『現実主義勇者の王国再建記』『八男って、それはないでしょう!』『天才王子の赤字国家再生術』『王様ランキング』 ~封建制の範疇での王さま・王子さま・貴族による、理想の統治や国家・地方運営を描いたアニメ評!
『平家物語』『アンゴルモア 元寇合戦記』『戦国BASARA』 ~人間集団・戦争・栄枯盛衰・戦いでの潮目の変化(引き際)!
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NHKで放映中の傑作深夜アニメ『チ。―地球の運動について―』が最終回記念! とカコつけて……。『チ。―地球の運動について―』(24年)・『薔薇王の葬列』(22年)・『純潔のマリア』(15年)・『アルテ』(20年)といった欧州史に材を取ったアニメ評をアップ!
『チ。―地球の運動について―』~迫害・拷問されても地動説に殉死することもまた狂気やも!? 『薔薇王の葬列』『純潔のマリア』『アルテ』~欧州史に材をとったアニメ評!
(文・T.SATO)
『チ。―地球の運動について―』
(2024年秋アニメ)
(2024年12月25日脱稿)
ナンと! 「地動説」を追い求めた人々の話であった。
逆説的だが、日本における隠れキリシタンと同じである。火刑・拷問・指先の爪をはぐ……。良心的でハイブロウなアニメのようでありながら、随所に残酷描写が輩出。
一方で、自己保身も描かれる。「地動説」を信じているのに知らないフリをする。疑いが2度目におよんだら死刑なので、命惜しさで知己や養子を密告する。
かと思えば、自身の頭脳&要領のよさを鼻にかけて世の中をナメくさった処世術で生きてきたのに、「地動説」=「真理」への探究への情熱は捨てられずに、異端審問官にカミングアウトしたあげくに、キリスト教では禁じられており、破れば地獄行きだというのに、裁判や刑罰での恥辱なぞは受けまいと毒杯を仰いで自殺する……。
不謹慎だけれども、実に面白い!
西欧近世の街並みなどもリアルなのだが、例えに出すのは気がひけるものの、西欧中世風異世界ファンタジーもののアニメの背景美術もまた緻密な考証に基づいたものではあったので、そこが本作の突出した箇所や個性でもない。
こんなリベラルな御仁たちの奮闘によって、無知蒙昧な「中世」から啓蒙化された「近代」が、科学的な市民社会も誕生してきたのだ! そして、蒙昧な保守反動・反革命なバックラッシュ(同語反復・笑)がはびこる世にあって、自身は早く生まれ過ぎてしまったラディカルな前衛なのだ! と自負心を新たにする御仁もいるのやもしれない。
しかし、ちょっと待ってほしい。本作の劇中でも、ビジネスの世界をキラって、天体観測に人生の多くを費やして、キリスト教会公認の古代ギリシャのアリストテレス的な「天動説」には疑問は持ったものの、「地動説」にはたどりつけずに「天動説」の範疇で合理的な理論を構築しようとしていた御仁も登場してくる。
彼らは愚かであったのであろうか? 我々後世の人間は後出しジャンケンの結果論でいずれが正しかったかを知っている。しかし、その過程においては「地動説」もまだ「仮説」にすぎない。観測結果から導いた、一応の合理的な説明体系に過ぎない。
地球が球体で地球そのものも自転し、太陽の周囲を公転するサマを肉眼で見たワケでもない。証明されるまでは、「天動説」も「地動説」もまた「仮説」としてはイーブンなのだ!
たしかに筆者も、神・霊・魂はもちろん、太陽の周囲を地球が周回するサマや、新型コロナウイルスも見たことがなかった。この肉眼で見えないものは信じない!(笑)
沖縄人は「命どぅ宝(ぬちどぅたから)」=「命は宝」と云っている。では、真理に殉じて死んでいく初期キリスト教徒や地動説の信者は愚かであったのか?
