「ウルトラマンタロウ 再評価・全話評!」 〜全記事見出し一覧
(脚本・上原正三 監督・吉野安雄 特殊技術・鈴木清)
『ウルトラマンタロウ』再評価・全話評! 連載開始!
(CSファミリー劇場『ウルトラマンタロウ』放映・連動(?)連載!)
(文・久保達也)
辛くもトータス夫婦の真空渦巻から難を逃れたタロウは自らを高速回転させて地中に姿を消す。
ZAT隊員たちが地上からZATガンで攻撃をかけるが、クイントータスは卵管から、キングトータスは口から赤い火炎玉を吐いて彼らを蹴散らし、最後に残った黒崎と八田を追いつめる!
トータス夫婦は体を高速回転させて真空渦巻を起こし、黒崎と八田が宙に舞い上がる! タロウですら苦戦した真空渦巻なのだ。人間なんかひとたまりもない。黒崎と八田はトータス夫婦の腹の中に吸いこまれてしまった!
荒垣「復讐を遂げた。卵を食べた者は全員やられた……」
佐久間は食べられ、第4さくら丸の乗組員たちは船ごと海に沈められ、白井は地割れの中に巻きこまれ、黒崎と八田は腹の中に吸収される……卵を食べた者に復讐を果たすにせよ、それぞれ違う手法をとることでワンパターンに陥らせず、飽きさせないばかりでなく、トータス夫婦の執念深さを一層感じさせる工夫がなされている。
少し話が戻るが、この点が先述のモスラ・ガッパ・ゴルゴと異なる点である。
これは製作者やマニアたちがかつてよく用いた表現だが、怪獣を地震や台風といった「自然の脅威」という観点でとらえ、不本意ながら都市破壊をしてしまったように見受けられる彼らとは違い、トータス夫婦は「復讐」という明確な意思をもって卵を食べた者たちを殺害しているのである。
どれだけの被害をもたらそうが地震や台風を罪に問うことはできないが、いくら同情すべき点があるとはいえ、復讐殺人となれば本来断罪されてしかるべきなのだ。これが次の場面において、大きな意味をもたらすことになるのである!
朝日奈「これは鮫島参謀」
鮫島「紹介しよう。こちら、地球警備隊極東支部のスミス長官だ」
スミス「スミスです。よろしく」
朝日奈「朝日奈です」
握手を交わすスミスと朝日奈。
鮫島「早速だが、あの亀怪獣をどうするつもりだ」
朝日奈「ああ、オロン島へ帰してやるつもりです。今、卵を運ばせるいいアイデアを思いついたところなんです」
スミス「亀怪獣はただちに攻撃し、そして殺すべきです!」
ZAT一同に緊張が走る!
鮫島「亀怪獣をオロン島へ帰されては困るとおっしゃってるんだ。オロン島は長官の領土なんだ」
朝日奈「困ると言われても困りますよ。オロン島は亀怪獣の故郷(ふるさと)じゃありませんか」
スミス「怪獣を領土に入れることはできません。我が軍の潜水艦や軍艦が安心して活動できません。演習するにも邪魔です。すぐ退治しなさい!」
朝日奈「殺すわけにはいかない……」
スミス「なぜダメです」
朝日奈「亀って奴は元来おとなしい動物なんです。人間とも極めて親しい間柄にある動物なんです。殺すわけにはいかない」
スミス「亀怪獣のためにさくら丸も沈没させられた。ウルトラマンタロウすらもやられている。それでもおとなしい動物ですか!?」
隊員たちも黙ってはいられない!
光太郎「さくら丸が襲われたのは、乗組員が亀の卵を食べたからです。彼らは日本に復讐のためにやってきたんです!」
荒垣「ご覧下さい」
モニターを指す荒垣。無邪気にじゃれ合うトータス夫婦の姿が映し出される。
荒垣「復讐を終えた途端、すごくおとなしくなりましたよ」
森山「オロン島へ帰してあげて下さい。卵さえ持たせてあげれば、素直に帰ると思うんです」
スミス「卵から4匹生まれたら合計6匹だ。オロン島一帯は亀だらけになってしまいます!」
光太郎「オロン島一帯を亀親子の保護地区にしたらどうでしょうか。亀の楽園にするんです!」
荒垣「そりゃあいい! 夢があるじゃありませんか!」
スミス「あれくらい大きくなればもう怪獣だ! その怪獣を飼育するわけにはいきません!」
鮫島「どうかね朝日奈くん。どうせ相手は畜生だ。この際ひと思いにやってしまっては?」
朝日奈の苦渋の表情がアップに映し出される!
