(ファミリー劇場『ウルトラマンA』放映・連動連載!)
『ウルトラマンメビウス』#24「復活のヤプール」 〜第2期の映像派鬼才・真船禎演出リスペクトが満載!
『ウルトラマンエース』#23「逆転! ゾフィ只今参上」 〜ヤプール壊滅2部作・前編の大傑作!
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『ウルトラマンエース』24話「見よ! 真夜中の大変身」 〜赤い雨! ヤプール壊滅2部作・後編の傑作!
(脚本・平野一夫&真船禎 監督・真船禎 特殊技術・高野宏一)
(文・久保達也)
(#24〜30評は、昨2005年9月〜11月執筆)
前話にも登場した、杖を持つ仙人のような不気味な老人(通称・ヤプール老人)が、息も絶え絶えに唄いながら青い海面に浮かんでいた。
♪ あなたは神を信じなさい ホレ信じなさい ホレ信じなさい
稲妻とともに、赤い雨が降ってくる。
老人「その時は来たーー!! 今に見ていろーー!!」
老人は海の底に没して地底のマグマに達すると、その姿をマザロン人に変えたのであった。
ナレーション「おお、ヤプールは死んでもマザロン人は生きていた。ヤプールの復讐とはなにか? 地上には今、赤い雨が降っている。果たしてどんな恐ろしいことの前触れなのであろうか?」
TAC(タック)本部作戦室。
北斗「隊長、これはなにかの前触れじゃないでしょうか?」
今野「まあ、たいしたことないんじゃないかな。雨の量も少ないし」
北斗「しかし、量の問題じゃないと思います」
竜隊長「今の段階じゃ何ともいえないな。自然界にはまだ解明されないことがたくさんあるんだ」
吉村「今朝の情報によると、赤い雨は世界各地に降ったようですね」
山中「梶くん、きのうの赤い雨の分析は?」
梶「いやあ〜、それがまだわからないんですよ」
美川「隊長、富士山麓を中心として、大きな地殻変動が起きています」
竜隊長「よし、くわしい報告を求めてくれ」
美川「はい」
北斗「(内心の声)なにかが起こりそうだ。超獣の出現か? いや、ヤプールは死んだはずだ」
南夕子「北斗隊員」
ここで真船演出お得意の照明落としがなされて、ふたりは前話での異次元人ヤプールの断末魔を回想する。
「ええい、地球の奴らめ、覚えていろ! ヤプール死すとも超獣死なず!――ここで前話のヤプール爆発四散の映像が挿入!―― 怨念となって必ずや復讐せん!!」
タンカー船員の夫から「安産のお守り」として中東のクェートで入手したという不思議な赤いガラス状のキレイな石を、妊娠中の健太の母・よし子は贈られた。しかし、それは前話で爆発四散して宇宙に飛び散った異次元超人・巨大ヤプールの破片だったのだ!
地球レベルでの危機と並行して、父親が留守がちであり少年と母親がふたりきりながらも送っている幸福な生活風景が描かれていく……
よし子を演じる岩本多代(いわもと・ますよ)は、2005年現在でも2時間サスペンスドラマなどでよく顔を見かける。今でも容姿はあまり変わっていない。(後日編註:2020年8月にご逝去)
よし子の健太に対する接し方は極めてやさしい、甘えさせてくれる理想的な「お母さん」といった趣である。70年代当時には多かった恰幅のよい「肝っ玉母さん」タイプといった典型ではない。痩身ゆえか彼女のお人柄のせいか、堅苦しくならない範疇での塩梅での絶妙さで適度に上品な感じも漂っているのだ。
母子の会話を受けて、マザロン人が
「がんばらなくっちゃ、がんばらなくっちゃ! ウヒョヒョヒョヒョヒョヒョ!!」
と叫びだす!