日本でキリシタンが火刑に処されていたちょうど同時期に、まだ欧州でもキリスト教会が異端や地動説の信奉者を火刑に処していた。
ナチスが最初に共産主義者を弾圧したとき、人々が見て見ぬフリをしていたら、迫害対象が広がっても誰も声を上げなくなっていた……といったフレーズで共産主義を擁護せんとするムキがある。しかし、その旧共産圏にて粛清(死刑)にあった人数は第2次大戦の戦死者数を上回る(汗)。
つまり、「地動説」や「科学」の信奉者もまた、「天動説」や「宗教」の信者の虐殺に走った可能性だってあるのだろう!? 中国SF『三体』(06年。23年にTVドラマ化)冒頭での60年代の文化大革命のシーンでも、「宇宙に始まりはない。宇宙の始まりにビッグバンを認めると、そこに神のような超越者を想定することになるので、マルクス主義の無神論には反する」としてリンチが始まってもいた。
リンチにあっても自死しても「地動説」に殉じたい! といった人間たちは個人的には正直カッコいいと思うし、あこがれもする。
しかし、結果的に正しかっただけであって、メタレベルでその人間性だけを見てしまえば、宗教……といっても排他的な一神教……を信奉している人間たちや特攻死をしてしまう御仁たちとも同類項であって、もしくは異端審問官ともコインのウラ表、イコールではなくても隣接した人格類型なのではなかろうか?
……なぞと他人事のように云っているけど、不肖の筆者も思想や理論に殉じてスジを通して生きたい!(死にたい!) と思ってしまうタイプなので、生まれる時代を間違えていれば、70年代初頭の連合赤軍事件やドストエフスキーの『悪霊』のように、左翼内ゲバ殺人なぞに関わっていたのやも……。セーフ!(笑)
日本の江戸時代にも、絵馬に現在でいうユークリッド幾何学の問題を掲げて好事家が回答したり、その道の有名人が各地のマニアに接待されるかたちで無銭旅行ができた旨の記録が残っている。
本作でも街中の掲示板で同様の手法が取られていた。それに回答してきたのは少女!
彼女には女性であるゆえの二重苦もつきまとう。しかも、異端審問官の養女でもある! 果たしてドーなってしまうのか!?
いや、この作品は「地動説」を証明せんとしてきた人々の美化だけで終わってはいない。その狂気をも描いている。しかし否定でもない。それらを軽々には整理もしていない。猥雑なままで俎上に載せてくる。しかして、空中分解もしていない。とにかくスゴい! と私見するのであった。

チ。 ―地球の運動について―
チ。―地球の運動について―
チ。―地球の運動について―(4) (ビッグコミックス)
『薔薇王の葬列』
(2022年冬~春アニメ)
(2022年4月30日脱稿)
英国における「薔薇戦争」を描いた作品である――日本における南北朝時代のようなモノだと思ってください(汗)――。時期的にはマンガ原作の深夜アニメ『純潔のマリア』(15年)が舞台としていた中世の英仏「百年戦争」終結の直後。といっても、アルプス以南ではもうルネサンス期になっているけど。
筆者個人の評価はシリーズ序盤はビミョー。シリーズ中盤以降はまぁまぁ面白いといったモノ。まず何よりも序盤がわかりにくい。
いやもちろん、白薔薇ヨーク家vs赤薔薇ランカスター家といった大構造は説明されているのでわかる。しかし、それがねらいなのだとしても、あまりにポエミーで少女マンガ的な心象映像ばかりである。
遠景からのお城なり、原野を乗馬で移動するなり、ドーバー海峡を渡ってフランスへ行く……といった移動ショットでも入れてくれればイイものを、そのへんがモノの見事にオミットされているのだ。それによって、地理的な位置関係がわかりにくいし、腰の据わりも実に悪くなっている。
「内政」なり「財政」なりが議題にもならないあたりでは、世間的には安直展開だと思われがちな「西欧中世風・異世界ファンタジー」モノにも、今では負けているやもしれない(汗)。
とはいえ、下々のブ男や庶民がいっさい登場せずに、美形の王侯貴族だけが登場して「好いた、ホレた」といった耽美的な世界をつづっていくのは、少女マンガが原作でもあった本作においては「この作品ではそうなっているのだ!」といった風に割り切れなくもない(?)。その範疇にて突き詰めていって、突き抜けてもくれれば、特化したモノでも相応に面白い作品に仕上がることもあるだろう。
本作では、 世間一般的には醜い狡猾な「せむし男」であったハズだが、痩身色白かつ美少女のような小柄な美少年として造形された主人公・リチャードが、父・ヨーク公のことを助けられる強い騎士になりたいと願いつつも、身体は非力な女性であったりもする――両性具有であるのだ――。
彼が森の中で出逢った温厚な羊飼いのイケメン長身青年の正体も、一般的には精神障害であったといわれていた敵のランカスター王ことヘンリー6世で(!)、敵陣営の首魁ではあったものの立場上の神輿(みこし)でしかなく、俗事をキラっている彼とは互いに素性を知らぬままで交流も深めていく……。
青年にしか見えないヘンリー6世にはすでに青年になっている息子がいて(爆)、そんな息子の方もリチャードの正体が女性だと勘違いをしてホレ始めてしまう。
そんなリチャード自身は父親・ヨーク公には可愛がられたものの、母親は父の手前ではイイ顔をしつつも、父の姿が見えなくなるやリチャードの両性具有を忌み嫌って「悪魔だ!」と罵り出すという悪辣なイジワルさ!
