假面特攻隊の一寸先は闇!読みにくいブログ(笑)

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仮面ライダー剣 最終回・総括合評 ~會川ヒーローは痛みと深みを増して

『仮面ライダー剣』前半合評1 ~ベテラン脚本家・今井詔二作品として!
『劇場版 仮面ライダー剣 MISSING ACE[ミッシングエース]』 〜賛否合評
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仮面ライダー剣ブレイド)』最終回・後半〜終盤評


仮面ライダー剣』後半評 ~會川ヒーローは痛みと深みを増して

(文・内山和正)


 アンデッドでありながら遺伝子の異常により殺し合いを好まない嶋昇(しま・のぼる=タランチュラアンデッド)という名キャラクターを視聴者の心に残してメインライター・今井詔二(いまい・しょうじ)氏は28話で去っていかれた――嶋の存在感が魅力的なのはもちろん、持っていなければ平和なのではないか? といった要素は我々人間にもあるものなので、深い設定に思えた――。


 降板されたのか他の仕事で忙しいか長期的不在となっている――過去の東映特撮では、1988年に東映不思議コメディシリーズ『じゃあまん探偵団 魔隣組(まりんぐみ)』のメインライターだった大原清秀氏が、大映テレビ製作のテレビドラマ『ザ・スクールコップ』執筆のため2ケ月間番組を留守にした例があった――。


 それ以後に放送された今井氏の作品には2時間ドラマ2本があるが、片方は安定した力量で楽しませてくれたものの、もう1本は旺季志ずか(おうき・しずか)さんとの合作であり、旺季さんのほうの比重が大きいのではないかと思えたものだ――2時間ドラマの製作は一般にテレビ放映よりもかなり先行しているので、『剣』執筆以前の作品なのかもしれないが――。


 ともかく、この最後のエピソードは、嶋については魅力的であったものの、今さら剣崎一真(けんざき・かずま=仮面ライダーブレイド)に戦う意味を再確認させることについては疑問だった。彼が仮面ライダーとしての使命ではなく人を救いたいから戦っているだなんて、もうわかっていたことではないか? 剣崎が両親を救えなかった過去はあるにしても、なぜこのように真っ直ぐな人間になりえたか? といったことこそを描くべきではなかったか?



 脚本家・井上敏樹氏の担当回(29・30話)をはさんで、脚本家・會川昇(あいかわ・しょう)氏が暫定的か後任かは知らないもののメインライターに就任されて、31話以降の大半の回を執筆されるようになった。今井氏の世界観を壊さずに自分の世界観を出していける方なので、この人選は妥当だろう。


 けれど、夏場のあの特撮変身ヒーロー風味のヒロイズムに満ちた至福の楽しさはもうない。


 ひたすらに傷つく剣崎。タランチュラアンデッドである自分が封印されれば、上城睦月(かみじょう・むつき=仮面ライダーレンゲル)の意識を操るレンゲルの素体でもあるスパイダーアンデッドの邪悪な意思を抑えられるかもしれないと考えて、嶋が犠牲になってしまった効果もなく暴れまくる睦月。彼らしいとはいえ、広瀬義人に騙され利用される橘朔也(たちばな・さくや=仮面ライダーギャレン)。アンデッド怪人であるジョーカーに戻って少女ヒロイン・天音(あまね)のことさえ分からなくなってしまう相川始(あいかわ・はじめ=仮面ライダーカリス=アンデッド・ジョーカー)……


 悲痛すぎて、観ていて気持ちが高揚しなかったのだ。


 だが、今井氏が描き切れなかった剣崎の「正義感」を、「献身的で愚かなまでの捨て身の一途さ」として見事に表現し、深みを与え得たことは高く評価したい。タイガーアンデッド=城光(じょう・ひかる)なる女性キャラクターと睦月との間に芽生えた感情。
 そして、今回のアンデッド怪人たちやライダーたちのバトルロイヤルが天王路(てんのうじ)という悪しき男の陰謀にすぎぬことを知った光は、自分を睦月が封印するようにせしめてアンデッド怪人化させられそうになっていた睦月を、嶋と協力して救い出すことに成功するのだ。今度こそヒーローとしての仮面ライダーレンゲルの活躍が楽しめるようになるのだろう。



