假面特攻隊の一寸先は闇!読みにくいブログ(笑)

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ウルトラマン80 45話「バルタン星人の限りなきチャレンジ魂」 ~俗っぽい侵略の超合理性!

(「バルタン星人の限りないチャレンジ魂」という表記は間違い。「限りない」ではなく「限りなき」が正解です・笑)
ファミリー劇場ウルトラマンエイティ』放映記念「全話評」連動連載!)
『ウルトラマン80 宇宙大戦争』 ~マンガ版最終章は連続活劇! TVでも観たかったウルトラ兄弟vsバルタン軍団総力戦!
ウルトラマン80#37「怖れていたバルタン星人の動物園作戦」 ~UGM&子役らの石堂節のセリフ漫才が炸裂!
ウルトラマンマックス#33、34「ようこそ地球へ!」 ~バルタン星人前後編
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『ウルトラマン80』全話評 ~全記事見出し一覧


第45話『バルタン星人の限りなきチャレンジ魂』 ~俗っぽい侵略の超合理性!

宇宙忍者バルタン星人(六代目)登場

(作・石堂淑朗 監督・野長瀬三摩地 特撮監督・高野宏一 放映日・81年2月18日)
(視聴率:関東8.9% 中部11.5% 関西11.8%)
(文・久保達也)
(2011年3月執筆)


 むかし懐かしい「缶蹴り(かんけり)」遊びで「鬼」を務める山野正也(やまの・まさや)少年。級友たちが彼の様子を見て「ベ~~だ!」だの、鼻で笑っているところを見るかぎり、どうやら彼はクラスでは少々浮いた存在になっている。


 新興住宅地で繰り広げられるそんな缶蹴り遊びの様子を、なんとあのウルトラマンシリーズに何度も登場を果たしてきた宇宙忍者バルタン星人が見つめていた!


 ブロック屏の上で、画面の左右から現れた分身状態のネガ・ポジが白く反転した半透明な姿が、中央で合体してバルタン星人の姿に実体化するという、初代『ウルトラマン』(66年)第2話『侵略者を撃て』に初登場した際にも披露した、現在の観点では古典的な手法ながらも、映像のマジックを感じさせる、バルタン星人の印象的なシーンならばコレだろう! といった演出がなされている。
――まぁ、シャープでスマートだった初代バルタン星人の着ぐるみの造形と、当時としてはハイセンスな近代的な趣(おもむき)があったビル内というロケーションと比すれば、この6代目・バルタン星人はやや野暮ったい造形と所帯じみた新興住宅街というロケーションが災いしてか、初代のそれのカッコよさや神秘性には及ぶべくもないのだが(笑)――


 彼が「鬼」になっていることをよいことに、正也を徹底的にいたぶる級友たちに業(ごう)を煮やして、正也はそのうちのひとり・土井と路上で取っ組みあいのケンカを始める!


バルタン星人「殴れ~! いがみ合え~~! 人間はみな仇(かたき)! 一日一悪(いちにち・いちあく)!」(笑)


 これは70年代中盤~1980年当時に頻繁に放送されていた、


「♪ 戸締まり用心、火の用心。戸締まり用心、火の用心」


 の出だしではじまる、曜日ごとに歌詞が変わる「日本船舶振興会」のテレビ・コマーシャルで、会長の故・笹川良一(ささがわ・りょういち)――戦前から活躍する右翼の大物でもあり、社会奉仕活動家でもある複雑な人物――が子供たちとともに、


・「世界は一家、人類はみな兄弟!」
・「地球をきれいにしよう!」
・「お父さんお母さんを大切にしよう!」
・「交通ルールを守ろう!」


 などと、『帰ってきたウルトラマン』(71年)第51話(最終回)のラストシーンに登場した「ウルトラ5つの誓い(ちかい)」のような、お説教クサい標語を並べたあとに、


「一日一善(いちにち・いちぜん)!」


 などと叫んでいた「人類はみな兄弟」「一日一善」の部分を、替え歌的に真逆にしてパロディにしたものなのである(笑)。


 市中をパトロール中であった防衛組織・UGMの専用車両・スカウターS7(エスセブン)が通りかかるのを見て、あわてて姿を消すバルタン星人。登場時とは逆パターンで、やはりブロック屏の上で、画面中央の実体化した状態から白く反転したバルタン星人が左右に離れていき、姿を消していく……


 周囲の級友たちがはやしたてる中で取っ組みあう正也と土井を、スカウターS7から降りてきた主人公・矢的猛(やまと・たけし)隊員とフジモリ隊員が止めに入る。


 フジモリ隊員に取りおさえられた正也を残して、「暴力反対!」と叫びながら逃げていく級友たち。


正也「おぼえてろ! あした、学校でお返ししてやるぞ!」


 さも悔(くや)しそうに口をゆがめながら叫んでいる、正也役の子役俳優の熱演も実によい。


フジモリ「ダメダメ! その日のケンカはその日に忘れるんだ!」
正也「離せよッ!」


 フジモリにさえ喰ってかかる負けん気の正也だったが、そこに正也の母・よし子がやってきた。


よし子「正也、お父さんがね、おまえの分も現像してやるって」


 このあと、よし子が矢的隊員とフジモリ隊員に語った話によれば、正也は父の大作と同様に「写真」を趣味にしているのだ。いかにもカメラ小僧といった感じの赤い帽子を全編通してかぶっているあたりは、衣装班(?)のナイスな仕事ぶりだろうか? 


 母の言葉を聞いた正也は……


「ホント!? やったぁ~! その日のことはその日に忘れるからね! 勉強だってなんだってね! ヒャハハハハ……」


 と喜んで自宅に走り去っていく。


 ついさっきまで口をゆがめて(笑)怒っていた正也のこの豹変ぶりには、矢的隊員やフジモリ隊員でなくても呆気(あっけ)にとられてしまう。


 本話と同じく石堂先生が脚本を執筆された第36話『がんばれ! クワガタ越冬隊』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110101/p1)においても、ペットのクワガタムシを上級生の山ちゃんの不注意で喪ったことに対するアッちゃんのマイナスエネルギーが生み出した、昆虫怪獣グワガンダに苦戦するウルトラマンエイティを見て、


「うん、ボクもう怒ってないよ!」


 と、アッチャンがさっきまでの怒りの感情を急速に静めてしまい、あまりにも元気に明るく答えていたものであった。30分の尺の中でドラマを完結させる以上は仕方がないともいえるし、現実の子供たちもこのように急に割り切ったりすることもあるものなのだが、ドラマの中の人物描写としては最低限はスジが通った言動をしていないと、視聴者も違和感を抱いてしまうものなので、やや安直でムリがあった描写かもしれない。


 しかし、本話の正也はそれくらいにカメラと写真が熱烈に大好きだという意味の描写になっている。けれど、その日のケンカをその日のうちに忘れることはよいことなのだが、その日に勉強したことまでその日のうちに忘れる…… とゲスト子役が当意即妙に切り返してくるというあたりは……(笑)。


 このあたりはいかにも石堂先生らしいセリフ漫才である。マジメで言葉遊び的なトークや切り返しが苦手な御仁が多い我々オタクたちは、少しはこの少年のことを見習った方がよいのかもしれない(笑)。


 自宅に設けられた暗室で、父の大作に自身が撮影した写真を現像してもらう正也。その中の1枚にはUFOらしい姿が映っていた!


 ある日、国鉄(現・JR)の品川(しながわ)駅付近で、正也はブルートレインの写真を撮っていた。


――本作『80』放映の1980~81年当時も、豪華客車のブルートレインやその写真を撮影することは、クラスの男児全員がハマっていたような70年代後半のスーパーカー・大ブームほどでないけれど、クラスで数人ほどは必ずいた今で云う鉄オタ(鉄道オタク)のケがある子供たちがハマっていたものだ。ただし、カメラおたくに鉄道オタクと、このようなマニアっ気のある子供たちをカテゴライズする言葉がまだなかったこともあってか、彼らが後年で云うイケてない存在としてクラスで浮ききってしまうことは当時はなかった。
 そういった事態が招来するのは、82年10月から平日正午枠で放映されたバラエティ番組『笑っていいとも!』で、司会のタモリが流行らせた「ネアカ」「ネクラ」の用語の流布からである。続いて84年ごろからは「アニメファンは暗い」という言説も流布しだして(それは事実だったのかもしれないが・笑)、上の世代との差別化ではなく若者間での同世代の内部での差別化競争もはじまって、「ネクラ」や「アニメファン」のような趣味人、スポーツ趣味でも例外的にセセこましい「卓球」だけはバカにして指をさして笑ってもよい存在だとされてしまい、果ては89年の連続幼女殺人事件の犯人がオタクであったこともあって最後のトドメを刺されてしまったのだ(汗)――


 その帰り道にあまりに美しかった夕日を、残った1枚のフィルムで、カメラに収めようとした――当時のアナログのカメラは、1本のフィルム・ロールで24枚か36枚しか撮れなかったのだ!――。
 しかし、その際に河原にいた少年が空に投げたフリスビー――70年代後半から流行した、空に放り投げて遊ぶプラスチック製のお皿状の円盤型玩具!――が、正也がシャッターを押した瞬間に夕日にかぶってしまった!


 ガッカリする正也だったが、


「仕方がないか。ぼくひとりの公園でもないし」


 と、意外にもオトナの態度で逆恨みすることもなく、これも誰が悪いのでもなく偶然のイタズラだったと理性的な態度で達観して割り切って、機嫌よさそうに家路へと向かっていった。


 冒頭のシーンからすると、正也はこの際にも「ジャマしやがって!」などとフリスビーを投げた少年に喰ってかかるかのようにも思えるのだが、彼を決してステレオタイプとしては描かずに、こうした別の良識的な一面をも持ちあわせていることを、きちんと描写できている点はポイントが高いのだ。


 だが、フリスビーを投げた少年の正体は、実はとんでもないヤツだった!


 写真として現像すると、フリスビーではなくホンモノのUFOに見えるように小細工をして、その真偽をめぐって正也と級友たちを仲違いをさせようと企んでいた、バルタン星人が変身した姿だったのだ!


 美しい夕焼けに染まる河原を背景に、正也をあざ笑うバルタン星人!