このあたりもツマラなくはない。しかし、実に狭苦しい人間関係を描いているだけだともいえる。史劇としてもあまりにスケールが小さくて、個人的にもさほどに……といった感もあったのだ。
面白くなってきたと思えたのは、父・ヨーク公の死後に王位を継承することになった利発な長兄エドワードに対して、「領地を返して」と妖艶な未亡人貴族が接近してくる件りである。
逢瀬を重ねて結婚にまでコギつけるも、彼女の心は死した元夫にあって、その真意は復讐でもあるという(爆)。そして、それは先王以来のキレ者である腹心・忠臣の離反をも生んでいく……。といったあたりで俄然面白くなってきて、筆者の評価も急上昇!
まぁ、主人公が両性具有で悩んでいるといったあたりだけで――メンタルは男ではあったものの――、トータルでの「物語としての巧拙」はさておき、一部からは「性的多様性」を描いたといった文脈「だけ」で高い評価を与えられてしまう昨今の風潮――いわゆる「クィア文学」賞揚――にはプチ反発もいだくのだ。
そして、原作ありきのアニメだとはいえ、シリーズ序盤をもう少しだけ見晴らしのよい感じで構築ができなかったことについても惜しまれるのだ。

TVアニメ『薔薇王の葬列』オリジナルサウンドトラック
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『純潔のマリア』
(2015年冬アニメ評)
(2015年4月27日脱稿)
純潔(じゅんけつ=処女)であり、聖母マリアと同じ名前であるのに、その正体は魔女! といった、その「存在」自体が不謹慎(?)な少女が主人公でもある作品。
戦争のことが大キライな彼女が、中世末期の英仏百年戦争のフランスを舞台に――アルプスより南ではもうルネサンスの時代だけど(汗)――各地の戦場で異教(=キリスト教以外の宗教のこと)の巨大怪物たちをその魔法にて召喚! その都度、英仏両軍を驚愕させて退かせていた。
まずは胸の谷間・両肩・背中のハダを露出させた現代風の黒革ボンテージを身にまとったSMの女王さまみたいな魔女像が西欧中世にあったのかヨ!? と一応はツッコミを入れてみる(笑)。だが、そこはあくまでも虚構作品。マンガ的な「絵」から入る「キャラ立て」であって、問題ナシだと私見したい。
問題ナシではあるけれど(?)、ボリュームのある金髪ショートの主役魔女の少女は、お眼めがデカくても若干吊り目でややクセのあるキャラクターデザインではある。
本作はオタク系というよりかはマニア系だともいえる月刊「アフタヌーン」誌の連載マンガが原作であった。それゆえに、当世風の「萌え媚び絵柄」の文脈を考慮していないのかもしれない。けれど、それはマーケティングやライト層の客引き的には吉と出るのか? 凶と出るのか?
