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ウルトラマンタロウ2話「その時ウルトラの母は」 ~怪奇性・コミカル性・基本設定紹介の鼎立達成!

(CSファミリー劇場ウルトラマンタロウ』放映・連動(?)連載!)
『ウルトラマンタロウ』1話「ウルトラの母は太陽のように」 ~人物像・超獣より強い大怪獣・母・入隊・ヒロイン・5兄弟の正統タロウ誕生を漏れなく描いた第1話!
『ウルトラマンタロウ』3話「ウルトラの母はいつまでも」 ~母登場・2大怪獣・ZATも怪獣を撃破!
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「ウルトラマンタロウ 再評価・全話評!」 〜全記事見出し一覧


ウルトラマンタロウ』2話「その時ウルトラの母は」 ~怪奇性・コミカル性・基本設定紹介の鼎立達成!

(脚本・田口成光 監督・山際永三 特殊技術・山本正孝)
(文・久保達也)
(2007年7月執筆)


 本作『ウルトラマンタロウ』(73年)では、第1話からゲスト怪獣が2体も登場してゴージャスさをアピールしていた。本話である第2話でも、続けて別の2大怪獣が登場している。その豪華さ・イベント編の連発で、70年代前半の狂瀾怒濤の「変身ブーム」の中で子供たちの耳目を少しでも引こうとしたのだろう!


 しかも、サブタイトルではウルトラ6兄弟の義母であり、ウルトラマンタロウの実母でもある「ウルトラの母」がうたいこまれているのだ!――実際に登場するのは、ラストで地球に直行しようと飛行してくる飛び人形によるシーンだけで、次回に「つづく」とするサブタイトル詐欺まがいな展開だったけど(笑)――


 1973年4月の民放各局では、昨1972年から人間サイズの特撮変身ヒーロー『人造人間キカイダー』と『レインボーマン』が、73年1月からは円谷プロダクション製作の特撮巨大変身ヒーロー『ファイヤーマン』と同じく『ジャンボーグA(エース)』が、2月からは人間サイズの特撮変身ヒーロー『仮面ライダーV3(ブイスリー)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20140901/p1)が継続して絶賛放映中であった!
 3月期までは、特撮巨大変身ヒーロー『アイアンキング』・『サンダーマスク』・『魔神ハンターミツルギ』、人間サイズの特撮時代劇ヒーロー『快傑ライオン丸』・『変身忍者 嵐』が放映されていた!


 『タロウ」がスタートしたこの4月からは、東宝製作の特撮巨大ヒーロー『流星人間ゾーン』、人間サイズの特撮ヒーロー『ロボット刑事』、特撮時代劇ヒーロー『風雲ライオン丸』と『白獅子仮面』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060306/p1)が同時にスタート! 続く5月からは『キカイダー01(ゼロワン)』も控えていた。


 スーパーヒーローvs怪獣ものの亜種ともいえるヒーロー系のテレビアニメも含めれば、『科学忍者隊ガッチャマン』・『マジンガーZ』・『デビルマン』・『バビル二世』なども放映中で、いずれも高い人気を集めており、ウラ番組の関係にならなければ、当時のたいていの子供たちはこれらの番組をすべて鑑賞していたものだ(笑)。



 その体を液体化して移動し、長い舌で人間をカラめ取って食べてしまう液体大怪獣コスモリキッド!


 野っ原の地面にある「なんでも飲みこむ穴」の中に潜んでいて、ニワトリなどの小動物を食べ、撃破されても小さな破片から元の巨体に再生できる能力を持った再生怪獣ライブキング!


 世にもおぞましい怪奇話に仕上げることもできる題材ではある。個人的には人間を常食とする怪獣なぞはあまり好みではない(笑)。しかし、本作『タロウ』ではそういったことを描いても、寸止めで淡泊な描写にとどめられており、過剰に嫌悪の情を感じさせないのだ。


 本話ではゲスト怪獣独自のそういった特性と同時に、シリーズ序盤でもあるためだろう、主人公青年・東光太郎(ひがし・こうたろう)やヒロイン・さおりの青春ドラマ的な描写や、同作の対怪獣防衛組織・ZAT(ザット)の隊員たちによるコミカルな描写も中心となっていて、彼らの人物像の紹介や造形の方にも比重が置かれている。



 開幕一番、ボクシングジムでいかにも歴戦の王者といった風格の相手に挑戦している光太郎!


 白のタンクトップに白のパンツというスタイルが、さわやかな彼には似合っている!


 ほとんど防戦一方に見える相手に、ひたすらパンチの嵐を浴びせる光太郎!


 光太郎はボクサー志望に加えて、ウルトラマンタロウと化したおかげでその身体能力も強化されているのかと瞬時には思ったものの、しかし相手からの強烈なパンチを顔面に一発浴びてダウン!


 口の中にハメていたボクシングのマウスピースを「ペッ!」と吐き出して、「ちきしょう!」と再び向かっていく姿が、彼の負けん気の強さも表現できていて実によい!


 しかし、それも束の間、腹にパンチをまたも一発浴びせられただけでノックダウンをしてしまった(笑)。


 ということは、変身前の光太郎は特殊能力は持っていないということだろうか?


