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青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ~ぼっちラブコメだけど、テレ隠しに乾いたSFテイストをブレンド!

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 2019年6月15日(土)からアニメ映画『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』が公開記念! とカコつけて……。
 同作の前日譚たる深夜アニメ『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』(18年)評をアップ!


青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』 ~ぼっちラブコメだけど、テレ隠しに乾いたSFテイストをブレンド


(文・久保達也)
(18年12月7日脱稿)


 突然かまいたちに襲われたかのように全身に切り傷ができる。朝起きたら胸に猛獣のツメに切り裂かれたかのような大きな傷跡がある。周囲の人間に話しかけても誰ひとりとして自分の存在に気づかない……主要キャラが見舞われるこうした不可思議現象を、本作では「思春期症候群」と定義している。


 茶髪のギザギザヘアで表情や態度が常にやさぐれてはいるものの、言動は敬語を使うことが多い主人公・梓川咲太(あずさがわ・さくた)の、たったふたりしかいない友人(汗)のひとりで、灰色髪のロングヘアにメガネで制服の上から白衣をまとった理系女子・双葉理央(ふたば・りお)は、咲太から「思春期症候群」が発症する謎について問われ、自身はそれに否定的だと語ったうえで、オーストリア理論物理学者であるエルヴィン・シュレーディンガーの思考実験・「シュレーディンガーの猫」を引用してそれを解明しようとしていた。


 この「シュレーディンガーの猫」――咲太の家で猫が飼われているのもここからだろう――からシュレーディンガーが提唱したのが、一般的にも広く知られるパラドックスであり、これは正しそうに見える前提と、妥当(だとう)に見える推論から、受け入れがたい結論が得られることを意味している。
 第1話ではこの受け入れがたい結論=「思春期症候群」が起きるに至る「正しそうに見える前提」、そして「妥当に見える推論」が全編に渡って描かれているのだ。


 咲太の妹・かえでは中学時代にクラスのリーダー格に嫌われたために、SNSで執拗(しつよう)なイジメを受け、書きこみを見るたびに身体に傷が刻(きざ)まれ、それに衝撃を受けた咲太の胸に、翌朝大きな傷跡があった。これらは「正しそうに見える前提」だ。


 この胸の傷跡が、咲太が過去に暴力事件を起こして何人かを病院送りにしたというウワサになってしまい、咲太はクラスで孤立してしまう。もうひとりの友人・国見佑真(くにみ・ゆうま)の彼女からも、クラスで浮いてる奴といっしょにいると佑真の株が下がるから近づくな! とホザかれてしまうほどだ――激高する佑真の彼女に「生理か?」と云ってしまう、咲太のデリカシーの欠如(けつじょ)を批判する声もあるかもしれないが、それを云うなら「死ね!」とまでホザくほどの彼女の方がよほどヒドイだろう――。


 人のウワサとは現在では読むのが当然とされている「空気」みたいなものであり、それを読めないだけでダメな奴扱いされてしまう。それをつくっている連中には当事者意識がまったくなく、一度決まったクラスのかたちは簡単には変わらない。つまらない、おもしろいことはないか? と嘆きながらも、本当は誰も変化なんか求めてはいない。めだてばウザい、調子にのってると云われてしまう。そうなったらもう元に戻れない。それが学校という空間……


 本作は江ノ電での通学描写が象徴するように、いわゆる「湘南(しょうなん)」の地、神奈川県藤沢市周辺が舞台となっているが、海岸沿いの美しい風景や、校門・教室・校庭・学食といった、一見楽しそうな学園生活のカットバックに、学校という空間の現実を語る咲太のモノローグがかぶさる演出は絶妙な対比が効(き)き、「思春期症候群」に至ることの「妥当に見える推論」となり得ているのだ!


 そんな学校という空間の「空気」を読み、自ら「空気」を演じていたのが、本作の黒髪ロングのツンデレヒロイン・桜島麻衣(さくらじま・まい)だ。
 子役として芸能界にデビューして以来、華(はな)やかな日々を過ごすも、自分のことを誰も知らない世界に行きたいと願っていた麻衣にとっては、芸能活動のために1年生の途中から咲太の高校に通うこととなり、すでにかたちが決まったクラスの中では完全に異分子であり、誰も話しかけることがなかったのは、むしろ好都合であったろう。


 だが、麻衣は「空気」を演じつづけることで本当の「空気」=透明人間と化してしまい、好物のクリームパンを買おうとしても店員にまったく気づかれず、しまいには藤沢駅周辺で買いものが不可能となり、食事もままならなくなってしまう!
 麻衣が自ら「空気」になることを望み、それを演じていたのは、透明人間と化した「正しそうに見える前提」、「妥当に見える推論」と解釈すべきかもしれないが、自身の存在に気づいてほしいがために、ついに麻衣はバニーガールのコスプレをして図書館を徘徊(はいかい)するという、あまりに痛い行為に走ってしまうが、それでも誰にも気づかれない(汗)。


 理央は「思春期症候群」の解明にあたり、観測理論として長岡技術科学大学名誉教授・松野孝一郎が発見した「内部観測」についても語っている。物質は相互作用を通して相手を検知する、という定義だ。つまり、現在の麻衣と藤沢駅周辺の人々の間には、相互作用が発生していないという推論が成立するのだ。
 「人間の脳は見たくないものは見ない。誰かが観測することで、初めて皆がその存在を認識する」と理央は語ったが、学校も、そして社会も、見たくないものを見ようとしない輩(やから)であふれているがために、「透明人間」にされてしまう人々が存在するという現実を鋭くえぐりだした本作に、筆者は賞賛の声を惜しまずにはいられない。


 もっとも存在するハズの人間が最初からいなかったことにされてしまう恐怖は、アルフレッド・ヒッチコック監督のサスペンス映画『バルカン超特急』(38年・イギリス)や、航空事故で亡くなった息子の写真や思い出の品々が、主人公の手元からすべて消えてしまう映画『フォーガットン』(04年・アメリカ)など、古今東西で結構ネタにされている――『SSSS.GRIDMAN(グリッドマン)』(18年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20190529/p1)の悪のメインヒロイン(笑)・新条アカネに殺された人間の扱いもまた然(しか)りだ――ことを思えば、この問題は決して現代ニッポンに限ったことではないのだろうが。
 せめて我々だけでも、誰からも見えなくなった空腹の麻衣に、クリームパンを差し出すような人間でありたいものだ。


(了)
(初出・オールジャンル同人誌『DEATH-VOLT』VOL.81(18年12月29日発行))


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