しかし、領主さまの伝令を務めている青少年クンに対しては、ちょっとテレたりしてみせるような性格的な「弱さ」や「ハニカミ」もこの魔女少女にはある。よって、我々のような弱いオタク男子にとってはそこが少々の取っつきやすさの救いにもなるのだけれども(笑)。
その逆に、
●主人公少女の「使い魔」の分際であるのに、ナゼか彼女よりも年上で(笑)、主人公が処女であることをからかってもくる、極小の包帯水着(?)をまとった露出度大のナイスバディーで銀髪ロングの「淫魔」であるお姉ちゃん
●金髪巻き巻きドリルツインテールの「イギリス魔女」の美女
●そして、「フランス魔女組合」(笑)の年若い魔女たち数名……
彼女らについては、キャラデザ的にもアクやクセは少なくて、吊り目でもなく端正ではあった。よって、我々萌えオタ的にも抵抗感はナイですよね?(笑)――結果的に、彼女らの中に混ざっていると、クセのある絵面の主役魔女少女がビジュアル的にも立ってくるのだ!?――
以上は、いわゆるマンガ・アニメ的な虚構パートでのキャラデザ面でのお話である。
だが、それ以外は、本格歴史モノの大作映画もかくや! といわんばかりの緻密な絵作りともなっている!
●貧しいけど慎(つつ)ましい、中世農民の衣服・住居・農耕・村落
●馬上のヨロイ騎士に率いられて、ヤリとタテを持った徴発歩兵と傭兵たちの行進
●従軍神父さんによる開戦直前のお説教や祈祷(きとう)
●弓矢の雨アラレ!
●刀剣での歩兵同士の乱戦!
●西欧中世社会の「典型」を象徴もしている、魔女マリアとは私的に関わってもいる貧しく慎ましい農家の家族たち
●善人ではあるものの、その時代相応の身分意識はあって、領地安堵のためには卑屈さや狡猾さといった政治的なふるまいもせざるをえない領主と、前述したその伝令をもっぱらとしている家臣の青少年クン
●傭兵たちと行動をともに随行していく、職業としての娼婦たち(汗)
●町の金髪青年である修道院長さまと少年修道士
このテの作品の常としては、「よくお勉強しましたネ」的な内容で、「物語」としてはウマく昇華ができてはいない作品程度にとどまっているのに、扱っている「題材」や「ディテール面での歴史的な正確さ」だけで、作品のことをベタボメしてしまったり、『まおゆう魔王勇者』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200123/p1)や『狼と香辛料』(08年)などもそうだったけど、「エラいヒトの学説を当てハメま評!」(笑)といった、「作劇面での巧拙」を論じずに「作品外での歴史蘊蓄(うんちく)」トークを得意げに披瀝するだけの本末転倒なプチインテリオタクが跋扈(ばっこ)しそうでもある(イヤミ・汗)。
だが本作は、設定倒れや役割人物像だけの作品にも陥(おちい)ってはいない。主要人物各々の人生を紡ぎつつも、それぞれが対角線の関係でも複雑に交わっており、因縁&人間ドラマを織り成してもいく。
そして、あまたの「反戦平和」のお気楽な作品群とも異なっているのだ。
たとえ魔女マリアの善意からの行動ではあっても、「知恵のない直情的な戦争仲裁」によって、稼ぎにありつけなくなった傭兵たちは村々の略奪を開始する!
フランスの勝利で海の彼方へと放逐(ほうちく)できたかもしれなかったのに、ヘンに情をかけたばかりにイギリス兵が復活してきて、彼らの反撃を招くことにもなってしまう!
実は彼女の行為こそが戦争を長引かせている側面もあって、領主による庶民たちへの新たな徴兵まで発生してしまうといった逆説・皮肉までをも描いていくといった八方ふさがり……。
そんなマリアの行為を、それぞれ異なる理由で見咎めてもくる、「地の教会」――地上・現世でのキリスト教会!――と「天の教会」――天上世界にいる大天使ミカエルに、天の父ことユダヤ・キリスト教的な一応の唯一絶対神かキリストか!?――。
あげくの果てに、今や落ちぶれて森の奥へと逼塞(ひっそく)している、キリスト教普及以前の時代からあるゲルマン民族や先住ケルト民族の土着の神々までもが登場してくる!
