(ファミリー劇場『ザ★ウルトラマン』放映「全話評」連動連載!)
ザ・ウルトラマン#34「盗まれた怪獣収容星(前編)」
ザ・ウルトラマン#35「盗まれた怪獣収容星(後編)」
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#36『宇宙から来た雪女』
氷結怪獣ダランチュラス登場
(作・宮田雪 演出・関田修 絵コンテ・山口務 怪獣原案・鯨井実)
(視聴率:関東10.1% 中部14.8% 関西15.6%)
(文・内山和正)
(1997年執筆)
日本の南アルプスを中心に氷河期の再来のような異常寒波が襲い、件(くだん)の南アルプスでは氷点下40度にも達していた。
救助物資を運ぶ途中で吹雪に三日間閉じ込められたトレーラートラックの中で人間が氷結しているのを、孤立した山村から様子を窺(うかが)いに来た村人ふたりが発見し、近くに立たずむ髪の長い透き通るような白い顔の雪女のごとき和装の女性が目撃された。
調査中の主人公ヒカリ隊員も不忍峠(しのばずとうげ)で、狼を連れたその女を眼にする。
その後、地球防衛軍・極東ゾーンの気象調査隊員が不忍峠付近で異常怪音波を受信したと我らが科学警備隊に連絡してきた。
ヒカリ隊員らが急いで駆けつけると、気象調査隊員たちはスノービハイクルの中で凍死していた。
狼が鳴く。ムツミ隊員は近くに雪女がいると判断する。
ヒカリは「呼んでる。僕を呼んでる」と叫んで、雪の中へスノーモービルを駆る。
(以上、ストーリー)
このあと、雪山の谷底から羽を生やした紺色の蜘蛛(クモ)の怪獣が上がってきて、口から吹雪を起こし両目から冷凍光線を吐いてヒカリを狙うのがスリルを与える。
怪獣や雪女のデザインがアニメ的でありながら、意外にも(?)実写特撮作品でも通じそうなストーリー展開がなされている(雪女の正体が語られるまでは)。
雪女の正体が宇宙人であることはサブタイトルで示されているため、視聴者にとっては“悪”かどうかの興味しか残されていないわけだ。
怪獣に狙われている宇宙人との設定はおなじみのものだが、雪山に立っていた理由が地球人に呼びかけていたのであり、既に死にも瀕しているというパターンの組み合わせにより、多少の驚きも与える。
雪女はテレパシーのみで会話する。彼女はノアという名前で、4万8千光年彼方の白鳥座82番星人。雪女の妖怪的イメージとは程遠い、科学者である父とともに惑星の温暖化を阻止する冷凍エネルギー・フリーザーGの実験装置に、生物が闖入していたことが原因で氷結怪獣が誕生してしまったことを明かす。
ウルトラマンのプラニウム光線と合成することで蜘蛛怪獣を倒すことができる、溶解光線スーパーマグマエネルギーを封じた十字架型のカプセルを、父は死の間際に娘ノアに託して、ノアはウルトラマンを探していたのだった。
命が危ないのは「地球にいたら」ということであり(?)、無事に帰って行くのには拍子抜けしたが(それともやはり生命は残り少ないままなのだろうか?)、本話の音響面でのイメージを一方で象徴させているどこか物悲しい狼の遠吠えが響く中、ハッピーエンドでまずはめでたしめでたし……と思いたい。
◎冒頭の孤立した山村は、漫画『ドラえもん』(69年)初期の某話にも登場している、豪雪に対応した三〜四階建ての外壁全てが急峻な三角形の藁葺き屋根で覆われている通称・合掌造り(がっしょうづくり)の建物が散在する、1995年にはユネスコ世界遺産(文化遺産)にも登録された岐阜県の「白川郷(しわかわごう)」がモデル。
◎山村からトラックを探しに出た村人が、足袋に古式ゆかしい丸い輪状のかんじき (樏・橇)を履いて風雪激しい野を歩くことで、ひとつだけ実が残る柿の木とお地蔵さん越しに見下ろせる先の「白川郷」ともども、映像演出面での風情を出している。
今回の氷結事件で先に派遣されていたヒカリ隊員とムツミ隊員はスキーで行動。
次に派遣された隊員たちは、スノーモービル(雪上スキー&キャタピラのバイク)を駆って移動する。
◎村人が遭難トラックを発見するシーン。急に風雪が止んで、なぜか空や雪原を赤い色調で照らすことで、異常事態を際立たす異化作用の演出を施している。
◎麓で保護された先の村人ふたりの発言(妖怪である雪女だの日本では絶滅したはずの狼だの)は、当然地元の警察には信用してもらえない。