「フハハハハハハ。これがケンカのもとになるとは、お釈迦(しゃか)さまでもご存じあるめぇ!」


 宇宙人のクセにバルタン星人は、仏教の開祖「お釈迦さま」のことを知っているのか!? と散々にツッコミされてきたこのセリフ(笑)。
 実は黒船が来航した年が初演である幕末以来の歌舞伎の人気演目『切られ与三(よさ)』(1853年)での名セリフが起源である。若者の間でも80年代前中盤の第2次『必殺』ブームで大人気だったテレビ時代劇『必殺』シリーズ第19作『必殺仕事人Ⅲ(スリー)』(1982年)の毎回のオープニングの前口上でも引用されていたほどの著名なセリフなのである。


 石堂先生が執筆されたエピソードに登場する敵の宇宙人たちは、マニアたちからはSF的な「宇宙の神秘」を体現した存在ではなく、時代劇の悪役のような「チンピラ宇宙人」と称されることが多い。それはたしかにその通りなのであり、欠点ではあったかもしれない(笑)。
 しかし、東映や各社の特撮変身ヒーローに登場した敵怪人とてそうである。それとわかって鑑賞していると、同じく石堂先生がシナリオを担当された『帰ってきたウルトラマン』第43話『魔神 月に咆(ほ)える』に登場した発砲怪人グロテス星人を彷彿(ほうふつ)とさせる「どチンピラ」ぶりが実によい! そして、勧善懲悪の娯楽活劇として主人公のヒーロー性を高めるためには、むしろ各話の敵の宇宙人や怪人は「チンピラ」的な憎々しげな「悪党」性を高めておいた方が、ラストで敵を倒す際には因果応報的なカタルシス・爽快感もより高まって、実に効果的なのだ!


 しかし、第1期ウルトラシリーズ至上主義者の特撮マニアたちからは、長年にわたって断罪されてきた「未知なる宇宙人」としての「神秘性」のカケラもない「チンピラ宇宙人」の描写をよりによって、「宇宙の神秘」そのものでもあったあのカッコいいバルタン星人に演じさせてしまったから、当時の年長特撮マニアたちの激高ぶりはさぁ大変!(笑)


 だが、実は初代バルタン星人の生みの親である当の飯島敏宏(いいじま・としひろ)監督自身もまた、『80』放映から四半世紀を経て、脚本&監督を担当した『ウルトラマンマックス』(05年)第34話『ようこそ地球へ!後編 さらば!バルタン星人』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060503/p1)では、今まさに数千匹に分身しようとするバルタン星人に、以下のようなセリフを吐かせているのだ。


「我々の科学では、クローンなんぞ“お茶の子さいさい”なのだ!」


 「お茶の子さいさい」! 「お釈迦さまでもご存じあるめぇ!」というセリフと大差がないじゃねーか!? 『80』での石堂脚本回のバルタン星人の影響が、まわりまわって本家の飯島バルタンにまで還流してしまったゾ(笑)――まぁ、飯島監督としては特に意識はしていなかったのであろうが――。


 ちなみに、今回のバルタン星人の声を演じたのは西村知道という声優である。昭和のウルトラ作品としては珍しく、今回はきちんとオープニング主題歌の字幕にそのご尊名までもがクレジットされている。



 その夜、山野家の2階のベランダに侵入し、正也の部屋をのぞきながら宣言するバルタン星人!


「フハハハハ。わしはこの少年の心を利用して、再びこの地球で大暴れしてやるぞ!」


 ナイトシーンだから逆に目立つのだが、このシーンに使用されているバルタン星人の着ぐるみ頭部の「口バシ」の部分は金色に塗装されている。そのためにこの「口バシ」部分にスーツアクター――という言葉は1980~81年当時には存在しなかった和製英語――のための「のぞき穴」が多数開けられていることが目立ってしまっている。


 『80』第37話『怖(おそ)れていたバルタン星人の動物園作戦』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110108/p1)で使用された着ぐるみの口バシ部分の中央が黒で塗装されていたのは、これを目立たせないためであったためと思われるが、口の悪い特撮マニアが「ブタっ鼻バルタン」などと揶揄(やゆ)したために改修されてしまったのだろうか?(笑)
 まぁ、当時はインターネットなどはカケラもなかったから、特撮マニアが即時に製作スタッフに感想の声を届けることなど不可能だったので、そのような事実はないのだろうが、後年に口バシが黒かった先代のバルタン星人5代目はそのように揶揄されることになっていくのだ(笑)。


 なお、ナイトシーンであるにもかかわらず、この際のバルタン星人の両眼は電飾による点灯がされていないのだが、それについては後述したい。



 UFO撮影時の様子を得意げに級友たちに話す正也。最初は半信半疑ながらも、正也の話にけっこう真剣に耳を傾けていた一同であった。正也が「UFOとテレパシーで会話をした」と語り始める――UFOからの言葉を正也が語る際に、それらしく音声を加工して、通信時の効果音をバックに流す演出が芸コマ!――。


 しかし、UFOが会話する相手に正也を選んだ理由として、


「ヤ・マ・ノ・マ・サ・ヤ・クン ノ ココロ ハ、キミタチ ノ ショウガッコウ ノ ナカ デ、イチバン ウツクシイ カラ デス………… だってさ!」(笑)


 などと正也が自慢した途端、級友たちが一斉に


「ウソだ~~い!」


 と叫ぶのが、なんともリアルである。そりゃそうだ! そんなことを自分で謙遜も恥らいもなしにヌケヌケと云ってしまうような、無神経なヤツの心がキレイなワケがないのであった(笑)。


 正也を次々に責めたてる級友たちに対して、ムキになってムクれる正也の表情演技がこれまた実によい。


 そんな自画自賛めいた発言と証拠写真が1枚しかなかったことから、結局のところは級友たちには信用してもらえなかった正也は、


「よし! 1枚で信用しないなら10枚、いや、20枚撮ってやる!」


 と、フリスビーを何枚も飛ばして、カメラにセルフタイマーをかけてUFO写真の撮影を試みる。しかし、シャッターのタイミングが合わずにことごとく失敗してしまう。


 だが、いくら何枚も撮影しようが、トリック写真ではどうしようもない。しかし、それでも級友たちを屈服(くっぷく)させなければ気がすまないほどに、正也の心はマイナスエネルギーに満ちあふれていたのだ。バルタン星人がねらう相手としては充分な存在だったのである!


バルタン星人「フハハハハ。出番ですよ? か。ハハハハハ……」


 バルタン星人は正也の母・よし子に変身する!


 ちなみに、このシーンでは歩道橋の上にいるバルタン星人の全身カットが撮られている。それによって着ぐるみの詳細を確認できるのだが、今回の着ぐるみは全体的には塗装が非常に細やかにされていることがよくわかるのである。


 バルタン星人といえば、初登場作品である初代『ウルトラマン』第2話での姿が一般的にはやはり根強い。夜に暗躍する宇宙人というイメージに支配されていたのだ。しかし、今回のバルタン星人の登場シーンはほとんどが人間大サイズで、特撮班ではなく本編班が白昼の野外ロケで撮影している。


・初代『ウルトラマン』第16話『科特隊宇宙へ』に登場したバルタン星人2代目
・同作第33話『禁じられた言葉』に登場したバルタン星人3代目
・『帰ってきたウルトラマン』第41話『バルタン星人Jrの復讐』に登場したバルタン星人Jr(ジュニア)
・本作『80』第37話『怖れていたバルタン星人の動物園作戦』に登場したバルタン星人5代目


 それらを振り返ってみても前例がない。


――アトラクション用の怪獣の着ぐるみを野外で決闘させた平日夕方の帯(おび)番組であった『ウルトラファイト』(70年)に登場した「星人」名抜きの「バルタン」がそれこそ唯一の例外。ちなみに、『ウルトラファイト』の「バルタン」が4代目なのか、バルタン星人Jrが4代目なのか、テレビアニメ『ザ★ウルトラマン』(79年)第8話『ヒカリ隊員の秘密が盗まれた!?』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090621/p1)に登場したバルタン星人が4代目なのかは諸説ある(笑)――


 バルタン星人といえば暗褐色の体色の宇宙人というイメージがやはり根強い。しかし、近年の書籍にもよく掲載されている、1966年4月に初代『ウルトラマン』製作発表を兼ねた、各マスコミ向けに行われた第1回撮影会時のスチール写真を見ると、実際には暗褐色の上にカブせるかたちで水色で汚すように塗装された部分も多くて、腰まわりのスカート状の部分や両足の複雑なグラデーション模様、ブーツには濃いオレンジ色も多く使われている。


 今回はそうした細かなディテールが目立ちやすい白昼でのロケが多いことや、あるいはそろそろ製作現場に入り始めていたマニア上がりの造形家の趣味などで、初代バルタン星人にある程度は忠実な塗装を施(ほどこ)そうとしたのではないか? と思える。その目論見が100パーセント成功していたかは別として(笑)。



「今回改めてじっくりと取り組んでみて、バルタン星人は意外とディテールが少ないということに気づかされました。頭とか顔の粘土彫刻のディテールを除くと、あとはほとんどウレタンを削って布を貼ってラテックスを塗ったものに、ナリでできたシワやダメージなんです。実はバルタン星人において、あまりディテールの再現性は重要ではなかったりします。(中略)とにかくバルタン星人に関してはディテールよりも塗りでバルタン星人になる、という部分が多いんです」

(『ソフビ魂 怪獣標本5.0 バルタン星人』(バンダイ・09年11月発売・ASIN:B002G01EPM)付録冊子「ブランド第1弾『怪獣標本:バルタン星人』を、原型・品田冬樹が語り尽くす!」)



 怪獣造形の第一人者である品田冬樹(しなだ・ふゆき)氏がこう発言しているのだから、造形に口ウルサい特撮マニアたちがバルタン星人5~6代目をどう罵倒(ばとう)しようが、「塗りでバルタン星人になる」という意味では、『80』で登場したバルタンもたしかに「バルタン星人になっている」のであった!?――く、苦しい(笑)――



 いま手許にある『ソフビ魂 怪獣標本5.0 バルタン星人』のソフビフィギュアと見比べてみると、本話で登場したバルタン星人6代目は、足の複雑なグラデーション模様や、ハサミの根元部分にある血管模様までもが、バルタン星人初代を忠実に模したフィギュアと遜色(そんしょく)ないほどに忠実に再現されてはいるのだ。そういう意味でも、その姿かたちだけが大雑把にバルタン星人であったというだけでなく、「塗り」の部分で初代バルタン星人を再現しようとした初の「バルタン星人」ではあったのだ。


よし子(バルタンの変身)「正也ちゃん」


 両手をグルグル回しながら、妙にカン高い声で正也に呼びかけてくるバルタン星人が変身したよし子(笑)。


正也「お母さん」
よし子「いいの、いいのよ、正也ちゃん。空飛ぶ円盤の写真をつくりましょうよ」
正也「知ってたのか?」
よし子「そうよ~。ママはなんだってお見通しなんだからねぇ~。立派なUFO写真をつくって、お友達を見返してやんの。ねっ!」


 妙にハイテンションな口調でしゃべりまくり、オーバーアクションで正也の周囲をグルグルと回って、やたらと正也の背を小突(こづ)いたりするあたりは、B級感・ニセもの感が満載で、お母さん本人ではないことがバレバレにしか見えないのだが、よし子を演じた石井富子氏のコミカルな熱演が光っている!(笑)


正也「ママ」
よし子「そうよ~。おまえはいつもあの4人組にいじめられているじゃない。ママ、とっても悔しいのよねぇ」
正也「そりゃあ、ボクだってぇ……」
よし子「だからさぁ…… みんなをやっつけてやんのよ~。ねっ!」


 このあたりからバルタン星人の乱暴な本性がムキ出しになってくる。それを象徴するかのように、よし子の両目が青紫色に不気味に光る!


