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特撮評論同人界での第2期ウルトラ再評価の歴史概観

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(文・T.SATO)
(03年12月執筆)


 「怪獣ファンは〜すべきである、とか第二次ブーム作品は第一次より低級である、怪獣番組は怪人番組より高級、アニメなんて見ないのが本来の怪獣ファン、『ゴジラ』やウルトラに勝るものは存在しない、etc、etcのドグマや、後世に残る価値がある、大人の鑑賞にも耐えうる、etcの権威づけとは、自分のミーハーとしての立場を拠り所にして戦わなければならない。(中略)さあカクメイを始めよう」

(同人誌『PUFF(ばふ)』17号(故・富沢雅彦 79年4月))


 第2期ウルトラを擁護可能な論法が、特撮評論同人界ではじめて確認できるのは、おそらくこの記述だろう。
 同じく『PUFF』の初期メンバーを兼ねていたオタク第1世代(一般には60年前後生まれのマニアを指す)たちの手による、『怪獣倶楽部』メンバー(酒井敏夫(竹内博)・中島紳介・金田益実・徳木吉春・小林晋一郎・池田憲章)らによる、草創期マニア向け書籍『ファンタスティックコレクション№10 空想特撮映像のすばらしき世界 ウルトラマンPARTⅡ』(朝日ソノラマ〜『不滅のヒーロー ウルトラマン白書』(82年に初版・95年に増補第4版・asin:4257034505)に合本再録)が発行されたのは、この前年の78年。


 「第1期ウルトラ至上、第2期ウルトラは低劣!」という趣旨の記述をウケウリ、当時あまた刊行されはじめたマニア向け書籍などの、初期『ゴジラ』や初期『ウルトラ』こそ秀作、後期『ゴジラ』や後期『ウルトラ』や『仮面ライダー』などの70年代変身ブーム時代の作品は、粗製乱造の愚作だ! との論法・風潮に影響されて、幼少年期に楽しんでいたハズの第2期ウルトラを、我々の世代が恩知らずにも否定しはじめた(汗)この時期にこの主張!


 氏の先進性が伺えよう。富沢氏は同人誌『PUFF』の発行をつづける傍ら、草創期マニア向けのアニメのBGM集の解説書、特撮雑誌『宇宙船』の初期号や、アニメ誌『OUT(アウト)』、『アニメック』などでもコラムなどを発表。
 『ガンダム』などのリアルロボットアニメ全盛・一辺倒の80年代前半のアニメマニア界においても、子供向けアニメの楽しさ・面白さを言説化。
 ハード&シリアス志向ばかりだった当時のマニアが見向きもしなかった『キン肉マン』を擁護してみせ、同じく当時のマニアがもっとも盲目的・崇拝的に神格視していた時期の『ガンダム』や富野由悠季監督やリアルロボアニメ路線を、アニメ本来の楽しさを切り捨てた一部の高級志向マニア向けの作品にすぎず、先細りは必至であると喝破してみせた、もっとも先駆的な御仁であった。


 富沢氏は86年秋に30歳の若さで逝去。
 氏の業績や人となりは、別冊宝島104『おたくの本』(89年・JICC出版局(現・宝島社)・asin:4796691049・00年に『「おたく」の誕生!!』(asin:4796617353)と改題して宝島社文庫)中の『「おたく」に死す――富沢雅彦の生涯』、およびその記事を改稿して収録した『天使の王国』(浅羽通明・91年にJICC出版局asin:4796602054・97年に幻冬舎文庫asin:4877284869)にくわしい。


 氏はメジャーな存在とはいえなかったが、マイナーメジャーな存在ではあり、熱烈なファンが多かった。のちに商業媒体でも活躍される特撮同人界出身者の中では、同人誌『空魔獣』(グランゲン)の主宰・岩佐陽一氏や、オタク第1世代の御仁ではあるが同人誌『殺した奴をまた殺す』(必殺シリーズ研究会・音羽屋)の主宰・坂井由人氏がこれに当たる。



