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スーパー戦闘 純烈ジャー ~「ユルさ」&「王道」の接合にこそ、戦隊・日本特撮・娯楽活劇の存続がある!?

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 映画『スーパー戦闘 純烈ジャー』(21年)第2作『スーパー戦闘 純烈ジャー 追い焚き☆御免』(22年)が公開記念! とカコつけて……。映画『スーパー戦闘 純烈ジャー』評をアップ!


映画『スーパー戦闘 純烈ジャー』 ~「ユルさ」&「王道」の接合にこそ、戦隊・日本特撮・娯楽活劇の存続がある!?

(2021年9月10日東映系公開)
(文・久保達也)
(2021年10月3日脱稿)

*「ラブ・ユー・チェンジ! スーパー戦闘、純烈ジャー!!」


 ムード歌謡コーラスグループ「純烈(じゅんれつ)」が初主演した、彼らが同姓同名で登場して戦隊ヒーローにも変身して戦う! といった特撮映画『スーパー戦闘 純烈ジャー』(21年・東映ビデオ)が、全国77館という小規模な興行ながらこのほど公開された。



 「温泉の神」(笑)が正義のヒーロー「純烈ジャー」として選んだ者に手渡した変身アイテム「純烈マイクチェンジャー」。それは、赤・青・紫・緑と各自に色分けされただけの単なるフツーのマイクロフォンであった(笑)。


「愛の熱湯、火傷(やけど)にご注意! 純レッド!」


などと名乗る際もそのマイクをまんま使用する。


 そして、変身直後の「純烈ジャー」は、左手に各自の色に染まるバスタオルが入った黄色い洗面器をかかえている(爆)。


 また、クライマックスにおいて、「温泉の神」は「純烈ジャー」に最強の飛行メカとして「スーパー銭湯機(せんとうき)・純烈026(おふろ・笑)号」を与える!


 これは、


主翼の両端にはシャンプーとリンスのボトル
コクピットの上には水とお湯をひねり出す栓(せん)
●それと尾翼をつなぐかたちでシャワーホースがそびえ
●機体底部には水道の蛇口とやはり洗面器


などがゴテゴテと装飾された、一見とんでもないデザインの戦闘機なのだ!


 だが、それらは決してギャグとして機能させるためだけに描かれたものではない。


 単なるマイクにしか見えないマイクチェンジャーで「純烈」が「ラブ・ユー・チェンジ!」と声をそろえて叫ぶ、様式美としての変身アクション!


 「スーパー銭湯」ならぬ「スーパー戦闘、純烈ジャー!」の名乗りとともに、近年では「本家」でもあまり見られない


●赤
●青
●紫
●緑


ときれいに色分けされた噴煙が各自の背景にドカ~ン! とわきあがる華(はな)のある演出!


 そして、


●「純レッド」が日本刀
●「純ブルー」がハンドガ
●「純バイオレット」がロッド型武器
●「純グリーン」が二刀流


となる短刀などのさまざまな「マイク・ウェポン」(笑)を召還し、それを手にした「純烈ジャー」が敵集団を倒すカタルシス


 軽自動車の車内で撮影された(笑)、あまりに狭苦しいコクピット内で「純烈」は口々にボヤく。


 しかし、「FLY(フライ)」なるボタンが押されるや、発進ゲートが開いて「026(おふろ)号」を乗せたカタパルトがゆっくりとせり上がる!


 合成された御老公の湯の屋上から発進して高速飛行し、時空転移能力までをも披露する、実にリアルでSFチックな特撮メカ描写!


 一見おマヌケに見えるアイテムやメカがカッコよく見えるように心血が注(そそ)がれた「アクション演出」と「特撮演出」はまさに本気度満点であり、これらは「本家」のスーパー戦隊にも見られる演出センスそのものなのだ!


 なお、「純烈ジャー」の変身時やマイク・ウェポン召還時の「スーパー銭湯機・純烈026号」の描写などには、『仮面ライダー電王』(07年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080217/p1)の正義側のイマジン(怪人)・リュウタロスや、近年では『魔進(マシン)戦隊キラメイジャー』(20年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220503/p1)の魔進ファイヤ=レッドキラメイストーンなどを演じ、大の特撮好きで知られる声優の鈴村健一氏がリュウタロスや魔進ファイヤのようなはっちゃけた口調とは180度異なる、かなりシリアスな声でナレーションを入れており、画面に説得力とカッコよさを加味するのにおおいに貢献していた。


 さらに、最も秀逸かと思えるのは、「純烈ジャー」のデザインである。黒地に各自のパーソナルカラーのラインが走り、胸のプロテクターにはそれぞれの色で「純」と書かれている。頭部や両肩のメタリックな印象、さらに両足の関節部分にはまるで可動フィギュアのようなパーツ分けが施(ほどこ)されており、どちらかといえば戦隊ヒーローというよりメタルヒーローの趣(おもむき)が強いのが全員に共通する意匠(いしょう)なのだ。


 そして、


●白川が変身する純レッドには、カブトムシの触覚!
●酒井が変身する純バイオレットには、猛牛のツノ!
●小田井が変身する純ブルーの両耳部分には、ロッドアンテナ状のパーツ!


