假面特攻隊の一寸先は闇!読みにくいブログ(笑)

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ウルトラマン80 49話「80最大のピンチ! 変身! 女ウルトラマン」 ~ユリアン登場

(YouTubeウルトラマン80』配信・連動連載)
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『ウルトラマン80』 総論 ~80総括・あのころ特撮評論は思春期(中二病・笑)だった!
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『ウルトラマン80』全話評 ~全記事見出し一覧


ウルトラマン80』第49話『80最大のピンチ! 変身! 女ウルトラマン』 ~ユリアン登場

合体怪獣プラズマ 合体怪獣マイナズマ登場

(作・山浦弘靖 監督・宮坂清彦 特撮監督・高野宏一 放映日・81年3月18日)
(視聴率:関東10.2% 中部13.8% 関西14.0%)
(文・久保達也)
(2011年11月脱稿)


 『ウルトラマン80(エイティ)』(80年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971121/p1)もついに最終回の1本前。第43話『ウルトラの星から飛んで来た女戦士』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110219/p1)から登場した、その正体はウルトラマン一族の王女さま・ユリアンこと星涼子(ほし・りょうこ)隊員が、女ウルトラマンである巨人としての勇姿を初披露するイベント編でもある。


ナレーション「そのころ、夜12時になると正体不明の怪電波が乱れ飛ぶという現象が続いていた。この怪電波の正体を突きとめるべく、すでにUGMは動き出していた」


 その正体はウルトラマンエイティこと我らが主人公であり、防衛組織・UGMの隊員でもある矢的猛(やまと・たけし)。そして、ウルトラ一族の王女・ユリアンこと星涼子隊員。夜空を彼らふたりが搭乗してUGMの戦闘機・シルバーガルが飛行している。


 その機体の底部からは怪電波をキャッチするためのセンサーが迫り出してくる。しかし突如として乱気流が発生して、シルバーガルは強行着陸せざるを得ない事態に追い込まれる!


 機体底部から白いジェットを噴射して垂直着陸するシルバーガル。超低アングルでのカメラ位置によって、ジェットが地面でハネ返されて、上空へと舞い上がっていく様子までもが克明に映し出されている。


 その一帯で怪電波の調査を始めた矢的隊員と涼子隊員。


 だが、まもた突如として巻き起こるガケ崩れ!


 特撮ミニチュアのガケが崩れていく描写に続いて、彼らの正体はウルトラ一族であるという設定をここで有効活用して、常人離れした身体能力で高々とジャンプしたふたりの足元に、ガケが崩れていく映像をつないでいく……


 ところ変わって、防衛組織・UGMの司令室。


イトウチーフ(副隊長)「危ないところだったな」
矢的隊員「スイマセン。それで怪電波の内容はわかったんですか?」
イトウチーフ「ウン。くわしいことはわからんが、解読機によると怪獣から発信されたものに間違いない」
涼子隊員「やっぱり」
フジモリ隊員「しかし、エラいことになりましたね。受信ブラウン管がキャッチした発信場所は、東京周辺に合計14ヶ所。つまり14頭もの怪獣軍団が東京をねらってるってことに!」


 「受信ブラウン管」! 「ブラウン管」といえばアナログ時代の巨大真空管の底面に映像を表示させるテレビモニターである。
 しかし、ここでは「受信」といっていることから、1983年に稼働を開始して96年まで使用されていた、岐阜県神岡鉱山地下1000メートルに巨大空洞を穿(うが)ってその壁面全面に設置した、宇宙から飛来する素粒子ニュートリノを感知するために「光電子増倍管」のごとき電球型のような感知器なのだろうか?


 そして、14頭もの怪獣軍団が東京をねらっているという発言も!


 初代『ウルトラマン』(66年)終盤の第37話『小さな英雄』では、酋長怪獣ジェロニモンがその神通力で復活させた60匹もの怪獣軍団が、初代ウルトラマンと防衛組織・科学特捜隊に復讐するために総攻撃をかけてくる! という作戦が、同じくジェロニモンの呪術で復活したものの人間の味方である人間大サイズの有効珍獣ピグモンが発する怪獣語の翻訳によって語られていた。
 『ウルトラマンタロウ』(73年)第40話『ウルトラ兄弟を超えてゆけ!』のオープニング主題歌の映像でも、通常は巻末にクレジットされるだけのその回のゲスト怪獣名が、「35大怪獣・宇宙人登場」編だからとばかりに主題歌の後半部分の尺数を使って延々とクレジットされたことがあった。


 これらのエピソードを幼いころに初視聴した際には、「いったいどんな展開になるのだろうか!?」と胸をトキめかせたものだった。
 実際には前者は地底怪獣テレスドン・彗星怪獣ドラコ・友好珍獣ピグモンの3体だけが呪力で再生されて再登場しただけであり、後者はバンクフィルムによる過去作品の名場面集にすぎなかったワケなのだが(笑)。


 もちろん、新造ではなく既存の着ぐるみの流用とはいえ、その容積が非常にカサばってしまう着ぐるみを何十体も運搬するのは時間的にも大変なので、バンやワゴンなどの自動車であれば倉庫と撮影所を何度も行き来しなければならない。あるいは、大きめなトラックを使ったとしても、相応の金額を要してレンタルしなければならない。
 特撮部分が天下の映画会社・東宝に下請けに出されるかたちで、映画用のかなり広大なステージで撮影されていた『ウルトラマンA(エース)』(72年)全話や『ウルトラマンタロウ』(73年)第29話までならばともかく、現実的には狭い特撮スタジオに怪獣の巨大な着ぐるみが数十体も入れられるワケがないのである(笑)。スーツアクターの人数に正比例して人件費も増えていくのだし……(汗)
 ということで、オイそれとは実現ができなかったウラ事情も、オトナになって「社会」や「経済」の仕組みが次第にわかってくると、自然と当時のスタッフたちの気苦労やカネ勘定も偲(しの)ばれてきて、ムチャなことは云えない気持ちになってくる――そのへんのところが偲ばれてこないような輩(やから)は、自身の世間知らずブリを恥じた方がよいと思うぞ・笑――


 とはいえ、そのへんは年長マニアにはともかくメインターゲットの子供たちには預かり知らないオトナの事情の話でもある。
 純真無垢な子供たちは、ホントに60匹もの怪獣軍団が登場するのかもしれない!? とワクワクしてしまったり、太陽系の各惑星でウルトラ5兄弟を各個撃破してきた暴君怪獣タイラントほどの強豪であるならば、末弟のウルトラマンタロウひとりだけでは倒せるハズがない! そんな弱い怪獣であるハズがない! そうであったらパワーバランス的にもオカシい!
 ならば、最後の力をふりしぼってウルトラ5兄弟がラストでは地球へ救援にやって来て、タロウのピンチにウルトラ6兄弟が共闘してタイラントをやっつける「勝利のカタルシス」が最後の最後に待っているのに違いない! と期待に胸をふくらませたものである……


 ウルトラ4兄弟の力を持った超強敵・異次元超人エースキラーを、ウルトラ5兄弟のエネルギーを結集したスペースQで倒してみせる! そういった展開には、しょせんは虚構の子供向け番組とはいえパワーバランス的に一応の「合理性」が感じられて、そこまでしなければ勝てなかった敵キャラの段違いの強豪ぶりと、それをも上回るヒーローたちの強さや奥の手の秘術といったものも感じられてきて、両者の魅力も引き立てて一粒で二度オイシいといった効果も出てくる。
 しかし、ラスボス級の敵キャラであるハズの巨大ヤプールや、ウルトラ5兄弟全員をブロンズ像に固めて一度は全滅させてしまったほどのヒッポリト星人が、ウルトラ兄弟の合体光線などではなく通常回と同じ最新ウルトラマンひとりの必殺光線一発だけで倒されてしまうのでは…… 強弱関係の辻ツマも合わないし、ヤプールやヒッポリトも最後の最後で並の怪獣レベルに零落してしまって、弱く見えてしまうのである(笑)。
 第2期ウルトラシリーズ擁護派としては忸怩(じくじ)たるものがあるのだが、そういうイベント編でのバトルの組み立て方の面では、第2期ウルトラシリーズには大きな弱点があったことは認めざるをえないのだ。


 先輩ヒーローが現役ヒーローとも共闘して、勝って勝って勝ちまくる! というような、良い意味でベタなヒーローの強さ・カッコよさ・勇ましさを前面に押し出して、子供も一般大衆も喜ぶようなサービス精神にはいささか欠けていた第2期ウルトラシリーズ
 そういった点が、ヒーローが爽快に共闘して大活躍するイベント編や最終回を有していた、同時代の昭和の『仮面ライダー』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20140407/p1)シリーズや『キカイダー』シリーズに巨大ロボットアニメ『マジンガーZ』シリーズなどと比して、70年代前半の第2期ウルトラシリーズが人気面では後塵を拝してしまった一因でもあるだろう。
 まぁ、だからといって、そこで翌週から子供たちの全員が一斉にウルトラシリーズを卒業してしまうというようなことはなかったのだとしても(笑)、その求心力をゆるやかに減少させてしまうような下策ではあったのだ。


 ただまぁ、筆者個人に限定すれば、リアルタイムでの『タロウ』第40話の初視聴時には幼すぎて、そのような不満も浮かんでこずに、ホントウに嬉しかったものだけど(笑)。しかし、そのようなあまりにも私的で普遍性には欠けている個人的な体験だけで第2期ウルトラを擁護しようとすることには説得力がないのだし、かえって読者に反発をいだかせてしまって逆効果となってしまうことだろう。それに最低年齢層の幼児にだけ作品のターゲットを合わせてそれで良し! としてしまうような言説は、児童・小学生間でのウルトラシリーズの人気の復活については今後はこれを永遠に放棄する……という意味ともイコールに等しくなるので、厳に慎(つつし)むべきだろう。



イケダ「このことが公表されると、日本はじまって以来の一大怪獣パニックが起こりますよ!」
イトウ「まったくだ。なにしろ、いつどこからどうやって攻撃してくるか? 相手が14頭もいたんじゃ見当もつかんからな」
ユリ子「まぁ」


 UGM・気象班のユリ子隊員は、「まぁ」の一言だけで済ませている(笑)。


 UGM作戦室でのこの場面では、ユリ子は一同の手前でずっと花瓶(かびん)の花の手入れをしている。これはキリスト教宗教改革で、マルチン・ルター(新教=プロテスタント創始者)が、


「たとえ世界の週末が明日であっても、私は今日リンゴの木を植える」


 と云ったという故事にならったものだろうか?


