(脚本・石森史郎 監督・筧正典 特殊技術・川北紘一)
(文・久保達也)
高速で走る物体の金属音を嫌う鈍足超獣マッハレスが登場。
新幹線を破壊するシーンが見られるが、実は『ウルトラマン』(66年)と『ウルトラセブン』(67年)においては、『ゴジラ』(54年・東宝)以来怪獣映画の名物となっている鉄道破壊が全く描かれていない。リアルに再現しようとすればミニチュアに莫大な手間がかかるためと考えられるが、本作ではこれに果敢に挑戦しているのだ。
まあこの点だけを掲げて『A』が『マン』や『セブン』よりも上だ、などと主張するつもりは毛頭ない。
が、同時期の『シルバー仮面』(71年)第11話『ジャンボ星人対ジャイアント仮面』や、『アイアンキング』(72年)第1話『朝風の密使』および第15話『マラソン怪獣カプリゴン』(なんとたったの6両編成である・笑)などに登場した新幹線のミニチュアと比較すると、さすがに下請け現場は東宝の特撮美術陣、車両や架線などはるかに精巧につくられており、『マグマ大使』(66年)第2話『宇宙怪獣モグネス襲来す』で破壊された新幹線に匹敵するほどの出来の良さである。
そういや『ジャイアントロボ』(67年)第12話『合成怪獣アンバラン』に登場した新幹線はどう見ても当時発売されていたブリキ製の玩具だよなあ(車体側面に「超特急ひかり号」の文字が見えたような・笑)。
さて今回はこのマッハレスにレースカーの設計に没頭する優秀な自動車エンジニア・加島(かしま)を絡ませた作品であり、第3クールレギュラーのダン少年も全く登場せず、この時期としては珍しく大人向けのドラマが展開されている。
加島は孤児だった自分に中高生のころ親しくしてくれた北斗に対しては心を開いているが、一方で
「貧乏だと馬鹿にした奴らを見返してやるんだ!」
との強い執念を持ち、金と名誉に執拗にこだわりを見せている。
加島が開発中の設計図を金庫に保管せず、アタッシュケースに入れて常時持ち歩く姿を指して、自動車雑誌記者に
「自分以外のものは信用できないんだ」
と云わせるあたりが実にうまい。
そんな加島の心の隙間を見透かし、
「あの人はとても自信家に見えますけど、背中を見ているととっても寂しそうなんです!」
と母性本能を発揮し、加島にかまおうとする純真な女性・真弓はプロポーズしてくれた男がいるにもかかわらず、
「あたし、誰とも結婚する気はありません。加島さんだけです!」
となんとも一途。こんな純朴な女性に惚れられてみたいものだが、管理人からカギを借りて勝手にマンションの自室に入り、妻を気取るのだけはさすがにひくぞ(笑)。
にもかかわらず加島は真弓を邪険に扱う。これを非難する北斗に対し、加島は「金と名誉が手に入ればそれにふさわしい女ともつき合える」と豪語し、「孤児だった俺の気持ちがわかってたまるか!」と叫ぶ。
ほとんどまともに評価されているのを見たことがない『A』第3クールだが、ほぼ毎回のように人間の内面を鋭くえぐり取る壮絶なドラマが展開されており、一体誰が何を指して「第2期ウルトラにはドラマがない(笑)」などとと云いだしたのか、わけがわからないくらいである。
そして人間ドラマだけで終わらないのがまた第2期ウルトラのよいところ。
加島が研究していたレースカーがマッハレスに襲撃され、研究施設も破壊されようとする。
あわてて逃げ出したために設計図を机に置き忘れてきたことに気付いた加島が施設の建物に走りだし、真弓があとを追う。それに迫るマッハレスという構図がスリル満点である。
その中でドラマが劇的な展開を見せる。階段で転倒して動けなくなった加島の代わりに真弓が設計図を納めたカバンをがれきが降る中、必死で守り抜くのだ!
ふたりを守るために北斗はエースに変身ポーズなしで変身のパターン破り! 瓦礫と化した建物をブチ破って登場するエースにマッハレスは思わずひっくり返る!
そして竜隊長は
「我々はスペース(戦闘機タックスペース)の爆音で超獣の注意をひきつける。その隙にやっつけてくれ!」
と華麗な連携プレーを展開。第9話『超獣10万匹! 奇襲計画』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060708/p1)で同じく東宝の田淵吉男特撮監督も試みたように、タックスペースはキリモミ飛行したりもする!
ここでエースとマッハレスの長尺の戦いを彩るのはなんと『タックの歌』の歌詞入りバージョン! ボリュームたっぷりで爽快感あふれる凝ったバトルを繰り広げる。
マッハレスの背びれを剥ぎ取り、星の形をした(!)スター光線とメタリウム光線をエースは放つ!
