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ウルトラマン80 44話「激ファイト!80VSウルトラセブン」 ~妄想ウルトラセブン登場

ファミリー劇場ウルトラマンエイティ』放映記念「全話評」連動連載!)
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『ウルトラマン80』全話評 〜全記事見出し一覧


第44話『激ファイト! 80(エイティ)VS(たい)ウルトラセブン』 ~妄想ウルトラセブン登場

妄想ウルトラセブン登場

(作・吉田耕助 監督・湯浅憲明 特撮監督・神澤信一 放映日・81年2月11日)
(視聴率:関東9.3% 中部14.4% 関西15.3%)
(文・久保達也)
(2011年2月執筆)


 少年サッカーチーム・モンキーズに所属する田島直人は、幼いころに母を亡くし、父は3年前から海外出張、姉の亜矢と二人暮らしである。ひっこみ思案(じあん)だった直人の唯一のよりどころは、M78星雲のウルトラの国の戦士・ウルトラセブンのソフトビニール人形だった。


 ある日、友人からモンキーズへの入部の誘いを受けて断ってしまった直人は、亜矢から「そんな弱い子、ウルトラセブンさんにキラわれる」と云われて、半日セブンの人形とにらめっこをした末に、モンキーズへの入部を決意。以来、見違えるように明るく快活な少年に育っていった。


 セブンの人形をポケットに忍ばせ、今日もサッカーの練習に励む直人だったが、そこに暴走族の一団が乱入してきた! 直人のライバルであるジャッキーズ所属の多田実(ただ・みのる)の兄・敏彦が率いるサターン党である!


 少年たちをバイクで追いかけ回した末に、サターン党のひとりが「可愛い子ちゃんだ!」と今度は亜矢を標的にした!


 サターン党の主観の目線で高速で亜矢に迫っていくカメラは臨場感がある。


 亜矢はバイクに接触されて転倒!


「姉ちゃんに何するんだ! ちくしょう!」


 直人が蹴り上げたサッカーボールが直撃して、バイクごと転倒するサターン党の一味!


「あのガキゃあ〜~!!」


 と直人をバイクで追いかけまわす敏彦!


 ウルトラセブンに助けを請(こ)いながら逃げる直人だったが、遂にバイクにひかれてしまった!


 直人をかばう亜矢ごとトドメを刺そうとする卑劣な敏彦!


 しかし、その行く手をバイクで阻(はば)んだのは、我らが主人公である地球防衛軍の怪獣攻撃部隊・UGM所属の矢的猛(やまと・たけし)隊員だった!


 UGMの隊員服姿で搭乗しているために、このバイクはUGMの専用車・スカウターS7(エスセブン)などとも同様に、UGMにパトロール用として標準装備されているバイクであろうか!?


 サターン党は退散したが、直人は瀕死(ひんし)の重傷を負って入院することになる。



 病室のベッドに横たわる直人の枕元にあった人形に、矢的は注目した。


矢的「セブン。ウルトラセブンだ」


 矢的の脳裏に浮かぶウルトラセブンの勇姿が、『ウルトラセブン』(67年)の主題歌『ウルトラセブンの歌』をバックに回想シーンとして流される!


●『セブン』第3話『湖のひみつ』からは、人気怪獣でもある宇宙怪獣エレキングの長いシッポをふりほどき、ツノをエメリウム光線で破壊して、宇宙ブーメラン・アイスラッガーで八つ裂きにするウルトラセブン
●第23話『明日を捜せ』からは、猛毒怪獣ガブラと組んずほぐれつの大格闘の末に、アイスラッガーで首を切断するウルトラセブン!――本編ではこのあと、宇宙ゲリラ・シャドー星人に遠隔操作されたガブラの首がセブンの左肩に噛(か)みついて、深手を負いながらもセブンがシャドー星人の円盤を光線で破壊することで難を逃れるシーンが続く――
●第5話『消された時間』からは、宇宙蝦(えび)人間ヴィラ星人が口から放った光線をウルトラバリヤーで阻んで、ストップ光線でヴィラ星人の足の動きを封じて、アイスラッガーで首を切断するウルトラセブン


 映像作品では、『ウルトラマンメビウス』(06年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070506/p1)・『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』(07年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080427/p1)・『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル NEVER ENDING ODYSSEY(ネバー・エンディング・オデッセイ)』(08年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20091230/p1)はもちろんのこと、90年代以降でも『ウルトラマン ライブステージ』などのアトラクションショー・バンダイビジュアル発売の『ウルトラキッズDVD』などの再編集映像ソフト・バラエティ番組へのゲスト出演に至るまで、往年のウルトラ戦士たちを再登場させる際には、マニア上がり世代のスタッフたちのこだわりなのだろうが、オリジナルのウルトラマンの掛け声や怪獣の鳴き声に効果音などをきちんと使用することが慣例になっていて好ましいかぎりである。


 若者向けの歌番組『MUSIC JAPAN』(07年〜・NHK)の2010年12月12日放送分においては、映画『ウルトラマンゼロ THE MOVIE(ザ・ムービー) 超決戦! ベリアル銀河帝国』(10年・松竹・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20111204/p1)の宣伝として――興行的には「大惨敗」で終わったが、映像レベルや内容的にはウルトラ劇場版史上最大の傑作であると断言したいくらいだ!――、ウルトラ6兄弟にウルトラマンゼロとカイザーベリアルが登場し、アイドルグループ・AKB48(エーケービー・フォーティーエイト)と「ジャンケン宇宙一決戦」(笑)を繰り広げていた。その際のウルトラ6兄弟の掛け声はもちろん正しいものであった。


 しかし、ウルトラマンタロウの掛け声だけは、『ウルトラマンタロウ』(73年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)本編で使用されていた、主人公・東光太郎(ひがし・こうたろう)隊員を演じていた篠田三郎(しのだ・さぶろう)の声を加工した声ではなかった。映画『ウルトラマン物語(ストーリー)』(84年・松竹)以降――2011年3月25日にバンダイビジュアルから発売される8枚組DVD−BOX『ウルトラシリーズ45周年記念 メモリアルムービーコレクション1966−1984』にも収録!――、タロウの声を演じている石丸博也(いしまる・ひろや)の掛け声を加工した声を使用していたのだ。もっともタロウの声も、東光太郎と合体する前の素の声は、今となっては石丸版が「本物」であったのだという解釈もできるのだが……


 AKB48の小嶋陽菜(こじま・はるな)はこの際、ウルトラマンジャックウルトラマンエースゾフィーにジャンケンで3連勝した末に、遂にウルトラセブンには敗れたのだが、退場する際「やっぱりセブンは強い!」などと云い残していたことから、『ウルトラ』にはけっこうくわしいのだろうか? それともジャンケンの結果も含めて放送台本にそう書いてあったのだろうか?(笑) 今年2011年の「ウルトラシリーズ45周年記念映画」には、ぜひ彼女を「お姫さま」役で出演させてほしい!


 話を戻すが、『80』放映当時はこのあたりが非常にラフであった。


 同時期に放映されていた『(新)仮面ライダー』(79年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210102/p1)の3クール目に歴代ライダーがひんぱんにゲスト出演した際にも、変身や必殺技などの効果音がオリジナルとはまったくかけ離れたものが使用されていたのだ。当時すでに中学生の小賢しい特撮マニアとなっていた筆者はこれが実に腹立たしくて「許せないっ!」と思ったものだった(笑)。


 本話とてまた例外ではない。エメリウム光線アイスラッガーなどのセブンの必殺技の効果音もオリジナルとはまったく異なるものである。エレキングの鳴き声が『タロウ』第28話『怪獣エレキング満月に吼(ほ)える!』に登場した月光怪獣・再生エレキングの鳴き声であったのはまだしも、ヴィラ星人の声などは『帰ってきたウルトラマン』第4話『必殺! 流星キック』に登場した古代怪獣キングザウルス三世の鳴き声だったりもする(ただし、不思議と違和感がないことから、むしろ恐竜型であるキングザウルス三世にあんなユルユルとした声を使用した方が誤りだったのか?・笑)。


――再生エレキングの鳴き声も、元々は『帰ってきたウルトラマン』(71年)第1話『怪獣総進撃』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20230402/p1)~第2話『タッコング大逆襲』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20230409/p1)に登場したオイル怪獣タッコングの鳴き声である。ちなみに『タロウ』では、第29話『ベムスター復活! タロウ絶対絶命!』~第30話『逆襲! 怪獣軍団』の前後編に登場した宇宙大怪獣・改造ベムスターにこの鳴き声が、直前回である第28話の再生エレキングに続いて使用されていた。当時は実にテキトーだったのだ(笑)――


 ただし、『ウルトラマンメビウス』でウルトラ兄弟がゲスト出演した際にも、その先輩ウルトラ兄弟個々の掛け声が正しかったことはともかく、過去作品の「映像」の流用がウルトラマンエースウルトラマンレオの変身のバンクフィルムを除いて一切なされなかったことを思えば、効果音の不統一程度でこのような贅沢(ぜいたく)は云ってはいけないのかもしれない!?