朝日奈「畜生だって、子を思う親の心に変わりはありませよ!」
鮫島「じゃあ、どうしても帰すつもりなのか!?」
朝日奈「そのつもりです」
スミス「もうZATには頼まない! その代わり、オロン島で亀怪獣が巻き起こす事件の責任は全てZATにある! いいですかね!」
朝日奈「わかりました。全責任をZATが負いましょう!」
満足気にうなずき、軍帽をかぶって足早にその場を去るスミス。
鮫島「君! いい加減なことを言って! 俺はもう知らんからな!」
どうにも埋めようがないほどの溝がスミス長官とZATの間に存在するが、この一連の会話を見ると、「ただちに攻撃して殺すべき」かはともかく、その理由を語るスミスの主張は確かに筋が通ったものである。
それにひきかえ、朝日奈をはじめ、ZAT隊員たちの反論、特に光太郎が「亀の楽園」を提案する件は、ひとごとだと思って何を無責任なことを、と批判する向きもあるかもしれない。
だがこの場面におけるZATの主張は、あくまで「視聴者の子供の意見を代弁したもの」と考えるべきであり、「大人と子供の対立」を、そしてZATの隊員たちが心優しいメンバーであることを表現するための、確信犯的演出であるととらえるべきものなのである。
ZATがスミスに同意して主張をあっさり受け入れ、トータス夫婦を攻撃して殺害したあと、卵から生まれたミニトータス4匹が両親の仇をとるためにZAT基地を襲撃、それすらもZATとタロウが情容赦なく抹殺する、なんておぞましい展開にしてみろ。翌週から視聴率はひとケタに急降下して1クールで打ち切りだ。今ならこういう展開にするかもしれんが(爆)。閑話休題。
ZATの主張、ひいては子供の夢想話が現実にそぐわない、実に甘いものであることは百も承知でこれをやっているのである。
それを視聴者に悟らせるために、トータス夫婦は単なる「自然の脅威」ではなく、一見おとなしい怪獣に見えながらも、時には「悪意」をも感じさせる「危険な存在」であるとして、「復讐」の過程がこと細かに丁寧に演出され、それによってスミスの主張により説得力を与えることに成功している。
トータス夫婦が単に「自然の脅威」として描かれていたなら、この場面ではスミスは自分の都合のみを主張する、単なる悪役になってしまうからだ。鮫島がスミスに加勢するわけでもなく、会話のなりゆきをじっと見守り、あくまでスミスの意向を伝えにきた存在であるとして描かれているのも、彼が悪役になる一歩寸止めとして機能しているのだ。
これと同様の手法は第46話『日本の童謡から 白い兎は悪い奴!』などにも見受けられる。ここではペットの飼育を許されないアパートに住んでいるにもかかわらず、こっそりとウサギを飼う少年・太一と、大の動物嫌いである大家との対立が描かれているが、社会通念に照らして考えればどうやっても太一の方が悪い。それでも物語は太一の視点で描かれていくため、登場するわんぱく宇宙人ピッコロは太一の側につき、「地球人は汚い!」とまで云わしめることになる。
こうした点をとらえ、『タロウ』を反社会的な作品などと非難することもたやすい(まあそんな突っ込みも稀だろうが)。だが製作側の狙いは決してそんなことではなく、そもそもが「子供の目線に立った世界観」が描かれていることを理解する必要があるのだ。
だから第46話でも動物嫌いの大家は一応の悪役として設定されてはいるのだが、演じる大泉滉(おおいずみ・あきら)の個性もあり、非常にコミカルなキャラクターとして描かれており、「悪」という印象は薄められている。
この配役は実に的確であり、これがいかにも口うるさそうな頑固おやじタイプの俳優が演じていたら、完全な悪役になっていたと思うのだが、視聴者にそう思わせたら失敗なのだ。なぜなら、最初に悪かったのは太一であって、大家ではないからである。
スミスにしても、第一印象は温厚そうな紳士タイプ(演・ピエロ・カラメロ。カワイイ芸名だ・笑)であり、見るからに超タカ派タイプという人物ではない。スミスも大家も社会通念上は正しい主張をしているのだから、彼らに過剰に悪印象を与えてはいけないのである。
だが結局は二人は「ある一線」を超えてしまい、完全な「悪」へと転じることになる。大家は毒を盛った餌をウサギに与えて殺してしまう(その場面すらも「これ食べる。コロリ死ぬ。グフフフフ……」なんて調子なので、個人的には決して憎めないが・笑)。そしてスミスは……
