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ウルトラマン80 47話「魔のグローブ 落し物にご用心!!」 ~ダイナマイトボール攻撃が強烈!

(YouTubeウルトラマン80』配信・連動連載予定)
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『ウルトラマン80』全話評 ~全記事見出し一覧


ウルトラマン80』第47話『魔のグローブ 落し物にご用心!!』 ~ダイナマイトボール攻撃が強烈!

紫外線怪獣グロブスク登場

(作・石堂淑朗 監督・東絛昭平 特撮監督・佐川和夫 放映日・81年3月4日)
(視聴率:関東8.2% 中部12.0% 関西11.9%)
(文・久保達也)
(2011年6月脱稿)


 今回は珍しく防衛組織UGMの気象班・小坂ユリ子隊員とオオヤマキャップ(隊長)のカラみから物語がはじまる。


 ここ数日、太陽光線の中の「紫外線」の分量だけが減少を続けているという異常事態にユリ子が気づいたのである。


 夕焼け空の中に突如として浮かび上がった美しいオーロラを見上げる市民たち。そして、その隠した正体は我らがウルトラマンエイティこと主人公・矢的猛(やまと・たけし)隊員とウルトラ一族の王女さま・ユリアンこと星涼子(ほし・りょうこ)隊員。
 しかし、日が沈むとともに、そのオーロラもまた姿を消していった…… そのあとに起こる怪事件の前兆を端的に表現した、実に秀逸(しゅういつ)な導入部の演出である。


 少年野球チームでセンターを務める玉井正(たまい・ただし)。


・第41話『君はゼロ戦怪鳥を見たくないかい?』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110205/p1)のゲスト主役が「ゼロ戦おたく少年」、つまり「戦闘機」ネタだったから「武」の一文字を付けて「武夫(たけお)」
・第42話『さすが! 観音さまは強かった!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110212/p1)のゲスト主役は、観音像に「願掛け」をするような信心深い少年だから、「信仰」の「信」の一文字を取ってきて「信夫(のぶお)」


 彼らに続いて、野球少年だからその名前に「玉」の一文字を入れるとは、実に『80』での石堂脚本回らしい漫画チックなネーミングである(笑)。


 彼は試合中にエラーをして、相手チームの打者にランニングホームランを与えてしまった。


「バカヤロ~~っ!!」
「なにやってんだよ~~!!」
「帰れ、もう~っ!!」


 とチームメイトからは猛烈な非難の嵐。


 正クンは手にしたグローブを見つめて、ゲンコツで殴って地面に叩きつけた!


正「クソっ! おまえが悪いんだ! おまえのせいだぞ~っ! クソ~っ!」


 叩きつけたグローブを足で強く踏みつけてしまう正クン。運動オンチの筆者としては、かつては正クンと同じように球技大会ではクラスの足を引っ張ることばかりやらかしていたために――もうそれだけで立派なイジメの対象となってしまう――、この場面には妙に感情移入をしてしまうのだ(笑)。


 そのままグラウンドにグローブを放置して帰ってしまう正クンだった。しかし、帰宅した正クンは、母・よし子にこっぴどく叱られてしまう。


 ちなみに、同じく石堂先生が脚本を執筆された第45話『バルタン星人の限りなきチャレンジ魂』のゲスト主役・山野正也(やまの・まさや)少年の母の名前も「よし子」であった。怪獣の出現理由のユニークさや、抱腹絶倒のセリフ漫才などのアイデアが光る石堂先生も、このあたりは安直だったりする(笑)。


よし子「あのグローブは3年間、ずっとアンタの左手の友だちだったのよ~! 4月から中学に行くアンタの小学校の最高の思い出の品じゃないの!?」


正「だってアイツのおかげでランニングホームラン喰らって、ぼくは最低守備賞をもらったんだぞ!」


よし子「そんなのグローブさんの責任じゃないでしょ! 正の守備がヘタだったからでしょ! ひろってらっしゃい! でないとウチに入れません!」


 「グローブさん」(爆)などと野球のグローブごときに敬称をつける一方で、「守備がヘタだったから」(爆)などと傷心する正クンにさらに追いうちをかけてしまうようなママ・よし子!
 実に正論なのだが、たとえ正論であってもそれが人の心を救ってみせるとはかぎらないのである(汗)。しかしだからと云って、グローブや他人のせいにする正クンのことをアリのままの姿で受けとめてあげればよい! というものでもないのがまたムズカしいところではある。それで世の中を甘く見てナメてしまって自堕落に走る子供たちも全員とはいわず一定数はいる以上は、時として「愛の鞭」としての叱責も必要なのである。そのあたりの「子育て」や「人間関係」における機微というものは「飴」と「鞭」、押したり引いたりの永遠の「綱引き」なのである(笑)。


 そして、そのやや強くてキツく出てくるママの姿はまた、同じく石堂先生が脚本を執筆された第41話『君はゼロ戦怪鳥を見たくないかい?』において、競技大会中に行方不明になってしまったゼロ戦のラジコン模型を必死で捜そうとするゲスト主役の同じく小学6年生・斉藤武夫(さいとう・たけお)クンの母親・美絵子(みえこ)が、


「もしゼロ戦がもう出てこないようでしたら、あなたのゴルフ棒も売ってください!」


 などとその旦那さんである秀夫を脅かしていたサマをも彷彿(ほうふつ)とさせるものがある(笑)。



 この回で美絵子が語っていた、古代中国の格言「玩物喪志(がんぶつそうし)」。


「物にこだわり過ぎると人間がダメになるってこと」


 という「物に執着しすぎることへの警鐘」と本エピソードでの「物を大切にしようという警鐘」は、真逆であり矛盾するものではあるけれど(笑)。


 両者をアウフヘーゲン、弁証法的に止揚をするならば、そのドチラであっても両極端はイケナイのだ! ということが「人の世の真実」ということになるのだろうけど、もちろん本エピソードや第41話『君はゼロ戦怪鳥を見たくないかい?』の作品テーマがそうであったということでもない。
 こういう複雑怪奇で矛盾に満ち満ちた、あーでもないこーでもないという、大局を見据えたようなお話は、「子供向け番組」や「道徳説話」などにはなじみにくい種類のものだから(笑)、また別の「物語」の形式ではない「評論」や「人生訓」などのかたちで言及すべきようなことなのだろう。




 やむなく「グローブさん」(笑)を取りに戻った正クンだが、なぜかなかなか見つからない。ここのシーンは野球のバットで落ち葉をカキわけて空を見上げて何度もタメ息をついたりと演出や演技も実に細かい。
 第45話『バルタン星人の限りなきチャレンジ魂』評(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110327/p1)でも引用させていただいた、書籍『君はウルトラマン80を愛しているか』(辰巳出版・06年2月5日発行・05年12月22日実売・ISBN:4777802124))で星涼子役の萩原佐代子(はぎはわ・さよこ)がインタビューで言及していた、子役に対しても決して容赦はせずに怒鳴っていたらしい東條監督の手厳しい演技指導の成果だろうか?(汗)


 木々の間から太陽の日差しが照りつける描写が、さりげなくその後の伏線ともなっている。


 やがて、めでたくグローブを発見した正クンだったが、


「こら、グローブ! ホントはボクは、おまえなんか許してないんだぞ! おまえを連れて帰らないと、ママがウチに入れてくれないから、仕方なしに連れて帰るんだぞ!」


 と、母のよし子同様に「グローブ」を擬人化して話し掛けている(笑)。


 このあと、正クンは危機に見舞われるのだが、終始こんなコミカルな調子なので、良い意味で本話は楽しい滑稽味の方が先に立ってしまうのだ。


 そのとき、空に美しいオーロラが輝いた!


 そして、そこから火の玉のような赤い物体が地上に接近!


 あたり一面がムラサキ色の光に染まって、赤い物体から白い波状光線がグローブに向かって発射された!