がそれぞれの頭部にデザインされている。


 これは明らかにかつて、


●白川氏が変身した、カブトライジャー
●酒井氏が変身した、ガオブラック!
●小田井氏が変身した、仮面ライダーゾルダ!


をモチーフとしており、往年のファンとしては狂喜せずにはいられなかったものだ。


 なお、劇中キャラと演者が同姓同名であるために、「現実世界」の歌謡グループである「純烈」メンバー諸氏の場合には「敬称」をつけ、「劇中キャラ」として登場する「純烈」メンバーは「敬称略」として表記していく。



 ちなみに、後述する後上(ごがみ)が初変身した「純グリーン」の頭部には、ゴーグルの上に「ふたつの星」が重ねてデザインされている。これは新星=ニュースターとしての意匠と解釈すべきところだし、後述するがもっと深い意味もある。


 そして、「純グリーン」の両腕にのみ、まるで1950年代におけるロック音楽の創始者のひとりである伝説の歌手として名高い故・エルヴィス・プレスリーを彷彿(ほうふつ)とさせる緑のビラビラ――正式な名称がわからない(汗)――がデザインされている! 左腕には熱湯と冷水を出すためのハンドルまで装着している特別仕様だ!


 「なんか、おまえだけメッチャ豪華やなぁ~」と、現実世界でも空想世界でも後上にうらやましがられてきた先輩たちが、逆にグリーンをうらやましがるのは微笑(ほほえ)ましいだけではなく、メンバー間の関係性の変化を最大に象徴する実にドラマ性の高い描写に仕上がっていたのだ。


*「純烈」 ~栄光までの軌跡(きせき)!


 一応の説明をさせていただくと「純烈」とは、


酒井一圭(さかい・かずよし)氏→『百獣戦隊ガオレンジャー』(01年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20011113/p1)の牛込草太郎(うしごめ・そうたろう)=ガオブラック
白川裕二郎(しらかわ・ゆうじろう)氏→『忍風(にんぷう)戦隊ハリケンジャー』(02年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20021110/p1)の霞一甲(かすみ・いっこう)=カブトライジャー
小田井涼平(おだい・りょうへい)氏→『仮面ライダー龍騎(りゅうき)』(02年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20021109/p1)の北岡秀一(きたおか・しゅういち)=仮面ライダーゾルダ――『龍騎』出演時の名義は「涼平」――
後上翔太(ごがみ・しょうた)氏


と、4名の内3名がかつて東映ヒーロー作品にレギュラー出演した経歴をもつメンバーで構成される歌謡グループである。


 ちなみに、『仮面ライダーアギト』(01年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20011108/p1)に葦原涼(あしはら・りょう)=仮面ライダーギルス役で出演していた友井雄亮(ともい・ゆうすけ)氏も過去に所属していたが、ご存じのとおりで氏は2019年に女性がらみのパワハラのスキャンダルが大きく報じられたことにより、純烈の脱退どころか芸能界引退にまで追いこまれてしまった(汗)。2021年現在、友井氏は出身地の大阪市にある焼肉店の店長として勤務しているそうだ。


「夢がなくても生きていける……」


 かつて、仮面ライダーギルス=葦原涼はそんなセリフを吐いていた。まさに至言であろう。たいていの人間はそんなに明瞭な夢や大それた夢などは持っていない。夢を持っていた場合でも、それが実現できるとは思ってはいない。だからといって、人生に完全に絶望しているワケでもない。そんな中途半端な状態や適度にアキラめた状態が、大半の人間のリアルというものだろう。狭いながらも楽しい我が家や、たとえ孤独でも人付き合いに煩わされない気安さや平穏の価値も「ネクラ」や「陰キャ」だと否定せずに認めてあげるべきなのだ。
 しかしそういった心の平安は、現代社会ではふつうは「夢」とは認められずに、後ろ向きなものとして否定されてしまう。そして、むしろ「夢」を持て! 持たない方がオカシい! として、人々や特に内向的だったり謙虚だったりする子供たちや若者たちに、プレッシャーを与えてかえって厭世的にしたり劣等感を持たせてしまっているのではあるまいか!?


 友井雄亮氏と葦原涼を同一視するワケにもいかないが(笑)、そのセリフにかつて勇気づけられた視聴者としては、その返礼として友井氏の第二の人生にもエールを贈りたいところだ。



 さて、「親孝行」「紅白歌合戦出場」「全国47都道府県で唄うこと」を結成以来の目標としてきた「純烈」の誕生は15年近く前の2007年にさかのぼるそうだ。


 かのバカ映画の巨匠・河崎実(かわさき・みのる)監督作品の常連俳優でもあり、ものまね芸人で映画監督の顔ももつレイパー佐藤氏が監督したヒーロー映画『クラッシャーカズヨシ 怒る』(07年・Otaku Production――オタク・プロダクション(笑)――)に主演した酒井氏は、撮影中に右足を複雑骨折して40日間も入院するハメになった。


 その入院中、氏は昭和を代表するムード歌謡コーラスグループであり、筆者のような昭和の特撮世代にとっても、当時としても「懐メロ」として、テレビの歌謡曲番組などで散々に耳になじんできた『長崎は今日も雨だった』(69年)・『そして、神戸』(72年)・『東京砂漠』(76年)などの数多くのヒット曲を誇る「内山田洋(うちやまだ・ひろし)とクール・ファイブ」の夢を何度も見たらしい。


