翳(かげ)りがさしてきたのが注目点?
当然これからは、正体不明の「アレ」と「御前様」の秘密に番組の評価がかかってくるのだろう。
新種の趣向もいくつか持ち、平均点は低くないのだろうと思われる本作だが、個人的には今ひとつ圧倒的な何かに欠けるように思う。
その「何か」を言語化できないのに恐縮だが、来年の戦隊には「あっ!!」とおどろく衝撃的な斬新さがほしい!
忍風戦隊ハリケンジャー 〜後半評3
(文・M.OOBA)
忍風戦隊ハリケンジャー論 東映戦隊シリーズ対サンライズロボアニメ!
結論から言おう!
『忍風戦隊ハリケンジャー(02)』はサンライズロボットアニメである!
上記のことを更に詳しく説明すると、『忍風戦隊ハリケンジャー』は、巨大ロボットアニメ『元気爆発ガンバルガー(92)』+『超者ライディーン(96)』÷『機動新世紀ガンダムX(エックス)(96)』であり、サンライズアニメのテイストに溢れた「(実写の)東映作品」でもある
(今考えてみると前作『百獣戦隊ガオレンジャー(01・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20011113/p1)』の方は、『伝説の勇者ダ・ガーン(92)』と『黄金勇者ゴルドラン(95)』のような作りだよなあ{註1})。
昔の戦隊シリーズや既存の東映特撮作品を題材や下敷きにするのは、一部のマニアからは批判されるのかもしれないが、当然のことながら『忍風戦隊ハリケンジャー』は同じ忍者モチーフである『忍者戦隊カクレンジャー(94)』を少なからず意識していると思われる。
が、その内実はサンライズアニメの影響を受けていると考えられる(?)。
仮に影響を受けていなくとも、相似した要素が多数ある。
サンライズアニメの影響を受けている実写の特撮作品といえば、『鉄甲機ミカヅキ(00)』だと私見する。
『ミカヅキ』の場合はモロにテレビ東京系アニメやサンライズアニメの影響を受けた描写が見られる。
ただし、『ハリケンジャー』の場合はサンライズアニメの影響を受けつつも、それをうまくアレンジして実写化に成功している。
というわけで、『ハリケンジャー』とサンライズアニメの関係について検証したい。
1.リーダー(指揮官)が諸事情により戦線を離脱している。
『ハリケンジャー』ではリーダー(指揮官)である日向無限斎(ひなた・むげんさい)館長が忍法でハムスターになったものの、元に戻る忍法を忘れて人間に戻れないという設定がある。
これに似た設定が児童向け合体ロボアニメ『元気爆発ガンバルガー』にもある。
小学生主人公の虎太郎(イエローガンバー)の父親がヤミノリウス三世に呪いをかけられて犬になっているのだ(笑)。
(主人公たちガンバーチームにも呪いはかけられており、正体がばれるとやはり犬になってしまうという設定)
また、日向館長はかなりの実力者なので、『太陽戦隊サンバルカン(81)』の嵐山長官のように前線に立って戦うのかなあと予想した。
しかし、ご承知のように忍法を忘れて、ハムスターの姿で指揮をする。
「リーダー(指揮官)が諸事情により戦線を離脱している」という設定は、『機動新世紀ガンダムX』の母艦の艦長ジャミルを彷彿とさせる。
ジャミルの場合は当初、前の大戦による後遺症の影響でモビルスーツ(巨大ロボ)に乗れないという設定(フリーデン(母艦)で、指揮だけをしているが)。
まあでもハムスターという設定自体が、大ヒット作『とっとこハム太郎(00)』からの引用だけどねえ……
2.ライバルチームが存在する。
『ハリケンジャー』にはライバル戦隊チームとしてゴウライジャーが登場する。
が、これと似た設定として、『超者ライディーン』――元祖『勇者ライディーン(75)』とは名前とロボデザインだけ借りた別物――にもライバルとしてクロウチームが存在した。
両者には、
「最初は敵として登場する」、
「チーム同志が合体してヒーローもしくはロボットになる(註2)」、
「主人公チームより先に物語のキーアイテムの存在を知っている」
という共通点がある。
またゴウライジャーの「兄弟でライバル」という設定は、『機動新世紀ガンダムX』のフロスト兄弟にも似ており、「主人公が3人体制に対し、ライバルチームは2人」、「搭乗するロボットの機体の色がダークヒーローらしく黒」など類似点が多い。
……えっー、別戦隊であるゴウライジャー。