光太郎「クソっ! 今度こそオレが勝ってみせるぞ!」


 元気に光太郎を応援していたものの、現実的に考えて「もうやめた方がいいよ」と声をかけてくれる、光太郎の下宿先に住んでいるレギュラーの健一少年。


光太郎「健一くんと約束したじゃないか。絶対、勝ってみせるって!」
健一「でもさあ」
光太郎「オレは約束したことは必ず守るんだ! さあ、げんまんだ」


 と云って、日本の子供間での「指切りげんまん」の「約束」の儀式(笑)を交わす光太郎。こういったちょっとした描写にすぎないのに、光太郎を演じている篠田三郎の素の人格・人となりの発露なのか、こんなシーンでも実にさわやか! 脚本や演出の意図を超えたところで、光太郎のひたすら真っすぐで誠実な人柄が肉付け・増強されていくのだ。


 健一が無鉄砲な光太郎に対して不安気な表情を浮かべながらも(健一くんの方が「大人」なのであった・笑)、「げんまん」をしながら次第に笑顔へと変わっていく一連の描写も、シリーズ序盤なのに早くもふたりの仲の良さや絆の強まっていくさまを象徴させており、のちの場面の伏線ともなっている。



 冒頭からここまでさわやかなシーンが描かれていたことは、彼らレギュラー人物たちのシリーズ序盤における人物造形が主眼ではあるものの、続けて結果論でも世にもおぞましい事件を描かねばならないバランスの面、作家の作劇面での本能的な直感! とでもいった面もあったのだろう。


 光太郎と健一のいる部屋の窓ガラスに大粒の雨が叩きつけられて、画面に不吉な不穏の予兆感を増していく……


 場面は転換して、夜の特撮場面となる。ここでもちゃんと雨を降らせており、本編と特撮とのつながりもスムーズである。


 DVD『ウルトラマンタロウ』Vol.2(デジタルウルトラプロジェクト・05年5月27日発売・ASIN:B00092QQK2)の解説書「本編と特撮、その華麗な融合 シーン・セレクション#3 第9話『東京の崩れる被』 生身で怪獣に飛びつくヒーロー・東光太郎」によれば、良くも悪くも同時の円谷プロは『ウルトラマンタロウ』『ファイヤーマン』『ジャンボーグA』といった作品にスタッフが分散されて、新規のスタッフが雇用されていたおかげで、旧来の本編と特撮の「縄張り意識」もウスくなっており、そこに乗じて「記録」(スクリプター)を通じて、本編と特撮が前後で切り返しになったり合成が必要となるカットのイメージの共有が容易になるように、プロデューサー陣もはたらきかけていたそうだ。


 強い雨が降りしきる多摩川の源流の渓谷に、深い霧が立ちこめている。


 その中から巨大怪獣コスモリキッドが出現した!


 頭部には前方に向かって伸びる2本のツノ! 鼻先にも1本のツノ! 後頭部にも後方に向かって伸びる1本ヅノ! 鋭角的なツノからトガった何枚もの背ビレをぶら下げているトンガリまくりのデザインは、その凶暴で凶悪な性質を見事に体現している。
 一方、腰のあたりからシッポにかけてはタコの吸盤状のようなまるい装飾が多数施されているおかげで、子供向け番組に登場する怪獣としては、その狂暴さが過剰な域にまではいかないマイルドさで中和されることでバランスも保っている。
 全身がブルーの体色であるあたりは、液体=水=青といった連想からだったのだろうか? 自身の体を液体化できる能力を象徴している。まさに、設定に忠実な秀逸なデザインではある。


 子供のころはまったくわからなかったが、「コスモ」は「宇宙」、「リキッド」は「液体」の意味の英語であった。多摩川の出自のように見えて、本作『タロウ』の企画書における同作の怪獣は「宇宙大怪獣」だ! といった設定に準拠するのであれば、脚本家・田口成光としてはコスモリキッドは「宇宙怪獣」「宇宙液体怪獣」のつもりだったのかもしれない。英語がわからない子供のころはコスモリキッドが「宇宙怪獣」だと思ったことは微塵たりともなかったものの(コスモリ・キッドと読んでいました・笑)。


 ソフビ人形などの立体化の機会が皆無なのが惜しまれる(バンダイさん、「ウルトラ怪獣シリーズ」で出して下さいっ!)。



 ひと仕事を終えて、酒盛りを楽しんでいる工事現場の宿舎の作業員たちをコスモリキッドが襲った!


 裸電球がぶらさがる宿舎の戸をブチ破って、実物大の大きなピンク色の舌が作業員たちをカラめ取ってしまうのだ!


 どこまで行っても造形物ではあるのだが(笑)、怪獣の着ぐるみがミニチュアの人形を舌でカラめ取るだけでは決して味わうことのできない、実物大の造形物が持つ質感・存在感ゆえの迫力は出せている!


 さらにこれと並行して、ミニチュアの宿舎の内部を(机の上には一升ビンまでもが配置されている!)、中にいるという設定の作業員の主観目線で映して、着ぐるみのコスモリキッドの頭部が宿舎をブチ破ってきて、口から舌を伸ばすさまを交互に描いているので効果も倍増!


 作業員を食いつくしただけでは飽きたらず、裏山を崩して宿舎をつぶして、爆発炎上させてしまうコスモリキッド!



 実におぞましい場面ではある。しかし、このあとすぐに赤いジャージ姿の光太郎が、


「まだまだ負けねえぞ〜。ワンツー、ワンツ〜!」


 などとひとりで叫びながら、橋の上でシャドーボクシングをしているさわやかな日常描写に切り替わっている。後味の悪い印象を過剰に残していないところが、子供向け・家族向けのエンタメ作品としては実に見事な切り替えでもある。
 そして、我々が住んでいる現実世界でもまた、悲惨な事件の一方で、少しでも距離が離れた場所ではいつもと変わらぬ日常生活が繰り広げらているという事実を考えれば、これはこれで不謹慎でもリアルな描写だとも理論武装(笑)ができるだろう。


 おやつのポップコーンを多摩川沿いの土手にある「穴」に投げ入れる健一とその友だち。


 すると、「穴」から世にも不気味な声が聞こえきて、ホップコーンの空き袋を入れると、それは有機物ではないから食べられないとばかりに浮き上がってきた!(笑)


 通りかかった光太郎に、この事態を告げる健一少年。


 だが、そこにZAT本部から非常招集の連絡が入ってしまった!