正也「よし! ボクはいつもアイツらにヒドい目にあっている。だから、すばらしいUFO写真を撮って、アイツらを悔しがらせてやるんだ!」
よし子「そうよ~。それでこそ、おまえはママの子供よ~!」
正也「よし、撮影開始! 用意スタート!」


 よし子に変身したバルタンは、まるで曲芸師のような軽い身のこなしで体を回転させて、次々とフリスビーを空に向かって投げる。すると、それが複数機の銀色に光るUFOへと変化した! いかにリアルにつくっても偽モノに見えてしまう特撮スタジオの背景ホリゾントの青空ではない、屋外ロケでの冬の青空の下で、ホンモノのUFOのように銀色のUFOが飛行する!


正也「スゴい! ママ、スゴいよ!」


 正也くんもこの時点で、UFOもお母さんの珍妙な行為もオカシいと気付けよ!(笑)


 UFO写真の撮影は快調に進むが、スカウターS7が近づいてくるのに気づいたバルタンは、


よし子「正也。お母さん、急に用事思い出したみたい。バイバ~イ!」


 と最後までハイテンションのまま(笑)、その場を逃げ去ってしまう。


 画面の右からオーバーアクションで走ってきたよし子の姿が、画面中央の電柱を過ぎてバルタンの姿へと戻るシーン。このシーンは映画草創期に、映画『月世界旅行』(1902年)を手掛けたフランスのジョルジュ・メリエスが、走行するバスを撮影中にカメラが故障して、修理を終えて撮影を再開するものの、完成した映像にはバスが霊柩車(れいきゅうしゃ)へと変化したかのように撮られていたという一件を思わせる、古典的なトリック撮影であった――そして、このアクシデントこそが「特撮」(特殊撮影)の原点であるとされているのだ!――


バルタン「え~い、クソ~っ! 忌々(いまいま)しいUGMめ! しかし、今度は絶対に失敗せんぞ~!!」


 正也から矢的隊員とフジモリ隊員に託されたUFO写真は、UGMのコンピューターにかけられてトリック撮影ではないことが判明した!


 自慢げにその事実を級友に披露する正也。しかし、それでも信じてもらえない! まぁ、証明書やUGMの関係者が級友の目前で太鼓判を押してくれたのならばともかく、言葉だけで信じろと云われても、「日頃の行ない」や当人の「人格」との兼ね合いもあるのだからムリもないのだ(笑)。


 通りかかった矢的隊員に泣きつく正也。


矢的「こういう問題はさぁ。最後までケリがつかないもんなんだ。UFOはさぁ、神さまや仏さまと同じでね。いるという人にはいるし、いないと思ってる人にはいないんだ」


 フィクションの外側である現実世界における「一般論」としては実に正しい発言である。しかし、この『80』という作品の劇中世界であるウルトラシリーズ世界においては、それまでにも数多くの侵略宇宙人やUFOが地球に来訪していたのだから、UFOの実在など自明の理ではないか!?(爆)


阿部(級友のひとり)「そうかなぁ?」
矢的「そうさ。仮にだぞ、お寺参りをしているおばあさんをつかまえて、ご先祖さまを信じているなら、どこにいるか霊を見せてくれって君、云えるか?」
級友A「そんな、かわいそうな」
級友B「お年寄りをそんなことでいじめられないよ」


 正也のことはいじめても、彼らにもお年寄りに対するいたわりの心はきちんとあるのだ(笑)。先の正也の意外な一面と同様に、彼らのこうした別の側面もきちんと描くことで、登場人物たちをただの一面的で非リアルな「役割人物像」にはとどめていないのであった。


矢的「ン、そうだろ? UFOも同じだ。いると思ってる人にはいるし、いないと思っている人にはいないんだ。それだけさ。それ以上やり合うとケンカになる」
土井「そうだ、矢的さんの云うとおりだ。さぁ、このへんでオレたちもう、UFO論争にはケリをつけようぜ!」


 「UFO」にかぎらず「霊」も「神」の存在の有無についても、ひょっとしたらふたつにひとつでどちらか片方に正解があるのかもしれない。しかし、神の「存在の証明」や「非存在の証明」といった両方ともにできそうもないような事態については、神が存在するのか存在しないのかについては実はわからないのだ! というような「不可知論」――物事を真の意味で「分かる」ということもまた、卑小な我々人間には永遠に達成ができないというような議論――という態度こそが、最も理性的な態度であるかもしれないのだ。


 よって、これらは科学ではなく双方の思想・信念・美学の違いにとどまってしまう。このような場合は一度くらいは本心・ホンネを表明してもよいのかもしれないが――もちろん、墓場まで持っていて、永遠に黙して語らずでもよい!――、内心ではお互いに相手の方こそが間違っている! とたとえ思っていたとしても(爆)、相手を屈服させて同じ意見になるようにお互いに強要しあってはいけないのだ。
 そういったことは気遣い・配慮・思いやりとして押し黙って、形だけでも相手の信念の尊重をするフリ(笑)をしてみせる礼儀・礼節・潤滑油をもって、溶け合った「同化」ではなく意見が異なったままでの「棲み分け」としての「共生」、しかも永遠に「棲み分け」しているワケでもなく必要があれば「会合」は持てる余地も残しておくかたちにしておくことこそが「オトナの知恵」ではあるのだ!



 これでようやく少年同士の言い争いも一件落着するのかとおもいきや…… そうそうウマくはいかない事態を仮想的にシミュレーションとして描いてみせることこそが「ドラマ」といったものの機能でもあるのだ!(笑)


正也「イヤだ! 絶対にUFOを呼ぶ! 阿部、待ってろ! 絶対にUFOを見せてやるからな!」


 またまたムキになって、口どころか顔までゆがめて、阿部に対して挑戦状をたたきつける正也くん。彼を演じた番場恵介くん、実にいい演技である(笑)。


阿部「よし、見せろ! いくらトリックがないってUGMが証明したって、写真だけじゃボクは絶対にUFOなんか信じない!」


 極めて現実的であり、神さま仏さまや幽霊・妖怪などを一切信じなくて、なんでも科学的に説明しないと気がすまないという性格設定や、幾何学(きかがく)模様のセーターや半ズボンのスタイルに身長の低さなど、この阿部という少年キャラはどことなく名作漫画『ドラえもん』に登場するガキ大将の腰巾着であるスネ夫(すねお)少年を彷彿とさせるものがある。
 『80』第36話に登場した乱暴ものの上級生・山ちゃんもまた、同じく『ドラえもん』に登場するガキ大将・ジャイアンを思わせるキャラだったことから、今回の「児童ドラマ」を執筆するにあたって、石堂先生やそのご子息たちも視聴されていただろう、当時は人気が最高潮に達していたテレビアニメ『ドラえもん』(79年)を参考文献にしていた可能性が極めて高いのか?


 しかし、ガキ大将やその腰巾着といったキャラシフトの登場人物は、日本のスーパー戦隊シリーズを翻案したアメリカの『パワーレンジャー』初期6作(93年~・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080518/p1)の日常パートでも連続レギュラー出演していたくらいなのだから(笑)、普遍的で古今東西いつの時代にもあるようなものだろう。第1期ウルトラシリーズも手掛けてきた本話の野長瀬三摩地(のながせ・さまじ)監督は、1923(大正12)年生まれなので、戦前の児童文学あたりからも着想して、そのイメージに合った子役たちをキャスティング・ディレクションしたものでもあったのだろうか?


正也「絶対、見せる!」
阿部「絶対、見せろ!」(笑)
正也「見せたら、子分になるか!?」
阿部「見せなかったら、ボクの子分になれ!」


 まさに売り言葉に買い言葉。さすがの矢的=ウルトラマンエイティでさえ、もはや手の出せる状況ではない(笑)。


 再び、夜の山野家のベランダでホクソ笑んでいるバルタン星人!


「ハハハハ。子供と子供がケンカする! 男と女がケンカする! 家と家とがケンカする! そして、おしまいには国と国がケンカする! ミサイル発射! 手裏剣(しゅりけん)シュシュッ! 日本は滅びる! 世界は滅びる!」


・冒頭での正也と土井が路上で取っ組みあうシーン
・正也の父である大作と母であるよし子がキッチンで口ゲンカをするシーン
・よし子と隣の主婦が云い争うシーン
・大国の首脳会談が決裂するシーン(!)


