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フジテレビ『電車男』戦略に見る『ウルトラ』シリーズの可能性
(文・小泉明彦)(05年7月執筆)
昨年(04年)の『世界の中心で、愛を叫ぶ』(04年)に続いて、今年(05年)は「電車男」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070617/p1)が恋愛資本主義((C)『電波男』(本田透・三才ブックス・ISBN:4861990025))の新たなトレンド。
韓流ブームの次は華流ブームを仕掛けようとする業界の動きといい、主婦やOL、女子中高生の乙女心を単なる「札束」としか見ていない、広告業界&テレビ会社の商魂逞しさには脱帽です(セカチューやヨン様同様、来年の今頃にはすっかり忘れ去られている気が……)。
04年度末にはネットのやりとりをまとめた(&都合の悪い箇所は素知らぬ顔で削除した)新書が刊行され、たちまちベストセラーのトップに躍り出る大ヒット(……もっとも、新聞や雑誌の書評はいずれも芳しいものではありませんでしたが……(笑))。
年明けには劇場版の公開日が決められ、突貫工事で一気に制作。GW(ゴールデンウィーク)の劇場版公開に合わせた3社5誌による競作コミック化、そしてTVドラマの放映開始と、「鉄は熱いうちに打て」と言わんばかりのスピーディーな展開には広告業界が主導するメディア戦略ならではの「うさん臭さ」が感じられますが、こういった山師(やまし)的なフットワークの軽さこそ、本来のターゲットである子供たちを無視した『ウルトラマンネクサス』(04年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060308/p1)の不振で「原点回帰」せざるを得なかった円谷プロに見習ってほしい気がします。
『ネクサス』は『新世紀エヴァンゲリオン』(95年)の碇シンジを彷彿とさせる主人公の設定が特撮ファンに物議をかもしましたが、『鉄甲機ミカヅキ』(00年)や『鉄人28号』(05年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060307/p1)の失敗からみてもわかる通り、どんなに表面だけ繕っても『エヴァ』の「パチモノ」である限り、あれだけの大ヒットを生み出すことは絶対に難しいと思います
(『エヴァ』の影響が指摘されることの多い『踊る大捜査線』(96年)や『仮面ライダーアギト』(01年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20011108/p1)にしてみても、実際はあくまでディテールorパロディ面にとどまっており、基本コンセプトは全くの別物である前者や、実写版『エヴァ』を意識して新たなライダーワールドの地平を切り開こうとした意欲作である後者など、文芸陣&スタッフが考えに考え抜いて企画・制作したからこそ、あれだけ新鮮な驚きを多くの人々に与え、社会現象になるまでの大成功を収めたのではないでしょうか)。
やはり、不特定多数の人々を引き付けるにはそれまでの作品にはない新鮮な「何か」が必要ですし、70年代のカンフー・マフィア・実録路線・オカルト・動物パニック・SF映画の大ブームにしてみても、亜流作品があれだけ大量に劇場公開されても結局生き残ったのはブルース・リー、『ゴッドファーザー』(72年)&『ゴッドファーザーPARTⅡ』(74年)、『仁義なき戦い』五部作(73〜74年)&『仁義の墓場』(75年)、『エクソシスト』(74年)、『ジョーズ』(75年)、『スター・ウォーズ』(77年・日本公開78年))の「本家」だけだったことから見ても、ヒット作にあやかろうとした露骨な便乗企画ではかえって客足を遠ざけることになりかねません。
『ウルトラマンマックス』(05年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060311/p1)は久々のM78星雲出身のウルトラマンの登場、金子修介・三池崇史・実相寺昭雄・庵野秀明各監督ら大物演出陣の起用、黒部進さん&桜井浩子さんの大物OBレギュラー出演、ネットによる人気怪獣対戦要望リクエスト、『仮面ライダースーパー1(ワン)』(80年)第45話「君の考えた最優秀怪人ショオカキング」を彷彿とさせる怪獣イラスト募集など、各世代のファンを様々な面から獲得し、取り込もうとする意欲的な制作体制&宣伝活動が行われていますが、ここからさらに一歩踏み込んで児童や小学生をターゲットに、第1〜4期(平成)ウルトラシリーズの作品世界を生かした宣伝展開を行えば、番組の話題性がさらに高まるのではないでしょうか。