 第1クールでの橘の恋人であった深沢小夜子役の粟田麗(あわた・うらら)さん。伊坂=ピーコックアンデッド役の本宮泰風(もとみや・やすかぜ)氏。一之瀬仁役の藤間宇宙氏(子役出身)。高原=イーグルアンデッド役の林泰文(はやし・やすふみ)氏。などなど、ベテラン役者の出演が目立った本作。


 ヒーロー系作品に出演してきた役者さんの再登板も行なってきた平成仮面ライダーシリーズ。本作においては、『大戦隊ゴーグルファイブ』(1982)のゴーグルブラックと『科学戦隊ダイナマン』(1983)のダイナブラックことヒロイン・栞の父親である広瀬義人役の春田純一氏。『仮面ライダーアギト』(2001)のレギュラー・小沢澄子役こと神丘令役の藤田瞳子(ふじた・とうこ)さん。ビデオ作品『ウルトラマンティガ外伝 古代に蘇る巨人』の主役・アムイ役ことキング=コーカサスビートルアンデッド役の上條誠氏。『忍風(にんぷう)戦隊ハリケンジャー』(2002)のレギュラー女敵幹部・ウェンディーヌ役ことあずみ=サーペントアンデッド役の福澄美緒さんなどが登場してきた。


 だが、『ウルトラセブン』(1967)の主人公モロボシ・ダン役こと天王路役の森次晃嗣(もりつぐ・こうじ)氏の登場には意表を突かれた。まさに真打ち登場という感じだ。氏が登場しても不思議はないのだがある種、盲点になっていた配役ではないだろうか?


 天王路という人物の介在が当初から予定されていたものなのかは不明だが、ライダーたちのたどりつくべき場所は明確になったようだ。それを踏まえてどのような結末になるのか、(明るい結末を)期待していきたい。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2005年号』(04年12月30日発行)『仮面ライダー剣』TV後半合評①より抜粋)


仮面ライダー剣』最終回 〜終了評① そしてヒーローは全てを変えて

(文・内山和正)


 生き残ったたったひとりのアンデッド(従来の『仮面ライダー』シリーズの敵怪人に相当)が獲得できるという「想いのままに世の中を構築できる特権」を手にすべく、人造アンデッド・ケルベロスと融合し、現在の人類を滅ぼして、自分に従順な新しい人類を生み出して、それを支配する。そのために仮面ライダーたちに他のアンデッド怪人を封印させて、用済みとなったライダーたちを始末する…… 人類基盤史研究会・ボードの元理事長であった天王路博史(演・森次晃嗣)の企みはそのようなものだった。


 殴りたい・殺したいといった卑近な欲望で行動する者。自らの悲痛な状況を回避したいという切実な想いから他人の人生をもてあそぶ者。本能で人を襲う怪物…… そのような敵が大半を占めてきた「平成ライダーシリーズ」において、彼のようなオーソドックスな正統派の悪役は珍しい。そういったことが成立する世界観だから、違和感なく巨大な敵として存在できるのだが、同時に笑ってしまいかねないのも事実なので、シリアスさと子供向けの特撮変身モノ的なギミックが微妙なバランスで混在する本作ゆえだろう。