 矢的猛を演じた長谷川初範(はせがわ・はつのり)がウルトラマンエイティとしてゲスト出演した『メビウス』第41話『思い出の先生』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070218/p1)でも、「一所懸命」と書かれた黒板の前でにっこりと微笑む矢的と相原京子(あいはら・きょうこ)先生に1年E組の生徒たちや、ドキュメントUGMに「マイナスエネルギー怪獣」として記録された硫酸怪獣ホー・月の輪怪獣クレッセント・羽根怪獣ギコギラー・変形怪獣ズルズラーなどはすべて「動画」ではなく「静止画」として映し出されたのみであったからだ。



 かつては、バンクフィルムの使用は予算削減が理由で行われたものであった。初代『ウルトラマン』(66年)第13話『オイルSOS』や、『ウルトラセブン』第1話『姿なき挑戦者』と第10話『怪しい隣人』などのコンビナート炎上シーンが、ウルトラにかぎらずそのほかの円谷プロ作品に流用され続けたのだ。
 『戦え! マイティジャック』(68年)第12~13話『マイティ号を取り返せ!!』の前後編では、敵組織・Qに奪われた万能戦艦マイティ号が東京を襲撃するシーンは『ウルトラ』からのバンク流用のオンパレードだったので、初代『ウルトラマン』第22話『地上破壊工作』からの流用シーンでは地底怪獣テレスドンの姿がモロに映ってしまっていた(笑)。
 東映作品でも、『ジャイアントロボ』(67年・NET→現テレビ朝日)第3話『宇宙植物サタンローズ』で同話のゲスト怪獣であるサタンローズの触手にからみつかれたガソリンスタンドが爆発炎上するシーンが、『巨獣特捜ジャスピオン』(85年・テレビ朝日)の時点でもまだ流用されていたものであった(笑)――編註:90年代初頭の東映作品に至ってもまだ使用され続けていたのであった(汗)――。


 だが、現在では映像作品を脚本・監督したスタッフたちの権利関係が充実したことによって、皮肉にもバンクフィルムの使用はむしろ逆にギャランティーが発生して金がかかるようになってしまっているそうだ。そのために、おいそれとは流用できなくなっているのが実情のようである。先述したバンダイビジュアルの『キッズDVD』などでも、使用作品の脚本・監督・特殊技術(特撮監督)などのスタッフがこと細かくクレジットされているのは、つまりはそういうワケなのだ。


 同じく先述の『MUSIC JAPAN』でもオープニング映像に、初代『ウルトラマン』第24話『海底科学基地』からウルトラマンVS深海怪獣グビラ、『ウルトラセブン』第41話『水中からの挑戦』からウルトラセブンVSカッパ怪獣テペトのシーンが使用されていた(この番組に映像を提供した円谷プロ側のスタッフは第1期ウルトラシリーズ至上主義者なのか?・笑)。それらにもやはり、画面左下に脚本・監督の名前がクレジットされるなど、近年ではたとえ10数秒程度の使用であってもこういった処置を施すことが当然になっている。


 80年代中盤~末期によく放送されていた懐かしのテレビ草創期~70年代の番組を懐古する番組ではこうした処置は一切なかったものだ。しかし近年、そうした番組が意外と減ってきているのは、そのような経費がかかる事情もあるようなのだ。もっとも、視聴者の方も世代交代が進んでいるので、あまりに古い懐かし番組を回顧するような需要も減ってしまっているのだろう。


 元祖テレビ特撮ともいえる『月光仮面』(58年・宣広社 KRテレビ→現・TBS)の原作者・川内康範(かわうち・こうはん)が2008年4月6日に亡くなった際でさえ、それを報じるワイドショーでも同作の名場面が一切流されなかったりすることは個人的には実に残念に思うのだ。そういったこともまた、短い映像の使用に対しても、脚本・監督・製作会社に対して相応に高額な金銭の支払が発生してしまうことの証(あかし)ではあるのだろう。


 そのようなワケで、たとえ効果音がデタラメであろうが、こうした名場面がテレビ番組で比較的に自由に使用できた時代の貴重な記録にもなっている。


 ちなみに、『タロウ』第40話『ウルトラ兄弟を超えてゆけ!』においては、「35大怪獣・宇宙人登場!」としてウルトラ兄弟の決戦名場面が延々と流されていた。当時すでに小学校中学年以上の年齢に達していたファンからは、最後のバトルでウルトラ5兄弟が末弟のタロウを助けに来なかったことにガッカリしたそうだ。後年の再放送では筆者もそのように思うようにもなったのだが、まだ小学1年生であって幼かった筆者などは、そのような欠点にはまったく気づかずにスナオにうれしかったものだ(笑)。


 この際にも、使用されたバンクフィルムの効果音はほとんどデタラメであった。それだけにとどまらず、『ウルトラマンA(エース)』(72年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070429/p1)の主題歌などは、オリジナルの東芝レコード版ではなく日本コロムビアのカヴァー・バージョンが使用されていたりした。これは『タロウ』の録音スタジオが『A』までの録音スタジオとは異なるゆえに、手元に歴代怪獣のバンク音声がなかったり、主題歌テープなどもなかったゆえの苦肉の処置だったのだろう(汗)。


 そして、はるかに時代をくだって昭和ウルトラシリーズ直系の世界観として製作された『ウルトラマンメビウス』では、そのシリーズ後半では先輩ウルトラ兄弟のゲスト客演回が頻発された。しかし、先輩ウルトラマンたちの主題歌は流用されず、それらの一節がアレンジされて含まれている新曲BGMが流されたのだった……


 これもテレビの放映だけならば不要でも、映像ソフト化をする際には、既製の歌曲を使用している場合は日本音楽著作権協会JASRACジャスラック)にかなり高額な金銭を支払わなければならないようだ。低予算作品(爆)であった『メビウス』では、そのために「過去映像」の使用を控えていた、映像とは別に撮影してあった「静止画」の「写真」の流用だったのだといった推測もできるのだ。そういったことを思えばホンモノではなくカヴァー楽曲の使用に過ぎない! などという文句を云うべきではないのだろう(汗)。


 そう考えてくると、本話で『ウルトラセブンの歌』が数回流されていたことが、実に貴重なありがたいものに思えてくるのではなかろうか!?(笑)


 時代の貴重な記録といえば、直人が大事にしているセブンの人形は、『キングザウルスシリーズ』というブランド名で、第3次怪獣ブームが勃興しだした1978年のゴールデンウィークの時期に、ポピー(83年にバンダイに吸収合併)から発売されたものであった。
 これは現在、バンダイから発売されている『ウルトラヒーローシリーズ』のソフビ人形とほぼ同サイズの商品であり、当時の価格は380円だった。このシリーズ最大の特徴は足のウラに当時の怪獣図鑑などによく掲載されていたウルトラ怪獣たちの「足跡」の図版型をした「足形」がモールドされていたことだ!


 そして、封入されていた「足形シール」20枚を集めて規定の宛先に送付すると、『ウルトラマン怪獣大図鑑』なるノベルティ(企業による無料配布物)がもらえたこともコレクション性を高めて、当時の第3次怪獣ブームの主力商品となり得ていった。


 ちなみに、初期発売の初代ウルトラマンウルトラセブンウルトラマンジャック(当時の商品名は「帰ってきたウルトラマン」)は、目とカラータイマーが塩化ビニール製の別パーツ仕様になっていた。しかし、それでは外れやすいという難点からか2期発売分からは一体型の仕様になっていた。
 ところで、本話の映像で確認するかぎりでも、セブンの背面などは成型色の赤のままで、ほとんど塗装されていない(笑)。しかし、このような手抜きの仕様でもバカ売れしたくらいに第3次怪獣ブームの熱気はすさまじいものがあったのだ。


 そういえば、『キングザウルスシリーズ』のテレビコマーシャルは、


●初代『ウルトラマン』第2話『侵略者を撃て』から、ウルトラマンVS宇宙忍者バルタン星人!
●『ウルトラセブン』第15話『ウルトラ警備隊西へ(後編)』から、ウルトラセブンVS宇宙ロボット・キングジョー!
●映画『ゴジラ対メカゴジラ』(74年)から、ゴジラVSメカゴジラ


 以下は、記憶があいまいで間違っていたら恐縮なのだが、ゴジラ映画『怪獣大戦争』(65年)のキングギドラVSゴジラなどの決戦シーンが用いられていたものもあったような……


 そして、これはゴジラ映画分も含めてすべてに共通だったのだが、『帰ってきたウルトラマン』の明るく勇ましいおなじみのマーチ風のメイン戦闘楽曲をBGMにして、往年の初代『マン』『セブン』怪獣対決シーンやアトラクション用の着ぐるみ対決の新撮で構成されていた平日夕方に放送された帯(おび)番組『ウルトラファイト』(70年)に付与されていた、スポーツ実況風のナレーションを加えたものであった。こうした「過去映像」の流用主体でつくった映像コマーシャルでさえ、現在では困難なのかもしれない……



 真上から見下ろすと「UGM」という文字に見えるように設計されたUGM基地の建造物群がひさびさに映し出される(このアルファベットをかたどっているたビルは個人的には好きである。このバンクフィルムの全景カットを見るのもかなり久しぶりだ)。


 今から舞台となる場所だという、この説明映像を経て、UGMの司令室で直人の轢き逃げ事件を徹底的に捜査すべきだと主張する矢的を、警察に任せておけばいいと軽くあしらったオオヤマキャップ(隊長)であったが……


「おい、矢的。だいぶ疲れているようだな。特別に休暇を与える。思う存分、手足を伸ばしてこい」


 オオヤマキャップの真意を汲み取った矢的は、元気に作戦室を飛び出していく!