 これらのシーンに続けて、北京(ベキン)・パリ・モスクワ・ニューヨーク・ロンドン・ローマといった世界各国主要都市が吹っ飛ぶ特撮シーン! バルタン星人の脳裏に浮かんでいる壮大な地球破滅計画が映像で示されるのである。
――世界の都市破壊映像は、『ウルトラセブン』(67年)第49話(最終回)『史上最大の侵略(後編)』で、幽霊怪人ゴース星人が地底ミサイルで世界各都市を破壊したシーンからの流用。しかしこのシーン自体がまた、東宝特撮映画『世界大戦争』(61年・東宝)のクライマックス場面からの流用なのであった(笑)――



 いささか、話が飛躍しすぎではある(笑)。


 ただし、『ウルトラセブン』第8話『狙われた街』においても、地球人同士の信頼関係に目をつけた幻覚宇宙人メトロン星人が、それを破壊すれば地球はやがて自滅すると考えて、狂気と暴力性を誘発する赤い結晶を混ぜたタバコを駅前の自販機に仕掛けたのと同様の実験だともいえるのだろう――両エピソードのテイスト自体は、「刑事もの的ドキュメンタリー風味」と「所帯じみたコミカル劇」とで、天と地ほどの差はあるのだが(笑)――


 しかし、「戦争」や「争い」のタネの根っ子の根っ子にある根源とは、特別に権力欲にまみれて自我も肥大した政治家や軍人たちによる、善良な庶民たち(笑)を無視した独断専行による大暴走といったことは実はあまりない。その根源には、このような子供同士・仲間同士・夫婦同士・ご近所同士・隣ムラ同士・隣の異民族同士。彼らのホンのちょっとした「争い」や「不和」や少々の「嫌悪感」や「苦手意識」にはじまっていたりもするものなのだ。


 あるいは、体育会系と文化系、肉食系と草食系、イケてる系とイケてない系、お堅い公務員と軟派な夜の接待業、外交的な性格と内向的な性格、ヤンキーとオタク、ヤンキーとギャル(笑)。絶対に気が合わないだろう! お互いに苦手だろう! 強制的にいっしょに同席させられて、気が合わなかったり言葉が通じなかったりしたら、お互いが気マズくなって一種の拷問の時間となるだろう!(爆)


 底の浅いキレイごとが大スキな理想主義者の皆さまは、「みんな仲良くお手々をつないで……」ばりに楽観的なことを平気でのたまって、恬(てん)として恥じないものだ。しかし、同じ日本人同士でさえ性格類型や趣味嗜好が異なれば、意思疎通や共生さえもが困難なのである。そう考えれば、良いか悪いかは別として、外国人や異民族や異なる宗教の持ち主との共生がいかに困難なことであることかが容易に想定されるのだ(汗)。


 むろん、だからといって開き直って、外国人差別などはドンドンすればよいというワケでは決してない。差別一般は抑制されるべきことではあるのだ。しかし、それはやはり難しいことではあるだろう。むろん、互いに殲滅するまで滅ぼしあうことなどは論外である。けれど、同一の生活空間でキビスを接し合って共生することにはかなりの困難が予想されるのだ。


 そう考えると、同じく円谷プロ製作の『恐竜探検隊ボーンフリー』(75年)で「肉食恐竜」と「草食恐竜」とは分けて保護していたように、肉食系の人間と草食系の人間は「棲み分け」にしておくとか――でないと、草食系の人間は肉食系の嗜虐心のターゲットにされてしまう!――、性格類型や趣味嗜好や文化が異なる人間たちは、必要に応じて交流や折衝はするけれど、ある程度までは皆が「棲み分け」をしながら広い意味での「共生」をする…… といったあたりが現実的な妥協点・落としどころではなかろうか?
――こんなことを書いてしまうと、単細胞な輩がすぐにそれは南アフリカの「アパルトヘイト」だ! と非難してきそうではある。けれど、永遠に「排除」するという意味での「棲み分け」ではなく、ムリにムダにベタベタせずに適度に距離を置きながら皆が自立しよう! といった意味であるので、念のため――


 石堂先生は、


「悪とは自分の外部にあるのではなく、自分の内部にあるもの」


 だという趣旨のことを語っている。


 つまり、一部の権力者や独裁者だけが「悪」であり、彼らを首チョンパにすれば、即座に社会や世界に平和が訪れるのだ! などというような古いタイプの左翼的な革命史観などは信じていないのだ。


 一部の権力者や独裁者をギロチンに架けたとしても、子供同士や主婦同士の諍(いさか)いはなくならない。非モテのオタクたちが突如として女性たちにモテはじめるといったことも絶対にない(笑)。民族差別や人種差別もなくならない。
 それらの諍いや差別の原因は、一部の権力者や独裁者たちに原因があるのではなく、神ならぬ不完全な身である我々庶民・大衆・人間一般に元から備わっている、獲物を追いかけて捕食をするような「生物」としての在り方それ自体に起因している。個人としてはともかく、人間一般が総体として解脱(げだつ)することがそもそも絶対的に不可能な「動物的な攻撃性」などが、その根源にあるからなのである。


 そのように考えれば、バルタン星人6代目……もとい、石堂先生による、子供たちの世界に改めて「対立の種(タネ)」をまいて、それを壮大化していくという手法は、出来上がったフィルムでは映像表現的にやや説得力には欠けているのだが(笑)、論理的にはまったくその通りなのである。
 「他愛のない子供同士の諍い」自体が永遠に絶えることがない……という厳然たる事実がまた、実はこの世界から「戦争」が原理的に途絶えることなど絶対にない! という根本原因でもあったのだ(爆)。そして、それを各所で極大化していけば、世界を滅亡にも導いていくのだ! という石堂先生のお見通しは、ロジカルにはまったくその通りなのである。
 ホントウ、この実に愚かしい我らが人類なんぞは、さっさと滅び去ってしまえ!(笑)――いやまぁ、原理的には根絶ができないのだけど、せめて「戦争」自体の数を減らそう、極力回避はしようとする行為自体は崇高なものではあるのだ――



 本エピソードの本編監督を担当したのは、『80』第19話『はぐれ星爆破命令』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100905/p1)と第20話『襲来!! 吸血ボール軍団』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100912/p1)以来の登板となった東宝の故・野長瀬三摩地監督である。


 氏は1960年代後半の第1期ウルトラシリーズでは、シャープでクールでドライな「SF」的な手触りを感じさせる作品ばかりを手掛けてきた。『ウルトラセブン』においては、氏の監督回の中では宇宙人が登場しなかった第32話『散歩する惑星』以外は、侵略宇宙人があらかじめひとりの人間にターゲットを定めて、その彼を利用したり精神的にゆさぶりをかけたりして、着々と侵略計画を進める作品を手がけている。


・第2話『緑の恐怖』では、生物X(エックス)ワイアール星人が宇宙ステーションV3(ブイスリー)の石黒隊員を、宇宙金属・チルソナイト808(ハチマルハチ)に封じこめて彼の姿を自身に転写して、夜になると本来の姿に戻って人々を襲撃した。
・第3話『湖のひみつ』では、変身怪人ピット星人がセブンに変身する主人公・モロボシダン隊員の変身アイテム・ウルトラアイを奪って、セブンへの変身を阻止した。
・第19話『プロジェクト・ブルー』では、宇宙帝王バド星人が地球全体を覆うバリヤー計画・プロジェクトブルーの全容を把握するために、バリヤーを開発している宮部(みやべ)博士を監禁して、その妻を危険にさらすことで博士から秘密を聞き出そうとした。
・第20話『地震源X(エックス)を倒せ』では、暗黒星人シャプレー星人が地球を形づくる物質・ウルトニウム奪取のために、国際核研究センターの岩村博士に助手・榊(さかき)となって近づいた。
・第23話『明日(あした)を捜せ』では、宇宙ゲリラ・シャドー星人が地球防衛軍の超兵器秘密開発工場である0三(マルサン)倉庫を爆破するが、町の易者(えきしゃ)・安井与太郎(やすい・よたろう)にそのことを予言されたために、彼を捕らえてニセの予言をさせることでウルトラ警備隊を翻弄(ほんろう)し、地球防衛軍基地の爆破までをも企(くわだ)てる。
・第36話『必殺の0.1秒』では、催眠宇宙人ペガ星人が人工太陽計画を妨害するため、地球防衛軍の射撃大会で優勝を願ったヒロタ隊員を勝たせて、その代償として自身の侵略計画に協力させていた。


 だから、このバルタン星人6代目が暗躍するエピソードも、これら『ウルトラセブン』でのエピソードに通じるものがあるのだ! と主張をしたいところだが(笑)、近年のジャンル作品とは異なり、この時代のジャンル作品においてストーリーを決める主導権があったのは、やはりプロデューサーと脚本家であって、監督は事後的にシナリオを渡されてそれをディレクションするだけの役回りではあっただろう。


 1996年に野長瀬監督が逝去された際に、たしか特撮雑誌『宇宙船』で、特撮評論家・池田憲章(いけだ・けんしょう)が追悼文を書かれていた。そして、


「『80』のころに取材した折り、最近の作品はホン(脚本)がよくないとコボしていた(大意)」


 という趣旨の裏話を披露されていたのだ(爆)。


 もちろん、池田憲章先生をはじめとする、1996年当時の特撮マニアたちの主流であった第1期ウルトラシリーズ至上主義者たちがインタビューをしてくるときの気配や暗黙の空気を敏感に察知した、咄嗟のリップサービスであったというような面も微量にはあっただろうと思う。しかし、基本的には『80』という作品自体を本心から実は快くは思ってはいなかった可能性も相応には高いだろう(汗)。


 第1期ウルトラシリーズの本編班のように、おそらくは古巣の映画会社・東宝のスタッフたちが中心となってキッチリカッチリとした映像表現で撮影してくれていた撮影現場とは異なり、『80』の本編班は大映テレビ室に下請けに出されるかたちであったことから、ややソフトでノンビリとしたマイルドな映像で撮影されていたアウェイの現場では、不本意なところもあったのかもしれない。
――とはいえ逆に、『80』で自身が脚本を務めた第27話『白い悪魔の恐怖』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101030/p1)などは、クールで乾いたハイブロウなSFホラーに仕上げてみせているが、それがゆえに子供番組としてはヤリすぎで怖すぎたようで、リアルタイマー世代のそうした意見も散見はするのだ(笑)――



バルタン星人「こちらUFO、こちらUFO、明日は日曜日、昼12時ジャスト、嵐ヶ丘にUFOが出現する! いいか、明日12時だぞ! 必ず君の4人の友だちを証人に連れてくるんだ! わかったね。12時…… 12時…… 嵐ヶ丘…… 嵐ヶ丘……」