 もちろん、その現象がそんな重大事だとは思いもしないので、光太郎はZATからの招集の方を優先してその場を去ってしまう。ウルトラマンタロウと合体しているとはいえ、変身前の姿の光太郎でいるときには、超能力や強化された身体能力のようなものは発現しているようにも見えず、神のように万物を見通せるワケでもない光太郎が、ZATの緊急招集の方が重大事であるだろうと常識的に判断して、それを優先するのもまたリアルな描写だろう。


 しかし、子供の立場としては少々ナットクができずに、むくれてしまう健一少年(笑)。


 だが、このちょっとだけ理不尽で無責任にも思えた点描もまた、それだけで完結してしまうムダなものにはなっていない。その後に出てくる事件解決の糸口を描くことになる重要なシーンの伏線となっていくのだった!


 前夜の怪事件について作戦会議を開いているZAT。そこでは、単なる山崩れであった可能性も示唆される。それはそれで、合理的な推論ではある。だからこそ、コスモリキッドがすぐには見つからないことや、山崩れで宿舎を潰した描写も活きてくるのだ!


朝日奈隊長「あ〜、そこでだ。夕べ、カレー食べた者、いるか?」


 「ハイ!」と正直に元気よく挙手する南原隊員、そして光太郎!


朝日奈隊長「そうか。私も夕べ、カレーを食べた。よし、東と南原に調査を命じる!」(笑)


 朝比奈隊長を演じている名俳優・名古屋章(なごや・あきら)の実に自然な名演ともあいまって、オトナになってからの再鑑賞だとナチャラルに「プッ」と笑えてしまう名シーンでもある。


 とはいえ、ややコミカルな色彩を持つことになった『ウルトラマンタロウ』に対して、それまでのウルトラシリーズとの作風的な不整合に違和感を持ってしまった、本作放映当時にすでに小学校高学年や中高生の年齢に達していた第1世代特撮オタクが、こうした描写に対して違和感を持ってしまって、さらに青年期になるや「惨劇のあとに防衛組織がなにフザケてんだ!」「なんというテキトーな人選の仕方だ!」(たしかにそうとおりなのだが・笑)などと感情的になって、あれやこれやと難クセを付けてしまったことも、仕方がないことではあっただろうし、相応の理はあったのだ。


 けれど、ちょっと交通整理をしてみたい。


 これまでのウルトラシリーズにおいて怪獣が人間を食うシーンを直接的に描いてみせたのは、『ウルトラマンA(エース)』(72年)第16話『夏の怪奇シリーズ 怪談・牛神男(うしがみおとこ)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060903/p1)くらいのものである。その際にも牛神超獣カウラがミニチュアの人形を口にくわえるといった程度の描写であった。だが、本話ではもっと迫真性を伴なった描写であり、『仮面ライダー』(71年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20140407/p1)などの70年代前半の東映変身ヒーロー作品の印象に近い「怪奇描写」なのである。


 しかし、その『仮面ライダー』シリーズにおいても、ショッカー怪人による殺人事件のあとには、主人公青年たちの年長の後見人であった立花藤兵衛(たちばな・とうべえ)やいわゆるライダーガールズの面々によるコミカルな場面がよく描かれていたものであった。


 一例を挙げるならば、第17話『リングの死闘 倒せ! ピラザウルス』において、ショッカー怪人・ピラザウルスがゴーゴー喫茶で踊る若者たちを毒ガスで抹殺したあと、電話ボックスの中にいたために難を逃れたライダーガールズのマリ(演・山本リンダ)とユリ(演・沖わか子)が事態を知らずに「マスター、ジュースどんぶり一杯〜!」(どんな注文や・笑)などとノンキにマスターに声をかけるや、マスターが白骨化していたことに失神する……などといった描写がよくあって、殺伐とした印象をやわらげることに貢献していたのである。こういうのを子供向け・ファミリー向け作品としての絶妙な「バランス感覚」というのだろう(笑)。
 『仮面ライダー』初作の終盤の「ゲルショッカー編」からレギュラーとなり、怪事件の続発にもかかわらず、少年仮面ライダー隊本部でなぜかお菓子ばかりを食べていたライダーガールズのチョコ(演・ミミー→ミミ萩原)に至るまで(スポンサーだった明治製菓に対する配慮か?・笑)、ライダーガールズたちは単なる人質役ばかりではなく、作劇的にはそんな重要な任務(笑)も負わされていたのであった!


(恐怖描写の緩和にとどまらず、ただいるだけでも画面がにぎやかになったり、ワチャワチャとさして意味のない他愛ない日常会話をすることで場をなごませて「日常性」を強調したり、主人公の1号ライダー・本郷猛(ほんごう・たけし)や2号ライダー・一文字隼人(いちもんじ・はやと)、彼らの相棒挌であったFBIの私服隊員・滝和也(たき・かずや)、後見人である立花藤兵衛(たちばな・とうべえ)の頼もしさを表現する引き立て役ともなったり!)


