『帰ってきたウルトラマン』#1「怪獣総進撃」 ~第2期ウルトラシリーズ・人間ウルトラマンの開幕!
『帰ってきたウルトラマン』#2「タッコング大逆襲」 ~未熟で慢心する主人公への試練・彷徨、年長者の遠回しな援助での改心!
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『帰ってきたウルトラマン』第3話「恐怖の怪獣魔境」 ~主人公と同僚の対立。仲介する加藤隊長の誠実な人間性!
(岩石怪獣サドラ・地底怪獣デットン登場)
(文・犬原 人)
(2020年1月27日脱稿)
「竜の伝説」がある霧吹山で遭難・転落事故がたびたび発生。空から捜索を開始する本作の対怪獣・防衛組織であるMAT(マット)。
そこで、上空から(実はウルトラマンと合体ゆえに超能力で)怪獣の鳴き声が聞こえて怪獣の姿も見えたと主張する主人公・郷 秀樹(ごう・ひでき)隊員。
「10のうち、1つの疑問があれば、それを調査し解明するのがMATの任務だ」として、加藤隊長は隊員たちに地上から登山で調査させる。またも郷には怪獣の遠吠えが聞こえてきたが、他の隊員たちには何も聞こえてこない。
戻った作戦室で、今度はひとりで調査させてくれと主張する郷に、岸田隊員(演・西田 健)は「上野だけじゃなくオレや南の目や耳も信じられないと言うのか!?」と堪忍袋の緒を切らして、彼らの間で対立が起きてしまった。
両者の対立を何とかするために、加藤隊長は単身で霧吹山に向かって、自分の眼で怪獣を確認しようとする。
隊長の身を案じた郷も追って単身で霧吹山へ。郷は自分の死んだ父のことを思い出して弱気を振り払い、「隊長がオレの信じるとおりの人なら、絶対この山にいる」とひとりで山中の探索を続ける。
やがて、両手が小さなハサミとなっている茶褐色の怪獣サドラに襲われていた加藤隊長を郷は発見する。
加藤隊長「来てくれたのか」
郷「きっと霧吹山だろうと思ってました。来てよかった」
加藤隊長「バカ者、こんな恐ろしいところにひとりで来るヤツがあるか」。
郷「オレはある賭けをしたんです。隊長がオレの信じるとおりの人なら、きっと霧吹山に行っている。隊長はやっぱりオレの思ったとおりの人でした」。
加藤隊長「私は隊長として当然のことをしたまでだ」
郷「MATに入隊してよかった……」
怪獣サドラがいないことを見てとって、隠れていた洞窟を出ていくふたりだが、別の怪獣である地底怪獣デッドンも出現!
加藤隊長「ここは私に任せろ。郷、早く逃げろ。ふたりはムリだ。ひとりなら助かる」
郷は見捨てられない。郷は手榴弾で応戦する。
サドラも再出現して、今度はデットンと対戦する。
その隙にふたりは逃げるが、今度は郷は岩に脚を挟まれてしまった。郷に本部への連絡を促された加藤隊長は、岩石が磁石で電波障害があるためにその場を離れるが、その先にはまたも怪獣が立ちはだかっていた!
この窮地に、郷が必死にもがいたところで、光に包まれてウルトラマンへと自動的に変身!
2体の怪獣を相手に山中で戦うウルトラマン。ウルトラマンの地球上での活動時間を示す胸の中央の円形のランプであるカラータイマーが赤く点滅して鳴り出した!
両腕を十字に組んで必殺のスペシウム光線で怪獣デットンを撃破!
残った怪獣サドラに対しては、ウルトラマンの右腕から光輪側のノコギリである八つ裂き光輪を放って、その首を刎ねあげた!
怪獣は倒されて、残る隊員たちも霧吹山で無事なふたりを見つけ、郷の疑惑は晴れるのだった。
……本作初となるウルトラマン対2大怪獣のハンディキャップマッチ。「怪獣たちがいっせいに目を覚ました」世界観を表現するうえで、ありうべきシチュエーションには違いない。しかも、岩石怪獣サドラにせよ地底怪獣デットンにせよ、特別に超常的な特殊能力があるわけでもない。双方ともに実に地味な茶褐色の体色で、岩山に潜む「野生」の怪獣にふさわしい「獰猛さ」がそのまま「脅威」になっている。本作序盤の怪獣の過半は、人里離れた大自然の象徴だという設定で統一感を与えていたわけだ。それでも、サドラとデットンは人気怪獣になっている……。
「日常」とは明らかに落差がある「非日常」的な「アンバランス・ゾーン」ではなく、視聴者の日常世界とも地続きになっているような「山奥」で、人間を食うことなど何とも思っていない怪獣たちが暴れ回っているという恐怖感……。
むろん、予算の関係でビルや家屋などのミニチュアの調達がやや困難だったからそうしていた……といった話も承知しているが、山間部を表現した特撮セットもそれはそれで手間と予算が掛かりそうに思えて、実際のところはそんなに節約ができていたようにも思えない。
そうした人外魔境を発端に勃発したМATの対立劇が今回の人間ドラマ部分のメインである。存在するのかどうかすら定かではない怪獣の鳴き声を聞いた! と主張する郷。ウルトラマンの超能力によるものだが、その自覚は本人にはあまりないようだ。
上空でエンジン音を響かせながら飛行しているMATの戦闘機・マットアローの操縦席内ではそんなものが聞こえるはずがない! と真っ向から否定する上野隊員(演・三井 恒)と岸田隊員。主人公や視聴者から見れば、否定的な役回りを与えられているが、彼らの言い分はもっともなのだ。
さらには、前回の第2話では郷をかばってくれた副隊長格でもある南隊員までもが、岸田隊員たちほど強硬な否定派ではないグラデーションは付けているにせよ、
「霧はスクリーンの役目もします。光線の加減で山影や飛行機の影が怪獣に見えることもあります。郷が聞いたのは谷をわたる風の音かと……」
