(映画『西遊記』公開記念!〜短期集中連載!)
(文・田中雪麻呂)
(06年11月執筆・07年6月改訂)
テレビ版の『西遊記(さいゆうき)('06)』は平成18年1月よりフジテレビ系毎週月曜21時より全11話を放送。
初回の首都圏での視聴率が29.2%、平均で22.8%をたたき出す大ヒットドラマとなった
[因(ちなみ)に、本作の初回視聴率の高さは、『HERO('01/33.4%)』、『ラブジェネレーション('97/31.3%)』、『ロングバケーション('96/30.6%)』(3作ともに木村拓哉主演)に次いでフジテレビドラマベスト4である{'07年6月現在}]。
参考までに記すと、堺正章(さかい・まさあき)が孫悟空を演じて大ヒットし、以後の同趣ドラマの雛形となった'78年版の同名TVドラマの初回視聴率は19.4%で、最高視聴率は24.4%である。まだTVが“娯楽の王者”であった当時のデータを鑑(かんが)みても、本作の視聴率が如何(いか)に凄いかがわかる。
本作は当初、(編成的に)放送に適した枠(タイム・テーブル)がなく、プロデューサー以下苦慮していたところ、会社(フジテレビ)側から月9(げつく=月曜日夜9時の権威ある恋愛ドラマ枠)を推薦され、「ラブ・ストーリーに固執することはない」との助言も得られたために実現した企画であるという。
因(ちなみ)にこの企画自体は、劇場版('07)も含めて全ての脚本を担当した脚本家・坂元裕二――『同・級・生('89)』『東京ラブストーリー('91)』『二十歳(はたち)の約束('92)』などの作品が有名――の持ち込みであるそうだ。
本作のキャッチ・フレーズは
[ヒーロー不在の世の中に]。
そのフレーズ通り、本格的な殺陣(たて)をふんだんに取り入れたエンタテインメント作品に仕上がり、この年一番のヒットドラマとなった。
プロデューサーの鈴木吉弘氏はその核として、徹頭徹尾に“子供のため”にこだわったという。
ハイビジョン放送で明るくクリーンな映像、泣きや笑いの要素の強化、物語は暗くしない、衣装などの色彩は派手に、悪い妖怪でも殺さずに捕まえる、孫悟空(そんごくう)らヒーローの得物(武器)が敵にヒットする際は(画面上では)寸止めにして描写をぼかすなど、画作りには細心の注意を払っている。
そのこだわりは、本作のロケ地選びにも明確にあらわれている。
抜けるような青空と人跡未踏な趣の大渓谷(だいけいこく)、そして広大無辺な大砂漠の景観などを求めて、'05年11月1日より約1週間に渡り、メイン出演者5人を含む苛酷な大ロケーションがオーストラリアで敢行された。
中でもシドニーから車で4時間もの距離にあるストックトン砂丘(さきゅう)での撮影は最高気温が35度にも達し、熱に浮かされた孫悟空役の香取慎吾が突然テントの地面をスコップで掘り始める、という奇行を演ずる一幕もあったそうである。
国内ロケは、茨城県のテーマパーク・ワープステーション江戸(#1の焼けた町並み、#3冒頭の中国風の茶店などのシーン)、鳥取県の東郷湖畔の燕趙園(えんちょうえん)なる中国庭園(#2の温泉宿の外観から中庭、#5の老子の邸宅、特番での猪八戒(ちょはっかい)の邸宅など)、静岡県伊豆市や伊東市など多岐に及び、ドラマの世界をリアルなものにしていた。
因に、初のロケ収録('05 10/24)は国内。#1で、夜半に降り注ぐ火炎の雨から逃げ惑う孫悟空(香取慎吾)のカット。
映画やドラマの収録では、何故(なぜ)かファーストカットに“火にまつわるシーン”を撮ると演技がよいというジンクスがあるので本作もそれに倣(なら)ったものと思われる。
'78年版の同名ドラマでも殆(ほとん)どのロケ地は静岡県御殿場(ごてんば)(東京から最も近いため)だったことを考えると、30年近く経ってもあまりロケの状況は変わっていないようで何やら微笑(ほほえ)ましい。
考えてみればこのシリーズは、いつも海外ロケの話題性とともにあったと言ってよいだろう。
前述の『西遊記('78)』では#7、8の一部を台湾の野外大オープンスタジオで(同所のアクション俳優とともに)撮影。