 しょせん「子供向け」の番組なのだから、あまりにもこわがらせてもダメなのだ。旧1号ライダー編は怪奇描写ばかりでコミカルな描写がほぼ皆無だったから、当初は人気がやや低迷していた面もあったのだろう(私事で恐縮だが、筆者は世代人でありながらも「旧1号編」はこわくて途中でリタイヤし(笑)、視聴を再開したのは「新1号ライダー編」の中盤になってからだった)。


 怪獣に代わるスペースビーストなる新怪獣種族が登場して、やたらと人間を食いまくるシーンを描いていた『ウルトラマンネクサス』(04年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041108/p1)もまたしかり。コミカル描写が皆無どころか陰欝な描写ばかりで…… 特撮ヒーローものの中では比較的にシリアスにつくっているように見える平成ライダーシリーズが大ヒットしているから、ウルトラでもシリアスにつくっても行けるだろ! と思ってのこの路線だったのだろうが…… よく考えてみてほしい。
 平成ライダーシリーズもまた昭和ライダーシリーズとはかなり異なるものの、平成ライダー第1作目の『仮面ライダークウガ』(00年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20001111/p1)はともかくそんなに残酷なシーンはあまりないのだ。むしろ、都会的で明るくオシャレな日常描写にあふれてもいたのだ! 軽妙さなどもけっこうあったのだ! そこが違うのであった! そういった違いやバランス感覚がわかっていないと、『ウルトラマンネクサス』のような失敗をいまだに犯してしまうといったことなのだろう。


 なんといっても、70年代末期に往年の特撮マニアたちがふりかざした「怪獣恐怖論」の理論に基づいて律儀に製作したために、その作品のクオリティーはともかく、観客動員の方はジリ貧となっていき、『ゴジラ ファイナル ウォーズ』(04年・東宝http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060304/p1)をもって打ち切りになって、再開がほぼ絶望的と思えるほどに人気が凋落してしまった東宝の1999年以降のミレニアム・ゴジラシリーズが立派にそれを証明している。


 作品テイストにコミカル・漫画チックな描写を導入しても、それなりに面白い作品や、高いドラマ性やテーマ性を持った作品自体は充分に構築可能であるハズだ。『ウルトラマンネクサス』の興行的な失敗で、続く『ウルトラマンマックス』(05年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060311/p1)や、その後続作『ウルトラマンメビウス』(06年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060625/p1)では、そういったコミカルで漫画チックな演出や人物描写が大幅に導入されていた。そこにまた、初期ウルトラシリーズどころか第2期ウルトラシリーズとも大きく異なってしまった作風に対する指摘や違和感の表明があってもよいことはよいのだ。
 しかし、現今の大方の特撮マニアたちは加齢もあってか(笑)、「もうこれはこれでよいのでは?」といった感じで好意的に受けとめるようになったあたりは、個人的に実に好ましいことだとは思っている。マニアの成熟の証しであるとも思うし、まさにその「怖いもの見たさ」と「コミカル描写」による「恐怖感を描写しつつも、その恐怖感を直後に緩和する」といった、二粒のイイとこ取りを目指したクレバー(利口)な「バランス感覚」を、作り手側も受け手側も達成したのが現在なのである。



 ところで、このシーンでは北島隊員と西田隊員は夕べにカレーを食べたことを必死で否定してみせていた!(笑) この描写だけでも、朝日奈隊長はカレーを食べた人間に以前にも調査を命じていたことがあると、一挙に同時にわからせてしまうあたりがまた、北島と西田の点描も含めてイキな描写なのだ(笑)。


 しかし、決してコミカルな要素ばかりがあったワケではない。高学年の児童、特に女子児童の全員といわずとも相応数にも特撮ヒーロー作品を観てもらって視聴率も少しでも上げていこうと思えば、主軸ではなくても淡いラブ・ロマンス的な要素もあった方がよいだろう。前作『A』における、主人公・北斗星司と南夕子の「友達以上、恋人未満」の関係が、スタッフの想像をはるかに超えるほど、女子児童に強くアピールしたことを鑑みて、『タロウ』においては光太郎とさおりの関係もそれなりに描こうとしていたのだろう。


 青いタンクトップに赤ジャージ姿の光太郎が、白鳥家の玄関先で縄跳びをしている。ところで、光太郎がやたらと素肌を露出することが多いのも、今となっては女子層にも受けそうな描写だ。


 すると、さおりが出てきて、やおら光太郎の横でいっしょに縄跳びを始めるのだ!(笑)


 彼女のこういった行為自体もまた、好ましい異性の近くにいたいという、女性の無意識な気持ちの発露であって、たとえ自分では自覚していなかったとして天然からの行動であることはバレバレではある。「天然ボケ」、略して「天然」といった語句や用法は、本作放映当時にはまだ存在していなくて、はるか後年の90年前後に普及した語句であったとは思うけど。


 すると、光太郎も天然ボケな返しをしてくるのだ(笑)。


光太郎「キレイだね〜」
さおり「ええ(左胸に飾った赤い花に目をやり)、きのう買ってきたの」
光太郎「いやあ、君のことだよ!」


 「キレイだね~」なんて言葉を、男性が女性に対して照れもせずにサラリと云ってのけることは、幼児にだってムリであろう(笑)。幼児であっても、たいていの幼児は異性は異性だとして認識してもいるものだ。


 照れてしまって、思わずうつむいてしまうさおり。なんという純朴な反応!(笑) とはいえ、これをもってして、さおりの人物像・人となりも描けたことになるのだ!