 再び夜の山野家に現れて、正也の寝室でUFOからのテレパシーを装(よそお)って呼びかけるバルタン星人。正也のベッドの上にバルタンの上半身がまるで幽霊であるかのように合成されたカットは、先にあげた『セブン』第2話・第19話・第23話など、いかにもホラー演出がお得意の野長瀬監督回ならではである。


 ちなみに、このシーンでもやはりバルタンの両眼は点灯していない。しかし、その代わりに実はこの両眼が左右に動くという細かなギミックが仕組まれていることがわかる。初代バルタンの眼にはグルグルと回転するギミックが仕組まれていたが、それに匹敵するほどに凝(こ)った仕様であり、正也に対してテレパシーを送っているということが端的に表現されて効果を発揮している。このギミックを仕組むために、今回は目を点灯させる仕掛けを仕組むスペースがなかったのだとも考えられる。あるいは元々アトラクション用で目が点灯する仕様ではなかったものを改造したとも考えられる。
 いずれせよ、本話の等身大バルタンは頭部のずんぐりとした形状や体型などから、実は第37話で使用された着ぐるみとは別ものかと推測したりもする。本話は白昼での登場が圧倒的に多いことから、両眼の点灯よりも可動ギミックの方を優先したかもしれないことについては……賛否はありそうではある(笑)。


 なお、バルタンがその場所として指定した「嵐ヶ丘」は、作家エミリー・ブロンテの小説を映画化した名作洋画『嵐が丘』(1939年・ユナイテッドアーティスツ)からの引用だろう。


 防衛組織・UGMの作戦室で、コーヒーを飲みながら談笑する隊員一同。


イトウ「そんなにケンカするんだったら、いっそインチキ写真以外の何ものでもないとかナンとか、云った方がよかったかもしれないなぁ」
矢的「ウソも方便(ほうべん)ですか?」
ユリ子「あの、あたし、こう思うんですけど。UFOを見たという人は、なにかこう心の底にたまっているものがあって、そのハケ口にUFOを利用するんじゃないでしょうか?」


 ユリ子のセリフは石堂先生のUFOに対する見解の代弁だろう。要はUFOや宇宙人の存在などまったく信じていないのだ(笑)。そしてまた、目撃者の深層心理にその理由を求めるのは、当時のUFO否定論者にもあった意見ではある。


オオヤマキャップ(隊長)「ウ~ン。で、その少年は?」
矢的「ええ、友だちとはあまり折り合いがよくないみたいですよ。なにかあるとことごとに対立するみたいですね」
イケダ「あぁ、それでUFOを持ち出して、一挙に仲間のナンバーワンになりたいんですね」


 不遇な自分が何かの得意分野などで一挙に大逆転して、それを自慢して鼻高々となりたいという、実に卑しい気持ち。身に覚えがありすぎて、実によくわかる。我々、同人ライターなどは全員がそうである(爆)。


オオヤマ「気持ちはわかるけどな。……ン?」


 計器のメーターが異常な数値を示しているのに気づくオオヤマキャップ。そこに星涼子(ほし・りょうこ)隊員が入ってくる。


涼子「キャップ。ポイント27(ツーセブン)に微弱ですが、宇宙バリア・アルファ光線の発生が見られるようです」
オオヤマ「なに?…… バリア・アルファ光線の探知ができる計器はこれしかないんだが…… どうしてわかった?」
涼子「はっ……」


 ウルトラの星の王女・ユリアンであるウルトラ星人ならではの超能力で、UGMの計器よりも先に異常を感じてしまった涼子は、またしても先のことを考えず、すぐさまそれをオオヤマキャップに報告してしまったのであった!(笑)


 すかさず、涼子をフォローする矢的!


 本話はユリアン・メインのエピソードではないのだが、『80』第43話『ウルトラの星から飛んで来た女戦士』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110219/p1)以降の「ユリアン編」の特徴である、ウルトラ人かつ王族でもあるユリアンこと星涼子の世間知らずさから表出されてしまう彼女の超能力描写を、おなじくウルトラマンであるエイティこと矢的隊員がたしなめるという描写も、忘れずに漏れなく挿入されていることも連続性が感じられて好印象である。


 しかし、通称「ユリアン」編は、本話の2話前である第43話から始まったばかりなので、石堂先生に本話の脚本を発注した際には「ユリアン」編の設定は固まってはいなかった可能性も高い。よって、あとで円谷プロ側の満田プロデューサーなどがこのシーンを加筆したり、撮影現場が機転を効かしてアドリブでユリアンこと星涼子の出番を増やした可能性もあるだろう。


矢的「キャップ、星隊員といっしょにポイント27に行ってきます。山野少年の家がその近くにあるんです。さぁ行こう!」
涼子「ハイ!」


 怪訝(けげん)そうな顔をして再び計器の異常を見つめるオオヤマキャップ。これで完全にオオヤマキャップにはバレバレだ(笑)。


 ちなみに、初代『ウルトラマン』第16話においてバルタン星人2代目は、初代ウルトラマンが放った八つ裂き光輪を「光波バリアー」を張りめぐらして防いでいた。この「バリア・アルファ光線」とはその「光波バリアー」の元になるものなのかもしれないと、勝手にSF考証を試(こころ)みてみたりもする。
 先にバルタン星人5代目が登場した『80』第37話で、すでに爆発したハズの「バルタン星」をセリフで登場させてしまった石堂先生だが、今回はきちんと過去作品でのバルタンの設定を参照していたのかもしれない!?(……く、苦しいフォローだ・笑)


 まぁ、円谷プロ側のプロデューサーである円谷のぼる社長と満田かずほ、TBS側のプロデューサーである野村清と、そのへんの喫茶店などで駄弁(ダベ)って、作品内容についてのオーダー(注文)を受けたり原稿の手渡しをするかたちでシナリオを作成していったのだろうから、細部については満田プロデューサーあたりのオーダーだろうと推測できるし、仮に設定的なミスや不整合があったとしても、それは円谷社長と満田プロデューサーのチェックをスリ抜けてしまったものなので、そのへんの事情の推測がつくようになった、長じた今となっては、彼らの責任の方が大だったとは思うのだ(笑)。


級友たち「なんだ、出ないじゃないかよ~」


 日曜日の昼12時、嵐ヶ丘でUFOの出現を待っていた正也と級友たちだが、待てど暮らせどUFOは現れない。


阿部「いよいよオレの子分か~」
級友たち「あ~あ、12時過ぎてるよ。ど~すんの? ホラ、どうすんだい?」
正也「UFO、出てくれ! お願い! 出てくれ!」


 母のよし子に正也の行き先を聞いて、現地に向かう矢的と涼子だが、階段の途中で涼子がヘタりこんでしまう。


矢的「どうした!?」
涼子「異次元空間が出口を求めて、このあたりを走り回ってるわ!」


 ふと空を見上げる矢的。まるでポッカリと穴が開いたかのように、空に異空間が出現したかのような作画合成が見事である。


 『ウルトラマンA(エース)』(72年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070429/p1)に登場した生物兵器・超獣たちが、一角超獣バキシムが登場した第3話『燃えろ! 超獣地獄』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060521/p1)や、大蟻(おおあり)超獣アリブンタが登場した第5話『大蟻超獣対ウルトラ兄弟』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060604/p1)におけるように、異次元空間から3次元の世界へと出現する際に、青い大空をガラス窓のように突き破っていたサマをも彷彿とさせる。正直、アレほどの凝った特撮映像ではないのだが、どうせならばバルタン星人自身も新たに異次元空間を移動できる新技術の超科学を獲得できたことにして、大空を突き破って登場してほしかった!(笑)


 これまでのウルトラシリーズではやや土俗的であったりソフトなファンタジーといった世界観と作風で通してきた石堂先生。本話では多少は「SF」的なセンスにこだわっているようである。むろん、インターネットなどなく特撮専門誌がようやく発行されたばかりの1980~81年という時代に、口ウルサい特撮マニアたちの評価がつくり手たちに届いて、それに応えたというようなことは一切ないのだろう(汗)。


阿部「これで山野も一生、オレの子分か。哀れだの~」
級友A「山野、今のうちに謝れよ~」
級友B「そうだよ~」


 級友たちが正也を責める間に、バルタン星人が小型UFOに乗って彼らのもとに近づいてくる。新興住宅街のミニチュアセットの全景をナメながら、特撮セットのホリゾントの青空をミニチュアのバルタンを乗せた小型UFOが飛行してくるのだ。


正也「イヤだ! イヤだ! UFOのウソつき!」


 やってきたのが、あの悪の権化のバルタン星人だったので、ムキになって(笑)UFOの写真を破り捨てようとする正也。


バルタン星人「待った! 諸君、地球へのご招待、ありがとう!」


 今度はワイヤーで吊(つる)された実物大(!)の小型UFOは、なんとバルタン星人の顔をモチーフにしたデザイン!


 こういうあたりは「本格SF」というよりも「B級」テイストだが、UFOのデザインなどは脚本には記載されておらず、特撮美術班の管轄、もしくは特撮監督の指示だったのだろうから、石堂先生のせいではないと思われる(笑)。


 この小型UFOに乗ったバルタンの着ぐるみをあおりで捉えて、続いておびえる子供たちを画面の手前に配し、実景の土手の上にホリゾントの青空に浮かぶバルタンとUFOを合成したシーンは絶妙である!


 子供たちの危機に駆けつけようとする矢的と涼子だが、再び身体の不調を訴える涼子。


矢的「大丈夫か!?」
涼子「あたしは大丈夫。行って! 嵐ヶ丘に早く行って!」


 ひたすら涼子を気づかう矢的の姿も女性を気遣う紳士的な一面が出ていてよい。


 異次元空間が放ってくるエネルギーに弱いという意外な弱点を見せた涼子=ユリアンが、か弱さを漂(ただよ)わせながらも「弱い自分を守って」という「私」優先な態度ではなく、大局を見据えて「公」優先な態度を見せる姿にも実に好感が持てるのだ。



 バルタン星人は自身の顔を模した小型UFOから子供たちのもとへと豪快に飛び降りる!


 下にトランポリンを用意しているのだろうスタジオでの撮影だが(笑)、なかなかにカッコいいワンカットである!


