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『大江戸もののけ物語』 ~令和の御世(みよ)のNHKの妖怪ドラマについて。
「寺子屋(てらこや)の爽(さわ)やか先生が、ツンデレ妖怪・天の邪鬼(あまのじゃく)とタッグを組んだ! 奇跡の相棒(バディ)が大江戸に巣喰う妖(あやかし)を打ち破るッ!!」。
ダサダサだが、惹句(じゃっく)を仕立てるなら、そんな感じになるだろうか。
2020年7月17日(金)夜8時から、NHKBSプレミアムで始まった『大江戸もののけ物語』がそれである。
主人公は岡田健史(おかだ けんし)演じる、旗本(はたもと=高位のサムライ)の次男坊・新海一馬。設定年齢25歳(岡田の実年齢は21歳)。弱気で武術もニガテだが、心の優しい寺子屋(てらこや=児童のための学問所)の先生である。
岡田は2018年に『中学聖日記(TBS系)』の有村架純(ありむら かすみ)の相手役として、千人以上の応募者の中から抜擢されたシンデレラ・ボーイである。
天才子役として鳴らした平尾菜々花(ひらお ななか)が、お雛(ひな)という寺子屋の生徒役で一馬をサポートする。設定年齢10歳(平尾の実年齢は14歳)。
亡母への未練断ちがたく、(何故か)廃屋で火焔型土器(かえんがたどき=縄文時代中期を代表する土器)に願いを掛けていたところ、その土器が突然粉々に割れ、中から(何故か)妖怪・天の邪鬼が姿を現す。天の邪鬼とは何事も他人と反対のことを言っては困らせる偏屈(へんくつ)な妖怪である。
現れた天の邪鬼役は、キッズモデルから着々とキャリアを重ね、今や性格俳優の域の本郷奏多(ほんごう かなた)、29歳。(我々特撮マニア的には深夜ドラマ『怪獣倶楽部~空想特撮青春記~(2017)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20170628/p1)の主人公青年!)
顔にはヒキツリがあり、身体中に土器を思わせる土くれが張り付いておりミイラ男の包帯のよう。イケメンの彼には初の汚れ役であろう。
本郷といえば、かの秦(しん)の始皇帝の若き日々を描いた青年誌漫画原作の大作邦画『キングダム(2019)』で、世の女性たちの憧れのアクター・山﨑賢人(やまざき けんと)と吉沢亮(よしざわ りょう。『仮面ライダーフォーゼ(2011)』の2号ライダー・仮面ライダーメテオ役!)を向こうに回して、冷酷無残な敵役(かたきやく)として存在感を見せつけていた。
劇中のクライマックスを迎えると、本郷が王宮の衆人環視の中で吉沢にタコ殴りされ、血反吐(ちへど)を吐いて倒れるところで映画は終わった(笑)。
当時の資料(「キングダム新聞(日刊スポーツ新聞社 2019年4月12日刊)」)を読むと、同作の原作者・原泰久、松橋真三プロデューサーらメインスタッフ満場一致で、悪役には本郷しかいないとなり、なんとか口説き落としたとある。ボコられ役のイメージがメインスタッフ間でほぼ本郷に一致していたというのも凄い話だ(笑)。
その前は本郷はバラエティタレントとしても名を馳せた。
潔癖症が高じて他者の作った料理が食べられず三食が駄菓子になってしまっているという触れ込みでイジられていた。中尾彬(なかお あきら)ら重鎮(じゅうちん)で食通の先輩俳優が本郷を銘店に招待するのだが、彼は全くそれらに見向きもせず、涼しい顔で傍らからポッキーを出して噛(かじ)っていたりしていた(笑)。
「変わり者」だというのが信憑性を帯びて業界に伝わったため、本郷が座長のTVドラマのキャスト間のSNS・LINE(ライン)グループで彼ひとりだけ外されていたことがあり、本郷本人が楽しそうにそのエピソードトークをしていたこともあった。
いかんいかん。本郷が面白過ぎてつい彼のことばかり話してしまう。
キャスト紹介に戻ろう(笑)。
天の邪鬼を追いかけて来たかのように廃屋に出現したのが、妖怪仲間の猫又(ねこまた=歳を重ねた猫が化けたもの)と河童(かっぱ=水辺に棲む水怪)の両名である。
猫又はファッションモデルでもある森川葵(もりかわ あおい)、河童は若くして人気劇団のトップだった青山美郷(あおやま みさと)がそれぞれ演じている。
市井のお洒落な町娘と見紛う人間型の妖怪である猫又に対し、尖ったくちばしに頭には水をたたえたお皿、背中には甲羅を背負うという、古来からの伝承に忠実なビジュアルの河童は全身着ぐるみで設(しつら)えられていて、その対比が面白い。