 このシーンは前後のつながりと考え合わせると、本話限定のストーリーラインとしてあまり意味は持ってこない。あくまでもシリーズ全体を考慮した上でのレギュラーである彼女の人物造形のための描写なのである。突然に縄跳びを始めてしまうさおりも不自然だとのツッコミは論理的には可能だ(笑)。だが、このシーンがあるのとないのとでは、視聴者に与えるアット・ホームでマイルドな印象が全然異なってくるだろう。


 しかし、たしかに怪獣の話をさておいて、ふたりだけの「あま〜い」関係を延々と描かれてしまっても困ってしまうことだろう(笑)。けれど、そういったメインストリームを過剰にさえぎらない程度であれば、これくらいのスパイスを添えることは一向にかまわないだろう。これを指して、往年の本邦初のマニア向け書籍「ファンタスティック・コレクション」シリーズの書籍であった、第2期ウルトラシリーズに対してはじめて批判的に言及することで、第2期ウルトラシリーズに対する悪評を決定づけてしまった『空想特撮映像のすばらしき世界 ウルトラマン PART2』(朝日ソノラマ・78年12月1日発行)における『タロウ』評にあった「怪獣と人間のドラマが分離して進む奇妙な現象」などと評するのは誤りですらあるだろう。


 もっとも、健一の様子が少しヘンであることを光太郎に話しながら縄跳びをしているさおりを真横から撮らえて、「ブルンブルン」と揺れる胸を延々と映し出している描写は、前作『ウルトラマンA』第4話『3億年超獣出現!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060528/p1)において、ワンピース姿のTAC(タック)の美川のり子隊員を縄で縛ったり、第9話『超獣10万匹! 奇襲計画』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060708/p1)に登場したじゃじゃ馬カメラマン・鮫島純子を小憎らしくも可愛い女性として描いて、第21話『天女の幻を見た!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061009/p1)においては異次元人ヤプールによって超獣に変えられた天女アプラサの悲劇を、そして第28話『さようなら夕子よ、月の妹よ』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061111/p1)においては地球を去っていく南夕子を美しく描写した、女性を魅力的に描くことにかけては天下一品の山際永三監督の「作家性」を象徴するものなのかもしれない(……それとも、本話の描写は単なるエッチな目線の発露だったかな?・笑)。


 ちなみに、同じく氏が監督した『帰ってきたウルトラマン』(71年)第16話『大怪鳥テロチルスの謎』~第17話『怪鳥テロチルス 東京大空爆』の前後編と第23話『暗黒怪獣 星を吐け!』などでも、ゲスト女性の印象が強かったりするあたりは、脚本のみならず氏の演出力の発露といった面もあるかと思われるので、好事家の方々であれば時間があれば再チェックをされたし!


 自室でふさぎこんでいる健一に対して、


「君とオレとは親友じゃないか!?」


と声をかける光太郎。ここで冒頭での「げんまん」をした際の描写が活きてくるのだ。


 なんでも食べてしまう不思議な「穴」を発見したとき、光太郎はZAT本部に呼び出されて、健一の話を聞かずにそそくさと立ち去ってしまっていた。「君とオレとは親友じゃないか!?」といったセリフが、先の行為によって破られてしまっており、まだ少年の身にとっては不信感のタネとなっていたのであった!


 「ダメだよ。大人は信用できないよ」と嘆く健一から、光太郎はやっとの思いで健一からショックを受けた理由を聞き出した。


 そして、多摩川から突如として出現した怪獣に釣り人が食べられてしまった現場を目撃したことも聞くのだ! 健一が描いた怪獣の想像図は光太郎が南原隊員との捜索中に目撃したヤツと同一の存在であって、怪獣が吐き出して健一の足元に転がってきたロケット弾は、光太郎自身が怪獣に打ちこんだものでもあったのだ!


 これを受けて、再び作戦会議を開催しているZAT本部。


 荒垣副隊長はカレー(!)を食べながら、机上のおにぎりにまで手を伸ばす。森山いずみ隊員がお茶を手渡し、北島や南原も立っておにぎりをほおばりながら怪獣撃退の策を思案する……


 またまた食事の光景である(笑)。大家族を描いていた今では絶滅してしまったホームドラマなどでは、ドラマ的に重要なシーンは家族そろっての食事中の際の場面で描かれることが多かった。父と息子がケンカを始めて母親が仲裁……といった展開などもあったものだ。当時のインテリや放送評論家の連中の発言などを読むと、ホームドラマのことを「飯食いドラマ」だとして揶揄(やゆ)することが慣例となっていたようだ(汗)。しかし、ホームドラマが失われてしまった今となっては、ここにも人間の日常の真実の何たるかが示唆されていたようには思うのだ。


 そして、本作のZATがアットホームな防衛チームであることを強調するには、こういった飯食い描写は最も打ってつけの描写でもあり、そういった意味では脚本家やそれをOKとしたプロデューサー側の見識不足なのではなく、あくまでも確信犯的な処置なのであろう。


 とはいえ、理論武装をさせてもらえば、作戦室でメシを食うのは緊急事態の発生に備えて、ただちに出動できるようにするためだとも合理的に解釈ができるので、実は究極のリアリズム描写であるのかもしれない(笑)。初代『ウルトラマン』(66年)第34話『空の贈り物』でも、科学特捜隊のムラマツキャップ(隊長)・ハヤタ隊員・アラシ隊員が作戦室で並んでカレーを食べていたし!(同じく故・実相寺昭雄監督が手掛けた『ウルトラセブン』(67年)第8話『狙われた街』における、古ぼけたアパートの一室の描写なども、こうした生活感を巧みに作品に折りこんでいだ点については、筆者は高く評価している)。


 だが、ZATはノンキにメシを食っているだけではない。


 「ただちに出動しましょう!」と息巻く荒垣副隊長に対して、お茶をゆっくり飲みながら「まぁ、あわてなさんな」「急(せ)くなよ〜」とひょうひょうとしている朝日奈隊長の姿も描いている。マジメな荒垣副隊長と、フマジメといったことはないけどもっと大物としての余裕、器量の大きさをも併せ持っている朝比奈隊長との対比までをも描いていて、ここで両者の人物像とその描き分けを決定づけてもいるのだ!