一見ユルユルな世界観でありながらも、その内実には極めてハードな印象をも感じられる。おとぎ話、アラビアンナイトのような「夢を見る楽しさ」を与えてくれる作品であると評価されることが多い『タロウ』ではあるが、そこには「それが許されるのは子供のうちだけだよ」などという製作側の主張が見え隠れするかのようである。子供の頃の淡い想い出を、ZATガンで破壊してしまう北島を描いた第45話『日本の童謡から 赤い靴はいてた……』などはその究極といえるものであり、明確に「子供社会」からの「決別」を描いているが、これは第45話評にて。
ともすれば作品全体が陰欝なムードに包まれてしまいそうなネタを扱っていながらも、まったくそんな印象を感じずに済んでいるのは、順序が前後するが、先述の険悪な雰囲気に覆われる場面の前に、以下のようなZATのアットホームで明るく爽やかな社風を強調する演出が施されているからだ。
森山「(バスケットを手に)東隊員、差し入れよ」
光太郎「えっ? 俺に?」
森山「下宿のお嬢さんからよ」
光太郎「えっ? さおりちゃんから!?」
あわてて外に飛び出そうとする光太郎。
森山「あっ、帰っちゃったわよ。お仕事の邪魔になっちゃいけないって」
光太郎「えっ、本当。残念だなあ」
南原「可憐ですねえ」
北島「おまえ、愛されてるな」
光太郎「そんなんじゃないんですよ〜」
南原「さあ、この差し入れ早速頂こうじゃないか!」
バスケットに詰められた、さおり特製のおにぎりを手に取る一同。残ったひとつを光太郎が手に取ろうとするや、西田がそれをひったくってしまう。
光太郎「西田おまえ、それはないだろおまえ。これ誰に来たと思ってんの。ねえ」
隣にいる森山に同意を求める光太郎。ただおかしそうに笑っている森山(カワイイ♥)。
荒垣「おい東、これはいい嫁さんになるぞ」
光太郎「そんなんじゃないんですよ! まいったなあ」
お手製のおにぎりをネタに光太郎を冷やかす一同。照れから必死でさおりとの恋愛関係を否定する光太郎。本当になごやかな一場面であり、一服の清涼剤としての役割を立派に果たしているが、これが一転して先述の場面へとつながるメリハリの強さこそZATの魅力である。
かつては「おふざけZAT」などとよく揶揄されたものだが、スミス長官と対立する場面における隊員たちの表情や演技は緊張感がうまく表現され、硬軟の両端を器用に演じ分ける役者たちの真摯な演技の姿勢には敬意を表したいものである。
第2話に続いて作戦室でメシを食うZAT。それをホームドラマに例え、「食事の場面こそ重要な展開がある」と第2話評で書いたが、今回もまた然りである!
北島「食ってばっかいないで少しはいい知恵だせよおまえ」
南原「そんなこと言ったってですよ。(バスケットを手に)こんなもんに入れて、ホイってわけにはいかないんですからね」
朝日奈「おいちょっと待て……これはいけるぞ。バスケット作戦だ。早速準備にとりかかるんだ!」
卵を取り返したものの、それを運ぶ手段がなく、居座り続けるトータス夫婦をモニターで見て、卵をオロン島まで運ばせる良い方法を思案していたZATだが、たまたまさおりが持ってきたバスケットを目にした朝日奈隊長が最善策を思いついた! このひらめきの強さこそが隊長たる所以(ゆえん)であることが表現されているわけで、決してご都合主義なんかではない(苦しいフォローだ・笑)。
かくてZATのバスケット作戦が決行される! トータス夫婦に静かに近づいていく、バスケットを吊したクレーン車。これがミニチュアによる表現のみではなく、光太郎と西田がリモコンによって、それぞれクレーン車の動きとバスケットの開閉を遠隔操作する場面を丁寧に描いている点がリアル感を醸し出す! トータス夫婦の卵がバスケットに収納され、クレーン車は静かにその場を離れる。
荒垣「おい、見本を示してやれ」
荒垣に促された北島と南原が、ボールとバスケットを手にトータス夫婦に卵の輸送法を伝授する。
北島「わかったか。さあやってみろ」
南原「こうするんだぞう〜」
口にバスケットを加え、鳥のように手をバタバタさせる南原の姿がなんともおかしいが、これをロングでとらえ、トータス夫婦の頭部を合成したカットは、まさにトータス夫婦の目線で南原を見下ろすかのような臨場感である!
だがせっかくの見本もトータス夫婦には理解できなかった。光太郎の発案で卵を収納したバスケットをアームで吊し、スカイホエールで運んでいくと、トータス夫婦はそれを追って空に舞い上がった!