一馬は幼時に目には見えない「あやかし」に命を救われて以来、妖怪の魅力に取りつかれ、裏では妖怪研究者の顔も持っていた。
天の邪鬼が招来した廃屋にお雛を追って居合わせた一馬は、件(くだん)の土器に付いていた勾玉(まがたま=古代日本の装身具。母親の胎内の胎児の形に由来するという説もある)を手にしたことで妖怪を見る能力を有するようになる。一馬は天の邪鬼ら三匹の力を借り、江戸の街に蔓延(はびこ)る悪しき妖怪を退治してゆく。
そこに一馬を好ましく想う町娘・およう役に山田杏奈(やまだ あんな)、一馬の父親役で甲本雅裕(こうもと まさひろ)、寺子屋の和尚(おしょう)にイッセー尾形とBSの児童向けのドラマとしては、かなりの豪華キャストでストーリーは展開する。
放送枠もこういう柔らかいものには珍しく、45分や50分ですらなくたっぷり一時間。
コンテンツとしても充実しており、ドラマ本編が終了するや、我々的には『ウルトラマンダイナ(1997)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971215/p1)ことアスカ隊員である歌手のつるの剛士(つるの たけし)がメインで唄う「妖怪音頭」が流れ、一馬とお雛、妖怪たちが小気味良く盆踊りをダンシング!
それが済むとドラマ部分の「妖怪監修」担当の著述家・荒俣宏(あらまた ひろし)が登場。NHKらしく毎回テーマを変えて妖怪についての雑学・蘊蓄(うんちく)を披露。アカデミックな雰囲気で幕を引く。
そつのない作りであり、新進俳優が凌(しの)ぎを削る、理想的なキャスティングといえる。家族で楽しく観られるプログラムでもある。そうだ、そのハズだったのだが……。
これは個人的には失敗作に思うなぁ。
圧倒的にセンスがないので悪目立ちしている。全5回で、現在2話目を見終わったところだが、来週また観るかどうかは分からない(笑)。
爽やか先生が屋根裏部屋(それは彼の自室の真上に人知れず設(しつら)えられている!)に籠(こも)るシーンが毎回出てくる。テロップで「妖怪研究室」と表示される。その時点で相当気持ちが下がる(笑)。
室内には妖怪の研究書類が無数に、うず高く積まれている。照明設備はもちろん蝋燭(ろうそく)の灯りだけだ。鬼面(きめん)や曰くありげな瓢箪(ひょうたん)など、不気味グッズが所畝(せ)ましと吊り下がっている。
圧巻なのは妖怪画の掛け軸だ! 蛇体(じゃたい)に怪しい女の首が生え、チロチロと舌を出している「濡れ女(ぬれおんな)」と、餓鬼(がき=餓えに苦しむ悪霊)のような体に赤いチリチリのパーマ状の頭髪を持つ「赤(あか)がしら」の二幅が掛けられている。
一馬は幼少の折、寺子屋の和尚に与えられた「妖怪図鑑」を実直な父親に咎(とが)められ、燃やされるという憂き目に遭っている。その日から幾星霜(いくせいそう)、「妖怪研究室」は一馬の夢の所産なのだ。
もうこの悪趣味な描写で若い女の子の視聴者たちは離れてゆく。だってキモいんだもの。主人公がオタクなんだもの(笑)。
雑然とした「妖怪研究室」とは段違いに、一馬の自室とされている場所にはとにかくモノがない。アリバイ用の小さな書庫くらいだ。
こういう好きなものには全てを傾注し、他者の目や気持ちに想像力が及ばないところも生粋のマニアであり、世にかくれもない異常性格者である(笑)。
一般的には視聴者に感情移入させるために、主人公にはある程度、ノーマルな人格が求められる。伝奇ものなら尚更である。不思議な事象に翻弄されなければ、狂言廻しの役割も務まらない。
しかし、この一馬は初回にして、自前の妖怪図鑑類を読み漁り、目的の妖怪をサクッとリストアップしてきてしまう。お雛もしっかり者だから、妖怪を見ても怖(お)じることはない。逆に、おどける河童の頭を張り倒したりしている(笑)。
妖怪たちと対峙(たいじ)するのが、妖怪オタクと肝の座った可愛げのない子どもという二人だけである。何がしたいのか? 訳が分からない(笑)。
役柄のキテレツさとは裏腹に、爽やか先生を演じる岡田はまだ二十歳(はたち)そこそこなのに極めて聡明な俳優である。このドラマのナビ番組で抱負を語っていたが、同席していた荒俣がその内容の確かさに感嘆していたくらいだ。
スピーチの中で、岡田はまず