 そして、たしかにのんびりとしたムードではあったものの、議論は着々と進んで有効な作戦も発案されていく。コスモリキッドを多摩川から追い出すためには、ある意味では光太郎よりも後輩挌に見えてしまう若手の西田隊員が「川の中に電気を流せばいいんですよ!」と発言することで、このシーンでは彼の有能さも示しているのだ!


 しかし、南原隊員は「西田得意の放電作戦だろ」と反応することで、彼がよくこの作戦を発案・実行していたことをも示唆している。それが常に有効であったか否かの比率は不明なので、失敗例が多かったのであれば、西田に対してチャチャを入れていた可能性もある(笑)。けれど、そういった反応を入れてみせるようなブレも入れることで、凡庸な予定調和な感じにおちいってしまうことを避けてもいる作劇なのだ。
 それに、南原の発言は第1話における、ZATの特殊車両・ラビットパンダでパトロール中の西田がアストロモンスに襲われた際に放電攻撃を加えて、たしかに一度は追い払っみせた件をもマニア的には連想されてくる。こうした件をのちのエピソードでも忘れずに言及することが、この当時のジャンル作品では皆無ではなかったものの少なかったので、そういった意味であればうれしい趣向であったのだ。


 「生物はすべからく強い電気ショックに反応を示す!」との朝日奈隊長の言のもとに、ZATによる「放電作戦」が開始された!


 この「放電作戦」はミニチュアによる表現だけではない! 実物大に造形した大きな「電極板」をZATの隊員たちのみならず、黄色のヘルメットにカーキ色の制服を着た東京電力の作業員(!)も数人混ざって、それらを重そうに抱えて多摩川に運びこんで投げ入れている描写がまた、フザケたシンプルな作戦であったハズなのに、ここでもSF的ではないかもしれないが、むしろ長じてからの再鑑賞の方が感心してしまう、地に足がついた絶妙なリアル感を醸し出してくるのだ!



 多摩川に流された電気に反応を示し、川面を波打たせて青い水しぶきを上げながら怪獣コスモリキッドが液体から実体化!


 電気ショックを与えられているコスモリキッドが、ネガフィルムのように白黒反転画像を挟みながら表現されているサマがまた、その電撃ショック効果をベタでも見事に表現している!


 だが、コスモリキッドはこれに逆上! 地上から攻撃を加えていたZATに向かって突進を始めた!


 逃げ遅れた北島隊員に迫ってくるコスモリキッドは、オープン撮影であおりで撮らえられることで、人間との比較での巨大感を増している!


 さらに、弾着までもが加えられており、絶妙な緊迫感を醸し出す!


 北島隊員は怪獣の高い身長にかなうハズもないのに、あわててしまって冷静な判断ができなかったのか、樹木によじ登って逃れようとする!(笑)


 それをまた、先の実物大の巨大な「舌」がベロ〜リとナメまわしてくる描写は、「コミカルさ」と「恐怖感」とが一体となった名カットだ!


 樹木に「舌」を巻きつけたコスモリキッドは、ダメ押しでこの樹木を根っこから引っこ抜いた! 


 そして、そのまま北島隊員をブルンブルンと投げ回す!


 北島を助けようとした西田隊員にも、コスモリキッドの巨大な足が迫ってくる!


光太郎「よし! ウルトラマンタロウになるときが来たぞ!」


 ここまでピンチをあおりたてるからこそ、タロウに変身する必然性も確保ができるし、このセリフが実に効果的で絶妙なカッコよさを醸し出してくるのだ!


 左腕のバッジを右手で取って、右腕を水平に伸ばしたあとで、バッジを額にかざした光太郎は「勝負!」と叫んで、ウルトラバッジを宙高くに掲げた!


 ここでの「勝負!」とは『タロウ』というシリーズ全体をとおして見ればイレギュラーなセリフなのだが、このセリフを定番にしょうとしたのだろうか? しかし、ここでは健一と約束した「必ず勝ってみせる!」と「対」になっているセリフなのだと解釈して、その不整合については地ならししておきたい(笑)。


 そして、第1話では描かれなかった変身ポーズ初のお披露目である! ウルトラ兄弟の中で最もオーバーアクションの派手な印象の変身ポーズ! 当時の第2次「怪獣ブーム」は『仮面ライダー』の変身ポーズの大ヒットと、各社の変身ヒーローが趣向を凝らした変身ポーズを披露していたことで、大スマコミからは「変身ブーム」と呼称されるようにもなっていた。そして、本放映当時の筆者も含む子供たちは、これらのヒーローたちの変身ポーズをこぞってマネして、万能感にひたっていたものだ(笑)。
 そんな変身ヒーロー乱立時代に少しでも目立とうとするのであれば、その変身ポーズに大きなアクションを付け加えていくことは必然ではあったのだ。逆に云うならば、リアルに考えれば、たしかに変身ポーズに科学的・合理的な根拠はあまりないので、そのへんが小学校高学年以上にもなるとオカシく思えて気恥ずかしくなって卒業をうながしてしまうものであることもわかる。しかし、その年齢をまたすぎれば、「その稚気(ちき)は愛すべし」で許せてくるものではなかろうか?(笑)
 その理屈で行けば、近年のヒーロー作品の変身ポーズは、幼児ウケを考えればちょっとおとなしいのではなかろうか? そこは恥ずかしからずに、たとえオトナもとい青年の目線ではリアルではなかったとしても、オーバーアクションの変身ポーズを見せるべきであろう!