 脚本家や監督はそれぞれ異なってはいるものの、


・第33話『少年が作ってしまった怪獣』(作・阿井文瓶・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101211/p1)で、ゲスト主役の健一少年が作った怪獣人形に憑依(ひょうい)して工作怪獣ガゼラと化し、城野エミ(じょうの・えみ)隊員に「怪獣の魂」と名づけられたナゾの発光体
・第38話『大空にひびけウルトラの父の声』(作・若槻文三http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110115/p1)で、中津山上空の雲海に潜んでおり、怪獣の絵が描かれていた凧(たこ)に取り憑いて心霊怪獣ゴースドンと化した「怪獣のオーラ」


 それらに近いイメージで、今回のナゾの赤い物体は描写されている。


 とはいえ、見た眼的には近いものがあっても、純物理的・純科学的な存在である「紫外線」による超常現象によって発生した今回の事件が、先の「怪獣の魂」や「怪獣のオーラ」と同等のものだとするのは、やや強弁にすぎるだろう。
 『80』第1クールの「学校編」の設定の消滅とともに、人間の負の感情によって発生するマイナスエネルギーという設定も一度は消滅してしまった。しかし、先の第33話や第38話の「怪獣の魂」や「怪獣のオーラ」は広い意味ではマイナスエネルギーだったとはいえるだろう。とはいえ、これらは人々に由来する負の感情によって発生したものではなく、元からあった悪の精神生命体・精神エネルギー・悪霊のようなものだろう。
 そういう意味では「学校編」におけるマイナスエネルギーとはイコールではないし、紫外線に至ってはムラサキ色の光よりも波長が少々短い単なる「光」でしかないのだからマイナスエネルギーですらなかったかもしれない(笑)。


 これは何も『80』という作品の設定的な不整合を批判しているのではない。むしろ思春期の少年の負の感情=「マイナスエネルギー」や、空中に浮遊している茫漠(ぼうばく)とした「マイナスエネルギー」と呼応しあって、自然と怪獣が実体化を果たすという設定の方に、「精神エネルギーの実体化」という概念自体が後年のジャンル作品のように一般化していなかった当時の視聴者たちは、ややムリを感じていたのも事実なのである。
 『80』序盤でのマイナスエネルギーがもっと明瞭ないかにもな異物であったり、明確な悪意を持った存在ではなかったところに、『80』は勧善懲悪活劇としては「弱み」を抱えてしまっていた。それならば、少年の負の感情に加えて「怪獣の魂」や「怪獣のオーラ」や「異次元人ヤプール」のような媒介物を通じて怪獣を出現させた方がまだムリはないのである。だから、マイナスエネルギーという設定にも通底していくような「怪獣の魂」や「怪獣のオーラ」といった存在を登場させて、ゆるやかに作品を変節させていく手法は、あくまでも結果論だが『80』という作品の「初志」をかえって貫徹させることにもつながったようにも見えるので、これはこれでよかったのではなかろうか?



 驚いて木の陰に隠れた正クンの眼前で、「グローブさん」(笑)は発光してムラサキ色の奇妙な物体へと変化を遂げた!


 それはグローブというよりかは、人間の手のひらを下に向けた状態の姿に、触角を生やして目と口も備えている。
 正クンのグローブは、紫外線怪獣グロブスクと化してしまったのだ!


グロブスク「ヒャハハハハハ!」


 UGM専用車・スカウターS7(エス・セブン)で紫外線の調査で巡回している矢的とユリ子。フロントガラスに映っている景色でわかるように、実際には市街地を走るスカウターS7の後部座席からの主観映像で、運転席の矢的と助手席のユリ子の会話の場面を捉えている。しかし、ユリ子の横顔はずっと映しだされてはいるものの、矢的の横顔はまったく映されていない。実際に運転しているのはUGMのヘルメットと隊員服を着用した吹き替えの人物であるようだ(?)。
 セリフをしゃべりながらの運転はやはり危険だし、当時の特撮ジャンル作品は基本、アフレコ(アフター・レコーディング)であとで声入れするからこその演出なのだろう――ハリウッドのアクション映画なども、走行する列車の上やクルマなどに録音技師まで搭乗させるのは危険だし、爆発やクルマのエンジン音や走行時の風切り音などで人間のセリフがうまく録音できないので、そこはアフレコだったりいっそ全編まるごとがアフレコだったりすることもあるそうで、アフレコという手法もけっこう一般的なものなのだ――。


 しかしながら、続いて車内のルームミラーに運転席の矢的の姿を映しだすことにより、矢的を演じる長谷川初範(はせがわ・はつのり)が実際に運転しているかのように錯覚させるハッタリ演出は見事である。ここのカットは実際には停車状態で撮られたものだと推測するので(笑)。


矢的「海水浴などで(肌を)焼きすぎると水ぶくれになる。あれが紫外線の作用だったね」


 ユリ子と紫外線について語る矢的の姿に続いて、


・画面中央に太陽を配して、そこから猛烈に紫外線が大地に降りそそいてくるかのようなイメージカット
・そして奇声を発して地面スレスレに宙を浮遊して、正クンを翻弄(ほんろう)してくるグロブスクの姿


 と、この両者の活動の「活発化」に関係性があることを明示している切り仮しのカットが、ベタだが映像作品というものの基本を押さえてもいる。


正「コラ! もういっぺん使ってやる! もうエラーするな!」


 野球でエラーしたことをいまだにグローブのせいにしている正クンが、ひざまづいてグロブスクにさわろうとするや猛烈な火花が飛び散った!


 正クンをカラかうかのように、奇声を発して宙を浮遊するグロブスク!


正「あっ、逃げるな! おまえに逃げられると、ボクは家に帰れなくなってしまう! あっ、待て!」


 グローブが怪獣化したことの方がふつうは「恐怖」になるハズなのに、正クンにとってはそんなことよりもウチに入れてもらえないことの方がよほど「恐怖」であるらしいことが、本話の滑稽味をいやます。しかし、奇声を発して宙を飛び回る「グローブさん」を連れて帰った方が、よけいに家に入れてもらえないのではなかろうか?(笑)


正「あっ! おまえ、グローブのくせにナマイキだぞっ!」


 落ちていた棒切れでグロブスクに殴りかかる正クン。


 激しく火花が飛び散って、やっと恐怖を感じたのか、助けを求めて叫びだす正クン!


 非常事態を察知した矢的隊員が現場に到着した!


 だが、グロブスクの姿を見た矢的は開口一番……


「ン? なんだ? 青いカニか?」


 まぁたしかに巨大怪獣ではないし、ただの浮遊する小型生物だから、ヨコ長なカニのような姿に見えたのだろう(笑)。こういうところで瞬間、ズラしを入れて「緩急」を付けてみせるのも石堂脚本の特徴である。


 ちなみに石堂先生は、


・『マグマ大使』(66年・ピープロ フジテレビ)第47話『電磁波怪獣カニックス 新宿に出現』~第48話『東照宮(とうしょうぐう)の危機・電磁波怪獣カニックス大暴れ』の前後編では、電磁波怪獣カニックス
・『帰ってきたウルトラマン』(71年)第23話『暗黒怪獣 星を吐け!』では、カニ座怪獣ザニカ
・『ウルトラマンタロウ』(73年)第7話『天国と地獄 島が動いた!』では、大ガニ怪獣ガンザ


 などのカニの怪獣を幾度か登場させている。ザニカのみならずカニックスも、『マグマ大使』のレギュラー敵である宇宙の帝王・ゴアが蟹座から呼び寄せた怪獣だった。そして、石堂先生自身が1932(昭和7)年7月17日生まれの蟹座だったりする(笑)。


正「カニじゃないよ。ぼくのグローブだよ。グローブに急にムラサキ色の光が入ってこうなったんだよ!」
矢的「ムラサキ?」


 それを聞いて直感したのか、グロブスクに計器を向けるユリ子。


ユリ子「大変です! このグローブは紫外線の固まりです!」


 樹木の上に跳び上がるグロブスク!


