(『ウルトラマンメビウス』序盤評・短期集中連載!)
(文・久保達也)
(総括3(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060704/p1)よりつづく)
「昔から宇宙人は敵であると相場が決まっておろうが!」
第7話『ファントンの落し物』で地球に来訪したファントン星人に対してそう決めつけてかかったトリヤマ補佐官は、テッペイによる宇宙語の翻訳によって彼らに侵略の意図がなく、宇宙一の美食家であることを知るや、半年分の食券を使い果たすほどの食事を用意して彼を歓迎する。
美食家であるファントンが原色ですげえブサイクなB級モンスター的デザインであることもシャレが効いているし、大口で目がピョコ〜ンと飛び出しているのは『ウルトラQ』(66年)に登場した、お金を食べるのが大好きなコイン怪獣カネゴンに対するオマージュ的意匠のようにも見えよう。
テッペイが宇宙語を翻訳する機械が、「パン・スペース・インタープリター」という、『ウルトラマン』(66年)第16話『科特隊宇宙へ』において宇宙忍者バルタン星人の言語を翻訳するのに使われたのと同一の名称であったり、ファントンがラストで語った「キエテ、コシ、キレキレテ(僕、君、友だち)」も、やはり同作第2話『侵略者を撃て』で科学特捜隊のイデ隊員がバルタン星人に試みた言語と同一であったりと、少々マニアックに過ぎるのではないかという見方もあろう。
だがご心配なく。一般の視聴者はそんなもん誰も覚えていないし(笑)、それが理解できなければ話を楽しめないという性質のものではないのだから。第4話でミライがコノミの前で、「勇気が出るおまじない」として披露した、ウルトラセブンの変身のマネなんかは、かつて同じように遊んでいた一般のパパには大ウケしたんじゃなかろうか。むしろ筆者は『ウルトラマンマックス』第16話『わたしはだあれ?』(だったと思う)において、黒部進にカレーを食べさせた演出の方に余程抵抗を感じたが(笑)。
テッペイにしか理解し得ないはずの宇宙語を思わず解読してしまい、リュウやジョージに驚かれて「しまった!」という表情を浮かべるウルトラマンメビウスことミライ、食事の前に儀式として踊りを披露するファントン、半年分の食券を使い果たして途方にくれるも、給仕の女性が撮ろうとした記念写真にピースサインで笑顔で写ろうとするトリヤマなど、楽しい場面が続き、ラストではGUYSの隊員たちが、宇宙人が敵ばかりではない、宇宙人やメビウスに「キエテ、コシ、キレキレテ」と伝えたい夢を語るなど、実に暖かい雰囲気の作品に仕上がっている。
だがこの回がスゴイと思えるのは、母星の食糧危機からファントンが開発した非常食までをも、ファントン以上の食いしん坊怪獣(笑)ボガールが狙い、それをどんどん巨大化させることで前半のムードとは一転して地球の危機を描き、単なるギャグ編には終わっていない点である。
『ウルトラマンマックス』は中盤で抱腹絶倒のギャグ編と、妙に陰欝で深刻な回という両極端な話が交互に繰り返されていたが、それに比べると絶妙なバランスがとれているのだ。
本来ならこういう話は番外編的な仕上がりになるところであるが、それどころか後半では第1話で死んだと思われていたセリザワ前隊長を目撃したリュウがセリザワの「誰だ、おまえ」との意外な返事に苦悩する描写や、ボガールが青いウルトラマン=ハンターナイト・ツルギの光線を避けたことから街が爆発炎上して廃墟と化す描写を見せることで、ボガール抹殺のためには手段を選ばないツルギの非情さを表現し(こうなると右手を高々と掲げて稲妻を呼び集め、腕をクロスすることでそのエネルギーを蓄積して光線を発射するチョ〜カッコイイ描写さえ、極めて悪魔的な表現に映る!)、ツルギが地球に来た目的をファントンに語らせる(そもそもファントンが地球に来訪するハメになったのも、彼らの非情食を狙うボガールによって宇宙船が故障したのがキッカケなのだ)など、今後の展開を暗示させる重要なキーポイントとも成り得ているのである!
