(脚本・川上英幸 監督&特技監督 鈴木健二)
(『ウルトラマンメビウス』〜ウルトラマンヒカリ編・短期集中連載!)
(文・久保達也)
第11話『母の奇跡』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060910/p1)とはうってかわって、第12話『初めてのお使い』では
「最近なんとなくだが、私は笑われ者になっているような気がするのだが……」
と自認するトリヤマ補佐官を主役に据え、第7話『ファントンの落し物』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060705/p1)に続く徹底的なお笑い路線に転じている。
防衛組織・GUYS(ガイズ)基地作戦室でミサキ・ユキ総監代行から謎の液体入りのカプセルを最終処理施設に運搬するよう、トリヤマが依頼されるのが事の始まり。
サコミズ隊長が護衛をつけようと進言するも、マル補佐官秘書が
「ただのお使いだから」
と口をすべらせたことにトリヤマは激怒。
ムキになってただひとりで任務を遂行しようと作戦室を出ていこうとするトリヤマに、
「今日のおとめ座は最低最悪。なにをやってもダメ!」
とコノミが持ち前の天然で追い打ちをかけてしまう描写が絶品。
ここまで上司をおちょくれる職場が実にうらやましい(笑)。
車に酔っていたのを乗り物酔いの薬を飲んだ直後に一気に生き返ったような表情をしたり、その際興味本意で覗いたカプセルを手をすべらせて川に落としてしまった――それをロングでとらえたカットにカラスの鳴き声が入るのもコントっぽくて良い!――ことに
「1個くらいいいや。1個くらい。1個くらい……」
といじけた調子でつぶやいてみたり、任務遂行後に作戦室に入る前にもやはり「1個くらい。1個くらい……」と自分に言い聞かせていたり、本部に戻って隊員たちの会話から自分が落としてしまったカプセルがどんなに危険なものかを悟り、
「あの〜、どんなに危険なものなのか、私に教えてくれないでしょうか!」
とあわてふためいてみたりと、トリヤマ役の石井愃一の芸コマな演技を見ているだけで飽きさせないものがある。
だがそれ以上に注目すべきなのがやはりトリヤマが落としたカプセルの中身についてである。
なんとそれは「グロテスセル」と呼ばれる超絶科学メテオールであり、『帰ってきたウルトラマン』(71年)第43話『魔神月に咆(ほ)える』において、発砲怪人グロテス星人が信州の蓮根神社にまつられた御神体を魔神怪獣コダイゴンに仕立てあげるために使用した物質(セルだから細胞?)だったのだ!
グロテスセルは中が空洞の物質に入りこむと生物のように動かすことができ、GUYSはそれを利用してロボットを開発する計画(!)を進めていたのだが、巨大化させることによって生じる破壊衝動をコントロールする方法が見つからなかったために計画を断念したのである。
『帰ってきた』第43話においてはこのグロテスセルについては語られず、怪獣図鑑の類においてもこれまでその存在が語られてきたことはまったくなかった。
御神体がコダイゴンに巨大化した理由はリアル志向の人にとってはともかく(笑)、作品中でいちいち言及すべき性質のものではなく、「グロテス星人の特殊能力」程度で片付けてしまえるものである。
だがそれに対し、放映から34年も経ってから独自の解釈を加え、かつての小学館学習雑誌に掲載されていたような、「ウルトラマンのキック力はジャイアント馬場の十六文キックの何十万人分の威力がある」(爆)だの、「ツインテールの肉はエビのような味がする」だの、「イカルス星人のパンチは一撃で京王プラザビルをバラバラにする」といったような、劇中では明確に語られない、いわば「裏設定」的な要素を後日談として大胆にも盛り込んでしまうセンスには脱帽である。