「親子仲良く暮らすんだぞ〜」と手を振り、笑顔でトータス夫婦を見送る荒垣と南原、作戦室のモニターを見て微笑む朝日奈と森山の姿は、短い場面ながらも彼らが実に心暖かいメンバーであることが最大限に表現されている!
美しい夕焼けに染まったオロン島上空を飛行するスカイホエールが卵を海岸沿いの陸地に解放すると、トータス夫婦は海上に降下し、静かにオロン島に泳ぎ着いた。大事な卵とともに故郷に帰ることができたことを喜ぶ亀夫婦。
バスケット作戦の成功を喜ぶ北島、西田、光太郎だが、光太郎がふと彼方に目をやると、あまりにゾッとする光景が飛びこんできた! 美しい夕焼け空の下にはあまりに似つかわしくない、地球警備隊の艦隊がズラッと海上に並んでいたのだ!
実に平和な情景を一瞬に暗転させてしまう、このショッキングな演出が見事であるが、「ミサイル、シュート!」というスミスの声とともに、勝ち誇ったような笑みを見せるスミスの表情のアップと、艦隊がオロン島を一斉砲撃するさまをカットバックさせることで効果も倍増! スミスはここで、完全に「ある一線」を踏み超えてしまった!
一瞬の静寂(これがまたたまらん!)のあと、耳をつんざかんばかりの爆発音の連続がオロン島一帯を覆い尽くす! トータス夫婦の周囲を埋め尽くした弾着を一斉に発火させ、砲撃のすさまじさが表現される!(マジで火薬の量がハンパじゃない! よく事故が起きなかったものだ)
倒れこんだクイントータスの盾となり、「やめてくれ!」とばかりに両手を振るキングトータスの姿がなんともいじらしい(これぞ名演技!)。
「攻撃を中止して下さい! 亀は何もしません!」との光太郎の呼びかけも空しく、情け容赦なくトータス夫婦を砲撃し続ける地球警備隊の艦隊! 圧倒的な炎の中、卵も3つが破壊され、残ったひとつをクイントータスが必死で口にくわえてこれを守った。燃え盛る炎の中、トータス夫婦が熱い抱擁をかわす……
あまりの砲撃の威力に、トータス夫婦もろともオロン島は海中に没してしまった。それをネガ像のような反転処理を施した映像が、余計に空しさを募らせる……
光太郎「連れてくるんじゃなかった。連れてくるんじゃ……」
黒のタートルネック(まるでトータス夫婦に弔意を表しているかに見えるこのセンス!)にピンクのブルゾン、白のパンツ姿で失意の表情を浮かべ、とぼとぼと白鳥家に向かう光太郎。
「お帰りなさい」「ZATばんざい!」と、光太郎を暖かく出迎えるさおりと健一。この時点ではオロン島が地球警備隊の一斉砲撃により、撃沈した件はまだ報道されていなかったようである。
バスケット作戦の成功を祝うためのお手製の白いレイを光太郎の首にかけ、「ZATバンザイ! 亀バンザイ!」と叫ぶ健一。「ZATありがとう!」と書かれた幕を背に床を行進している2匹の亀。
さおり「ZATが亀を殺すようだったら、悪いけど光太郎さんにもこの家から出ていってもらうつもりだったのよ」
これらもまた視聴者、それも女性や子供たちの意見を代弁するものとなっている。地球警備隊の演習の邪魔になろうがそんなことは関係ない。おとなしい亀怪獣を殺してしまうことにはどうしても反対なのだ。
思わず庭に飛び出し、せめてもの罪滅ぼしといった感じで、池に浮いている親亀の甲羅に子亀を乗せてやる光太郎の姿が、なんともいえない彼の優しさを感じさせる秀逸な場面である。
だが通信機の森山の声に再び衝撃が走る光太郎! クイントータスが復讐のために東京に舞い戻ってきたのだ! 緊張と弛緩を交互に繰り返す、この絶妙なテンポの良さ、アッと驚く急展開こそ、『タロウ』最大の魅力のひとつなのだ!
ミニチュアセットのビル街からあおりでとらえた、回転しながら急降下してくるクイントータス、続いてクイントータスの突撃をくらって破壊されるビルの建設現場というBパート冒頭のカットが実に臨場感にあふれ、大東京破壊絵巻の巻頭として最大の効果を発揮する!
都心を破壊するクイントータスの様子をモニターで眺める一同のもとに、再び鮫島参謀が姿を見せる!