これはマザロン人が巨大ヤプールの破片を手にしたよし子に意識を向けたことを意味する演出でもある。しかし同時に、フジテレビ系で放映されていた大人気・幼児向け番組『ママとあそぼうピンポンパン』(66〜82年)で当時ヒットしていた「ピンポンパン体操」の歌詞を引用したギャグでもあったのだ(笑)。
「大きく、大きく」「大きくなーあれ!」という、健太と母・よし子との会話。これもスタジオの欧州中世風の冷涼な山小屋セットを舞台に「子供」と「巨人」(手前にいる人物を錯覚で巨人に見せていた精巧な特撮!)が登場していた、1970~80年代にはよく放映されていた「丸大(まるだい)ハム」のCMのセリフからの引用でもあった。
深夜、健太は小用を足していた。
しかし、その帰りに健太が別室を確認すると、母は寝床から姿を消してしまっていた!
家中を捜すも玄関の鍵は内側からかかり外へ出た形跡はない。
喪失感から来る少年の恐怖とパニック感。母を呼び続ける健太!
しかし、ふと鏡台に置いてあった例の「赤い石」を目にした瞬間、催眠状態にかかったように眠りに落ちてしまうのであった。そのまま布団もかけずに朝を迎えてしまう……
翌朝、スズメの鳴き声と母の呼びかけで目を覚ます。母はそれは夢だと取り合わず、ふだんと変わりない日常がやってくる。
その晩、健太は甘えて母といっしょの寝床で「もうすぐお兄さんになるんでしょ」と諭(さと)されつつも、「ねんねんころりよ」の子守唄を聞きながら眠りに落ちるのであった。
浴衣(ゆかた)に着替える際の母の背中が赤い斑点だらけだったことに一抹の不審を覚えつつ……
子供番組であるのにも関わらず、一瞬だけの後ろ姿だったとはいえ、母よし子の上半身の裸身を見せてしまう演出!
ナレーション「健太は今、夢を見ている。君たちも見たことはないか? ウン、どっか知らないところを、ひとりぼっちで歩いてる。そう、とっても心細い夢だ」
モノトーンの映像で、音調を短調に変調したよし子の子守唄が流れ、一面に霧が立ち込める野原の藪の中に、母を目撃した健太はあとを追う。
「お母さん!!」
母がふりかえると、白髪で醜悪な顔の「妖女」へと変貌を遂げた!
驚愕する健太!
と、白装束の「妖女」は片手に「蛇」を掲げて、甲高い笑い声とともに健太に向かって走ってきた!!
よし子が奇怪な「妖女」に変異した際に発する奇声は、もともとは東宝特撮映画『マタンゴ』(63年・東宝)に使用するために東宝効果集団によってつくられた、キノコの怪物・マタンゴの声であるBタイプとCタイプを流用したものだ。
ちなみにBタイプは、ウルトラシリーズの元祖『ウルトラQ』(66年)第25話『悪魔ッ子』の少女リリーの幻影の声や、『ウルトラセブン』(67年)第45話『円盤が来た』に登場したサイケ宇宙人ペロリンガ星人の声にも使用されている。そしてAタイプは、初代『ウルトラマン』(66年)第2話『侵略者を撃て』で使用されて以来、宇宙忍者バルタン星人の声として完全に定着してしまい、もともとがマタンゴの声であったことは世間から完全に忘れ去られてしまっている。
なお、これらの効果音は東芝EMIが84年に発売したLPレコード『サウンド・エフェクト・オブ・ゴジラ』(全2枚)に収録され、95年には2枚組でCD化(asin:B00005GLM3)もされているが、2005年現在ではともに廃盤となっている。
夢の中ゆえに、思うように走れないもどかしさを表現したスローモーション映像の中で健太は逃げまどう!
目覚める健太。
しかし、いっしょに寝ていたはずの母よし子の姿がない!
健太は母が浴衣姿のまま、夢遊病者のように深夜の街路を歩んでいるのを目撃して追跡する。
その先には漆黒の暗闇の中、荘厳な賛美歌が流れ、数百本の蝋燭(ろうそく)に灯が灯されて(!)、よし子は何者かにおごそかに礼拝を捧げているのであった!