 給料をもらってアンデッドと戦ってきた、剣崎一真(けんざき・かずま=仮面ライダーブレイド)・橘朔也(たちばな・さくや=仮面ライダーギャレン)・広瀬栞(ひろせ・しおり)の3人。勤め先のボードが第1話で壊滅したのにもかかわらず、どうして支払いがあるのかが本作の欠陥のひとつだったが、天王路の活動が本格化するとともに給料の振り込みがストップしてしまうというかたちで、遅ればせながらその説明がなされることになった。
 これまでも不審がらずに給料を受け取っていた彼らの呑気さが気になりはするものの、背に腹は代えられずに好意的に脳内解釈して特に追求もしなかったといった深読みも容易ではあったし、なんの説明もなしに終わらせなかったこと自体は評価したいのだ。そのうえで、戦闘における危機とともに経済的な危機をも予感させる作りもうまいのだ。……結局、それ以上は追求されなかったものの(笑)。


 さんざんに企みをめぐらした広瀬栞の父・広瀬義人――実は広瀬の姿と記憶を受け継いだ人造アンデッドことトライアルB――の背後にいた天王路。ライダーベルトやカードなどで連結・吸収されているアンデッドの力を強めて暴走させ、ライダー同士を殺し合わせようとしたり、人造アンデッド・ケルベロス仮面ライダーたちの持っているアンデッドを封印したカードを吸収・強奪して戦闘不能にしたりと、次々にライダーたちをピンチにおとしいれ、ライダーたちがたどりついだ最大最後の敵であるように思わせた彼だったが、それだけで終わらないのが本作の凄味。


 ケルベロスと融合した彼は4人ライダーと同時に戦うほどの能力を持ちながらもさすがに勝てはせずに、ただのか弱い人間に戻ってしまったところをライダーと手を組んだように見せかけていた金居=ギラファアンデッドに惨殺されてしまうのだ。それは正統派の悪役などに、たとえ今回のライダーバトルやアンデッド怪人たちのバトルロイヤルの首謀者が彼であるにせよ、平成仮面ライダー作品としての結末などは飾らせない! と言っているかのようでもある。


 それとともに、4人ライダーが力を合わせて敵と戦う変身ヒーローものらしい展開も終わりを告げる。残る終盤では、共存などは望まない金居との戦い、心との戦い、運命との戦いとなっていく。


 それだけに、この終盤直前における天王路との戦いの一連は、並走して出撃するライダーたちのマシーンと天王路の乗用車がスレちがったり、4人が口々に天王路の目論見を言い当てるなど、正統派の特撮変身ヒーローものとしての華も感じさせていた。



 天音(あまね)の父の死が、自分たちとの戦いに巻き込まれたせいであることを天音らに話すと脅して、相川始(あいかわ・はじめ=仮面ライダーカリス=アンデッド・ジョーカー)に対して優位に立って、自分(金井=ギラファアンデッド)が封印されてジョーカーのみが残れば、そのバトルロイヤルの特性から人類自体が破滅してしまう事実を盾にして、仮面ライダーたちの攻撃を避けようとする金居のズルさと圧倒的な強さが示される47話。


 データの内容からジョーカーを残してはマズいと知らされて、始を封印しようとするも、始を信じる剣崎や上城睦月(かみじょう・むつき=仮面ライダーレンゲル)の想いを信じようと、金居に捨て身の戦いを挑んでいく橘。その跡には散乱するカードと破損したブレイバックル(変身ベルト)が残されて、この作品においてはない、と思われてきた仮面ライダーの死が起こったかもしれないことも示して、この回は終わりを告げていく。


 善意は裏切られる。始の意志とも関わりなく、始=ジョーカー単独での生き残りは、すなわち人類の破滅を呼ぶものでもあった。ジョーカー配下の怪人として自動的に作り出されていくダークローチの群れ(!)が人々を襲った。2人の仮面ライダーがダークローチたちを倒しつづけても数が増すのみである! この状況を変えるためには始を封印するしかない! しかし、始と友情を結んできた剣崎は感情的にもそうは思い切れない。自分を制御しきれなくなりつつある始は、自身の封印を望んだ!