 こういった描写は、往年の名作刑事ドラマ『太陽にほえろ!』(72〜86年・日本テレビ)などでもよく見られたシチュエーションである。七曲署(ななまがりしょ)の管轄(かんかつ)外で起きた事件の捜査を力強く主張した若手刑事に対して、故・石原裕次郎(いしはら・ゆうじろう)演じるボス=藤堂(とうどう)係長が休暇を与えて、個人的に捜査をすることに暗黙の了解を与えるといった、上司の「イキな計(はか)らい」が感じられるような、どちらかというと子供の時分よりも長じてからの再鑑賞で理解ができるような描写ではある。


 通路を駆け出していく矢的に、殉職した城野エミ(じょうの・えみ)隊員に代わって「準隊員」(書籍ではこう紹介されているものがあるが、本編ではこの呼称で呼ばれたことはない)として通信係を担当している星涼子(ほし・りょうこ)隊員が、テレパシーで語りかけてきた!


涼子「猛」
矢的「ユリアン、君はまたテレパシーを使う。もし宇宙人であることがわかったらどうするんだ!?」
涼子「でも、ひとりで大丈夫?」
矢的「大丈夫だ。僕は地球を第二の故郷だと思ってる。地球人以上の能力は、地球人として暮らしていくためには不必要なんだ。ユリアン、もし君が本気で地球に住む気なら、地球人と同じ暮らしをすることだ。地球人といっしょに走り、笑い、泣く。それで初めてわかりあえるんだ」
涼子「わかったわ。そう努力してみる」


 『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)の主人公・おおとりゲン=ウルトラマンレオもまた、故郷の獅子座・L77星をサーベル暴君マグマ星人に滅ぼされ、地球を第二の故郷であると語っていた。


 矢的のこうした発言は、近ごろ発売されたばかりであるオリジナルビデオ作品『ウルトラ銀河伝説外伝 ウルトラマンゼロVSダークロプスゼロ STAGE I(ステージ・ワン) 衝突する宇宙』、および『STAGE II(ステージ・ツー) ゼロの決死圏』(10年・バンダイビジュアルhttps://katoku99.hatenablog.com/entry/20200314/p1)の映像特典のインタビューでおかひでき監督が語っていた、


「砂にまみれ、汗にまみれたウルトラマン像」


にも通底するものがある。地球人のことをよく知らない涼子=ユリアンに語って聞かせることで、ユリアン編独自のドラマも描けているのだ。


 だがここで、イトウチーフが涼子の肩をポンと叩(たた)く。


イトウ「なにをひとりで物想いにふけっている。テレパシーで通信でもしているのか?」
涼子「いえ、なんでもないんです」


 ……って、バレバレやないか!(笑)


 このような調子でひんぱんにテレパシーのやりとりをしていたら、仮にそれが精神波などではなく物理的な電波だとすれば、たとえ微弱な電波でも感知してしまうUGMのレーダーのことだ。矢的と涼子の関係が怪しまれるのに決まっている。矢的はそれをも警戒したのかもしれない!?


 だが、この時点でイトウチーフはすでに薄々気づいたかもしれず、あるいは気づいていなくても、今後の正体バレの伏線とするつもりの処置だったのかもしれない。



 直人に重傷を負わせた敏彦がバイクで帰宅するや、弟の実がサッカーボールをぶつけて叫ぶ!


「兄ちゃんだな! モンキーズの練習になぐりこんだ暴走族は! ちくしょう!」


 兄の敏彦としては、実が所属するジャッキーズを勝たせてやろうという想いからの行動であったのだが、とんだ「弟想い」となってしまったのだ……


「兄ちゃん、田島をハネたろ! 入院している田島のところにあやまりに行け! クソっ、こんなオートバイなんか!!」


 敏彦のバイクの前輪を蹴りまくる実。


「田島は僕のライバルだったんだ。その田島をケガさせた兄ちゃんなんか大キライだ! 顔も見たくないよ!!」


 「結果的にはおまえのためになった」などと主張する敏彦だったが……


「兄ちゃんのおかげで僕がどんな想いしてるのか知ってんのか! 暴走族の弟だって……」


 彼は暴走族の弟だと、影口を叩かれているのだろう(汗)。


 そんな弟に対して頭に来て、バイクに乗って走り去っていく敏彦に、


「バカヤロ〜! 兄ちゃんのバカヤロ〜~!」


 と実少年は叫ぶ。右腕で涙を拭う実。


 角刈りで目の細い、やや小太りな印象の実を演じる子役俳優だが、彼の演技は同情を誘う味わい深い名演に感じられるのだ。



 ガソリンスタンドで店員たちにサターン党の居場所をたずねる矢的。


 紺のバイクスーツに黒の手袋とブーツ、首には白いマフラーとスタイリッシュだが――そこまでは、『A』の主人公・北斗星司(ほくと・せいじ)や『タロウ』の主人公・東光太郎がマフラーをしていたことなども彷彿(ほうふつ)としてしまう――、深い剃(そ)りこみの入ったパンチパーマにサングラスをかけていることで、実にガラが悪そうな小太りの男がミニバイクで給油にやってきた。


矢的「すいません、サターン党の連中、どこでたむろしてるか知ってますか?」
ライダーA(シナリオ表記より)「ああ、あのピーマン野郎か」
矢的「ピーマン?」
ライダーA「中身のないヤツのことさ。知らねぇな」


 暴走族・サターン党の面々は、彼のような不良青年たちの間でも評判が悪いことを、ここでは描いているのだ。


 しかし、それを近くで見ていた敏彦率いるサターン党!


「やっぱりアイツか! オレたちのことをカギまわってやがったのは!」


 バイクで疾走する矢的を待ちぶせしていた敏彦は、


「おお、来たぞ! おい、行けホラ! 行け、行け!!」


 とサターン党の面々に矢的を襲撃させてきた!


 数台のバイクで走りながら、先端に白い旗がついた長い竹をかざして、矢的の行く手を阻もうとするサターン党。


 だが、矢的はそれを華麗にバイクで跳び越えた!(当然吹き替えではあるのだが)


 しかし、その行く手を横切ったバイクを避けるために、矢的は転倒してしまう!


 次々にバイクで矢的に当て身をくらわせるサターン党!


 このシーンでは矢的を演じる長谷川初範が、吹き替えなしでまさに体当り演技を披露しているようだ。


 倒れた矢的を旗で突っつき回してくる敏彦!


 そこに珍しくサイレン音をなびかせてスカウターS7が走ってきた!


 退散するサターン党。


 スカウターS7から降りてきた涼子から、直人の容体が悪化したことを聞いて、病院に急行する矢的。



 「面会謝絶」の札がかかった病室の前で泣き崩れる亜矢。


 病床で苦しんでいる直人の枕元に置かれたウルトラセブンの人形に、直人の心の叫びがこだました!


ウルトラセブン! ボクを守って! セブン! ウルトラセブン!!」


 夢の中で、夜、サターン党の一味に囲まれてしまった直人!


ウルトラセブン! 僕に力を貸して! セブン!!」


 直人がセブンの人形を高々と掲(かか)げるや、直人の全身に青いオーラが走って、そのままウルトラセブンの姿へと巨大化する!


 サターン党を手前に、あおりで直人がセブンの姿に巨大化する過程を合成している特撮カットも秀逸だ。


 このシーンだけは、セブンの変身時のホンモノの効果音! さらには、『ウルトラセブン』のオープニングタイトルのコーダ部分のみを「登場ブリッジ曲」として用いており、幼児はともかくそのへんの区別がつくような年齢に達している就学児童やマニア層であれば、このシーンだけは感涙ものだろう!


ウルトラセブン! 聞いて! お願い! ボクの命をあげるよ! だから悪い暴走族をやっつけて!!」


 病床の直人の目から一筋の悔し涙がこぼれて、枕元のセブンの人形にしたたり落ちる!(その瞬間、セブンの人形にいくつか星がきらめく作画合成が芸コマだ!)


 『ウルトラセブンの歌』をバックに、セブンの人形がむっくりと起き上がり、直人の願いをかなえるために外へ飛び出していく!