夜間撮影の多用に、よし子が祈りを捧げるシーンで蝋燭を数百本! 相変わらず真船演出の本気度は凄まじく映像的にも実に凝っている。
マザロン人の野太い声が響く……
「大地は母なり、母は創造主なり。
輝ける未来をつくる者なり。
汝(なんじ)は母なり。
今、汝に力を与えん。
力ある子を産むのだーー!!」
マザロン人の声を演じたのは、真船が監督した第5話『大蟻超獣対ウルトラ兄弟』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060604/p1)で地底エージェント・ギロン人の声も演じた沢りつお。竹書房『ウルトラマンクロニクル』(97年・ISBN:4812402697)によれば、当初のシナリオではその第5話に登場したギロン人が再登場する予定になっていたらしい!
ちなみに、この『ウルトラマンクロニクル』ではマザロン人の別名が「マグマ超人」、マザリュースの別名が「異次元超獣」と表記されている。しかし、同社の『ウルトラマン画報〈上巻〉』(02年・ISBN:4812408881)ではそれぞれ「異次元人」「地獄超獣」と表記されている――オープニング主題歌のラストに表示されている登場超獣テロップの超獣たちの「別名」の方をあえて掲載したそうだが――。この本文中では筆者が好みの方を使用させていただいた(笑)。
なお、健太の父親の声は第23話のゾフィの声に続いて村越伊知郎が担当している。部屋に飾ってある父親の写真はたしかどこかで見たことがあるような……?
赤い雨にも打たれたよし子は、その強い母性本能をマグマ超人マザロン人に利用されて、地獄超獣マザリュースを誕生させる!
この地獄超獣マザリュースは、第12話『サボテン地獄の赤い花』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060801/p1)に登場した超獣サボテンダーを頭部のみ改造したものだそうだ。1話に2体も怪獣の着ぐるみを新造するのはお金も時間もかかるから仕方がない。というか、腐れマニアじゃなければ、ふつうはサボテンダーの改造だとは気付かない(笑)。
ただし、初登場シーンが後ろ向きの背中姿であるあたり演出的には凝っている。しかも、鳴き声が赤ちゃんの産声(うぶごえ)! シュール(超現実主義)すぎる!!
醜怪な姿のマザリュースに対して、よし子は、
「おお、わが子よ」
「かわいいお手々」
「かわいいアンヨ」
などと溺愛している。そして、彼女自身もまた醜怪な、健太の夢の中でも変身した「妖女」へと姿を変えて、
「大きくなあれ」
とマザリュースの前で地獄の踊りを舞い続けるのだ……
「おまえの子だ…… 力強く産むのだ!!」
吉村「だけど、公園付近の住民から何も云ってきませんね」
美川「それに、夕べのレーダーにはなんの異常も認められませんでした」
今野「……坊主! 本当に見たのか?」
健太「ウソじゃないよ、ホントだよ」
山中「夢でも見たんじゃないのかなあ? どうします、隊長」
竜隊長「うん。まあとにかく、健太くんが見たという公園を、山中・今野・吉村は徹底的に調査してみてくれ」
山中・今野・吉村「はい!(一同立ち上がる)」
竜隊長「北斗・南は、健太くんのうちへ行って、お母さんの様子を見てこい」
北斗・南「はい!」
竜隊長「美川はデータを集積しろ」
梶研究員「(走って入室してきて)隊長、赤い雨が降ってからの地球の地殻運動が激しくなってきています。これも何か関係があるのではないでしょうか?」
竜隊長「よしわかった。とにかく、地球全体に異常な運動が起こっていることは確かだ。全員、細心の注意を払って慎重に行動してくれ」
隊員一同「ハイ!!」
真船監督お得意の、TAC作戦室をワンカットで円卓の周囲をカメラが横移動しつつの長廻し撮影が超絶カッコいい!