 ちなみに、今回のオープニングのテロップでは、「怪獣」名義のスーツアクターとして、佐藤友弘ともう1名、『80』第29話『怪獣帝王の怒り』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101113/p1)から第50話(最終回)『あっ! キリンも象も氷になった!!』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210315/p1)に至るまでのエイティを演じていた奈良光一がクレジットされている。要するに今回の本編班担当部分の人間大サイズのバルタン星人を演じていたのはエイティこと奈良光一なのだろう!――余談だが、今回くらいは「怪獣」名義ではなく「バルタン星人」名義で表記してほしかった。第44話『激ファイト! 80VS(たい)ウルトラセブン』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110226/p1)では「妄想ウルトラセブン」が一応「ウルトラセブン」と表記されていたので――



バルタン星人「さぁ、今度こそは地球をたっぷりと痛めつけてやるぞ~!」


 子供たちを画面の右奥に配して、左手前で子供たちを襲おうとするバルタン6代目の全身を背面から見せるシーンは、これまでのバルタンがなかなか本編で背面を見せることがなかったことを考えると、特撮マニア的にはポイントが高いかもしれない。一連のバルタン星人はそのディテールが判然とせず、三面写真もなかったことから玩具では誤った解釈で商品化されることが多かったので(笑)。


 バルタンの巨大なハサミを手前にして、その間に子供たちを捉えたカットは、その構図の面白さもさることながら、子供たちに迫る「危機感」を端的に表現した演出である!


正也「矢的さ~ん!」
バルタン星人「なぬっ!? クソ~! UGMのアイツか~!?」


 子供たちの危機にようやく駆けつけてくる矢的隊員! バルタンにUGMの専用光線銃・ライザーガンの銃口を向けた!


矢的「バルタン! 子供たちに近寄るな!」
バルタン星人「それはこっちのセリフだ! 近づいたら子供の命はないぞ!」


 バルタンは子供たちにハサミを向け、怪音波を発射する! 頭をかかえて苦しむ子供たち!


矢的「クソっ! バルタンめっ!」
バルタン星人「ヒャハハハハ!」


 バルタンは画面の右手に向かって横向きになり、ハサミを開いて何やら白い物質を放つ!


 このカットではバルタン6代目の右腕が水色、スカート状のヒレが黄色、足のグラデーション模様がオレンジと、けっこう派手目の色彩を中心に塗装されていることがよくわかる。


 バルタンのハサミから発射された白い物体は子供たちを覆いつくして、それは白い袋となって子供たちを幽閉(ゆうへい)してしまった!


 まるでサンタクロースのように白い袋を左肩にかかえて、ジャンプして小型UFOに飛び乗るバルタン星人! 実際には飛び降りるカットを逆回転させたのだろうが、人間を超えた体力・跳躍力を持った存在として、このワンカットはカッコよく描けてはいる。


 矢的、小型UFOに向かってライザーガンを放つ!


 実景の土手の手前で狙撃する矢的と、ホリゾントの上に浮かぶ小型UFO上のバルタンを合成した特撮カットに続いて、小型UFOが破壊されてバルタンが落下していく姿がアップで映し出される!


 この一瞬の特撮カットは、筆者は実物大の小型UFOを爆破して、バルタンのスーツアクターが落下していくのを捉えたものだと思っていた。落下するバルタンが着ぐるみに入ったスーツアクターの演技としか思えないように手足をバタバタさせているからだ。しかし、何度も繰り返して観ているうち、実際にはUFOだけミニチュアであるような気もしてきた。どちらなのだろうか?(汗)


 ちなみに、爆発シーンなどのごく短いワンカットに用意されるミニチュアといえば、言葉は悪いけど形だけを整えた適当なカポックが用意されるのが通例である――初代『マン』第16話でコンビナートを襲撃する人間大サイズのバルタン星人の大群は当時、マルサン商店から発売されていたプラモデルを流用したものだそうだ(笑)――。


バルタン星人「おのれ、おのれ~!!」


 地上に落下したバルタンは、右手のハサミを高々と掲げるや巨大化した!


 初代『マン』第16話に登場した、やや面長で比較的スリムなバルタン星人2代目を少々彷彿とさせるスタイルや、全体的にそれほど細やかに塗装されていないことから、特撮部分でのバルタンは本編部分でのバルタンとの着ぐるみとは別もので、『80』第37話で使用された着ぐるみを流用したものではなかろうか?


 宅地開発中の造成地に出現したバルタン星人6代目!


 画面の手前にはブロック屏、前回の第44話でも目立った街灯を両脇に道路が走っており、その奥でバルタンが画面の右方向に右手のハサミを向けて、オレンジ色の光線を発射する!


 バルタンの光線を浴びて破壊されるビル! 窓枠がいくつも落ちていくのが芸コマ! 画面の右下手前には樹木を配置!


 建築中の家を破壊するバルタンの巨大な足を捉えたカットでは、画面の手前に角材を積んだ軽トラックのミニチュアが!


 そして、バルタンが右手のハサミを振り下ろしてビルを破壊するカットでは、ビルの手前に民家の赤い屋根、画面の右手前に民家、左手前に枯木を配置と、奥行きと立体感を得られる画面構成が続いていく。


 バルタンに破壊されるビルをアップで捉えたカットでは、画面の左手前に電柱を、そこから伸びる電線はビルの爆発とともにスパークまでしている!


 さらに、それに続くカットでは、破壊されたビルから何やら大きな破片がバルタンの手前で吹っ飛んでいる!


 思えば昭和のバルタン星人がここまで徹底した都市破壊を披露したのは今回が初めてのことなのだ。


・バルタン星人初代は、核ミサイル・はげたかを屋上からバルタンに向けて発射したビルと石油タンクを破壊したのみ
・バルタン星人2代目は、コンビナートを破壊したのみ――それも初代『マン』第13話『オイルSOS』での油獣ペスターの破壊シーンの流用(笑)――
・バルタン星人3代目は、悪質宇宙人メフィラス星人の配下として東京・丸の内の28番街に出現したのみ
・バルタン星人ジュニアも巨大化したと思ったら、あっけなく「帰ってきたウルトラマン」のスペシウム光線に敗れてしまった
・バルタン星人5代目は、ウルトラマンエイティとの派手な肉弾戦が演じたが、舞台がUGM基地周辺である郊外の空き地だったことで、都市破壊シーンが描かれることはなかった


 それでも我々は充分に満足してきたのだが、バルタン星人5代目が登場した『80』第37評(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110108/p1)の中でも紹介した、バルタン星人の生みの親・飯島敏宏監督のコメントによると、初代『ウルトラマン』に登場したバルタン星人たちは両手のハサミにけっこう重量があったことから、ウルトラマンとの格闘演出が不可能だったそうだ――結果的にそれでドロくさい格闘イメージがつかずにスマートさを保てたという美点もあったのだろうが――。


 本作『80』版のバルタンの着ぐるみを見ると、ハサミの合わせ目の部分が少しエグれたような感じになっているサマが見受けられ、おそらくそれも軽量化のための工夫のひとつなのだろう。初代『ウルトラマン』から15年近くも経って、もろもろの見えない技術革新や素材革新ともあいまって、初代『ウルトラマン』を再編集した前年79年の映画『ウルトラマン怪獣大決戦』(79年)での初代ウルトラマンVSバルタン星人の新撮部分もそうだったのだが、バルタンとの格闘バトルがついに可能になったということなのだ。


 本話の特撮監督を担当した故・高野宏一(たかの・こういち)がバルタン星人を演出するのは、初代『ウルトラマン』第33話に登場したバルタン星人3代目以来となる。


 まぁ、子供や特撮マニアたちの過剰な想い入れとは異なり、スタッフはオトナのお仕事として取り組んでいるのだから、バルタン星人を演出するにあたって過度に感傷的で万感な感慨深い想いがあったりするワケでもないだろう(笑)。しかしもちろん、子供たちの人気怪獣(宇宙人)ではある今回のバルタン星人の格闘&破壊の特撮演出には、実に気合いというものが感じられる。


 ちなみに、先の『80』第37話の特撮監督は佐川和夫であった。氏もバルタン星人Jrが登場した『帰ってきたウルトラマン』第41話の特殊技術(特撮監督)を担当している。この回は特撮シーンの中心がバルタン星人Jrよりもロボット怪獣ビルガモとなっていたが。



 画面の中央よりやや左手奥のバルタンに、右手前からUGM戦闘機スカイハイヤーとシルバーガルが攻撃に向かう!


 続く攻撃シーンに至るまで、画面の手前にはビルや民家、建築中の建物や電柱などが配置され、やはり画面に奥行きと立体感を醸(かも)し出す。


 これらのシーンの合間に、バルタンが左手に持った白い袋に閉じこめられた子供たちが転げ回る描写を、何度も挿入しているのも緊迫感が増してよい!


矢的「キャップ、バルタンが持ってる袋の中に、子供が5人入ってます!」
オオヤマ「子供? 袋に子供が入ってる! 撃つな!」
イトウ「えっ!?」
フジモリ「クソ~っ!」


 子供たちの入った袋を盾にするかのごとく、攻撃するUGMに対して得意げに左手を突き出すバルタン!


 そして、右手のハサミを振り回しながらさらに進撃を開始! 建設中のマンションにハサミを振りおろすや、中層階にスパークが走る!


 破壊されるマンションをアップで捉えたカットでは、バルタンのハサミの左手前に樹木が配置されることにより、その巨大感を一層感じさせている。



涼子「矢的!」
矢的「ウム!」


 バルタンに向かって駆け出す矢的! 正也の名を叫ぶ山野夫妻のそばを通り越し、変身アイテム・ブライトスティックを高々と掲げた!


矢的「エイティ!!」


 ウルトラマンエイティ登場!


 画面の右手にエイティの下半身を背面から、画面の左手奥にバルタンを捉えて、エイティの足元に電柱を配置し、そこからバルタンの方に電線が伸びているという、遠近感が的確に表現された画面構成。


 エイティ、側転を連続させてバルタンに向かうが、住宅群やブロック屏、電柱などを画面の手前にナメながらカメラが横移動。


 画面の中央に樹木を配置し、その左奥にエイティ、右奥にバルタンと、にらみあう両雄を捉えたあと、エイティが左足でバルタンにキック、バルタンが右手のハサミでエイティをド突くや、エイティはそれをつかんでバルタンを投げ飛ばす!