 一見マヌケなグロブスクの顔面の表情だが、やはり太陽から紫外線が放出されているイメージカットに続いて、それを吸収してエネルギーとしていることを象徴するかのように、グロブスクのギニョールを内部から空気で膨らませる演出は、お約束でもこうでなければダメである(笑)。


 グロブスクの目線から俯瞰(ふかん)して見下ろされている矢的隊員が、UGMの専用光線銃・ライザーガンで狙撃!


 両目を左右にギョロつかせるアップのあと、グロブスクは一同をあざ笑うかのように宙を舞って、木の茂みへと隠れるように姿を消してしまう……


矢的「あっ、消えた!」
正「グローブがないと家に入れてもらえない……」


 この両者の発言は噛み合っていないぞ!(汗) この期(ご)に及んでも、グロブスクの脅威よりもオウチに入れてもらえないと泣き出す、春からはもう中学生になるハズの意外と子供じみている正クン(笑)。


 このシーンに続く場面として、矢的とユリ子がよし子に事情を説明して、正を自宅に入れてくれるように説得する場面が撮影されたものの、尺の都合でカットされたのかもしれない。実際、このシーンに続く玉井家の食卓の場面は、父・太吉の以下のセリフからはじまるからだ――いやまぁ、脚本の段階で存在しなかった可能性もあるけれど・笑――。


太吉「フ~ン、UGMが正のために、幼稚園の子だって信用しないようなウソをついてくれたのか?」
正「ウソじゃないってば! グローブがオバケみたいに逃げてっちゃったんだよ!!」


 「幼稚園の子だって信用しないようなウソ」(爆)。たしかに怪獣や宇宙人が頻出するウルトラシリーズの世界の中でも、そのへんの野球のグローブが意志を持って逃げだしただなんて、幼稚園児でもなかなか信用しないだろう(笑)。


 お茶を入れながら、さらに正クンに追い討ちをかけてくる母・よし子。


よし子「はいはい、そのウソはホントじゃありませんねぇ」(笑)
正「知らない!」


 お茶碗のご飯をカキこんでいる正クン。お約束の家族団欒ではありながらも、ディスコミュニケーションは存在しており、しかして決定な決裂までには至っているワケではないところでの「和」と「不和」が常に同時にハラまれてもいる、人間関係の基本そのものといってもよい(笑)、よくあるホームドラマ描写ではある。


 やはり同じく石堂先生の脚本&東條監督の担当回であった、先の第42話『さすが! 観音さまは強かった!』のゲスト主役・岩水信夫(いわみず・のぶお)少年の一家の食事風景も彷彿とさせるものがある。


 ところで、今回のこの食事場面では終始、踏切が鳴る音と電車の走行音が流れている。先の正クンが母・よし子に玄関前で叱られている場面の直前に、踏切と小田急線の電車が走行するカットが比較的長目に挿入もされている。正クンとよし子の会話の前半部分でもやはり踏切と電車の走行音が流れて、玉井家が鉄道沿いにあることが表現されているのである。食事風景のみならず、このような細やかなインサート映像や効果音による演出によっても、所帯じみた生活臭が絶妙に醸(かも)しだされていくのだ。



オオヤマ「ブラックホールに吸いこまれると、その中の物凄い引力の作用で、地球もキャラメル1個くらいに縮むというから、紫外線がなにかのキッカケで凝り固まって、グラブ(グローブ)くらいの大きさになっても不思議はないんだなぁ」


 「紫外線」も人間に可視化できない波長の「光」のことだから、この発言に当時のウルトラシリーズファンの子供たちや特撮マニアたちであれば、『帰ってきたウルトラマン』第35話『残酷! 光怪獣プリズ魔』に登場した「光」そのものが凝縮して誕生した光怪獣プリズ魔(ひかりかいじゅう・プリズマ)のことをついつい連想しただろう。しかし、芸術的で非人間体型で半透明クリスタルの巨大オブジェのようだったプリズ魔と、もろに野球のグローブの姿をしているグロブスクでは、SF味においては天と地ほどの品位の違いは生じているのだが(笑)。


――余談だが、ジャンル作品で「光」が無条件に「善」だの「神」だのを意味するようになるのは、オカルト・キリスト教的な世界最終戦争(ハルマゲドン)のイメージが流布した80年代以降のことである。よって、70年代初頭のプリズ魔における「光」とは、価値中立的で単なる物理的な存在であり、そこに道徳的・宗教的な善なる「光」の意味はまだ込められていなかったあたり、良い悪いではなく「時代の空気」の違いといったものが忍ばれる――


 UGM司令室では続けてユリ子がパネルを使って、紫外線についての解説をはじめる。大気中の「オゾン層」が人体に有害な「紫外線」を食い止めており、「地球」を「人体」だと例えれば「オゾン層」は「日焼け止めのクリーム」みたいなもの。それが大気汚染で破壊されて、地球に降り注ぐ「紫外線」の量が増えている……うんぬん。ウ~ム、90年代以降に話題となった「オゾン層」の破壊のことが、今から30年も前に『80』ですでに議題とされていたとは……


 このシーンは同じく石堂先生が執筆されていた第36話『がんばれ! クワガタ越冬隊』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110101/p1)における、地表と上空の温度差が激しくなると太陽光線の屈折によって発生するといわれている「逆転現象」について、UGM司令室でパネル付きでレクチャーしていたユリ子の描写を踏襲している。疑似科学的な味わいを付与するのみならず、こういう科学的な説明をさせるのであれば気象班に所属しているユリ子が適任であり、それによって彼女に見せ場を与えることもできるというワケである。
 ここ数話は新ヒロイン・星涼子隊員にスポットを当ててきたが、そろそろユリ子にもスポットを当ててみせるのも、全話を通じて主要人物全員に見せ場を極力均等に与えるのが正しいとするならば、石堂先生がそこまでシリーズ全体のバランスを考えていたワケでは決してないだろうが(笑)、結果的にはそのような効果も発揮しているシーンではある。


 と、思いきや……


涼子「オリオン座にあるブレイアード星が、2万年前に滅びたのもそれでした。地球に劣(おと)らない、美しい星でしたけれども」


 怪訝(けげん)そうな顔つきで、鋭く涼子をニラみつけるオオヤマ……


オオヤマ「……なに?」


 作劇的にはワザとらしい域にも達しているが、『80』最終回(第50話)『あっ! キリンも象も氷になった!!』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210315/p1)への伏線は、もう張られ過ぎなくらい充分に張られてしまったのであった(笑)。


涼子「ゴメンなさい。今のは私が読んだ童話のお話……」
矢的「会議の最中、おとぎ話なんて不謹慎だよ!」
涼子「スイマセン……」


 ここですかさず機転を利かして涼子へのフォローを入れてみせることで、逆説的に矢的の有能さも際立ってくるのだが、本エピソード以降、『80』は完全に「ユリアン編」そのものといった内容になっていくのである。


 太陽由来の紫外線は太陽が沈むと急速に減少することから、徹夜の捜査を隊員たちに命じるオオヤマ。UGMの戦闘機・スカイハイヤー・シルバーガル、そしてスカウターS7が直ちに出動する!