――これは危機に際してはそれに抗うことも大事だが、もう何も打つ手がなかったり、他人を押しのけてでも自分だけが生き残ろうとする浅ましくて卑劣なふるまいをするくらいならば、ジタバタと取り乱して阿鼻叫喚するような見苦しいことはせずに、平常心と感謝の念で最期(さいご)の時を迎えよう! 真っ当な日常を送る平凡な生活者としてその日、一日のやるべき仕事をした上で、気高く従容として淡々と死に赴こう! というような意味合いの言葉である――


 まぁ、単純にシナリオ上にはユリ子の出番がなかったので、撮影現場での即興で出番を付け加えただけの処置や演技付けだったのかもしれないが(笑)。



 そこに入ってくるオオヤマキャップ(隊長)。


オオヤマ「いや、その心配は無用だ」
一同「はっ?」
オオヤマ「これを見てくれ。矢的隊員と星隊員が命懸けで録音してくれた怪電波の波長をくわしく分析してみたところ、波長の特徴から見て2種類に選別できることがわかってな」
矢的「2種類に?」
オオヤマ「ン。つまり怪獣は14頭ではなく、2頭ということになる」
イトウ「では、ほかの電波は我々を混乱させ、パニック状態にさせるための撹乱(かくらん)電波だったということに」
オオヤマ「そういうことだ」


 おもわず一同から安堵(あんど)の声が漏(も)れる。視聴者からは「なんだ、たったの2頭かよ」という失望の溜め息も漏れてくる(笑)。


オオヤマ「いやしかし、2頭だからといって油断はできんぞ。撹乱電波を使うからには、そうとう高度な頭脳を持った怪獣に間違いない」


 そうだ、油断してはいけない。しかも今回は「怪獣」とはいっても、相応の知性を持った「怪獣」が登場することが言明されるのだ。


イトウ「キャップ、広報のセラを呼んで、このことを公表した方が」
オオヤマ「いや、もう少し様子を見よう。怪獣のヤツ、仲間と連絡をとっている可能性が大だからな」
矢的「それじゃあ、今まではパニック防止のために伏せていた怪獣のことを」
オオヤマ「ウン。今度は一網打尽(いちもうだじん)にするまで、それまではたとえ地球防衛軍の一員のセラ隊員にもこのことだけは……」


イトウ「(小声で)キャップ」


セラ「どうかしたんですかぁ?」


 ウワサをすればナンとやら。劇中ではなんとも間(ま)が悪いことに、いやしかし、作劇的にはなんとも間が良い絶妙なタイミングで(笑)、ここでお約束で入室してきて、視聴者に対してはメタ的な「お笑い」を提供してくれる、相変わらずオイシい役回りを務めてくれる、デブっちょのコミックリリーフであるUGM広報班・セラ隊員である。


 一同はあわててデスクに広げていた資料を片付けて、


「アレ? ちょっと、なぜそれ?」


 と問いかけてくるセラに対してスットボケる。


 「そんなことより、オマエもう少しヤセろよ」とばかりに、セラの腹をつつくイトウチーフ役の大門正明ナチュラルな小芝居がまた実にウマい(笑)。


 矢的はUGM専用車・スカウターS7(エスセブン)でパトロールに出掛ける。そして、そこで旧知の間柄であるらしいツトム少年と出会った――演じる子役の見た目からすると中学生のような印象だ――。


 誕生祝いに父親から買ってもらったというラジオの組立セットを嬉しそうに広げているツトムは、将来はUGMの隊員になることを希望しており、そのためにはメカに強くならなくては……と考えていたのである。
 ラジオの組立セット。そう、70年代~80年前後にはミニ真空管トランジスタやコイルといった素子のパーツを組み立てることで電気回路をつくって、簡易ラジオにするような子供向けのやや高額な玩具が実在しており、理系マニアの気がある少年たちはこのようなモノに執着していたことも思い出す。
 2010年に休刊となった今は亡き「学研(学習研究社)の科学と学習」(1946年~)――「1年の科学」や「6年の学習」といった月刊の学習雑誌――などの小学校高学年版にも、その客寄せとして新年度の4月号などには簡易ラジオ(鉱石ラジオ)のパーツが付録になっていたものである。


 その日の夜、自室でラジオを完成させるツトムくん。チューニングのダイヤルを回していると、天気予報の音声がスピーカーから聞こえてくる。
 それと同時に、階下からは「早く寝るように」と促してくる母親の声も聞こえてくる。こういうところはミリタリズム的な方向性でのリアリティーではないけど、所帯じみた方向性でのリアリティーではある――ただまぁ、所帯じみた方向性でのリアリティ―には「ハッ!」と視聴者を驚かすようなサプライズがないのだが・笑――。


 しかし、もう幼い子供でもないので、そうは簡単に寝れはしないツトムくん。「ロク」と名づけたポメラニアンらしき小型犬を抱き寄せて、ラジオを聞き続けている。


 やがて鳴り響く深夜12時の時報時報が鳴るとともに、置き時計の方に注目するロクの姿も可愛い。


 当時の中高生や若者間では――マセた子供であれば小学校高学年の時分から小ナマイキにも背伸びをして――、ラジオの若者向け深夜番組を聴取することが大流行しており、それがステータスでもある時代であった。
 「ラジオの組立セット」に「ラジオの深夜放送」。これもまた今となっては往時の空気が偲ばれるアイテムでもある――80年代末期以降になると、「ラジオの組み立て」については「自作パソコン」へと変わっていくのだが――。


 本エピソードの脚本を担当した山浦弘靖(やまうら・ひろやす)先生としては、おそらくそういうところでも視聴者である子供たちに、時代の空気・風潮とも接点を持たせることでの感情移入の端緒とすることを意図した導入部だったのだろうし、それがムダな行為であったとも思わない。
 しかし、当時の子供たちがウルトラシリーズに何を期待していたのか? といえば、それは1978~80年にかけて児童漫画誌コロコロコミック』で連載されていた内山まもる先生による名作漫画『ザ・ウルトラマン』や、かたおか哲治先生による『ウルトラ兄弟物語』のような、まさに大人気テレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』(74年・77年に総集編映画化・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101207/p1)やSF洋画『スター・ウォーズ』(77年・78年日本公開・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200105/p1)を通過したあとの、大宇宙をまたにかけたウルトラ兄弟VS怪獣軍団との激闘を描くようなスペースオペラ的な作品であったことを思えば、このような試みもまた迂遠なものであったのかもしれない……



ラジオニュース「鈴木総理大臣は、アメリカのレーガン大統領と……」


 本エピソード放映当時の1981年3月の日本の総理大臣は鈴木善幸(すずき・ぜんこう)。アメリカの大統領は81年1月に就任したばかりのロナルド・レーガンであった。実際のニュース音声を流用したものだろうか? 今となっては時代の貴重な記録ともなっている。


ツトム「どっかでイイ音楽やってないかなぁ」


 ツトムがダイヤルを回していると、まるで金属音のような金切り声を思わせる奇妙な音声が鳴り響いてきた。その音声に過敏に反応して、ウナり声をあげて部屋のスミに隠れてしまって、それでも吠え続けているロク。それを不審に思っているツトムくん……


 翌日、地球防衛軍・極東エリアのUGM基地に矢的を訪ねてくるツトムくん。1520キロヘルツの周波数帯で受信されて2分くらいで聞こえなくなってしまった怪電波のことを、UGMならば何か情報をつかんでいるのではないのか? と考えた上での行為ではあった。だが……


矢的「ン、それよりツトムくん。このこと誰かに話したかい?」
ツトム「ん~ん」
矢的「お母さんやお父さんにもかい?」
ツトム「ウン、まだ話してないよ。だって夜中にラジオ聞いてるのがバレたら、叱られるだけだもん」
矢的「そうか、大丈夫。あの電波はなんでもないんだ。ただの放送局の試験電波さ」
ツトム「ホント?」
矢的「あぁ、だからもう気にしなくていい。それからこのことは誰にも云わないでおくんだよ」
ツトム「どうして?」
矢的「どうしてってその…… ヘンにウワサが広がったりすると、あとで面倒だからね。アッハッハッハ。いいね? ツトムくん、ねっ。じゃ、僕は仕事があるから。じゃ、またな」


 画面手前に駆けてきて左手に消えていく矢的隊員。その背後で怪訝(けげん)そうな顔をして矢的を見つめるツトムくんにカメラが寄っていく。奥行きと距離感のある演出が、ふたりの心の間に隔(へだ)たりが生じてしまったことを効果的に表現している。


 その夜、UGM敷地内の赤レンガ造りの建物の壁にもたれて考えごとをしている矢的の横顔が…… そこに現れる涼子の姿。


涼子「元気ないのね。どうかしたの?」
矢的「ウン。いくらキャップに口止めされてるからって、ツトムくんにウソをついたのが、どうも気になってね」
涼子「やさしいのね、猛さんって。でも、ウソといえば、わたしたち、もっと大きなウソをついてるじゃない?」
矢的「エッ!?」
涼子「わたしもあなたもホントウは地球人じゃない。ウルトラの星から来たウルトラの戦士だってこと」
矢的「そ、それは……」
涼子「わかってるわ。地球人を助けるためには、わたしたちが地球人の姿を借りなくてはいけない。そうでしょ?」


 無言でうなずく矢的。この場面はソフトフォーカスでややピントをボカして撮影することで、神秘的な印象を与えてウルトラ一族同士の特殊な会話であることが強調されている。


涼子「でも、わたしたち、いずれはこの地球を出ていくのね。この美しい星、すばらしい人たちのいる、この地球を……」
矢的「仕方がない。それが我々の宿命なんだ。だからこそ、地球人が自力で戦えるときが来るまで、僕か君のどちらかが最後まで戦って、戦い続けなくては…… いいね?」


 「ウソ」をキーワードに、隠密裏に怪獣撃滅作戦を運ぶためにツトムくんに対して吐いてみせた「ウソ」の話題からはじまって、大局を見た大義のためには仕方がなかった方便のための正当化はできる「ウソ」ではあっても、それで彼らの「後ろめたさ」が完全に解消されることもない、そんな二律背反した矢的と涼子の葛藤。
 しかして、人類たちが自助努力を放棄して他力本願の自堕落に陥らないためにも、人類が自助努力で解決ができるその日が来るまではウルトラマンである正体を隠さなければならない決意を新たにする矢的のセリフで締めくくられる、深遠な話題でもある会話の流れが実に見事である。


 バストショット中心の矢的と涼子の会話の場面には、第18話『魔の怪獣島へ飛べ!!(後編)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100829/p1)や、第43話『ウルトラの星から飛んで来た女戦士』、第47話「魔のグローブ 落とし物にご用心!!』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210224/p1)のクライマックスシーンも飾った、往年の名作テレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』の劇中音楽でも有名な川島和子のスキャットが印象的なM-17-2こと通称「無償の愛」も流されてムードを盛り上げている。


イトウ「おい、ふたりとも何してる。そろそろ怪電波が聞こえてくる時間だぞ」
矢的「スイマセン」


 ふたりのよいムードに水を差すかのように(笑)現れるイトウチーフ。


 夜12時が近づくことを知らせる、UGM作戦室のアナログ時計。放映当時の1980~81年当時にはすでに登場して売上的にも大ヒットしており、子供たちも腕時計としてハメはじめて、第46話『恐れていたレッドキングの復活宣言』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210223/p1)でもゲスト子役が魔法使い・マアジンに所望していた、当時は最先端の香りがしていたアイテムでもあるデジタル時計がここで登場しないのはナゼだ!? とあの時代の空気を知る人間ほどツッコミもしたくなる(汗)。
――しかして、数年後の80年代前中盤にはもう「デジタルの腕時計なぞは子供っぽくてダサい! シックなアナログの腕時計の方がオシャレである!」と若者間でも流行が切り替わってしまうのだが・笑――


 秒針が12時に近づいていくサマをカチカチと刻(きざ)んでいくことの切迫感。それを思えば、絵面的・演出的にはやはりアナログ時計こそがふさわしかったのだろう。


 12時の時報とともに場面は、UGM作戦室からツトムの部屋へと移動する。彼が聞いているラジオからは怪電波による音声が流れ出して、やはり飼い犬のロクが尋常ではないサマで吠え出す描写が挿入されることで、異常事態がまたもや出来(しゅったい)していることが示される。


涼子「別の怪電波が。まるで呼びかけに答えているようです」
フジモリ「キャップが云った通り、怪獣が仲間を呼び寄せる合図かもしれませんよ」
イトウ「矢的、発信場所はわかったか?」
矢的「はい、大方の見当は」
イトウ「どこだ?」
矢的「ポイント・S-3-9-7(エス・スリー・ナイン・セブン)」
イトウ「キャップ、奥多摩の仁王山(におうざん)付近です」
オオヤマ「よし、夜が明け次第、調査に向かってくれ」


 ここまで引用してきた通り、UGM隊員たちのやりとりは、そのすべてが怪獣の特性に関するものである。隊員たちやゲスト子役たちのヒューマンなやりとりよりも、初代『ウルトラマン』並みに「まずは怪獣ありき」の作劇に徹している。
 『80』第31話からの「児童ドラマ編」や、第43話からの「ユリアン編」は、云ってしまえば「怪獣もの」としては「変化球」ではあった。しかし、このエピソードでは、久々に本格的で重厚な怪獣ありきの「王道」ストーリーが展開されているのだ――「児童ドラマ路線」と「本格怪獣映画路線」との間に「王道」と「変化球」の区別はつけても、過剰な優劣をつける気はないので念のため――。