(レギュラーの小猿・モンキをはじめ本作ではチョイ役専門で、のちの大家の千葉繁が演じる地元の警察署員が、村人を適当にあしらう声の演技がいい味を出している)
◎過去のウルトラシリーズで雪男や雪女などの伝承テーマをモチーフにした作品は、初代『ウルトラマン』(66年)の伝説怪獣ウーが登場する30話「まぼろしの雪山」、『帰ってきたウルトラマン』(71年)の雪男星人バルダック星人が登場する39話「20世紀の雪男」、雪女怪獣スノーゴンが登場する40話「まぼろしの雪女」、『ウルトラマンA(エース)』(72年)42話「冬の怪奇シリーズ 神秘!怪獣ウーの復活」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070219/p1)、43話「冬の怪奇シリーズ 怪談 雪男の叫び!」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070224/p1)がある。
いずれも伝承や伝奇に作風が特化した印象があるが、本話も伝説テーマのみで行くのかと思いきや、極東ゾーンの桜田長官も登場、宇宙ステーション・EGG3(エッグスリー)からの気象写真を基に、現地に緊急対策本部設置と第二次気象調査隊の編成とその指揮をゴンドウキャップに下す、科学的・ミリタリー的な描写もそれなりに魅力的だ。
同じく雪積もる極東ゾーン基地内のシーンで、科学警備隊のコミカルメーカー・ピグが等身大ロボットなのに、寒さは苦手だと首に巻いたマフラー(笑)をひるがえす仕草によるかわいいギャグ演出も忘れない。
豪腕のゴンドウも、コートを着込んだ隊員たちと現地の対策本部で、雪女などのお化けの類いの話は実は苦手だという笑える意外な一面も見せる。
◎脚本の宮田雪(みやた・きよし)は、本作ではこの1話のみの参加だが、あまたのTVアニメやアクション刑事もので活躍した御仁。『ゲゲゲの鬼太郎(きたろう)』の水木しげるが作画を担当した『ゆきをんな』という漫画の原作も担当しているようだが未読。
◎特別なイベント編ではないし雪女という題材からも、子供にも平均的なマニアにもシリーズ中で最も地味な類いの話に写るだろうが、スレたマニアから見ると、あまり語られていないであろうエピソードだからこそ味わいと語りがいがある話だともいえる。
※:製作No.31『ゆきおんなの秘密(仮)』
編集者付記:
ノアの声は、12話「怪獣とピグだけの不思議な会話」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090719/p1)、13話「よみがえった湖の悲しい伝説」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090724/p1)に登場し、18話「謎のモンスター島」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090912/p1)ではゲスト主役を張った地球防衛軍・極東ゾーンの喫茶室で働く野島ユリ子も演じた岡本茉莉(おかもと・まり)。
一般的にはタツノコプロのTVアニメ『タイムボカンシリーズ ヤッターマン』(77年)のヤッターマン2号ことアイちゃん、TVアニメ『花の子ルンルン』(79年)のルンルンで有名。
長寿邦画『男はつらいよ』(69〜95年)シリーズでも初期の数作に旅芸人一座の顔出し同一人物役で出演している。特徴的な華のあるアニメ声なのですぐわかる(笑)。
岡本茉莉は、CS放送ファミリー劇場『ウルトラ情報局』2010年1月号(09年12月第3火曜〜10年第2金曜放送)にも出演。野島ユリ子と本話のノアのエピソードを中心に逸話を語られた。ストーリーの狙いを深読みも含めて役作りしていくボキャブラリー(語彙)が豊富であることに感心。
本作への出演は、主にタツノコプロ作品を担当する録音スタジオおよび録音監督が招聘してくださったとのこと。
他のゲストやイレギュラー出演者たちも、思えばその当時のタツノコプロ作品に出演していた御仁が多いし、世代人のマニアならば本作にはタツノコプロ作品にも使われていたブリッジ曲(短い効果音的なBGM)が多用されていることに気付いているだろう(笑)。