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ウルトラマンエース16話「怪談・牛神男」


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#16「夏の怪奇シリーズ 怪談・牛神男」

(脚本・石堂淑朗 監督・山際永三 特殊技術・田渕吉男)
ファミリー劇場ウルトラマンA』放映・連動連載!)
(文・久保達也)
 TACの吉村隊員は竜隊長のはからいで、父親の十三回忌のお盆に郷里の岡山へと帰省した。吉村と新幹線の道中でいっしょになった青年・高井は、罰当たりにも肉牛を供養する鼻ぐり塚から鼻輪を盗みだして腕輪とし……


 前作『帰ってきたウルトラマン』(71年)第36話『夜を蹴ちらせ』で吸血宇宙星人ドラキュラスを、第43話『魔神月に咆(ほ)える』で魔神怪獣コダイゴンを、第47話『狙われた女』でひとだま怪獣フェミゴンを登場させ、怪奇・伝承話がお得意の石堂淑朗(いしどう・としろう)の『A』初参加作品はやはり『夏の怪奇シリーズ』であった。
 『帰ってきた』第30話『呪いの骨神(ほねがみ)オクスター』で水牛怪獣オクスターを登場させた石堂だが、今回は食肉牛の怨念が取り憑きヤプールによって人間が怪獣化した(!・フェミゴンもそうだったが)牛神(うしがみ)超獣カウラを登場させている。


 01年に日本で初めて狂牛病の発症例が報告されて以来これまでに全頭検査で発覚した20数頭の牛が伝染を防ぐために殺されてきた。今回登場する岡山県の吉備津(きびつ)神社にある鼻ぐり塚には肉牛が600万頭祀られているという。


 余談ながらこれ(DVD)を観る数日前に愛知県新城市で黒毛和牛が脱走した騒ぎの報道を目にしたため、人間の欲望のために飼育されて殺される運命にある彼らの境遇を余計に哀れんだものだ。
 だから「牛は食われるためにおるんじゃろ?」などとおごりながらステーキをほおばる人間がカウラに食われる場面は筆者的には観ていて小気味良いくらいだった。
 筆者は本当はこういう描写は苦手なのだが(だからホラー系作品はほとんど観ない)、自然の摂理を自ら破壊しながらろくに反省もせずに蛮行を繰り返していたらしまいにはヤプールによってカウラにエライ目に遭わされるであろう。放映当時よりも現在の方が迫真をもって感じられる恐怖であると筆者的には感じられる。


 (05年)現在も活躍する名バイプレーヤー・蟹江敬三(かにえ・けいぞう)が演じる高井という70年代前半の長髪バンダナ髭面のヒッピー風青年が全編にわたってその奇行で大活躍。
 アドリブも多々あるのだろうが、生き生きした愉快なセリフ廻しの応酬が大得意な石堂脚本の面目躍如。
 岡山へ新幹線で帰省する吉村隊員の隣の席に座った高井は吉村がTACの隊員であることを知るや、


 「科学技術の先端をゆくTACの隊員ともあろうものがお盆に墓参りだとお?」


 などとポップコーンをほおばりながら
 「(コーンを)食べる?」
 

 「おかずにしなよお」
 と吉村の駅弁のおかずを交換としてくすねたり散々ケチをつけまくるが、瓢々としたセリフ回しなので頭にくることもなく(吉村はさぞ迷惑だったろうが・笑)、見ていて実に微笑ましい。


 岡山に着いても「ディスカバー・ジャパン!」(直訳・日本発見)と吉村に強引に観光案内を頼み、吉村の実家にまで押しかけて挙句の果てに一泊までもしてしまう(笑)。


 連れていかれた吉備津神社の鼻繰り塚で吉村が止めるのも聞かずに鼻輪を盗んで右腕につけた高井は、ヤプールによって肉牛たちの怨念を背負わされ、鼻輪が右腕を締め付け外れなくなり(牛の呪いなど非科学的だと公言していた手前、まさか? と自分を騙し続けるあたりが心理的にリアル)、鼻輪の周囲から牛毛が、翌朝には頭に小さなツノが生え、次第に牛のヒヅメある四脚、そして牛の顔の牛神(うしがみ)男へと変化を遂げていく。