 本エピソードの脚本を担当した山浦弘靖は1980~81年当時には、リアルロボットアニメの祖である『機動戦士ガンダム』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19990801/p1)の富野善幸(とみの・よしゆき)監督が手掛けたリアルロボットアニメの第2号『伝説巨神イデオン』(80年)や、メインライターを務めていた人気アニメ『銀河鉄道999(スリーナイン)』(78~81年)とも並行して『80』を手掛けていた。
 氏は子供向けのヒーローものやロボットアニメや魔女っ子アニメなどを手掛ける以前からすでに、『七人の刑事』(61~69年)や『ザ・ガードマン』(65~71年)といった大人向けのテレビドラマなどでも活躍してきた御仁でもある。
――本作『80』放映終了後の1980年代になると、今度はティーンの少女向けレーベル・コバルト文庫『星子(せいこ)』シリーズなどでも人気を博する。実に多彩な引き出しを持っている方なのだ――


 第1期ウルトラシリーズでは、


・『ウルトラQ』(66年)第10話『地底超特急西へ』・第20話『海底原人ラゴン』・第27話『206便消滅す』(いずれも共作)
・『ウルトラセブン』(67年)第22話『人間牧場』・第36話『必殺の0.1秒』


 といった、「怪獣ありき」「怪獣との攻防劇中心」の作劇ではなく、かといって浪花節(なにわぶし)の人情ドラマでもない、ややクールでドライで怪獣よりも「SF性」や「怪奇性」の方を前面に押し出していた「変化球」の作品が多かったことと比較してみれば、本エピソードの基本骨格が怪獣との攻防劇になっているのは少々意外な感もある。


 もっとも、山浦氏は『80』では、


・矢的が四次元宇宙人バム星人によって4次元空間に迷いこんで、3次元世界への侵略のためにつくられた四次元ロボ獣メカギラスと戦う、第5話『まぼろしの街』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100530/p1
・残酷怪獣ガモスを追っているL85星人ザッカルが登場した、第21話『永遠(とわ)に輝け!! 宇宙Gメン85』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100919/p1
・宇宙探査船スペース7号がアメーバ怪獣アメーザに襲撃される事件にはじまる、第23話『SOS!! 宇宙アメーバの大侵略』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101002/p1


 などといった、「まずは怪獣ありき」「まずは怪事件ありき」となっている、ワリと王道的な作品ばかりを執筆している。
 これは『80』という作品自体が、主人公が中学校の教師を兼任していたり、防衛組織の隊員たちよりもゲストたちの児童ドラマが優先されたり、最後にはウルトラの星の王女さまがレギュラーキャラとなった、ウルトラシリーズの中で考えれば「変化球」であったことから、その中での逆張りとして「変化球」を目指していたら、結果的に「王道」の「まずは怪獣ありき」「まずは怪事件ありき」になってしまった……ということなのかもしれない。
 あるいは氏にはそういった「変化球」を放ってみせるといった作劇意図もまるでなく、単に『80』の中にいつもの山浦脚本回を配置してみせると、相対的には「王道」に見えるだけ……といったことなのかもしれない(笑)。



ツトム「やっぱり普通の放送じゃない。矢的さんはボクになにか隠しているんだ。よ~し、ひとつ探ってみるか!」(指をパチッと鳴らす)


 部屋の天井から見下ろしているという奇抜なカメラアングルで、ツトムくんの部屋の全体を捉えることで、ラジオをかかえたツトムくんが横になっているベッドや机の位置、そして「べッドと戸棚の間のスキ間」に飼い犬・ロクが入りこんでいる様子(笑)までもが確認できる。


 しかし、「ベッドの下」ではなく「べッドと戸棚の間のスキ間」に飼い犬・ロクがいる。先の矢的との会話の中でツトムくんは、


「でも、ロクのヤツが。あぁ、ウチのイヌの名前さ。そのロクがすっごく怖がって、ベッドの下に隠れちゃってさぁ」


 と語っていたのだが…… ベッドの下だとこのカメラアングルの死角になるし、調達してきたベッドの下に小型犬でも入り込めるスペースがないならば、シナリオにあったシチュエーションの映像化も不可能なので、そこは視聴者の大勢にそういった疑問が浮上する前にテンポよくカットを切り替えてしまうのが「演出」というものであり「映像のマジック」でもあるのだ(笑)――広義では「洗脳」にも通じていく手法なのだが、しょせんはエンタメ作品なのだから固いことを云うのはよそう・爆――。



 翌朝、奥多摩の仁王山付近一帯を、戦闘機・シルバーガルで捜索するイトウチーフと矢的隊員。


イトウ「地上には別に変わったことはなさそうだな」
矢的「はぁ…… ちょっと待ってください!」
イトウ「どうした?」
矢的「左22度の山林がおかしな倒れ方を!」


 上空を飛行している戦闘機・シルバーガルからの俯瞰(ふかん。上から見下ろすこと)の構図で捉えられた特撮ミニチュアセット。特撮美術のスタッフたちが――おそらくは美大などから集めたバイトたちだろう・汗――いったんはていねいに植えたのだろうミニチュアの山林を、手間暇を掛けてていねいにそれらしく押し倒したのだろう。実にそれっぽく倒れているのがまた、さりげに絶妙な仕事ぶりである。


矢的「あの状態から見ると、地面の下を何か巨大な生物が移動したとしか思えませんが」
イトウ「ウン、ひとつ探りを入れてみるか? 地底ガス弾発射!」
矢的「了解!」


 地底ガス弾で吹っ飛ばされる岩山! って、付近に登山者などはいなかっただろうな?(笑)


矢的「怪獣が現れる気配はありませんね」
イトウ「すでにほかの場所に移動したかな?」
矢的「でも、仲間を待っているとしたら、ここから動かないと思いますが」
イトウ「よし、いったん基地へ戻ろう」
矢的「わかりました!」


 画面の手前から奥に旋回して去っていくシルバーガル。


 そのとき、地底で光る巨大な赤い目玉が!


 今はまだそれを覆い隠すかのように、周囲の岩が崩れていくサマも効果的である。


オオヤマ「すると、仁王山の山中に怪獣が潜んでいる可能性が強いワケだな」
矢的「はい」
イトウ「しかし、相手が地面の中では攻撃の加えようがありません。といって、おびき出そうにも有効な手立てが」


 いつの間にかUGM作戦室のそばにまで入りこんでいて、それを立ち聞きしているツトムくん。地球防衛軍・UGM基地のセキュリティはどうなっているのだ!? というツッコミの余地はある描写である(汗)。


 しかし、そういえばUGMは、地底に潜んでいる怪獣を攻撃するための地底ドリル戦車は保有していなかった。


・『ウルトラマンA(エース)』(72年)の防衛組織・TAC(タック)は、ダックビル
・『ウルトラマンタロウ』(73年)の防衛組織・ZAT(ザット)は、ベルミダーⅡ世
・『ウルトラマンレオ』(74年)の防衛組織・MAC(マック)は、マックモール


 いずれも1回こっきりの登場か、未登場で終わってしまっていたのだが、これは地底世界を特撮ミニチュアで表現したり、ドリルで地面を掘り進んでいくサマを見せるミニチュア特撮には非常に手間と時間がかかるとか、「特撮の見せ場」よりも「人間ドラマ重視」であったTBS側の橋本洋二プロデューサーにそもそも「地底特撮」をそろそろやって地底ドリル戦車にも活躍の見せ場を与えてあげよう! というような発想がみじんもなかったためだろう(笑)。


 スポンサーのホピー(現・バンダイ)側や、円谷プロ側で本作『80』の企画書を執筆したスタッフ側でも、防衛組織・UGMに宇宙戦艦であるスペースマミーを保有させれば、宇宙SF流行りの当今であれば玩具も売れるだろう! という正鵠を射ている発想はあったのだろうが、単純に地底ドリル戦車のことは失念していた…… といったところだろうか?(笑)
 ただし、当時の子供たちの感覚を代弁させてもらえば、あの宇宙SF大流行の時代であっても、地底ドリル戦車のようなメカも子供たちは大スキなのであって、その玩具を発売して劇中でも噛ませではなく勇ましく活躍させてあげれば、けっこう売れたと思うのだけれどもなぁ……


 ちなみに、かの内山まもる大先生は、『ウルトラマンタロウ』の映像本編では未登場に終わってしまったZATの潜水艦・アイアンフィッシュを、小学館『小学二年生』73年8月号掲載の『ウルトラマンタロウ』コミカライズ『怪獣墓場からの脱走者』ではクライマックスに登場させている!(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210124/p1
 このアイテアはもちろん小学館側の担当編集者側のアイデアだった可能性も高いので、すべてを内山先生ひとりの功績に帰することもまたフェア・公平ではないとは思うものの、こういうところが子供心を実によくわかっているとも思うのだ。
 そう、子役のゲストドラマもよいのだが、それよりも防衛組織のメカが噛ませや前座にとどまらずに、勇ましく颯爽と活躍することこそが子供たちが最も観たいものなのだ。



 待合室らしき場所で、ツトムくんが持ってきたラジオのスイッチを入れて、70年代末期から80年代の初めに大流行していたディスコ・ミュージックをバックに踊り出してしまう広報班・セラ隊員(笑)。
 それ自体は息抜きのコミカルシーンなのだが、窓外にはそんな愉快な場面とは明らかに相反している、白いヘルメットとカーキ色の隊員服を着用した地球防衛軍の隊員たちが通行人として何人も配されていることが、ミリタリズム的なリアル感も醸し出している。


 そこに現れるツトムくん。


セラ「ツトムくん、どこ行ってたんだ? 勝手にこの奥へ入ると叱られるぞ!」
ツトム「ヘヘ~、ちょっとトイレにね。さぁ~てと、帰るとするか」
セラ「はぁ? 矢的隊員に会いに来たんじゃないのか?」
ツトム「でも忙しそうだから。また来るよ。バァ~イ」


 UGM基地の建物から退出してきて、決意を新たにするツトムくん。


「仁王山に怪獣か! よ~し、ボクだってUGMの卵だぞ! この手で怪獣を見つけてやる!」


 まだ冬の季節なので茶色く染まった枯草をかきわけて、険(けわ)しい山道を登っていくツトムくん。突然飛び出してきた鳩に驚いてツトムが腰を抜かすと、ハズみでラジオのスイッチが入って流れ出してくる音楽。それは普及がはじまったばかりで当時は最先端の楽器であったシンセサイザーが奏(かな)でる電子音メロディーであり、これもまたいかにも80年代初頭である。


ツトム「そうだ! 怪獣のヤツ、電波を出してたっけ? だったら逆に、こっちから電波を送れば呼び出せるかもしれないぞ!」


 ラジオのアンテナを伸ばして、ダイヤルを回しはじめるツトムくん。


 その逆電波に刺激を受けたのか突如、起こった地割れから合体怪獣プラズマがその巨大な姿を現した!