 このシーンはセブンの人形が病室の壁を通り抜けていったん姿を消し、その壁にある窓から再び夜空を飛行する姿が映しだされるといった、実に凝(こ)った演出である。ふつうは窓をそのまま通り抜けて外に出るといった感じで描かれるだろうが、ワンクッションのジラしを入れることでのイイ意味でのもったいぶりで微量な盛り上げも入れてくるのだ!


 夜の大都会に巨大化して降り立ったウルトラセブン


 たとえて云えば、『セブン』第18話『空間X(エックス)脱出』において、ベル星人の怪音波に苦しめられた主人公モロボシ・ダン隊員が倒れこんでテレポーテーションするや、別の場所に頭部から次第にセブンの姿となって現れる過程が描かれていたようなイメージで描写されている。


 ちなみにこの『空間X(エックス)脱出』は、1968年7月21日に東映が配給した『東映まんがパレード』でも劇場公開されている。音波怪人ベル星人が張りめぐらした空中の小島のような疑似空間に迷いこんだウルトラ警備隊のアマギ隊員とソガ隊員が、宇宙蜘蛛(ぐも)グモンガ・宇宙植物・吸血ダニ・底なし沼に次々と襲われる「秘境探検もの」であり、セブンとベル星人のバトルもモロに「怪獣プロレス」と、年少の子供でもストレートに楽しめるエピソードであった。
 同話のセブンのテレポート変身のシーンは、『(新)コメットさん』(78年・国際放映 TBS)第17話『私の親友ウルトラマン』にセブンがゲスト出演した際にも、コメットさんの前にセブンが出現するシーンに流用されていた。


 この『空間X脱出』でのセブンの登場シーンは、手前にはミニチュアの池を、その奥には幾多の建造物を配置し、さらにその背後にセブンが現れるといった演出であり、セブンの巨大感と画面の奥行きが絶妙に感じられる名演出であった。



「弟のヤツ、なんにもわかっちゃいねぇ! あいつのためにやったのに怒りやがって! クソ〜、こうなったらヤケクソだ! 徹底的にやったるぞ!」


 夜の大都会を暴れ回るサターン党!


 バイクを疾走させながら敏彦は叫んだ!


「オレたちは怪獣だ! 人間の体を持った怪獣なんだ! さからうヤツは容赦(ようしゃ)しねぇぜ!」


 この敏彦の叫びに、筆者は『80』第1話『ウルトラマン先生』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100502/p1)において、地震の調査をしていた矢的がオオヤマキャップと初対面した際に語っていた力強い主張を思い出さずにはいられない。


「見て下さい、この子供たちを。このまま育てば怪獣になってしまうような子供もいるんです! 僕は怪獣の根本をたたきつぶしたいんです! 僕は怪獣と戦うのと同じような気持ちで先生になったんです!」


 まさに敏彦こそが凶悪怪獣であった! 「学校編」があのまま続けば、暴走族に憧(あこが)れる中学生をゲスト主役にした作品が生み出された可能性だってある。直人をハネたサターン党の居場所を突きとめて、直人に謝罪させようとする矢的の姿は、「地球防衛」を任務とするUGM隊員としては明らかに逸脱(いつだつ)してはいるものの、桜ヶ岡中学校の教師としての職務の延長線上にあるとするならば、充分アリの行為なのではなかろうか!?


 便宜上は「ユリアン」編として分類されているこの第44話ではあるが、マイナスエネルギーに満ちあふれたそのテイストはまさに「学校編」を彷彿とさせるものもあって、一面では『80』としての「原点回帰」の趣も感じられるのだ。


 そして、この「マイナスの精神エネルギーが怪獣を招来する」といった概念は、平成のウルトラシリーズにも継承されていく。特撮評論同人ライターの仙田冷氏は90年代後半の時点でこう語っている。



「『ウルトラマン80(エイティ)』(80年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971121/p1)で「怪獣は人間の心の闇が作り出すものだ」というテーゼが提示された事で、そういう設定の怪獣を出しやすくなったのは事実だろう(特に『80』44話に登場した妄想ウルトラセブンは、まぎれもなく『ウルトラマンティガ』(96年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19961201/p1)44話「闇を継ぐもの」のイーヴィルティガと同類の「闇の力によって生まれたウルトラマン」だ。単に素体となったものが、人形か石像かというだけの違いにすぎない)」

(特撮同人誌『仮面特攻隊99年号』(98年12月29日発行)「ウルトラマンダイナ」後半合評1(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971202/p1))



 そんな敏彦の前に、突然姿を現したのは……


ウルトラセブンだ!」


 敏彦の目線のローアングルで地上に降りたセブンの巨大な足元を捉えて、頭へとズームアップしていくカットが臨場感にあふれてよい!


 セブンはサターン党に向かって進撃を開始した!


 画面手前の電線をスパークさせて進んでくる描写は、やはり画面の奥行きが感じられる。


 セブンはひざまずいて巨大な手を画面手前に伸ばしてくる!


 ここではサターン党目線の超ローアングル!


 逃げ遅れたサターン党のひとりをバイクごとつかみあげるセブン!


 セブンの目線から俯瞰(ふかん)で撮られた夜間ロケのサターン党に、セブンの巨大な手が覆(おお)いかぶさるかたちで合成されている。シンプルな手法ながらもなかなかの迫力だ。


 つかみあげたサターン党をにらみつけるセブンの上半身! 助けを請うサターン党のアップ! それを放り投げるセブンの全身! といったカットの編集の妙が絶品!


 しかも、バイクごと放り投げられたサターン党が、宙でバイクから落ちていく様子がアップで捉えられていて、これがまた実にいい感じで宙でバイクのミニチュアからタイミングよく離れていくのである! サターン党の人形もまぁまぁリアルな出来なのだ!


 セブンに放り投げられたバイクが地上に落下! 停めてあった自動車の列を炎上させる!


 このカットも手前にガードレールを配置し、まさに地上の人間の目線で撮られた超ローアングル!


 林立するビル群(その下には街灯が並ぶ!)の奥にあおりで撮られたセブンの全身の手前を逃げるサターン党のバイクのミニチュアが、なんとアクロバット走行のように画面手前でジャンプを披露した!!


「クソ〜っ、住宅の密集地帯や路地を走るんだ! ビルや民家を壊せば、ウルトラセブンは犯罪者だ! UGMが始末してくれるぜ!」


 この期(ご)におよんで、実に邪悪な悪知恵(わるぢえ)を働かせてくる敏彦。どこまでも卑劣である。そして、その思惑(おもわく)どおりにセブンは建造物を次々に破壊し、車も踏みつぶす! しかし、あくまでもサターン党を追い続けてくるので、敏彦にとっても良いのか悪いのか?(汗)


 駐車場を手前に配置し、両側にはビル群、画面の奥からはセブンが足元の電線をスパークさせながら手前に進撃してくるという、奥行きと立体感が感じられる画面構成は絶品である。


 まさに直人の怒りを体現するかのように、おおげさに全身を震(ふる)わせて、両手を上げてサターン党につかみかかろうと進撃してくる、セブンのスーツアクター・渥美博のヒール(悪役)に徹した熱演も光っている!


 セブンの巨大な足に踏みつぶされて炎上する自動車の列! セブンの足元でヘシ折れる街灯! ロングとアップを巧みに使いわけるカメラワークもその迫力を倍増させている!



警報の声「ウルトラセブンが暴れています! 民家を踏みつぶし、ビルを壊し、被害は甚大(じんだい)です! UGM、出動して下さい! UGM! UGM! 速(すみ)やかに出動して下さい!!」


 この警報をバックに、作戦室のランプが赤く点滅するのに続いて、オオヤマキャップ・イトウチーフ・フジモリ・イケダ・矢的・涼子と、緊張が走るUGMのメンバーを順にアップで映し出していく演出もまた緊迫感を倍増させているのだ!


矢的「キャップ、ウルトラセブンが悪いことをするハズがありません! 僕が責任を持ちます! 様子を見に行かせて下さい!」
イケダ「そうですよ! ウルトラセブンが暴れるなんて、そんなバカな!」


警報の声「UGM! UGM! 速やかに出動して下さい!!」


オオヤマ「出動だ!!」
一同「え〜~っ!?」
オオヤマ「ただし、警戒のためだ。オレもウルトラセブンを信じている。なぜウルトラセブンがこんな行動を起こしたのか、よく見極めるんだ」


 矢的と涼子が戦闘機・シルバーガル、フジモリ隊員がスカイハイヤー、そしてイケダ隊員がなんと本来はイトウチーフの専用機であるエースフライヤーで出動!


イケダ「あ〜、ホントだ〜。ウルトラセブンが暴れている!」


 イケダ隊員の目線で俯瞰した、夜のビル街のあまりに豪華なミニチュアセットの中を、画面の左手から右手へとセブンが進撃していくさまは、空間の広がりを感じさせて、実際にはそれほど広くはないであろうスタジオを広く見せる効果を発揮している!


涼子「あれはセブンじゃないわ!」


 ウルトラ一族の王女・ユリアンがその正体でもある涼子が、真っ先にセブンの姿をした存在がホンモノのウルトラセブンではない可能性を直観してみせたことで、彼女の設定を活かしつつも、彼女の卓見とその正体バレの可能性に対するウカツさ(汗)をも同時に描写ができているセリフでもある!