しかもリアル志向の人々が望むような「科学的裏づけ」があるとは到底思えないような(笑)、「小学校の理科知識」の範囲で理解できる程度にとどめているところがまたよい。
トリヤマが落としたグロテスセルは、川で釣りをしていた古道具屋を営む老人――演じるは『人造人間キカイダー』で名脇役・服部半平を演じたうえだ駿!――が拾いあげた。
老人が持ち帰ったグロテスセルは気化して店内の様々な古道具に移動能力を与え、老人はそれを「憑喪神(つくもがみ。付喪神・九十九神・九十九髪とも表記)」と呼んで崇める。
が、これに目をつけた孫娘・由香がカワイイ顔して商売に利用しようと考え、精一杯の笑顔をふりまいてこれらを売りさばく姿に、限りなき商魂が感じられるのがまたよい(つーか、この娘の笑顔は素直にカワイイ・笑)。
グロテスセルを落としたことを悟られたくないトリヤマは、彼が云うところの
「どことなくノホホ〜ンというか、ポヤ〜ンというか」
という気質であるミライ・テッペイ・コノミ(笑)隊員を同行させ、密かにグロテスセルの回収に赴いた。
ミライが
「やっぱり隊長に報告しましょう!」
とするのを
「それだけは勘弁して〜!」
と泣きつくトリヤマ。
グロテスセルが生物を巨大化させる威力がないことをテッペイから聞いたトリヤマの
「魚が飲んじゃったことにしよう!」
との発言に対し、ミライが
「それは無責任です!」
と一喝したりと、天然優等生のミライと対比させることで、トリヤマのいい加減さをコミカルに際立たせているのがうまい。
コノミがついでに買ってきた動くカエルの貯金箱により、古道具屋を突きとめた一同は、
「おじいちゃん、なんかわけわかんない人来てるんだけど〜」(笑)
との孫娘の声にも耳を貸さず、徹底的に捜索した結果、遂にグロテスセルを発見する!
だがまたしてもトリヤマがその場でカプセルを落としてしまい、中の液体がこぼれて大量に気化したグロテスセルは、老人が商売繁盛の神様として崇めていた恵比須(えびす)様に襲いかかった!
恵比須様の目が赤く、妖しく光る!
ミライが恵比須様を抱えて外に飛び出し、これを空中高く放り投げるや、恵比須様は顔を段階的に巨大化させ、遂に魔神怪獣コダイゴンジアザー(!)として地上にズシ〜ンと舞い降りた!
攻撃に来たリュウが「なんじゃありゃ?」とボーゼンとしたほど一見マヌケな、姿の釣竿をかついだ恵比須様姿のコダイゴンジアザー。
だが、左手の釣り竿でジョージとマリナが乗る戦闘機ガンローダーに襲いかかり、右手に抱えた鯛(たい)の口からは
「ショーバイハンジョー、ショーバイハンジョー」
の甲高い声(笑)とともに赤い破壊光線を連続発射した!
ミライはウルトラマンメビウスに変身!
コダイゴンジアザーに挑むが、グロテスセルが一気に気化したことで硬度はコダイゴン以上となり、メビウスの連続パンチ攻撃にもびくともせず、取り上げた釣り竿で殴りかかっても(笑)ヘシ折れた!
そしてコダイゴンジアザーはその重厚な体型に似合わず、空中に舞い上がってはメビウスに対して連続体当り攻撃をブチかます!
メビウスのピンチに遂にウルトラマンヒカリも参上!
コダイゴンジアザーから分離した鯛(笑)がヒカリを、続いてメビウスをも襲う!
メビウスは連続バック転でこれをかわし、つかみあげてコダイゴンジアザーに向かって放り投げる!
鯛は「ショーバイハンジョー」と叫びながらコダイゴンジアザーに激突!
老人からかつて恵比須様を派手に落とした際に右足の一部が欠けたことを聞いたテッペイは、メビウスとヒカリに右足を集中攻撃してグロテスセルを気化させるよう助言。
メビウスとヒカリは空中に上昇し、一旦停止してから俯瞰撮影の見下ろし構図でコダイゴンジアザーの右足を攻撃しようとする。
メビウスの腕の周囲に描かれる無限大マークの輪、ヒカリの右手に導かれる稲妻、とあいかわらずたまらないタメの描写のあとに繰り出されるウルトラダブル光線!