 剣崎の代わりに始(ジョーカー)を封印しようとした睦月が、自身の意志に関わらず動いてしまうジョーカーの猛攻撃で死んでしまったかもしれない状況で、48話も終わっていく。


 さらなる次回の予告編では、剣崎と始との戦いが避けがたいものであることを思わせて、勝手な思い込みかもしれないが、番組当初にプロデューサーが口にしていたテーマから、辛い状況はつづいても最後はおだやかな結末になると信じていた筆者にとっては、最悪な結末をうかがわせるに足るストーリー展開となっていた。



 そして、最終話(49話)。睦月も橘も無事であった。久しぶりに帰国していた烏丸(からすま)所長が橘を救出していたというあたりはご都合主義にすぎるが、とりあえず所長が出ないで終わることにならなかったこともよかった。


 剣崎は自分の身体を疲弊させることで、なにかを行なおうとしていた。その「なにか」が自分もジョーカー・アンデッドになることで、アンデッド怪人が1人だけ生き残ったわけではない状況を作って、始も全人類も同時に救おうとしているのであろうことは推測ができた。その計画が成功するように……と念じながら見ていたが、考えてみればこの番組において、剣崎本人もアンデッド怪人どころかジョーカーになってしまうことが幸せな結末であるはずがない。


 そして、剣崎の作戦は功を奏した。人類の破滅も喰い止められた。しかし、モノリス(封印の巨石板)が現れて、統率者なる存在の声がふたりのジョーカー怪人に告げる。「戦うように……」と。剣崎は始に人間社会のなかで生きるように伝えて、戦いを避けるべく、始のもとから、仲間たちのもとからも姿を消してしまう……



 残された寿命が短いのであろう前作『仮面ライダー555(ファイズ)』(2003)最終回(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20031108/p1)の主人公・乾巧(いぬい・たくみ)とは対照的に、死ねない存在となってしまった剣崎。


 しかし、天王路のような永続的な権勢を求めている人間にこそ「不死」は必要ではあっても、我々や剣崎のような人間には「不死」は必要ではないだろう。死ねぬ身体と怪物になるかも知れぬ運命と戦うことを背負って、永遠にどこかをさまよって暮らしていくのだろう。もとからアンデッド怪人であった始にしても、長い目でみれば、いずれは天音の前から姿を消すか、天音の死を看取ることになるはずで、本作の結末は暫定的なハッピーエンドでしかない。


 個人的な本音としては、始がホントウに人間に変化してしまうとか、烏丸によってなにかがもたらされるとか、安易ではあっても完全なハッピーエンドを望みたかった。しかし、そのような方向性への嗜好を別にすれば、悲劇的ではあっても、素晴らしい最終回として仕上がってはいた。
 さんざんに楽しませておきながら謎が残されたままだったり、最終展開での描きこみが薄かったりしてきた「平成ライダーシリーズ」の最終回のなかにあっては、本作は「完成品」ともいえる仕上がりになっていた――微少な矛盾などは生じているのかもしれないが――。


 これまでに、剣崎が仮面ライダーブレイドの最強形態であるキングフォームの力を得たことで、始が本来のジョーカーアンデッド怪人の姿に戻ってしまったり、始がジョーカーに戻ってしまうと逆に剣崎が苦しみだすなど、2人の共鳴作用が描かれてきたことや、広瀬(=トライアルB)が不死の秘密をつかむべく剣崎をジョーカーにしようとしてきたことなど、充分な伏線が用意されていたことで、これら終盤や最終回の展開も納得がいくものになっているのだ。


 剣崎一真というネーミングはセンス的に前期メインライター・今井詔二氏によるものなのではないかと思うが、そのイメージを保守して、まっすぐな気持ちのまま自分を犠牲にして、世界と始をともに救うかたちで結実させた會川氏の手腕については高く評価したい。