 手前にビルを配置し、その背後のセブンをあおりで捉えて、ビルを破壊するや、セブンがそれをまたいで画面手前に進撃するシーンでさえ、足元の手前にきちんと街灯が配置されているなど、実に細かなところまで設計が行き届いた都市破壊演出が臨場感満点である!


フジモリ「おかしい」
イケダ「オレたちの知ってるセブンじゃないぞ!」


 セブンの背中から俯瞰して、手前にセブンの後ろ姿を、その奥にはサターン党のバイクがミニチュアセットの道路を画面奥へと逃げていく特撮カットは、4台のバイクのミニチュアがきれいに並んで自走しており、特撮マニア的には小さな感動すらおぼえてしまうのだ。


 手前には駐車場、画面奥には林立するビル群の前でセブンが暴れていて、その右手からシルバーガルがセブンに向かって飛行してくる!


 とにかくセブン大暴れのシーンは常に手前に何かを配置し、それに向かってセブンが進撃してくるという、画面に立体感と奥行きが感じられる特撮演出になっているのだ!


涼子「セブンの脳波を探(さぐ)ってみるわ」


 目を閉じて、その正体は女ウルトラマンユリアンならではの超能力を発揮する涼子!


 その間にもセブンの進撃はやまない!


 あおりで撮られたセブンがその組んだ両手を降り下ろして、画面手前に配置されていたビルを破壊するや、爆風と炎がビルの窓(!)から吹き上がる! そんなアングルの特撮カットも最高だ!


 セブンから必死で逃走しているサターン党一味の本編カットも何度か挿入されている。そのすべてがセブンの目線で俯瞰した、画面の奥へとバイクを走行させている後ろ姿で統一されていることから、本編班と特撮班の絵コンテなども含めた連係も事前の打ち合わせでうまくできていたという判断もできるのだ!


 さらには、フェンスのミニチュア越しに炎上するビルを捉えるといった、あまりに芸コマなカットまで! ここでも左手には街灯が配置されていた!


 セブンは遂に飛行中の戦闘機・シルバーガルをつかみとめた!


矢的「セブン、何をする!」
涼子「ちがう! このセブンはウルトラ星人じゃない!」


 ウルトラ星人! ウルトラ一族も「ウルトラ星」の「星人」であるからには、他の宇宙人とも共通する一般名詞としての「ウルトラ星人」といった呼称があってもよい。そして、そうした名称が用いられた方が合理的・SF的でもあるだろう。小学生の怪獣博士タイプの子供たちが知的な喜びを覚えそうな呼称でもある(笑)。


 ちなみに、『帰ってきたウルトラマン』第51話(最終回)『ウルトラ5つの誓い』でも、「ウルトラ兄弟抹殺作戦」をたくらんだ触覚宇宙人バット星人が、ウルトラ兄弟たちのことを「ウルトラ星人」と呼称しているように聞こえるシーンが1箇所だけあったと記憶している。


 セブンはシルバーガルを放り投げた!


 シルバーガルのコクピットが開いて、矢的と涼子のミニチュア人形が脱出!


 このシルバーガルが墜落していくシーンも、画面の手前には民家の屋根、その右手奥にはアパート、さらにその奥にはマンションを配置。それらに向かって左手からシルバーガルが次第に降下していき、画面の奥で炎が上がるや、画面の上方からふたつのパラシュートがアパートとマンションの間に降下していき、民家の屋根の奥に消えていく……といった細やかな演出になっていた! 常に比較対象物を配置していることもリアル感をいや増していくのだ!



 地上を駆けてくる矢的と涼子!


 膨大な建造物が配置された特撮セットの中で、画面の左手奥から右の手前へと進撃していくセブンを、画面の中央に配置された鉄塔越しに、矢的と涼子が見上げたような目線で、カメラが次第にスームアップしていくのもまた実に臨場感にあふれる演出となっている。


涼子「あのセブンには実体がないわ! 怒りのオーラが全身から立ちのぼっている!」
矢的「敵の正体が何者でも、これ以上、暴れさすワケにはいかん!」


 画面の左右にビルを配置してあおりで撮られたセブンの上半身の周囲を、炎をかたどったような青いオーラが迸(ほとばし)る!


矢的「エイティ!!」


 矢的は遂にウルトラマンエイティへと変身した!


 ローアングルで画面の右手にはエイティの両足を背後から捉えて、左手の奥にはセブンを配置する。決戦に入っても奥行きのある画面構成は続いているのだ。


 エイティは宙を高々とジャンプ!


 そのままセブンに飛びかかっていくさまを真横から撮らえられている。


 セブンにのしかかった瞬間、またもや超ローアングルで画面の手前に駐車場を配置して、両者が組みついたままで、画面の奥へと大地を転がっていくといった迫力のあるアクション&特撮演出!



 セブンは右足でエイティに蹴りをかける!


 エイティはその下から回りこんでセブンを投げ飛ばす!


 着地したセブンがエイティを投げ飛ばす!


 投げられて立ち上がったエイティの背後の股の間の奥で、エイティに対してファイティングポーズを決めているセブンが見えている!


 矢島信男特撮監督が東映特撮『ジャイアントロボ』やピープロ特撮『スペクトルマン』、円谷特撮でも『ミラーマン』『ジャンボーグA』『ウルトラマンタロウ』や『ウルトラマンレオ』などでよく用いた演出が、矢島監督特撮ではないもののここでは見られるのだ!


 本話ではいわゆる矢島特撮的なるものに、もうひとひねりの工夫を入れており、エイティの股の間には民家の屋根も配置している。そして、その奥にセブンの姿を映すといった応用も効かせているのだ!


 エイティはセブンに向かってキックをかました!


 しかし、セブンは高々とジャンプして、宙を1回転してこれをかわす!


 両者の華麗なアクロバティックな体技も実にすばらしい!


 画面のやや左寄りの中央の手前に鉄塔を配置し、その上を両者が宙でスレ違うさまもまた実にカッコいい!


 もちろんその画面下部にはビル群が並んでいる! 本話の特撮パートでの一番の名場面でもある!


 セブンは画面奥へと宙を1回転してエイティに突撃!


 体勢を低くしてこれをかわしたエイティ!


 エイティはセブンの右足回し蹴りを体勢を低くしてかわすや、それを両腕でつかんで投げ飛ばす!


 この間、画面の右手前に置かれた黄色のコンクリートミキサー車のミニチュアが妙に気になってしまうが(笑)、これもまたのちにセブンが見せるアクションへの伏線だったのだ!


 投げられたセブンは画面右手前のブロック屏の奥を転がって、大地にたたきつけられる!


 この際にも画面の左手前の電柱に張られた電線が、セブンの頭に接触してスパーク!


 しかも、ブロック屏の手前に配置された電柱が、その衝撃で揺れている様子までもが撮られている!


 セブンはビルを持ち上げて(その際に足元の電線がいちいちスパークするのも芸コマ!)、エイティの頭に凶器攻撃を加えた!


 ひざまづいてしまったエイティを、セブンは抱えて投げ飛ばす!


 再び投げてこようとしたセブンから、スマートに後ろに宙返りして逃れることに成功したエイティ!


 だが、再び度セブンにつかまれて、ビルに放り投げられてしまったエイティ!


 画面の左手前に背中から撮られたエイティに向かって、右奥から迫ってくるセブンの手前を、画面の右からスカイハイヤーとエースフライヤーがそれを遮(さえぎ)るように高速飛行! どこまでも立体感のある画面構成だ。


 UGMの援護を受けたエイティは、高々とジャンプしてセブンに反撃キック!


 ここで再び超ローアングルで、工事現場に置かれたクレーン車などの重機を手前に、セブンの巨大な足が迫ってきて、続いてセブンが先の黄色いコンクリートミキサー車を蹴り上げる全身カット!


 セブンはエイティに向かって次々に重機を蹴り上げる! このキックフォームがまた実に美しいのだ!


エイティ「あのキックフォームはたしか……」


 回想シーン。亜矢がサターン党のバイクに接触されて転倒するのを見た直人は……


「姉ちゃんに何するんだ! ちくしょう!」


 直人が蹴り上げたサッカーボールを喰らって、転倒するサターン党。……そう、直人のキックフォームなのだった!


エイティ「まさか直人くんの、ウルトラセブンの人形が!? 実体のない怒りのオーラ…… そうか、直人くんの生き霊(いきりょう)が! ユリアン、直人くんの枕元にセブンの人形があるかどうか調べてほしい! 早く!」
涼子「了解!」


 この会話の間にも、


●画面の左手奥のエイティに向かって右の手前から迫っていくセブンの背後!
●画面の右手奥のセブンに向かって左の手前にいるエイティの背中!
●エイティの目線でカメラがズームアップ!


と、本話は実に特撮演出が凝っているのだ。


 セブンはさらに重機を蹴り上げた!


