『惡の華』 ~2013年4大ぼっちアニメ評 『ローゼンメイデン』『琴浦さん』『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』
『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』 ~連載8年目にして人気再燃の理由を探る!
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2019年9月27日(金)から映画『惡の華(あくのはな)』実写映画版(井口昇カントク&岡田麿里脚本!)が公開記念! とカコつけて……。深夜アニメ版『惡の華』(13年)の前日談を描くドラマCD『惡の蕾(あくのつぼみ)』(13年)評をアップ!
『惡の華』前日談「惡の蕾」ドラマCD ~深夜アニメ版の声優が演じるも、原作者が手掛けた前日談の逸品!
(キングレコード)
(文・久保達也)
(2014年1月15日脱稿)
異色の大傑作、クラスで(ひとり)ボッチに転落していく少年を描いたマンガ原作の深夜アニメ『惡の華』(13年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20151102/p1)で描かれた物語の1年前、中学1年生だった登場人物たちの「日常」について、原作者の押見修造自身がマンガのかたちで書き下ろしたエピソードを音声ドラマ化した「プロローグ」を収録している。
「春日高男編」「仲村佐和編」「佐伯奈々子編」「山田・小島編」「木下・麻友編」「PTA編」(笑)の6トラックから構成されており、ボーナストラックとして、アニメ本編で使用された音源を集めた「仲村罵声集」(爆)、および「中二病座談会~キャストトーク~」も収められている。
「春日高男編」
「春日高男編」では、自室でマンガに夢中になっていた冴えない主人公少年・春日高男(かすが・たかお)に、「中学生の時に読んで世界が変わった」と、父がボードレールの詩集『悪の華』(1857年・ISBN:400325371X・ISBN:4102174036・ISBN:4087601978)を手渡すという、全ての「発端」となる場面が描かれる。
「これ面白いの?」と半信半疑で読み始める高男であったが、「ご飯よ」と呼び続ける母の声が全く聞こえなくなるほどに、いきなり高男の世界は変わってしまう。
学力的には優等生の奈々子でさえも、「やっぱり難しいよ」と理解できなかったほどなのだから、やはり高男は『悪の華』にすぐさま共感してしまうほどに、すでに現実世界に息苦しさを感じていたというところであろう。
「仲村佐和編」
「仲村佐和編」では、「ハエが1匹、ハエが2匹……」と数えていた本作の悪のヒロイン、デブで眼鏡の荒(すさ)んだ中学生少女・仲村佐和(なかむら・さわ)のもとに、やはり父が夕食だと呼びに来るが、この時点ですでに佐和の部屋の扉には、
「はいるな クソムシ」
と書かれていたのである。
父がこれを叱りつけると、佐和は父に
「おまえはハエを殺せるのか!」
と叫び、部屋を飛び出してしまう。
そして佐和は高男と出くわし、高男に
「ウンチバエ!」(笑)
と叫んで去っていく。
佐和の心の中では、この時点でこの街にあふれる「クソムシ」どもをできることなら「始末」してやりたいという想いが渦巻いていたということなのか?
すでに佐和はそうとうヤバい境地に達していたのだが、こうなると、佐和の「小学生編」(笑)をどうしても観たい、と思わずにはいられなくなってしまう。
「佐伯奈々子編」
「佐伯奈々子編」では、学校行事のマラソン大会で、本作の善のヒロインであるお上品な少女・奈々子が友人の木下亜衣・三宅麻友とともに、ブルマー姿で走る途中――麻友がハミパン状態になる描写がある(笑)――、高男が泣きそうな顔をして、草むらの中で何かを探している姿に出くわす。
「ほっときなよ、あんな奴」
と亜衣が制止するも――マジでこいつだけは……(笑)――、奈々子は亜衣と麻友を先に行かせ、高男の探しものを手伝うことになる。
高男「山田の野郎、ぶっ殺す! おれの魂を……」
高男は、なんとマラソン大会で『悪の華』を読みながら走っていたのであり(爆)、それをからかった友人の山田が、高男から本をとりあげ、草むらの中に投げ捨ててしまったのである(笑)。
高男「なんて美しい……ふとももが……シャンプーのにおいが……」
奈々子が本を一緒に探し、見つけてくれたことで以来、高男は奈々子に夢中になってしまうのだが、高男はこのとき、「ファム・ファタール」(運命の女)とつぶやいている。
そもそも中学1年生でこんな言葉を知ってること自体、高男はやっぱただ者ではない。
「山田・小島編」
主人公少年・高男の友人たちを描く「山田・小島編」では、山田の自宅で高男と小島がゲームで遊び、小島が帰ったあと、山田がいかにも中学生男子らしいトークで高男をいじり回す場面が描かれる。
山田「サセ子とかいねぇかな。2万円くらいでやらせてくんねぇかな?」(笑)
拒絶反応を示す高男に、山田はいつもどうやって自慰をやってるかを尋ね、自分はエロ動画をおかずにしていて、このへんにノートパソコンを置いて……などとやらかし、あくまでも高男がどうやっているのかを、しつこく聞き出そうとする(笑)。
本編では女子生徒たちが体育の時間にブルマー姿であり当初、筆者は原作者の押見が1981年生まれであることから、本作の時代設定を氏が中学生であった1994~96年頃だと考えていた。
だが、よく観ると高男の自宅にあるテレビはワイドテレビであり、そこに映る漫才師がオフィス北野に所属する米粒写経というコンビがモデルであることから、今回ノートパソコンが描かれているのも当然であり、時代設定は明らかに現代なのである。
つまり、『惡の華』という物語を成立させるために、すでに21世紀には教育現場で絶滅しているはずのブルマーが、あえて描かれているのである。
それはそうだろう。もし奈々子の体操着が、現実世界で体育の時間に使用されている、色気も何もないハーパンであったなら、高男はそんなもん盗まなかったのでは? と考えざるを得ないのである。
そもそも現代の中高生男子たちは、体育の時間に女子のあんな姿を見て、果たして欲情するのだろうか、という素朴な疑問もあるし、せめてアニメやゲームなどの「仮想世界」で描かれる学園生活くらいは、ブルマーを絶滅させるな! と思えてならないものがある(笑)。閑話休題。
それはともかく、奈々子の母を演じる土井美加(世代的には『超時空要塞マクロス』(82年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/19990901/p1)のヒロイン・早瀬未沙役が最も印象深い)は、この場面に対し、「中学生の男の子ってあんな話してるの!?」と驚いていたとか(笑)。
「木下・麻友編」
善のヒロイン・佐伯奈々子の友人たちを描く「木下・麻友編」では、亜衣が初めてブラジャーを買うために麻友を近所のスーパーに付き添わせたところ、母の買い物についてきた高男と下着売場で出くわしてしまう。こんな「間の悪さ」も実に高男らしい。
「なんでこんなとこいるの?」「盗撮とかしようとしてたんじゃないの!?」――ホントにマジでこいつだけは……(笑)――と、亜衣は徹底的に高男を疑う始末。
そして、高男が持っていた『悪の華』の表紙を麻友が気味悪がり、高男が去ったあと、亜衣は
「ホント気持ち悪い! ああいう奴がエロい犯罪とかするんだよね!」
と、勝手に決めつけてしまう!