 ここで流れてくる楽曲が、直前作であるテレビアニメシリーズ『ザ★ウルトラマン』(79年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200508/p1)の防衛組織・科学警備隊の戦闘機を描写するテーマ曲としてつくられて、『80』でもたびたび流用されてきた、特撮マニア間では「急降下のテーマ」(正式MナンバーはM27)として知られている高揚感あふれる名曲である。怪獣バトルの前座やヤラれ役にとどまりがちなウルトラシリーズの防衛組織でも、こういう適切な音楽演出があるとカッコよくて頼りがいがあるように見えてくるものなのである。


 同じく石堂&東條コンビであった第41話でも、ゲスト主役の武夫少年がゼロ戦怪鳥バレバドンの背中に乗って遊覧飛行をする場面に使用されている。仮にこの選曲にも監督が関わっていたのだとしたら、東條監督も気に入っていた名曲だったのかもしれない。


 スカウターS7で出動した矢的と涼子にイケダ隊員からの通信が入る。


イケダ「星隊員」
涼子「はい」
イケダ「童話の続き、話してくれませんか?」
矢的「これから市街地に入る。いったん交信を切る」


 オオッ、イケダ隊員までもが涼子の発言で、涼子が少し怪しいと思ってしまったのだろうか? いや、イケダ隊員のことだからそれほどの他意はなく、ちょっとだけ参考に話を聞いてみようかな? といった程度だったのだろうが(笑)。
 しかし、そこは「大爆発! 捨身の宇宙人ふたり」なのである――『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)第13話のサブタイトルであり、未熟なゲン隊員=ウルトラマンレオと老獪なダン隊長=ウルトラセブンとの、周囲には正体を隠さねばならない足枷がある中でのふたりの関係性描写の結果的な反復にもなっている! という程度の意味です・汗――。
 ここでまた涼子隊員にボロが出されないように、矢的が言い訳を付けて通信が切ってしまうという一連ともなることで、「ユリアン編」としての独自のドラマがここでもさりげに展開されているのだ。


矢的「我々ふたりが地球という名の星の人間でないことは、まだまだ知られない方がいい」
涼子「はい」
矢的「地球の人間がヘンに我々の力をアテにしはじめるのがいちばん怖いんだ」
涼子「はい、気をつけます」


 ウルトラシリーズや日本にかぎらず世界中のヒーローもので、主人公たちが正体を隠している理由でもある、ヒーローものがハラんでいる矛盾と核心に迫真してくるやりとりがここでは繰り広げられている!


 しかし、同じく石堂先生が担当された『80』最終回では、実際には地球の人間たちは、矢的が想定していたようなウルトラマンの力に依存するだけの弱々しい存在では決してなかったことが明かされる。それについては項を改めて語りたい……


 実景の朝日の描写に続いて、多摩川沿いをジャージ姿でジョギングしている本エピソードのゲスト主役でもある玉井一家の姿が描かれる――長年のウルトラシリーズのマニアであれば、『ウルトラマンレオ』最終回(第51話)『恐怖の円盤生物シリーズ! さようならレオ! 太陽への出発(たびだち)』Bパート冒頭のレオこと主人公・おおとりゲンとレギュラーの梅田トオル少年が、やはり朝の多摩川沿いをジョギングしていた場面を想起したことだろう・笑――。


 停車しているスカウターS7を土手の下からの煽(あお)りで画面に捉えて、その右手から玉井一家がジョギングしてくる。


 徹夜の捜索で疲れて、座席で眠りこけていた矢的と涼子の姿を見つけた正クンは、


「あっ、ガス中毒!」(笑)


 と叫んでみせる!


 ナンという不謹慎なガキであることか!? こういうさりげにプチ悪趣味な「笑い」のセンスがまぶしてくるのが、石堂脚本の特徴ではあり醍醐味でもあるのだが(笑)。


 木々の間からこぼれて地上に照射されている朝日の光という自然描写から、カメラがパン(横移動)して公園の中をジョギングしている玉井一家をロング(引き)の映像で捉えるという、なんとも爽やかな朝ならではの映像で、その悪趣味も緩和はされているのだが。


 しかし、本話においては、その爽やかな朝日の陽光はイコール紫外線の脅威そのものでもある。続いて地面に落ちているグローブにカメラがズームすることで、実は直後にこの一家が危機に見舞われることをも暗示しているダブル・ミーニング(二重の意味)が込められた演出でもあるのだ。


 遂に紛失していたグローブを見つけて、その左手にハメてみせる父・太吉。


 だが、グローブは太吉の左手に強い力で吸いついて、ハズれなくなってしまう!


 青空の中、強い陽射しが照りつける太陽の下で、グローブに強い力で引っ張られて、左手を高々と掲げて苦しんでいる太吉を煽りで捉えたカットと、画面中央に太陽を配して強烈な紫外線が地上に浴びせられていることを意味するイメージカットが交互にカットバックされて、危機感を煽りたてる! 苦悶(くもん)して七転八倒する太吉を演じる住吉道博のひとり芝居もまた見事である!


 遂にグローブは太吉の左手にハメられたままで、奇怪なグロブスクの姿へと変化を遂げる!


 太吉の主観映像からのアップで描写されたその姿のすぐ下に、太吉の左手首に巻かれた腕時計がきちんと映しだされていることがまた、日常生活と直結した世界でのリアルな恐怖感も醸しだしている。


 紫外線の固まりの存在をキャッチしたUGM司令室からの連絡を受けて、矢的と涼子は眼を覚まして現地へと急行する!


 その間にもグロブスクの文字通りの「魔手」が太吉を襲撃している!


・輝く太陽の下、太吉からの主観映像でのグロブスクのアップ!
・地面に横たわって必死でグロブスクをハズそうとする太吉の表情!
・太陽から膨大に紫外線が放出されているイメージカット!
・グロブスクの強い力に引きずられて、左手を挙げたかたちで立ち上がらざるを得なくなってしまう太吉を、太陽の下での煽りで捉えたカット!


 それらを細かく交錯させることで、絶妙な緊迫感を醸しだす!


 現地に到着した涼子が、その正体はウルトラマン一族の王女・ユリアンとしての超能力ゆえだろう、その右手の人差し指から赤い一条の光線を浴びせるや、グロブスクの動きはようやく止まった!


 グロブスクが光線を浴びて動きを止めるカットでは、よし子にその様子をしっかりと見られてしまっている(汗)。ふつうの人間ではないことがバレバレなツッコミの余地がある描写だから、ここはあまりウマい演出ではないだろう。しかし、一瞬のことだから何かの光線銃を撃ったのだと、よし子ママもきっと誤解をしたことだろう! と好意的に深読みしてあげようではないか!?(笑)


 この攻撃で太吉の左手からはハズれたものの、グロブスクは地面スレスレに浮遊して一同の許から飛び去っていく!


 画面右手に横たわる太吉の顔、左手に介抱するよし子、中央に正クンを捉えて、その手前にグロブスクの姿をローアングルで捉えた演出が絶妙な臨場感も醸しだしている!


涼子「ブレイアード星の話で知ってたの。紫外線の反対は赤外線でしょ。赤外線のビームにいちばん強く反応するのよ」
矢的「そうか、それでか」


 そう。このセリフはオゾン層が破壊されたブレイアード星でも、紫外線が結集して怪獣が誕生したことをも示唆するSF的なそれであったのだ!


 地面スレスレに浮遊するグロブスクを矢的と涼子の主観映像で背後から捉えて、それを追っている矢的と涼子を足元からバストアップへとズーム。振り返ったグロブスクをアップで捉えて、さらにドアップでグロブスクが左右に両目をギョロつかせている…… といった一連の描写はカメラアングルと編集が絶妙である。


 再度、グロブスクに赤外線光線を浴びせかける涼子。


矢的「待て! 今、ヤツは気が立ってる!」


 グロブスクは赤く発光して、その全身が白い光学合成に覆(おお)われるかたちで遂に巨大化した!


 その姿は大きく変貌を遂げており、もはやグローブがモチーフの怪獣とは思えない! 触角というよりかは二股に分かれている頭部は珊瑚(サンゴ)を思わせて、黄色い目が光っている紫色のブニョブニョとした全身は、


・初代『ウルトラマン』(66年)第17話『無限へのパスポート』に登場した四次元怪獣ブルトン
・『ウルトラセブン』(67年)第35話『月世界の戦慄』に登場した月怪獣ペテロ
・あるいは『ウルトラマンネクサス』(04年)の第1話~第4話(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041108/p1)に登場したスペースビースト・ペドレオン


 などを彷彿とさせるブキミさを備えている!


 そのブキミさを強調するかのように、


・両目とその間にある穴
・赤いボツボツに覆われた腹
・サンゴ状の頭部


 それらがブニョブニョとうごめく様子を順にアップで映しだしていく。


 そして、画面下半分には本編ロケ映像の矢的と涼子を、その上半分には特撮セットのグロブスクを合成したカットにつなげるという一連の映像演出は、お約束でも実にカッコいい!


