(ファミリー劇場『ウルトラマンエイティ』放映記念(2010年10月から毎週土曜より放映!)「全話評」連動連載!)
『ウルトラマン80』 再評価・全話評! ~序文
『ウルトラマン80』#25「美しきチャレンジャー」 〜フォーメーション・ヤマト&急降下のテーマ再度使用!
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『ウルトラマン80』第26話「タイムトンネルの影武者たち」 ~時間転移でも戦国時代の霊界への転移か!? 矢的とエミの生死は!?
巨大化怪獣ゲラ 異次元人アクゾーン登場
(作・平野靖司 監督・湯浅憲明 特撮監督・佐川和夫 放映日・80年9月24日)
(視聴率:関東9.3% 中部14.1% 関西13.7%)
(文・内山和正)
(1999年執筆)
秋の青空をパトロール中の戦闘機・シルバーガル。
複座式の操縦席の前座には、我らが主人公である防衛組織・UGM隊員・矢的猛(やまと・たけし)隊員。後座には、現場に出動したり戦闘機に搭乗すること自体が珍しい城野エミ(じょうの・えみ)隊員が陣取る。
今回は彼女が主役であり、一人二役を務めてカツラと着物で姫も演じている。
エミ「いい天気ねえ〜。ピクニックでも行きたい気分だわ(喜悦)」
矢的「いいねえ〜(笑顔)」
ヒューマンな安息描写で人物像を描きつつも、すぐさまに事件は起きてふたりは消息を絶つのだった……。
タイムスリップものの一種だが、単なる戦国時代への旅ではない。今回、矢的とエミが戦闘機で飛行中に周囲の空間がゆがみだして、空中が裂けて出現した「黒い穴」へと旋回しながら吸い込まれた先は、異次元にある「魂」だけが暮らしている「黄泉の国」(よみのくに)であった――本話におけるそれも、死後の世界のことで「霊界」のことだろうか? あるいは、現世と霊界の中間にある「幽界」のことだろうか?――。
突如として空に穴が空いて、そこから多数のUFOが現れた! そして、御前試合を観覧していた殿や舞姫や家臣たちを襲って、城を奪った異次元エイリアン・アクゾーンたち。かろうじて、逃げのびた家老(?)や家来らの家臣たちは、この世界に不時着した姫に瓜二つの城野エミ隊員を本物の姫だと思いこむ。一時は困惑したものの、エミも自身を姫本人だと家臣たちに思わせて、エミ・矢的・家臣たちとともに城奪還へと向かう。
現代人と戦国時代の人間が当然すんなりと相互理解ができるはずもない。夜間の竹林で突然に現れた鎧武者(よろいむしゃ)が、矢的のことを「悪霊!」呼ばわりして襲ってくる! 姫の知己と知って態度を改めても、些細な誤解や姫への無礼があると激高したりと、双方の時代と価値観の違いから来るディスコミュニケーション描写も、お約束とはいえ楽しいのだ。
勝手知ったる城とのことで、忍者屋敷のように石垣の石のひとつが秘密の入り口になっていて、地下通路から進入したり、地下牢に囚われていた姫を救出したりと時代劇的な楽しみも味わえる。
黄泉の国の人々は「魂」だけの存在であるために、アクゾーンが保持する「魂」を吸うという携帯型の光線銃や、東宝特撮映画に出てくる大型メーサー砲のような特殊な光線装置で照射されて吸収されても、死なずに閉じ込められているだけで済む。そのことが子供向けエンタメ作品としては、後味を悪くせずに結末を付ける結果ともなっており、好ましくてウマい趣向でもある――逆照射によって復活できるので(笑)――。
しかし、矢的とエミだけは、この光線に吸収されないことがのちに判明する。そして、彼ら自身にもナゾであった自身の「生死」までもが判明する。
タイムトンネルの描写は、黒バックに赤い不定形な光が奥の方へと移動していくという描写であった。1970年代の巨大ロボットもののテレビ特撮『スーパーロボット マッハバロン』(74年)やテレビアニメ『タイムボカン』(74年)などの映像に使用された、当時のアナログコンピューターによる映像を合成したものだろうか? 操縦席の搭乗者を写しつつ、画面(空間)がたわんだりゆがんだりする描写は、特撮班側ではなく本編班側の担当による原始的な手法であるように見えるが、いかにもそれらしい効果は出ている。
タイムトンネルを潜り抜けた先で、夜間の荒野に土砂を巻き上げながら戦闘機・シルバーガルが不時着して滑走するシーンの特撮も凄い!
