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大人気・高視聴率TVドラマ『ドクターX~外科医・大門未知子~』第7シリーズ(21年)が放送中で、この第7シリーズも「最終章」に突入記念! とカコつけて…… 一昨年に放映された同作・第6シリーズ(19年)評をアップ!
『ドクターX~外科医・大門未知子~』 ~大人気TVドラマで面白いが、作劇的には危ういのでディスってみる!?
(文・田中雪麻呂)
(2019年10月19日脱稿)
人気是絶頂! 『ドクターX~外科医・大門未知子~』第6シリーズ(2019年)を斬ってみた!
大人気TVドラマ『ドクターX(エックス)~外科医・大門未知子(げかい・だいもんみちこ)~』(12年)の新シリーズ(19年)がまた始まった! もう第6シリーズ目だという。
米倉涼子演じる長身で容姿端麗な女医が主役。手術のウデは世界屈指。しかし、派閥に無縁。権威にも無縁。フリーランスの一匹狼として高名な医師の代理手術を行って、破格の手術料をむしり取る。
だが、ダークヒロインではない。カネをむしり取るのは彼女ではなく彼女の仲介役である。また、してやられる依頼者は俗人でカネの亡者が多く、いきおい米倉演じるヒロインに視聴者が快哉を叫ぶ構図が形成される。
手塚治虫(てづか・おさむ)が描いた名作漫画『ブラック・ジャック』(73年)の再来だという声もある。しかし、筆者はそんなに単純なものではないと思う。もっと単純だ!(笑)
『ドクターX』は面白い。医療現場の最高峰として描かれているハズの医科大学病院に所属している人間がことごとくスカタンである(笑)。薬を待っている外来病棟の長廊下で強権を持つ医師の大名行列をやる。フリーランスの医師を「バイト」と呼んで軽蔑している。
西田敏行演じる強欲な院長が菓子折の下に札束を敷き詰めた賄賂を受け取る、または要求する。西田の院長が北野武監督の暴力団映画『アウトレイジ』(10年)の時の口調で局員を仕切る。西田の院長が命令すると、配下の局員が全員「御意(ぎょい)!」と媚びて拝礼する。
名医と呼び声の高い医者たちがその実、全く使えない。何十人という医者たちが全く思いもよらないことをヒロインの米倉だけが気付く。極秘扱いの患者を全職員の前で発表する。術前検査もせずそのままマスコミに発表する。VIP患者の特別室の前を一般の外来患者が普通にうろついている。VIP患者がいつの間にか外出、または屋上に上がっている。病院に無断でいつの間にかヒロインの米倉が手術室を占拠している。高畑淳子演じる看護師長が先頭の看護師の大名行列もついでにあったりする。
教養ある大人が知恵を絞って下へ下へと這いつくばって見せている。それはこのドラマの命題のひとつが「視聴者に小馬鹿にされる」ことであるからだ。オトナはもちろんコドモにすら見透かされ嗤(わら)われなければならない。命を扱う戯曲でバカをやるには一回りして軽んじられる方が早道で極めてラクだからだ。
『ドクターX』の笑いは、キャラクターで笑わせる日本の喜劇には珍しく、状況や設定を一捻りしてご機嫌を伺(うかが)う箇所が多い。従って、ヒロインの米倉も状況によってクルクル変わる。これは必然である。『ブラック・ジャック』の主人公・ブラックジャックこと間黒男(はざま・くろお)のカネへの汚さは米倉のヒロインには影もカタチもない。
彼女のワンオペ数千万円の手術代行の請求は、ヒロインの師匠格の紳士が行い、彼女自身といえばいつも金欠でピイピイしている。「パリコレ」もかくやという出で立ち、高いヒールで闊歩(かっぽ)するヒロインだが、昼御飯はいつも焼きそばパンか素饂飩(すうどん)の粗食。おでんやタイヤキの買い食いも、屋台のおっちゃんに隙あらば奢ってもらおうという魂胆である。何の庶民派アピールなのかト。藤田まことかト(笑)。
金欠の割には毎度衣装替えはする、しょっちゅう旅には出るわと、いい感じの「市川の御大(いちかわのおんたい)」である(=東映時代劇の名優・市川右太衛門(いちかわ・うたえもん)状態)。カネのことが絡むと途端にチャイルディッシュになるのも、このヒロインの特性である。彼女は「家政婦斡旋所」ならぬ「名医紹介所」に所属しており、彼女の莫大な報酬はほとんど同所に吸い上げられている。
ヒロインは時には同所から嘘を吐(つ)かれる。大金を稼いだのに
「ノーギャラだった。だからウチの財政事情はキビしい。もっと働いて頂戴!」
と逆にハッパをかけられる。モラハラでありブラック企業である。
だが、視聴者はヒロインにあまり同情しなくてもいい構造になっている。群れを嫌い他者からの束縛を拒むヒロインだが、所長とは完全な従属関係である。それも雛鳥と親鳥の関係性に近い。
彼女の戦場である医療現場では、ヒロインはいつもドライでクール、空気など読まない鈍感力のカタマリだが、生活もともにする所長には頑是(がんぜ)ない子供のような素直な感情をぶつける。そのヒロインのプライベートでのツンデレから彼女の人間性が描かれ、視聴者は彼女への感情移入が容易になる。またこれによって、親が子供の貯めたお年玉を遣い込んでも罪にならないように、不透明な金銭のやり取りの疑惑もいつの間にか雲散霧消している(笑)。