「男尊女卑(だんそんじょひ)である時代劇なのに、一馬は女性で目下のお雛に仕切られているのが面白い。」
と口火を切った。別のナビ番組でも岡田は
「一馬には上から目線というものがない。お雛も妖怪の河童も、同列でハグできる性格のキャラなんです。」
と分析している。
ある程度収録を重ね、この作品の演出意図を岡田なりに汲み取り、稀釈された結論であるとおぼしい。
岡田のコメントを聞き、やはり先だってNHKで放送された、『天装戦隊ゴセイジャー(2010)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20130121/p1)のゴセイレッドこと柔和な軟弱青年(笑)のアラタを演じた千葉雄大(ちば ゆうだい)が光源氏(ひかるげんじ)役を務めた『いいね! 光源氏くん(2020)』という同趣の連続ドラマを筆者は想起した。こちらは妖怪ではなく平安時代の古典長編小説『源氏物語(1008)』の光源氏が現代の東京に現れるというタイム・スリップものである。
色男の源氏の君がお気楽にホストの真似事をしたりと能天気なライト・ドラマかと思いきや、終盤近くになって源氏はシェアハウスをしている現代人のヒロインに
「『源氏物語』であなたが愛した女性で、幸せになった人は誰もいないから!」
とキレられ、理不尽に冷や水を浴びせられる(笑)。
もうダメなのだ。男性目線はその象徴的人物であっても赦(ゆる)されないのだ。光源氏がダメなんだから、時代劇でも通らないのだ(笑)。
令和時代のドラマにすら反映している、女性への徹底したモラルの厳しさに改めて戦慄(せんりつ)する。
キーマンである天の邪鬼にも突っ込みどころは多い。
そもそもリーダー格が天の邪鬼というのが、まずセンスがない(笑)。偏屈者だから話を回せないし、真意とは逆のことを言うという設定のために、ストーリーの流れを平易にできない。
土器から誕生したシーンでは、「俺は天の邪鬼だ。」と自己紹介は何故か「正しく」していたのだが(笑)。
天の邪鬼に扮する本郷の知名度を考えても、ドラマの真の主役は彼である。一馬役の岡田の設定年齢を上げたのも、本郷に合わせてのことだろう。
本作オリジナルの設定も、天の邪鬼に多く付記されている。何かの呪縛で彼だけこの廃屋から出られなかったり(従って「妖怪音頭」のコーナーには、天の邪鬼だけ参加していないのだ!)、悪しき妖怪を滅ぼす度に手塚治虫(てづか おさむ)の名作妖怪時代劇マンガ『どろろ(1967)』のヒーロー・百鬼丸(ひゃっきまる)よろしく、身体から土器の土くれが熱を帯びて剥がれ落ちる描写があったりする。
キーマンが結界に阻(はば)まれているせいで、クライマックスのバトル・シーンがヘンな感じになっている。
強大な妖怪を向こうに回し、一馬は剣術が不得手だし、猫又と河童は戦力外だし、天の邪鬼に至っては廃屋から出られないので、一馬にテレパシーで術策を与え、念動力で遠隔地から他者を動かして加勢するという、何でもアリなくせにヘッボコなチーム編成である。
何でいつも本郷奏多だけセットオンリーで、ロケに参加しない大御所俳優みたいになっているのかト。
北大路欣也(きたおおじ きんや)なのかト(笑)。
筆者がこのドラマにノれない理由が、この天の邪鬼に付記された「枷(かせ)」にもある。
多分最終回近くで、この枷の理由が絵解きで氷解されるのであろう。それを以(もっ)てヤマ場とし、エンディングを飾る一助とするのではないか。
しかし、それはよく練られた脚本が、伏線を回収することでカタルシス(清々しい気分)を生じせしめるものではない。最初から「違和感」を呈示し、それを取り去ることで、カタルシスの代替としている「まやかし」に過ぎない。
前述の『いいね! 光源氏くん』もそうだった。
ドラマの序盤は実在の人物でもない光源氏がタイム・スリップしてきたことに何ら疑義(ぎぎ)を挟まなかった展開ながら、オーラス前になって突如その件を蒸し返して状況を説明してみせ、大団円(だいだんえん)に繋げていた。
嘘でも捏造でもないが、だからこそタチが悪い(笑)。近年のライト・ドラマには、そういうものがチラホラ見受けられていて気掛かりである。
『大江戸もののけ物語』はどんなラストを迎えるのだろうか? やはり最終回まで見届けざるをえなくなったなぁ(笑)。
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