 甲高かった奇声が巨大化とともに腹の底から響き渡るような低い笑い声へと変わるのも実に効果的である!――この鳴き声は、『ウルトラマンタロウ』第2話『その時ウルトラの母は』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071209/p1)~第3話『ウルトラの母はいつまでも』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071216/p1)の前後編に登場した再生怪獣ライブキングの鳴き声、もとい笑い声(笑)を加工して使用したものらしい――


矢的「星くん!」
涼子「スイマセン。刺激しすぎました!」
矢的「これは君と僕の責任だよ」
涼子「はい……」


 美しい夕焼け空の中、黄色い目から紫色の波状光線を放って街を破壊するグロブスク。


 ……ってオイオイ。もう夕焼けの時刻ってことは、グロブスクは日中いっぱいずっと暴れ続けていたことになるのだろうか!? だとしたら、たしかに矢的と涼子の責任は重大だ!(笑)


 しかしそんなヤボなツッコミも、『80』では極めて珍しいあまりに美しすぎる今回の「夕焼け特撮」の前ではもうどうでもよくなってきてしまう。『ウルトラセブン』第8話『狙われた街』やオモテ向きは欠番の第12話『遊星より愛をこめて』、『帰ってきたウルトラマン』第32話『落日の決闘』や第37話『ウルトラマン夕陽(ゆうひ)に死す』などの特殊技術(特撮監督)を担当した大木淳による「夕焼け特撮」を彷彿とさせるものがあるからだ。



――『80』で組んでおられた特撮監督が佐川和夫さんなのですが、佐川さんについてお聞かせ下さい。
「『ウルトラQ』(66年)の時に円谷プロに入って、セットがあった美セン(東京美術センター・のちの東宝ビルト。引用者註:2007年に解体)に呼ばれたんです。で、オープンセットにフラッと近づいたら、「セット壊す気か、近寄るな、バカヤロー!」って怒鳴った人がいたの。それが当時カメラマンのチーフだった佐川和夫さん(笑)。実は佐川さんと僕とは大学の同級だったんだけど、むこうが先に業界に入って大活躍しているベテランでしょ。だからもう威厳たっぷりだったんです。佐川さんはやっぱりすごい人ですよ。特撮のことよくわかってるし、飛行機の飛びをやらせたら、あの人はピカ一。めざす絵を撮るために全然妥協しないんですよ。「こんな感じ」というアバウトな打ち合わせをしても、ラッシュで観ると予想を超えた何倍も凄い絵になってできている。何度も感心させられました。『80』の頃は打ち合わせしたらあとはもうお任せです。素晴らしい映画人ですよ」

(『タツミムック 検証・ウルトラシリーズ 君はウルトラマン80を愛しているか』(辰巳出版・06年2月5日発行・05年12月22日実売)監督 東條昭平インタビュー)



 セットの夕陽を画面左奥に捉えて、その手前に街灯を配するという距離感のある構図の中で、グロブスクが高々とジャンプして、ビルにのしかかってその巨体で押し潰す!


 真っ赤に染まった夕焼け空の中、地球防衛軍の戦闘機群が飛来してグロブスクに攻撃をかけるも、両目からの波状光線で次々に撃墜される!


 フジモリ隊員とイケダ隊員が搭乗するUGM戦闘機・シルバーガルが波状光線をからくも避ける!


 まさに東條監督が絶対的な信頼を寄せる佐川特撮監督の妥協のない、迫力ある飛行機特撮の連続である!


 そして、画面右手に樹木やビルを配して、中央に沈んでいく夕日を捉えたカット!


 それに続いて、画面左手奥に沈んでいく夕日、その下に鉄塔、右手前にビルや民家を配した奥行きのある構図の中で、グロブスクは夕日が沈むと同時に、その全身が白く覆われて消滅していく……


 太陽光に含まれている紫外線がなければ実体化ができないという怪獣の特性を実に的確に表現した描写でもある。


オオヤマ「結論は簡単だ。チャンスは日の沈んでいる間だ。いいか、今夜中に必ず捜しだせ! 出動!」
隊員一同「了解!」


 この場面にのみ広報班のセラの姿があるが、おそらくはほかに出番があったものの、尺の都合でカットされたのだろう。


 深夜の街を疾走するスカウターS7。


矢的「いくらヤツが動かないと云ってみても、東京は広すぎるよ」
涼子「西の方へ行って」
矢的「西? ヤツが潜んでいるところがわかるのかい?」
涼子「ええ。私すべての宇宙光線がキャッチできるの。西の方に紫外線の固まりがあるわ」


 山間部にたどり着いて、停車するスカウターS7。


矢的「ここか?」
涼子「ええ」


 正体は宇宙人・ウルトラマンエイティであることから超能力・ウルトラアイをつかって透視する矢的隊員。矢的の両目が星状に光って緑色の輪が発射される描写を繰り返したあと、半透明のグロブスクの姿が浮かぶ場面では、『ウルトラマンタロウ』のメインタイトルの中間部――同作主題歌のイントロが入る直前――でも使用されていた効果音が流れていることにも注目!


矢的「夜だし街から離れてる。君ひとりを観客に、君の代わりに力いっぱい戦うよ」
涼子「スイマセン。お願いします」


 それにしても矢的のこのセリフ、本エピソード前半での児童ドラマとは一転して、完全にオトナの男女間での演技となっている。


 涼子だけに見守られる中で、変身アイテム・ブライトスティックを高々と宙にかざす矢的!


矢的「エイティ!!」


 登場したウルトラマンエイティ、まるで拝むようなポーズで右手から水色の波状光線を発射!


 その光線を浴びた位置に幾つもの星がキラめいて、白い光学合成のかたちからグロブスクが実体化する!


 そして、なんと第40話『山からすもう小僧がやって来た』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110129/p1)から使用が開始された新オープニング主題歌『がんばれウルトラマン80』が今回はじめて劇中で流される!



――劇伴にはオープニング主題歌『ウルトラマン80』、そしてエンディング用の副主題歌『レッツ・ゴー・UGM』のアレンジ曲も多く含まれていますが。
「僕は作品で流用できない主題歌はダメだとずっと思っていました。これまでのウルトラシリーズでも、「主題歌をもっと先に作って、僕に時間をくれれば主題歌のアレンジ曲が用意できるよ」と毎回言っていたんですけど、実際問題、なかなかすぐには主題歌が決まらないわけでね。『帰マン』あたりではそれができなかった。ようやく実現できたのが『80』だったんですよ。やっぱり作品で表現しきれないことを主題歌が表現し、主題歌が表現しきれないことを作品が表現する。これで映像と音楽が一体になるわけですよ」

(『君はウルトラマン80を愛しているか』音楽 冬木透インタビュー)



 名構成の労作である『ウルトラセブン総音楽集』(87年・キングレコードASIN:B004P1Y8B2)のライナーノーツであったか、その解説書で担当ライター氏は「BGMと主題歌を同じ作曲家が担当していて音楽世界が統一されている点でも、『セブン』は素晴らしい」という趣旨の論を展開していた記憶がある。


 第1期ウルトラシリーズ至上主義者たちは、こういった論法でも第1期ウルトラの作品群を持ち上げて第2期以降のウルトラ作品を陰に貶(おとし)めてきたのであるが(笑)、当の冬木大先生はもっと柔軟で融通が利いていたのである。


・バック転を連続させて、右足でキック!
・側転のあと高々とジャンプして、グロブスクの頭部をキック!
・着地して低い姿勢のまま後転して、両足でキック!
・さらにチョップ! ひざ蹴りの連打!


 いつもながらのスピーディで豪快なウルトラマンエイティのアクションに、一見優しいメロディラインと歌い口の『がんばれウルトラマン80』は意外と違和感がない。冬木先生の持論を借りるならば「主題歌としては合格」ということになるのではなかろうか?