『西遊記Ⅱ('79)』ではタイトルバックのみ中国にて堺正章らメインキャスト(三蔵法師役の夏目雅子、玉竜{ぎょくりゅう}役の藤村俊二はこのロケに不参加)がロケを行い、『西遊記('93)』(単発スペシャル)で初めて中国・上海(シャンハイ)で本格的なロケを敢行した。
中国ロケのスタッフとエキストラは殆ど現地の人々を起用したために、伝達ミスで悟空役の本木雅弘(もとき・まさひろ)が怪我を負うなど大変だったという。
番外編として、88年に(株)にっかつよりリリースされたAV(アダルトビデオ)、『妖艶西遊記(ようえんさいゆうき)』がある。
これは破格の製作費を投入し、全編台湾ロケを敢行して大いに話題となった。もちろん同趣の作品としては初の試み。台湾映画界の全面協力も受けている。
形式としては序破急(じょ は きゅう)の3巻の続き物で全3時間という大作。配役にもAV界のオールスターキャストを揃えた意欲作であった。
配役は、三蔵に風間零、観音菩薩に白木麻弥、妖怪銀角(ぎんかく)に(株)にっかつの肝入りで87年に結成されたセクシーグループ“ロマン子クラブ”の会員番号No.7の瀧口裕美(藤崎美都改め)、村娘・翠蘭(すいらん)に立原友香、羅刹女(らせつにょ)に郄樹陽子、牛魔王の愛人・玉面公主(ぎょくめんこうしゅ)に台湾ポルノ女優の吉翔羚と百花繚乱。
また彼女らは全員芝居の基礎ができていて見ていても危な気がなかった。
そして孫悟空役は堺正章にチョイ似の演技派男優・日高否太(平貫、平賀勘一などの名義で現在も活躍中!)。
特撮シーンも多く、ワイヤーで吊り下げた俳優に桃色の雲をビデオ合成した筋斗雲(きんとうん)、妖怪に翻弄される三蔵をコマ落としで撮影、妖怪の怒りの描写に俳優へ炎の画像を合成、劇中の難所である活火山・火炎山(かえんざん)のミニチュア模型を製作、等々画作りの工夫が横溢(おういつ)。巻末にはメイキングも収録している。
今でも時々、中古ビデオ屋のワゴンセールで1本400円くらいで売られているのを見かけるので、興味のある方はどうか御視聴を。損はしません!
そして満を持して本特集の香取慎吾版『西遊記』が雄大なオーストラリアの絶景を引っ提げてこの平成の御世に還ってきた!
『西遊記』とは、7世紀に取経の旅をした高僧・玄奘三蔵(げんじょうさんぞう)の実話をベースに描かれた多くの物語が、16世紀(明(みん)の時代)になって編纂され、小説として完成された、中国四大奇書のうちの一つである。
日本での『西遊記』の連続ドラマは過去に三回製作(全て日本テレビ。'78・'79・'94)され(93年に単発スペシャルも一回製作)、今回のドラマ化はそれから実に12年ぶりのことである。
主役の孫悟空役は現在の日本を代表するアイドルグループ・SMAP(スマップ)の一員・香取慎吾(かとり・しんご)。
本作の鈴木吉弘プロデューサーは、香取の起用を以下のように語っている。
「香取くんの演じた“忍者ハットリくん”(筆者註:『NIN×NIN 忍者ハットリくん THE MOVIE』'04)を見たのが大きいです。ああいう非現実のキャラを演じるのは大変に難しいんです。笑いの部分では軽演劇的才能が要り、最後は二の線でキメなくてはいけない。振り幅が大きいのでキャラ自体が壊れやすいし、壊さないように抑えると全くつまらなくなる。これは孫悟空と同じなんです。香取くんが演れば王道のエンタテインメントが作れると直感しました。
勿論、CG(コンピューター・グラフィック)みたいなことではハリウッドのファンタジーにはかなわない。だけどディテールにこだわることで新しさを演出していくつもりです。
鈴木Pは謙遜していたが、CGには力が入れられている。
CG専門チームが約30人(通常のドラマの20倍以上のシステム規模)編成され、実写に1フレームずつCGを合成するという地道で繊細な作業に従事した。
クランク・インの3ヶ月前からチームは、孫悟空が乗って空を飛ぶ(筋斗雲)の雲の制作などに取り掛かっていたという。
既製のCGは「有るものを消す」という使い方が主流だったが、本作では逆に「無いものをあるようにする」がコンセプトである。