 その出現場面は、地割れから出現するプラズマを俯瞰して背面から捉えるといった珍しいカメラアングルも試みられている。そのために全身が黄色くて無数の青くて長い蛇腹(じゃばら)状のトゲが生えているサマもよくわかる。
 長年の特撮マニア諸氏であれば、『ミラーマン』(71年・円谷プロ フジテレビ)第3話『消えた超特急』などに登場した怪獣ダークロンの体表を一瞬連想するかもしれない。ただしご承知の通り、正面から見たその姿は地球の動物とは似ても似つかぬモロに直立した二足歩行の異形(いぎょう)の怪獣ダークロンとはまるで異なり、いわゆる爬虫類や恐竜型の怪獣ではある。


 額の先端にあるドリル状の黄色いツノ、赤い目玉の下には、鋭いキバで埋まったクチが縦に3つ(!)もあるのだ――ウラ設定では「一度に牛を50頭も食べる」のだとか・笑―― 胸には一対の青いトゲを生やしており、全身の塗装もよく見てみると真っ黄色ではなく、黄色と黒のマダラ模様である。
 まさに、最終回近辺に登場すべき「最強怪獣」としての風格にあふれており、その鳴き声は初代『ウルトラマン』第32話『果てしなき逆襲』に登場した灼熱怪獣ザンボラーの声をかなりカン高くしたといった印象である。


 青空の下、オープン撮影の煽(あお)りで見上げたプラズマの姿にカブってくる、


「怪獣プラズマ」


 なる白い字幕も、ここではカッコよく見えてくる(笑)。


ツトム「で、で、出た~~~っ!!!」


 UGM作戦室で待機している矢的隊員に、ツトムくんの母親からツトムが家を出たきりで帰らないという電話が掛かってくる。ここには来ていないと告げる矢的だったが……


セラ「あれ? ツトムくんなら、さっき矢的隊員に会いに来て、すぐウチへ帰ったはずですよ」
矢的「なんだって!? まさか、僕たちの話を聞いたのでは……? キャップ、僕を仁王山に行かせてください。ツトムくんに何かあったら僕の責任です!」
オオヤマ「よし、行ってこい!」
イトウ「オレも行くぞ!」


 ツトムくんに向かって進撃してくる怪獣プラズマ!


 手前に木々を配置してそこに向かって進撃してくるプラズマと、ラジオをかかえて逃げているツトムくんを交錯させて、比較対象物との対比からプラズマがツトムくんにドンドン迫っていくサマが効果的に描かれる!


 ここでお約束で転倒してしまって(笑)、足を挫(くじ)いて動けなくなるツトムくん!


 ツトムくんのそんな姿を画面の下半分に、上半分には戦闘機・シルバーガルが画面手前に向かって飛行してくるサマを合成した特撮カットも!


矢的「チーフ、ツトムくんが! スカイダイブでツトムくんを助けに行きます! 援護お願いします!」
イトウ「よし!」


 シルバーガルのキャノピーが開いて、上空へと飛び出していく矢的隊員!


 もちろんミニチュアの人形なのだが、これまた操縦席に陣取るイトウチーフの人形も含めて、ヘルメットや隊員服の細部に至るまでもが、とても細かに塗装されている!――『ウルトラマンレオ』の某話では、同作の防衛組織・MAC隊員が撃墜された戦闘機から脱出する際に、「まっ黒け」の人形が飛び出してきたこともあったというのに・爆――


 パラシュートが開いて、地上へと降下していく矢的隊員。


 その間にもイトウチーフが、シルバーガルでプラズマに攻撃を仕掛け出す!


矢的「ツトムくん、大丈夫か!?」
ツトム「アッ、矢的さん!」
矢的「どうしてこんなところに来たんだ!?」
ツトム「だってボク、矢的さんに負けないUGMの隊員になろうと思って!」
矢的「ツトムくん、とにかくここから早く逃げるんだ! さぁ!」


 逃げようとする矢的とツトムくん。


 だが、プラズマが両腕を左右へ開いて前方へと突き出すや、額の黄色いドリル状のツノからムラサキ色の波状光線――ウラ設定では「プラス電撃光線」という名称――が発射!


 ふたりの行く手を阻(はば)むように前方の地面が陥没する!


 そして、残るもう1体の合体怪獣マイナズマまでもが出現してしまった!!


 この出現場面では、画面を対角線上で分けたかのように左下に俯瞰で捉えたロケ撮影の矢的とツトムを、右上には特撮ミニチュアセットの山林を配している。怪獣プラズマの光線を受けた山林が赤く明滅したあとに地面ごと陥没して、白い噴煙をあげながら怪獣マイナズマが地底からふたりの眼前に現れるサマを合成しており、今回最大の特撮カットでの見せ場である!


 やはりオープンで煽りで撮られた姿にカブってくる


「怪獣マイナズマ」


 なる白いテロップ!


 マイナズマはプラズマとは異なり、よく見るとクリクリとしたまるい目が可愛らしくて、腕や脚は茶色の体毛に覆われているのでタヌキの化けものといった趣もある(笑)。頭部にはプラズマと同様のドリル状のツノが一対ずつ生えている。クチのキバも鋭く長くて、腹部には短いトゲが一対ずつ生えている段々腹のような装甲になっている。『帰ってきたウルトラマン』(71年)第20話『怪獣は宇宙の流れ星』に登場した磁力怪獣マグネドンや『ウルトラマンA』第47話『山椒魚(さんしょううお)の呪い!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070324/p1)に登場した液汁超獣ハンザギランのように、背面には反り返った複数のツノで覆われてもいる。


ツトム「別の怪獣だ!」
矢的「アッ、アブナい!!」


 ミニチュアセットの山々を背景に、マイナズマのシッポが画面手前の木をカスめて迫ってくる!


 続いて、ツトムをかばう矢的を、黒と黄色のマダラ模様に覆われたオレンジ色の蛇腹部分に、同じくオレンジ色のトゲを生やした実物大(!)のマイナズマのシッポも襲ってくる!


 左肩を直撃されて苦しむ矢的!


 再会を喜びあうような怪獣プラズマとマイナズマ!


 山々を背景に、プラズマを画面の左奥、マイナズマを画面の右手前、その手前にはガケを配しており、奥行き・距離感・立体感に富んだカットとなっている。


 なお、今回は怪獣のスーツアクターとして、本作『80』ではシリーズ後半ではレギュラーでゲスト怪獣を演じてきた佐藤友弘と、第44話『激ファイト! 80vs(たい)ウルトラセブン』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110226/p1)で「妄想ウルトラセブン」を演じた渥美博の両名がクレジットされている。おそらく出番が多いプラズマの方を佐藤が、マイナズマを渥美が演じていたのではなかろうか?


オオヤマ「なに!? 2頭目の怪獣に矢的が!?」
イトウ「矢的のヤツ、かなりのケガをしている模様です!」
オオヤマ「よし、すぐ応援をやる! フジモリ・イケダ・星、出動!」
フジモリ・イケダ・涼子「了解!」


 画面の左奥には怪獣プラズマ、その手前には山林を配して、画面の左手から飛行してきた戦闘機・シルバーガルがプラズマへの攻撃をはじめる!


 白い噴煙が上がった様子を画面の右手前にいるマイナズマが振り返って、シルバーガルは画面右手へと消えていく、奥行きと立体感を見事に表現したベテラン・高野宏一による特撮演出も光っている。


 怪獣プラズマは両腕を前方に突き出して、左右に開くや胸の一対の青いトゲから白い波状光線を発射した!


 からくも逃れるシルバーガル!


 まるで変身ヒーローのように光線発射ポーズをバッチリと決める怪獣も珍しい。単なる野良怪獣ではなく、相応に「知性」も保持した怪獣としてのキャラ付け・演技付けといったところだろう。


 画面の手前に左肩を押さえて横たわっている矢的、奥からツトムくんが駆けてくる本編場面も、同様に奥行き感を強調することがコンセプトとおぼしき本話の特撮場面と連動させたワケでは毛頭ないだろうが(笑)、結果的に奥行きと距離感が強調されている。


ツトム「矢的さん、しっかり!」
矢的「大丈夫だ!」


 まるでそれを嘲笑(あざわら)うかのような怪獣プラズマの顔面がここでアップで映し出される!


 矢的、迫ってくる怪獣マイナズマに向かって、UGMの光線銃・ライザーガンを放った!


 やはりここでも画面の左奥にプラズマ、右手前にマイナズマという位置関係はそのままで、しかしその手前に山林を配することで画面に奥行きや立体感を与えている。そして、親分のプラズマを子分のマイナズマが守っているかのような、両者の関係性をも暗示してくる特撮演出。


矢的「ツトムくん、今のうちにあの岩穴に! 早く!」


 カメラに向かって狙撃している構図となった矢的。カメラの奥に向かって駆け出していくツトムくん。


 狙撃しながらもツトムを案じて、矢的が何度も後方を振り返っている演出も、もともと奥行きと距離感を強調している画面に相乗効果を発揮している。


 その右肩に銃撃が命中するも、それでも怯まずに進撃を続けてくるマイナズマ!


 自身の左肩の激痛に苦しみながらもツトムくんを守るために、ついに矢的は変身アイテム・ブライトスティックを高々と掲げた!


矢的「エイティ!!」


 ウルトラマンエイティ登場!!


 エイティは画面の右手前にいるマイナズマの背面をチョップ!


 反転して画面の左奥のプラズマにも突撃! 腹に蹴りも入れてつかみかかる!


 画面の右側に大きく映っているマイナズマが右の画面外に消えかかるや、エイティがプラズマを豪快に投げ飛ばす!


 いったん画面の右外へと消えかかったマイナズマが画面中央へと向き直す!


 画面の左奥からエイティが突進! マイナズマを画面の手前に投げ飛ばした!


 この場面は造型マニア的には、怪獣マイナズマの背面の複雑なディテールがよくわかるところがポイント(笑)。


 投げ飛ばされたマイナズマは山々を背景に画面手前の木々やガケをナメながら大地を転げ回る!


 いつもながらに冴えわたる車邦秀(くるま・くにひで)による、悪く云えばナチュラルというよりもワザとらしくて舞踏的な、良く云えばケレン味を強調している「擬闘」(アクション演出)もさることながら、賛否や個人の好みはあるだろうが、80年代以降のヒーローものにおけるアクション演出は、そして00年前後からは海外のアクション映画なども含めて、こういう歌舞伎的な「見得(みえ)」を強調して手足をキビキビと大きく振るってみせるようなオーバーアクションの方向へと振り切れていくのであった……


 イトウチーフが戦闘機・シルバーガルでプラズマを攻撃する場面でも、凝った特撮演出が見られる。画面手前のエイティの両脚が画面右へと外れていくや、画面の奥にいるプラズマの手前をシルバーガルが高速で画面右へと飛んでいき、プラズマの右肩あたりに被弾による噴煙が上がるという演出だ。この場面のプラズマの足元にも木々が配置されており、奥行きと立体感のある画面構成は徹底している。


 エイティは側転とバック転を連続させて、画面の左奥にいるプラズマにチョップ!


 画面の右手前からプラズマの背後に隠れるように移動してきたマイナズマにもキックを喰らわす!


 だが、プラズマから喉元に一撃を喰らったエイティは、背後からプラズマに羽交い締めにされて、マイナズマの突進も喰らって放り投げられる!


 矢的隊員の姿をしていたときにダメージを受けていた左肩をさらに痛めてしまうウルトラマンエイティ!


 プラズマはまたも両腕を前方に突き出して頭部のツノからムラサキ色の波状光線を発射!


 マイナズマもそれに応えるように両ヅノから青色の波状光線を発射した!――ウラ設定では「マイナス電撃光線」と呼称――


 「磁力」を表現するかのような「ブ~~ン」という異様な振動音が鳴り響く中で、怪獣プラズマと怪獣マイナズマは背中合わせの状態となって合体する!


ナレーション「2匹の怪獣がまるでプラスとマイナスの磁石が引き合うように合体するとは!? ウルトラマンエイティは意表を突かれた!」


 合体したプラズマの頭部のツノと胸の2本のトゲからムラサキ色の波状光線が発射される!


 それを腹部にマトモに喰らって、倒れ伏してしまうエイティ!


 勝利の雄叫びを上げるかのように両腕を挙げて、エイティに突進していく背中合わせに合体したプラズマとマイナズマ!


 そして、吹っ飛ばされてしまうエイティ!


 超ローアングルで手前の樹木越しに、宙から大地へ転がり落ちてくるエイティ頭部の映像!


 エイティはここでも左肩をかばうように起き上がることで、矢的隊員の姿であるときに受けたダメージをここでも念押ししており、エイティの着ぐるみに入っているスーツアクター・奈良光一の絶妙なダメージ演技がこれを補強する。


 エイティはついに両腕をL字型に組んで必殺技・サクシウム光線を発射する!


 だが、それにも怯まず、エイティへと突進してくる合体怪獣プラズマ&マイナズマ!!