――ここまででも、まだ30分枠・前半Aパートが終わっていないという情報量の多さ!――
直前の第23話『逆転! ゾフィ只今参上』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061012/p1)に続いて脚本・監督を務めた真船禎(まふね・ただし)が、デジタルウルトラプロジェクト発売のDVD『ウルトラマンA』Vol.6(asin:B00024JJHO)の解説書にて、本作は第23話の「子供たちの洗脳」に続いて「母親の洗脳」を描いたと語っている。
「母親が洗脳されたら、子どもも洗脳される。じゃあ母を洗脳する方が早いじゃないかって事になると(以下略)」。
実態がなく抽象的な存在であったヤプールの最期を描いた第23・24話の実質的な前後編が、前衛的な手法で撮られて半ば宗教的な神々しい印象が感じられる理由も、そのテーマゆえのものであったようだ。
本作放映(72年9月15日)と時期を同じくして、東映の特撮変身ヒーロー『超人バロム・1(ワン)』(72年)でも似通った印象の作品が放映されている。第26話『魔人ハネゲルゲが赤い月に鳴く』がそれである。こちらは悪のコウノトリ・ハネゲルゲ怪人が赤い満月の夜に赤ん坊をさらって悪の使命を帯びせて母親に返し、赤い三日月の夜までに立派な悪となるように成長させるといった話である。
悪となる前に母親の手から赤ん坊を奪おうとするバロムワンに対して、母親はこう叫ぶ。
「たとえどんな姿になろうとも、私はこの子を離しません!」
ちなみに、このエピソードで母親を演じていたのは、次作『ウルトラマンタロウ』(73年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)第17話『2大怪獣タロウに迫る!』・第18話『ゾフィが死んだ! タロウも死んだ!』・第19話『ウルトラの母愛の奇跡!』3部作にの3部作において、わが子かわいさのあまりに悪態をつきまくる母親を演じた金井由美であった。
そんな母親に対するハネゲルゲのセリフ。
「母親とは愚かなものだ」
実は当時は特撮変身ヒーロー作品に対する世間――特に児童の親の層――の風当りは強かった。それだけに、若干(じゃっかん)の恨みがこめられていたとも解釈してしまうのだ(笑)。現行のテレビ特撮の中では女性差別だとして糾弾されることを恐れて、自主規制してしまいそうなこのセリフ。「我が子かわいさのあまりに、なりふり構わず」といった現実の母親たちの行動を見るかぎりでも、ある意味では妥当だともいえるだろう。
ただし、その「愚かさ」にも通じている「理屈ヌキの無条件での愛情」こそが、「時に子供たちをスポイルして(=甘やかしてダメにして)」、「時に子供たちを救ってみせることもある」のだという「両面性」も含めての妥当性である。
いずれにせよ、凡百の作品では一方的な「正義」として描かれがちな「母性」が、このエピソードではやや相対化すらされており、むしろ後年の『ウルトラマン80(エイティ)』(80年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971121/p1)で云うところの「人間の負の感情」=「マイナスエネルギー」として作用してしまっているのだ。
つまり、善悪はあざなえる縄のごとし。過ぎたるは及ばざるがごとし。行き過ぎた「母性」にも危険性はあるのだ。行き過ぎた「母性」によって生み出されるものにも危険性があるのだ。
そういった物事の「二面性」や「多面性」にも到達する境地に達していることで、幼児はともかく少しマセた子供であれば、あるいは思春期以降の再鑑賞では「そうそう、人間世界のたいていの物事には、たしかにそういった二面性がある!」といった感慨と共感を呼び起こす表現にも昇華できているのだ!
『バロム・1』第26話では、「不吉の予兆」として「赤い月」が描かれていた。『A』第24話での「不吉の予兆」は「赤い石」に「赤い雨」であった。ともにカラーは「赤」である。本話の終盤で、大噴火まで始めてしまった富士山(!)の火口から潜入していった、赤いマグマに照らされたエース対マザロン人の激闘が繰り広げられる地底空洞もまた、どことなく母胎内を連想させるイメージだ。
事件の翌日、やはり深夜の健太くん宅で同じ現象が再発した!
公園に急行したTAC隊員たちの目前にも関わらず、よし子は何者かに対して一心不乱に祈りを捧げており、自身を白装束の「妖女」の姿に変えて、超獣マザリュースも出現させる!!
超獣に攻撃を開始する隊員たち!!
そして、「妖女」に銃の狙いを定めた北斗!!
健太「ダメだよ!」(銃にとりすがる)
北斗「何をするんだ!?」
健太「ボクのお母さんなんだ!」
健太は浮かれる「妖女」の姿の後ろに、暑くて赤い世界で苦しみ悶えている母親の姿を幻視した!