たとえば、筋斗雲では寄りのカットでは実写の悟空にCGの背景、引きのものでは悟空をCGにして実景を合成するという具合である。
そういう前評判もあってか、本作の海外からの買い付けのオファーも、初回放送日のかなり前から殺到していたという。
結局、韓国、香港、台湾、シンガポールの4国で日本とほぼ同時期に放送され、タイ、マレーシア、英国、中国などでも順次、放送されている。
また、航空会社JAL(ジャル)と提携し、劇中の衣装を着た出演者たちが飛行機の機体にプリントされた“西遊記JAL悟空”号の登場や、各種ツアーのメイン・キャラクターを香取慎吾演ずる悟空が担うなど、アジア旅行の良いイメージを作り上げた。
その流れで、'05 12/21のプレス対応の製作発表(クランク・インは同年10/10)をJAL悟空号の前で行い、そのまま同機機内にて番宣上映会が催された。
香取扮する悟空自ら取材記者たちに機内サーヴィスまで行い、正に異例尽くしの会見であった。
それから、小学館の「コロコロコミック」誌上ではドラマをコミカライズした漫画『西遊記ヒーロー! Go空伝!』が初回放送に先駆けて連載開始。キッズのハートをガッチリ掴んだ。
加えて、東急渋谷駅ホームには、ドラマのスケールの大きさをアピールするため、縦3メートル、横58メートルの日本最大('07年現在)のポスターが貼られ、乗客を驚かせた。
改めてフジテレビのタイアップ(相乗り商売)の巧さには舌を巻く。主演の香取もミスコンの優勝者よろしく延々とコキ使われていて実に気の毒(笑)だった。
『假面特攻隊2008年号』「西遊記」関係記事の縮小コピー収録一覧
・全話視聴率:関東・中部・関西(中部は#5・9欠。関西は最終回1週後の春休み突入SP欠)
・毎日小学生新聞 1979年X月X日(X) 堺正章らと中国京劇役者たちとのスナップ写真。
・スポーツ報知 2005年12月22日(木) 韓国、台湾、香港、シンガポールで同時期放送 香取「西遊記」 〜香取孫悟空がデザインされた日本航空ジェット機もお披露目
・ザ テレビジョン 2006年1月27日号 筋斗雲CGのできるまで 〜CGの絵コンテ素材
・中日スポーツ 2007年6月1日(金) 慎悟空ウッキッキ〜 〜香取慎吾(30)「27時間テレビ」で総合司会
・日刊スポーツ 2005年11月8日(火) 香取悟空軍団 ハエ地獄に仲間割れ!? 〜ビジュアル初披露紙・大枠記事
・朝日新聞 2006年1月1日(日) 復活「西遊記」フジテレビ系看板「月9」に 〜大枠記事
・週刊新潮 2006年12月7日号 ワイド特集〔天国はまだ遠く〕④香取慎吾の「西遊記」本場中国で「大ブーイング」
・映画「エノケンの孫悟空」(1940・昭和15)出演の岸井明(ジャズシンガーでコメディアン。猪八戒役)写真
・スポーツ報知 2007年1月12日(金) 映画「西遊記」5000万円セット 規模がすごい 〜調布・味の素スタジアムの横に全長50mの街並
・女性自身 2007年2月13日号 〜06年にはカンヌでリュック・ベッソン監督と孫悟空が会食
・週刊漫画ゴラク 2007年8月3日号 ゴラクランド極楽シアター北川れいこ 映像は派手だがドラマ的なインパクトは皆無な『西遊記』
・スポーツ報知 2007年6月19日(火) 金ピカ悟空 〜豪華試写会
・中日スポーツ 2007年6月19日(火) 慎吾空5900万円PR 映画「西遊記」完成披露試写会
・中日スポーツ 2007年7月4日(水) 慎悟空 能登に元気“注入” 〜3月25日の能登半島地震被災地・石川県輪島市門前地区の門前東小学校体育館で特別試写会
・週刊新潮 2007年9月6日号 ピカチュウに負けそうな香取慎吾「西遊記」 〜公称の目標興行収入は59億だがフジテレビは100億。40億台で終わりそう(最終45億)。『ポケモン』はお盆前に40億突破。9月のキムタク『HERO』も目標100億でキャストや公開規模も『西遊記』より上
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