これを受けたコダイゴンジアザーが恵比須様の木像へと戻る際、左腕を「えぃっ!」とばかりに高々と掲げ、元々のポーズを律義にとる芸コマな描写も注目すべき点である(笑)。
事件解決後、トリヤマがグロテスセルを落とした一件をひたすら隠そうとするミライ・テッペイ・コノミであったが、「はじめてのおつかいに失敗はつきもの」とのサコミズ隊長の発言でバレバレだったことが発覚。
定番のオチではあるものの、ヒーロー作品としてのカタルシスもキチンとおさえ、最後まで楽しませてくれた点は特筆に値する。
ただひとつだけ欲を云わせてもらえば、やっぱグロテス星人には再登場してほしかったねえ。コノミに「星人だわっ!」(笑*1)と叫ばせたりして。
(編:ゲストの孫娘・由香役の崔岡瑞季は、ビデオ作品『ウルトラマンネオス』(00年)#9「僕らの恐竜コースター」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120422/p1)にも、子役時代に主役級のゲストヒロインとして出演)
*1:『帰ってきたウルトラマン』第43話『魔神月に咆える』(脚本・石堂叔朗(いしどう・としろう)) 監督・筧正典(かけい・まさのり))において、防衛組織MAT(マット)の伊吹隊長の娘・美奈子はグロテス星人の正体を目撃した際、「星人だわっ!」と叫んでいる。これまでウルトラシリーズに登場した侵略宇宙人は一貫して「宇宙人」と呼ばれていたのだが、時代劇の下品な悪党、もしくは街のチンピラのように描かれていたグロテス星人は、「侵略者」のイメージを完全に消失してしまったのである。『帰ってきた 帰ってきたウルトラマン』(99年・辰巳出版・ISBN:4886413641)の『星人総進撃〜これが第2期ウルトラシリーズだ!〜』と題したコラムにおいて、特撮ライター・江口水基(えぐち・みずき)はこの件について、「この回をもって、知能犯的異星人=宇宙人、粗暴犯的異星人=星人、という謎の不文律が確立してしまうのである」と記している。
『帰ってきたウルトラマン』4クール目突入にあたり、円谷プロが作成した『番組延長に関するメモ』の中に、「怪獣・宇宙人と対決するスリルとサスペンスと爽快なるアクションの中で、私たち人間にとって〈良いこと〉〈悪いこと〉とは何かを考えてみたいのです」という一節があるが、江口は『帰ってきた』4クール目に登場した宇宙人が狙いをウルトラマンやMATに絞ってきたものが多かったことに対し、「これは先のメモの〈良いこと〉〈悪いこと〉を画にする上でもっともわかりやすく、作りやすい展開」であるとし、「彼らが悪役に徹してくれたからこそ、ウルトラマンのヒーロー性が際立ち、子供たちは惜しみない声援を送ることができるようになったのだ」と、「星人」について好意的に記している。
ちなみに伊吹隊長の娘・美奈子は第31話『悪魔と天使の間に……』(脚本・市川森一(いちかわ・しんいち))に続いて2回目の登場。実は第38話『ウルトラの星光る時』(脚本・上原正三(うえはら・しょうぞう))準備稿でも登場が予定されていた。
『ウルトラマンタロウ』(73年)でもZATの南原隊員の母が、第13話『怪獣の虫歯が痛い!』(脚本・田口成光(たぐち・しげみつ))と第51話『ウルトラの父と花嫁が来た!』(この話は人間ドラマ的傑作!)(脚本・阿井文瓶(あい・ぶんぺい))の2回に渡って登場した例がある。
複数回に渡って登場したゲストではないが、『タロウ』第38話『ウルトラのクリスマスツリー』(脚本・田口成光)では第4(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071223/p1)、5話(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071230/p1)の怪獣キングトータス編(脚本・上原正三)の際に孤児となった少女ひとみが登場し、『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)第15話『くらやみ殺法! 闘魂の一撃』(脚本・田口成光)の津山青年は第1話でマグマ星人と双子怪獣に沈没させられた黒潮島(くろしおじま)の生き残りであったり、それ以前のエピソードから派生したゲストの登場も、昭和ウルトラの時代において既に試みられていたことなのである。こうした試みが平成ウルトラで初めてなされたとする記述もたまに散見するが、それは誤りであるので念のため。