 これを「神」からの啓示(けいじ・!)だと考えた酒井氏は(笑)、「クール・ファイブ」のような歌謡グループの結成を思いつくに至った。そして、先述した白川氏・小田井氏・友井氏・後上氏にロックバンドの元ボーカルだった林田達也(はやしだ・たつや)氏を加えた計6人で「純烈」はスタートしたのだ――林田氏は家庭の事情で2016年末に脱退した――。


 林田氏以外のメンバーはほとんど歌の経験がなかったことから、数年間のボイストレーニングや下積みを経て2010年にようやくデビューを果たしたものの、2012年に早くも当時所属していたレコード会社との契約を打ち切られるハメになったそうだ(汗)。


 「純烈」は歌える場所を求めて「キャバレー」や「健康センター」、そして流行りの「スーパー銭湯(せんとう)」など、全国各地を巡業の旅で回った。この地道な営業努力がやがて追い風となった。


 健康センターやスーパー銭湯に客として訪れていたオバチャンたち、もとい熟女・マダムのみなさま(笑)に、「純烈」のステージは熱狂的な大歓迎を受けることとなったのだ!
 2016年に発売した7枚目のシングル『幸福あそび・愛をありがとう』がオリコン演歌・歌謡曲ウィークリーチャートで初の第1位(!)となって以降、リリースしたシングルは同部門でそのすべてが第1位を獲得!


 2018年の大晦日(おおみそか)に放送された『第69回NHK紅白歌合戦』に、「純烈」は9枚目のシングル『プロポーズ』で初出場を果たしたのだ!


 ある意味では頂点に登り詰めたのにも関わらず、『紅白』の終了直後にも、「純烈」は本来のホームベースである関東圏内の「健康センター」をそのまま回り、深夜に待ちかまえていた大勢のファンに対して「凱旋(がいせん)ライブ」を行ったそうだ!
 これまで最も支えてくれた人々へのそうした配慮・姿勢こそが、「純烈」がその後も快進撃をつづけるに至った秘訣なのだろう。


*虚実ごちゃまぜで「純烈」をカッコよく描く!


 さて、本作は、


スーパー戦隊仮面ライダーの出身者が主演するのみならず、酒井氏が製作にあたって「僕らがかつて観ていた『電子戦隊デンジマン』(80年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120205/p1)や『太陽戦隊サンバルカン』(81年)などのとてつもなく熱い部分を継承したい」と切望したこと
●後上氏が変身する純グリーンを、『電撃戦隊チェンジマン』(85年)のチェンジフェニックス以来、主に女形(めがた)のスーツアクターとして活躍してきた大ベテランの蜂須賀祐一(はちすか・ゆういち)氏
●白川氏が変身する純レッドを、『仮面ライダーバイス』(21年)の仮面ライダーリバイや『仮面ライダーゼロワン』(19年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200921/p1)の仮面ライダーゼロワンなど、近年の主人公ライダーを務める若手の縄田雄哉(なわた・ゆうや)氏
スーパー戦隊超新星フラッシュマン』(86年)から『天装戦隊ゴセイジャー』(10年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20130121/p1)に至る四半世紀に渡ってスーパー戦隊のアクション演出を手がけつづけた竹田道弘(たけだ・みちひろ)アクション監督が、実に10年ぶりに(!)戦隊に帰ってきたこと
●『地球戦隊ファイブマン』(90年)以来、スーパー戦隊メタルヒーロー仮面ライダーなど、東映ヒーロー作品の特撮を一手に担(にな)ってきた佛田洋(ぶつだ・ひろし)特撮監督が、特撮のみならず本編をも演出していること――佛田監督が戦隊の本編を演出するのは『特命戦隊ゴーバスターズ』(12年)以来だ――


 つまりキャストもスタッフもすべてが「本物」であって、バラエティ番組などによくある単なる「戦隊パロディ」のような安直な作りではないのだ。


 だが、本作に注目すべきところは決してそればかりではない。


 先述したようにムード歌謡コーラスグループ「純烈」の大きな特徴として、


●メンバー4名の内3名が元特撮ヒーロー役者であり、最年少の後上氏のみが特撮どころかそもそも演技が未経験だったこと
●グループ結成へと至ったのは、リーダーの酒井氏が「神」からの啓示を受けたこと(笑)
●結成からしばらくは苦難の道がつづいたが、健康センターやスーパー銭湯につめかけたオバチャンたちの大声援によって一躍メジャーな存在へと押し上げられたこと


 以上の3点があげられるのだ。


 本作で秀逸(しゅういつ)だと思えるのは、空想世界の戦隊ヒーロー「純烈ジャー」をカッコよく描くために、現実世界の歌謡グループ「純烈」の先述した大きな特徴をそのまま活(い)かすかたちで設定や物語が構築されていることだ。


 冒頭で「純烈」のメンバーがオープンセットのミニチュアのビル街に巨大化した姿で現れたと思いきや、同じミニチュアセットが背景に飾られた健康センターのステージで等身大の「純烈」が歌いだす描写が、本作の世界観を如実(にょじつ)に象徴している。