 ただし富沢氏自身は、怪人番組再評価は行うも(『仮面ライダー』初作(71年)〜しかし初期の旧1号ライダー編には否定的で新1号ライダー編を賞揚! 『人造人間キカイダー』(72年)や『イナズマンF(フラッシュ)』(74年)などを評価する)、第2期ウルトラの具体的な再評価を行なったわけではない。


 それを行ったのは、81年に設立された特撮同人サークル・帰ってきたウルトラマン研究会(現・FC)スタビライザーだろう。主に2代目代表の矢的八十郎氏と新伴仙司氏を中心に会誌『RETURN』にて第2期ウルトラ論を展開、のちには商業媒体でも並行して活動し、現在にいたるまでコミケごとに会報(同人誌)を精力的に発行しつづけて、現在に至る。


 84年12月には、特撮同人サークル・NAT(ナット)系のお姉様たちによるウルトラマンエースに合体変身する北斗星児&南夕子へのキャラ愛&作品研究を両立させた(当時の特撮同人女性はキャラ愛と研究が未分化?)、同人誌『ウルトラマンA・全員脱出!』(グループSOS)が発刊、89年までに5冊(準備号?、『全員脱出! 1』、86年7月に『全員脱出! 2−Ⅰ』、87年8月に『全員脱出! 2−Ⅱ』、89年5月に『全員脱出! 3』)を刊行する。斯界(しかい)は放映当時、女児であった主宰者のMANA氏をはじめ女性たちが透視した『エース』の深層・恋情ロマン・分析に心打たれた。(後日付記:近日中に「『エース』同人誌の歴史1」で紹介&レビューをブログ上にUP予定)


 87年12月には、『ウルトラマンタロウ』研究同人誌『ウルトラ怪奇大怪獣図鑑』(新藤義親・スタジオパンドラ(特撮同人サークル・ETC大江戸の別働隊))と、同人誌『作戦会議』(矢的八十郎・黒鮫建武隊)が同時に登場。
 新藤義親氏は、のち92年にリム出版から初代『ウルトラマン』(66年)〜『ザ☆ウルトラマン』(79年)、『ウルトラマン80』(80年)までの8作品、各5巻ずつで発刊予定であった(実写映画『8(エイト)マン』(92年)の製作・興行失敗でリム出版倒産により頓挫)、「COMIC’Sウルトラ大全集」の『帰ってきたウルトラマン』第1巻「復讐の宇宙戦線」(TV本編の第18話『ウルトラセブン参上』の後日談で宇宙大怪獣ベムスターの別個体が来襲してくるエピソード)に原作としても参加。『ウルトラマンA(エース)』にも原作参加したが、これは99年に双葉社より陽の目を見ることができた。東映メタルヒーロー特警ウインスペクター』(90年)、円谷プロの『電光超人グリッドマン』(93年)などにも脚本参加している。


 89年(平成元年)は第2・3期ウルトラの同人誌ラッシュ。


 2月、特撮同人サークル・ミディアムファクトリーが同人誌『帰ってきたウルトラマン大百科事典』。2代目代表の高橋忍氏や山田能嗣氏を中心に、前書きや後書きの解説や総論などで第2期ウルトラを談義する(91年8月の同人誌『ウルトラマンレオ大百科事典』では、第1期ウルトラマニアからの借物論法で論敵を凌駕しえず、第2期ウルトラを旗印に帰属意識だけで自足する、今でいう「ヌルい」マニアへの批判も行う。92年8月には『続・ウルトラマンレオ大百科事典』も刊行)。


 8月、弊サークル同人誌『假面特攻隊6号』で初期メンバーが第2期ウルトラ(『帰マン』〜『タロウ』)を特集(私事で恐縮だが、編集者(本ブログ編集者)はこの本の通販で当サークルに縁を持つ)。90年8月の同『7号』では『レオ』を扱い、これらの記事の再録に、『ウルトラQ』(66年)〜『ウルトラマングレート』(90年)の記事を加筆して、別冊号『ULTRA SERIES』を90年12月に刊行している。