 エイティはジャンプして飛んできた重機から逃れた!


 このシーンもまた、画面の左斜め上から右斜め下へと電線(!)が張られている!


 ジャンプして画面の上方に姿を消すエイティが背中から撮られて、その奥にいたセブンが蹴り上げた重機が電線をカスったのか、その衝撃で電線が揺れている様子までもがハッキリ撮られているのだ!


敏彦「エイティが逃げた! オレたちはセブンに殺されるぞ!」


 卑劣にも自身がまいたタネながら、敏彦はあわてだす! やはりセブン目線で俯瞰して、画面の奥へと逃げていくサターン党!


フジモリ「エイティが逃げた!」
イケダ「セブン、お願いだ! もう暴れるのをやめてくれ! あなたは正義の味方でしょ!?」


 ちょっとオカシで滑稽な云いまわしだが、さすがに笑えない。コメディ・リリーフのイケダ隊員も、今回ばかりはお笑い演技はやや封印か?(笑)


 ちなみに、ファミリー劇場『ウルトラ情報局』2010年12月号にゲスト出演したイケダ隊員こと岡元八郎(当時・岡本達哉)氏は、あのセリフは子供のころに観ていた『ウルトラセブン』に対する本心も込もった演技であったと述懐していた。まぁ、我々特撮マニアたちへのファンサービス・リップサービスなのかもしれないが、1955(昭和30)年生まれの岡元氏は1966~68(昭和41~43)年に放映されていた『マン』『セブン』を小学校高学年~中学1年生でギリギリ視聴していた世代でもあるから、ある程度は本心かもしれない(笑)。


 イケダ隊員の目線で俯瞰した夜の大都会のミニチュアセットの中を、画面の左手から右手へと進撃していくセブン!


 画面右手上空にはフジモリ隊員が搭乗するスカイハイヤーが飛行!



 直人の病室の前で眠りこけている亜矢を尻目に、「面会謝絶」でカギのかかったドアを念動力でコジ開けて病室に入ってしまう涼子。


 緊急事態なのだから固いことは云わずに、セブンが暴れている現場から、『空間X脱出』でのセブンのようにテレポーテーションした方が早かったんじゃないのか?(笑)


涼子「やっぱりセブンの人形がないわ」


 病床でうなされている直人。


「エイティ、なぜ邪魔をするんだ…… ボクは、ボクのセブンといっしょに、悪いヤツらをやっつけているのに…… エイティは正義の味方じゃないか?……」


 自らを「人間の体を持った怪獣」だと叫んでいた敏彦もそうだったが、暴走族をやっつけることが「正義」だと信じている直人もまたマイナスエネルギーを発動させて、セブンの人形を意のままに動かしていたのであった! つまり、実はマイナスエネルギーVSマイナスエネルギーの戦いでもあったのだ!


涼子「エイティ、聞こえる?」
エイティ「ユリアンか?」
涼子「今暴れているセブンは、直人くんのセブンの人形に、直人くんの生き霊が宿(やど)ったものよ」
エイティ「了解!」


 涼子はテレポーテーションで病室から姿を消す。……って、だったら、病室に入室するときもそうすればよかったのでは?(笑)



 涼子からセブンの正体を聞いて、再びセブンに挑むエイティ!


 ここで荘厳(そうごん)に響き渡りだしたのが、『ザ★ウルトラマン』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110430/p1)の挿入歌『怪獣レクイエム』のインストゥルメンタル(歌ナシの楽曲)であった。


 第12話『怪獣とピグだけの不思議な会話』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090719/p1)において、同居怪獣オプトの怪獣3兄弟の兄・チョウとジンを殺され、凶暴化してウルトラマン・ジョーニアスに襲いかかる弟怪獣のサンを描写するのに初使用されて以来、第16話『生きていた幻の鳥』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090816/p1)で瀕死の鳥が電気ショック治療の副作用が原因で巨大化した古代怪鳥キングモア、第40話『怪獣を連れた少年』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100212/p1)でヘラー軍のロイガーにだまされたオペルニクス星人フェデリコが暴れさせたペット怪獣オロラーンなど、哀れな宿命を背負った怪獣たちを描写する際に定番で使用されてきた名曲である。
 本作『80』でも、第15話『悪魔博士の実験室』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100808/p1)や、第29話『怪獣帝王の怒り』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101113/p1)で使用されている。


 画面の両側に奥へと居並んだビル群と街灯の群れを挟んで、その中央から手前へと向かって進撃してくるセブンの前に、画面の上方からエイティが降りたって、その行く手を阻んだ!


 セブンは両手の指先を額(ひたい)のビームランプに当てて、必殺技であるエメリウム光線を発射した!


 『ウルトラセブン』ではエメリウム光線の色は白と緑が確認されている。しかし、本話のセブンが放ったエメリウム光線の色は青であった。これは本話のセブンが登場時に全身を覆っていた怒りのオーラの色とも共通している。あくまでも、ホンモノのウルトラセブンとは別物であることも意味させている、色彩イメージの統一であろうか!?


 エイティはこれを側転でかわしてみせた!


 このシーンの画面の左手前の民家の屋根の上には、物干し台まで再現されている!


 その民家の上に、セブンの脇から下の背中を映して、エメリウム光線は画面中央よりやや左寄りの上部から斜め右下へと流れていく!


 そして、それをエイティがかわして画面左へと側転していく!


 このエイティの背後にはやはりビルが立ち並んでいる。どこまでも立体感のある画面構成だ。


 エイティは紫色の光の矢・ウルトラダブルアローを両手の指先から放った!


 セブンはこれを宙返り(!)してかわしてみせた!


 このシーンも画面の下には建造物群が立ち並んでおり、その少し上方をセブンが華麗に舞っているのだ!


 体育館風の丸屋根の建造物を画面左手前にして、華麗にジャンプしてセブンに突撃をかけるエイティ!


 民家の屋根を画面中央の手前にして、バック転の連続で画面の奥へとかわしていくセブン!


 両スーツアクターのまさに超人的なアクションもさることながら、常に比較対象物を配置することでいっそうの迫力を増していた!


 エイティは左足で足払いをかける!


 セブンは宙で引っ繰り返って、大地にたたきつけられた!


 エイティは今度は右足で回し蹴り!


 大地にたたきつけられたセブン!


 しかし、セブンは低姿勢のままで右腕を前方に突き出して、左ヒジを曲げて左手をこぶしにした挑発的なポーズをとってきた!(セブンというよりタロウのファイティングポーズに近い・笑)


 これまた超ローアングルである、画面の手前にはクレーン車の先端を配置して巨大感を出している……


エイティ「直人くん! 君は君以外のウルトラセブンを慕う少年たちの心を傷つけるつもりか!? ウルトラセブンは平和の守り神ではないのか!?」


 セブンの後ろ姿を画面の左手前に、体育館を右の手前に、その奥に立っているエイティの顔にカメラがズームアップしていく!


 続いて、民家の屋根を画面の右手前に、その上にエイティの両足を背後から、左手の奥に立っているセブンの顔へとズームアップ!


 ここでのズームバックはベタなものだが、やはり王道なのだともいえるだろう。両者の顔のアップがセブン、いやその実態である直人の心を説得しているエイティの心情に、それこそドラマ的な説得力を与えてくれているのだ! 人間ドラマと特撮場面がここでは融合しているのだ!


 セブンは直人の揺れる心を体現するかのように、うつ向き加減で両手のこぶしをジッと見つめる。


 そのためらいを見て、エイティは胸の中央のカラータイマーから白色の波状光線と、それを覆うように連続して青いリングを発射する光線・タイマーショットをセブンに向けて放った!


 セブンの全身が青いオーラに包まれていく!


直人「ワァ〜~っ!! ワァ〜~~っ!!!」


 病床で絶叫している直人!


 彼に連動しているセブンは両腕を高々と掲げたまま、大地に引っ繰り返った!


