(脚本・石堂淑朗 監督・鈴木俊継 特殊技術・川北紘一)
(文・久保達也)
「獅子舞いなんかやめてしまえ!」
と酔っぱらいに投げ飛ばされた獅子舞の名人が、どこかから拾ってきた邪神カイマの御神体を祭壇に飾り、日本古来の伝統文化を邪険に扱う者たちを呪い続ける。
獅子舞衣装を「超獣ごっこ」に使ってしまった息子の新太少年はカイマ様の怒りをかい、獅子超獣シシゴランに変えられてしまう。
さらにカイマ様は獅子舞名人を洗脳し、太鼓でシシゴランを操らせるばかりでなく、自らも邪神超獣カイマンダとなり、東京の下町を徹底的に破壊する……
『帰ってきたウルトラマン』第43話『魔神月に咆(ほ)える』で同じく御神体が怪獣化した魔神怪獣コダイゴンを登場させ、『A』第16話『怪談・牛神男(うしがみおとこ)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060903/p1)で肉牛供養の鼻ぐり塚から鼻輪を盗みだした罰当たりな若者が怪獣化した牛神超獣カウラを、第38話『復活! ウルトラの父』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070121/p1)で日本古来の神様を顧みない日本人たちに制裁を加える伝説怪人ナマハゲを登場させた脚本家・石堂淑朗らしい作品だが、たったひとりの酔っぱらいにエライ目に遭わされたくらいでなんでここまで……と嘲笑する向きもあるかもしれない。
だが現実を見てほしい。獅子舞名人と同様のほんの些細な理由で一体どれだけの凶悪犯罪が起きていることか!
人の心の痛みというものはとてつもないマイナスエネルギーとなって巨大化するのである。これは『怪奇大作戦』(68年)や『ウルトラマン80(エイティ)』(80年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971121/p1)でも描かれていた、人間の根源に迫る重厚なテーマなのである。
怒りに燃えるシシゴランが下町で暴れ回る場面ではオープン撮影で下からあおって撮影したり、街を踏み潰すシシゴランの足のみを撮るなどの技法もそうであるが、下町の材木置場や公園のジャングルジムに至るまで精密につくられたミニチュアセット群が迫力を増している。
シシゴランの目から発射される破壊フラッシュ、カイマンダが口から吐き出す火炎放射(背中に火輪を背負っているばかりでなく、全身に火炎を肩取った意匠がデザインされているのが秀逸である)によって、北斗が徹底的な爆発と炎に包まれる中でウルトラマンエースへと変身!
主題歌のTVサイズが流れる中でエースが二大超獣と激闘を繰り広げ、まずカイマンダに炎を思わせるかの如く両手が赤く発光したフラッシュハンドの連続チョップ攻撃を浴びせ、額のビームランプから発するパンチレーザーとグリップビームの連続攻撃で爆発四散させるさまはこれぞカタルシス!
だがシシゴランに対しては新太少年が中に閉じ込められているためにうかつに攻撃ができない。それをいいことにシシゴランはエースに対して猛威を奮う!
シシゴランを操る怪しい太鼓の音を追ってきたTACは獅子舞名人を追いつめたが、人間であることからどうにも手が出せない。
だが竜隊長は獅子舞名人が何かに操られていると迅速に判断し、TACガンで太鼓を破壊する!
するとシシゴランは急速に弱体化し、メタリウム光線で倒されると新太は無事な姿で戻ってきた。この華麗なる連携プレーは実に見事である。
ラストシーンで名人親子はTAC本部で獅子舞を披露、一年間の魔除けを行った。
伝統芸能が次々に失われ、実際の獅子舞にお目にかかることも難しい現代において、フィルムに記録されたこうした描写はまさに貴重な文化資料の趣があり、作品の海外輸出の際には絶好のセールスポイントとなるだろう。なんせハリウッドで芸者が主役の映画が製作されるご時世だから。
<こだわりコーナー>
*邪神超獣カイマンダは背中の輪の上半分が終始燃えている(!)。こんな怪獣は空前絶後だ。
第39話『セブンの命! エースの命!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070129/p1)に登場した火炎超獣ファイヤーモンスの長剣はエライ勢いで燃えていたが、カイマンダの火勢は安全な弱火みたいな感じ。ただしガスの青い炎ではなく、ちゃんと赤く燃えている。
カイマンダも今見るとインド・バラモンの神のような姿がなかなかシュールな感じで魅力的。
*本話も特撮シーンにおける東京下町のミニチュア造形物種々雑多の精密さ、その数の膨大さ、それらをナメて横移動する特撮演出のぜいたくさには目を見張る。
もうコレだけの質&量のミニチュアを多数用意することは、90年代以降の日本特撮の商業規模においては不可能であろう。
*前回の大村千吉(おおむら・せんきち)に続き、今回も『ゴジラ』以来東宝特撮映画の常連俳優だった堺左千夫(さかい・さちお)が獅子舞名人の役で出演している。
氏は新聞記者など気のいい人の役が多かったが、今回は怨念にとりつかれた男を鬼気迫る表情で怪演しており、ちょっと珍しい役どころである。
だが同じく東宝特撮映画の常連だった山本廉(やまもと・れん)は、同時期にスタートしたばかりの円谷プロの『ファイヤーマン』(73年)において相変わらず怪獣の目撃者を演じていた(笑)。
*視聴率17.1%