 12月、大石昌弘氏も同人誌『夢倶楽部』VOL.2で『ウルトラマン80』、90年8月のVOL.3で『ウルトラマンレオ』特集をフィーチャー。以後も第2・3期ウルトラを扱いつづけ、91年8月のVOL.4では『ウルトラマンタロウ』を、92年12月のVOL.6で『レオ』特集第2弾、94年12月のVOL.8では『ウルトラマンエース』を、97年8月のVOL.10では『ザ☆ウルトラマン』特集第1弾、12月のVOL.11では同作特集第2弾、翌98年12月のVOL.12では同作特集第3弾を、長年の業界コネで入手したシナリオや秘蔵資料にアニメの設定画集などを採録し、批評・感想を交えた書籍を発行しつづけた。


 現在では商業媒体で活躍される、同人誌『特撮指令』(プロジェクトピンク)の主宰・井上雄史(いのうえ・たけし)氏、同人誌『空魔獣』(グランゲン)の主宰・岩佐陽一氏の『ウルトラマンレオ』への好意的言及も印象に残る。


 90年代最大の収穫は、特撮同人サークル・スタビライザーやミディアムファクトリーで活躍してきた黒鮫建武隊(後日付記:バラしても問題ないと思うので明かしてしまうと、黒武建雄や山田歩の名義でも音盤構成や商業誌などで活躍)氏による、95年8月に発行された大冊の全話解説&研究評論同人誌『ALL ABOUT THE ウルトラマンタロウ』にトドメを刺すだろう。


 この過程で、第1期『ウルトラ』マニア譲りのSF・リアリズム・アンチテーゼ編賞揚の論法を用いての、第2期『ウルトラ』における実は少なくはないアンチテーゼ編賞揚。
 第1期『ウルトラ』のように怪事件や怪獣&特撮映像中心の構成ではなく、人間ドラマ中心の構成である第2期『ウルトラ』の作劇。
 初代『ウルトラマン』の科学特捜隊のレギュラーメンバーのようなマンガチックな類型ではない、第2期『ウルトラ』のレギュラー隊員たちのリアル寄りの方向での描写や描き分けや大人の心情描写、あるいはディスコミュニケーション描写の発見。
 青春ドラマ(民間人ヒロインの登場)、ホームドラマ(ただし欠損家庭である)、子供ドラマの悪意性(60年代の第1期ウルトラの時代とは異なり、ヒネていたり苦悩もする近代的内面や自我を備えた子供描写の出現)。
 ファンタジー・不条理・チャイルディッシュ・東映ギャグ怪人の先駆ともいえるギャグ怪獣(実はそれらは高視聴率回であるとも判明)。
 真船禎・岡村精ら実相寺昭雄監督以上の映像美。鈴木儀雄のアバンギャルド美術。
 『ポケモン』『ビックリマン』『キン肉マン』的多数ヒーローや、神話的年代記に天上世界の描写を先取りするウルトラ兄弟や一族の歴史と、銀河をまたぐ宇宙警備隊の組織図、学年誌マンガでのスペースオペラ性などの、80〜90年代以降の児童向けヒット漫画やアニメに必須の要素の発見など、多彩な擁護理論が登場・蓄積・発展していった。


 90年前後にはすでに特撮評論同人界の天下を制した第2期ウルトラ派ではあったが、しかし残念なことに、商業誌・一般マニアレベルでこれらの重要な成果が正しく還元されていったかといえば……(汗)。


 その原因は3点考えられる。


①特撮評論同人界、即プロジンとなりえていた70年代末期のマニア書籍草創期とは異なり、パイの固定化で商業誌と後進同人との間で断層が大になっていたこと。


②一般マニア層に対して、特撮評論同人界側が積極的に啓蒙することを怠っていたこと。


③他ジャンルとは異なり、特撮商業誌編集者側にも、若いライターなりその発想を異端(?)であっても発掘・育成して、異端とそれへの再批判も含めての、ジャンル自体や論争を活性化させようという気運・大局眼には決定的に欠けていたこと……(場合によっては人事権・ミクロポリティクスを発揮して排除し、悦に入る傾向もあったという・汗)。


