『からかい上手の高木さん』『上野さんは不器用』『宇崎ちゃんは遊びたい!』『イジらないで、長瀞さん』 ~女子の方からカマってくれる、高木さん系アニメ4本評!
『宇崎ちゃんは遊びたい!』 ~オタクvsフェミニズム論争史を炎上作品のアニメ化から俯瞰する!?(長文)
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深夜アニメ『僕の心のヤバイやつ』(23年)が完結! 好評につき、2期が来年2024年から放映決定記念!――これは営業トークで、当初から休止を挟んだ分割2クール予定でまとめて1シーズンの作品か?―― とカコつけて……。『僕の心のヤバイやつ』1期(23年)・『久保さんは僕(モブ)を許さない』(23年)・『それでも歩(あゆむ)は寄せてくる』(22年)・『阿波連(あはれん)さんははかれない』(22年)評をアップ!
『僕の心のヤバイやつ』『久保さんは僕を許さない』『それでも歩は寄せてくる』『阿波連さんははかれない』 ~ぼっちアニメのようで、女子の方からカマってくれる高木さん系でもあったアニメ4本評!
(文・T.SATO)
『僕の心のヤバイやつ』1期
(2023年春アニメ)
(2023年4月26日脱稿)
休み時間の中学の教室で自席に座ったまま『殺人大百科』を読んでいる(ひとり)ボッチの主人公男子中学生の図で開幕。楽しそうな級友。ツラそうな主人公。
タイトルだけで作品概要もわかるし(?)、鑑賞前から試しに観てみたくなるヒキはある。
心の中のヤバい想い・不満・劣等感・怒り・破壊衝動。
肉体弱者・性格弱者・コミュ力弱者である我々オタは、幼少時からそれをウスウス感じつつ、思春期に至ってそれについに直面して絶望したり流したりしつつも、鬱々と過ごしている。
何の苦労もなさそうで幸福そうだったり、見た目・腕力・話術に優れたリア充な人間たちに嫉妬と憎悪の念を覚えていなくもない。もちろん、その吐露は見苦しいことだとの自覚もあるので、通常はアキラめて死ぬまで黙って墓場まで持っていくダンディズムも持っている。
とはいえ、底辺でうごめいている自分でも一発逆転して注目や賞賛を浴びて、傷ついてしまった自尊感情を適度な自己愛で癒したい! といった想いも否めない。それらが動機となって、我々オタクもガチンコ対面のコミュニケーションではなくコレクション・知識・文章・絵描きといった二次表現で埋め合わせをして、虚栄心を満たしている側面も否めない――少なくとも筆者はそうである(涙)――。
けれど、ネット社会ではそういった自己相対視の認識すらもが自覚化されるとアッという間に一般化してしまう!
昨2022年秋の深夜アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』では、主役少女が仮面ユーチューバーをヤリつつも、衆目を集めてチヤホヤされたい自分をも批判的に省察してしまう客観視ができており、
「承認欲求モンスターになってしまう!」
というセリフがオタク間でも「あるある」的に、完全解脱もできないけど増幅すべきでもない「哀感の笑い」として広く流通している。
そのあたりを他人よりも先に指摘・言語化して悦に入りたい評論オタクとしては、一般オタクの方がむしろスレた評論オタク化してしまったことで実にヤリづらい世の中になってしまったとも思う(笑)。
本作もそんな作品になるのかと思いきや……。そこはフェイク的な主人公男子クンへの感情移入のためのフック・引っかかりに過ぎなかった。
「オレはこんなにも生きづらくて苦しいのに、彼女には何の苦労・劣等感もナイ!」と彼が勝手に憎悪を募らせナイフで切りつけてキズつけてやりたい! と心の中で「敵性生物」認定していた、リア充かつ屈託もなくて女性誌の読者モデルまでも兼業している身長170センチ超の黒髪ロングの美人ヒロイン女子高生!