ラストで現実世界では墜落・炎上してしまったシルバーガルの残骸が描かれているので、辻褄が合わないともいえるのだが、それも含めてある種の不条理感をねらったものだろう。SF的に考察すれば、シルバーガルが現実世界と黄泉の国とで、ふたつに分岐・分裂したといったことだろうか?
予算の都合だろうが、お城も実際には小さめなミニチュアを作っており(?)、それを手前に配して巨大に見せている。城址跡などでロケして、遠景として合成で配置しているだけなのだが、ラストの怪獣バトルなどでは特に雰囲気はよく出ている。
ハード路線が多かった通称「UGM編」(13話「必殺! フォーメーション・ヤマト」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100725/p1)〜30話「砂漠に消えた友人」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101120/p1)まで)も残すところ5話となって、それまでのUGM中心・ミリタリー中心であった作風とは毛色の違う作品が出はじめていく(もちろん、この「UGM編」が終了したあとに、UGMが登場しなくなるわけではないのだが)。
異次元人アクゾーンの軍団の衣装やそのアジトなどには、SF邦画『宇宙からのメッセージ』(78年・東映)や東映ヒーローものなどを思わせるSF時代劇的な風味を持ちこんで、ウルトラシリーズとしては異色な作品となっている。
本放送時には個人的には「『ウルトラ』らしくない」と批判的に観ていたような気もする。しかし、今はこういうのもタマにはよいのではないかと思う。というのは、再視聴ゆえの余裕を持って観ることのできる状況での意見であって、本放送時の視聴ではその作品がどうあるべきかについて、つい考えてしまうことで、評価基準が厳しくなってしまうのだけど。
ただ、アクゾーンの組織が異次元人だという以外は、説明不足なのは欠点とはいえないものの、個人的には不満が残る。
アクゾーンの戦闘員たちは和装ではなく、オレンジの制服にアルミのような簡易な鎧をつけたスタイル。その仮面を取ると爬虫類のゾンビのような不気味な面であった。
アクゾーンの技術系の博士のような副官は、時代劇の高位の僧が着用するような頭巾をのばした“法衣”を黒くしたようなものをまとった顔出しで、名脇役の幸田宗丸(こうだ・むねまる)が演じている。劇中では語られていなかったと思うが、資料によると役名はゴイケ博士だそうだ。
幸田氏はあまたの時代劇の悪役や、円谷プロ作品やウルトラシリーズはじめ、多数の特撮ジャンル作品にゲスト出演している。しかし、なんといってもスーパー戦隊シリーズ『超電子バイオマン』(84年)の敵組織である新帝国ギアの首領・ドクターマンこと、正体はただの人間(!)であった蔭山秀夫(かげやま・ひでお)でのレギュラー出演の重厚な低音ボイスの演技だろう。
『五星(ごせい)戦隊ダイレンジャー』(93年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20111010/p1)でも、打って変わって甲高いお公家さんの声を発して敵首領・ゴーマ十五世を演じていた。
アクゾーンの首領・メビーズを演じていたのは、石山雄大(いしやま・ゆうだい)。やはり時代劇や刑事ものの悪役や刑事役で知られる名脇役である。本話では、顔の半分を爬虫類・トカゲのようにして多数のツノを生やしたカブリものを着用して、時代劇チックな豪快な演技を披露している。
対するに、レジスタンスを展開する家臣の筆頭・藤原源九郎(ふじわら・げんくろう)を演じているのは、コミカルで愛嬌のある演技で定評のある梅津栄(うめづ・さかえ)。ウルトラシリーズでも、初代『ウルトラマン』(66年)13話「オイルSOS」や、『帰ってきたウルトラマン』(71年)33話「怪獣使いと少年」などに出演している。このあと、本作『ウルトラマン80(エイティ)』(80年)48話「死神山のスピードランナー」にも別の役で再出演を果たすことになる。
時代劇の小悪党役などでも有名だったが、あまりに個性的なためか、テレビ時代劇『必殺仕事人Ⅳ(フォー)』(83年)~『必殺仕事人Ⅴ(ファイブ)』(85年)では、コミックリリーフ・広目屋の玉助としてレギュラー出演を果たしていたことは、世代人であればご承知のことだろう。
キャスティングに関心のある御仁が見れば、豪華なゲスト出演者たちなのだ。
書籍などで写真だけで見ると、インパクトに欠ける貧相な痩せ細った黒い恐竜型怪獣のゲラだが、テレビで観てみると黒いからだにツヤがあってけっこう面白い。
口から火を吐くと、その炎が地面に当たって這っていく! 走り寄ってきたウルトラマン80(エイティ)が脚を止めても、勢いでまだ地面をすべって止まらないところに、即座に80の周囲を火炎が環状に包んでもしまう!