 これら第2期ウルトラ擁護の先達が商業誌で主張を行うのは、散発的には第2期ウルトラをメインに据えた『ウルトラマン大全集Ⅱ』(87年・ASIN:4061784056)、そしてはるかに時代を下った99年のタツミムック『帰ってきた 帰ってきたウルトラマン』(ASIN:4886413641)においてであった(控え目な物腰で、物足りなくも見えたけど〜失礼)。


 実は編集者自身が、特撮評論同人界での上記現象のチルドレンでもある。先人に敬意を表しつつ、今後とも第2・3期ウルトラの再評価&啓蒙にも邁進していく所存だ。

(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2004年号』(03年12月29日発行)『日本特撮評論史』大特集「特撮評論同人界での第2期ウルトラ再評価の歴史概観」より抜粋)


『仮面特攻隊2004年号』第2刷補足:
 同人誌『お楽しみはレオからだ!』(滝沢一穂・82年)も忘れちゃイケナイ。滝沢氏は、東映メタルヒーロー時空戦士スピルバン』(86年)#27の脚本、書籍『ウルトラマン仮面ライダー』(93年・文芸春秋・01年に文春文庫・ASIN:4167660059)などでも活躍された御仁。(当該補足は、特撮同人ライター・森川由浩氏からの情報提供)


特撮同人誌のレビューについて

 本サークルでは、今回の特撮同人誌の歴史概観だけに留まらず、今後とも、現行特撮作品をレビューすると同時に、過去の特撮商業書籍や特撮同人誌の発掘や紹介やレビューを行い、それらが生み出した論法や成果を言語化・言説化・歴史化して、今後の特撮評論を行う際にも、多くの方が汎用的に参照できるモノサシとして紹介していく所存です。
 対象にされ、遡上にのぼらされる側の立場の方からは、後進のひよっ子に言及などされたくない、あるいは批評する立場の弊サークルがキライだから取り扱われたくない(笑)などのあまたの不満も多々生じるかとは思います。
 が、昨06年に逝去された『マンガと著作権』(01年・コミケットASIN:4883790894)も編集された同人誌即売会コミックマーケット代表にして漫画評論家でもあらせられる米沢嘉博氏らも前述の著席で言明されていた通り、相手がアマチュアであっても少部数であっても不特定多数に対して一度、発表・配布されたものに対しては、レビュー・批評行為の対象となると考えますし、またその際に事前に通告やお願いをする必要はないと考えます(当たり前だけど・笑)。
 先の書籍でも語られている通り、事前に当事者に内容を確認して了承をもらうようなレビュー・批評が面白いのか? 価値や意義があるのか? という動議にも通じるものですネ。
 また書籍の奥付に「引用は不可」との記述があっても、社会的には、また著作権法における習慣や判例においても、紹介・批評のための引用は認められています。
 あくまで、引用と地の文との主従・主客関係は逆転してはイケマセンが。弊同人誌編集者(本ブログ編集者)の最終責任において、その点はクリアしたものと判断して特撮同人誌レビューを、以後も同人誌(&ブログ)上にUPしていく所存です。よって、同人誌(&ブログ)でのレビューや批評・価値判断の内容や形式が不当・侮辱に感じられて、掲載をやめてほしいとの指摘が仮にあっても(今までにそーいう指摘は来たことがナイけれど・笑)、掲載を撤回するつもりはありませんので悪しからず……。
 (後日付記:クレームのある方は、知己も含めてまずはコメント欄へ。知己の場合は、郵便やFAXも可。非公開のやりとりを望む場合は、その旨をお伝えくだされば、以後の通信手段は調整いたします)


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