 本作に登場する「キャラクター」としての「純烈」を、「純烈ジャー」に変身する以外は現実世界に存在する「歌謡グループ」の「純烈」とほぼ変わらない姿で描いた作劇は、特撮ファンとしての視点・観点で捉えた場合にも地に足のついたリアルな印象が感じられたのは確かである。


 だが、その手法が用いられたのはスーパー戦隊仮面ライダーの「まじめ」な視聴者・観客の目線以上に、やはり「純烈」の最大の支持層であるオバチャンたち、もとい熟女・マダムのみなさまを意識してのものだろう。


 いくらヒーロー作品だとはいえ、あまりにも浮き世離れした印象だけを観客に与えたら、「アタシたちの純烈」(爆)もどこかに行ってしまうのだ。着ぐるみ怪人や怪獣・合体巨大ロボの登場や、戦隊ファンしか喜ばないような楽屋オチなどをあえて排除した最大の理由は、まさにそこにあるのだろう。


 そんな印象をギリギリ回避するために、オバチャンたちの目線からしたらウソ・絵空事にすぎるヒーロー誕生・変身・スーパーメカ・必殺技などの要素に、現実世界の「純烈」の特徴を絶妙にブレンドすることで説得力を与えた本作の作劇は、特撮ファンへの内輪ウケだけにとどまらない、「純烈」最大の支持層をスクリーンに釘づけにすること必至の完成度の高さも感じられたのだ。


*空想と現実にまたがる最年少メンバーの成長物語!


 本作で実質的な主役となるのは「純烈」のメンバーの中で最年少であり、特撮ヒーロー作品、そして演技の経験が初となる後上氏だ。
 ふつうに考えれば、すでに特撮を経験済みの酒井氏・白川氏・小田井氏のいずれかが中心となるところだろうが、あえてそうではない後上氏を主役に据(す)えたこと自体がまず秀逸である。


 劇中の「純烈」は現実世界同様に、健康センターやスーパー銭湯でのライブステージでオバチャンたちの熱い視線・声援を浴びる歌謡グループとして描かれている。
 だが、酒井=純バイオレット・白川=純レッド・小田井=純ブルーの3名には実は温泉の平和を守る伝説の歌い人「純烈ジャー」としてのウラの顔があり、とある浴場で高齢の男性が変死した事件に遭遇したのを機に、彼らは唯一(ゆいいつ)、「純烈ジャー」ではない後上に知られないように、極秘に捜査活動を展開するのだ。


 先輩たちが自分には何も云わずに陰で謎の行動に出ていることに、蚊帳(かや)の外にされた後上は苦悩する……


 本作のパンフレット(東映ビデオ・2021年9月10日発行)掲載のインタビューによれば、後上氏は自身のみが特撮ヒーロー未経験の元・大学生――東京理科大学!――であることについて、健康センターのオバチャンたちには「カタカナのヒーローの名前」よりも「大学の名前」の方が覚えてもらえる(笑)と、特にコンプレックスとは感じなかったそうだ。


 ただ、活動当初のころは「みんなヒーローなんだよな、いいなぁ」などと思っていたそうであり、本作で「スーパー戦隊」の撮影現場に20年ぶりに戻ってきた酒井氏・白川氏・小田井氏がスタッフたちと久々の再会を果たして、昔話に花を咲かせていたのを見て、やはりうらやましかったと語っている。
 なにか現実のアイドルグループに実写映画やアニメの劇中内アイドルを演じさせるような作品(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200621/p1)にも見られるダブル・ミーニングな作劇なのだが(笑)、そんな「純烈」のメンバー間の微妙な距離感をそのまま活かすように務めた作劇によって、特撮作品そして演技自体が初体験であった氏の成長物語が名実ともに描かれたことで、「純烈」ファンのオバチャンたちの感情移入を高めるには絶大な威力を発揮したかと思えるのだ。


 詳細は後述するが、劇中の後上は「4番目の新戦士」=「純グリーン」への変身能力を得るに至った。


 本作では「グリーン=緑」が「未熟」を意味するとされており実際、英語では「幼い」「若い」「青二才」などの表現を果実が熟していない色である「green(グリーン)」と呼称する用法があるそうだ。


●『秘密戦隊ゴレンジャー』(75年)の最年少メンバー・明日香健二(あすか・けんじ)=ミドレンジャーから、
●近年の『騎士竜戦隊リュウソウジャー』(19年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191102/p1)のトワ=リュウソウグリーン
●『魔進戦隊キラメイジャー』(20年)の速見瀬奈(はやみ・せな)=キラメイグリーンに至るまで、


スーパー戦隊によっては「緑」のメンバーが存在しない事例もあったが、たしかに「緑」は「若さ」を最大にイメージするキャラに割り振られてきた色だった。


 「緑」=「未熟」という、万国共通かもしれないイメージは「純烈ファン」のオバチャンのみならず、我々特撮ファンにも説得力をもって伝わることだろう。


 もっとも、『魔法戦隊マジレンジャー』(05年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110228/p1)では、小津(おづ)家の長男・蒔人(まきと)=マジグリーンが「緑」だったが、序盤では三男で末っ子の魁(かい)=マジレッドと戦闘中に兄弟ゲンカ(汗)する場面があったので、その意味では「未熟」ということだったのかもしれない?(笑)


*おもしろカッコいい=「本家」にあふれる魅力がここでも!