山中「わかった。あの超獣は虚像だ!」
今野「虚像?」
山中「そうだ。いくら撃っても手応えがない」
吉村「すると、実体はどこかにあって操っている?」
美川(通信)「隊長。至急、本部に帰ってください! 至急、本部に帰ってください! 非常事態です! 富士山が突如、噴火しました!!」
陽光は噴煙に閉ざされて、噴炎と流れ出した溶岩で、地上は赤く染まった!
そして、エースはなんと富士山火口に突入!! そこに潜んでいたマザロン人と戦うのだ!!
第17話『怪談 ほたるケ原の鬼女(きじょ)』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060904/p1)&第18話『鳩を返せ!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060907/p1)での『A』初登板に続いて、前話と本話の特撮は円谷プロの高野宏一が担当している(これらの4本ともに真船禎監督回!)。
前話の「異次元空間」に続いて、本話も「地底」や「荒野の山麓」など、ヒーローと怪獣との比較対象物となる建造物がない。しかし、カット割りやアングルのひんぱんな変化を多用して、画面的にも飽きさせない。なんと、真上からも見下ろすかたちで撮ったりしているのだ!
「殴り合い」や「蹴り合い」の応酬のアクション演出も凝っている。マザロン人が片手の5本指から5条の白色光線を出すさまもカッコよい!
この時期の『A』特撮には多いのだが、高野宏一もワイヤーでヒーローや怪獣を浮遊させている! マザロン人は飛行能力もあるので、着ぐるみのエースとマザロン人が組み合うとそのままワイヤーで吊りあげて上方へと浮上! 飛行しながら激突! 交差までするシーンもあるのだ!
エースは大激闘の末にマザロン人をようやく倒すのであった……
特撮同人誌『夢倶楽部VOL.8 輝け!ウルトラマンエース』(94年12月25日発行)によれば、本話には東宝特撮映画『世界大戦争』(61年)のフィルムが2カット流用されているとのことだ。
マザリュースは「虚像」だけの存在に終わった。しかし、よし子の妄執(&マザロン人の妄執)がTAC隊員たちに妨げられていなければ、ついには物理的な「実体化」まで果たしていたのだろうと考えたい。
ちなみに、超獣の成立に人間の妄執がからんだことは幾例かあったが、超獣の素体となる「宇宙怪獣」や「古代生物」など、何らかの物体や生物などは存在していた。つまり、「妄執」そのものが実体化したことはなかったはずなのだ。
しかも、マザロン人は「おまえの力で産み出(い)だせ! われらが最愛の子を!」と叫んでいた。「われらが最愛の子」。つまり、超獣マザリュースはよし子とマザロン人との間に産まれた不義密通(!)の子供でもあったのだ!(汗)
マザロン人にしろマザリュースにしろ、頭2文字の「マザ」は、明らかに「マザー」=「母」から採られた語句だ。
同様の例に、奇しくもやはり「行き過ぎた母性」のダークサイド・危険性・妄執を描いていた――どうしようもない理由があるゆえに、哀しいものでもあったのだが――、『ウルトラマンレオ』(74年)第37話『怪奇! 悪魔のすむ鏡』(脚本・田口成光 監督・岡村精 特撮監督・吉村善之)に登場したマザラス星人があった。この話もやはり映像派の敏腕・岡村精監督の異色作ではあるのだが、埋もれた大傑作でもあった!
