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2019年8月23日(金)から新宿ピカデリーほかで、京都アニメーション製作のアニメ映画が特集上映記念!
恐れ多くもそれに便乗させていただき、京アニ製作のアニメ映画『映画 中二病でも恋がしたい! -Take On Me(テイク・オン・ミー)』(18年)評をアップ!
(先の事件で犠牲になられた方々のご冥福と、心身に重症を負われた方々のご回復を祈念いたしております)
『映画 中二病でも恋がしたい! -Take On Me-』 ~眼帯少女も高1なら可愛いけど高3だとヤバいかも…に迫る逸品
(2018年1月6日公開)
(文・T.SATO)
(2018年4月27日脱稿)
せめてもの自己アピールか対人バリアかその両方か、片目に眼帯を付けた、小学校高学年の女児にも見えかねない、小動物チックで奥手な女子高生。
折しも同年代のイケてる系が異性とのコミュニケーションに乗り出す時期でもある。しかし、ルックス・胆力・コミュ力に欠けた同輩は、そのことに苦手意識をいだき、その不全感の代償として、自分には凡人とは異なるサブカル知識や文才・画才・超能力(笑)などがあり、ココではない別の場所や異世界であればノビノビと活躍して全能感・万能感にひたれるハズだ! と夢想して、仮想世界で擬似的にカースト上昇・立身出世を果たすことで、辛うじて自尊心を支えようとするモノなのだろう。わかります(汗)。
メインヒロインの女子高生はベタにその中二病の沼にハマって、教室や通学中に呪文を唱えて超能力(笑)を発揮する。その姿にたかだか数年前の自分の写し絵を看て取って、その痛々しさに悶絶する男子高校生クンが、主に放課後の文化部の部室で彼女をカマうことで……といった内容で2012年秋に大ヒットした本作。
筆者もハマったクチだが、筆者のようにネジくれた人間は、本作のメインヒロインはルックスに最低限恵まれているから主人公男子に異性の対象として見てもらえることでラブストーリーが成立するのであって、そのルックスが残念であったなら、白馬の王子さまは現れなかったに違いない……などとつい思案。
そのへんの私的ツッコミに対する見事なアンサーが、翌13年の夏アニメ『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190606/p1)の小柄で貧相でルックスにも恵まれず王子さまも現れないのでコジらせていくメインヒロイン黒木智子ことモコッチだったのだが(笑)。
本作の物語はテーマ的にも語り尽くされて一度は完結したが、天下の製作会社・京都アニメも背に腹は代えられず、質の高い別の新作を作るためにか、一定の高収が期待できる本作の総集編映画『小鳥遊六花(たかなし・りっか)・改~劇場版 中二病でも恋がしたい!~』(13年)や第2期『中二病でも恋がしたい! 戀(れん)』(14年)にも着手。
それからでももう5年近く、作品タイトルにまだまだブランド力はあっても、そろそろ「終わコン」になろうという時期にもう一商売しようと放たれたのが、さらなる続編の本映画だ。
もちろん確信犯なのだろうが、抑揚あるストーリーらしいストーリーはさしてナイ。
基本は第2期では主人公男子クンと同居(笑)していたメインヒロインが、姉から外国で自分といっしょに暮らせ! と命令されたことを発端に、高2と高3の間の春休みを利用して、主人公&ヒロインが地元の関西周辺、果ては日本各地を、飛行機や寝台列車で逃避行する、いわゆる風景・背景の力も借りて情緒や変化も出していくロードムービー・股旅ものだ。
ストーリーの技巧より、過程におけるキャラの景色に対する反応や言動、いわゆるキャラ性の方を楽しむ作品となっている。
個性的なキャラの未熟ゆえの奇行の楽しさ&その成長を描いた作品は、そのさらなるあとを描いてしまうと、コレじゃない感が漂いがちだ。
そこで、本作の先のTVアニメ2期が採った手法は……季節はめぐっても歳月は重ねない広いイミでの「サザエさん時空」パターンで、高1から高2に進学してもキャラの成長はほぼチャラで、メインヒロインが変わらず中2病的な奇行をくりひろげる、1期の最終回はナンだったのだ? パターンであった(笑)。
優劣ではなく、成長も遂げるリアルな「人物」か、記号的な言動をする「キャラ」か、というイミでは、本作は後者の魅力に寄っていたので、2期が採った方針は比較考量すればトータルでは正しいと思う。
しかし……前者を採用した場合と比すれば違和感は小さいとはいえ、メインヒロインの成長はドーなる? という疑問は奥歯に挟まる。
本作はそこにもセルフツッコミ的に微量に焦点を当てて通奏低音としている。
この精神年齢も幼く他人と全うな会話もできなさそうなメインヒロインは、高1や高2ならば可愛いとして許されるけど、高3だとそろそろヤバくないか? 社会人として他人と最低限のコミュニケートはできるのか? 現実世界は王子さまとお姫さまの結婚でメデタシメデタシで完結しないワケだから、職場での付き合いやママさんデビューやらで苦労どころか挫折しそうだナと先回りしてしまうのは筆者のネジくれすぎた見方でもあるのだが、メインヒロインに対する姉の心配もそれである。
人間は残念ながら平等ではなく、身分制度が撤廃されてもなお残る、個人ごとの気質・体質・知力・胆力・コミュ力などの個体差もあり、その範疇での改善しかアリエナイとは思う。彼女みたいなタイプが自立したキャリアウーマンにはなれようハズもないけど幸あらんことを。
多少のグタグタ感がありつつ、プロが余技として流して作っている感もあるけれど、最後だけは(笑)ヤマ場を作って演出&演技の力で盛り上げるあたりで、1本の成立したフィルムを観られた! という気持ちにはさせてくれる一品だ。