(映画『西遊記』公開記念!〜短期集中連載!)
(文・田中雪麻呂)
《登場人物紹介》
孫悟空{そんごくう}………(香取慎吾)
花果山(かかざん)の石から生まれた石猿。
500年前に天上界で大暴れをして、釈迦如来(しゃかにょらい=唯一の史的実在の仏。劇中でキャラバンに旅を促したキーマン)によって同所の岩牢に閉じ込められる。三蔵法師によって牢から救い出され、彼の3番目の弟子となる。
乱暴で自信過剰だが、心の底では人間になりたいと思っている。何故か、仲間のことを“ナマカ”と誤称している。
得物は伸縮自在の万能棒の如意棒(にょいぼう)。飛翔術の筋斗雲(きんとうん)は木の葉形の鳥の羽根に術を掛けて大きくし、スケートボードの要領で空を駆ける。
尊号は“斉天大聖(せいてんたいせい=天ほども偉大な最高の位という意味)”。
三蔵法師{さんぞうほうし}……(深津絵里)
聡明で清らかな唐の高僧。本名は玄奘(げんじょう)、幼名はショウイ。
早くから父と死に別れ、母親の恵泉と2人で貧しさに耐えながら生活するも、彼が7歳のときに眼前で母を妖怪・混世魔王に惨殺される。その後、仁丹和尚に拾われる形で出家し、現在に至る。
やや理想主義に過ぎ、周囲へのフォローも欠かさないが、具体的なアドリブに弱いのでよく窮地に陥る。口癖は「大丈夫、大丈夫」。
観世音菩薩(かんぜおんぼさつ=仏さま。人々の悩みを救う大乗仏教の修行者)の命により、天竺(てんじく=現在のインド)大雷音寺(だいらいおんじ)まで取経の旅に出る。
猪八戒{ちょはっかい}………(伊藤淳史)
仔豚の妖怪。猪妖怪ばかりの村に唯一生まれた豚であり、幼時から差別と嘲笑を一身に受けてきた。そのトラウマか、あらゆる愛情を渇望している。
弱虫で食い意地が張っているが、心は善良で繊細である。自分を唯一愛してくれた母親と、生まれ育った貧しい村を助けるために三蔵の2番弟子となる。
得物は“九本歯”なる降妖杖(こうようじょう)。号は天蓬元帥(てんほうげんすい)。因にこの九本歯が、キャラバンの荷物の中で最も重く、3キログラムもあるという(『SMAP×SMAP』での言及より。ちなみに、原作では八戒の体重と同じ5040斤(約3トン)でお経一蔵分だったが)。
沙悟浄{さごじょう}………(内村光良)
水怪の河童(かっぱ)。クールなリアリストだが、美女には目がなく、ナンパも辞さない。頭のお皿を出すのが恥ずかしく、いつも笠とターバンで隠している。
河童族相伝の秘術を幾つも心得ており、♯1では自が皿と水晶玉を用いて、囚われの師父の立体映像を机上に生じせしめた。
人間に棲み家を追われ、やさぐれて邪悪な混世魔王に仕えていた過去があり、“氷の心”と呼ばれて味方からも恐れられていた。魔王のもとを逃げ出し、三蔵の人間性にひかれ、彼の1番目の弟子となる。
中国拳法の“功夫(コンフー)”の達人で、得物はサイと呼ばれる2本の十手状の武具。泣き所は大好物の胡瓜(きゅうり)。号は捲簾大将(けんれんたいしょう)。
凛凛{りんりん}………(水川あさみ)
神出鬼没の女泥棒。男勝りの鉄火肌だが、可愛い系への変わり身も早い。悟空を憎からず思っていて、キャラバンに何くれと助力する。実は妖怪王国の王女さまであった。
《『西遊記』全話評》
ナビ番組『チビカツはじめての旅 西遊記を応援したい!〜GoWEST〜('06 1/9放送・60分)』
(構成)大井洋一(演出)小倉伸一
フジテレビの看板ヴァラエティ『SMAP×SMAP('96〜)』内で香取慎吾が演じた“マツケン”こと松平健のパロディ・キャラ“カツケン”を更に真似(マネ)た(ややこしいな・笑)関西在住のシロウト5才男児=通称チビカツが、大阪の自宅から静岡県伊東市でドラマ『西遊記』の撮影をしている香取のもとまで、初めての御使いならぬ“初めての陣中見舞い”をするべく(因(ちなみ)にお土産(みやげ)は大阪名物のブタまん)、東に大きく旅をするという設定。
番組ではそのチビカツ道中を縦軸に、あるいは狂言廻しとしつつ、ドラマの撮影日誌やメインキャストインタヴュー、メイキング映像、SFXシーンのカラクリまで惜し気もなく大放出している。
♯1『火の国/〔天竺へ!! 悟空と仲間たちの旅が始まる!!〕(初回90分SP)』
※〔〕内はTV誌、新聞のTV欄等に掲載されたサブタイトル。
(脚本)坂元裕二(演出)澤田鎌作
「牛魔王、おめえの言う通り人間はバカだ! だけどな、人間はひとつだけスゲーもの持ってんだよ。……それは心だ! 信じるものを見つけたとき、大切なものを守ろうとするとき、心は固え岩になる。心はこの世で一番でっけえ岩だ。そんな人の心を利用するヤツはたとえ神様仏様が許したって、このオレ様が許さねえ。さァ答えろ! 天国に行きてえか、地獄に行きてえか!」
