(ファミリー劇場『ウルトラマンエイティ』放映開始記念「全話評」連動連載開始!)
『ウルトラマン80』 再評価・全話評! 〜序文
『ウルトラマン80』#8「よみがえった伝説」 〜光の巨人!
『ウルトラマン80』#9「エアポート危機一髪!」 〜佳作
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第10話『宇宙からの訪問者』 〜合評1
変形怪獣ズルズラー 宇宙生物ジャッキー 惑星調査員アルマ登場
(作・土筆勉 監督・湯浅憲明 特撮監督・川北紘一 放映日・80年6月4日)
(視聴率:関東10.7% 中部14.2% 関西13.8%)
(文・内山和正)
(1999年執筆)
ウルトラマン80(エイティ)の幼なじみだという女性・アルマが訪れての騒動を描く。
エイティこと矢的猛(やまと・たけし)先生の既婚疑惑がまきおこるなど一見軽いタッチであったりしながら、アルマの所属する「銀河共和同盟」が存続に適さぬと判断した星を破壊できる権限を持った組織で、アルマはその調査のため地球に来たのだとの設定は冷静に考えてみればかなり深刻で暗い。
矢的の受け持ちである中学生たちを罠にはめての調査方法も汚(きたな)い。
中学生たちの怠惰な心や闘争心程度のことで存続に適さないというのでは、他の星は天使のような星ばかりなのだろうか。
そのあたりのぎこちなさ、マイルドな非リアルさが逆に深刻さをうすれさせていて、安心して作品を観ることができることにもつながっている。
(アルマのペットでもあるサザエのような貝型の宇宙生物ジャッキーが、調査のために地球人たちのマイナスエネルギーを吸いすぎ、ジャッキーを食べた動物園の象が怪獣化するという状況も深刻なはずなのだが、描かれ方はそうではない)
『ウルトラセブン』(67年)31話「悪魔の住む花」や『ザ・ウルトラマン』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100430/p1)10話「見えたぞ! まぼろしの怪獣が…」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090706/p1)同様、ウルトラマン80が自らミクロ化して怪獣の体内に潜入するシーンは、それらしい雰囲気の出た手間と時間と予算をかけたであろう怪獣の体内を表現した幻想的な特撮美術セットが見ものだ。
怪獣ズルズラー出現シーンでは、『ウルトラマンエース』(72年)25話「ピラミットは超獣の巣だ!」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061021/p1)での古代超獣スフィンクス出現シーンや、後年の平成ゴジラシリーズでも度々観られた、怪獣の手足や口や角(ツノ)などのパーツパーツの短いアップカット(カメラや被写体も静止しておらず微妙に動きがある)の連発で、怪獣の巨大感を出す特撮演出が試みられている。
第10話『宇宙からの訪問者』 〜合評2
(文・黒鮫建武隊)
(1999年執筆)
地球人のマイナスエネルギーを収集・調査する宇宙生物ジャッキー。これが暴走して象と合体、変形怪獣となってしまう。
というわけで今回のズルズラーは、3話「泣くな初恋怪獣」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100516/p1)の硫酸怪獣ホー以来久しぶりに、「マイナスエネルギーが生み出した」ことが明確に描かれた怪獣ということになる。
ただ、そのマイナスエネルギーというのが具体的には、レギュラーの生徒たち落語(らくご)とスーパーの「魔法のエンピツ争奪戦」であるとか、アルマお手製のローストビーフに嫉妬する京子先生であるとかいった、ややコミカルな騒動によって発生したものである為、深刻さは全く感じられない(惑星調査員として地球人類の存続を認め得るか、というアルマの調査活動の対象になっているのだから、本当は全人類規模の深刻な問題なのだが)。
アルマが調査目的で人間に働きかける際に、「イタズラ」という形式をとっていることも、良い意味で軽薄な明るさを醸し出した一因であろう。