 『80』の戦闘シーンでは、登場ブリッジ曲であるM51はもちろんのこと、エイティ優勢の戦闘テーマ・M52、ピンチに陥るエイティのイメージ曲・M53、そして逆転からの勝利を飾るM2がシリーズを通して定番で使われるパターンが圧倒的であり、こうした変則的な音楽の使用は珍しい。


――ちなみに『80』のシリーズ後半では、冬木先生がやはり作曲された前作『ザ★ウルトラマン』のBGMでもある『交響詩 ザ★ウルトラマン』第四楽章『栄光への戦い』の『インベーダー軍団』と『勝利の闘い』(ASIN:B00005ENGI)なるブロックの単独録音版の流用が、エイティ劣勢と逆転勝利のBGMとして代用されるようになる――


 だが、それに呼応するかのごとく、怪獣の着ぐるみの造形面でも、擬闘(アクション監督)の車邦秀(くるま・くにひで)が担当したアクション演出面でも、変則的な試みがなされていくのだ。


 エイティのジャンピングキックを姿勢を低くしてカワしたグロブスクは、なんとその天地が逆になるのだ!


 サンゴ状の「二股」に分かれた頭の方を足にして動き回って、「五本指」状の足の方を頭にしてエイティの頭を押さえつけて、ド突きまくるのである!


 もっとも野球のグローブがモチーフの怪獣なのだから、本来ならば最初から「五指」の方が頭としてふさわしいのだが、やはりあとから「手首」の方が頭になるよりも、「五指」の方が頭になった方が絵的なインパクトは絶大だろう。


 そうかと思えばグロブスクは地面を這った状態で、エイティの攻撃から高速で逃げ回るのである! もちろんカメラの回転速度を変えて撮影しているのだが、周囲でムラサキ色の霧が立ち昇っている演出も実に効果的である。


 目には目を! グローブにはボールを! とばかりに、エイティはジャンプして夜闇の中で身体をまるめて、前転するかたちで回転をはじめる!


 ここからはエイティの回転姿勢とほぼ同一サイズに思える造形物に変わるのだが、相応の大きさから来る実在感も高いことからミニチュア的な軽量感はないのである!


 そして、空中を水平ヨコ方向にコマのようにスピンして大きく旋回しながらグロブスクに何度も何度も体当りをブチかます!!


 身体をまるめた状態のエイティの造形物の周囲に、高速で渦が回転するような線画を合成作画することによって、スピード感も高めつつ、エネルギーも込められているようなパワー感まで表現ができている!


 この一連の夜景の中での長尺の特撮シーンの豪快さはまさに必見! ムチャクチャに迫力もあってカッコよくて意外性もある、歴代ウルトラシリーズでも観たことがないような、空前絶後カタルシスと驚きに満ち満ちた特撮アクション演出として仕上がっているからだ! ウルトラシリーズのまさに五指(笑)に入るベストバウトに挙げたいくらいである! ちなみに、このエイティの攻撃技は「ダイナマイトボール」と命名されている。


 かたおか徹治先生による名作漫画『ウルトラ兄弟物語』(78年)の第1話、過去の失敗のトラウマから異星の西部劇調の居酒屋で飲んだくれてヤサグレていた「新マン」こと「帰ってきたウルトラマン」が、地面スレスレで空中前転しながら滑空して必殺光線を乱発するローリング・スペシウムをも彷彿とさせる!
 ……と云いたいところだが、1939(昭和14)年生まれの当時41歳の佐川和夫特撮監督は、世代的にもこの小学生向けの漫画を読んでインスパイアされたという可能性は非常に低いだろう(笑)。


 ボール状から元の姿に戻ったエイティ、飛行状態でグロブスクに突撃をかけるが、その身体をスリ抜けてしまう!(合成もお見事!)


 グロブスクにカラみつかれて、全身に赤いイナズマのような電撃も走る!


 それを見かねた涼子が、やはり指先から先の赤外線光線をグロブスクに浴びせかける!


 全身に赤い電撃が走ったグロブスクは空へと逃れて、今度はエイティとの空中戦を展開!


 地上に墜落したグロブスクはエイティに抱え上げられて、ウルトラナックルで右腕のみでグルグルと回転させられ、地上に投げ捨てられる!


 エイティ、さらにグロブスクをつかみあげて、地上へと投げ捨てる!


 エイティ、両腕をL字型に拡げたポーズからいつものサクシウム光線を発射するのかと思いきや、胸の中央にあるカラータイマーが一瞬黄色く光って、その両腕をいったんクロスさせて、そのままいつものポーズに腕をスライドさせて三条の赤い光線を発射した! ウラ設定ではサクシウムエネルギーに赤外線を含ませたガッツパワー光線だ!――一部書籍では単に「サクシウム光線・Bタイプ」と命名されている。まぁ元はサクシウムエネルギーだからこれも間違いではないだろう。歴代ウルトラマンの技名のネーミングに別名があるのもむかしからのことである・笑――


 長年のウルトラシリーズのマニアであれば、『セブン』第47話『あなたはだあれ?』で、集団宇宙人フック星人にウルトラセブンが両腕をL字型にして放ったワイドショットの光線が三条に分かれるスリーワイドショットを思い出したことだろう(笑)。


 ちなみにウルトラセブンもその看板作品のシリーズ中盤からはさまざまな光線技のバリエーションが描かれてきた。予算の削減で特撮ミニチュアセットが満足に用意できなくなったり、人間ドラマの重視によって見た目がどんどん地味になっていったシリーズ中盤だが、逆にウルトラセブンは光線技のバリエーションが増えているのだ。


 視聴率と直接相対するプロデューサーはともかく、この時代の特撮現場の特撮監督たちが、少しでも年少の視聴者たちをつなぎ止めようと考えるような細やかな殊勝(しゅしょう)さがあったとはとても思えない(笑)。なので、単に映像的な実験をしてみたいという自身の子供っぽい欲望でさまざまな光線技をセブンに発射させてみた! といった程度での安直なノリだったのだろうと推測はする。


 しかしそれらの要望を、特撮監督の意向をはるかに超えたハイセンスなイメージで見事に映像化してみせていたのが、1950年代の東宝特撮映画の時代から「光線作画」を担当してきた飯塚定雄(いいづか・さだお)なのである。悪い意味で漫画的な大味のデタラメさはまるでなく、シャープでスマートでクールなセンスもあって、遠近感なども実に正確かつ未来的でカッコいい「光線」の数々が、作品の映像的な「品位」も上げていく!


・第29話『ひとりぼっちの地球人』で宇宙スパイ・プロテ星人に浴びせた、電磁波を含ませた黄色い波状光線・チェーンビーム!
・第36話『必殺の0.1秒』で催眠宇宙人ペガ星人の円盤を攻撃した、ニードル状の光線を続けざまに放つウルトラショット!
・第43話『第四惑星の悪夢』で第四惑星の地球攻撃用ロケットを全滅させた、飛行状態の両手から放つダブルビーム!


 小学校中高学年以降ならばともかく、子供なんてものは人間ドラマなぞはロクに理解していない。むしろこうした変則的に披露される実に多彩な光線技といったヒーローの万能性の方に妙にドキドキしたりワクワクしているだけだったりするものなのである。特撮変身ヒーローもののキモとはまさにコレなのである!(笑)


 そして、怪獣博士タイプの子供のみならず、子供たち一般はこういった必殺技とその名称や映像をすべてコレクション的に知っておきたい! 把握しておきたい! 手近にまとめておきたい! と痛切に願うものでもある。


 苦節20年。これらの光線技にはじめてネーミングが与えられたのは、放映から20年(!)も経った80年代末期の平日帯番組『ウルトラ怪獣大百科』(88年)や、『てれびくんデラックス ウルトラ戦士超技全書』(90年・小学館ASIN:B00MTGGP70)に至ってのことであったのだ(笑)。