 ここでも画面の手前に木々を、背景に山々を配して、画面の左側にサクシウム光線発射ポーズのウルトラマンエイティをその背面から捉えて、画面右奥から合体怪獣が突進してくる、奥行き感がある画面アングルを実現している!


 カットが切り替わって、画面の左端にエイティ、その右側に合体怪獣の姿を側面から大きく捉えられる。エイティのキックもかわして、ド突き倒したエイティを画面の手前にひざまづかせて、のしかかってくる合体怪獣の猛威も見事に表現されている!――ここでもエイティは左肩をかばっている!――


 エイティを援護しようと駆けつけてくる戦闘機・スカイハイヤーとエースフライヤー!


イケダ「アッ、エイティが危ない!」


 画面の左手前の小高い丘越しで、その奥に鎮座する合体怪獣の頭部のツノから、画面の右に位置しているエイティに向かってムラサキ色の波状光線が発射されてくる!


 またもたまらず吹っ飛ばされて、画面の右外へと消えていくエイティ!!


イトウ「フジモリ、ウルトラマンエイティを助けるんだ!」
フジモリ「了解!」


 画面の左奥にいる合体怪獣に向かって、フジモリ隊員が搭乗する戦闘機・スカイハイヤーは画面右上から高速で急襲!


 画面右にいたエイティがその間に手前の木々をジャンプして待避する!


 イケダ隊員が搭乗する戦闘機・エースフライヤーも合体怪獣に攻撃を加える!


 だが、マイナズマの両ヅノから発射された波状光線がエースフライヤーを、プラズマの頭部のツノと胸のトゲから発射された波状光線がスカイハイヤーを撃墜する!


 山々を背景に、画面手前の木々をナメながら、両機が静かに落ちていく様子をつなげていく……


 エイティ、全エネルギーを腹部のヘソ部分にあたるウルトラバックルに集中させて、第6話『星から来た少年』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100606/p1)に登場したUFO怪獣アブドラールスや、第21話『永遠に輝け!! 宇宙Gメン85』に登場した残酷怪獣ガモスといった強敵を葬り去ってきた、無数の光のシャワーを浴びせるバックルビームを放った!


 だが、それによってついにエネルギーを使い果たして、エイティは大地へと倒れ伏してしまう!


 この場面でも画面右下の手前にはガケを、その上には木々を配して、地に伏せてしまったエイティがそれらの陰に隠れて姿が見えなくなることで、その深刻感をいや増す演出となっている。


 バックルビームを受けてさえビクともしない合体怪獣プラズマ&マイナズマは、再び本来のプラズマとマイナズマの個体に分離する!


 かろうじて撃墜された戦闘機から脱出していたフジモリとイケダの両隊員が無事を確かめあう。


イケダ「フジモリ隊員、ケガはないですか!?」
フジモリ「あぁ、大丈夫だ! イケダ、おまえこそ大丈夫か!?」
イケダ「大丈夫です! それにしてもスゴい怪獣ですね! まるで歯が立たないや!」


 この場面では、山上にいるふたりをかなり煽りのアングルで捉えている。仁王山での本編場面のこのふたりの出番はこのワンカットだけであることから、出番の多い矢的&ツトムくんとは異なり、このふたりは遠方ロケには参加していなかった可能性はある。実際には近場の小高い丘で超煽りで撮影しただけだったとしたら、それは本編演出の勝利でもある(笑)。


 胸の中央にある活動限界が迫ったことを示すカラータイマーが赤く点滅をはじめるも、エイティはかろうじて立ち上がりってマイナズマにつかみかかる!


 しかし、逆に両腕を押さえつけられて、背中にプラズマの一撃を喰らってしまう!


 まさに最終回の近辺でこそふさわしい、2大怪獣の襲来&その強敵ぶりとエイティの大ピンチではある。もちろんそれはメタ的には、サブタイトルにも謳(うた)われている、後述する女ウルトラマンことユリアンが助っ人参戦する劇中内での必然性をつくるためのものなのだが(笑)。


 エイティ、ひざまづいたところを怪獣マイナズマに吹っ飛ばされる!


ツトム「エイテ~ィ! 死なないで~~っっ!!」


 UGM専用車両・スカウターS7で駆けつける涼子!


 彼女の視線であろうアングルで、点滅しているエイティのカラータイマーへとカメラがズームする!


 エイティ、マイナズマのシッポの一撃でフラついたところを、プラズマに後ろから羽交い絞めにされて、マイナズマの方へと放り投げられる!


 さらにマイナズマにも吹っ飛ばされるエイティ!


涼子「このままではエイティが殺されてしまう! 早く、早く助けなくては…… エイティ~! しっかり! 今あたしが助けに行くわ!」
エイティ「いけない! 君まで変身してはダメだ!」
涼子「どうして!?」
エイティ「いま僕がやられても、君が新しいウルトラの戦士として戦うことができる! 万一ふたりともやられたら、地球はおしまいだ! 僕のことは構うな! いいか!?」
涼子「エイティ、あなたって人は……」


 エイティはユリアンともども討ち死にする万一の可能性を考えて、それならばここで自分だけならば死んでも構わない! と究極の自己犠牲を口にしてみせるのだ。それに感じ入ってしまうユリアンこと涼子隊員……


 第46話『恐れていたレッドキングの復活宣言』でも、両者による同様の場面が描かれている。どくろ怪獣レッドキング3代目に投げ飛ばされてカラータイマーも点滅をはじめたエイティを、涼子がウルトラの星から持参してきていたどんなケガや病気でも治してしまうというメディカルガンでエネルギーを補充しようとするのだが、エイティは即座にそれを断るというものだ。
 しかし、その意味するところは本エピソードとはやや異なる。死をも賭(と)した自己犠牲の賞揚ではなく、そこでは他人の助けに安易にすがらず苦戦はしていても自助努力でなんとか挽回してみせるエイティの姿を、ゲスト子役たちに見せようとするものであったからだ。


 今回はそのような相違にさらに加えて、涼子がその主観映像で、エイティのご尊顔に人間・地球人としての矢的の姿をオーバーラップさせていく……
 矢的と涼子はウルトラマンとしての姿の方が本体なのだから、リアルに考え出すとこの描写はオカシい。しかし、フィクションとは究極的にはリアリズムよりも象徴・寓意の方が優先する世界である。
 だから、ここではその正体であるウルトラマンとしての顔面ではなく、そういった繊細デリケートな情緒もおのずと表現ができたり、視聴者にその心情を想起もさせやすい、ナマ身の人間の役者さんの表情がある顔面をオーバーラップさせてみせるのが、ドキュメンタリーならぬフィクション作品としては正解の「演出」なのである!


 この場面では、第15話『悪魔博士の実験室』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100808/p1)に登場した実験怪獣ミュー、第19話『はぐれ星爆破命令』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100905/p1)に登場した惑星怪獣ガウス、第44話に登場した「妄想ウルトラセブン」など、悲劇的な側面を持った怪獣たちを描写する際に多用されてきた、前作『ザ★ウルトラマン』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971117/p1)の名挿入歌『怪獣レクイエム』のインストゥルメンタル――歌を抜いた演奏のみの楽曲――が使用されており、涼子の恋情も入り交じっていたであろうその心情をエモーショナル豊かに盛り上げてもいる。


 涼子の視点であろう特撮カットで、画面の右側にミニチュアの樹木を大きく映して、その左側にはカラータイマーが点滅して大地に倒れ伏したままのエイティの苦悶の表情を映し出しているのも、エイティと涼子の双方の切実なる想いが痛切に伝わってくるかのようである。


エイティ「地球を、頼む! 頼むぞ!」
涼子「エイティ~~っ!!」


 そして今、涼子の想いがついに爆発する!


 西の空に傾きかけた太陽を背にして、小高い山の上に駆けあがった涼子が煽りで捉えられる。


 いったん振り上げてから振り降ろした右腕を、ふたたび宙へと高々と掲げる涼子!


涼子「ユリアン!!」


 変身時の掛け声だ! 涼子が右腕にハメていた変身アイテム・ブライトブレスレットがキラリと輝く!


 ここでお約束の様式美的な変身バンク映像が流される!


 あまたの白い星がまたたく中で、宙に突き上げた右腕をいったん振り降ろして、ヒジを曲げて構えている左腕と交差させるように大きく振り回したあと、ふたたび天高く大空へと掲げてみせるように、涼子はその正体でもあるウルトラの星の王女さま・ユリアンへと姿を変える!


 そして、地球上でははじめてその可憐な姿を現してみせたユリアン


 古典的・原始的なアナログ手法だが、オープン撮影による冬の澄んだ青空をバックにして、頭部のアップからカメラが急降下していくかたちでの超煽り撮影で、その全身を見上げるようなアングルへと変化していくことで、その姿も20数倍へと巨大化したこともが示される!


イケダ「アッ、別のウルトラマンだ!」
イトウ「オッ!?」


 木々を画面の下部に配したその上で、ファイティングポーズをとったユリアンの姿を捉えたあと、カメラは次第に引いていき、手前の木々をナメながらプラズマ・マイナズマに立ち向かっていくユリアンの勇姿を長回しで捉える!


 マイナズマに左手でチョップを喰らわし、プラズマに左足で蹴りを入れてみせるユリアン


 ユリアンはプラズマに抱きかかえ上げられるが、その体勢のままで突進してきたマイナズマに両脚でキック!


 ユリアンはプラズマを逆に投げ飛ばす!


 向かってきたマイナズマにも軽くジャンプして右手でチョップ! さらにマイナズマを投げ飛ばしてみせる!


 このシーンでは、画面右側のマイナズマに攻撃を加えるユリアンが側面から捉えられている。スロー再生で鑑賞していると女性特有の艶(なま)めかしい体型である曲線美もまた絶品である(笑)。


 ユリアンの着ぐるみに入っていた清田真妃は、第1話『ウルトラマン先生』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100502/p1)~第8話『よみがえった伝説』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100620/p1)と第27話『白い悪魔の恐怖』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101030/p1)~第28話『渡り鳥怪獣の子守歌』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101106/p1)でエイティのスーツアクターを務めていた赤坂順一と同様に、昭和の『仮面ライダー』第1期・第2期シリーズ(71~75年・79~81年)のアクションを担当していた、あの天下の「大野剣友会」に所属していた御仁だそうである。


 彼女は『仮面ライダーストロンガー』(75年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201231/p1)でも、故・岡田京子が演じたレギュラーキャラ・岬ユリ子(みさき・ゆりこ)が変身する女仮面ライダーこと電波人間タックルの激しいアクション時の吹き替えも務めていたそうだ。副主題歌『きょうもたたかうストロンガー』が流れるエンディングで、鉄道の上の歩道橋で敵組織・ブラックサタンの戦闘員と戦っているタックルは清田が演じているらしい。そう思って観ていると、顔が岡田とは微妙に異なっている気もしてくるが、その情報がガセであった場合には、それもまた単なる思い込みだったということにはなるのだが(笑)。
 ちなみに通常のアクション時は、岡田京子自身が変身後のタックルも演じていたそうであり、それもそれでスゴい話だが、女性のアクション俳優やスーツアクターが極度に少なかった時代というものも偲ばれてくる(汗)。


――ちなみに赤坂順一の方は、本作と同時期に放映されていた『(新)仮面ライダー』(79年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210102/p1)や『仮面ライダースーパー1(ワン)』(80年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210822/p1)の各話の大野剣友会のメンバーのテロップでもよく見掛けるので悪の組織の戦闘員などを演じていたのではないかと推測するが(ウルトラマンエイティのスーツアクターとも序盤は兼任だったということか!?)、80年代末期から90年代初頭にかけては大人気であったジャニーズ事務所所属のアイドルグループ・光GENJI(ひかる・げんじ)のメンバー・赤坂晃(あかさか・あきら)の実兄だったという話もある。真偽のほどはいかに?――



 ユリアンの登場に奮起して、なんとか起き上がろうと試みるも、すぐに倒れてしまうウルトラマンエイティ。


 画面の右側にプラズマ、左側にマイナズマを、両者ともにその背面から捉えて、画面中央の奥にいるユリアンに2頭が突進していく!