このように今回は、マイナスエネルギーという基本設定を堅持している点では3話等の初期エピソードを継承しているものの、全体の印象はむしろ9話「エアポート危機一髪!」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100627/p1)同様コミカル色が強いというように、教師編のおいしいところをうまくミックスさせた話、という気がする(湯浅憲明監督がメイン監督を務めた直前作、67年版のリメイクである大場久美子主演の魔法少女もの『コメットさん』(78年)に近い雰囲気を最も感じさせるエピソードでもある)。
教師編がもう少し続けば、この10話のような雰囲気の作品が中心になっていったかも知れない。
また、人間の短所を認めながら、人間自身の「反省する心」を信じる、という猛のスタンスが改めて明示された点も、見逃せない(相手が同じ正義側の宇宙人だけに、自然さもあった)。
「人間の悪しき感情が怪獣を生み出す」という設定を中軸に据えていながら、この番組が人間肯定の姿勢に貫かれていることが、再確認できるだろう。
前回に続く川北特撮だが、今回はストーリーの都合上、派手なミニチュア破壊シーン等はない。むしろ、象の巨大化カット等、『80』では比較的珍しいトラベリングマット合成(移動マスク合成)が見せ場といえるだろう。
またヒーロー対怪獣の特撮部分ではなく人間ドラマの本編部分(アルマ、ジャッキー絡み)にSF的というよりファンタジックな魔法や大量の星型の光学合成が施されるカットも多く、これが前述した『コメットさん』に近い雰囲気の一因となっているようだ。
(重箱のスミ)
・猛の自室の窓外の景色が、はっきり絵だとわかるぞ。
・6月放映分に突入し、今回より生徒たちの制服が夏服に変わる。
・落語の答案用紙から、彼の本名が鍛代順一(子役の名前と同じ)であり、出席番号が7と判明する。
・京子先生の登場は今回が最後。
第10話『宇宙からの訪問者』 〜合評3
(文・久保達也)
(2007年2月執筆)
第10話『宇宙からの訪問者』(脚本・土筆勉 監督・湯浅憲明 特撮監督・川北紘一)において、翌日の試験問題を盗み出そうと、レギュラーの生徒であるスーパーとともに矢的の下宿の部屋にこっそりと忍び込んだ落語(らくご)は、そこに居合わせたエイティの幼馴染みの女性・アルマから、教科書を5回なぞると百点をとれるという、「魔法のえんぴつ」を手渡される。
スーパーはそれをまったく信じなかったが、落語は真剣な表情で教科書をなぞるのだ。
第8話『よみがえった伝説』(脚本・平野靖司 監督・湯浅憲明 特撮監督・高野宏一 http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100620/p1)において、鍾乳洞を見物しに行くバスの車内で女子生徒のファッションとケンカし、転倒して頭から血を流した落語を矢的が心配して介抱するが、「ヘヘヘ、冗談ですよ、ジョーダン」との落語の声。
なんと血の正体はケチャップであった(笑)。
そして復活怪獣タブラ出現によって地割れが起こり、落語は体育担当のマドンナ教師・相原京子先生とともに地下に転落。それでも鍾乳洞から発する光を見て、好奇心から奥に入っていき、タブラの舌にからめ取られてしまうほど、冗談といたずらが大好きな少年であった。
冗談といたずらで人を驚かすのが好きだった落語であったが、落語以上に冗談といたずらが好きなアルマを登場させることにより、落語の別の一面を引き出すことに成功している。
アルマは銀河共和国の惑星調査員であり、各惑星の生物の存在価値を調査し、不必要と判断した生命体を消滅させる権限を持っている。
こう書くと、のちに平成ウルトラ作品で好んで描かれた「人類批判」ネタの原点みたいだが。
この回ではアルマを矢的の妻であると生徒たちが誤解してしまい、潔白を証明するために矢的が京子先生を強引に自室に連れてきたところ、なんと食卓にローストビーフをはじめとする豪華な料理が用意してあり、
「あなたのアルマ(ハートマーク)」(笑)
なんてメッセージまでもが添えられていたことから、京子先生が
「これをアタシに見せつけたかったのね!」
と激怒するという、生徒たちも交えたドタバタラブコメディが中心に描かれているので、陰欝な印象は皆無に等しい。