ドラマ版『電車男』(05年)放映時にはドラマ版の第1話で劇場版とドラマ版の主人公がさりげなく共演している上に、ドラマ版第1話の冒頭が劇場版のラストとリンクしていることがテレビ雑誌で明かされ、かなり話題となりましたが、この方式をかつてのウルトラ兄弟の大設定に応用すれば、円谷プロが生み出した40年に渡る「過去の遺産」をもっと生かせるように思えます。
『踊る大捜査線』や『警部・古畑任三郎』(93〜03年)など、フジテレビの人気刑事ドラマ作品はTVシリーズ・TVスペシャル・劇場版のストーリーorキャラクターを巧みにリンクさせてファンの興味を持続させ、作品世界をつなげる裏設定や仕掛けを番組サイトやテレビ雑誌で明かすことによって、かつての『ツイン・ピークス』(90〜91年)や『X−ファイル』(93〜01年)をしのぐマニアックなファンを開拓することに成功。映像ソフトや関連書籍などのマーチャンダイジングはいずれも高い売上げを誇っています(『スウィング・ガールズ』(04年)DVDでも、本編では描かれなかった吹奏楽部員たちのお茶目なサイドストーリーが映像特典として収録されていたとか)。
こういった戦略は『スター・ウォーズ』と『スタートレック』(TV版66年・映画版79年)の二大SF大作の大成功によってすでに海外でも行われており、長い歴史を誇るアメコミ業界でもDCコミックやマーベルコミックのキャラクターが作中世界を共有し、作品や出版社の垣根を越えて共闘するイベント要素の強い作品を発表することで世代間のブランクをとりはらい、劇場用映画やTVアニメとの相乗効果によって新たな世代のファン層を獲得することに成功していますし、40年の長きに渡って活躍してきたウルトラ戦士たちのキャラクターや設定を生かしたメディア戦略が展開されないのは、あまりにももったいない気がします。
現在の児童誌は新作ウルトラの情報しか掲載されていないようですが、『マックス』は過去の人気怪獣たちの再登場を売りにしていますし、人気怪獣が再登場する『マックス』の世界観を生かして、雑誌に新旧怪獣のデータを比較掲載して、ウルトラ戦士たちが自分たちの過去の経験をもとにマックスにアドバイスするオリジナル記事を載せれば、子供たちはマックスを影から支える歴代ウルトラ戦士の頼もしさを再認識するのではないでしょうか。
同様に、歴代ウルトラ戦士たちの怪獣たちとの名勝負を誌上再録したり、名作エピソードのダイジェストをコミカライズで発表すれば、過去のウルトラシリーズに興味を持った子供たちがレンタルショップで旧作に接することによって新たなブームが起こる可能性もあります。
巷が第3次怪獣ブームに湧いていた70年代末期〜80年代前半。ビデオデッキはまだまだ庶民には高値の花でした。ビデオショップのレンタル料も1〜2千円台が当たり前の時代。小学生の自分たちは東宝特撮映画やウルトラシリーズのビデオをレンタルできるはずもなく、今はなきケイブンシャの『ウルトラマン大百科』(78年・ISBN:476691564X)『続・ウルトラマン大百科』(79年・ISBN:4766915658)『ウルトラ怪獣対決大百科』三部作や『怪獣もの知り大百科』を仲間たちとまわし読みしては、まだ見ぬ「幻の名作」へのイメージをふくらませ、学校の休み時間や昼休みには本に書かれていた「名勝負」を仲間内で再現(笑)していたものでした。
第1〜3期ウルトラシリーズでは、歴代のウルトラ戦士たちが最強怪獣・宇宙人を相手に後の週刊少年ジャンプマンガを彷彿とさせる熱いバトルを展開していました。
『ウルトラマン』(66年)のベムラー・ネロンガ・バルタン星人・レッドキング・ゴモラ・メフィラス星人・ゼットン。
『ウルトラセブン』(67年)のエレキング・キングジョー・ガンダー・ギエロン星獣・クレージーゴン・ガッツ星人・パンドン。
『帰ってきたウルトラマン』(71年)のアーストロン・タッコング・ツインテール&グドン・ベムスター・ムルチ・ナックル星人&ブラッキング。
『ウルトラマンA(エース)』(72年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070430/p1)のベロクロン・バキシム・ブロッケン・エースキラー&バラバ・ヒッポリト星人・ジャンボキング。
『ウルトラマンタロウ』(73年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)のアストロモンス・コスモリキッド&ライブキング・キングトータス&クイントータス・バードン・ムルロア・テンペラー星人・タイラント。
『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)のレッドギラス&ブラックギラス・ツルク星人・ガロン&リットル・プレッシャー星人・アクマニア星人・マグマ星人・ババルウ星人・ブラックエンド。
