(CSファミリー劇場にて「ウルトラマン80のすべて」(ゲスト・長谷川初範!)が2010年5月中はほぼ毎日放映!)
(ファミリー劇場『ウルトラマンエイティ』放映開始記念「全話評」連動連載開始!)
『ウルトラマン80』総論 ~あのころ特撮評論は思春期(中二病・笑)だった!
『ウルトラマン80』再評価・全話評! ~序文
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『ウルトラマン80』再評価・全話評! ~序文
『ウルトラマン80』第3話「泣くな初恋怪獣」 ~「思い出の先生」のホー登場! 鬱展開なようで明朗さも!
『ウルトラマン80』第4話「大空より愛をこめて」 ~姉の結婚・父の再婚話に揺れる少年像を、親子怪獣の喧嘩でも照射!
http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100523/p1
『ウルトラマン80』第5話「まぼろしの街」 ~合評1
(文・内山和正)
(1999年執筆)
『ウルトラマン80(エイティ)』(80年)初期12話「教師編」の中では、変身ヒーローものとしての部分に比重を置いた作品。
教師ものではなくても成立する今回の内容であるだけに、本話が「教師編」の中の一編であったから、この「導入部」にしたというだけだろうけど、遅くまで学校の職員室でテストを採点していて終電車に乗り遅れたために怪事件にまきこまれるという始まり方が、初老の用務員との会話で業者テストを使わずに手づくりしているという主人公・矢的猛(やまと・たけし)先生のがんばりが示されつつ、キャラクター像も肉付けされるものとなっていて秀逸である。
ふと見上げた夜空の星座の位置に疑問を感じつつも、終電の直後に到着した電車を本当の終電が来たと喜んで乗り込んだ矢的。いつもの終電の喧騒とは異なり閑散と座っている乗客たちは皆が寝入っていて、矢的の「電車が遅れているのですか?」との問いに隣客の反応はなかった。矢的がテストの採点の続きに励む中、実は電車は線路を離れて、星座が移動する夜空へと向けて浮上、走行していく……
なかなかに秀逸なイメージの特撮映像だが、第3次怪獣ブームであまたのウルトラシリーズの児童向け豆百科本が大ベストセラーとなって増刷を重ねていた当時、幼児はともかく本話が『ウルトラQ』(66年)最終回(28話)「あけてくれ!」に登場する空を飛ぶ異次元列車(小田急線の特急ロマンスカー)のオマージュ映像であることに気付いたマニアや小学生は多かったことだろう。しかし本話では、『80』の本編部分を下請け担当していた大映テレビ室の最寄りでもあったからか、小田急線ではなく京王線が使用されていた。
乗り過ごして終点の駅まで行ってしまい、「富士見町(ふじみちょう)に行ってください」とタクシーに乗る。冨士見町とは矢的の下宿の住所だろう。しかし、この街は真っ直ぐに進んでも元の場所に戻ってしまうなど、のちの傑作アニメ映画『うる星やつら2(うるせいやつらツー) ビューティフル・ドリーマー』(84年)の異世界とも同じだが、空間が湾曲しているものとして知られている4次元空間の特性を、舞台設定にいかしてSF性・神秘性も高めている。
ウルトラマンへの変身が不可能な、終始夜間でもある異次元の街に閉じ込められた矢的。彼が複数のバム星人が化けたサングラスをかけて棍棒を持ったアメリカ風のポリスたち相手に素手でスピーディーに戦う姿は、ふだんの中学校教師としての彼からは考えられないものである。しかも、けっこう強いのだ! 彼自身の正体がウルトラマンであったことを思い出させる。脱出もできぬ街で逃走するサスペンス味も、尺的には短いが用意されている。
翌日、矢的が行方不明と知って桜ヶ岡中学は大騒ぎとなる。生徒受けを狙ったスタンドプレーをする矢的のような教師は実は自己顕示なだけで無責任な輩が多いと難じる女教頭の理屈は、矢的個人の実態はともかく一般論としては一理ある。しかし、それを聞いて反論するマドンナ教師・京子先生の人物像もキッチリと描いて、女教頭や京子先生など各人物のキャラクターを点描することも忘れていない。
校長がひそかに防衛組織・UGMのオオヤマキャップ(隊長)に電話するというシーンもあることも、“校長のみが矢的の二重生活を知っている”という設定をいかしていて良い。当たり前のシチュエーションにすぎないとはいえ、こういうありそうなこと・あるべきことを描かない作品が多いからだ。
白銀のロボット怪獣メカギラスは不格好なメカゴジラだと当時ほとんどの怪獣ファンは思ったことだろう。そう連想されてしまうのは仕方がないとしてもデザイン画はなかなかカッコいい。しかし、着ぐるみの限界はあるにしても、せめてもう少し見栄えよくできなかったものだろうか?