 ついに、ウルトラマンタロウが登場!


 コスモリキッドが放り投げた北島と西田隊員をその手でガッチリと受けとめた!


 タロウがこぶしを開くと、その手のひらの上には北島と西田隊員が無事な姿を見せる特撮合成カットもきっちりと入っている!


 突進してきたコスモリキッドを払いのける!


 そして、右手でパンチ!


 手を組んで後頭部を強打!


 かなわぬと見たコスモリキッドが逃げにかかる!


 しかし、川添いの土手に空いていた、先の「なんでも飲みこむ穴」に片足を突っこんでしまった!


 そして、抜けなくなってしまう!(笑)



朝日奈隊長「今だ!」


 ZATの戦闘機・コンドル1号に搭乗した朝日奈隊長がすかさずコスモリキッドに攻撃を加える!


 この華麗なる連携プレー! ZATにウルトラマンが登場するまでの単なる「前座」ではなく「活躍」の場も与えてみせている! しかも、それが前線まで出張ってきていた隊長であった! といった配慮もある脚本だったのだ。


タロウ「ブレスレット、ランサーー!」


 ウルトラマンタロウは、帰ってきたウルトラマンことウルトラマンジャックとも同様に、その左腕にブレスレットをハメていた。


 ウルトラマンジャックのブレスレットはさまざまな武器へと変型していたが、当然に同族・兄弟でもあるタロウのブレスレットもまた同様の原理のものなのだろう!


 武器の名前を日本語で叫ぶあたりは、ウルトラマンジャックとは異なるけれども(笑)、タロウはタロウブレスレットを小型の槍・ブレスレットランサーへと変形させる!


 そして、タロウはそれをコスモリキッドの首へと放った!


 全身が緑色になって、「穴」の中に消滅していくコスモリキッド!



 しかし、事件解決と見て、空へと飛び去っていったタロウの飛び人形の下では、「穴」がまだ不気味にうごめいていた!


 そして夜になるや、「穴」からピンク状の光っている物体が盛り上がってくる!


 そこにかぶってくる、不可思議な「叫び声」がわきあがってくる演出が、事件はまだまだ解決していないことを意味する不吉な前兆として実に効果的である。


 ところで、「穴」がうごめくさまはどうやって撮影したのだろうか? CGのないアナログ撮影としては臨界点・最高点に迫っていたものだろう!



 白鳥家の愛犬である柴犬のポチを連れて、シャドーボクシングをしながら走る光太郎と健一。


 すると、ポチが例の「穴」に落っこちてしまった!


 それを助けようとした光太郎までもが、中に落っこちてしまった!


 そして、健一を激しい地響きが襲って、地下から先のコスモリキッドならぬ別の怪獣である再生怪獣ライブキングが姿を現したのだ!


 オープン撮影で地下から怪獣ライブキングの顔面をせり出してくる、巨大感と質感があふれる描写が実に効果的だ!(その背景に見えているビルは実景のそれだろうか?)


 ライブキングはガマガエルが巨大化したかのような、ブツブツが全身に点在した緑色の巨体。頭上と背中と頭部の周囲には多数のまるいコブをぶら下げている。そして、赤い腹が大きく肥満したように膨らんでいる醜悪な怪獣だ! 鋭角的なフォルムのコスモリキッドとの対比の妙も実に良い!


 逃れようとした健一少年が転げ落ちていく土手の背景に迫りくる、ライブキングを合成した大胆な特撮カット! それは筆者のようなマニアには初代『ウルトラマン』第4話『大爆発5秒前』における、ホシノ少年が転げ落ちる土手の背景に海底原人ラゴンを合成したシーンを彷彿とさせる、緊迫感あふれる名場面となっていた!


 駆けつけたZATが携帯型のX線レーダーのパラボラアンテナをライブキングに向けてスクリーンのスイッチを入れると、影絵となって映し出された光太郎がライブキングの腹の中でピョンピョンと飛び跳ねていた!


 なんでもかんでも前例を想起して例えてしまうことが正鵠を射ているとも云わないけど、筆者のようなマニアは『ウルトラセブン』第11話『魔の山へ飛べ』において、宇宙野人ワイルド星人の生命カメラの中のフィルムをウルトラ警備隊のアマギ隊員が映写した際、主人公・モロボシダン隊員がネガ像となって動いていたシーンを連想してしまったのではなかろうか?


 ライブキングの腹の中から光太郎を救出する方法はないのか? 大量の下剤(!)を飲ませる案も検討される。リアルに考えれると、それでは光太郎があんまりだが!(笑)


南原「怪獣のドテっ腹に穴を開けたらどうなんですかねえ?」


 南原隊員の発案が採用された! 「高圧パイプ作戦」が実行されるのだ!


 西田隊員が搭乗したコンドル1号からライブキングの腹にパイプが打ち込まれて、中から勢いよく緑色の液体が噴出した!