「僕らじゃねえ! ここはなあ、オレとセリザワ隊長との、想い出の場所なんだ……」
第8話『戦慄の捕食者』では、メビウスによって切断された高次元捕食体ボガールの尻尾を分析することで、ボガールが電気に弱いことを突きとめたGUYSはマケット怪獣ミクラスに電気怪獣のデータを与えることでエレキミクラスへとパワーアップさせようと計画する。だが敬愛していたセリザワのあまりの豹変ぶりに大きなショックを受けていたリュウはそれどころではなく、ミライとの初対面の場所でもあり、ふたりで「ウルトラ5つの誓い」を叫んだ、眼下を見渡せる小高い丘に来ていた。セリザワとの想い出を回想してしまうリュウ……
「教えて下さい! オレたちGUYSの存在意義って、何なんですか?」
これまで怪獣を倒してきたのはウルトラマンであり、防衛組織が怪獣を倒した実績なんぞほとんどないことをアーカイブ・ドキュメントで初めて知ったリュウはセリザワをこう問い詰める。するとセリザワは
「ひとつ! 他人の力を頼りにしないこと!」
と腰に手を当て、胸を張って叫んだあとにこう続けた。
「ガキのころ、友達が教えてくれたんだ。〈ウルトラ5つの誓い〉っていうらしい。ウルトラマンが残していった言葉だそうだ」
「人類はこれまで幾度となくウルトラマンに救われてきた。それは、俺たち防衛チームが、限界まで戦い抜いたときだけ、ウルトラマンが現れるんじゃないのか? 俺たちがいるから、ウルトラマンは俺たちを見捨てなかった。そう思わないか? リュウ」
GUYSにも立派な存在意義があることに気づかされ、満面の笑みを浮かべたリュウは「隊長、〈ウルトラ5つの誓い〉、オレにも教えて下さい!」と請う。それを受け、セリザワは今度は高らかにこう叫んだ。
「ひとつ! 腹ペコのまま学校へ行かぬこと!」
この際、リュウが一瞬「はぁ?」という唖然としたような表情を浮かべる。「そんなことホンマにウルトラマンが云うたんかぁ?」(笑)とでも云いたそうな。
リアル&ハード主義のマニアの方々であれば、『帰ってきたウルトラマン』第51話(最終回)のラストシーンを観てツッこんだ経験をお持ちであろう。そんな世俗的な、生活習慣に関する説教みたいな誓いを、どうしてウルトラマンにやらせるのか? 神であるウルトラマンを擬人化するな! 矮小化するな! などとグダグダと(笑)。
いや、マニアならずとも初めて「ウルトラ5つの誓い」を知ることになる一般からも当然のように予想されるツッコミに対し、先に登場人物にそれを演じさせることで予防線を張り、その危険を回避しているのは実にウマイ!
でもねえ、この十数年来朝食をとらない児童が激増し、問題となっていることを思えば決してバカにはできない言葉だし、35年前にそれを予見していたかに思えるほど『帰ってきた』のスタッフは先見の明があったと思うぞ!
だから筆者も朝食は絶対に欠かさないし、天気のいい日には必ず布団を干すし、道を歩くときには車に気をつけているぞ! ただ「他人の力を頼りにしないこと」と「土の上を裸足で走って遊ぶこと」に関しては、ガキのころから全然守ってないけど(爆)。
「その青い体、宇宙警備隊員でない君が、なぜこの地球で戦っているんだ!」
第2期ウルトラファンにとっては思わず狂喜してしまうこのミライのセリフに対し(ツルギはメビウスらと同じM78星雲人。つまりウルトラ一族であったのだ!)、セリザワ(ツルギ)は地球がボガールの餌場であり、この地球から、そして宇宙からも怪獣が頻繁に出現しているのはボガールが自分の餌として呼び寄せているためだと明かす。
レギュラー悪が地球侵略を目的とするのではなく、己の生理的欲求を満たすために怪獣を出現させるという発想。これひとつとるだけでも『メビウス』は極めて斬新な作品であると云うべきであろう!
それにしても、怪獣を見てベロ〜ンと長い舌を垂らし、第6話で海中で浮遊して笑いをあげる不気味な描写に代表されるように、全身で悪を表現する、ボガールの人間体を演じる小山萌子の怪演技には、街で子供に石をぶつけられないかと真剣に心配してしまう(笑)。
ツルギやボガールの謎を小出ししながらもやはりギャグ演出は忘れられておらず、エレキミクラスを誕生させる過程で装置の故障により誕生した、数十センチサイズの新たなマケット怪獣リムエレキングが基地内で巻き起こす騒動がまた絶品! いつの間にかサコミズの肩にチョコンと乗っかっていたり、GUYSの社員食堂に突然現れ、捕まえようとしたジョージが感電して髪が逆立つは(ラスト近くまでそのまんま!)、ようやくリムエレキングが消えたことに安堵してトリヤマが「あ〜、良かった良かった」と胸をなでおろす仕草は、『8時だヨ! 全員集合』(69〜85年)における加藤茶の「いやあ〜、まいったまいった」を彷彿とさせた(笑)。
さらにはサコミズの「ガイズ、サリー・ゴー!」に対して、水枕を頭に当てたままのジョージが皆に遅れてねぼけた調子で「GIG!」とやってしまうほどの、絶妙なギャグのセンスは、『タロウ』をも既に超越している!
「その体は君のものじゃないだろ! セリザワさんを待っている人がいるんだ!」
ボガールを前にツルギに変身しようとしたセリザワをミライは制止し、メビウスに変身してボガールに立ち向かう! だが……
「待てよセリザワ隊長! なんで無視すんだよ!」
以前と変わることなく自分を慕うリュウの眼前で、セリザワ前隊長は正体を隠すこともなくツルギに変身し、ボガールと戦うメビウスもろとも宿敵を葬り去ろうとする……