鮫島「ZATは何をしているんだ! 早く出動して叩き潰すんだ!」
朝日奈「参謀、今しばらく様子を見させて下さい」
鮫島「スミス長官が言ったときに叩き潰しておけばよかっんだ! 見ろ! 東京はめちゃめちゃにされている! どうするんだ!」
朝日奈「ですから、しばらく……」
鮫島「あれはもはや凶暴な怪獣だ! 君たちは怪獣をかばうのか!?」
光太郎「怪獣にしたのはスミス長官です! 無抵抗な亀を攻撃して、狂わせてしまったんだ!」
鮫島「黙れ! 亀をオロン島へ連れていったのは誰だ? その責任は、ZATが負うと言ったはずだな!」
朝日奈「言いました」
鮫島「だったら直ちに責任をとれ! 亀怪獣を叩き潰すんだ! それがZATの責任というものだ!」
クイントータスが都心から郊外の団地へと侵攻する様子がモニターに映し出される!
南原「あ、若葉団地がやられる!」
朝日奈が苦渋の決断を下すときがきた!
朝日奈「出動!」
光太郎「隊長!……わかりました」
いくら発端がスミス長官が命じた一斉砲撃にあるとはいえ、安易に亀怪獣の保護を主張したZATがその責任を負わされるという展開はあまりに酷であり、ハードに過ぎるものである。
一見ファンタジーの世界に見える『タロウ』だが、その内実は第1期ウルトラ作品以上に現実を直視したものであり、それを悟られないようにするためにギャグ演出や青春路線というオブラートでグルグル巻きにされているのに過ぎないのではなかろうか? 四十にしてようやく、『タロウ』の本質を垣間見たような気がするのだ。
亀怪獣と共存するなどという淡い幻想は、クイントータスが東京を徹底的に破壊する姿を通して、「そんなものは甘い夢物語なんだよ」と視聴者に呼びかけているかのようである。いや、確かに子供番組としては少々酷に過ぎるかも……しかも、第38話『ウルトラのクリスマスツリー』には、この亀怪獣のために大きく人生を狂わされてしまった少女までもが登場するのだ!(屈指の名作なのだけど。詳細はいずれまた) 朝日奈隊長の決断がもう少し早ければ、その悲劇も起きなかったかもしれないのだ……
住民が逃げまどう(エキストラの数がハンパじゃなく、大量動員!)若葉団地を襲撃するクイントータス! 空から北島と南原が搭乗するコンドル1号が攻撃を加えるが、クイントータスは頭と手足を硬い甲羅に引っこめてこれを防御。
ZATの特殊車両ウルフ777(スリーセブン)で現場に急行し、地上から攻撃を加える荒垣、西田、光太郎に対しては卵管から火炎玉を地面に転がし、一斉に発火させてこれを封じた! まさに完璧な防御能力であり、実にこと細かく、丁寧な演出である!
退却を余儀なくされる荒垣と西田。ただひとり、光太郎は団地に迫るクイントータス(オープン撮影で団地のミニチュアに迫る姿をあおりでとらえているのが大迫力!)を見上げ、腕のバッジを高く掲げてタロウに変身!
だが、ひっくり返ったと見せかけたクイントータスはまたもや卵管から大量の火炎玉をタロウ目がけて発射! 火炎玉がタロウの全身にからみつき(複数の火炎玉をはりつけたピアノ線をタロウに巻きつけているのだが、操演が見事!)、クイントータスが目を光らせるとともに一斉に発火! またもやタロウの全身が燃え上がる! ウエットスーツってそんなに耐火性があるのか?(笑)
たまらずタロウはクイントータスの腹めがけてストリウム光線を発射! 遂にクイントータスは大往生をとげた。この際のストリウム光線は第4話よりやや高い発射音であり、通常通りの殺獣光線を使用したと見えるが、せっかく効果音で区別をしても、肝心の光線の色が第4話と同じ白いギザギザ光線であるのはちと残念。ここはやはり色で明確に区別をしてほしかったように思う(殺獣光線と白い光線の中間描写?)。
断末魔にクイントータスが口から吐き出した卵がヒビ割れ(線画で白いギザギザを描写)、中から子供の亀怪獣が誕生した! それを本部のモニターで見つめる朝日奈と鮫島だが、モニターに映る亀怪獣はタロウの両足の間からロングで撮られており、先述の第45・46話や、第49話『歌え! 怪獣ビッグマッチ』、第50話『怪獣サインはV』の特殊技術を担当した矢島信男がお得意とした手法を用いているのが面白い(今回の特撮は鈴木清が担当)。
鮫島「そいつは怪獣の子供だ! 今のうちに叩き潰せ!」
鮫島の命令で北島と南原が攻撃に向かうが、タロウがこれを必死に制止する! タロウの意を汲んだ朝日奈は、
朝日奈「攻撃中止! ミニトータスを撃ってはならん!」
ミニトータスの名づけ親は朝日奈隊長だった(笑)。
鮫島「命令は俺が出す! 攻撃を続けろ!」
叫ぶ鮫島のマイクを朝日奈がひったくった!