そんな彼女との(広義での)「ラブコメ」、女子の方から弱者男子にチョッカイをかけてくれる(広義での)「高木さん系」になっていくのであった(笑)。
……タイトル詐欺ではある。しかし、ダマされた! といった感はなく、それはそれで面白い作品にも仕上がっているのだ。
黒髪ロングのヒロイン女子は弱者男子の心性や内面を理解はしていない。しかし、ルッキズムやカースト主義者として周囲や主人公男子クンを見下してくることもない。
邪気のないバカであり、教室ではなく読書目的でもなく食事目的(笑)で滞在する図書室で、主人公男子クンが振り回されたり空回りしたりする姿をギャグとしている。
対するに教室では、黒髪ロング女子を中心とした女子生徒数名によるキャッキャウフフを遠巻きに眺めて、内心だけのモノローグで分析したり毒づくだけであり、これは批評的には主人公男子クンの性的不能性を現わしている……。
ハイ、すいません。最後はこのテの評論めいた文章にはよくある定型句で、心にもないことを自動的に書きたくなってしまいました(汗)。
ズバ抜けたツカミはないし、本作のような無心で善良なカースト上位女子がこの世にひとりもいないとは云わないけど、超少数派であろうことを思えば、教室空間でのリアルを描いてはいない。
しかし、この作品ではそうなっている……といったナットクはできる。特に拙いところもなく、ナメらかに観られる愛すべき佳品である。
『久保さんは僕(モブ)を許さない』
(2023年冬アニメ)
(2023年4月26日脱稿)
「許さない!」と断罪しているワケではなく、「モブ(脇役)のままでいることを許さない」といった意味のタイトルであった。
いわゆる「高木さん系」。地味な弱者男子クンを女子の方から構ってくれる「高木さん系」は、深夜アニメ化された作品だけでも5本は超えている?
「オレがオレが!」と会話に割って入るだけの覇気はなく、たとえその気はあっても小声であったり滑舌が悪かったりすれば黙殺またはスルー。
お勉強ができるだけでもガリ勉クン扱いでカースト劣位におかれるし、運動神経さえあれば同級男女に一目置かれて、それで自信が持てたりしてコミュニケーションの背中も押してくれるけど、それすらなかった少年が本作の主人公である。
あぁ、過去の自分を見る想いがして、氏にたくなってくる(涙)。
そんな彼は顔色も悪くて白目が多い三白眼としてキャラデザされている(笑)。
対するに、誰に対してもやさしくて、控えめな弱者に気付いて彼らをも取りこぼさずに笑顔でフォローや接点を持ってあげようとしてくれる、生来からの博愛的な性格なのであろう、久保サンなる紺色髪ロングの美少女のキャラデザも、いかにもそれらしい性格が表現できていて完成度が高い。それをはんなりとした声質ながら華(はな)もある花澤香菜(はなざわ・かな)が演じることで増幅!
しかし、その他の「高木さん系」作品と比してしまうと、あまりにも毒っ気や刺激臭がなさすぎるあたりが、この作品の独自性なのだし良さでもあるのだろうけど、下世話な筆者は少々タイクツしてきてしまう(個人の見解です)。
『それでも歩(あゆむ)は寄せてくる』
(2022年夏アニメ)
(2022年8月7日脱稿)
「歩(あゆむ)」は主人公男子クンの名前のみならず、将棋のコマの「歩」のことをも指す。
仏頂面で学ラン詰め襟制服の高身長である高校生男子クンが主人公。銀髪左右分けロングの1学年上であるチビチビの上級生女子がヒロイン。
ふたりだけの将棋部の部室などを舞台に、将棋や何やらをしながら男子クンがモーションを掛けてくる。女子の方ではコラえているのだけど、ついには赤面することで陥落する! といった一連を延々とつづけている深夜アニメなのであった。
一見は特に志しが高い作品だとも思えないのに、不思議な密度感&緊迫感があって引き込まれてしまう。女子の方からコケティッシュに構ってきてくれるのが、『からかい上手の高木さん』(13年。18年に深夜アニメ化・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210516/p1)に代表される、いわゆる「高木さん系」作品である――『高木さん』自体が本作の原作漫画家が手掛けた作品でもあったけど――。
もちろん「高木さん」系でも、オボコい男子クンの方が赤面している作品と、自分でモーションを掛けておきながら赤面して自爆してしまう、やはり深夜アニメ化もされた『上野さんは不器用』(15年。18年にアニメ化)のような作品もある。しかし、本作は男子の方からモーションを掛けてきて、女子の方が真っ赤になっているといったあたりで、差別化もできているのだ。
いやまぁ、もっと引いた視点から、「モーションを掛けている性別」と「赤面している性別」とで2×2=4通りの組合せでの1ジャンルだとしてもイイのだけれども(笑)。
ただし、互いに好意を持っているのに、テレくさくてソレをスナオに云えないので、「相手に先に告白してもらいたい」という駆け引きが発生しているともいえる。
そうなると、やはりアニメ化や実写映画化もされた人気マンガで、生徒会室を舞台に生徒会長と女副会長が火花を散らす『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190912/p1)からも着想を得ているのやもしれない……。