『ザ☆ウルトラマン』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971117/p1)のシーグラ・タフギラン&タフギラス・オプト・ゲラド・ジャニュールⅢ世・グモンス・ヘラ=ウマーヤ。
『ウルトラマン80(エイティ)』(80年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971121/p1)のクレッセント・メカギラス・サラマンドラ・ギマイラ&ダロン・ガモス・ゴモラⅡ・ザキラ・プラズマ&マイナズマ……
(余談ながら、過去の怪獣たちを合成させたジャンボキングとタイラントのデザインは賛否了論ありまして、ジャンボキングはベロクロン・バキシム・ブロッケン・バラバ。タイラントはゴモラ・ゼットン・エレキング・ギエロン星獣・ベムスター・ブラックキング・ベロクロン・バラバを組み合わせてほしかったという意見が圧倒的多数でした(笑))。
フジテレビは新作ドラマをオンエアする際には、必ず主演タレントをバラエティー番組に立て続けに出演させて番組をアピールするだけではなく、タレントの過去の主演ドラマを昼の時間帯に再放送することによって、出演者の認知度をお茶の間に浸透させる効果的な宣伝活動を行っていますが、この方式をウルトラワールドに生かさない手はありません。
すでに『アギト』放映と連動させた『仮面ライダーSPIRITS』(ISBN:4063490548)連載&歴代ライダー紹介記事という成功例がありますし、DVDの売上げが落ちるために過去のウルトラシリーズの再放送ができないのであれば、児童誌やコミック誌の誌面を積極的に用いて児童や小中学生にウルトラワールドの魅力を伝えるべきではないでしょうか。
現時点(05年)では封印されているウルトラ兄弟やウルトラの国の設定も、今の子供たちは『ハリー・ポッター』(01年)や『ロード・オブ・ザ・リング』(01年)の異世界ファンタジーに親しんでいる世代ですから、かえって新鮮味を感じるように思えます。
タロウの愛犬ラビドッグも昨今の愛玩犬ブームを先取りした感がありますし、ソフト化の時代である昨今の風潮や、放映中止騒動で判明した女性視聴者の『ウルトラマンコスモス』(01年)の人気の高さから見ても、超獣と戦う一方で弱いものいじめをする子供たちを諭すエースや、おとなしい怪獣を生き返らせて宇宙に運ぶタロウ、学校の先生になって日常世界で子供たちを見守る80の優しさは、女児童にもかなり受け入れられると思うのですが……。
また、今回のマックスのデザインは第1次ウルトラファンを取り込むためかセブンを彷彿させるデザインですが、それを逆手にとってセブンをマックスのM78星雲での修行時代の師匠という裏設定を作っても面白いのではないでしょうか。
児童誌のコミカライズやオリジナル記事で、セブンが課す様々な試練をマックスがクリアしてウルトラ戦士の仲間入りを果たすまでを、兄弟子であるレオとの友情をまじえて描けば、第1〜2期ウルトラワールドとの作品世界のリンクも可能ですし、児童には事前に情報がインプットされているので、マックスのピンチにウルトラ兄弟が駆けつけるイベント編を放映しても全く違和感を感じない筈。
それに今の子供たちは平成ライダーシリーズやジャンプマンガなどで複数のヒーローが共演する展開には慣れている反面、等身大ヒーロー作品しか知らない世代だけに、巨大ヒーローの代表である歴代ウルトラ戦士が一堂に会する姿はかなり新鮮に感じるのではないでしょうか?
また、クラスメートのお兄さんから譲ってもらった『小学二年生』80年7月号付録『ウルトラマン80 ひみつじてん』の坂丘のぼる先生の名作『ウルトラマン80 サクシウム光線物語』では、宇宙警備隊養成センター時代の80の姿が描かれていますし、本作をはじめ、過去のウルトラ関連の記事やコミカライズを児童誌に再録すれば子供たちには歴代ウルトラ戦士たちのキャラクターがぐっと身近になるのでは。
M78星雲のウルトラ戦士たちがジョーニアス・ティガ・ダイナ・ガイア・コスモス・ネクサスと協力して大活躍するコミカライズを発表すれば、現時点では「ミッシング・リンク」となっている第3・4期ウルトラワールドを、第1・2期ウルトラワールドや『マックス』の作品世界とつなげることも可能だと思います。
当時の金型を修復・調整して、かつての怪獣ケシゴムを復刻するというのもアリでしょう。いつの時代も子供たちはキャラクター・グッズを集めるのが大好きです。
ましてやウルトラシリーズはバリエーションに富んだ怪獣・宇宙人・ロボット・サイボーグ・妖怪・精霊・悪霊たちがひしめきあう怪獣無法地帯!! ソフト人形やアクション・フィギュアは高価すぎて手が出せない子供たちでも100円ぐらいなら余裕がありますし、100円硬貨を入れてレバーをひねるだけで怪獣ケシゴムが3〜4体入った透明カプセルを手に入れられる感激は何物にも替え難いのでは?