鮫島「貴様! 上官に反抗するのか!」
朝日奈「攻撃、中止!」
『ウルトラマンA』第14話『銀河に散った5つの星』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060805/p1)において、主人公・北斗星司(ほくと・せいじ)が搭乗し、ゴルゴダ星破壊へと向かった超高速ミサイル№7(ナンバーセブン)の脱出装置が故障した際、「そのままゴルゴダ星に突っこめ!」と命令するTAC(タック)南太平洋本部最高責任者・高倉司令官と、「直ちに帰還せよ!」と命じた竜五郎隊長が激しく対立したのを思い出させる。もっとも朝日奈隊長は竜隊長みたいに鮫島を殴りはしない。ウルトラ4兄弟が磔になっているゴルゴダ星を爆破せよだの、北斗の生命を顧みないなど、高倉は誰がどう見たってわるもんであり、殴られて当然だ(笑)。
横たわるクイントータスのもとに、卵からかえったばかりのミニトータスが這い出て必死に甘えようとする。現在の視点では甘く見える造形かもしれないが、ミニトータスのギニョールの頭や手の動きの操演は実に細かく、生物感にあふれているぞ!
鳴き続けるミニトータスだが、クイントータスはピクリとも動かない。タロウは弔意を示して拝むが……
健一「バカァ! なぜクイントータスを殺したんだ!」
ミニトータスを哀れみ、手を差し出そうとするタロウだが、ミニトータスはこれを拒絶し、タロウの手にかみついた! どうすることもできないタロウ。
そのときキングトータスが空からタロウに奇襲をかけた! ミニトータスのもとに着地したキングトータスは、♪親亀の背中に子亀を乗せて〜のごとく(笑)、ミニトータスを背中に乗せ、空中からタロウに体当りをかませ、口からは大量の火炎玉を降らせ、若葉団地もろともタロウを炎の海に包む!
亀親子の目線でとらえた若葉団地の全景は十数棟の建物が並び、各部屋のベランダには色とりどりの洗濯物や布団が干してあるほどの細かさ! そんな豪華なミニチュアセットでいくつもの弾着が炸裂し、またしてもタロウのスーツに引火する場面は圧巻の一言に尽きる!
着地したキングトータスはミニトータスを背中から降ろし、角から成長化光線を浴びせた。たちまちミニトータスは全長42メートルにまで急成長! 生物学的根拠なんかどうでもよい(笑)。おおげさに驚くさおりと健一を映すことで衝撃度を増しているのも絶妙であり、インパクトの強い、驚きの連続こそ重要なのである!
地上に寝そべってタロウの足に噛みつき、タロウの動きを封じるミニトータス!
身動きできないタロウに空中から連続で体当りをかませるキングトータス! カラータイマーが点滅を始めた! 絶体絶命の危機にタロウは……
タロウ「この親子亀を攻撃することはできない! 俺にはできない!」
まったく無防備のタロウに北島と南原が呼びかける!
北島「タロウ、どうしたんだ!」
南原「ストリウム光線を使うんだ!」
スミス長官と対立した彼らであったが、事のあまりの重大さに、二人は既にZATとしての責任を果たす方に傾いていたのだ。そんな彼らと対比させることで、タロウの優しさ、そして、戦士としてまだまだ未熟であることが浮き彫りとなっており、絶妙な演出である!
タロウ「このままでは俺が倒されてしまう! 一体どうすればいいんだ! そうだ……」
タロウはクイントータスを大きく抱えあげ、大空へと舞い上がった!