などと云いつつ、作劇的にはそうは云えても、テイスト面ではまるで別モノに感じられるということは、作品の本質が常に作劇術にあるワケでもないということにもなる。
いやホント、同じ原作マンガ家が手掛けた『高木さん』とは似て非なる別モノであり、二番煎じには見えないのだ。
『阿波連(あはれん)さんははかれない』
(2022年春アニメ)
(2022年8月7日脱稿)
「阿波連(あはれん)さん」はこの深夜アニメの銀髪セミロングのメインヒロインのお名前。「はかれない」は距離感&意図が測れないというダブル・ミーニングである。
阿波連さんはおそらく身長150センチ以下のチビチビ低身長。実にオトナしそうでスローモーな動作で、お目々を見開くことなく表情変化もほとんどない。意志薄弱で他人の会話に割って入る以前で、女子グループに参画しようとする気配すらない。
そして、ささやきウィスパーボイスどころか、その発話がほとんど聞き取れなくて、ほぼ無音で何も聞こえてこない(笑)。
即座に連想されて直結するモノでもないけれども強引にカテゴライズすれば、往年の巨大ロボットアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(95年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220306/p1)のヒロイン・綾波レイ(あやなみ・れい)や『涼宮ハルヒの憂鬱』(06年)のサブイロイン・長門有希(ながと・ゆき)などの銀髪ショート系のオトナしげな美少女キャラの系譜であり、その隔世遺伝だとの整理も年長オタク的には可能やもしれない。
と云いたいところだけど多分、女子の方からオボコい男子を構ってくれる『からかい上手の高木さん』(13年。18年に深夜アニメ化)などのいわゆる「高木さん系」こと『上野さんは不器用』(15年。19年にアニメ化)だの『宇崎ちゃんは遊びたい!』(17年。20年にアニメ化)だの『イジらないで、長瀞(ながとろ)さん』(11年。21年にアニメ化)などの変化球としての着想なのであろう。
基本的には受動的な彼女だが、消しゴムを落として拾ってあげたお礼や、教科書を忘れたので隣席の男子クンに机を寄せるかたちで見せてほしいと依頼するときでも、両眼をキラキラさせたりすることもないので、媚びた感じは皆無である。
しかし、そのお人形さんのような童顔を男子クンの顔面や耳元にスレスレにまで近づけて、自身の小声を相手に聞こえるように話す際にも、その行為自体を恥じている気配はない。どころか、彼女がいっしょにお弁当を食べようと男子クンを誘ったり、自分のオカズを男子クンに無表情で押しつけてきたりもする。そーいう意味では、男子を広義で構ってくれてもいるのだ(笑)。
ここで男子クンが繊細ナイーブでキョドって赤面して退いてしまったならば、『上野さん』や『長瀞さん』とも同じである。しかし、この男子クン自体も広義でのコミュ力弱者ではあっても生来の胆力(鈍感力?)で彼も表情に乏しく仏頂面なので、内心の動揺をオモテに出さないポーカーフェイスといった意味では『宇崎ちゃん』が構っている青年主人公クンにも近い。
この男女キャラの造形によって、根幹では女子の方から接近してきて構ってくれるという、「弱者男子にとっての都合がイイ女子像」という基本構図が潜在しながらも、ソコが露骨に前景化されてこないでカモフラージュ……しきれておらず、弱者男子を威圧・侵害してこないというキャラ造形だけでも充分、弱者男子にとっての擬似恋愛ファンタジーとして成立している(笑)。
イジワルに見てしまえば、阿波連さんはルックス面では侮られたことがないだろうから、そこには劣等感や引け目は持っていないであろう。むかしから他人との距離感が測れなかったと独白もするけど、それが絶望の域に至っているワケでもない(笑)。
ゆえに、例えば『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』(11年。13年にアニメ化・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190606/p1)の非モテでチビの女子高校生主人公のように、他人や異性と会話することへの過剰な気後れ! といったモノもない。
しかし、気後れ要素を強調すると自虐的な私小説テイストは醸せても、ラブコメにはなりにくいので、作品批評としてはともかく作劇面では造形が間違っているワケでもない。
とはいえ、そのかぎりでは主人公の高校生男子クンと窓際の隣席ヒロイン・阿波連さんの両者のキャラ造形・関係性描写は盤石に構築できている。
この両者の授業中や放課後における日々の些事にすぎない諸々にまつわるリアクションなり男子クン側の脳内主観描写を延々と描いているだけでも間が持てているのだ。
そこを中核にクラスメイトや旧友や近所の小学生(汗)も交えて、ストーリーの幅や登場する人物像の幅も拡げていく作品になっている。
といっても、他の高木さん系作品とも同様に、個人的にはそんなに執着はしていないけど(笑)。
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