(ヤボな編註:放映当時、メカギラスをカッチョえー!! と思っていた小学生男児がここに少なくとも約1名やって来ましたヨ!・笑)
・露光を強くしてハレーションを起こしたような映像が美しい4次元の白い街(ミニチュア)
・メカギラスの格納庫外観のディテールのリアルな細かさ
・巨大感がすさまじくよく出ている格納庫内のメカギラス
・神出鬼没に3次元空間に出現して、第1・第2レーダー基地を破壊していくシーンのために、多数の精密なパラボラアンテナのミニチュアを特撮美術陣は製作
・ラスト、4次元空間で色彩付きの照明が激しく明滅する中、エイティとメカギラスが戦闘するシーン
それらの特撮ビジュアルはいずれも美麗でカッコいい。
異次元だから矢的がウルトラマンエイティに変身できないとの設定だったはずだが、バム星人の機械を破壊したら変身可能となり、それでいて異次元が消滅したわけではない。エイティがメカギラスの周囲の異次元を斬り裂いたら白昼に風景が変わったので、異次元が消滅したのかと思ったら、元いたふつうの現実世界に戻ったわけでもなかった?
メカギラス打倒後に、冒頭の終電に矢的も搭乗していて、元の白昼の世界を走行し乗客も目覚めるシーンがあったので、戦闘中の空間斬り裂きの段階ではまだ異次元であり、そのあとに異次元空間から元の世界へと終電の人々を救出したとも判断できるのだ。……いや、空間斬り裂きの時点ですでに3次元世界に戻っていたのか? このあたりはわかりにくいが、それも含めての不可思議さ、といったことでよいのだろう。
ウルトラマンが中学教師であるという設定に個人的に抵抗があった放映当時には、“救い”のように思えたこの作品。だが、今からするとわずか12話しかない教師編なのに、学校中心のドラマではない回に二話分(今回と11話「恐怖のガスパニック」・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100711/p1)も費やされてしまっているのはもったいなく、複雑な気分にもなる。放映期間の一年を通して教師ものの設定であったのなら、この回のような番外作品が時々混ざることを素直に喜べただろうが。
『ウルトラマン80』第5話「まぼろしの街」 ~合評2
(文・黒鮫建武隊)
(1999年執筆)
いよいよ、放映当時から傑作として名高い第5話だ。冒頭で猛が蒸発してしまい、彼が帰還するところで終了する今回の話は、教師編本来の作り――一人の生徒に焦点を当て、その悩みを猛の助力で克服して行く――とは明確に異なる。
怪獣出現の理由であるマイナスエネルギーの設定も、今回に限っては片鱗(へんりん)も見られない。むしろ、変身できない猛vsバム星人、UGMvsメカギラスといった娯楽活劇の要素が強い作品である。
だから筆者は本エピソードを「教師編を代表する傑作」などと呼ぶには、抵抗を覚えるのだ。猛が学校・UGMのどちらにもいない状況設定の特殊さからいっても、異色作と呼ぶ方が妥当ではあるまいか(学校にいないため、猛の三枚目ぶりを楽しめないあたりも、教師編らしからぬ要因だな)。
だがその中にあって、猛を案じる生徒たちの声が時空を越えて彼を救うシチュエーションが盛り込まれ、『80』らしさ・教師編らしさをしっかりと堅持していた点は見逃せない。日頃の決して素行が良いとはいえない生徒たちの様子を考え合わせると絵空事のようにも見えるシーンではあるものの、やっぱり感動的。
それに「四次元空間に引きずり込まれた猛が脱出する」というただそれだけのストーリーが「猛と生徒の絆」というドラマを内包したことで、より、心に残るエピソードになったのだとも考えられよう。
とはいえ、本話の第一のみどころはやはり、「四次元空間に迷い込む」という設定を見事に映像化した豊かなイメージの魅力である。
奇妙な終電車で不思議な駅に降り立つと……という興味深い導入部。
「(ここは)何という街ですか?」
という問いに
「だから、街です」
と答えるタクシー運転手。
単なる「宇宙人のアジト」ではなく「異次元」なのだという雰囲気が問答無用で伝わってくる。
特撮も見応え充分。普通の建物のミニチュアに光学処理を施すだけで異世界を現出させ、合成でメカギラスを自在に出現・消失させる。驚嘆すべき技術は使用されていなくても、丁寧なカットの積み重ねで、最大限の効果をあげているのだ。
UGMとメカギラスの激戦も見逃せない。戦闘機スカイハイヤーの風防がメカギラスの熱線の衝撃波でひび割れてオオヤマが負傷、一方のメカギラスの左目もハラダの攻撃で痛手を被(こうむ)るなど、手に汗握る攻防が繰り広げられる。エイティが参戦できないことを視聴者が知るだけに、緊迫感もひとしお。
以上幾つかの例を挙げたが、ともあれ、ストーリーの単純さを吹っ飛ばすだけの映像パワーが堪能できるエピソードであることは間違いない。
(重箱のスミ)
・今回よりタイトルバックの映像(シルエットの背景部分の光学映像)が変更される。
・矢的猛の蒸発について、校長がオオヤマに電話する描写がある。「猛がUGM隊員であることを知る学校側唯一の人物」という校長の設定を活用した、最初で最後の例となった。
・ハラダは最初、戦闘機シルバーガル・アルファに搭乗していた筈だが、メカギラスの左目を潰す場面では、シルバーガル・ベータに変わってしまっている。
・『ウルトラマン80』初の宇宙人話だが、「等身大怪人の集団」という『80』宇宙人のイメージは、今回のバム星人で既に確立している。