それら太古の神々もまた、マリアと抗争や禅問答を繰り広げて、
●「魔女マリアの行為の是非」
●「『秩序』と『自由』という、実は相矛盾している2大原理の相克」
●「全知全能かつ天地創造の唯一絶対神がいるのならば、不幸はナゼにあるのか?」
といった議題までもが輻輳(ふくそう)されていく。
最終的には、魔女マリアは大天使ミカエルとも対決!!
あぁ、「天」や「神」を「国家権力悪」に見立てて、「反体制」や「反権力」でありさえずれば、その内実の正否は何も問われずに即「正義」扱いだとされてしまって、「オレ、カッケェェェーー!」みたいな、それはそれで今ではあまりに陳腐凡庸どころか、害毒すらあるであろう善悪逆転観のオチなのかよ……と思いきや。
「天」や「神」を「汚れキャラ」にするのでもなく、魔女マリアこそが道徳的な最終勝利者でもナイ、第三のオチがそこには待っていた!
それまでの本作に登場してきた大人数キャラクターの「証人喚問」(!)の末に、彼女を――キリスト教・新約聖書のイエスの発言的な意味での――「善き隣人」だと認めつつ、互いに妥協させる「大岡裁き」は、狡猾な大天使ミカエルの条件闘争での作戦勝ちだったとも見えなくはない。
「戦争廃絶」を目指してきた彼女が、大空を超高速で雄飛して武具をも飛ばしてみせる「魔法」という戦略的機動力を失って、好いた男と結ばれて、身の丈のできる範囲で今後は理想を目指していくといったオチも、それまでのストーリー展開や彼女の言動とはやや不整合があるようにも思えて、多少腑に落ちないところもあった。
しかし、ミクロでのアット・ホームな幸福もドコかで求めていた彼女が、ココで報われたようでもあって感涙してしまう……。
エッ、魔女マリアと農民少女を除いて、神父さま・傭兵・娼婦・領主さま他ほとんどのキャラクターは、原作マンガには存在しない、深夜アニメ版のオリジナルキャラクターだったの!? ナ、ナンだってェェェーー!
魔女マリアの純潔(=処女=魔力)を、傭兵にけしかけて奪おうとまでしてしまう青年修道院長クン!(爆) そんな彼もまた彼女への異端審問における
「何もしない神ならば、存在しないのと同じだ!!」
という魔女マリアの見事な反駁(はんばく)に啓発されて、
●「神の存在証明」を唱えた神学者トーマス・アキナス
●「理性による神の存在証明の不可能性」を唱えたオッカム
●「実在論」――「普遍」それ自体が天上世界だかに実体的なモノとしても実在するという説――と、「唯名論」――「普遍」とは名指しのための単なる名称・概念・言葉にすぎないという説――
といった、西欧中世の神学論争も経由して、
●「『普遍』よりも『認識』こそが、存在・実在・本体であるのだ」
●「事実などない。あるのは解釈だけだ」
といった、もっと後世の哲学者・デカルトやニーチェのような「神の否定」の一歩手前にまで至ってしまう。
しかし即座に、「神を否定しない範疇での『自由意志』」を肯定していた古代末期の異端教父・ペラギウスに先祖帰りをしてみせる! ……といった自問自答を、高速早口の60秒間でまくしたてて(笑)、エビ反りして知的恍惚に浸ってしまった青年修道院長クン!
最終回では、そんな主人公魔女の反駁の影響によって(汗)、「天は地上に不干渉!」といった自説・理論体系を固めていったその青年修道院長クンの眼前に、大天使ミカエルがいきなりに別用(爆)にて降臨してくる!