 それまでがコミカルな演出だったこともあってムードは一変するが、それも蟹江敬三の絶妙な演技があってこそのもの。吉村の実家で出された朝食を「まずい!」と放り出し、四つんばいになって庭の草を「うまい!」と食べてしまう。自身の変化が信じられずに体をくねらせながら外を放浪し、


 「イヤだよう、葉っぱがうまいなんてイヤだよう〜!」
 「オレは人間なんだよう〜! 牛じゃないんだよう〜!」


 と嘆き悲しむ高井につきまとうヤプール人のひとりの変身とおぼしき不気味な雲水(うんすい=修業僧)もなかなか良い味を出しており、『夏の怪奇シリーズ』の中では最も怪奇性の強い出来映えとなっている。


 岡山中心街から牛窓(うしまど)町のオリーブ園へオリーブの木を食わんと進撃するカウラによって一帯がタンクのオリーブ油で爆発炎上するのを防ごうとTACが一斉攻撃を加える場面では、『ウルトラセブン』(67年)第11話『魔の山へ飛べ』で宇宙竜ナースに苦戦するセブンの場面などで流れた音楽が流用されており、危機感をあおり立てるのに絶大な効果をあげている。



<こだわりコーナー>
*今回は吉村隊員の帰省先の岡山で事件が起きるが、前回の今野隊員の帰省先も岡山だった。そういや北斗と夕子は広島だったよな?(笑) ここまで同じ地方の出身者が揃った防衛チームも珍しい(もちろん30分番組は(1時間番組でも)2話分を1班体制で同時に撮影していく都合からなのだが)。
 後日付記:と思っていたが、今野隊員の出身の設定は九州。よって、岡山は出身地ではなく、親戚のウチということだそうな(汗)。
*今回セリフとして登場する「ディスカバー・ジャパン」は当時の国鉄(現・JR)の観光用キャッチフレーズ。なお劇中のセリフにもあるように当時の山陽新幹線は岡山が終点であった(72年3月15日に開業。『A』放映直前のことであった)。現在のように博多まで延長されたのは『ウルトラマンレオ』(74年)放映終了直前の75年3月10日のことであった。


*本話はTACの中では我々凡俗に近い普通人・常識人の吉村隊員が主役だからこそ、非常識で不信心な都会の若者に彼が困惑させられることで、ヒッピー高井の奇矯さを引き立たせてくれている。これが血気の多い北斗や山中だったら、高井を殴りつけて話が別の方向へ行ってしまいそうだ(笑〜第11話『超獣は10人の女?』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060731/p1)で南を心配させた北斗を思わず殴りつけた今野隊員でもまたヤバそう)。
*今回の吉村隊員は70年代黒髪サラサラ長髪が程よく伸びてそれをキレイにセットし、笑顔もよくて甘〜いイイ男ぶりが良く出ているぞ。吉村のあまりに普通な下の名前・公三(こうぞう)が劇中で言及されるのも本話が初か? 休暇中でも持参していたTAC制服に着替えて、単身で超獣に挑む勇ましさにも注目。


*吉村隊員の母親役は磯村千花子。オリーブマノン化粧品の販売代理店をしているという設定なので実に上品な婦人として描かれているが、次作『ウルトラマンタロウ』第13話『怪獣の虫歯が痛い!』、同第51話『ウルトラの父と花嫁が来た!』では全く180度印象が異なる役を演じており(今度は防衛組織ZAT(ザット)の南原隊員のあの強烈な母君!)、とても同一人物とは思えない。この魅力については『タロウ』評の際に触れてみたい。


*オリーブマノン化粧品だが、89年に上京した際に東京駅近くに看板があるのを新幹線の車窓から発見し、「あの牛神男の」と思ったものだ(岡山に本社があるのか、あまりCMなどもお目にかかったことがなかったので)。この10年ほど全く上京していないのだが、現在でもあの看板は存在するのだろうか?
*そのオリーブマノン化粧品の紳士な社長もなぜだか登場(演技が上手いのでもちろん役者さんだろうが)。吉村親子の墓参りの帰りに牛窓の本蓮寺の門前にて出会う。