 天音たちと平穏な日々を送っている始が、買いものの途中で目にした、幻影としての剣崎の優しく爽やかな微笑みも心に残った。ただ、剣崎に焦点が当たったことで、始と睦月のその後は描かれたものの、虎太郎(こたろう)や栞や橘については語られなかったことは、彼らの物語でもあった本作であったことを思うと非常に残念だ。



 仮面ライダー初心者である2人の脚本家が前期と後期とでメインライターを務めて、第3期ライダーシリーズである1987年の『仮面ライダーBLACK』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20001015/p2)と1988年の『仮面ライダーBALCK RX』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20001016/p1))においてメインライターが次々と変わるなかで参加しつづけた宮下隼一(みやした・じゅんいち)氏、これまでの平成ライダーシリーズ全作に関わってきた井上敏樹氏、といったベテラン『ライダー』ライター陣が参加するという珍しい形式となった本作。


――會川氏の特撮ヒーローもののデビュー作は、1986年の東映メタルヒーロー時空戦士スピルバン』#23「兄と妹が鬼伝説の山を走る」であった。井上氏が同年のスーパー戦隊シリーズ超新星フラッシュマン』14話「恋?! ブンとスケ番」、宮下氏が翌年の『仮面ライダーBLACK』5話「迷路を走る光太郎」ということで、このジャンルに関してのデビューではほぼ同期という感じの3人だが、『ライダー』参加については會川氏は出遅れた感がある――


 作品というものはライターの息遣いも含めて反映されるべきだと個人的には思っているので、その意味ではなるべくひとりのライターに全話を執筆してほしいというのが個人的な本心ではある。ただ、もとより脚本家の考えだけで作品は作られているわけではない。商業的な要請もいろいろとあるだろう。だから、今井氏の降板は氏のファンとしては惜しまれることではあるのだが、こだわりつづけるつもりはない。
 氏にも功罪の双方があったと思うし、氏が書きつづけていた場合と現状の『剣』とで、どちらが優れた作品になったのかもわからない――少なくとも、平成ライダーシリーズ中で最も印象がウスいと思えた主人公・剣崎は、會川氏のおかげで忘れられないキャラクターへと昇華したとも思える――。


 ただ、今井氏が執筆を継続されていたらどうなっていただろうか? については興味がある。また、本作においてはこれまでの高寺成紀(たかてら・しげのり)や白倉伸一郎の両プロデューサーに比べて、東映側の日笠淳プロデューサーの口が重い。どういう意図で今井氏らを起用したのか? など語られていないことや、ライター陣のインタビュー自体がなかったことには不満があるのだ。筆者の地元には入荷していない『特撮ニュータイプ』誌や、東映のホームページにはあったのかもしれないが……。なお、DVD11巻(ASIN:B000803CFC)の初回特典には、會川氏のインタビューがつくらしい。



 今井氏がメインを務めておられた時点では、始には未亡人とその娘を守るという「未亡人もの」としての要素があったのではないかとも思うのだ。しかし、実際には天音の方が完全に始の相手役になっていた――遥香(未亡人)役の山口香緒里さんが大人気テレビ時代劇『大奥 第一章』(2004)にも、『大奥』シリーズに時代を超えて登場しているコミックリリーフ「大奥スリーアミーゴス」のひとりとして出演するためのスケジュールの問題などもあったのかもしれないが――。


 特に宮下氏が執筆された39・40話においての天音のセリフは、年上の青年にあこがれる少女というよりは、恋人を思う女性のそれになっており、久しぶりに帰ってきていた始が剣崎を案じて飛び出していこうとするのに対して、


「我慢しないって決めたんだからね! 帰ってこなかったら私、待ってなんかあげないんだからね!」


 と口にするのは印象的であった。


 天音の父の死の真相は會川氏によってアッサリと処理されて、天音たちが知ることはなかった。しかし、親子テーマが十八番(おはこ)であった今井氏が執筆しておられたら、父の死に始が介在していたことも、始の正体も明らかになって、それでも乗り越えられるのだろうか? ……というストーリー展開になったのではないかと思われるのだった。