 ガッツパワー光線を浴びたグロブスクは全身が赤いイナズマ状の電撃に覆われて消滅していく。


 画面の左手前に立ち尽くしているエイティが、右奥の山の向こうに昇ってくる朝日を見つめてうなずく勝利の場面は実に美しい。


 地面に落ちているグローブをひろってジッと見つめる涼子。


 その涼子の後ろ姿を画面の右手前に配して、画面の左奥から矢的が朝霧が立ち昇っている中で、涼子に向かって笑顔で駆けてくる描写が爽やかである……


涼子「猛……」


 グローブをそっと猛に手渡す涼子。


涼子「勝ったのね」
矢的「ウン」


 勝利の、いや、決してそればかりではない矢的と涼子が互いをジッと見つめる笑顔が交互に映し出される……


 この一連では往年の名作テレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20101207/p1)の劇中音楽でも有名な川島和子による哀愁を帯びたスキャット曲・M17-2が流れている。



・第18話『魔の怪獣島へ飛べ!!(後編)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100829/p1)においては、ゲスト主役の星沢子(ほし・さわこ)が自らの命を捧げることで蘇生したイトウチーフ(副隊長)が、彼女への想いを語るラストシーン
・第43話『ウルトラの星から飛んで来た女戦士』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110219/p1)では、愛する矢的を守るために城野エミ隊員が侵略星人ガルタン大王の剣に貫かれて殉職した事実に、オオヤマ・イトウ・フジモリが衝撃を受ける場面からラストシーンに至るまで


 『80』最終回に向けて、このふたりには男女間のロマンスの伏線も与えておこうという意図も、濃厚に感じられる本編演出でもある。


 この楽曲は『ウルトラマン80 ミュージック・コレクション』(日本コロムビア・96年8月31日発売・ASIN:B00005ENF5)では「無償の愛」なるタイトルがつけられたブロックに収録されていた。しかし、これまでの劇中での使用例も思えば、いわゆる単なる「無償の愛」ではないこともたしかである。


 矢的はグロブスクとの戦いに赴(おもむ)く直前、涼子にこう語っていた。


「君ひとりを観客に、君の代わりに力いっぱい戦うよ」


 これまで『80』では市街地、そうでなくとも市民やUGMが見守る中でのエイティVS怪獣の戦いが描かれてきた。だが今回、その戦いを見守っているのは涼子=ウルトラの星の王女・ユリアンのみなのである――いやまぁ人間大サイズの変身ヒーローが戦っている作品ではないので、おそらく誰かしらが目撃してUGMにも遅れて通報しただろうけど・笑――。


 怪獣グロブスクの誕生経緯はともかく、その巨大化の結果責任は、ウルトラ一族の一員であるユリアンにある。そして、その責任は同じウルトラ一族であるエイティが尻拭いをしてみせようというのが表向きの理由になっている。しかし、理由の字面はそうであっても、「君のためだけに戦う」という趣旨のセリフは、これは遠回しの「愛の告白」でもある。そうでなくても遠回しな「好意の表明」ではある。矢的ことエイティが内心で秘かに好意を持ちはじめていただろう涼子ことユリアン。その「愛するユリアンのために捧げた戦い」でもあったのだと……



矢的「(涼子の右肩を左手でポンとたたいて)さぁ、UGMに帰ろう」


 画面の奥にスカウターS7を配して、それに向かって駆けていく後ろ姿の矢的と涼子…… ロマンチックな風情も感じられる場面である。



 紺と白のジャージ姿で正クンが所属する少年野球チームで、ノックを務めている矢的、そしてあいかわらずの正クンの姿にかぶるラストナレーション。


「そうそう、いくら失敗しても腐(くさ)ったり、腹を立てたりしないことだ。怪獣たちは人間の心の乱れにつけこもうと、いつもねらってるんだからね。球(たま)が落ちるのはグローブのせいではない。君の練習が足りないからなんだ」


 しかし、ノックの打球をエラーしてズッコケている姿の正クンのカットで物語は締めくくられている(笑)。




 そう、「社会」や「周囲」の人々の方が悪い場合もたしかにあるだろう。しかし一方では、「個人」の方が悪い場合もある。そして、「個人」が悪いとはいえないが、「個人」の努力が足りていない場合もあるのだ。たいていの物事は、フェア・公平に考えれば「半々」なのである。だからまずは「社会」や「グローブ」(笑)のせいにはせずに、我が身自身のことを省(かえり)みてみることである。


 むろん「個人」の努力だけでもどうしようもない場合はある。その場合は、自分に才能がないと思えば潔(いさぎよ)くその道はアキラめて別の道に活路を見出すことも必要だ。しかしその上で、もしも「個人」の生存の上でも最低限は必要な事項だ! どうやら「社会」の方が間違っている! ということがあれば、「社会」に異議申し立てをすることにもはじめて正当性がやどるだろう。


 そして、「社会」をつくっているのもまた「個人」(であるひとりひとり)である。しかし、億人単位の「個人」の意志が集合したかたちで「社会」が構築されている以上は、「社会」もまた即座に一挙に変革しうるものでもない。中長期にわたっての交渉や会議などでの粘り強さが必要なのである――即座に変わらなければオカシい! それは理不尽だ! と考えてしまうことも理解はできるのだが、それは自身が独裁者と化してしまう道でもある・汗――。


 いくら他人や社会から邪険にされようとも「腐ったり腹を立てたりしないことだ」。社会運動や市民運動のようにヒステリックにガナったりする必要はないのだ。かといって、卑屈に押し黙ってしまう必要もない。相手を貶めて胸を透かせたいという「擦り切れた快・不快」といった程度の感情(劣情)に基づく「怒り」などは深く静かに沈潜させて蒸留させていき、「私憤」ではなく大勢の人間の状況をよくしたいという「義憤」「公憤」に洗練させた「瑞々(みずみず)しい喜怒哀楽」としての高次な感情へと置換してから言葉を発するべきなのだ。


 目的のためにならば少々のズルや抜け駆けも許されるということもあまりない。目的達成のためにもたとえ迂遠になろうとも正当な「手段」を採択し、お天道様に恥じないかたちにした上で、それからはじめて気高く戦うべきだろう。
 たとえその発端は正当な「怒り」であったとしても、「目的」のためにならば「手段」を選ばす、いくらでも礼節を欠いて口汚く論敵を罵倒してもよい! 他者を傷つけてもよい! 少々のズルをしてでも出し抜いてよい! という低劣な心理にそれは容易に堕落しうる。そのような自堕落を許すと、それはてきめんに自己を絶対化・正義化して、論敵どころか仲間内での内紛や内ゲバをも誘発するのだ。正しき者こそ強くあれ。正しき者こそ節度・抑制心も含めて心が強くあるべきなのだ。


「怪獣たちは人間の心の乱れにつけこもうと、いつもねらっているのだ」


 このセリフは、第36話『がんばれ! クワガタ越冬隊』評(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110101/p1)でも引用させてもらった、以下のインタビューでの石堂先生の発言にも通じている。



――石堂さんは雑誌『ドラマ』(映人社・93年9月号)の中で「悪人はあまり書いたことがない」とおっしゃっています。この感覚は石堂さんの怪獣像にも反映されているのでは?


