『仮面ライダーセイバー』最終回・総括 ~文&武の根源、創作・物語とは何ぞや!? にも迫った逸品!
『仮面ライダーゼロワン』最終回・総括 ~力作に昇華! ラスボス打倒後もつづく悪意の連鎖、人間とAIの和解の困難も描く!
拙ブログ・トップページ(最新10記事)
拙ブログ・全記事見出し一覧
*ニュージェネ仮面ライダー2号はファンタジックライダー!
改元後初の仮面ライダーとなった『仮面ライダーゼロワン』(19年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200921/p1)に次ぐ「ニュージェネレーション仮面ライダー」――個人的に改元後の元号が気にいらないので勝手に命名させてもらうが、この方が断然カッコいいだろ!――シリーズ第2弾として、2020年9月6日から『仮面ライダーセイバー(聖刃)』(20年)の放映がスタートした。
前作『ゼロワン』はAI(エー・アイ)=人工知能を搭載したヒューマノイド型ロボット・ヒューマギアがありとあらゆる業種で人間とともに働く近未来を舞台としていたことから、その世界観はもはやSFというよりは近い将来にでも起こり得(う)るかのようなリアリティを醸(かも)しだしていた。
これに対し、新シリーズの『セイバー』は完全に180度真逆のファンタジックな世界観に振り切っている印象が濃厚だ。
『セイバー』の東映側のチーフ・プロデューサーを務める高橋一浩(たかはし・かずひろ)氏は
・『仮面ライダーW(ダブル)』(09年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20100809/p1)
・『仮面ライダーOOO(オーズ)』(10年)
・『仮面ライダーフォーゼ』(11年)
などのプロデューサーを担当後、2012年から2015年にかけて東映テレビ企画制作部からテレビ朝日コンテンツビジネス戦略部に出向しており、その間にかの坂本浩一監督の学園ホラーアクションである、
・『白魔女学園』(13年)
・『白魔女学園 オワリトハジマリ』(15年)
などのプロデューサーを務めた。
東映に復帰後の氏はテレビシリーズ初のチーフ・プロデューサーとして『仮面ライダーゴースト』(15年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160222/p1)を担当。
そして、やはり坂本浩一監督作品だった『4週連続スペシャル スーパー戦隊最強バトル!!』(19年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190406/p1)でスーパー戦隊シリーズに初参加。
さらに、これと連続して『騎士竜戦隊リュウソウジャー』(19年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190602/p1)にもプロデューサーとして加わっていた。
また、『セイバー』のメインライターを務める福田卓郎(ふくだ・たくろう)氏は一般向けドラマ作品が多いものの、先述した『仮面ライダーゴースト』のメインライターでもあり、それ以前にも
・『ウルトラマンマックス』(05年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060315/p1)の幻影宇宙人シャマー星人が共通して登場する第18話『アカルイセカイ』&第36話『イジゲンセカイ』――第36話にはどくろ怪獣レッドキングと友好珍獣ピグモンも登場する――
・『ウルトラマンタイガ』(19年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190811/p1)に侵略宇宙人組織ヴィラン・ギルドの一員としてセミレギュラーで登場していた宇宙商人(あきんど・笑)マーキンド星人の初登場作品となった深夜ドラマ『ULTRASEVEN X(ウルトラセブン・エックス)』(07年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20080413/p1)第3話『HOPELESS(ホープレス)』
などにも脚本として関わっていた。
高橋氏と福田氏がともに参加した『仮面ライダーゴースト』もまた、車がモチーフのメカニカルな仮面ライダーを主人公としたリアリティあふれる刑事ドラマといった趣(おもむき)の前作『仮面ライダードライブ』(14年)とは明確に差別化したファンタジックな世界観だった。
『ドライブ』の車に対して『ゴースト』のモチーフは幽霊(ゆうれい)だったが、これは元祖『仮面ライダー』(71年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20140407/p1)が翌2016年に放映45周年を迎えるのを踏まえ、その「怪奇アクション」路線を強く意識した原点回帰の意味合いも込められていたのかもしれない。
ただ、当時とは時代も視聴対象も異なっていたことから、幽霊がモチーフでも実際の作風は陽性のものとなり、マスコットキャラ・ユルセンや敵怪人・眼魔(がんま)らが目玉をモチーフとしたお化けでありながらも「怪奇」「恐怖」とはほど遠い(笑)コミカルな印象が強かったものだ。
その一方、『ゴースト』で主人公・天空寺(てんくうじ)タケル=仮面ライダーゴーストが変身やタイプチェンジ時に使用したコレクターズアイテム・眼魂(アイコン)は宮本武蔵(みやもと・むさし)、アイザック・ニュートン、トーマス・アルバ・エジソンなどの歴史上の偉人や英雄たちをモチーフとした、就学前の幼児はともかく小学校低学年なら知的好奇心をかきたてられずにはいられない設定だったのだ。
そして、高橋氏が直近まで関わっていた『騎士竜戦隊リュウソウジャー』は騎士と恐竜がモチーフの冒険ファンタジーとして「王道」をコンセプトに製作された――実際は「王道」どころか「超変化球」だったが(爆)――。
チーフ・プロデューサーとメインライターのこれまでの経緯からすれば、『仮面ライダーセイバー』のキャッチコピー、
「文豪(ぶんごう)にして剣豪(けんごう)!!」
が、個人的には実にしっくりとくるものがあるのだ。
*文豪を題材とした先行作との相似性!