と、それはそれで合理的に否定したことで、郷の孤立描写に輪をかけて追い討ちをかけている。
郷がウルトラマンとしての特殊能力を発揮していることがわかっている視聴者としては、郷が正しいことがわかっているので彼のことが可愛そうになってしまう。子供番組としてはシビアにすぎるドラマなのだが、劇中内でのリアリズムで考えれば他の隊員たちが特に無能だということでもなく至極当然の反応なのである。
彼らのわだかまりをなんとかするため、単身で霧吹山に向かった加藤隊長と、その隊長の身を案じてあとを追う郷。郷には13歳のときに遭難して死亡した登山家の父がおり、もう少しのところを救助隊が調査してくれたら助かっていたかもしれないという過去も明かされる。郷の生来からの善良さはもちろんあるだろうが、彼の人助けへの傾注についての一本スジが通った行動原理の一端ともなる描写でもあり、セリフだけで済まさずに本編監督はしっかりと映像化まで果たしていることで、重みをさらに増している。
話に派手さはない「通常編」ともいえるが、郷 秀樹に遭難した父がいたこと。そこに同じく遭難してしまった加藤隊長を重ね合わせることで、郷の人物像と行動動機にも肉付けをほどこして、郷は加藤隊長を擬似的な「父親」とも捉えていることを一挙にダブらせて描写していく。
ゆえに、MAT隊員たちとは不和がありながらも、潜在的な「家族」たりうる可能性が示唆されたともいえるわけで、その意味ではシリーズ全体を俯瞰した場合に重要な点描があった話なのだ。
この時点での郷にとっては、MATは必ずしも居心地のいい場所ではない。しかし、彼らとの激突や交流の末に本話ラストのように一事件を解決したことでの緊張緩和で互いに笑い合ったりすることを重ねていくことで、彼らの仲も次第に好転していくこともあるだろう。
「共同体」だの「絆」だのといったものは、最初からあるものではなく、あくまで「個人」である自分たちが築き上げていくものだ……といった解題は、90年代中盤以降の日本で隆盛を極めている後世の社会学的な尺度の引用かもしれないが、上原氏がそれをハッキリと意識して投入したかはともかくとしても、氏のそんな哲学もここには垣間見えるのかもしれない。
とはいったものの、本作の第1クールでは、話数が改まると、郷と隊員間での関係好転がリセットされて、不和や軋轢が再発して、彼らの人間関係がいつまで経っても好転していかないことには、小学生にもなれば不審の念を覚えていたものだ(しかし、幼児期にはそもそも人間ドラマを理解できていなかったようで、本話についても読者諸氏も幼児期にはヒーローと怪獣の記憶しかないだろう)。
青年や社会人の年齢になってからの再観賞だと、隊員間での仲が好転したようでもまた不和が再発してしまう描写に、リアリティーと苦いカタルシスを感じてクセになってくるところもあるけれど(笑)。
郷隊員のプライベートも描かれている。そして、前話に続いてレーシングカー・流星2号の設計図を、坂田とともに引いているあたりで、連続ドラマ性やシリーズ構成といった語句は当時はなかったものの、当時なりにそういった要素が考えられていた脚本であったことには、あらためて感心してしまう。しかし、本話でのそれは前話と違って肯定的な意味や安息としての意味は持たされてはいない。
郷は上の空で怪獣のことを気にしてしまう。それどころか、怪獣の鳴き声を、あるいは加藤隊長のピンチを超感覚で察知しているのだろう。
そして、郷の不穏で集中できていない態度に気付いた坂田は「今日はやめだ」と設計図を片付けてしまうのだ。自分の失礼・失態にあわてて、設計作業を続けるように懇願する郷。
そこに「ギターを教えてくれ」とアキが入ってきた。不遜にも「そんな気分じゃない」と返してしまう郷。
ところが、坂田の方がアキに「郷にギターを教えてもらえ」と言いだす。「お前は疲れてるんだよ。こいつの顔はこんなチンチクリンだけど、怪獣を見ているよりはずっといい」。たしかに坂田と自分が「愉快」としている設計作業も悪くはないだろうが、それはやや頭脳労働であって気が張って考えごとをしてしまうようなものだろう。気分転換して心を休ませるためには、異性との安らいだ時間も必要なのだと判断しての、坂田の気の利いたイキな計らいなのだ。
空き地で彼女にギターを教えている郷。ギターといった一部の若者のややオシャレな趣味。そして、それを介しての男女の交流。こういったものが意味するところは小学生でもわかるだろうが、それは実感としては重みをもっていない浅い理解ではあるだろう。
しかし、さりげない点描でしかないのだが、再放送のたび、中学生・高校生・学生と長じていくほどに、それが意味していた情実が胸に迫ってきて、これ見よがしではないナチュラルな描写でありながらも、ここまでの高度な描写を1971年の時点の子供番組で達成していたのか!? ……と大いに感心していた話は、筆者と同世代の特撮評論同人ライター間では「あるある」の話だ。そのこと自体がまたもう30年ほどもむかしのこととなってしまったが(笑)。
郷「帰ろう。こんなムダをしている時じゃない!」
アキ「郷さんにはムダでも、私にとっては一年に一度あるかないかの貴重な時よ」
郷「わかった。そんな悲しい顔するなよ」
郷もまた人情や女心がわからない青年ではないのだ。本話のメインストーリーではないのだが、見逃せにはできないサブラインとしての人間ドラマではあり、各話を通じてシリーズ全体を貫いていくはずであったタテ糸としての恋情ドラマもここでは意図されていたはずだ。
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