荒垣「どうするつもりなんだ?」
妻を、そして母を追って飛び立とうとするキングトータスとミニトータス。だが図体はデカくなったものの、ミニトータスにはまだ飛行能力が備わっていなかった。思わずひっくり返るミニトータス。
見かねてミニトータスを背中に乗せて飛び立とうとするキングトータスだが、あまりにも成長した息子はとても重く、一緒にひっくり返ってしまった。なんともなさけねえ親父である(笑)。
このあたりは『大巨獣ガッパ』のラストシーンにて、再会を果たした親子ガッパが羽田空港から故郷のオベリスク島へ帰還しようとするも、子ガッパが飛び方がわからず、両親が飛行法を伝授する場面を踏襲したかのようだが、『世界怪獣大全集』(81年・朝日ソノラマ)では『ガッパ』のそんな点をつかまえ、「怪獣というものを何か勘違いした作品」などとひどい言葉を浴びせていた(爆)。
西田「あっ、あれはなんだ!」
♪セブン、セブン、セブン、セブン〜
健一「セブンだ! ウルトラセブンだ!」
そこに突如飛来したのはウルトラ兄弟の三男・ウルトラセブンであった! 今回のセブンのスーツも『A』の客演時によく見られた、身体前面の白いラインが胸のプロテクターに達していないバージョンであり、当時の筆者はセブンのイラストを描く際、必ずこちらのバージョンの方で描いていた。それだけオリジナルの『セブン』の再放送よりも、『A』や『タロウ』客演時のセブンの方が筆者にはインパクトが強かったという証なのではないかと考えるのであるが、だからこそウルトラ兄弟客演のイベントは極めて有効であると考えるのである!
一方、流れる主題歌はテレビサイズのバージョンとは異なり、♪ウルトラ〜セブン、ファイターセブン、の部分をジ・エコーズのみではなく、みすず児童合唱団も歌唱しているバージョンだが、これは『セブン』の劇中で主題歌を流す際は必ずこちらの方が用いられていたので(放映当時各社から発売されたシングル盤も、日本コロムビア以外は大半がこちらを採用していた)、今回もきっちりとこれを踏襲している。実に嬉しい配慮である!
荒垣「わかった! ウルトラ兄弟は、亀の親子をどっかへ連れていくつもりなんだ!」
セブンはミニトータスを背中に抱え、空へ飛び立つ!
キングトータスもそれを追って飛び立った!
宇宙空間を行くウルトラ兄弟とトータス親子。タロウは兄のセブンにトータス親子の面倒を託した。
タロウ「お願いします!」
セブン「わかった!」
セブンの声はおそらく『A』第13話『死刑! ウルトラ5兄弟』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060803/p1)ではウルトラ兄弟の長男・ゾフィーの声を演じていた市川治かと。オープニングにクレジットがないうえに、セリフが「わかった!」の一言のみだから断定は避けたいのだが……
いつの間にかチェーンでつながれた(笑)トータス親子が、タロウの手からセブンに引き渡され、共にウルトラの星へと向かっていく。どういう訳かクイントータスの目が赤く光り、しかも口までパクパクさせている! いつの間に生きかえったんや!(笑) まあタロウが宇宙に運ぶ途中でリライブ光線(本来は第8話『人喰い沼の人魂』にて初披露)を浴びせたんだと考えることにしよう(笑)。
光太郎「亀の親子は宇宙へ行ったんだ」
健一「宇宙のどこへ行ったの? ねえ、光太郎さん!」
光太郎「おそらく、ウルトラの星へ」
健一「ウルトラの星!? 本当?」
光太郎「この地球上にあの亀の親子が安心して暮らせるところはない。ウルトラマンタロウはおそらく、そう判断したんだ」
健一「そうか。ウルトラの星へ行ったのか」
さおり「平和に暮らせるといいわねえ。今度こそ!」
光太郎「暮らせるとも! 親子3匹、いつまでも!」
健一「あっ! 亀の親子が見える!」
さおり「どこ?」
健一「ほらっ!」
トータス親子を想う三人が見上げる青空の一角が亀の形に割れ、その向こうに星空の中で戯れるトータス親子の姿があった。
さおり「楽しそうね」
光太郎「ああ」
健一「うん!」
結局は最もお手軽な方法で事態を解決した。一見するとそう思えるかもしれない。
だが光太郎に「この地球上にあの亀の親子が安心して暮らせるところはない」と断言させているのを見ると、たとえトータス親子のような本来おとなしい怪獣であっても、人間と共存することは到底不可能だと明示しているわけであり、怪獣との共存を夢見た『ウルトラマンコスモス』(01年)よりも一歩先を行っていたかと思える。
まあ子供に対してやたらとものわかりのよい大人ばかりが増えた昨今においては、スミス長官とZATのような対立が発生することもなく、「じゃあかわいそうだから保護しましょ」なんてことにあっさりなってしまうのであろうが。閑話休題。
「時間をかけて「ああでもない、こうでもない」とやればやるほどダメになる。『A』のころの僕には、もう自分の中で「燃え尽きたな」という感じはありましたね。僕の中でウルトラマンは終わっていたんです。だから申し訳なかったけれど、辞めるにあたって、自分の中になんの悔いもなかった。ウルトラシリーズの中に、心を残すところは、なかったんですね」