 會川氏がメインとなってからの本作は、ヒーロー味が光るとその直後に暗い展開も訪れるようにもなっていた。本作の狙いでもある“変転”がより増したともいえるだろう。実に見応えがある展開であった。


 井上氏も宮下氏も、會川氏の盛り上がりと持ち味を無にすることはなく、秀作を執筆していた。井上氏は自身の強い個性は本作ではセーブしており、技術の高さを示している。それでいて、合成アンデッド・ティターン――カメレオンアンデッドとスコーピオンアンデッドの合成怪人――の毒に剣崎が侵されているのではないか? と見張っている始といったシチュエーションで、


「オレたちけっこう濃い付き合いをしてきたのに、寂しいじゃないか?」
「気色悪いこと、云うなよ」


 との当世の若者風の少々クダけた冗談まじりのやりとりで、自己の個性(作家性)をハッキリと出してみせていた。


 宮下氏は、始の力を借りたい剣崎が、始が天音親子と楽しい刻(とき)を過ごしていることを知って、


「君はそこにいろ」


 と思いやりを示すところなどが光っており、「作品の世界観をツカんでいるな……」と感心させられた。


 半面、広瀬義人(の記憶を持ったトライアルB)と栞の再会シーンはあまりにもアッサリとしていた。しかし、本物の父でないことを知って、怖がって逃げてしまう栞。そんな彼女をかばって死ぬトライアルBが、実は栞を守るように造られながらも、天王路に記憶の一部を改変させられていたために、広瀬の「妻を甦らせたい」という妄執の部分を受け継いで、剣崎を危機にあわせていたとの真実が泣けた。


 
 今回、『仮面ライダーブレイド』の後半を見返してみて、本放送のときよりも充実感を得て、その質の高さを実感した。


 しかし、人気の面で低いのは、見る人を選ぶ作品ではあったのだろう。たとえば、睦月がブレイドに借りた必殺剣・キングラウザーでスパイダーアンデッド――睦月が変身する仮面ライダーレンゲルの素体――を斬って封印し、「本当の仮面ライダー」になったという睦月史上で最高にカッコいいシーンを経たあとで、改めて仮面ライダーとしての資質について悩んでしまう展開を持ってくるあたりは、テーマ的にも作劇的にも誠実ではあった。しかし、これから強いレンゲルが見られるのだろうという期待には応えていない。橘や剣崎については、何度かの「善意が裏目に出てしまう」といった展開も、子供たちにはスッキリできないのではないか?


 「本当の仮面ライダー」などと定義がなされても、我々旧世代にこそ訴えるものの、悪人ライダーやねじれた心の仮面ライダーたちをさんざん見させられている子供たちには、イチイチ別世界の話だよといった風には割り切れはしないだろうし、「なに云ってんだ?」という感じでしかないだろう。


 旧世代には馴染み深い顔立ちの仮面ライダーたちよりも、子供たちには斬新なデザインのほうが訴求力があるのかもしれない。受けたものに似た作品を連続して放映するとオモチャが売れないという近年の風潮に逆らって、『仮面ライダー龍騎』(2002)よりもカードバトル味を強めて、コケてしまったようでもある――こうなってくると、そろそろ特撮作品もテレビアニメのように、ヒットしたら複数年で放送というかたちに変えていくべきではなかろうか?――。


(了)


仮面ライダー剣 最終回 〜終了評②

(文・T.SATO)


 化けた! 新旧本邦特撮で、ココまで変貌した作品がかつてあったであろうか!? 個人的に、平成『ライダー』シリーズのキャラ連では、本作のブレイド剣崎・ギャレン橘・レンゲル睦月・カリス始が、もうダントツで愛着があって一番スキだ!