 このシーンでも画面の手前には民家の屋根を配して、セブンの巨大感をも出しているのだ。



 スカウターS7が現場に到着。降りてきたイトウチーフと涼子に対して、「もう暴走族はやめる」と泣きついてくる敏彦らサターン党の一味。


 画面の手前には駐車場、左にはマンション、右には体育館、その奥には横たわっているセブン、さらにその奥にはエイティと、奥行きのある画面構成の中で、エイティはセブンを抱えて夜空の彼方に去っていく。


 病床でにっこりと微笑(ほほえ)んでいる直人……



 すっかり回復した直人がキャプテンを務めるモンキーズと、実少年がキャプテンを務めていたジャッキーズとの、サッカーの決勝戦が無事に開催された。


実「田島くん、兄ちゃんのこと……」


 ここはさすがに幼児ならぬ小学校の高学年なので、すでに人情の機微というものが充分わかっているほどに互いに成長は遂げている。兄の蛮行を謝ろうとした実の真意のすべてを即座に察して、皆まで云わせずに、


直人「多田くん、今日の決勝戦、力いっぱいがんばろう!」


 などと、ウダウダした話などは一切せずに、すべてを許したという意味を含意させて、機転を利かせてさわやかに気持ちよく切り返してみせるのだ!(笑)


実「ありがとう、田島くん!」


 固い握手を交わす直人と実……



 その決勝戦の観戦に訪れた矢的と涼子。ちなみに、矢的は「一所懸命」を象徴するような熱血感あふれる赤いブルゾン、涼子は白のタートルネックのセーターに水色のブルゾンを着用と、まさにキャラクターのイメージにぴったりのコーディネイトである(笑)。


矢的「よかったなぁ、元気になって」
亜矢「ありがとうございます。決勝戦にはどうしても出るんだって、気力でがんばったそうです」
涼子「まぁ、気力でケガを治しちゃうなんて、まるでウルトラマンみたいね」


 やはり変わらず、ウカツな涼子である(笑)。思わず涼子をにらんでしまった矢的に、いたずらっぽく笑う涼子の表情がかわいい。


亜矢「直人ったら、夢の中でウルトラセブンになって、悪い暴走族をやっつけたそうです」
矢的「そう、そうかもしれないなぁ。(以降は内心の声:いや、きっとそうだよ直人くん。君のテレパシーが、セブンの人形を魂あるもののように動かしたんだ)」
涼子「(猛)」
矢的「(また…… ユリアン、テレパシーを使っちゃダメだよ)」


 ラストのオチで、あくまでも本話がユリアン編の一編であったことも強調してみせているのだ。


涼子「(だって、亜矢さんととっても楽しそうなんだもの)」


 嫉妬じみたことを云って、からかってみせることで、いたずらっぽく笑(え)みを浮かべる涼子。


矢的「(そんな……)」


 ここではユリアンの方が精神的に優位に立っている。この手の恋バナ(恋話)には矢的は疎(うと)いと描くのだ。困惑した矢的だったが、直人が見事にシュートを決めるや、亜矢と抱き合って喜ぶ矢的! 実に面白くなさそうにひとりむくれる涼子(笑)。



――第44話『激ファイト! 80VSウルトラセブン』では、神澤さんとはその後も縁が深いウルトラセブンが登場しました。このときは暴走族のバイクのミニチュアをセブンが追いかけたり、家を持ち上げてぶん投げるっていうのも、インパクトがあったのですが。
「なんか面白いことないかなっていうので、家を持ち上げて投げたり、ということもやっているんですよ。子供の話だったし、一応テーマでサッカーっていうのがあったので、車のミニチュアを蹴ってみたりとか。もう暴れまくって、大変だったんですけど(笑)。2クール、3クールと進んで撮影も軌道にも乗ったし、変わったことやりたいねということで、いろいろ頭をひねって、そういうのが出てきたのが僕のやった2本なんじゃないんですかね」

(『タツミムック 検証・ウルトラシリーズ 君はウルトラマン80を愛しているか』(辰巳出版・06年2月5日発行・05年12月22日実売・ISBN:4777802124)特撮監督 神澤信一インタビュー)



 とにかく本話のBパートは、ほぼ全編が「妄想ウルトラセブン」の大破壊絵巻と、エイティとの「激ファイト!」で埋めつくされているのだ!


 今回のような派手な都市破壊が描かれたのは、第36話『がんばれ! クワガタ越冬隊』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110101/p1)以来のことである。約2ヶ月もの間、まともな都市破壊描写がなかったワケである。総合的に特撮怪獣番組としては「それではダメでしょう」とも云いたいのだが、テレビシリーズの製作というものは後期になるにつれて、次第に予算を使い果たしてしまうことが常ではあるのだ。


 だが、今回のように敵キャラクターが既存のコスチュームの再利用で済ませられるのならば、着ぐるみ製作の予算が浮いた分を特撮ミニチュアの増量に回すこともできたのかもしれない。人気も知名度も高いウルトラ兄弟ウルトラ怪獣の再登場であれば視聴者の注目も集めることができて一石二鳥! いや、それ以上の効果を上げることができるのである。


 実際に第44話の視聴率は、第43話『ウルトラの星から飛んで来た女戦士』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110219/p1)と比べて、関東地区では2.4%、中部地区では1.3%、関西地区に至っては4.4%もの上昇を遂げているのだ!(中部地区では前話の第43話の視聴率も13.1%で、ほかの地区に比べて好調である。ふだんから安定していたから極端な上昇とはならなかったとも取れる) しかし、これは新ヒロイン・ユリアン登場よりも、ウルトラセブン客演の方が視聴者からの訴求力が高かったということにもなってしまうのだが(笑)。


 だが、本話の良さは、最大のウリである「エイティVSウルトラセブン」というイベント性の高さだけではなかったと、今回の再視聴では強く感じられた。


 この80年前後当時はなにかと話題にのぼることが多かった暴走族を登場させるといった通俗性の高さ(真面目なマニアの方々はイヤがるだろうが、一般視聴者に対してはキャッチーだろう)。
 そして、第3クールから続いてきた児童編的なドラマもきっちりと描いてみせている。
 かつ、ユリアン=涼子にも超能力などの活躍の場を何度も与えて、ラストシーンに象徴されるように、矢的に対するほのかな恋情の芽生(めば)えも生じさせている。


 つまり、以上の3点ともに、極めて密度が高くてバランスもよいのであった。


 正味20分強のドラマの中で、これだけの要素を盛りこんでいたことには驚嘆(きょうたん)に値する。特撮パートの比重が高くても、その気になればしっかりとしたドラマを描くこともできるといったことを証明もしているのだ。


 「学校編(教師編・学園編・桜ヶ岡中学編)」・「UGM編」・「児童編(子供編)」・「ユリアン編」と、便宜上は4つの章に分類されることが多い『80』だが、本話はそのすべてを結集させた、まさに『80』の「総決算」といった趣(おもむき)の仕上がりにもなっている。個人的には(最終回は除く)4クール目の最高傑作として高く掲(かか)げたい。



<こだわりコーナー>


*本話で登場するウルトラセブンは、現在の公式設定では「妄想ウルトラセブン」と呼称されている。しかし、劇中では単に「ウルトラセブン」とだけ呼ばれていた。ちなみに、朝日ソノラマの特撮雑誌『宇宙船』Vol.6(81年4月30日発売)の「『80』放映終了特集」に掲載された作品リストでは、「怨念セブン」と呼称されていた。この「怨念セブン」が実に印象深い古い世代のマニアとしては、今回の再視聴でも「妄想セブン」という呼称は若干ニュアンスが異なるようにも感じられて、改めて「怨念セブン」の方がふさわしかったと思い返してしまった(笑)。


*直人「多田くん、今日の決勝戦、力いっぱいがんばろう!」


 ラストシーンにおける直人のこのセリフ。実は直人を演じる子役の坂本真吾クンが、アフレコの際に「多田」を「ただ」ではなく「おおた」と読んでしまい(笑)、それがそのままOKになってしまっているのである! 子役のセリフにはシナリオにふりがなくらい印刷しとけよ! つーか、誰か気づけよ! それともアフレコ現場で、監督さんなり録音技師さんがつい間違った読みでの指示を強制してしまったのだろうか?(汗)


*重箱のスミつつきでもう一点。セブンが重機を蹴り上げるキックフォームを見て、エイティはそれが直人と同一であることに気づく。しかし、冒頭のシーンでは矢的はすでに直人が敏彦のバイクにひかれて倒れたあとに現地に駆けつけたのであり、直人のキックフォームは見ていなかったハズである。
 もし見ていたのなら、タイミング的に直人がひかれることを防ぐことができていた。すると、今回の事件も起きなかったことになってしまう(笑)。それに亜矢の身の上話からも、矢的は直人とは今回が初対面であって、既知の間柄で以前から直人の活躍する姿を知っていたワケではないのだ……
 まぁ、以上の二点の些細(ささい)なミス(でもないとは思うが・笑)は水に流そうではないか!