上原正三の発言については、転身後の後付けの印象・記憶での誇大脚色もあろうし、『帰ってきた』や特に世評はともかく『A』『タロウ』での脚本作品がレベルが低いということはなく、むしろ要素や展開については凝っていて熟練の域に達してきているのではとも思うのだが、氏は今回を最後に円谷を離れ、東映の『ロボット刑事』(73年)、『イナズマンF(フラッシュ)』(74年)、『秘密戦隊ゴレンジャー』(75年)、『ゲッターロボ』(74年)、『UFO(ユーフォー)ロボ グレンダイザー』(75年)、ピー・プロの『鉄人タイガーセブン』(73年)、『電人ザボーガー』(74年)、宣弘社『スーパーロボット レッドバロン』(73年)、日本現代企画『スーパーロボット マッハバロン』(74年)など、他社作品においてもおおいに健筆を奮うようになり、スパイ・アクション、ハード・ボイルドといった作風にますます傾倒していったという感が強く、そんな氏は『タロウ』のようなファンタジー路線に対しては懐疑的だったのでなかろうか。ゆえに亀怪獣をシーゴラスやシーモンスのような「自然の象徴」とは描かず、「復讐」という怨念の象徴として描き、それによって巻き起こる恐怖・サスペンス・葛藤を中心に展開させたのかと、今回あらためて観てそう感じたものである。
だがそんな氏の思惑(おもわく)はともかくとして、実作品は十分にファンタジー性にあふれ、「畜生」を通して親子愛、生命の尊厳が重く伝わるばかりではなく、次に何が起こるかわからないスリルと意外性の連続に満ちた、「ジェットコースタームービー」に仕上げられた。氏が「有終の美」を飾ったのは確かである。
<こだわりコーナー>
*鮫島参謀を演じた大下哲矢は、第5話の放映(73年5月4日)からちょうど2ヶ月後に放映がスタートした『スーパーロボット レッドバロン』において、科学秘密捜査官・SSIのキャップ・大郷実役でレギュラー出演。SSIの本部は自動車修理工場の地下にカモフラージュされており、大郷は普段はその工場主としてオモテの顔を務め、出入りする子供たちや自転車刑事・熊野一平(『ウルトラマンA』第38話『復活! ウルトラの父』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070121/p1)でサンタクロースを演じた玉川伊佐男が好演)に接する姿や、第26話『鉄面党デビラーの最後』における壮絶な殉職など、鮫島参謀とは正反対の「いい人」ぶりを見せていた。
ほかのメンバーも主人公・紅健(くれない・けん)は修理工、坂井哲也は自動車セールスマン、堀大作は通信社の原稿運び、松原真理は通信社のカメラマンと、それぞれがカモフラージュの職業に就いていたのだ。防衛組織・UGMの隊員と中学校の教師を兼業していた矢的猛(やまと・たけし。『ウルトラマン80(エイティ)』(80年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971121/p1)の主人公)の先駆けでもあり、それを思えば『ウルトラマンメビウス』(06年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070506/p1)のクルーGUYS(ガイズ)のメンバーが、サッカー選手やロードレーサー、保母や医者の卵からの転職組であることが、なぜあんなに非難されたのか、ようわからん(笑)。
*その大下哲矢とオープニングで並んでクレジットされているのが、『ウルトラマンティガ』(96年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19961201/p1)第25話『悪魔の審判』に登場した、特捜チームGUTS(ガッツ)のイルマ女隊長の義理の母であるミウラ・ヨリエや、『ウルトラセブン1999最終章』(99年・バップ発売のビデオ作品)第5話『模造された男』のカネミツ・タツを演じた風見章子(かざみ・あきこ)であるが、本編には一切登場していない。
尺の都合で出演場面がカットされたのかと思うが、彼女は国際放映製作の『ケンちゃん』シリーズ(68〜82年・TBS)の後期作品にて「おばあちゃん」役を演じていたことから、ひょっとしたらさおりと健一の祖母役だったのではないか、なんて想像が膨らんでしまうのだが。
なお彼女は1921年7月23日生まれ。16歳のときに『時代の霧』(37年・日活)でデビューして以来、『ドラマ・コンプレックス 恍惚(こうこつ)の人』(06年・日本テレビ)、劇場作品『待合室』『ハヴァ、ナイスデー』(共に06年)に至るまで、多数の映画・テレビドラマに出演、主演作『忘れられぬ人々』(01年)は第22回フランス・ナント三大陸映画祭で主演女優賞を授賞、07年で女優生活70周年を迎えた大御所である!