やっぱマジでこいつだけは……(爆)
「PTA編」
そして「PTA編」では、意外にも、高男の母と奈々子の母が、すでに仲の良い様子であることが描かれている。
校内の作文コンクールで奈々子が入賞したこと、高男が気味の悪い本ばかり読んでいること、などの「日常」が、二人の主婦の間で延々と語られる。
本編でもそうであったが、高男の母を演じる小林愛の、あまりにも生活感にあふれた演技によって、たとえ絵がなくとも、「井戸端会議」の情景が、見事なまでにありありと浮かんでくる。
そこに佐和の父が現れ、二人と挨拶をかわす。
佐和の父「思春期って、本当に難しいですね」
そう切り出した佐和の父は、佐和が学校のことを何も話してくれないため、娘がどう過ごしているのかわからないが、もし良ければ高男と奈々子にうちの佐和と仲良くしてほしい、と高男の母と奈々子の母に頭を下げる。
ふたりは「うちの子でよければ。ねぇ」などと快諾するのだが……
本編を観る限り、高男も奈々子も、この1年、佐和とはほとんど関わりがなかったように描かれている。つまり、ふたりの母は、佐和の父から受けた依頼を、息子や娘には一切話さなかったのだと、解釈せざるを得ないのである。
すでに「問題児」として悪評が立っていたであろう佐和を、うちの子供に関わらせたくはない……親としては至極当然な反応ではあろうが、これがまた、佐和をますます「狂気」へと駆り立ててしまったのである。
そうした生徒に救いの手を差し伸べようと、大人たちが真剣に考えてあげるのが、本来の「PTA」という場ではないのだろうか?
「中二病座談会」
本編の世界観と絶妙にリンクした、実に聴き応えのあるドラマCDであったが、巻末の「中二病座談会」(笑)がまた、まさに『惡の華』の世界観を、声優たちが現実世界ですでに築き上げてきたかのようなトークであふれていた。
・高男を演じた植田慎一郎は、中学時代すごくモテたいという願望から、「対女子用質疑応答マニュアル」を作っていたとか(爆)。
・山田を演じた松崎克俊は、人気者が中心のきらびやかなグループではなく、それに入れなかった、鬱屈したどんよりとしたグループ(笑)にいたらしいが、その陰のグループからも孤立しないため、特に興味もなかった洋楽を必死で聴いて話を合わせてたとか(笑)。
・小島を演じた浜添伸也は、自分がただ者ではないと思わせたかったがために、読んでも理解できないような小難しい本を常に携帯していたという、まさに高男のような中学生時代を送っていたとか(爆)。
・麻友を演じた原紗友里は、どのグループにも入れなかったことに対し、自分が仲間はずれなのではなく、自分が他の生徒を仲間はずれにしているのだ、と自身を慰めていたとか(笑)。
あまりに痛い話が続出した末、奈々子を演じた中堅のアイドル声優・日笠陽子が「人類はみな変態」(爆)と締めくくるのには、まさに『惡の華』を演じるにふさわしいメンバーたちかと思えた。
それにしても、佐和を演じた伊瀬茉莉也(いせ・まりや)が、あまりに普通に可愛らしい声であるのには、「仲村罵声集」が直前に収録されていることもあり、仰天することしきりである――実際ルックスも到底、佐和とは結びつかないほどの可憐さである。ググってみると、女児向けアニメ『Yes! プリキュア5(ファイブ)』(07年)と続編『Yes! プリキュア5 GoGo(ゴーゴー)』(08年)で、小柄可愛い系のキンキン声で金髪ツインテールの黄色いプリキュア・キュアレモネードも演じた御仁である――。あそこまで低音でドスのきいた声が演じられるとは見事というより他にない。
筆者の天敵である(笑)亜衣を演じた上村彩子(うえむら・あやこ)もまた然りである――こちらもググってみると、アイドル集団・AKB48(エーケービー・フォーティエイト)の初期(第2期生・06年)メンバー出身だそうな――。
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