ウルトラシリーズで暴走族が登場する作品としては、『A』第36話『この超獣10,000ホーン?』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070109/p1)も存在する。ファミリー劇場の『ウルトラ情報局』06年11月号において、ゲストの脚本家・長坂秀佳(ながさか・しゅうけい)先生は、自身が執筆した『A』第36話について、以下のようにコメントしていた。



「あれはねぇ、久しぶりに観たら腹立ったけどね。な〜んかベタベタ、あれこそベタベタだよね。もう(主人公の北斗星司が)いい子になっちゃってさぁ〜。ものすごく腹が立ったんだけど。だけど多分ねぇ、あれを書いた動機は暴走族が許せないくらいに、たぶんこのときに毎日新聞の記者が暴走族、どっかの湘南(しょうなん)のあたりかなぁ、ワァ〜ってやってんのを「やめろ」って云いに行って撲殺(ぼくさつ)されちゃうんだよねぇ。そんな事件があったの。



(編註:これは長坂センセイの記憶違い。毎日新聞の論説室顧問が片瀬江ノ島駅前で撲殺されてしまった事件は1989(平成元)年4月のことであり、72年放映の『A』とは時代が随分と異なる17年後のことである。論説室顧問氏が鉄パイプを片手に持って乱暴な暴走族相手に抗議に行ってしまったことはややウカツだったとしても、もちろんそのことを理由に暴走族による集団撲殺行為を正当化してもならない)


 で、ウチのまわりもものスゴかったしねぇ。だから許せなかったんだよ。許せないんだけど、書いてるとそいつらを悪者にしていくだけだと(ドラマとしては)ダメなんだよね。だからドラマ(フィクション)としてはいいのかなぁと思うような小粒(な作り)でさぁ。(北斗が暴走族を説得するシーンのクサさについて)いや、あのときだけは殴りたかったんだけどね(笑)。子供を使って「お兄ちゃんカッコいいね」って云わせてさぁ、もうアレ観て(アザトくて)気持ち悪かった。いやホントに(笑)。だからいま観ると気持ち悪いけど、あの当時は怒りから始まったんだけど、書き始めるとやさしくなっちゃうんだよね、やっぱりね」



 ちなみに、口語の再録だと意味が取りにくいと思われるところは、画面から受け取れたニュアンスや前後の文脈から、丸カッコの中に筆者の文責で注釈・補足を施しているので、ご承知いただきたい。


 長坂が「書いてるとそいつらを悪者にしていくだけだと(ドラマとしては)ダメなんだよね。だからドラマ(フィクション)としてはいいのかなぁと思うような小粒(な作り)でさぁ」と云っていたのは、以下のシーンのことであろう。つまり、このシーンの北斗星司の心情吐露(しんじょう・とろ)は、長坂先生の本意とはまったく正反対のものだったようだ(笑)。



美川隊員「あたし、ああいう暴走族、超獣以上に許せない気がするわ」
北斗「さびしいんだよ、あいつら」
美川「暴走族の味方をするの?」
北斗「そうじゃない。そうじゃないが、なぜあいつらがあんなことをしたくなるのか…… オレにもあんなふうになりかけた時期があったんだ……」



 おもわず遠い目になる北斗。人間ドラマとして観れば、たしかにまぁまぁよいシーンではあるのだ。


 しかし、長坂先生もほのめかしているように、暴走族やイジメっ子や犯罪者なども親なり周囲なりに虐待されたり邪険にされたとか、社会や政治の犠牲者にすぎないのだから、彼らにも同情の余地があるのだ、といった見解には疑問もある。
 後天的な環境によってそうなってしまう場合もあるのだろうが、遺伝や教育などでもなく、両親の気質・性格などとも無関係に、先天的にヤンチャで粗暴で生まれついてしまう人間などもいる! とも思えるからだ。残念ながら、生まれつきでモラルにはやや欠けている気質を持っていたり、いわゆる他人に対する共感性には乏しいサイコパス的な人格の持ち主が、人類には一定比率で偶発的に誕生してしまうことが、人類平等には反してしまうかもしれないが、現在では学問的にも語られているのだ(汗)。


 あるいは、それまではスナオに育ってきたとしても、思春期・青年期になると、若者間ではよくある、イキがったりワルぶったりすることでの虚栄心の競争の果てに、あえて確信犯で不良になったり暴走族になったりするようなこともあることだろう。


 そして、そんな彼らに対して、優しい母性の持ち主がバックハグでもしてあげれば、立ちどころに問題が解消されるような安っぽいことを云ってみせる教育学者などもあとを絶たないけど、それらは実にウソくさいと思えるのだ。そんなことをされても、彼らはキモがって反発してくるだろうし、どころか嗜虐心をそそられてユスりタカりをしてきたり、骨の髄までしゃぶられて相手を破滅に追い込んでしまうかもしれない(爆)。
 よほどの人格力がある人間であれば、彼らを救ったり真人間に更生させることもできるのだろうが、凡人や特に人間力には欠けている我々のようなオタクは彼らにヘタに関わってはイケナイ。「話せばわかる」などは悪人に対してはウソなのだ(汗)。


*「暴走族」の前身は、戦後の1950〜60年代にかけて、富裕層を中心にまだ高価だったオートバイを集団で乗り回す若者たちが登場し、マフラーを外して爆音を響かせながら走行していたことから「カミナリ族」と呼ばれていたことにさかのぼるのだそうだ。当時は高度経済成長期が始まったころでもあったことから、社会が大きく変容することのストレスを受けたモラトリアム(青年期の延長)の範疇(はんちゅう)であるとして、マスコミや文化人の間では「カミナリ族」をある程度は容認する傾向も見られたという話もある。
 しかしながら、『ウルトラマンA』が放映されていた1972年に、富山(とやま)県富山市で暴走族が起こした騒動が全国に広がったことで、関東でもこのころからグループ化が確認され、暴力事件や暴走族同士の抗争事件が頻発(ひんぱつ)するようになったらしい(1960年代後半に全国の大学や進学校の高校で吹き荒れた、今でいうやや意識高い系の学生たちによる学園紛争が70年代初頭に終息したことと、まさに入れ替わるかたちで学力的(汗)には底辺層によるこうした低レベルな反抗活動が起きてきたのだ。若者の社会に対する反抗や不満のハケ口の表出の仕方が、時代とともに若者の学歴・社会的階層なども含めて変化(劣化)していったのだとも見て取れよう)。先の『この超獣10,000ホーン?』や本話が描かれたのは、長坂先生が語っていたように、まさにこうした時代背景が存在していたからこそである。


 『80』が放映されていた1980年前後はまさ暴走族の最盛期でもあり、警察庁の80年11月の調査では全国で754グループ、3万8千9百人ものメンバーの数が確認されていた。『3年B組金八先生(PART2)』(80年・TBS)で暴走族のたまり場である「スナックZ」が舞台となったのも、こうした時代背景があったからこそだ。オデコの両上脇に剃(そ)りこみを入れて前髪を整髪料で固めてヒサシのように突き出してから後ろに流したリーゼントの髪型に、刺繍(ししゅう)を入れた特攻服という彼ら独特のスタイルが、やや不良的な少年少女たちにも「つっぱり」ファッションとして定着していたのがこの時代であった。
 この項を執筆中である2011年2月現在、飲料「十六茶(じゅうろくちゃ)」のCMで若手女優の新垣結衣(あらがき・ゆい)ちゃんが、ポップにアレンジされた往年の大ヒット曲『ツッパリ High School Rock’n Roll(ハイ・スクール・ロックン・ロール) 登校編』の替え歌を披露している。その原曲である81年1月12日に発売されたシングル・レコードが大ヒットしていたのも、本話が放映されていたころだった。
 その原曲を歌唱していたロックバンド・横浜銀蝿(よこはま・ぎんばえ)が大人気となったり、81年の秋には「つっぱりファッション」を子猫にコスプレさせた「なめ猫」のグッズがバカ売れするなど――近年でもリバイバル人気があったので、最近の若い人もご存じかと思う――、こうした不良文化がすでにセルフパロディまで登場するほどに立派な若者文化となっていたのだ――今で云うチョイ悪やゴスロリにも少しだけ通じるものがある?――。
 ちなみに、横浜銀蝿が歌番組『ザ・ベストテン』(78〜89年・TBS)に初出演した際に、ボーカルの翔(しょう)は「銀蝿」の由来について「実在する虫じゃなくて、ウルトラマンみたいな架空の存在なんですよ」と語っていた(笑)。彼らの登場以降は「翔」という漢字を子供の名前に付けることも流行したものだ(汗)。


 だが90年代以降、いわゆる「シブヤ系」といったカジュアルなファッション性を重視する少年層の増加や、若者たちが集団への強制的な帰属要求をキラう傾向が強まったこともあってか、こうした文化は「時代遅れ」な恥ずかしいものであるとして、都心部では次第に廃(すた)れていった。現在では若者離れのためにメンバーの高齢化が進み、40代や50代の暴走族OBが集団で走行して道路交通法違反容疑で逮捕される始末である。もっとも、メンバーの高齢化については、われわれ特撮評論同人界も「対岸の火事」ではないような気もするが(笑)。


 しかしながら、地方によってはいまだにこうした文化が根強く残っているところもある。筆者が2005年以来、居住する静岡県静岡市では、通勤時に市の中心部を爆音を鳴らして突っ走る暴走族ならぬ「暴走個人(笑)」をよく見かける。また、筆者の出身地である三重県四日市市(みえけん・よっかいちし)では、若者たちの一部にいまだに「つっぱり」ファッションが根づいており、帰省時にこうしたスタイルの若者たちに出くわす度に「田舎(いなか)はこれだから……」と頭をかかえてしまう(笑)。


*その『エース』第36話で暴走族・俊平を演じた役者さん・小沢直平氏は、本話でも暴走族の青年役で出演されていたという情報もある!?(名義は清家栄一) 真偽のほどはいかに!?


(了)
(初出・当該ブログ記事〜特撮同人誌『仮面特攻隊2012年号』(2011年12月29日発行)所収『ウルトラマン80』後半再評価・各話評より分載抜粋)


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