これに折り込み両面カラーの怪獣ケシゴムカタログが封入されていたら、正に泥沼(笑)。全シリーズの完全ゲットを目指して、お小遣いをもらおうとお母さんのお手伝いを積極的に行う子供たちが全国に出没するのでは?
……いや、これは冗談ではなくて、いつの時代も子供たちは正義のヒーローが活躍する作品が大好きだと思いますし、ユニークな怪獣や怪人への興味もそんなに変わらないと思います。自分自身、かつてウルトラ怪獣や『キン肉マン』の超人ケシゴムを集めた世代ですし、現在の『ポケモン』『ムシキング』人気もこれらのバリエーションにすぎないと思うのですが、去るGWにいつの時代も変わらぬ子供たちの「クリーチャー好き」を再認識する出来事に遭遇しました。
地元の映画館で公開された『香港国際警察 NEW POLICE STORY』(04年)を観に行ったときのこと。いつものように新作映画チラシコーナーをチェックしたところ、スタンドに立ててあるB5サイズのチラシは十分すぎるほど揃っていたものの、販促物コーナーには無料配布用の『妖怪大戦争』(05年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060312/p1)ミニブックが1冊しか置かれていなかったため、劇場の人に尋ねてみると、なんでも前日の日曜日に『名探偵コナン 水平線上の陰謀』(05年)や『ふたりはプリキュア Max Heart(マックスハート)』(05年)を観に来た子供たちの行列ができて100冊近くあったミニブックはたちまちなくなってしまい、残ったのはこの1冊だけとのこと。
昨年度に公開された、『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』(03年)や『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(04年)のミニブックは、満員の客席とは裏腹に劇場公開終了間際になってもあんなに残っていたのに、一体どうして……と思いかけたところでピンと来て、ミニブックをパラパラめくってみると、案の定、映画に登場する妖怪たちのカラー写真が解説つきでズラリ。
ミニブックの裏面は『妖怪大戦争 妖怪大図鑑』となっており、映画館の人がこちらを上面にして置いていたために子供たちの興味をひいたものと思われますが、ミニブックを手に入れようと行列を作った子供たちの胸中を察すると微笑ましいものがありました。
ここ数年は少子化による視聴率の減少が囁かれ、大人の視聴者をターゲットにしたドラマ性重視のマニアックな作風と、ファミリー・ピクチャーとしてのエンターテイメント性の両立を試行錯誤している昨今の特撮ヒーロー番組ですが、突破口はこの辺りにもあるような気がします。
考えてみれば、自分が『(新)仮面ライダー』(79年)や『80』に夢中になったときも、『テレビマガジン』『テレビランド』『てれびくん』を教室にこっそり持ち込んだ友人たちと付録の怪獣ピンナップやミニブックを奪いあったものですし(笑)、確か『てれびくん』の付録だったと記憶している『ザ☆ウルトラマン』の登場怪獣たちを劇画タッチで表現した絵柄の特製下敷きを使っていた級友は、アイテムのレアさもあってクラスでかなり英雄視されていたように記憶しています。
基本的に映像・コミック世代である戦後の子供たちの嗜好はかつての自分たちとそんなに変わっていないと思いますし、前述した怪獣ケシゴム作戦以外にも、児童誌の誌面やファンクラブを通じて、ウルトラ戦士や怪獣・宇宙人を主体にしたトレーディング・カードやピンバッジを安価で通信販売するキャンペーンを展開したら予想外の反応があるのではないでしょうか。
現在の特撮シーンは、大人のユーザーを対象にした宣伝やマーチャンダイズは完成の域に達しています。25年前の「あの夏」とは対照的に「大人(マニア)だけのもの」になりつつある特撮シーンですが、今度はこれまでの経験をもとに「過去の遺産」を生かし、次世代の子供たちをターゲットにしたメディア展開を行えば、新たな可能性が開けてくるような気がします。
(編):今年の『ウルトラマンメビウス』(06年)でこそ、幼児&児童誌にて昭和ウルトラ怪獣再登場と連動した誌面構成を行ない、TVの30分間のみではなく、子供たちの新旧ウルトラへの興味をタテ方向にもヨコ方向にも拡げて、関心を長期にわたって持続させるようにしていってほしいものです。