 誰が誰だか区別が付かず、3人かと思いきや4人いた(汗)という初期編での迷走。特撮雑誌『宇宙船』での本作終了時のインタビューでは、東映の武部直美プロデューサーが「平成『ライダー』はかくあるべし!」(……おそらく、一定の難解さ・いくつかのナゾ・仲間割れなどの要素のことか?・笑)と、ベテラン御大脚本家・今井詔二センセイに対してリライト・改稿要求(!)をしていた旨(むね)を明言していた。
 本作序盤のA級戦犯は彼女だったのか!?(笑) 作品の責を脚本家だけに帰せられないイイ例となった。でも、迷走ゆえにシリーズ途中から化けていったのであれば……。善悪はあざなえる縄のごとしだ。


 ただ、最終回だけはビミョーだなぁ。悪くはないし、コレもアリだとは思うけど。善人ばかりが登場していた作品だったのに、世界を滅亡から救うためには仕方がなかったとはいえ、アンハッピーエンドにしてしまいますか!?(汗)


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2006年準備号』(05年8月13日発行)〜『仮面特攻隊2006年号』(05年12月30日発行)所収『仮面ライダー剣』終了評賛否特集①・③より抜粋)



『假面特攻隊2006年号』「仮面ライダー剣」関係記事の縮小コピー収録一覧
・読売新聞 2004年10月8日(金) 若者投稿欄「DO!コンポNo.1016」テーマ・マイブーム 〜女子大生が『仮面ライダー剣』に夢中!


仮面ライダー剣』平均視聴率:関東7.9%・中部10.1%・関西7.4%
 (平均視聴率EXCEL表計算:森川由浩)
テレビ東京が、テレ朝ライダーの裏に『ポケモン☆サンデー』をラインナップ、ライダーの視聴率が低下傾向を見せる。(森川由浩)

仮面ライダー剣』はじめ、「スカイライダー」(79)〜「仮面ライダーW」(09)関東・中部・関西の全話視聴率表を、09年末発行の『假面特攻隊2010年号』「平成ライダー東西視聴率10年史」大特集に掲載!


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仮面ライダー剣』 〜全記事見出し詳細一覧

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仮面ライダー剣』前半合評1 ~ベテラン脚本家・今井詔二作品として!

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仮面ライダー剣』前半合評2 ~シリーズ序盤の混迷を整理・脱却!

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『劇場版 仮面ライダー剣 MISSING ACE[ミッシングエース]』 〜賛否合評

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仮面ライダー剣』最終回・総括合評 ~會川ヒーローは痛みと深みを増して

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炎神戦隊ゴーオンジャーBUNBUN!BANBAN!劇場BANG!!(ブンブン!バンバン!劇場バン!!)』

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[関連記事] ~ライダーシリーズ総括

 (ライダー各作品の「終了評」の末尾に、関東・中部・関西の平均視聴率を加筆!)

仮面ライダークウガ』前半・総括 ~怪獣から怪人の時代来るか再び

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仮面ライダークウガ』最終回・総括 ~終了賛否合評

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仮面ライダーアギト』最終回・総括 ~終了評 ―俺の為に、アギトの為に、人間の為に―

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仮面ライダー龍騎』最終回 ~終了賛否合評1

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仮面ライダー龍騎』総論! ~終了賛否合評2 ―『龍騎』総括―

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仮面ライダー555ファイズ)』最終回・総括 ~終了評 ―平成ライダーシリーズ私的総括―

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20031108/p1

仮面ライダー剣ブレイド)』最終回・総括 ~終了合評 會川ヒーローは痛みと深みを増して

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041113/p1(当該記事)

仮面ライダー響鬼(ヒビキ)』最終回・総括 ~後半評 路線変更後の所感

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070106/p1

仮面ライダーカブト』最終回・総括 ~終了評 終戦の白倉ライダー

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070211/p1

仮面ライダー電王』 ~後半評 複数時間線・連結切替え!

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仮面ライダーキバ』最終回・総括 ~その達成度は? 王を消して一緒になろうと言い寄る弱い女の狡猾さ

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