 さて、先述したように現実世界に「純烈」が誕生したのは、リーダーの酒井氏が「神」の啓示(笑)を受けて、「内山田洋とクール・ファイブ」のようなグループを結成しようと思いついたのが発端(ほったん)だった。
 その「クール・ファイブ」のメインボーカルを務めて、近年はソロ活動が多い大物歌手・前川清氏(!)が、本作では「温泉の神」=「御前川清(おまえかわ・きよし)」(笑)を演じているのだ!


 「神」はあくまでウラの顔であり、御前川はふだんは温泉施設「御老公の湯」(笑)で売店の店長を務めている。、カウンターでガーガーいびきをかいて寝てみたり、商品の菓子を平気でつまみ食いしたり、女店員とイチャついてみたりと職務怠慢もはなはだしい(笑)――女店員を演じたのは、『帰ってきたウルトラマン』(71年)のヒロイン・坂田アキを演じたことで有名な榊原(さかきばら)るみ氏の実の娘・松下恵(まつした・めぐみ)氏だ!――。


 筆者のようなロートル世代には、前川氏といえばバラエティ番組『欽(きん)ちゃんのドンとやってみよう!』(75~80年・フジテレビ)でコメディアンの萩本欽一(はぎもと・きんいち)氏にイジられたのを機にお笑いの才能を発揮して以降、その裏番組だった『8時だョ! 全員集合』(69~85年・TBS)や『ドリフ大爆笑』(77~98年・フジテレビ)など、お笑いグループのザ・ドリフターズ冠番組にたびたびゲスト出演しては、そのすっとぼけたキャラでお茶の間をわかせてくれた姿が印象深いところだろう。


 前川氏も「神」役での出演とはいえ、現実世界での氏のキャラとほぼ変わらぬ役どころであり(笑)、やはりステージでの軽妙なトークでオバチャンたちを笑いの渦に包んでいる「純烈」と氏によるボケとツッコミの掛け合い漫才的なやりとりが実に楽しいのだ。
 日曜朝放映の本家・スーパー戦隊も、元祖『ゴレンジャー』の時代はともかく、昭和の末期~平成の初頭からすでにそんな作風になって久しい。コミカル色の強い演出もまた、違和感どころかむしろ「スーパー戦隊らしさ」を感じさせるほどだった(笑)。


 さらに、「温泉の向こう側」(笑)=「別の時空」(!)に存在する「悪」として登場する、敵組織の描写も好印象だった。


 自身の永遠の美しさを保つために全人類から「若返りエキス」を奪おうとたくらむ、大物演歌歌手・小林幸子氏(!)が演じる「女王フローデワルサ」!


 その配下として、フローデワルサ四天王(してんのう)――「風呂で悪さしてんの~」の語呂遊びネーミング(爆)――が「純烈ジャー」の前に立ちはだかる!


●ザウナ
●ゾープ
●ガラン
●ジャワー


と名前こそは風呂に由来するものが元ネタであり、しかも全員の額(ひたい)には温泉を表す地図記号の刺青(いれずみ)があるが(笑)、


●ザウナは怪力!
●ゾープは剣術!
●ガランは射撃!
●ジャワーは格闘!


と、「本家」の敵幹部でさえ近年ではあまり見られないような、各自の特性を明確に差別化しているのには目を惹(ひ)いた。


 また、先述したように若返りのために人類からエキスを奪うフローデワルサの作戦自体は、良い意味で笑ってしまうものがあるが、それを忠実に実行する四天王は近年では珍しいほどに非情に徹した凶悪・凶暴な集団として描かれており、このバランス感覚の良さも「本家」ゆずりのものだろう。


 この四天王を演じた役者たちも、まるで「純烈」に合わせたかのように


●ザウナ役は、『仮面ライダーOOO(オーズ)』(10年)の伊達明(だて・あきら)=仮面ライダーバースや、オリジナルビデオ作品『宇宙刑事シャイダー NEXT GENERATION(ネクスト・ジェネレーション)』(14年・東映ビデオ)の烏丸舟(からすま・しゅう)=二代目宇宙刑事シャイダーなどを演じた岩永洋昭(いわなが・ひろあき)氏
●ゾープ役は、『仮面ライダー鎧武(ガイム)』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20140303/p1)の初期に登場した悲劇的キャラ・初瀬亮二(はせ・りょうじ!)=仮面ライダー黒影を演じた白又敦(しらまた・あつし)氏
●ガラン役は、『ウルトラマンX(エックス)』(15年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200405/p1)の防衛組織・Xio(ジオ)の隊員・貴島ハヤト(きしま・はやと)や、『仮面ライダーエグゼイド』(16年)の花家大我(はなや・たいが)=仮面ライダースナイプを演じた松本享恭(まつもと・うきょう)氏


と、4名中3名が特撮経験者であるのには注目せずにはいられない。先述した作品群では正義側・主人公側を演じることが多かった諸氏の徹底した悪役ぶりも大きな見どころのひとつだろう。


 なお、白川氏がかつて出演した『忍風戦隊ハリケンジャー』で尾藤吼太(びとう・こうた)=ハリケンイエローを演じた山本康平(やまもと・こうへい)氏も、「御老公の湯」に勤める垢(あか)すり職人であり、御前川の正体を知る三井康助(みつい・こうすけ)役で出演している。


*オバチャンたちの疑似体験としてのヒーロー誕生・変身・バトル!