石垣の下のお堀には水を張っていたり、城壁と城壁の間からウルトラマンと怪獣の戦闘をうがったりなど、特撮演出も実に凝っているのだ。
『ウルトラマン80』は全50話の作品であるため、回数的には前回の25話「美しきチャレンジャー」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101016/p1)でちょうど半分ではあるのだが、今回の9月最終週放映分である26話で2クールが終了のため(最近のテレビドラマは季首特番などでこの図式が崩れているが、むかしのテレビドラマは必ず3ヶ月=1クール=13回となっていた)、シリーズの半分が終了したという区切りとしての意味だろうか? エンディングのスタッフ名表記がいつもとは異なる「巻き上げ式」(下から上へと字幕が上がっていく)となっており、助監督や撮影・照明などの各スタッフが「チーフ」のみならず「セカンド」や「サード」も表示されるなど、平常より細かく記されている――それでも漏れているスタッフが多数いるのだろうが――。
今回でUGMのハラダとタジマ両隊員は降板する。
次回の27話「白い悪魔の恐怖」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101030/p1)からは、新しいレギュラー隊員が転勤してくる。しかし、ハラダらがどうなったのかは一切ふれられていない――いなくなったということさえも!――。
たしかに個性の確立したキャラクターとはいえなかったが、視聴者にとって半年間なじんでいたキャラクターであり、彼らがいたからこその雰囲気も構成もあった。活躍する余地さえない回が降板回であり、戦闘機シルバーガルの墜落現場で矢的とエミの生存を知ったのが最後の出番では悲しすぎる――彼らにはタイムスリップは実際に起こったこととは思えず、現実世界での経過時間が1時間未満であったこともあり、事故だと判断していたのだ――。
◎「影武者」とは武将の替え玉のことだが、本話ではエミが「姫の影武者」のような存在になることも掛けており、同年1980年4月下旬に公開された世界の黒澤明監督の超大作映画『影武者』にもあやかったものだろう。
◎タイムリープした先は戦国時代であり、なおかつその時代の「霊界」ではなく「幽界」であったと考えるのだがいかがだろう? 『ウルトラマンタロウ』(73年)1話「ウルトラの母は太陽のように」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)で、戦闘機が撃墜されて死亡した主人公・東光太郎(ひがし・こうたろう)が生死の狭間をさまよっていた異世界に、ウルトラ5兄弟が救出に来てウルトラ一族の故郷・M78星雲に運んでいた。しかも、巨人族であるハズのウルトラマンと東光太郎の身長サイズは同じであった……。それについても、ウルトラ5兄弟が「現世」と「霊界」の狭間の「幽界」にまで進出できる神秘な超常能力を誇る存在であると考えれば、説明はつくのだ。
(巨人族であるウルトラ兄弟と東光太郎が同一サイズであった点も、ウルトラ兄弟がその特殊能力で等身大化しているのか、東光太郎がその「肉体」ではなく霊的な身体である「幽体」が、M78星雲に運ばれたと考えれば、説明はつく……かもしれないのだ)
◎姫が祈りで“救世主”を待望していたという発言があった。1980年代のオカルト・ハルマゲドンもの・SFもので多用される、ユダヤ・キリスト教由来の“救世主”という用語は、本話放映の1980年の段階でのジャンル作品での使用はまだ珍しかった。せいぜいSF大河小説『幻魔大戦』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160521/p1)シリーズでの積極的使用がはじまったばかりのころであった。