同所の所長でありヒロインの師匠格の怪人物を岸部一徳がおネエことばで演じている。簡素な身なりで愛猫を抱き、ヒロインらお抱えの医師らと麻雀の卓を賑やかに囲む。
この所長がトボけ倒している。毎回ラストにこの所長は代理人として手土産の果物を携え、相手先に法外な請求書を突きつける。穏やかな物腰で、あるいは脅迫スレスレの説得を以(もっ)て、まんまとこちらの要求を飲ませる。
「勝利の舞い」よろしく、目的達成の帰途にはいつも軽やかなスキップを踏んで見せるのも、この所長のお家芸(いえげい)だ。関係者によるとこの岸部のスキップは、演出家の彼への無茶振りが発端だったという。岸部のアドリブだったとは驚きである。
『ドクターX』は何の思想もないドラマである。思想がないのが面白い。手術や命へのビジョンやポリシーもほぼない。文芸に忠実というだけで、リテラシーに沿うカタチに舵を切っているだけというのが、一番適切な言い回しだろう。
ヒロインにいつも退けられる敵役(かたきやく)も独特だ。前出の西田敏行はリバイバルで脚光を浴び、遠藤憲一はヒロインに軽くいなされる中間管理職役で大ブレイクした。
西田はアドリブが大得意な役者だ。若手の主役にアドリブを仕掛けて困らせる等、実話雑誌レベルでは煙たがられる存在でもあったと報じられている。現在の『ドクターX』においては、西田のアドリブ力(りょく)が遺憾なく発揮されている。
打って変わって、遠藤は「受け」の芝居に徹している。2000年代のビデオシネマで一時代を築いた攻守選ばずの演技派が、素人のように敢えてボソボソと喋る。彼もアドリブのような芝居に寄せている。
西田は「足掻(あが)く」アドリブをする。遠藤は「気落ち」のアドリブをしてみせる。双方ともに『ドクターX』の世界観を見事に体現している。
このドラマに爪痕を残せるか否かは、名門の劇団出身や、叩き上げのキャリアかは関係ない。このドラマが「役者の力量」のリトマス試験紙になるなどと書き立てた週刊誌も見受けられたが、冗談ではない。三田佳子・泉ピン子・吉田鋼太郎・滝藤賢一らは鳴り物入りで出演したが、爪痕は残せなかった。小劇団の花形役者の方がその任を果たせるかと思うのだが如何(いかが)か。
『ドクターX』は何の哲学もないドラマである。敢えて全ての思想の枝打ちをしてきた希有(けう)な作品だ。このシリーズで残れるキャラクターを打ち立てられるのは、セルフプロデュースができる役者のみ。それは「アドリブ」力に他ならない。その定義を用いれば、第6シリーズの市村正親は微妙なところか。俳優稼業も修羅の道である。恐ろしや、恐ろしや。
そして、さらに恐ろしいのが女優であり、トップモデルの米倉涼子に対する「唯美主義」である。米倉の「美しさ」がそのままキャラクターの「強さ」とか「正しさ」と勘違いしている視聴者が多すぎる。それがための大ヒットではないかと思う。圧倒的な「美」に対して「理屈」や「道理」は不毛だ。筋立てさえその前には不要である。
「週刊現代2019/10/12、19号」(ASIN:B07Y97FKBP)での『ドクターX』の特集頁によると、ドラマで描かれている症例は全て実際にあったものだという。医療監修のセンセイと製作プロデューサーが世界中の論文を読み漁って、ネタ出しをしているという。
「実際の患者さんたちを傷つけてはいけないので」という美名のもとに行われているそうだが、ふざけてはいけない。その症例を大切にして丁寧に描いてもいない。コメディドラマの消耗品として利用し、他者の人生の重大事を弄(もてあそ)ぶに等しい作りではないのか? また、実際にあった症例ならば、クレームが来た時の大いなる言い訳にしようとしているようにも思える。
このドラマは「創作」の苦悩すら他人(ひと)任せで、自分たちは程度の低いものを作っているという弁(わきま)えすらない。このシリーズのヒットの要因を巡り、男性総合雑誌を主な舞台に多くの識者が語っている。黄金パターンの確立というひともいる。筆者が思うにそんな大層なものですらない。『ドクターX』とは「思考停止」の最終形態のドラマなのである。
だから筆者は、昭和生まれでありながらこの作品を絶賛しているテレビウオッチャーをあまり信用しない。文芸性を放棄したドラマは忖度(そんたく)にしか動けない。努力のベクトルが間違えた方向にしか向いていない。
現実問題として『ドクターX』を模倣したような「演者のあて書き」といえば聞こえが良いだけの、明らかに大衆に当てて書いていないテレビ朝日系のドラマが増えつつあるように見える。
『ドクターX』は面白い。面白いがゆえに危うい。「小劇団の悪ふざけドラマ」は、現在を、そして未来の表現媒体をも侵食し始めているのだ。
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