 しかしユリアンは、その両腕で華麗に2頭の背中にダブル水平チョップで浴びせる!


 ユリアンはさらにマイナズマに蹴りを入れて、つかみかかってきたプラズマを豪快にも投げ飛ばす!


 『80』第40話『山からすもう小僧がやって来た』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110129/p1)からの新主題歌『がんばれウルトラマン80』の長めのイントロ楽曲もかかってきて、ここではユリアンが優勢であることを音響演出面でも補強する!


 スピーディーでアクロバティックなユリアンによるアクションの連続なのだが、惜しむらくはユリアンがまったくの「無言」で戦っていることである(汗)。ここはひとつ、涼子を演じた萩原佐代子(はぎわら・さよこ)の「ショワッ!」といった掛け声ボイスをアフレコ形式で入れてもらうか、彼女のボイスを加工してバンク音声としての掛け声を作ってほしかったものなのだが。


 しかしマイナズマも、両ヅノから青白いスジ状の光線を発射する!


 ユリアンは腹部にマトモに喰らって、両腕を上げたままでひざまづく!


 マイナズマに右足で蹴りを入れられ、プラズマに吹っ飛ばされて、大地に倒れ伏してしまうユリアン


 ユリアンのピンチに、ついに倒れていたエイティもなんとか立ち上がった!


 画面の右側に配されているマイナズマにつかみかかるも、逆に勢いに押されて、左側にいるプラズマには背後から羽交い絞めにされてしまうユリアン


 そこに突進をかけてくるマイナズマ!


 しかし、画面の右上からエイティがマイナズマにジャンピングキックを喰らわした!


 画面の手前に吹っ飛ばされてくるマイナズマ!


 ところどころに樹木が植えられたガケを手前にして、ロング(引き)の映像で捉えられた画面構成!


 ユリアン、プラズマの腹部に右手でチョップをカマして、つかみあげて投げ飛ばす!


 猛り狂っている形相のプラズマとマイナズマ!


 ユリアンは左手を差し出して、エイティを見つめる。


 体力がかろうじて復活してきたエイティを頼もしく思っていような演技でもあり、こうした細かな所作にこそ「演出」と「演技」の双方が集約されてくるのだ。


 ここでプラズマとマイナズマ、ふたたび背中合わせに合体する!


エイティ「敵はプラスとマイナスの力を合体させて何倍もの強さを持っている。我々も力を合わせて戦うんだ!」
ユリアン「いいわ、エイティ!」


 オープン撮影での澄み切った青空をバックにして、画面にはもちろん写らないトランポリンによるジャンプで、エイティが画面の右下から、ユリアンが左下から跳び上がって、両者の間には星がキラめいた!


 エイティとユリアンが組み合った特撮ミニチュアの人形が高速回転をはじめて、線画合成によって周囲に高速のウズも巻き起こって、そのまま合体怪獣プラズマ&マイナズマへと回転しながら突撃してく!


 「目には目を! 合体には合体を!」と云わんばかりの合体必殺技「ウルトラダブルパワー」が炸裂したのだ!!


――余談だが、幼児誌『てれびくん』の2008年度の1年間に連載された内山まもる大先生による漫画『ウルトラマンメビウス外伝 アーマードダークネス ジャッカル軍団大逆襲!!』(08年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210117/p1)でも、連載当時は最新のウルトラマンであったウルトラマンメビウスユリアン王女がタッグを組んで、復活を遂げてウルトラの星へと襲撃してきた名悪役・ジャッカル大魔王に対してこの「ウルトラダブルパワー」での反撃を試みているので、ウルトラシリーズ全体を愛するマニアであれば必読である!――


 エイティとユリアンは高速回転体勢を解除して、大地へ華麗に着地する。


 しかし、その直後に、


「ウッ!」


 と声をあげて、エイティはひざまづいてしまうことで、彼が負っているダメージの甚大さも重ねて点描してみせる。


 その直後、合体怪獣プラズマ&マイナスマは大爆発を遂げて木っ端微塵に粉砕された!!


 エイティとユリアンが勝利したのだ!


 ひざまづいたエイティをいたわるように抱き起こしてみせるユリアンの女性らしい所作がまた、名演技でもある。


 エイティとユリアンは見つめ合って大きくうなずき、大空へと飛び去っていく。



ツトム「矢的さん、ゴメンね。ボクのためにケガさせてしまって。こんなことじゃボク、UGMの隊員にはなれそうもないな」
矢的「そんなことはないサ。君の勇気と向上心があれば将来、必ずいい隊員になれるとも」
ツトム「ホント? ホントにそう思う?」
矢的「ウン。その代わりにこれに懲(こ)りて、もう二度と出過ぎた危ないマネはしないこと」
ツトム「ウン」
矢的「夜はちゃ~んと早く寝ること」
ツトム「ウン」
矢的「いいね。約束するんだよ」
ツトム「はい!」(敬礼)
矢的「ン!」(敬礼)


 ツトムくんのような理系のラジオ少年が体育会系の戦闘員でもあるUGMにホントに入隊できるのかはともかく(笑)、まだまだ幼い子供たちをターゲットとする子供番組としてはこうでなくてはイケナイ!
 あるいは、現実世界でもいたいけで夢見がちな子供たちにその性格や運動神経などの適性で、ダメ出しなどをしてはイケナイ(汗)。子供たちには夢を見させて、しばらくはその方向性で努力をさせるべきなのだ。


 現実世界はイス取りゲームの世界でもあるから、その職業には向かなかったり、その専門職に就くには能力・胆力も足りないようならば、その夢をムリにでも実現させてしまうことは「悪」ですらある。
 しかし、そのような現実の厳しさを知るのは、思春期も後期になってから、そういった年齢層向けのスクールカースト問題などを扱っているようなライトノベルや深夜アニメなどで知っていけばよいようなことだろう(笑)。


 矢的のどこまでも暖かくて優しい眼差しが、ツトムくんの将来に期待を寄せていることを強く感じさせる。矢的を演じている長谷川初範(はせがわ・はつのり)の人柄もにじみ出ているのだろうが、実に清涼な場面に仕上がっている……


矢的「じゃあツトムくん、さよなら」
ツトム「さよなら」


 このカットでは、UGMの敷地内にあるという設定になっている階段の下にカメラを設置して、手前に駆けてくるツトムくん、その上で見送っている矢的を煽りで捉えるといった、ちょっぴり凝った魅惑的なアングルにもなっている。
 『ウルトラセブン』(67年)からウルトラシリーズの本編班や特撮班の助監督として参加し、前話である第48話『死神山のスピードランナー』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210228/p1)でついに監督に昇進した宮坂清彦(みやさか・きよひこ)監督による、凝ったカメラアングルも散見される本編部分もまた見どころ満載の本エピソードであった。



 先述した女声スキャットによる名BGM『無償の愛』が流される中で、山々の頭上に浮かぶ美しい夕日を見つめている矢的と涼子の後ろ姿のショットが捉えられる。


 ツトムくんに見せた優しい笑顔とは一転、これまでに見せたことがないような険(けわ)しい表情で涼子に語りかけてくる矢的隊員。


矢的「あのとき、どうして僕の云ったとおりにしなかったんだ?」
涼子「……」
矢的「僕たちふたりに万一のことがあったら、この地球がどうなるか、ウルトラの戦士の君ならよくわかってるだろ?」
涼子「……」
矢的「君、聞いてんのか?」


 涼子の左肩に強い調子で右手をやる矢的。


 それまで矢的に背を向けていた涼子が、ようやくここで矢的の方を振りかえる。


 しかし、その形相に思わずたじろいでしまう矢的。


 涙でいっぱいの大きな黒い瞳でジッと矢的を見つめてくる涼子。


 その表情はウルトラの星の王女・ユリアンでもUGMの見習い隊員・星涼子のものでもない、あくまでもひとりの女性としてのものであったのだ……


矢的「君……」
涼子「あたし、あたし地球人に生まれたかった!」


 張り裂けんばかりの心でそう語るのがやっとの涼子。矢的に背を向けて走り去ってしまう……


 言葉尻は「地球人に生まれたかった」というものである。しかし、それが意味しているものは、その発言内容を超えている。彼女は遠回しにウルトラマンエイティ=矢的猛に対して告白をしているのである。複雑な面持(おもも)ちで涼子の後ろ姿を見やるしかない矢的……



――そんな大人の関係にしてあったからこそ、エイティとユリアンの戦いの緊迫感があったと思います。最後に涼子が「地球人であればよかった」と泣いて走り去るあたりが、放送当時すごく意味ありげに感じて……。
「そこまでいくと、もう愛情の問題にまでたどりついちゃってるぐらいですよね(笑)。涼子はエイティの危機を救おうという一心で変身します。でも、それを戦いのあとでたしなめられる。矢的猛だって、涼子が助けてくれたことを感謝していないわけじゃないんです。だけど、彼は立場上それを言葉にできない。それは涼子にも理解できます。それでも自分はエイティを見捨てておけなかったという心の奥底の気持ちを前面に出せないつらさが、「地球人なら……」という言葉に出てしまった。エイティの使命と責任感にユリアンも同意して変身した。でも、その一方で捨てざるを得ない気持ちもあるということでの涙ですね。あそこでユリアンは、絶望して心を引き裂かれちゃったとも言えるでしょう。でも、同時に強くエイティにも惹(ひ)かれているんですよ。だから、「地球人ならよかった=あなたの前では女でいたかった」っていうことなんです。ちょっとアダルトなムードで押したかもしれないですが、これぐらいのものを出して、大人のドラマを感じてほしいなというところですね」

タツミムック『検証・ウルトラシリーズ 君はウルトラマン80を愛しているか』(辰巳出版 06年2月5日発行・05年12月22日実売・ISBN:4777802124)脚本/山浦弘靖インタビュー)



 怪獣デザイン担当の特撮美術デザイナー・山口修(やまぐち・しゅう)が、教科書にも掲載されていることで誰でも知っている国宝の屏風(びょうぶ)画「風神雷神図」をモチーフにしたという、怪獣プラズマと怪獣マイナズマ。
 この2頭の圧倒的な強さを描いて、エイティを絶体絶命のピンチに追い詰めることで、涼子はついにユリアンへと変身せざるを得ないというシチュエーションを構築するのが、本エピソードが円谷プロ側のプロデューサーである円谷のぼる社長と満田かずほから与えられていたお題であったのだろう。



「学校の先生が主人公で、しかも防衛チームとも掛け持ちしているという設定でしたからね。僕がやった『ミラーマン』の鏡京太郎(かがみ・きょうたろう)もそうだったでしょ? カメラマンなんだけど、防衛チームにも首を突っ込んでいるという。それと似たムードがあって、取っつきやすい印象もあったように思います。僕はその「主人公が二足のわらじを履く」という設定は面白いと思ってましたよ。その方が俄然(がぜん)ドラマに緊張感が出ますよね。授業中に怪獣が出た、さぁ、主人公は先生の顔をするのか? 防衛チームの顔をするのか? という駆け引きのドラマを作ることができる。そういう緊張感とかカセがなにかしらあって、主人公を追いつめるというのは僕の好きな作劇のパターンなので、僕自身はやりやすそうだという感触がありましたね。まぁ、結果を見ると、その「二足のわらじ」のパターンは、僕の書いた話にはほぼ登場してないみたいですが(笑)」

(『君はウルトラマン80を愛しているか』脚本/山浦弘靖インタビュー)



 『80』の再評価を目指していたであろう同書籍『君はウルトラマン80を愛しているか』では、同書の目論見とは相反することに、『80』第1クールの「学校編」の設定に対して否定的な見解を示していたスタッフたちが実は圧倒的な大多数であった(汗)。
 しかし、その数少ない好意的な意見であることと、『ミラーマン』あるいは『ジャンボーグA(エース)』(73年)なども考えてみれば、怪獣攻撃を専門とする防衛組織がありながらも主人公はそれに所属していない民間人の青年ではあったという「なるほど!」と頷(うなず)ける指摘とともに、それによってまた独自の葛藤ドラマを生み出すこともできるという、眼が覚めるような指摘が実に批評的にも見事なので、山浦弘靖先生の発言を長々とここに引用させてもらった。