 さて、本作最大のキモかと思えたのは、先述したムード歌謡コーラスグループ「純烈」の特徴のひとつである「オバチャンたちの熱狂によってメジャーな存在に押し上げられた」を、「純烈ジャー」の誕生・変身・バトルなどに絶妙に取り入れることでオバチャンたちの「願望」を実現させ、感情移入を大きくさせていることである。


 「純烈ジャー」の変身システムは、「純烈」が「純烈マイクチェンジャー」で「ラブユーチェンジ! カモン!!」と叫ぶことで、「神の湯」の女神たちであるアフロディーテならぬオフロディーテ(笑)が召還され、「純烈」と「合体変身」(!)をとげるかたちとなっている。


 これはまさに、


●『ウルトラマンA(エース)』(72年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070429/p1)のダブル主人公で防衛組織・TAC(タック)の隊員・北斗星司(ほくと・せいじ)と南夕子
●『超人バロム・1(ワン)』(72年)のダブル主人公でガキ大将の木戸猛(きど・たけし)と優等生の白鳥健太郎(しらとり・けんたろう)


などの「合体変身」を彷彿とさせるものだ。


 いや、「合体変身」のビジュアル自体は、『A』や『バロム・1』をはるかに超越しており、各メンバーと降臨してきたオフロディーテが抱きしめあいながらグルグルと回って「純烈ジャー」に変身する(爆)。


 実際、戦闘中にオフロディーテは「背後に怪しい気配を感じる」と危険を知らせたり、「ハウリング攻撃(笑)を使うのよ!」などと有効な戦術を教えてくれたり、かと思えば敵であるザウナの逆三角形型のマッチョ体型に大喜びしたりするのだ(笑)。


 「ふたりでひとり」による変身やバトルは、オバチャンたちそれぞれのお好みのメンバーと「ひとつ」になれる疑似体験とでもいうべきであり、これ以上に感情移入を呼び覚ますものはないだろう。


 後上に先行して酒井・白川・小田井がそれぞれのオフロディーテと出会った際の回想場面が、それを強烈に象徴する。


●公園のベンチでくつろいでいた白川を、健康センターの寝間着(ねまき)みたいな赤い衣装を来たショートカットのオバチャンがすべり台から降りてきて背後からいきなり抱きしめてみたり
●映画を観ていた酒井に、山盛りのポップコーンをトレーに乗せたハワイアンみたいな紫のムームーを着たソバージュ髪のオバチャンが近づき、ポップコーンをひっくり返しながら酒井の隣の席をゲットしてもたれかかってみたり
●神社にお参りしていた小田井のもとに、色白で髪を束ねた青い巫女(みこ)姿のオバチャンが現れて鬼ごっこをしてみたり


 もうみんなが満面の笑(え)み(爆)。


 このオフロディーテを演じた女優たちも、「紫のオフロディーテ」役のしのへけい子氏は、『仮面ライダーフォーゼ』(11年)でゴス少女・野座間友子(のざま・ともこ)の母を演じたほか、近年の仮面ライダースーパー戦隊にたびたびゲスト出演しており、「赤のオフロディーテ」役のふせえり氏は、東映不思議コメディーシリーズ『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(93年・東映 フジテレビ)で「怪猫(かいびょう)黒猫」を演じた過去があったりする。


 個人的に少々驚いたのは「青のオフロディーテ」を演じたのが、1971年度ミス・パシフィック日本代表に選ばれたほどの美貌を誇り、1970年代から1980年代にかけての東映劇場映画や数多くのテレビドラマで主に悪女役が多かった中島ゆたか氏であることだ。
 モロにコメディエンヌという感じのふせ氏やしのへ氏とは対照的に、今なお神々(こうごう)しいまでのお姿を保つ中島氏に個人的には数十年ぶりにお目にかかったため、おもわず手を合わせて拝(おが)まずにはいられなかったものだ(笑)。


 後上だけが「純烈ジャー」でないのは、その「オフロディーテ」と契(ちぎ)りをかわしていないからと語られたことで焦(あせ)りを感じた後上。彼は黒ミサ風の衣装に身を包んだ黒髪ロングヘアの若い女占い師で額に緑の宝石をつけた桶川アリサ(おけがわ・ありさ)――実は後上の若いエキスを狙うフローデワルサの変身した姿!――を「運命の人」と思いこんだ末に一味にとらわれてしまう!


 このひとりだけ出遅れた感を与える作劇は、筆者のようなオタクにはアニメーション製作の舞台裏を描いた深夜アニメ『SHIROBAKO(シロバコ)』(14年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160103/p1)で高校時代に所属していたアニメーション同好会のメンバーたちがアニメ製作にたずさわる夢を次々と実現する中で、人気声優として活躍する夢になかなか届かないで鬱々と劣等感の中で過ごしている主要女性キャラ・坂木しずかに集まった、視聴者たちの同情などを思い出すが、それはともかく、これまた観客の感情移入を集めるには打ってつけの手法だろう。


 そして、後上の「運命の人」となるのは、高校生当時にワルだった後上を常日頃、叱(しか)りつけていた担任教師であり、詳細は省くがオレのせいで先生は結婚指輪を校舎の屋上から投げ捨てて、教師を辞職するに至ったのだ! と、後上のトラウマの相手ともなっている天地星子(あまち・せいこ)であった!