大妖怪・幻翼大王(げんよくだいおう/木村拓哉)を降(くだ)した三蔵法師一行は、広大な砂漠を経て、黒焦げの町に到達する。火焔山(かえんざん)という活火山に棲む牛魔王(ぎゅうまおう/長江英和)なる化け物が、夜半に火を噴く龍を飛ばして“火炎の雨”を降らせ続けているせいなのだ。龍の乱行を治めるには、魔王に若い娘を“花嫁”として差し出すしかないと云う。しかし花嫁とは名ばかりで、つまりは人身御供(ひとみごくう=生け贄)である。
三蔵はかつての師父である仁丹(じんたん)和尚(角野卓造)とこの地で再会し喜び合うも、彼の愛娘・杏花(きょうか/夏帆)が当の生け贄であると知り、三弟子と共に魔王討伐に乗り出す。だが仁丹は娘可愛さの余り、密かに魔王の親衛隊長(関根大学)と通じ、三蔵と引き換えに娘と町が助かるように画策していた。小用のために彷徨(さまよ)いていた悟空は偶然その謀(はかりごと)を聞きつけ、師父に進言するも、人を信じる心を何よりも肝要とする三蔵はそれを一蹴。
面白くない悟空は弾みで師匠の錫杖(しゃくじょう=僧侶などが持ち歩く杖。頭部に大きな円環がありそれに幾つもの鈴がついていて、振ると鳴る)の小さな鈴を足蹴にしてしまい、三蔵から破門(はもん=師匠が師弟の縁を断って門人から除名すること)されてしまう。悟空は知らなかったのだが、その鈴は三弟子の無事を祈るための“願かけの鈴”だったのだ。
間もなく三蔵は仁丹の裏切りで魔王の手に落ち、悟空は兄弟子の悟浄の口から鈴の謂(いわ)れを聞き、離れ離れの師匠と弟子は互いの身を心より案じるようになる。悟空は筋斗雲を駆り、得意の変化の術で三蔵を救い出すや、八戒悟浄と力を合わせて魔王一味を見事平らげる。
一件落着するや反省の色など微塵も見せず、我が物顔でキャラバンを仕切ろうとする悟空に、八戒悟浄は不満顔。ふたりは三蔵をけしかけ、観世音菩薩(かんぜおんぼさつ=仏さま。大慈大悲の徳をそなえ、人々の悩みを救う大乗仏教の修行者)から拝預した仏器・緊固〔箍〕児(きんこじ=暴れ者を懲らしめるための頭にはめる輪。緊固呪〔経〕を唱えるとその輪が強く締まりその者を苦しめる)を悟空に与えるよう仕向ける。
果たしてふたりの兄弟子の思惑(おもわく)通りとなり、澄みきった空に、ワル猿の悲痛な大音吐が響き渡ってゆく……。
一部を除いて文句なしの大傑作。
冒頭に繰り広げられた、悟空VSキムタク妖怪の美しい夢のような戦いにまず瞠目。無数に降り注ぐ真っ白な羽毛をバックにキレのよいふたりの殺陣が冴えに冴え、チャン・イーモウ監督ばりのスタイリッシュな映像にただただ感動。
ベタな隠れ設定もその台詞の端々に伺え、何かありそうで何もない、キッチュな魅力も満載。期首変わりのNG番組で判明したのだが、木村の放ったケリが誤って香取の喉元にまともに入ってしまっている箇所があるにも拘わらず、そのカットをそのまま本編で使っていて凄まじい。
因に、木村拓哉はこの回のサプライズ・ゲスト(TV雑誌等で先行発表されないキャスト)である。このシリーズではこの後何人ものビッグ・スターがこの扱いで登場したが、話題性のあるキャストを“敢えて”発表しないという形態を筆者は他に知らない。
前述のキムタク妖怪との勝敗は(画面上では)ハッキリついていないため、TV雑誌レベルでは「また幻翼大王の登場はあるのか? あるいは、悟空が頭の緊固児を外した出で立ちで戦っているので、幻翼大王はキャラバンが天竺に到着したあとに現れた最後の妖怪なのか?」などと大いなる期待を込めて推論の応酬が行われていた。
「ザテレビジョン」06年2月24日号の『西遊記』特集において鈴木吉弘プロデューサーがキムタク妖怪について
「悟空の頭のワッカが無いわけですから、幻翼大王との戦いは火の国到達前か、旅が終わった後に行われた特別なものなんです。勝敗? ご想像にお任せします(ニヤリ)」
と意味深な発言をしたために、事態は更に囂(かまびす)しくなった。
結局、シリーズ終盤に製作スタッフが「もう出ません。あれはあそこだけのキャラです」と公式に発表してこの騒ぎは立ち消えとなった。
余談だが、キムタク妖怪の虜(とりこ)となっていた女児役は、現在('07)放送中の『まるまるちびまる子ちゃん』で主演している伊藤綺夏(いとう・あやか)が演じている。
この♯1は、大まかな撮影終了までたっぷり2ヶ月もかかり、更に放送日ギリギリまで、撮りそびれたカットを撮り足していくような状況(何と完成したのは放送日前日である!)だったそうである。この♯1を放送した時点で2話分しか撮了していなかった(昨今の連続ドラマでは4話分以上のストックがあって常識だそうである)ところをみても、この製作進行の遅さは尋常ではない。
【その他のゲスト】
樋口浩二(福吉) 菅原卓磨・須永祥之(老子の配下) 末谷真一 伊藤綺夏