また登場する変形怪獣ズルズラーは、アルマが生物調査のためにペットとして連れているサザエに似た宇宙生物・ジャッキーが、「魔法のえんぴつ」を奪い合ってケンカするスーパーと落語や、交通事故で争う男たち、ローストビーフなんてただの蒸した肉じゃない! と料理の本を読み出した京子先生(笑)から闘争本能を吸収して狂暴化を遂げ、そのジャッキーを動物園の象が餌とともに飲みこんで怪獣化する設定である。
これまでやや抽象的な存在であったマイナスエネルギーが、視覚的に最もわかりやすく表現されている回でもあるのだ。
ちなみにアルマを演じたのは遠藤真理子。
京子先生役の浅野真弓とともに、NHKの『少年ドラマシリーズ』(72〜83年)によく出演していたらしいが、筆者はほとんど観たことないもので……
なお、近年では『検証・ウルトラシリーズ』と題した第2期ウルトラ研究本や、雑誌『ウルトラマンAGE(エイジ)』(01〜04年)などでマニアにも知られる辰巳出版から「タツミムック58」として『妖咲狂花(ようしょうきょうか)』(82年12月15日発行・定価1500円)という写真集が過去に出ている。
カバー折り返しにあるプロフィールを参考までに紹介しておく。
60年1月2日、東京生まれ。
B・81、W・58、H・83。
特技・ピアノ、バレエ(クラシック&ジャズ)、日舞、水泳、三味線、英文タイプ。
72年から劇団若草、78年から青年座で活躍。
主な作品『末っ子物語』(75年・NHK)、『つくし誰の子』(71年・日本テレビ)、『さやえんどう』(75年・NET→現テレビ朝日)、『菜の花の女』(77年・関西テレビ)、『江戸を斬る』II〜V(75〜80年・TBS)、『大岡越前』第5部(78年・TBS)、『草燃える』(79年・NHK大河ドラマ)、『月桂冠』(CM)
07年2月4日に『exciteニュース』にアップされた、「あの人はどーしてる?・遠藤真理子」(ゲンダイネット配信)によれば、残念ながら01年1月1日(笑)に13才年上の不動産会社経営者と結婚しちまったらしい(旦那さんは07年で還暦だぞ……)。
その後テレビ出演の機会は激減しているが、そのこともあってか、05年9月9日から11日にかけ、東京の下北沢の劇場で彼女がプロデュースした舞台作品は連日満員御礼だったらしい。
筆者的にはアルマのように、『大岡越前』で高橋元太郎が演じた岡っ引き・すっとびの辰三(笑)の許婚(いいなづけ)のお花みたいな、チャキチャキの娘こそが彼女には最も似合っているように思う。年齢的に少々キツイかもしれないが、今一度あのような役柄を演じてほしいものだ。
(編:太平洋戦争末期の沖縄戦を舞台にした、当時の若手女優が大挙出演する82年版の映画『ひめゆりの塔』(東映)での出演も忘れちゃイケナイ。ちなみに編集者はTV時代劇『江戸を斬る』シリーズでの遠藤真理子が(ハートマーク)。
編註
本放映当時はクールで乾いたSF性をモノサシとしていた第1期ウルトラシリーズ至上主義者から酷評されていた『ウルトラマン80』だが、マニアもいわゆる「中二病」の時期を過ぎて非リアル・コミカルの良さも許せるように成熟してくると、商業誌レベルではともかく特撮評論同人界隈などでの一部のスレたマニア間では、『80』自体やその「教師編」やコミカルな本話などの再評価も進んでいく。
その一例が、5分枠の平日番組『ウルトラ怪獣大百科』(88年)のシリーズである、当時はイベント『ウルトラマンフェスティバル』などでも公演を行なっていた劇団こがねむしの人形劇を映像化した、5分枠の平日帯番組『ウルトラマンM730(エムナナサンレイ) ウルトラマンランド』(96年)における、本話「宇宙からの訪問者」を怪獣スクールにおけるエイティ先生・ユリアン先生・アルマ(いずれも変身体だが)の三角関係(笑)に置き換えた、レギュラーのラブコメ劇であろう。
『ウルトラマンエース』(72年)最終回「明日のエースは君だ!」 ~不評のシリーズ後半も実は含めた集大成!
http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070429/p1
#ウルトラマン80 #ウルトラマンエイティ