「緊張感とかカセがなにかしらあって、主人公を追いつめるという作劇のパターン」


 本話においては、それがドラマ面ではなくバトル面において……という感じではある。


 今回のエピソードでは、2大怪獣の猛威で負傷してしまった矢的ことエイティが見舞われる大ピンチに、主に特撮演出面でもひたすらに傾注(けいちゅう)することで、ツトムくんの挿話を除いてはよぶんなドラマはほぼ廃して、ひたすらに「怪獣との攻防劇」に徹していた。


 そして最後に、涼子がユリアンに変身する必然性と、ユリアンが地球と地球人のことを、そして何よりもエイティこと矢的に恋情を持ってしまって、その王女としての立場や地球防衛の公務との間で引き裂かれている想いを、30分尺の子供向け番組のワク内ではオブラートに包んで、


「地球人に生まれたかった」


 というセリフに集約してみせることで、第43話から蓄積されてきた「ユリアン」編の一連のドラマの帰結点としても、ここがクライマックスとなることで、最高の盛り上がりを見せている。


 まぁ、違う云い方をしてしまうと、矢的に対する涼子の淡い恋愛ドラマはここで一応のピリオドが打たれてしまったのではあるが……


 基本は男児向けの戦闘ヒーローの活躍を見せる番組であることを考えれば、それもまた致し方(いたしかた)がないことだし、むしろ適切なストーリーですらあったのかもしれない――年長マニアの観点からすれば、この恋情描写のクライマックスは最終回での最終バトルの直前などで挿入してほしいような類いのものだったと想ってしまうのだが――。


 しかし、続く『80』の最終回が取り組んでみせたのは、ウルトラシリーズの永遠にして宿命的な矛盾でもあり、それはまた古今東西のヒーローもの一般もハラんでいた、ヒーローといった存在に封建的忠誠心のように他力本願で依存することでスポイルもされてしまう、個人個人の自助努力といった近代的な自立精神との兼ね合いをどうのように付けていくのか!? といった深遠なる命題に迫っていくものでもあったのだ……



 ところで、星涼子がエイティを助けようと想ってユリアンへと変身した行為は、「地球防衛」のためではあるのだが、そのウラに隠されていたのは私的な「恋情」でもあった。それはイジワルに見てしまえば、単なる「私情」に過ぎなかったともいえるのだ。
 地球防衛を任務とする「ウルトラの戦士」や「UGMの隊員」としては、そうした個人的な感情におぼれてしまうことは失格なのかもしれない。
 しかし、そのような任務を持ってさえいなければ、大局のことや地球防衛の後任者を考慮することなく、目の前で苦しんでいる愛する人や親しい人をどうしても救いたいという気持ちも理解はできるのだ。戦略レベルでの大局としては間違ったことであっても、人間の人情とは良くも悪くもそのようなものなのだろう。


 さらに、本話のユリアン以上に踏み込んで、後年の『ウルトラマンダイナ』(97年)の最終回3部作である第50話『最終章Ⅱ 太陽系消滅』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971211/p1)のクライマックスにおいては、危機に陥った防衛組織・スーパーGUTS(ガッツ)の女性隊員ユミムラ・リョウを前にして、主人公アスカ・シン隊員が、


「オレは今、君だけを守りたい!」


 などと叫んでもみせるのだ。


 好いた女性ひとりの命と人類数十億の命を天秤にかけても、前者を採用する。


 紀元前からすでにある普遍的な哲学問題でもあり、2010年4月からNHK教育テレビでも放映された、個人主義自由主義ではなくコミュニタリアニズム共同体主義)という思想的なスタンスに立っているアメリカの政治哲学者マイケル・サンデル教授による『白熱教室』シリーズでも議題にされていた、いわゆる「トロッコ問題」のことでもある。あるいは、『新約聖書』でイエス・キリストが語った『99匹の羊と1匹の羊』の例え話でもよいだろう。


 「(愛する)君だけを守りたい!」というようなテーゼは、70年代にはあまり存在していなかったように記憶している。このようなテーゼは80年代以降の少年漫画あたりで勃興してきて、しかして90年代初頭には早くも特撮ジャンル作品でも『鳥人戦隊ジェットマン』(91年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110905/p1)でブラックコンドルこと結城凱(ゆうき・がい)による


「オレたちは戦士である前に人間だ! 男と女だ!!」


 なる名セリフで、早くも臨界点にも達しており、すでに特撮マニアたちはこの大命題に関して賛否両論による大激論を経験してはいるのだ。


 『ダイナ』放映当時の筆者はこういったテーゼに、80年代以降の日本の若者文化のような「公」よりも「私」、「公共心」よりも「私的快楽至上主義」にも通じていく「ミーイズム」や「エゴイズム」のクサみを感じとって猛烈な反発心を抱いて、そのように当時の特撮同人誌などにも寄稿をしたものである(笑)。


 基本的にはその考え方に変更はないものの、今では少々軟化はしており、愛する男女以外の他人であれば死んでも足蹴にしても構わないというのであれば論外にしても(汗)、そうでない範疇のものならば多少の私情や恋情は許してもよいのでは? と考えるようにはなっている。


――ただし、後部座席に乗せた尻軽そうな彼女が「イェイ、イェイ!」と片腕を振り回してアピールしながら、バイクのエンジンを駅前のロータリーなどでブイブイと吹かせている暴走族のバカそうなカップルも、主観的にはオレたちは全世界を敵に回してでも純粋な愛に生きているのだ! と思っているのだろうから(笑)、そのすべてを許容する気もないのだが――



 ところで本作『80』は、関東地区では第37話『怖(おそ)れていたバルタン星人の動物園作戦』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110108/p1)が10.8%を記録して以降、視聴率はずっと1桁の低空飛行を続けていた――それ以前に2桁の視聴率を記録したのは実にはるか前の第15話『悪魔博士の実験室』での11.6%である――。しかし、今回は2桁の10.2%を記録している。当初から関東よりも平均視聴率が3~4%は高かった中部・関西でも前話よりは微増している。


 これはサブタイトルに「変身! 女ウルトラマン」と大々的に謳って、それが新聞のラテ欄(ラジオ・テレビ欄)にも掲載されたことが功を奏したのだろう――いや、『80』はシリーズ途中から新聞のラテ欄では、サブタイトルではなく登場怪獣名だけが表記されていたような記憶もあるので、もしも間違っていたとしたらご容赦を願いたい・笑――。


 だが、残念ながらエイティとユリアンが共闘したのは本エピソードが最初で最後となった。続く第50話(最終回)『あっ! キリンも象も氷になった!!』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210315/p1)では、その作劇テーマ上の必然として、ユリアンどころかエイティのバトルすらもが描かれなかったためである……


 基本的には今でも男児向けである特撮ヒーロー作品や、大人向けのドラマである刑事ものであっても、時代の空気や実社会の反映として、かつてはヒロインの存在は基本的には「添えもの」であり、男性から見た「客体」としての存在に過ぎなかった。
 一応のエリート集団である防衛組織に入隊できたからには、そこに登場する女性隊員たちも優秀な女性であることには間違いないし、そのような有能描写もあるにはあったのだが、子供目線で見れば超人ヒーローには変身できない女性隊員なぞは、主人公と比すればはるかに格下の存在に映っていたのも事実なのだ。


 しかし、1972年には画期が訪れる。


 72年4月から放映が開始された『ウルトラマンA』では、TAC隊員・南夕子(みなみ・ゆうこ)が北斗星司(ほくと・せいじ)隊員と合体変身を遂げるダブル主人公として描かれたのだ。
 72年7月から放映が開始された、同じく円谷プロが製作した人間大サイズの集団ヒーロー『トリプルファイター』(72年・TBS)では、防衛チーム・SAT(サット)の隊員である早瀬ユリがオレンジファイターという戦闘超人に変身して戦っていた。
 72年10月から放映が開始されたタツノコプロ製作の大人気テレビアニメ『科学忍者隊ガッチャマン』でも、5人組のひとりであるG-3号には、女性レギュラー「白鳥(しらとり)のジュン」が変身を遂げていた。
 翌73年に放映された特撮ヒーロー『キカイダー01(ゼロワン)』のシリーズ後半では、当時のJAC(ジャパン・アクション・クラブ)の新星にして後年には大人気女優となる志穂美悦子(しほみ・えつこ)が演じる美少女・マリが変身する戦闘ヒロイン・ビジンダーが大活躍もしている。


 そして、変身する超人ヒロインの系譜は、


・『秘密戦隊ゴレンジャー』(75年)の、ペギー松山=モモレンジャー
・『仮面ライダーストロンガー』(75年)の、岬ユリ子=電波人間タックル
・『ザ・カゲスター』(76年・東映 NET→現テレビ朝日)の、風村鈴子=ベルスター
・『忍者キャプター』(76年・東映 東京12チャンネル→現テレビ東京)の、桜小路マリア(さくらこうじ・まりあ)→天堂美樹(てんどう・みき)=花忍(はなにん)キャプター3(スリー)の初代&2代目


 などなどで、70年代後半にはすでに定着していくのであった。


 巨大ロボットアニメでも、元祖『マジンガーZ』(72年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200119/p1)のシリーズ中盤の時点で、ヒロイン・弓さやかが女性型巨大ロボット・アフロダイA(エース)を操縦するようになる。
 「マジンガー」シリーズ第3作『UFO(ユーフォー)ロボ グレンダイザー』(75年)のシリーズ後半では早くもダブルヒロイン体制(!)で、主役ロボと合体する大型円盤型メカ2機に各々が搭乗していた。
 『マグネロボ ガ・キーン』(76年)でも、ヒロインがマグネマン・マイナスに変身して、主人公の青年ともども巨大ロボットを操縦していた。


 本稿を執筆した数ヶ月前に公開されたばかりである映画『ゴーカイジャー ゴセイジャー スーパー戦隊199(ひゃくきゅうじゅうきゅう)ヒーロー大決戦』(11年・東映https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201108/p1)を観に行った際に、筆者は観客の中にウルトラシリーズの劇場版ではほとんど見かけなかった「女児」の姿がかなり目立っていることに気がついた。
 これらの現象を見るにつけても、この少子化の時代にパイを少しでも広げるためには、もちろんメインターゲットが男児であることは揺るがないにしても、女児層をもゲットする何らかの手立てが必要なようには思えるのだ。


 『スーパー戦隊199』を鑑賞するような女児たちは自宅でもスーパー戦隊シリーズを鑑賞していることだろう。そんな彼女たちが真っ当に成長してママになれば、自分の子供たちに


「ディズニーはオシャレだけど、特撮変身ヒーローものはダサくてオタクっぽいから、観ちゃダメ~」


 などと禁止するように成長してしまう可能性は低くなることだろう――そういった女性を現実にもファミレスなどで目撃してきたし、ネット上でも散見するのだ・爆――。どころか、自分も子供のころに観ていたからと特撮ヒーロー作品の視聴を容認して、もしくは自ら進んで観せてもくれることで、特撮ジャンルの延命に貢献してくれることまで考えておきたいのだ(笑)。



ウルトラの母のほかにも、女性のウルトラ族を出してえ! 内山先生、おねがい!」(愛知県・IKさん)

(『コロコロコミック特別増刊号 ウルトラマンPART1』(小学館・78年7月24日発行・6月24日実売・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210110/p1)『コロコロウルトラファンプラザ』(読者投稿欄))



 70年代後半当時からすでに新たなウルトラヒロインの誕生を切望する声が女子児童からは上がっていたのだ――この読者投稿欄には女子中学生や女子高生の声もあったので、実は引用した投稿者の正体も女子児童ではない可能性もあるのだが、その場合にはご容赦を願いたい・笑――。