 現在、星子は第一の事件の発生現場となった「御老公の湯」で清掃員として勤めているのだが、15年ぶりに再会したその「因縁(いんねん)」の相手に対する後上の発言・態度が星子を再び退職へと追いこんでしまう! そのことで、後上がいまだに「未熟」であり、オフロディーテとの契り以前に「純烈ジャー」の資格がないとして描いているのがまた秀逸なのだ。


 母校の近所の川で、星子が15年前に投げ捨てた指輪を発見し(笑)、地方の田園風景を傷心してトボトボ歩きつづける星子に追いついた後上は、これまでの非礼を詫びて、星子の指に「緑」の宝石が付いたあの指輪をハメてあげるのだ……


 この年増女の秘かな願望・ロマンス描写を描いた一連で、「純烈」の楽曲『プロポーズ』を延々と流すことで、後上と星子の「契り」を描いていく演出も心憎い。しかしこの場面が、ふたりが田んぼの中の農道で向き合っているのに、その背景にある丘を建設資材を積んだトラックの群れが走るなど、「超現実的」で「非日常的」なシーンとして撮られている映像にも目を惹かれるのだ。
 後上が星子の指に指輪をハメるや、舞台が「御老公の湯」の秘密の入り口からしか入ることができない、小さなステージの背景に富士山の書き割り(笑)がポツンとある異空間「神の湯」へと瞬時に移って、星子がニューヨーク――「入浴」の語呂遊びだろう(爆)――にある「自由の女神」をモチーフにしたとしか思えない姿(笑)へと変わる、「非日常」との対比が充分に機能するからだ。


 後上が「神」から「緑」のマイクチェンジャーを手渡され、ようやく「純烈ジャー」の一員に任命されるに至るまでの過程は、「本家」のスーパー戦隊とも同様に、後上と星子の心の変遷・関係性の変化が実に細やかに描かれており、フザケているようでも新ヒーロー・純グリーンの誕生には観客たちの涙を誘わずにはいられない、本作の高いドラマ性の象徴なのだ!


 星子=「緑のオフロディーテ」を演じた小林綾子(こばやし・あやこ)氏といえば、なんといっても最高視聴率が62.9%(!!)を記録し、ビデオリサーチの統計史上テレビドラマの最高記録をいまだに誇るほどに大ヒットしたNHKの連続テレビ小説おしん』(83年・NHK)の主人公・谷村しんの少女時代を演じたのが世間では最も広く知られているところだ。
 だが、幼少のころから東映児童演技研修所に所属していた氏は、それ以前に『(新)仮面ライダー』(79年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210102/p1)第14話『ハエジゴクジン 仮面ライダー危機一髪』と第22話『コゴエンスキー 東京冷凍5秒前』、『太陽戦隊サンバルカン』第1話『北極の機械帝国』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120206/p1)などのゲスト出演で、すでに「仮面ライダ」ーも「スーパー戦隊」も経験済みであって、まさに「純烈」の大先輩にあたるのだ!
 その意味では、そんな由緒もある小林氏が後上氏の相手役としてキャスティングされたのは極めて妥当といえるだろう(笑)。


 さらに、クライマックスバトルではオバチャンのみならず、日本国民全員(爆)が狂喜すること必至の展開が用意されている。


 小林幸子氏がデビュー以来、10数年にもおよぶ苦節からようやく脱したほどに大ヒットした『おもいで酒』(79年)が流れる中で、四天王の命を得たフローデワルサは「純烈ジャー」の前でグングン巨大化し、その背中にはキラキラと輝く幾重(いくえ)もの羽根が広がっていく!


 フローデワルサが「『おもいで酒』を歌いながら巨大化する」とのアイデアは、佛田監督が完成台本に書き足して小林氏の事務所に送ったのだそうだ(笑)。


 ある程度の年齢が上の人ならご存じの方も多いと思うが、小林氏といえば「純烈」が目標にしていた『NHK紅白歌合戦』で1990年代から2000年代にかけて、超豪華な衣装と大型舞台装置を融合させたステージで歌を披露していた。
 あの大がかりな仕掛けによる「見せもの」こそが、観客をアッといわせる意味ではまさに「特撮」に通じる魅力にあふれるものではなかったか!?


 本作は「特撮」が本業である佛田監督作品としては、予算的にも「特撮」が占める比重は少なめだ。しかし、そのクライマックスとして、小林氏が実際に『紅白』で使用した衣装を組み合わせて、往年のステージを「特撮」で再現した演出には、観客の多数が「純烈」ファンの「オバチャンたち」であることからすれば、巨大怪獣や巨大ロボットが登場してはシラケてしまっただろうから、ここでのラスボス表現も大成功ではあっただろう!