筆者は本誌前号『假面特攻隊2002年号』で、
「人件費などの予算の都合上、別戦隊型の戦士は『スーパー戦隊』には出ない」
と推測して書きました。
が、「序盤から登場し、しかもコンビヒーロー」という変化球には参りました(笑)。
ふと考えてみると、トリオヒーロー(ハリケンジャー)とコンビヒーロー(ゴウライジャー)が共存する形は異色かつ斬新な方法だ。
『アクマイザー3(スリー)(75)』『超神(ちょうじん)ビビューン(76)』『太陽戦隊サンバルカン(81)』などのトリオヒーロー、『宇宙鉄人キョーダイン(76)』『ザ・カゲスター(76)』などのコンビヒーローも東映が得意としているヒーローなので、やはり過去の作品のノウハウも活かした作品作りはうまい。
変則的にせよ「ハリケンジャー+ゴウライジャー」で5人になった訳だが、6人目の新戦士はどうなるのかと思ったらシュリケンジャーというとんでもない奴が出てきた……
(結局、ガセ情報だったハリケンジャーの残り二人、光忍ハリケンホワイトと闇忍ハリケンブラックは登場せず、残念)。
3.メカ描写について。
ハリケンジャーのメカは、普段は普通の乗り物に偽装されているという設定。
これを見て、玩具会社・トミー提供の90年代子供向けサンライズ合体ロボアニメ『絶対無敵ライジンオー』『元気爆発ガンバルガー』『熱血最強ゴウザウラー』などの通称「エルドランシリーズ(91〜93)」で、学校の校舎などが合体前の戦闘機や動物型ロボに変型するパターンの変化球的アレンジであると思われた。
が、ハリケンジャーの巨大ロボ・旋風神(せんぷうじん)のタイプチェンジ、スマートな体型に変型した旋風神ハリヤーの存在を見て、
「アッ!? これって往年の特撮巨大ロボ『ジャンボーグA(エース)(73・円谷プロ)』じゃん」と思ってしまった。
「普通の乗り物に偽装されたメカ」、「ロボットらしからぬ着ぐるみスーツ体型」といい、ハリケンジャーのシノビマシーンと旋風神ハリヤーを見る度に、「今風にアレンジしたジャンボーグAってこうなんだろうな」と思ってしまう。
余談ですが、『救急戦隊ゴーゴーファイブ(99)』のビィクトリーロボのラダーパンチ。
マックスビィクトリーロボとその必殺技マックスノバァ。
これを見て、ピープロ制作の等身大特撮ヒーロー『電人ザボーガー(74)』の武器・チェーンパンチと、その強化形態ストロングザボーガーとその必殺武器ストロングバズーカみたいだなあ……と突っこんだ人は何人いるだろうか?(多分私だけだろうな……)。
『ハリケンジャー』のメカ(戦隊ロボ)の最大のトピックスは、戦隊シリーズ初の単独でも敵を倒せる必殺技を持っている主役級ロボット三体(旋風神・轟雷神・天空神)の合体による最強ロボット「天雷旋風神」であろう。
「ロボット三体合体によって誕生する最強のロボット」は、過去の「戦隊」シリーズでもあるにはあった。
『恐竜戦隊ジュウレンジャー(92)』の究極大獣神などがそれである。
厳密に言えばそれらは、「人型ロボット+動物型ロボット+台車型・動物ロボット」の合体した姿である。
つまり、『高速戦隊ターボレンジャー(89)』のターボビルダーも真っ青な、ほとんど動かないしそもそも歩けない要塞体型な人型ロボである(『超魔術合体ロボ ギンカイザー(75)』みたいと言えなくもないが)。
「エルドランシリーズ」や玩具会社・タカラ提供の90年代児童向けサンライズ合体ロボアニメ『勇者シリーズ(90〜98){註3}』のように三体全部が「主役級」ではないのだ。
よって「戦隊」シリーズにおける初の「主役級ロボット三体合体によって誕生する最強のロボット」は、『忍風戦隊ハリケンジャー』の天雷旋風神だといえる。
あと、6人目のシュリケンジャーが操縦するロボット「天空神」が、ハリケンジャーの旋風神と合体して誕生する「天空旋風神」。
ゴウライジャーの轟雷神と合体して誕生する「天空轟雷神」。
これらを見て、往年のロボットアニメ『忍者戦士 飛影(とびかげ)(86)』みたいと思った人は何人いるだろうか。
謎の忍者(忍者ロボット)がロボットとして合体強化するっていう共通点でついそう思って……。
『飛影』も『ハリケンジャー』も、スポンサーはバンダイだし。でも15年も経っていると、玩具デザイナーは代替わりして当時の担当者はもう管理職で現場にはノータッチか?