 エイティ登場からここに至るまでが、なんとカットを割らずにワンカットだけの長回しで撮られているのだ! 両スーツアクターのスピーディーなアクションを最大限に活(い)かした、臨場感あふれる演出である。


 投げられたバルタンは、画面に背面を向けて着地!


 本話ではバルタンの背面がアクションが多いせいか、よく映し出されている。きちんとつくってある着ぐるみなのだからマニア諸氏は見てくれよ! といった主張を感じてしまうのは、筆者がそういったマニア目線で観ているからに過ぎないゆえの錯覚なのだろう(笑)。


 バルタンの手前には民家の屋根、右手前には樹木と、常に比較対象物を配置することで巨大感やリアル感も醸し出している。


 『てれびくんデラックス 愛蔵版ウルトラ兄弟大百科』(89年・小学館ISBN:4091014224)に掲載された、撮影中にバルタン星人の頭部がすっぽ抜けてしまった写真は、このあたりの一連のシーンのNGカットだろう。


 画面の左手前に背面から捉えたバルタンの右手のハサミから、右手奥のエイティに向かってオレンジ色の光線が放たれる!


 エイティは高々とジャンプしてこれをよけ、画面の手前に宙返りしてバルタンに向かうという、絶妙な立体感とアクロバティックな演出。


 着地したエイティの下半身を画面の右に背面から(手前には樹木を配置)、画面の左にバルタンの全身(手前に民家)を捉えたあと、バルタンは子供たちが入った袋をエイティに突き出す!


 再び袋の中で転げ回る子供たちが映し出され、画面の左手前に背面から捉えられたバルタンから、エイティは画面の中央奥をじりじりと後退(画面の手前右にビルを配置することで、より遠近感を表現!)。


 バルタンの姿が消滅し、それを追ってエイティが画面の左手に向かって走る!


 カットが変わって、画面の中央よりやや左にエイティの全身を背面から捉え、しばらくして画面の右に再び姿を現すバルタンの全身が背面から捉えられる。


 それぞれの手前に先ほどの民家と樹木が配置されていることにより、同じ場所に位置していることをさりげなく表現。


 バルタンは右手のハサミでエイティの頭を、さらに胸をド突き回す!


 画面の手前の中央に配置された民家の屋根、さらにその上に見えている枯木の奥を、吹っ飛ばされたエイティが宙を転げながら大地に落下していくさまが捉えられる! 画面の両脇の手前には樹木を配置と、どこまでも奥行きが感じられる画面構成だ。


 エイティが両腕をL字型に組んで必殺技のサクシウム光線、バルタンが右手のハサミからオレンジ色の光線を同時に発射!


 宙で両雄の光線が激突、炸裂(さくれつ)する!


 画面やや左寄り手前にサクシウム光線ポーズのエイティの全身を背面から、画面やや右寄り奥に右手のハサミをエイティに向けるバルタンの全身を、ホリゾントの下に連なる山並みを背景に、バルタンの手前に民家を配置して捉えた構図は、光線のぶつかり合いを表現した光学合成もさることながら、立体感を強調した美しい絵でもある。


 カットが変わって、今度はサクシウム光線ポーズのエイティを画面の左奥に正面から捉え、バルタンは背面から右手前に捉えられる。画面の下手前には瓦屋根の民家が並び、両者の光線が宙で激突して炸裂している真下の位置にビルを配置と、常に比較対象物を置くことが遠近感や立体感を醸し出す。


 遂に両者の光線が空中で大爆発!!


 衝撃で吹っ飛び、ひっくり返るバルタンのスカート状のヒレがアップで捉えられる。


 そのスカートのヒレは、近年発売されている玩具では正確に表現されている、ヒレ後方中央部の昆虫のような羽根状の部分が、この時点できちんとモールドされていることも判明!(笑)


 放映当時、ガシャポン自販機で発売されていたポピーの怪獣消しゴムのバルタンは、ヒレに多数モールドされた四角形のヘコみ状の模様が、中央部でもそのままつながっているかのように表現されていたが(この当時までに発売された大半の玩具がそのように誤った解釈で造形されていた)、この点においても『80』版バルタンは初代を忠実に再現しようという試みがあの当時なりになされていたのであった。


 立ち上がったエイティは、バルタンに向かってジャンプして奇襲をかける!


 バルタンもまたジャンプして宙に逃れる!


 画面の左でジャンプしてバルタンに迫ろうとするエイティの全身を背面から捉えて、画面の右手前の民家の奥をバルタンが宙に高々とジャンプ!


 スピーディーでアクロバティックなスーツアクターの熱演を、最も効果的に表現するカメラアングル。


 着地したバルタンの下半身を画面の左手前に捉えて、スカート状のヒレの後部がアップに!


 画面の下手前に民家の瓦屋根、中央奥にエイティの全身と、絶妙な遠近感を表現!


 バルタンはさらにエイティに向かって袋を突き出し、その中で転げ回る子供たちが映し出される!


 エイティは胸中央のカラータイマーから、オレンジ色の光の輪が連続して発射されるタイマーショットをバルタンに目がけて放った!


 それを浴びたバルタンは赤く発光して崩れ去るように消滅する!


 このシーンでは戦う両者がロング(引きの映像)で捉えられ、画面の下手前にはブロック屏が並ぶ宅地造成地を配置している。


 そして、消滅したバルタンを追って画面の左にエイティが駆けていき、向き直って構えるや、エイティが元々いたあたりの画面の右位置に再びバルタンが出現して、エイティ目がけて右手のハサミから光弾を発射し、それに苦しむエイティまでが長回しのワンカットで捉えられている。両スーツアクターのアクションとともに、映像のマジックが最も効果的に表現された演出である。


 「フォッフォッフォッ」という高笑いとともに、表情のアップから再び姿を消してしまうバルタン!


 エイティの活動限界が迫ったことを知らせるカラータイマーが点滅をはじめた! 画面の左にひざまづいてしまうエイティ!


 その右奥に再び姿を見せるバルタン!


 続いて、画面の右手前にバルタンの下半身を背面から捉えて、左奥に苦しむエイティと、両者の主観からのカットを交互に割っていくのを連続させることで、絶妙な臨場感を醸し出している。


ナレーション「ウルトラマンエイティは、初代ウルトラマンから習ったバルタン星人への必殺技・ウルトラスラッシュを思い出したのだ!」


 ……そんな大事なことを今まで忘れとったんかいっ!(笑)


――ここで初代『マン』第16話で初代ウルトラマンがウルトラスラッシュで、飛行してくるバルタン星人2代目を真っ二つにする有名なシーンも挿入されている――


 画面の左から側転して画面の右にいるバルタンに向かっていくエイティだが、またしてもバルタンは消滅!


 エイティは両腕を左右水平に広げてから、両手の先をカラータイマーの前に合わせたタメのあと、右手から光の輪を出現させて投げるようにウルトラスラッシュを放った!


――ウルトラスラッシュとは初代マンの必殺技・スペシウム光線のエネルギーをリング状にして投げつける切断技だ。第3次怪獣ブーム以前の書籍では「八つ裂(ざ)き光輪」と呼称されることが多かった――


 この一連も、宅地造成地を画面の下手前に配置したロングで捉えられて、エイティの豪快なアクションが連続して楽しめるのがよい。


 しかし、続くバルタンが頭部から切断される状態で姿を現すシーンは、正直いかにもつくりものなカポックが使用されており残念ではある。どうせならば、『A』第8話『太陽の命 エースの命』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060624/p1)でウルトラマンエースが幻覚宇宙人メトロン星人Jr(ジュニア)をその必殺技・バーチカルギロチンで縦割りに真っ二つにしたように、着ぐるみそのものをぶった切ってほしかった!――その後に各地のアトラクションショーへの貸し出しで稼ぎ頭となるであろう、あるいはすでにそのスケジュールが入っていたかもしれない金ヅルの人気怪獣なのに、我ながら無責任な意見である(笑)――。


 ここに至るまでにあまりに迫力のあるバトルが展開されてきたこともあり、唐突でややあっけない幕切れは個人的には少々欲求不満が残る。


 もっと云うなら、ここで漫画『ウルトラマン80 宇宙大戦争』評の中でも紹介した、小学館『てれびくん』80年10月号に掲載された居村眞二(いむら・しんじ)先生による『ウルトラマン80』コミカライズ(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110107/p1)のように、バルタン星人に苦戦するエイティを初代ウルトラマンスペシウム光線が救う! などという、唐突であってもサービス満点の展開があればなぁ。前回の第44話もいくらニセものとはいえウルトラセブンがゲストだったのだから、ウルトラ兄弟の誰かをゲスト出演させてほしかったよなぁ(笑)。



矢的「いいか、みんな。あんまり意地の張りっこしてると、こういうことになるんだぞ!」
子供たち「どうも、スイマセ~ン」
涼子「悪い宇宙人たちは私たちの心をいつも狙ってるんだから、もうケンカしちゃダメよ」


 ラストの涼子のセリフは、まさに先述した初代マン第33話『禁じられた言葉』において、サトル少年に地球を売り渡すように迫ったメフィラス星人のことも彷彿とさせるものがあった。第2期どころか第1期ウルトラシリーズの時点ですでに、人間の負の感情の意味である「マイナスエネルギー」の概念が芽生(めば)えていたともいえるのだ。


 いずれにせよ本話も第37話同様に、バルタン星人は少年の心に目をつけており、「怪獣も結局は人間が呼び出したものである」という石堂先生のスタンスはここでも見事に貫かれたともいえる。


 「学校編」の設定を捨てたことで、一度は失われたかに見えた「マイナスエネルギー」の概念が、「児童編」や「ユリアン編」でそれと謳(うた)わずとも再び描かれたとも取れる描写が散見されたことにより、結果的に『80』をして「初志貫徹(しょしかんてつ)」させたとも取れる事態になったことは、やはり石堂先生による、そうしたエピソードの影響が大きかったとも思えるのだ――まぁ、石堂先生としては、そんな殊勝(しゅしょう)なことは微塵たりとも意図していなかったとは思うけど(笑)――。



 「ユリアン編」の一編ではあるが、ユリアン=涼子の出番はごく少ない――ひょっとして脚本はユリアン編が製作決定される以前に脱稿されており、先にも語ったが、ユリアン関連の部分は円谷プロの文芸部なり満田プロデューサーなりが撮影現場で加筆されたものかもしれない(汗)――。