 ちなみに、小林氏が「小林さち子」の名義で、『キカイダー01(ゼロワン)』(73年・東映 NET→現テレビ朝日)第35話『振袖(ふりそで)娘ビジンダー地獄絵巻』にゲスト出演したことは、年長の特撮マニア間では知られている。
 しかし、氏は少女歌手としてデビュー以来元々役者活動も行っており、オリンピックをめざす水泳選手が主人公の青春ドラマ『青い太陽』(68年・東映 NET)では主演まで務めて、主題歌も歌唱していたそうだ。


 特撮変身ヒーロー作品とは異なり、東映はこういった作品の映像ソフト化や配信に消極的であるために、筆者も鑑賞したことがないのだが、これもまたリマスターするにも高額の金銭がかかるし、ニーズも少ないと見込まれているからだろう。
 ウワサではカネ勘定に厳しい東映では金銭がかかってしまう旧作フィルムのリマスターには消極的であるようだし、そこにこだわっている社員もごく少数であるようだ。しかし、小林幸子ほどの大物が出演していた作品であれば…… 映画会社の社員であっても特撮マニアや古い日本映画のマニアだとはかぎらないので、そんな作品が埋もれていることを知らない社員の方が多いのだろうな(汗)。


 フローデワルサの各種光線攻撃によって「純烈ジャー」は莫大な量のナパームの炎に包まれて、その変身が解除されてしまう!――ちなみに、ラストバトルの舞台は採石場で、予算的にもミニチュアセットなどは一切なかった(笑)――


 ここで赤・青・紫・緑の「オフロディーテ」が、


「自分たちだけで戦ってると思わないで!」


などと叫んで、「純烈」には全国の大勢のファンがついていることを示唆(しさ)するのだ!


 舞台は一転して健康センターのステージとなり(笑)、『勇気のペンライト』を熱唱する「純烈」に、大勢のオバチャンたちがペンライトを手に大声援を贈る!


 これはかの女児向けアニメ『プリキュア』シリーズ(04年~・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20040406/p1)の劇場版(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191108/p1)などに見られるように、観客の子供たちがペンライトを振るとピンチだったプリキュアが立ち上がる定番演出から佛田監督が発想したそうだ。


 思えば筆者が幼かったころにも、ライブステージの公開収録という異色の形式で放映された変身ヒーロー作品『突撃! ヒューマン!!』(72年・ユニオン映画、モ・ブル 日本テレビ)で、観客が「ヒューマン・サイン」なる紙製の円盤を指にハメていっせいにクルクル回すや、ピンチだった主人公がヒューマンに変身可能となる演出がすでにあったものだ。


 筆者も当時、小学館の学習雑誌の付録についてた「ヒューマン・サイン」を自宅のテレビの前でクルクル回したものだが(笑)、こうした演出こそ観客・視聴者が劇中の主人公との一体感を最も得られるところだろう。
 本作はアイドル映画・アイドルアニメのように要所要所で「ミュージカル」風の演出が見られるが、ラストバトルに挿入された『勇気のペンライト』のステージこそ、オバチャンたちが現実と空想の垣根を超え、「純烈」とともに戦う疑似体験を存分に味わうための道しるべとして機能しているのだ!


「みんなの力をひとつに!」


 少年バトル漫画やスーパー戦隊では定番のセリフだが、全国何百万人(?)の「純烈」ファンにとっては共感すること必至なのだ。


 「勇気のペンライト」を受けて再び変身した「純烈ジャー」は、みんなの力を「スーパー銭湯機・純烈026号」に集めて、等身大の姿のままで超巨大でキラびやかな剣に変形させて、全長何百メートル(!)にも巨大化したフローデワルサをブッた斬る!!


 その役目を合体巨大ロボではなく、等身大の「純烈ジャー」自身とした佛田監督の演出意図は、もはや記すまでもないだろう。


 オバチャンたちでも楽しめる特撮映画・変身ヒーロー作品という新たなジャンル・ファン層を開拓した『スーパー戦闘 純烈ジャー』の功績は、個人的には決して小さくはないと考える。私事で恐縮だが、劇場で販売されていた「純烈」全員のビジュアルがデザインされた抗菌マスクケースを実家の母に送ったら大喜びされたくらいだから(笑)。


 そうなのだ。スーパー戦隊シリーズは昭和の末期~平成の初頭に「ユルさ」と「王道」を見事に両立させた理想的な「子供番組」としての作風を確立させている。ここにヒントがあるのだ。
 逆転の発想で、「別のジャンル」と「特撮ジャンル」を接合させて、「起承転結」がハッキリとした読後感もよい「勧善懲悪」のカタルシスを有する、気持ちの良いエンタメ作品を製作していくことこそが肝要なのだ。


 リーダーの酒井氏も語っているが、「ユルさ」と「王道」を両立させた『純烈ジャー』の続編や、そのような作品を継続して製作していくこと。アメリカであれば滅びてしまった西部劇映画、日本でもその存亡が危うい時代劇などのようにはさせないためにも、少子化が深刻化する未来に向けて「スーパー戦隊」、どころか「特撮」ジャンルそれ自体の存続を確かなものとする、あるいは日本にキチンとした「娯楽活劇」作品を定着させるための、ひとつの重要なカギとなるのではあるまいか!?

2021.10.3.


(了)
(初出・当該ブログ記事)


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