 このままいけば、光太郎もいっしょに噴出されてくるのかと思いきや!


 なんと、ライブキングは打ちこまれたパイプを引っこ抜いてしまって、液体の流出も止まってしまった!


 さらに、この噴出してきた緑色の液体は、液体大怪獣コスモリキッドの体のそれだったのだ!


 液体はコスモリキッドへと戻ってしまった! そして、ライブキングを相手に戦いを始めてしまったのだった!


 光太郎を救出しようとして、よけいに危機を大きくしてしまうという、あまりの皮肉の描き方が秀逸である!


光太郎「オレには健一くんとの約束が残っているんだ!」


 ZAT隊員として、ウルトラマンタロウとしての使命を果たすためではなく、健一少年との約束を果たすために、ここで死ぬわけにはいかない! と、ライブキングの腹の中をド突きまわして、声を枯らして叫ぶ光太郎! そして……


健一「ちくしょう! ポチを返せ! 光太郎さんを返せ!」


 けなげにライブキングに向かって叫ぶ健一少年は、たとえ無力であろうとも、小型のラジコン飛行機を操縦してライブキングを急襲させる!


ライブキング「ヘ、ヘ〜クションッ!!」


 ラジコン飛行機を口の中に引っかけてクシャミ(笑)をしたライブキングは、怒ったのか口から猛烈な火炎を放った! 河岸のタンク群が次々に爆発! 炎上していく!


 本話の特撮の舞台は多摩川であるが、その付近にはビルや民家のミニチュアが多数用意されている。交通公園と思われる公園には道路標識が! 物干し竿にはなんと洗濯物が多数ブラ下がっている! ミニチュアの数の膨大さには脱帽! このへんは前作『エース』全話と『タロウ』シリーズ前半の「特撮」がまるまる映画会社・東宝へと下請けに出されたことによる、東宝特撮美術陣によるストックの多さや新規造形能力の高さといったところだろう!


 その中で繰り広げられるコスモリキッドとライブキングの派手なド突き合い! それはまさに「怪獣映画」そのものの趣であった!


 そういった意味で本話は、コミカルな味わいの中でもそれと同時に迫真の怪獣対決も描いてみせていた怪獣映画の大傑作『キングコング対ゴジラ』(62年・東宝)にも通じるものがあるだろう。思えば、ZATの作戦の数々も「100万ボルト作戦」「コング輸送作戦」「ゴジラ電撃B作戦」といった、自衛隊の対怪獣作戦をも思わせるものがあったのだ。


 そればかりか、光太郎と健一の強い絆のクライマックスを、対怪獣作戦中に生じた最大の危機とも連動させていくといった構図は、ドラマとバトルが一体化した展開としても実に見応えがあったのだ!


 しかし、まだ危機は去っていない! コスモリキッドとライブキングの2大怪獣は元気で健在なのだ!



 そして! ウルトラマンタロウ最大の危機に、ウルトラの星からウルトラの母が駆けつけようと、暗い宇宙空間をカメラに向けて飛来してくるさまを描いて、本話は幕となる!


 第1話ではウルトラの母の着ぐるみスーツがまだ完成していなかったために、既存のウルトラマンの着ぐるみを全身黒塗りにして、幻想的なライティングでごまかしていたものだ。テレビシリーズは特撮変身ヒーロー番組にかぎらず2話で1本撮りをするのが通常なので、次回の第3話で初披露されたウルトラの母の着ぐるみは、このラストシーンの撮影時点ではすでに完成していたとは思われる。しかし、この時代のウルトラシリーズの通例で、飛行シーンは両腕を広げて胴体と両脚は真っすぐに伸ばした形態を模したミニチュア表現による「飛び人形」での再現となっていることで、視聴者の気持ちをジラしている(笑)。


 地球へと向かってくるウルトラの母の飛び人形を真っ正面から撮らえたカットは、宇宙空間の闇の中で両眼、および額に二対ずつが備わったランプの赤い星を光らせて進んでくるさまは、どこまで行ってもリアルではないミニチュアではあるけど、それなりにカッコがよい!


 『タロウ』独特の緊張感と脱力感を同時に体現したコーラス付きのBGM(笑)とともに、次回への興味関心を本放映当時や再放送時に惹起してくれてワクワクしたことも思い出すのだ!



<こだわりコーナー>


*コスモリキッドに食われる釣り人を演じたのは、断定は避けたいのだが、お姿から拝見して第2期ウルトラ怪獣の造形を担当した開米プロの代表・開米栄三氏ではなかろうか? 実物大のコスモリキッドの舌の操演テストを自らの身をもって行なったとか? いずれにせよ、「わぁ〜、怪獣だぁ〜!」「助けてくれ〜」のセリフがあまりに棒読みなので(笑)、役者ではなくスタッフの誰かの特別出演かと思われるのだが。


*その様子を目撃した健一が描いてみせたコスモリキッドの絵は、劇中では似ていることになっていたが、実はあまり実物には似ていない(笑)、どちらかといえば、『帰ってきたウルトラマン』第13話『津波怪獣の恐怖 東京大ピンチ』~第14話『二大怪獣の恐怖 東京大竜巻』に登場した竜巻怪獣シーゴラスに近い印象である。だから、これを見た光太郎が「俺が見たのと同じヤツだ!」と叫ぶのには、やや違和感があるだろう(笑)。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2008年号』(07年12月29日発行)『ウルトラマンタロウ』再評価・全話評大特集より抜粋)


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#ウルトラマンタロウ #ウルトラマンタロウ50周年 #コスモリキッド #ウルトラの母



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