ちなみに、マザラス星人の人間体は、かの実相寺昭雄監督夫人で女優の原知佐子が演じていた。原知佐子は20数年の歳月を経て『ウルトラマンティガ』(96年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19961201/p1)第37話『花』(監督・実相寺昭雄)でも、マノン星人の人間体を演じている。同話の特撮巨大バトルは歌舞伎調の演出がなされていた。これはもちろん、『レオ』第37話の異色な特撮巨大バトル演出を意識して、かつインスパイアされたものでもあっただろう。
マザラス星人なる宇宙人は、薙刀(なぎなた)を持った白装束の般若(はんにゃ)の面の姿が真の正体であった。そして、そのままの姿で巨大化して、鏡の中の異次元の白い砂漠で、緊迫感と沈痛さを感じさせる邦楽器の楽曲が流れる中での巨大バトルを展開していたからだ。
心理学には「グレートマザー」という用語がある。この言説によると、「母性」は通常イメージされる「慈愛」的な側面だけではなく、子供に対して「妄執」的な側面、「怪物的」「ヒステリック」で「怖い」側面、「すべてを呑(の)みこんで子供や男たちをスポイル」してしまい、「死に至らしめる」ダークサイドもあるとされているのだ――東洋風に云えば、「鬼子母神(きしもじん/きしぼじん)」である――。
真船監督もそのような学識ありきで本話を構想したわけではないのだろうが――DVD解説書によれば、本話の脚本は平野一夫監督が筆頭名義ではあったものの、その原案は真船によるものであったそうだ。そして、平野監督は当時は「真船企画」の一員であって真船の弟子筋にあたるのだそうだ――、結果的にはそのような心理学的知見に接近して抵触もしている普遍的な作品にもなりえている。
日本のジャンル作品では本話のように「母性」のダークサイドをテーマのひとつにすえた作品は、先に例に挙げてきた作品以外ではほとんどないと思われる。強いて挙げれば、はるかに時代を下ったSFロボットアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(95年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220306/p1)くらいだろうか?
本話のラストで異次元人ヤプールは一度は完全に滅びたとの解釈ができる。
しかし、それだと次回からの「野良超獣」や宇宙人配下の「超獣」たちの存在が説明できない(笑)。よって、放映当時の子供たちや70~80年代の再放送世代の子供たちは、設定的な不整合を感じつつも、漠然と以下のように好意的に解釈していたと思う。
やはり、前話ラストで爆発四散した巨大ヤプールの体が「宇宙に散った」(本話のナレーション)ことによる余波として、次回以降の「超獣」たちが存在しているのであろうと……
さらに、中高生以上になってからの再鑑賞や、年長の特撮マニアとして深読みをするようになってくると、超獣じみた赤&緑のハデな色彩の侵略宇宙人たちに対しても、ヤプールの残留思念が彼ら宇宙人たちの精神・心や妄執などを増幅するように働きかけていたのであろうと……
まぁ当時の作り手、特にTBSの橋本洋二プロデューサーなどは、人間ドラマ部分の高度な作劇には関心があっても、ヒーローや超獣のSF的な考証については、さして関心がなかったというのが正解であろうということは置いておいて(笑)。
しかし、DVD解説書で真船監督自身はこうも発言している。
「別に(編:ヤプールを)殺したつもりはなかったんです。(略)そりゃそーだよ。不死身だもんね(笑)。いや、僕は不死身でいいと思うの。つまり人間が続く限りね、マインドコントロールする要素っていうのは、永遠に続くはずだもんね。だいたいヤプールって実体のないモノなんだから、殺せるわけがない(笑)。ヤプールというのは意識の中のものと僕は思っていたからね。(略)人間が生きているかぎり、存在はすると。姿がないから、観念の所産であり、キリスト教でいう悪魔の存在。(略)それはインナー(編註:インナースペース・内宇宙・精神世界のこと)、己の身の内の中にあるんですよ」
ヤプールを滅ぼしたエピソードを担当してしまったことで、はるか後年になってからの特撮マニアによる批判にされされたことでの後付けのリクツかもしれない(笑)。しかし、たとえ後付けだとしても、ヤプールに対するこれは妥当な解釈ではなかろうか?
本話のラストは、海岸に強く打ち付けて崩れていく「大波涛」のシーンで幕を閉じている。
ここでも、めでたしメデタシのハッピーエンド調のBGMが一拍だけ遅れて入ってくる。そして、そのことで「大波涛」のシーンが一瞬だけ際立つことで、少々の「不穏感」――おそらく、事件は解決したとしても、それでもやはり行き過ぎた「母性」へのまだまだの少々の警戒感――を与えたかたちでのクロージングとなっているのだ。マニア視聴者的には最後まで気の抜けない逸品のエピソードであった……
<こだわりコーナー>
*マザロン人の両肩の突起(先端が歯車状)は、第52話(最終回)『明日(あす)のエースは君だ!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070429/p1)に登場したあまたの超獣の合体再生である最強超獣ジャンボキングの後脚部の両肩部分に転生を遂げた!
