「ウルトラマンエース」総論
「ウルトラマンA 再評価・全話評!」 〜全記事見出し一覧
(脚本・石堂淑朗 監督・上野英隆 特殊技術・高野宏一)
(文・久保達也)
前回にひき続いてスキーを楽しんでいた北斗・ダン・香代子は付近の山に20年以上も住みつき、その風貌から「仙人」と地元民に呼ばれ、馬鹿にされている男の存在を知る。
人々に恨みを募らせていた男は、吹雪超獣フブギララにそれを利用されてしまう。獅子座第三星で生まれたフブギララは寒冷地にしか生息できないため、男の恨みと肉体を借り、自分の半径2キロメートル以内に猛吹雪を巻き起こしながら進撃し、村人たちやスキー客を氷漬けにしてしまう……
第38話『復活! ウルトラの父』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070121/p1)、第41話『怪談! 獅子太鼓』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070209/p1)、そして今回と石堂淑朗が書いた作品は三話連続して怨念をエネルギーとして暴れ回る超獣が登場している。当時の氏はよほど個人的に面白くないことが多かったのか? などと邪推するのは簡単であるが、決してそんな単純なものでもないだろう。
第4話『3億年超獣出現!』(脚本・市川森一 http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060528/p1)において、人間の欲望・妄想・執念が超獣にエネルギーを与えることが既に語られており、第23話『逆転! ゾフィ只今参上』(脚本&監督・真船禎 http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061012/p1)においてはヤプールが潜む異次元世界は人間の心の裏側に存在することが暗示されていたのだから、そうした基本設定に準じただけである。
ましてや第23話においてヤプールは断末魔に「ヤプール死すとも超獣死なず! 怨念となって必ずや復讐せん!」との名セリフを残していたのだ。世界各地に、いや宇宙全体に散った(続く第24話『見よ! 真夜中の大変身』(脚本・平野一夫&真船禎 http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061015/p1)のナレーションでもそう明言)ヤプールの破片から生まれた超獣たちが、その無念の情を継承し、ヤプール同様に怨念を燃やす人間たちに取り憑き、ともに復讐を果たそうとするのは至極当然の成り行きなのである。
第25話『ピラミットは超獣の巣だ!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061021/p1)の1万3千年前から暗躍するオリオン星人操る古代超獣スフィンクスなどについてはこれだけでは説明ができないが、太古の昔から宇宙の各所でヤプールが侵略活動を開始していた、もしくは侵略宇宙人にその魂と引き換えに超獣を譲渡していたと考えれば無問題だし、本話の超獣にも説明がつき、最終回で判明するヤプールによるサイモン星侵略の件も説明がつく。
ナゼTACがサイモン星侵略のことを知っていたのかという疑問も生じるが、劇中では描かれていないどっかの善意の宇宙人か遭難した本物のサイモン星人から聞いたのだろうとか好意的に脳内補完しろ!(笑)
フブギララの猛攻にTACは一旦ホテルのロビーに退却するが、先に待避していたスキー客や村人たちから「TACが来たから超獣が出たんだ!」だの「おまえたちは我々を守るのが任務だろ! なぜ逃げてきたんだ!」などと非難され、追い出されてしまうシーンがいかにも現実にもありそうなシビアさと大衆の身勝手さでなかなかにリアルだ。
『機動戦士ガンダム』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19990801/p1)の富野喜幸監督による元祖リアルロボアニメである合体ロボアニメ『無敵超人ザンボット3(スリー)』(77年)などでの同種の描写をさかのぼること約5年前のことである。そんな彼らを守るためにTACはフブギララをホテルから遠ざけようとおとりになるが、隙をついてフブギララはホテルを襲撃し、人々は皆氷漬けになってしまう。
「仙人」を馬鹿にしたり、自分だけが助かりたいと願う者たちがこんな目に遭ってしまう場面は実に小気味良い。どうせ「人類批判」をやるのなら「戦争反対!」だの「環境破壊」だのといった責任の所在が曖昧なものをテーマにするより、こうした形でハッキリと視聴者に呈示しなければメッセージも伝わらないのではなかろうか。
だがそんな愚かな人類を守るためにTACは戦う! 通常兵器ではかなわぬと見た竜隊長はタックファルコンから今野・美川とともに脱出、ファルコンをフブギララに激突させるという特攻を敢行! そして吉村・北斗が乗るタックスペースもまたフブギララに特攻! 意外にも悲愴な総力戦の様相を呈する。脱出した北斗はエースに変身!