 本話は完全に石堂先生お得意のセリフ漫才が炸裂する抱腹絶倒(ほうふくぜっとう)の「児童編」であった。そんなエピソードに登場したバルタン星人はシリアスであるワケがなく(笑)、「どチンピラ」なキャラクターではあったものの、巨大化以降の都市破壊シーンやエイティとのバトルは実に迫力あふれる仕上がりとなった。第37話に比べるとバルタンの出番も多くて、娯楽作品としては合格点が与えられる出来であるかと思えるのだ。


 ただ、当時は先述の『てれびくん』においては、居村先生が連載していた『ウルトラマン80 宇宙大戦争』(81年2~4月号・ISBN:4813020089)で、ウルトラ一族対バルタン星人大軍団の壮絶なスペースオペラが展開中だったこともあり、それに比べると「ご町内」の出来事として終わった今回の作品は、小学生たちの視点からするとあまりにスケールが小さく映ってしまったかとは思えるのだ。
 いや、今回のバルタンが思い描いた少年の心を手始めに、猜疑心で地球を全面戦争に陥(おとしい)れる侵略構想自体は実は高尚なものがある。しかし、子供たちや思春期・青年期の当時の特撮マニアたちに対しては逆に非常に俗っぽく映ったことは間違いがないだろう――なにを隠そう、若いころの筆者自身もそう感じていたのだし(笑)――。


 前回の第44話の視聴率が好調だったこともあってか、今回は相対的に関東・中部・関西の全地区で前回と比べて低下している。関東の0.4%の低下に対し、むしろこれまで比較的に好調だった中部と関西での落ちこみが激しく、それぞれ前回から2.9%、3.5%も低下した――関西では実は先代のバルタン星人5代目が登場した先の第37話が全話中最低の視聴率8.6%だった(汗)――。


 ただまぁ、視聴率は前話のエピソードに対する好悪にも影響されることの方が大だとも推測されるので、視聴率自体をそのエピソードに対する視聴者の評価や好悪の結果だとして用いることもまた危険だろう。



 なお、日本とオーストラリアの合作である『ウルトラマンG(グレート)』(90年・バンダイビジュアル)は全13話が製作された。しかし、『新・ウルトラマン大全集』(94年・講談社ISBN:4061784188)によると、実はメインライターである脚本家の会川昇(あいかわ・のぼる。現・會川昇(あいかわ・しょう))によって、続編の「ウルトラマンG 新シリーズ案」も準備されており、第14話~第17話はなんと「バルタン星人編」と題されていたそうである!


 バルタン星人が地球の内部に眠っている怪獣を覚醒させるが、『G』第10話『異星人狂奏曲(エイリアンラプソディー)』に登場して、その後は地球でひっそりと生活していた夫婦宇宙人である変身生命体リュグロー&ベロニカが合体した巨大エイリアンが立ち向かうも敗北する。そこにウルトラマングレートが帰還してくるが、当初は主人公である防衛組織・UMA(ユーマ)のジャック=シンドー隊員ではなく、若い刑事に乗り移っており――この設定はのちの『ウルトラマンネクサス』(04年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041108/p1)を彷彿とさせるものがある!――、その刑事が瀕死(ひんし)の重傷を負いながらも、ジャックに変身アイテムであるデルタ・プラズマーを届けるといったストーリーの企画書が紹介されているのだ。そして、その中には「ウルトラ兄弟が駆けつける展開もアリではないか」との一節があったのだ!


 この企画書を紹介したライター氏も「たぎるものがあるのだが」との個人的な感慨を入れて紹介文を締めくくっている。こういったエモーショナルな文章表現は、奥付にもある、のちに『ウルトラマンメビウス』(06年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070506/p1)のメインライターを務める、当時は一介の特撮ライターだった赤星政尚(あかほし・まさなお)による筆ではないかと思われるのだが(笑)。


 残念ながらこの企画は幻に終わってしまったが、バルタン星人をレギュラー悪に据(す)えた、ウルトラ兄弟も登場する連続ストーリーからは、『ウルトラマン80 宇宙大戦争』と通じるものを感じてしまう。もちろん、1980年当時はすでに中学3年生であったろう會川昇が、幼児誌に連載されていた同作を読みこんでいたとはさすがに思えないのではあるけれど……


 よほどの真面目なドラマ&テーマ至上主義者でもないかぎりは、ウルトラシリーズのファンであれば誰もが夢見るウルトラ一族VSバルタン星人大軍団。本話も充分に面白かったのだが、やはり当時の子供たちが観たかったのは、『ウルトラマン80 宇宙大戦争』ほどではなくても、大宇宙をまたにかけたバルタン軍団VSウルトラ兄弟ユリアンのような一大戦争絵巻ではなかっただろうか?(笑)



<こだわりコーナー>


*正也の父・大作を演じた大谷淳は、国際放映製作の名作児童ドラマ『ケンちゃん』シリーズ(69~82年・TBS)後期の作品にレギュラー出演していた俳優である。『80』と並行して放映されていた『カレー屋ケンちゃん』(80年・TBS)にも店員役で出演していた。
 なお、この当時に春と秋の番組改編期にTBSが新番組宣伝の一環として放送していた『4月だョ! 全員集合』――秋はもちろん『10月だョ! 全員集合』名義であった(笑)――の80年4月放送分では、この『カレー屋ケンちゃん』と『80』の紹介が寸劇形式で同時に行われていた。『カレー屋ケンちゃん』のお店でUGMの隊員たちがカレーを食べている――たしか矢的が『ケンちゃん』の主人公・2代目ケンイチを演じた子役・岡浩也(おか・ひろや)にライザーガンを披露して、ケンイチくんが「うわぁ~、カッコいいなぁ~」と感動していたような気が――。そこに「怪獣出現!」の通報が入って、隊員たちはカレー代を払わずに即座に出動してしまう(笑)。続いて、『80』第3話『泣くな初恋怪獣』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100516/p1)の特撮セットにおいて、硫酸怪獣ホーに戦闘機・スカイハイヤーとシルバーガルが攻撃をかけるばかりでなく、ケンイチと妹のチャコ・弟のケンジがホーに殴りかかる(笑)。そして、ウルトラマンエイティが登場! ホーに勝利をおさめるが、そこにケンイチの母――『ケンちゃん』シリーズで最も多く母親役を演じていた岸久美子(きし・くみこ)――が登場し、UGMが払わなかったカレー代をなんとエイティに請求! エイティはどうしていいかわからず、困り果てるというものであった(笑)。


*正也の母・よし子を演じた石井富子は、『快獣ブースカ』(66年)第31話『飛んできた遊園地』の看護婦役、円谷プロ製作の空飛ぶ戦艦の活躍を描いた『マイティジャック』(68年)第10話『爆破指令』では初代『ウルトラマン』の科学特捜隊・イデ隊員役で知られる二瓶正也(にへい・まさなり)が演じる源田(げんだ)隊員にからむバーのママ、『ウルトラマンA』第18話『鳩を返せ!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060907/p1)では飼育していた伝書鳩を異次元人ヤプールによって大鳩超獣ブラックピジョンに改造されてしまう悲劇の少年・坂上三郎の母を演じるなど、円谷作品には出演歴が多い女優である。


*正也の級友・土井を演じた南沢一郎は、これまた『80』と同時期にスタートした『1年B組新八先生』(80年・TBS)に西沢始役でレギュラー出演していた。主役回もあり、たしか夏休みの時期に放映された林間学校の回(?)で、この機会に想いを寄せる同級生の女子生徒と近づこうとするも失敗を重ねた末に、最後は想いが伝わるという内容であった(本放送と再放送を一度観たきりの記憶なので、事実と異なっていたら申し訳ない)。
 なお、同じく『新八』にレギュラー出演していた生徒役の俳優の中で、小田康平役の斉藤康彦と永井真役の岩永一陽は、先述の『80』第3話でそれぞれゲスト主役の中野真一と恋仇の柴田を演じていた。また、この回で真一が片想いをするミドリを演じた鈴木真代(70年代後半の東映ヒーロー作品に子役でよく出演していたようである)は、『3年B組金八先生(Ⅱ)』(80年・TBS)に佐々木博子役でレギュラー出演。第22話『父の死と高校進学』は彼女の主役作品である。同様のパターンとしては、『80』初期の学校編でスーパー(ススム)役でレギュラー出演していた清水浩智もまた、『金八Ⅱ』に学級委員の羽沢康男役で出演することとなる。第11話『クソまみれの英雄達』は彼の主役作品でもある。


(了)
(初出・当該ブログ記事~特撮同人誌『仮面特攻隊2012年号』(2011年12月29日発行)所収『ウルトラマン80』後半再評価・各話評より分載抜粋)



編集者付記:


 奇しくも当該記事のUP日付に放映された『3年B組金八先生ファイナル~「最後の贈る言葉」4時間SP(スペシャル)』の最後の卒業式のシーンに、『80』でミドリを演じた鈴木真代とスーパーを演じた清水浩智も出演! 『80』#42「さすが! 観音さまは強かった!」に登場するハズだった、芸能界を引退して政治家に転身したはずの三原じゅんこも出ていた。いや、30年以上にわたる国民的な人気番組シリーズだったのだから、選挙民のみなさんも国民のみなさまも文句はつけないとは思いますが。むしろ、彼女は義理人情に篤(あつ)いとポイントが上がるくらいだろう(笑)。エンディングテロップでは過去の卒業生中でも現役芸能人は2列ではなく1列扱いで表記されていたけど、彼女だけ元芸能人とはいえ大物なのに2列表記のところで表示されていたのは(しかし、『金八』第1シリーズ・昭和54(1979)年度・卒業生のラストのトリではあった)、ご自分から1列表記を辞退・遠慮でもされたのだろうか?


 なお、ジャンルファン的には、第4シリーズ・平成7(1995)年度卒業生である、『鳥人戦隊ジェットマン』(91年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110905/p1)の子役敵幹部・トランを演じた久我未来(くが・みく)と、『五星(ごせい)戦隊ダイレンジャー』(93年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20111010/p1)の6人目、小学生が変身する白い戦士・キバレンジャーを演じた酒井寿(さかい・ひさし)という、ふたりの少年子役上がりの健在が確認できたことがうれしかった。『金八』第4シリーズからでももう16年、彼らも30歳前後ですか……。


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