*視聴率18.3%
真船禎監督ウルトラシリーズ担当作品リスト
『ウルトラマンエース』
第5話「大蟻超獣対ウルトラ兄弟」(脚本・上原正三)
http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060604/p1
第6話「変身超獣の謎を追え!」(脚本・田口成光)
http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060611/p1
第17話「怪談 ほたるケ原の鬼女(きじょ)」(脚本・上原正三)
http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060904/p1
第18話「鳩を返せ!」(脚本・田口成光)
http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060907/p1
第23話「逆転! ゾフィ只今参上」(脚本・真船禎)
http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061012/p1
第24話「見よ! 真夜中の大変身」(脚本・平野一夫、真船禎)
(当該記事)
『ウルトラマンタロウ』
第33話「ウルトラの国 大爆発5秒前!」(脚本・佐々木守)
第34話「ウルトラ6兄弟 最後の日!」(脚本・佐々木守)
第43話「怪獣を塩漬にしろ!」(脚本・阿井文瓶)
第44話「あっ! タロウが食べられる!」(脚本・田口成光)
『ウルトラマンレオ』
第1話「セブンが死ぬ時! 東京は沈没する!」(脚本・田口成光)
第2話「大沈没! 日本列島最後の日」(脚本・田口成光)
*:真船監督は当時の売れっ子監督でもあり、『ウルトラマンレオ』放映開始時の1974年4月の新番組では、この『レオ』に加えて、フジテレビ『青い山脈』、NET(現・テレビ朝日)『誰のために愛するか』の計3本を掛け持ちしていることが、新聞のテレビ欄での記者コラムでも話題になっていたほどだ。近年でも伊東四朗主演の実写TVドラマ版『笑ゥせぇるすまん』(99年)に参加した真船匡氏(まふね・ただし)監督は、真船禎のペンネームであったらしい。
(編)後日付記:本話の「赤い雨」や「夢のシーン」に「妖女」のイメージやその声(!)は、『ウルトラマンメビウス』(06年)第24話『復活のヤプール』でも引用されている。
ヤプール老人を演じられた名バイプレーヤー(脇役役者)・大木正司(おおき・しょうじ)氏が2009年11月20日に逝去されました。謹んでご冥福をお祈りいたします。大木氏は次作『ウルトラマンタロウ』#43『怪獣を塩漬にしろ!』ではゲスト少年・武志の父役としても出演。
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〈DVD付きフォトブック〉「ウルトラマンA 1972」レビュー
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『ウルトラマンエース』最終回「明日のエースは君だ!」 ~不評のシリーズ後半も実は含めた集大成!
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『ウルトラマンエース』#48「ベロクロンの復讐」
『ウルトラマンエース』最終回「明日のエースは君だ!」 ~不評のシリーズ後半も実は含めた集大成!
『ウルトラマン超闘士激伝』(93年) ~オッサン世代でも唸った90年代児童向け漫画の傑作!
『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』(06年) ~大傑作映画!
『ウルトラマンメビウス』(06年)#24「復活のヤプール」 〜第2期ウルトラの映像派鬼才・真船禎演出リスペクトが満載!
『ウルトラマンメビウス』(06年)#44「エースの願い」 〜南夕子
http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070408/p1
『A』24話「見よ!真夜中の大変身」放映50年評 ~傑作!ヤプール壊滅2部作・後編!
#ウルトラマンA #ウルトラマンエース #ウルトラマンA50周年 #マザロン人 #マザリュース #ヤプール老人 #妖女
『A』24話「見よ!真夜中の大変身」放映50年評 ~傑作!ヤプール壊滅2部作・後編!
#ウルトラマンA #ウルトラマンエース #ウルトラマンA51周年 #マザロン人 #マザリュース #ヤプール老人 #妖女
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