自説とは大いに矛盾してしまった超常現象に遭遇して、ミカエルによる魔女マリアについての質問についてもアタマに入らず、「アリエない!」と狂乱させてしまうイジワルな作劇もまたサイコー!(笑)
「より長大で歴史的な時間尺度の中では、大天使ミカエルもまた、いずれは消滅はせずとも『過去の遺物』と化して連鎖していくだけなのだ……」
といった趣旨のことを、欧州先住のゲルマン神話・ケルト神話の神々であろう存在をして語らしめて、神々や宗教の存在を相対化しつつも完全否定ではなく条件付きでは肯定もしてみせているようでもある、作り手の思想的な達観もダテではない。
2015年冬季のベストアニメだったと私見するけれども……。残念、円盤売上は爆死なのであった(汗)。

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Philosophy of Dear World(アニメ盤)
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『アルテ』
(2020年春アニメ)
(2020年8月11日脱稿)
16世紀初頭のイタリア都市・フィレンツェが舞台。つまりはルネサンス期である。一般的には「古代」以来の自由が復活した時代とされているが、本作ではそこを転倒。女性にとってはまだまだ不自由な時代であったとも描くのだ。
絵を描くことが大好きな、戦前戦中の広島県のすず様(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200308/p1)、もとい中堅貴族の金髪ロングの令嬢・アルテ。
父はその絵を描く姿を喜んでいたけど、母はしかるべき男性と結婚するふつうの人生を望んでおり、彼女の趣味には理解を示さない。
ある日、母親は彼女が描きためてきた絵画の数々を庭で燃やしてしまった! 絶望と悲嘆にくれる彼女。
時は「絵画」と「彫刻」が隆盛を極めた時代。怒りを覚えた彼女は一念発起! 自宅を出奔して、都市各所にある絵画の工房を廻って自身を弟子に取ってくれと頼み込む。
いかに開明的に思えるルネサンス期でも、女性など工房にはいない時代。はるか後年の300年近くあとのフランス革命でも「人民」の概念の中に「女性」は入っておらず、欧米でも女性に「参政権」が与えられたのは20世紀の前中盤のことなのだから仕方がナイのだ(笑)。
女性であることが理由で画家になれないのならば……と長髪を切り落とし、ついには乳房まで切り落とそうとしたところで(汗)、救いの手が差し伸べられる。
ひとり工房のダンディな親方・レオだ。彼は彼女を屋上のボロ家に住まわせて、弟子となるための試練を課す。
……といったところで、冒頭から実に面白くて惹きこまれる。まぁ、もっと引いた視点でシニカル(冷笑的)に見てしまえば、
●朝から晩まで「農作業」をしなければ喰えない庶民と比すれば、お絵描きなどの「趣味」に耽溺できるだなんて、やはりノンキなブルジョワだろ!?
●主人公に金髪美女を配するあたりもルッキズムだ。しっかりとしたリアルな時代考証のようでも主人公少女の服装の胸だけは微妙に強調されているからウソだろ!?
……といったツッコミも論理的には可能なのだ。しかし、そのへんを云い出したならば、たいていの物語・映像作品は成り立たない(笑)。筆者もアタマの片隅にはそれがありつつも、それをもってして作品を全否定しようとは思わない。
作品は彼女が持ち前の不撓不屈さで「画家」として技量をミガいて頭角を現していくサマを、親方・レオが元は物乞い出身であったことや、工房のお得意さんでもある花魁(おいらん)もとい高級娼婦も登場させて、日本の花魁とも同様に話題を広くするためにも膨大な蔵書を保有しており、博識でもある彼女から刺激を受けていくサマなどとも並行して描いていく……。
そして、彼女はヴェネツィアの貴族に気に入られて、画家ならぬ家庭教師としても彼の地へと旅立っていく。
……などと芸もなくアラスジを列挙する(汗)。美麗で精彩なフィレンツェの町並み。各所の工房の職人が動員されての「教会背景美術」の作成風景。しかして、丁稚奉公モノの王道といったストーリー展開。実に面白いのだ。
本作の主演は、『モーレツ宇宙海賊(パイレーツ)』(12年)主演や、『Re:CREATORS(レクリエイターズ)』(17年)でも戦闘美少女系のメインヒロインなどを演じてきた小松未可子で、涼しげでも凜としたボイスが逆境に負けずに明るく立ち向かう姿にも合っている。
原作はややマニアックな青年マンガ誌『月刊コミックゼノン』の連載マンガ。こんなマンガもあったとは……。感服なのである。

アルテ
アルテ VOL.1 [Blu-ray]
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(『薔薇王』『マリア』『アルテ』評は、当該記事からの再録)
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『チ。』~迫害・拷問されても地動説に殉死することもまた狂気やも!?
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『チ。』評!~ 迫害・拷問されても地動説に殉死することもまた狂気やも!? 薔薇王の葬列・純潔のマリア・アルテ ~欧州史に材をとったアニメ評!
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