「それはね、僕が大学でドイツ文学をやっていた時(引用者註・氏は東京大学文学部独文学科の出身)、ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテの悲劇『ファウスト』(1808年)を読んでね。あれにメフィストフェレスという悪魔が出てくるでしょう。このメフィストという「悪」とは何かということを、僕は論文のテーマに選んだんです。そこで導き出した結論は、メフィストファウスト自身が呼び出したものであると。悪とは人間の外に客観的に存在するものじゃなくて、人間の内から呼び出されたものであるという。いわゆる世の中に「絶対悪」というのが最初からあって、それをやっつければOKという話じゃない。そういう感覚が、ウルトラマンを書いていた時にも確かにあったと思いますよ。怪獣も結局、人間が呼び出したものであると」


(引用者註・悪魔メフィストフェレスは、初代『ウルトラマン』第33話『禁じられた言葉』に登場した悪質宇宙人メフィラス星人のネーミングの語源。『ウルトラマンネクサス』に登場する最初のウルトラマン型の悪の超人・ダークファウストやふたり目の悪の超人・ダークメフィストの語源でもある)


(『君はウルトラマン80を愛しているか』脚本・石堂淑朗インタビュー)



 「個人の外に絶対悪というものがあるわけではない」「怪獣も結局は人間が呼び出したものである」。そう、「社会」の「悪」というものも、結局は個人個人が長年にわたって醸成してきたものなのである。


 この石堂先生のご持論が、単に『80』第1クール「学校編」の思春期真っ只中の中学生たちのミクロな負の感情といったマイナスエネルギーという狭い概念を超えていき、ゲーテの『ファウスト』にも通じていくような普遍的な概念にも昇華していったようにも見えるのは、『ウルトラマンA』においても人間の精神を試してくる悪魔としての異次元人ヤプールの描写を、同作のメインライター・市川森一(いちかわ・しんいち)が降板したあとでも最も色濃く継承していたのが石堂先生であったことを思えば、もちろん結果論であることは重々強調しておくけど、重ねて石堂先生を投入したことによる成果であったと思うのだ。



 ともまれ、「物を粗末に扱うな」「環境問題」などといった「道徳的テーマ」「社会派的テーマ」だけにとどまらず「児童ドラマ」も展開させて、SF的な存在のようでもイロモノでもある「怪獣グロブスク」(笑)、そして実に美しい「夕焼け特撮」に、特別な趣向を凝らした壮絶なる「特撮バトル」などなど、本話は見どころ満載のエピソードに仕上がった。それでいてラストは、最終展開への伏線としてエイティ=矢的とユリアン=涼子との「愛の告白」めいた情緒豊かなシーンまでもが描きこまれているといった密度の濃さ!


 そう、本エピソードは「ユリアン編」の中でのターニングポイントでもあり、矢的と涼子の関係性の変化とその急転までもがしっかりと描かれていたのであった……


 石堂・東條・佐川の最強トリオとしては『80』最後の作品となったが、文句なしの大傑作である。



<こだわりコーナー>


*正クンはグローブを自らの意志で捨てたのだから、サブタイトルの「落し物」はちょっと違うんじゃないかと思う(笑)。


*正の父・太吉を演じた住吉道博は、東映コメディ特撮の大人気番組『がんばれ!! ロボコン』(74~77年・東映 NET→現テレビ朝日)の第73話『ゲバリキュン!! どうかおいらを追い出して』~最終回(第118話)『メデタリヤ! ロボコン村は花ざかり』に至るまでの、主人公のロボコンが居候(いそうろう)をしていた小川家のパパ・太郎役でレギュラー出演していたことでもジャンルファンには有名。
 しかしさかのぼること、初代『ウルトラマン』(66年)第18話『遊星から来た兄弟』では、凶悪宇宙人ザラブ星人科学特捜隊から引き取ろうとする宇宙局の局員も演じている――セリフは一言もないが・笑――。『怪奇大作戦』(68年・円谷プロ TBS)第13話『氷の死刑台』でも、人間を超低温の中で生かし続ける実験の末に冷凍人間を誕生させ、彼に殺されてしまう科学者・島村を演じていた。テレビ時代劇マニアには、『必殺』シリーズ第3作『助け人走る(たすけにん・はしる)』(73年)のシリーズ前半でのレギュラーの密偵・為吉(ためきち)役でも知られている。なお、以上の作品には「住吉正博」の名義で出演していて、現在ではこの芸名に戻しているようだ。


*CS放送・ファミリー劇場で放映された『ウルトラ情報局』2011年1月号にゲスト出演した小坂ユリ子隊員役の白坂紀子(しらさか・のりこ)のインタビューも紹介しておこう。『80』第1クールの「学校編」で桜ヶ岡中学校の事務員・ノンちゃん役に起用された際には、テレビドラマの出演ははじめてだったそうだ。「地のままでそのままやって」と云われたものの「こんなお姉さんがいたらいいなぁ」と生徒たちに親近感を持ってもらえるような人物像を演じるように心掛けていたそうである。
 「学校編」の設定が消滅したことでいったんレギュラーからハズれたものの再度、UGM・気象班の小坂ユリ子隊員役として起用された際には「エッ? そんなことあるのかな?」と本人が最も驚いたのだとか。もっとも彼女自身は「おてんば」なところがあり、どうせ防衛隊の隊員の制服を着るのならば、戦闘機に乗って戦うような役をやりたかったらしい(笑)。
 第36話『がんばれ! クワガタ越冬隊』や本話のように、隊員たちにレクチャーをする場面では、テレビの前の子供たちにも理解ができるように心掛けたそうだが、隊員を演じている俳優たちにジッと見詰められているので、かなり緊張してしまったとか。
 もしもユリ子が気象班ではなくUGMの新人戦闘隊員として参戦していたら『80』はどうなっていたであろうか? 城野エミ隊員とユリ子隊員が矢的をめぐって小さな火花を散らしているような描写が何度かあったことを思えば、『80』第10話『宇宙からの訪問者』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100704/p1)でマドンナ教師・京子先生とゲストヒロイン・アルマが矢的をめぐって恋の火花を散らしていたようなラブコメが展開されたのかもしれない(笑)。


 主人公・矢的猛を演じた長谷川初範の印象に関しては「一生懸命なマジメな方」であり「矢的先生にピッタリ。とても素朴(そぼく)でいい方。あのとおりの方……」だったらしい。


 ご子息は幼稚園のころにはウルトラマンシリーズにかなりハマっていたそうである。レンタルビデオ店で『80』を借りて観せたら「なんでここにいるんだ!?」ととても驚くとともに「スゴい、スゴい!」と喜んだそうで、「やってよかった」という実感をはじめて得られたそうである。そして、ご子息がウルトラマン、夫の俳優・志垣太郎(しがき・たろう)が宇宙忍者バルタン星人を演じてよく親子で遊んでいたそうだ。ナンと志垣はそれだけでは飽き足らずに、どこで調達したのかバルタン星人のかぶりものまで入手。近所の公園でそれを着用してほかの子供たちと遊んでいたらしい(笑)。
 青春ドラマ『おれは男だ!』(71年・日本テレビ)の転校生・西条信太郎役や、『エイトマン』や『幻魔大戦』で知られる第1世代SF作家・平井和正の筆による不朽の名作学園SFを実写化した映画『狼の紋章』(73年・東宝)の高校生主人公である狼人間・犬神明(いぬがみ・あきら)役など、かつては二枚目俳優だった志垣だが、実際には80年代中盤の大人気バラエティ番組『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(85~96年)でのコミカルな吸血鬼ドラキュラのごとき扮装で子供たちを驚かせつつ笑わせてもいた「デビル志垣」のキャラの方がホントの地であったようである(笑)――志垣太郎はテレビ時代劇『水戸黄門』(69年~・東映 TBS)第13部(82年)の第10話『尾張名古屋の妖怪退治―尾張―』に徳川綱誠役でゲスト出演して白坂と共演、志垣が白坂に一目惚れしたことから猛アタックの末に結婚したらしい――


 これらのことから、白坂は「ウルトラマンは子供たちにとってすごく大きな存在」だと再認識したそうであり、「エイティは永遠に不滅のヒーローです!」と語っていた。


*本文で『ミラーマン』について少しふれたのでついでに書いておく。最近、『ミラーマン』放映当時のセルロイド製の「お面」――一見パチモンかと思うほど出来が悪いがきちんと版権シールが貼られている――や、学校給食用のナプキン――ミラーマンVS怪獣キティファイヤーのヘタな絵柄だがこちらも版権もの――のデッドストックをたったの数百円で入手する機会を得た。『ミラーマン』は玩具メーカーブルマァクが発売したソフビ人形の数々で大量の売れ残りが発生したことでも有名な作品だが(汗)、このようなデッドストックが安価で入手できたということがたまたまの出来事でなければ、それ以外の関連アイテムもあまり売れ行きは芳(かんば)しくはなかった可能性もある。これは喜ぶべきことではない。やはり制作費を出資してくれる玩具会社も儲かるような作品づくりをしないとダメだということなのである……


(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2012年号』(2011年12月29日発行)所収『ウルトラマン80』後半再評価・各話評より分載抜粋)


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