 このように散々に女性ウルトラマンの登場を待望するかのような発言をしておきながら、それを手のひら返しにする発言を次に続けてしまって恐縮なのだが、男児向けの戦闘ヒーロー作品に変身ヒロインを登場させる行為は、実は諸刃の剣(もろはのつるぎ)でもある。
 子供であっても男児にとっての女性はやはり異性なのであり、彼女ら戦闘ヒロインたちが颯爽と活躍している姿態や艶めかしい声にも微量の異性を感じて、それに惹かれつつも倒錯した背徳感も抱いてしまったり、それに対する気恥ずかしさや困惑から作品を遠ざけてしまうことも往々にしてあるからなのだ(笑)。


 当然のことながら、女性ウルトラマンを主役ヒーローに据えたウルトラシリーズの新作をつくれば、女児向けアニメ『美少女戦士セーラームーン』(92年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041105/p1)や『プリキュア』シリーズ(04年~・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201227/p1)のように女児層にもウケるのか!? といえば、顔出しのスカートひらひらな出で立ちではないので、そのようなことには絶対にならないだろうし、かといって、男児たちも気恥ずかしさのあまりにドン引きしてしまって視聴はしなくなるだろう(笑)。


 そうなると女性の変身ヒロインは、サブヒーローや2番手・3番手としてのポジション、もしくはシリーズの後半に登場させるなどのサジ加減も必要とはなるだろう。5人戦隊のうちの2人が変身ヒロインであるというパターンであれば、女性の変身ヒロインにも男児や男性スタッフから見た過度な「女性の美化」などの隠微な性的視線(笑)は自動的に薄まってはいくのだろうが……


 バトルフィールドが基本的には限定されない広大な野外でのロケ撮影を前提とした人間大サイズの変身ヒーローたちとは異なり、狭い特撮スタジオで戦わせざるをえない巨人ヒーローであるウルトラマンの場合には、先輩ウルトラマン大集合映画のようにテレビシリーズとは別に広大なるスタジオを借りてきて別個に撮影するというような金銭がかかる手法が、ひいては複数名のウルトラマンたちの中にひとりだけ女性ウルトラマンを加入させるキャラクターシフトがオイそれとは使えないのも厳然たる現実ではある。
 よって、シリーズ各作に必ず女性ウルトラマンを登場させるという手法も一歩間違えれば、メインターゲットの男児たちにとっては逆効果となりうるものだし、そこには実にムズカしい采配が要求されることだろう。しかし、女性ウルトラマンの登場を完全にゼロとしてしまうのではなく、何かしらの方策は打つべきではあって、スーパー戦隊シリーズは鑑賞しているような女児層の一部も取り込むことは、サブ的には今後も考えていった方がよい事項だとは思うのだ。



 ところで、ウルトラマンエイティが25年ぶりのゲスト出演を果たした『ウルトラマンメビウス』(06年)第41話『思い出の先生』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070218/p1)が放映された際に、萩原佐代子は自身のブログで「自身も出演させてェ! 円谷プロさん!」(要約・笑)と記して、ネット上の巨大掲示板2ちゃんねるなどでは局所的に話題になったものだった(笑)。
 もちろん、当の客演エピソードは『80』第1クールの「学校編」を主題に据えたものだったので、ここにユリアンまで登場させてしまうとドラマ的・テーマ的にもボヤけて破綻してしまうので、それは作劇術的には論外ではあった。加えて、この第41話が放映された2007年1月には、製作スケジュールを考えれば『メビウス』は最終回(第50話)(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070505/p1)までの脚本はすべてとっくに完成しており、すでに最終回の撮影にも入っていたかもしれないくらいの時期だったから、ユリアン挿入の余地はなかったことだろう(汗)。


 とはいえ、ユリアン=星涼子役としての再演を望んでくれることは、ウルトラシリーズ全体を愛する特撮マニアとしてはこんなに嬉しいことはなかった。


 昨年2010年は『ウルトラマン80 30周年』と銘打って、円谷プロダクションも各種のイベントを仕掛けて、そこに長谷川初範萩原佐代子も出演してくれていた――実態は円谷プロ主催ではなく、イベント会社側のマニア上がりの社員が持ち込んで実現させた企画だったのかもしれないが、細かいことは気にするな・笑――



 映画『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE(ザ・ムービー)』(09年・ワーナー・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101224/p1)で、ユリアンはチラリと客演を果たしてはいた。
 しかし、『メビウス』以来の一連と2010年度の30周年イベントが稔りを結んだのだろう。映画『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国』(10年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20111204/p1)では、エイティのボイスを再演した長谷川初範とともに30年ぶりにユリアンのボイスを萩原佐代子が担当することとなったのだ!


――登場してくれただけでも嬉しいのだが、ここでワガママも云わせてもらいたい。映画『ウルトラ銀河伝説』ではウルトラマンコスモスことムサシ隊員を演じた杉浦太陽円谷プロに直談判の電話を入れたら、岡部副社長が歓迎して彼の出番を急遽つくってくれたそうである。ならば、長谷川と萩原の熊本県への遠方ロケ参加は困難だとしても、ウルトラ一族の長老・ウルトラマンキングの神通力で並行宇宙の壁を超えて同作の舞台となる惑星アヌーへと瞬間移動させてもらったことにでもして、ブルーバック撮影で現地にもチラリと合成登場して、クライマックスではダブル変身も披露! ラストバトルではウルトラマンゼロ・ミラーナイト・グレンファイヤー・ジャンボットの背後でエイティとユリアンも援護の光線射撃をしてほしかった!・笑――


 またまた話は変わるが、ユリアンのソフビ人形は、バンダイのソフビ人形『ウルトラヒーローシリーズ』でも88年12月に発売されている(ASIN:B003AMAOBU)。ただしこのソフビが男性みたいなマッチョな体型だったから、可愛らしい新造形で出し直してほしいのだ。


 余談だが、映画『ウルトラマンメビウスウルトラ兄弟』(06年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070128/p1)に登場した昭和のウルトラ6兄弟の着ぐるみも、その顔面が微量に小顔に新造型されていると思われる(?)。映画『ウルトラ銀河伝説』でもウルトラマンキングの着ぐるみはその全身とともに顔面が洗練されたかたちで新造型されていた。
 それならば、ユリアンももう少し可愛い小顔の顔面で新造型してくれないものなのだろうか? 『80』放映終了1~2年後の1982~83年は後年で云うところの「萌え」調のアニメ美少女キャラの顔面デザインが急速に確立した時期でもあった――当時の「大きなお友達」にも人気があった女児向けテレビアニメ『魔法のプリンセス ミンキーモモ』(82年)などがその嚆矢(こうし)――。その直後の84年に発売された本邦初のセル販売形式である特撮オリジナルビデオ『マイティレディ』では、早くも小っちゃなお鼻と小っちゃなオチョボ口に大きなお目々といった美少女アニメ調の小顔にデフォルメされた顔面マスクをしたレオタード地の変身巨大ヒロインが颯爽と登場して、年長マニアたちのスケベな視線を集めてもいた――ググってみると今でもシリーズ(ASIN:B00FOAMRKW)が細々と継続しているようだが・爆――。
 あんな感じの萌えキャラ的な小顔で、ユリアンの新しい着ぐるみもつくり直してほしいものである!(笑)



<こだわりコーナー>


*セラ隊員が所属する「広報班」という部署は、ウルトラシリーズの防衛組織ではUGMが初だと思っていた。しかし、『ウルトラセブン』第45話『円盤が来た』ですでに登場していたことについ最近気がついた(笑)。アマチュア天文家たちから多数寄せられた円盤群の目撃情報を、誤報だと思って業(ごう)を煮やした地球防衛軍の精鋭部隊・ウルトラ警備隊が、その手の通報対応を任せることにした部署が「広報班」だったのである。
 セラ隊員が初登場したのは、第13話『必殺! フォーメーション・ヤマト』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100725/p1)からの「UGM編」に突入して間もない第15話『悪魔博士の実験室』でのことであり、こんなところにも『80』第13話~第30話までの通称「UGM編」が『セブン』の影響を如実に受けていたことがうかがえる…… と云いたいところだが、こんな1話ぽっきりの部署などは濃ゆいマニアでも覚えていないくらいだろうから、単なる偶然の一致だろう(笑)。


*「ユリアン編」に突入して以降は、矢的と涼子がシルバーガル、フジモリ隊員がスカイハイヤー、イケダ隊員が本来はイトウチーフの専用機であったエースフライヤーに搭乗するというパターンがほぼ定着している。矢的と涼子をいっしょに搭乗させているのは、『ウルトラマンレオ』での「ウルトラマンレオことおおとりゲン隊員」&「変身できなくなったウルトラセブンことモロボシダン隊長」という、ふたりの宇宙人(=ウルトラマン)パターンを久々に採用したことで、コクピット内という密室でのふたりのウルトラマン同士の会話をさせやすくする目論見もあったのではなかろうか? とはいえ、戦闘機内でのそのような会話も皆無に近いかたちで終わったが(汗)。


 ちなみに、イケダ隊員を演じた岡元八郎(おかもと・はちろう)――『80』当時は岡本達哉(おかもと・たつや)名義――は、UGM戦闘機の全種類に搭乗したことがある唯一の隊員であることが小さな自慢であるのだとか(笑)。
 薄汚れている筆者などはこの手の話を聞かされると、氏がCS放送・ファミリー劇場で放映された『ウルトラ情報局』にゲスト出演した際に同作の演出兼・放送作家を務めていた円谷プロ側の秋廣泰生氏あたりが入れ知恵してきたことを、ファンサービスで語っているのだろうとついつい考えてしまうのだが、しかしてそのような言動は必ずしも責められるべきことではないだろう。キマジメな人間が多い特撮マニア諸氏もこれくらいのリップサービスならば、むしろ積極的にしてみせるくらいの方がよいとも思うからだ(笑)。



「『80』は役者の歴史の中で、最高に好きな仕事でした! 昔から二枚目半~三枚目の観客が笑ってくれるものをやりたいと思って演じていましたが、イトウチーフやセラ隊員とギャグを演じる場面はほぼアドリブでした。イケダ隊員は僕の地(じ)そのままです。それをもっと思いっきりやりきればよかったなぁ……。それが唯一の後悔ですね」

(『フィギュア王』プレミアムシリーズ6『ウルトラソフビ超図鑑』(ワールドフォトプレス・10年7月15日発行・ISBN:4846528278)俳優/岡元八郎インタビュー)



 岡元氏は1955(昭和30)年3月16日生まれの第1期ウルトラシリーズ直撃世代であり、当然のことながら小学生時代に遭遇した初代『ウルトラマン』(66年)が好きだったそうである。『80』以外でも特撮ジャンル作品では、『がんばれ!! ロボコン』(74~77年・東映 NET)の劇場版『ロボコンの大冒険』(76年・東映)にキャプテンワルダーの役で出演しているほか、『大鉄人17(ワンセブン)』(77年・東映 毎日放送)、近年でも『超光戦士シャンゼリオン』(96年・東映 テレビ東京)や『超星艦隊セイザーX(エックス)』(05年・東宝 テレビ東京http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060712/p1)などの特撮ヒーロー作品にもゲスト出演している。
 司会業も営んでいるそうだが、初めての司会の仕事はイトウチーフを演じた大門正明(だいもん・まさあき)氏の妹さんの結婚式だったそうである。特撮マニア的には『ウルトラマンA』第28話『さようなら夕子よ、月の妹よ』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061111/p1)のロケ地でもある神奈川県箱根市の強羅(ごうら)地区で行われたお祭りで司会を務めた際に、ウルトラマンレオ&レオに変身するおおとりゲンを演じた真夏竜(まなつ・りゅう)に出演してもらったことを契機に、真夏氏が主宰している劇団「真夏座」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090426/p1)とも親交を深めているとのことだそうだ。ちなみに、『ウルトラマンメビウス』で防衛組織・GUYS(ガイズ)のイカルガ・ジョージ隊員を演じた渡辺大輔(わたなべ・だいすけ)も、岡元氏と同じ事務所の所属であった。


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2012年号』(2011年12月29日発行)所収『ウルトラマン80』後半再評価・各話評より分載抜粋)


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