浴びたマッハレスは着ぐるみのあちこちに仕掛けられたフラッシュによって爆発のイメージが表現されている! 着ぐるみのこうした電飾は川北紘一が特撮を担当した回でよく見られる。
エースが勝利するまでの一連の場面では、主題歌のテレビサイズがまるまる流れ終わったところで終わっており、本編・特撮・音楽と、全ての演出が絶妙にマッチしている。
空に帰るエースに向かって、スペースを操縦中の隊員たちが敬礼するカットも気持ちいい。
ラストシーンで加島は真弓が命がけで守った設計図を川に捨て、
「本当に大切なものがわかったんだ」
と真弓を受け入れる決心をする。
前回の第36話『この超獣10,000ホーン?』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070109/p1)同様、音に反応する超獣という題材が2話連続で続いてしまったことだけは欠点であるが、視聴しているとそんなことは気にならなくなっていく。
「人々は再び新幹線の旅を楽しめるようになった。ウルトラマンエースの〈ヒューマン〉な行動に感謝しながら」
というエンディングナレーションが象徴するように、濃密な人間ドラマに溢れた傑作である。
<こだわりコーナー>
*北斗との会話の中で真弓の故郷が大林宣彦監督の映画で有名な山陽は広島県南東部の尾道(おのみち)であることがわかる
(本話担当ではないが、脚本家・石堂淑朗(いしどう・としろう)の出身地でもある)。
広島県福山市で育った北斗と加島が中高生時代をともに過ごしたことから考えると、真弓は加島と幼馴染みであり、彼を追って研究施設のある静岡県御殿場市(ごてんばし)まではるばるやって来たのであろう。
真弓を演じた三笠すみれ(芸名も純朴そのもの)はいかにも地方出身の清楚な女性という趣でキャスティングもピッタリ。こうした純真さを匂わせる女性が現在では「絶滅危惧種」であることが惜しまれる……
*まいえ宏満が演じた加島はその風貌もさることながら、感情の起伏があまりなく、淡々とした喋り方など、変な話だが05年秋に耐震強度偽造問題で世間から非難を受けた元一級建築士の男とあまりに酷似している。
この男も幼少のころ父親が失踪し、母一人子一人の生活で貧困に苦しんでおり、加島同様「貧乏だと馬鹿にした奴らを見返してやるんだ!」との想いで一級建築士にまで上りつめることができたのではなかろうか。
金と名誉に固執したあまりに人間らしさを失ってしまったのも加島とまったく同様である。もしこの男が真弓のような存在と出会えていれば……と思うと残念でならない(やったことは確かに悪質だが……)。
*本話の脚本家はこの時点で既にキャリアのあった石森史郎(いしもり・ふみお)氏。60年代前半にテレビドラマでデビュー、60年代は日活映画で活躍し70年代には松竹映画に舞台を移し、そのあとも多数の映画やTVドラマの脚本を手がけた御仁。どういう経緯でジャリ番である本作に関わることになったのか?
本作を皮切りにジャンル作品関連では、SF作家・平井和正原作のウルフガイシリーズ第1作を映画化した『狼の紋章』(73年・東宝)、東映変身ヒーロー『ザ・カゲスター』(76年)、劇場アニメ『銀河鉄道999(スリーナイン)』(79年・東映)、TV時代劇『必殺』シリーズ第15作『必殺仕事人』(79年)以降の『必殺』シリーズなどにも関わっていく。
「はてなダイアリー」の「キーワード」などによると、『必殺』には『必殺仕事人Ⅲ』(82年)以降、石森自身が手がけた映画『約束』(72年)の登場人物の名前を流用した中原朗(なかはら・あきら)名義で参加。この名義ではTVアニメも多数手がけている。『まんが日本絵巻』(77年)、『科学忍者隊ガッチャマンF(ファイター)』(79年)、『未来ロボ ダルタニアス』(79年)、『ワンワン三銃士』(81年)、『うる星(せい)やつら』(81年)、『科学救助隊テクノボイジャー』(82年)など。東映変身ヒーロー『世界忍者戦ジライヤ』(88年)の第1話なども中原名義で参画。
(編:中原朗名義の『必殺仕事人Ⅲ』以降の『必殺』脚本は、私見ではそれまでの石森名義のときのワークスよりも明らかにレベルが低いと感じるので、シナリオ学校の生徒かお弟子さんに書かせているのではないかと勝手に推測(笑)。
なお、『ゴジラ』初作(54年)の時代から特撮美術に関わり、第2期ウルトラや『北京原人の逆襲』(77年香港・78年日本公開)に平成『ゴジラ』シリーズでは美術監督を務め、その後も各種テーマパークの美術監督などで活躍される鈴木儀雄氏から第2期ウルトラのシナリオを多数譲渡された特撮評論同人の友人・ヤフール氏によると、本話の脚本の名義は石森史郎ではなく長坂秀佳であったとか。果たして真相は? 個人的には長坂というより石森の作風という印象を受けるが……)
(編・後日付記:ファミリー劇場『ウルトラ情報局』での石森氏出演回の発言で、当話が石森執筆回であることを裏打ち)
*視聴率18.3%