 「この立派な青年はTACに行っているという息子さんかな?」。


 ……母も自慢の息子を持ったものだ。
 社長はそんな吉村に敬意を表してか地元の名士代表としてか、岡山県牛窓に多数ある牛窓古墳や太平洋戦争中に植林したオリーブ園、オリーブということでギリシャにあやかったらしいパルテノン神殿の柱の模造などを親子に観光紹介。
 牛窓は「万葉集」にも詠われている古い港だそうな。前話に続きサイレンではなく鐘を鳴らして怪獣出現を知らせるあたりも旅情がある。各人のセリフに多少観光案内的な詳しさがあるがそれはご愛嬌として観るのが大人の態度だろう(笑)。
 ただしカウラの猛攻で牛窓古墳の坑道に吉村が閉じ込められ、さらに奥に退避するなどドラマにも絡めている点には注目。


*怪奇編ということだけではなしに岡山ロケ編の脚本を任せられた理由は、石堂淑朗大林宣彦監督の映画でも有名な山陽は隣県の広島県尾道(おのみち)出身のゆえだろうか?



高井「こうやって祀(まつ)るくらいならさあ、最初から喰わなきゃいいんだよ。殺しといてから祀るなんてのはインチキ極まるよ」。
吉村「まあそれはそうだけど、せめてもの心やりというわけでしょ」。
 こういう物事の多面性を捉えたセリフのやりとりは良いね。他の生物(植物も含む)を食して生命をつなぐのは生物の宿命でもあるのだし。


*山中隊員はTAC本部作戦室でサングラスをしています。梶研究員も作戦室で待機を命じられるわずか1シーンの登場ながらもしっかり芝居をしています。


*超獣カウラは牛が直立して二足歩行になって、腰に簾(すだれ)を垂らした青い服を着たようなスタイル。鼻息も荒く足を踏みならす。
 前話でエースの新光線技を2種も見せてくれた鬼才・田淵吉男特撮監督は、本話でもカウラの頭頂部から発する紫色の細い光線が幾条も時間差をもって放たれるという独自さを見せてくれる。前話同様の紫色のスモークをバックにカウラはエースを幻惑もする。
 牛窓のオリーブ園でのバトルだけではなく、実在とおぼしき非常に精巧なデパートのミニチュア破壊と中の客の悲鳴が途切れる演出も要チェックだ。
*超獣カウラは、第52話(最終回)『明日(あす)のエースは君だ!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070429/p1)に登場したあまたの超獣の合体再生である最強超獣ジャンボキングの頭部〜前脚部に転生を遂げた。


*本話のAパート終了直後、中CM前の『ウルトラマンA』のメインタイトルロゴによるアイキャッチは、今回に限り効果音が違う。いつもの、♪ ウルトラマ〜ン、エ〜ス〜〜、カーン! の末尾のカーン! の箇所が、ズッコケた効果音に差し替えられている。本話のコミカルな内容に合わせたお遊びだろう。
*この第16話は蟹江敬三が星人ブニョを演じた『ウルトラマンレオ』第50話『恐怖の円盤生物シリーズ! レオの命よ! キングの奇跡!』や、やはり蟹江が演じ、何回逮捕されても出所しては犯罪を繰り返すモチヅキゲンジがセミレギュラーとして(笑)登場する『Gメン’75』(75年)とともに『TVジェネレーション』(93年・TBS。司会・山田邦子/辰巳啄郎/松村邦洋)で紹介され、「蟹江敬三をさがせ!」として視聴者に対して蟹江敬三が変わった役を演じた番組の情報を呼びかけたが結局何も寄せられなかったようで企画倒れになってしまった……


*視聴率18.0%


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2006年号』(05年12月30日発行)『ウルトラマンA』再評価・全話評大特集より抜粋)



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