第36話『この超獣10,000ホーン?』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070109/p1)でも使用されたコール・ゼールが歌うアップテンポのカバーバージョンが流れる中、スピード感溢れる肉弾戦が展開。フブギララの頭部や胸から発する光線に苦しみ、口からの凍結ガスでエースは氷漬けになるが、一瞬の静寂のあと復活を遂げ、バーチカルギロチンでフブギララを真っ二つに切り裂くさまは爽快感溢れる演出である。
フブギララの体内から救い出された「仙人」は村人たちに散髪をしてもらう。「仙人」を演じた故・大泉滉(おおいずみ・あきら)はチョビヒゲが印象的な俳優だったが、その自慢のヒゲもこの際サッパリと剃られてしまう。怨念も無事に溶け、「仙人」だった男は山岳救助隊の一員に加わることになったと語られ、まさにヒゲ剃りのあとのように爽やかな幕引きとなった。
*大泉滉のウルトラシリーズゲスト出演履歴は『A』第30話『きみにも見えるウルトラの星』評(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061125/p1)を参照のこと。
<こだわりコーナー>
*フブギララに襲われたハンターを介抱する際、ダンは「しっかりしろ!」とナゼかタメ口をきいている(笑)。
*ダン少年と香代子は本話が『A』での最終出演となった。誰でも想像がつくことだろうが、ダン少年のウルトラ6番目の弟という設定が、約2ヶ月後に開始を控えた次作『ウルトラマンタロウ』(73年)の設定とダブるがゆえのフェードアウトだろう。ダン少年に特にドラマ的決着を与えていないあたりがこの時代の特撮作品一般のアバウトさでもあるが……
*円谷プロの『怪奇大作戦』(68年)第23話『呪いの壷』や『帰ってきたウルトラマン』(71年)第34話『許されざるいのち』の青年科学者・水野や『ウルトラマンA』第16話『怪談・牛神男(うしがみおとこ)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060903/p1)のヒッピー青年・高井や本話の仙人や第47話『山椒魚(さんしょううお)の呪い!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070324/p1)など、不器用青年や世間から外れたキャラの人間を多く描いてきた石堂淑朗だが、本話や第47話を最後に以後のウルトラシリーズでの脚本回では、日常生活に着地しているお父さんとその子供がゲストである話を描く機会が増えていく。
石堂先生の青年期の終わり、家庭人としてのアイデンティティの発揚をここに見るのは深読みか?
*視聴率16.7%
(編:『ウルトラマンメビウス』(06年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070506/p1)第36話『ミライの妹』にて、遠まわしにウルトラマンエースとウルトラ6番目の弟・ダン少年との特別な関係に言及がなされ、このことがウルトラ一族の間に感銘を与え、「兄弟」という言葉に特別な意味が付与されるようになった……といういささか屈折・変型したかたちではあったものの、また当該エピソードでのサブ的位置付けではあったものの、エースとダン少年の交流に一応の決着が与えられる日が来ることになろうとは……。
『メビウス』でのあの話は、エースとダン少年の交流ではじめてウルトラ一族が「兄弟」という概念を知ったかのようにも受け取れるが、すでにウルトラ兄弟を結成しているウルトラ一族にそんなことがあろうはずもなく(笑)、これは異星人・異文化の民同士で「兄弟」関係を結んだことへの感嘆であるのだろうと好意的に脳内補完をすることにしておく・笑)