4.メカ描写についてPART2(シノビマシン・カラクリボール編)
『ハリケンジャー』のメカでもうひとつトピックスというかエポック的な存在といえば、最大のシノビマシーン「リボルバーマンモス」の存在である。
が、戦隊シリーズで初の(ロボットの)サポートメカである(ロボットを格納する移動母艦は存在したが)。
巨大ロボットヒーローを支援する(大型の)支援メカといえば、『マグネロボ ガ☆キーン(76)』のバリアントカー号、『無敵ロボ ダイオージャ(81)』などに存在したが、あまりに数が少ない(個人的にはまだ開拓の余地はあると思うのですが)。
まあ、主役ロボが三体しか登場しなかったので、これで打ち止めかぁーと思ったら、こういうので来たかと思いちょっとびっくり。
ちなみに、超巨大なリボルバーマンモス登場の際、移動ルートを確保するため、高層ビル群がなぜか下降して前方が超巨大な大通りの道路のように平らになってしまうシーンがある。
「最近の特撮番組でこういう(いい意味での)ハッタリがかませるのは戦隊シリーズだけだなぁー」
と思ってしまった。
ハリケンジャー達のロボットが使う武器「カラクリボール」。
商品展開を視野に入れた武器ではあるのは間違いないのだが、各カラクリボールを合体させて強力な武器にしたり、ロボット同士の合体の際のパーツになるなど結構キーアイテム的で、商品的にも作品的にも貢献している。
前作の『ガオレンジャー』にもいえることだが、90年代中盤の戦隊シリーズに見られたロボットが、ただ大量に出てくるのではなく(これのせいで一部のファンから「戦隊シリーズ・イコール・おもちゃの宣伝番組」と言われる)、パワーアニマルが巨大ロボのパーツ・武器などに変形して分離・合体することにより、ロボット(精霊王)が強化したり、別のロボットを形成するなど色々と意欲的な試みがあった(戦隊ロボ同士の戦闘もあったし)。
上記のことを踏まえてだが、ここ2、3年のロボットもの(アニメ・実写も含めて)に見られる傾向。
それは、主役ロボに斬新さや革新性を求めるのではなく、主役ロボに合体する前の小型メカやサポートロボットをパーツ・武器・アイテムに変形させて、主役ロボと合体させることでパワーアップさせるというコロンブスの卵的な発想は、意外と今後のロボット物の主流になるのではないかと予想できる
(『電脳冒険記ウェブダイバー(01)』や『爆闘宣言ダイガンダー(02)』がいい例)
まさに「見る見る変わるぅー すぅがぁたぁこそぉぉぉー」(by『闘士ゴーディアン(79)』の主題歌)だ。
終わりに
『忍風戦隊ハリケンジャー』とサンライズロボアニメ(後半は他社制作のロボットアニメも出てきますが)の共通点・影響点について検証した。
ロボットアニメの作劇や、他社メーカーのロボット玩具の合体システムの影響を受けつつも、独自の進化をとげたスーパー戦隊シリーズと、今ハヤリのアニメ(の描写)を実写に取り込もうとして(?)それが「もろ」に見えた『鉄甲機ミカヅキ』との差が見えてしまった。
と書きつつも『ハリケンジャー』終盤に、『機動戦士ガンダム(79)』のシャアこと池田=ジェット・リー=秀一氏が七の槍サンダールの声にて登場で、ちょっとしたディープインパクトだと思いつつ、私の『忍風戦隊ハリケンジャー』論を終了したいと思います。
註1
『百獣戦隊ガオレンジャー(01)』と『伝説の勇者ダ・ガーン(92)』と『黄金勇者ゴルドラン(95)』の共通点として、
・「仲間探し(勇者ロボット、パワーアニマル)」
・「主役を喰った悪役(ワルター・ヤバイバ・ツエツエ・狼鬼)」
・「正義に目覚める悪役(ワルーター・狼鬼)」等が挙げられる。
『伝説の勇者ダ・ガーン』は、「平成ウルトラ三部作(96〜99)」を見ている人なら思わず「ニヤリ」とする描写が終盤にあるので、ウルトラシリーズファンの皆さん、「勇者」シリーズを見ましょう!!(我ながら相変らずベタな表現だな……)
「勇者」シリーズは一番マニア人気が高い最終作『勇者王ガオガイガー(97)』だけではないので。
註2
『超者ライディーン』では終盤イーグルチームとクロウチームのロボットが合体し、ライディーンスペリポールという巨大な超人になる。
『ハリケンジャー』では、旋風神と轟雷神も合体し、轟雷旋風神になる。
註3
「エルドランシリーズ」と「勇者シリーズ」の「主役級ロボ三体合体」の違い。
エルドランシリーズは、「主役級のロボット×3による三体合体」。
勇者シリーズは、「主役級ロボット2体+小型の主役級ロボット1体による三体合体」である。
[関連記事] 〜『忍風戦隊ハリケンジャー』
忍風戦隊ハリケンジャー 〜前半合評1
(近日中にUP予定!)
忍風戦隊ハリケンジャー 〜前半合評2
(近日中にUP予定!)
忍風戦隊ハリケンジャー シュシュッとTHE MOVIE
忍風戦隊ハリケンジャー 〜後半合評・6人目シュリケンジャー!
(当該記事)
忍風戦隊ハリケンジャー最終回 〜終了合評
(近日中にUP予定!)
忍風戦隊ハリケンジャーVSガオレンジャー 〜ビデオ作品
(最終回評とセットで掲載にするかも・汗)
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