ところで、この「文豪にして剣豪!!」なるキャッチコピーには、特にライト層の若い人々にはピーン! ときたのではなかろうか?
太宰治(だざい・おさむ)、中原中也(なかはら・ちゅうや)、芥川龍之介(あくたがわ・りゅうのすけ)、江戸川乱歩(えどがわ・らんぽ)、泉鏡花(いずみ・きょうか)といった往年の文豪たちが、それぞれの作品をモチーフにした異能力を駆使して戦うバトルアクション漫画『文豪ストレイドッグス』がまさにそれである。
・周囲に雪を降らせ、その空間内に幻影を灯影する谷崎潤一郎(たにざき・じゅんいちろう)の異能力「細雪(ささめゆき)」とか(笑)
・外傷をあとかたもなく完全に治癒(ちゆ)することが可能な与謝野晶子(よさの・あきこ)の異能力「君死給勿(きみしにたもうことなかれ)」とか(爆)
・鉄パイプで殴られたり無数の銃弾を受けても全然平気な宮沢賢治(みやざわ・けんじ)の異能力「雨ニモマケズ」とか(大爆)……
まぁ、良い意味でホントにバカとしか云いようがない作品だが(笑)、朝霧(あさぎり)カフカ原作のこの『文豪ストレイドッグス』はKADOKAWA(カドカワ)『ヤングエース』で2013年1月号以来の長期連載をつづけており、外伝などの派生作品や小説版、テレビアニメ版(第1期&第2期・16年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160502/p1 第3期・19年)、アニメ映画『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE(デッド・アップル)』(18年・角川ANIMATION(アニメーション))などもつくられるほどの大人気となっているのだ。
「文化系の体力のなさ、甘く見ないでほしいよ!」(爆)
これは『魔進(マシン)戦隊キラメイジャー』(20年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200712/p1)の戦隊レッドなのに当初お絵かきが大好きな(ひとり)ボッチ高校生として描かれた熱田充瑠(あつた・じゅうる)=キラメイレッドが、メンバーからの「地獄の特訓」(笑)に耐えきれずに発した言葉だ。この充瑠のセリフにおもわず共感してしまった視聴者は、『文豪ストレイドッグス』が大人気を得ていることからすればかなりいたかと思われる(汗)。
つまり、文豪たちが異能力バトルを展開する仮想世界に自身の夢を託(たく)すことでカタルシスを得るような、文豪たちを「文化系」にとってのカリスマ的存在ととらえるほどに体力に自身のない人々が、世間には意外に多いということではないのかと。
仮面ライダーシリーズに限らず、「昭和」のころから東映変身ヒーロー作品が各時代の世相や流行を積極的に導入していたことを思えば、この文豪バトルファンタジーを「平成」ではなく「新時代」に至るまで取り入れなかったのは少々意外でもある。ただ、仮面ライダーの必殺技として、先述したような「細雪」とか「君死給勿」とか「雨ニモマケズ」みたいなのをまんま出してくるとはさすがに思わなかった(笑)。
『仮面ライダーセイバー』では我々の世界ははるか昔におおいなる力を持った本によって創造され、選ばれた剣士たちがその本を守ることで世界の均衡(きんこう)を保ってきたとされている。その本を奪おうとする悪い奴が現れたために本はバラバラになってしまったのだが、それらが今回の本型のキーアイテム・ワンダーライドブックとして仮面ライダーの変身やタイプチェンジ、必殺技に使われるのだ。
「とある少年が、ふと手に入れたお豆が巨大な木となる不思議なお話」
第2章『水の剣士、青いライオンとともに。』にて、この音声で起動したワンダーライドブックから繰りだされた攻撃は、怪人に向かって多数の緑色の豆をぶつけるだけ(笑)。これには『ウルトラマンタロウ』(73年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)第44話『あっ! タロウが食べられる!』で、きさらぎ星人オニバンバに対してウルトラマンタロウが節分の豆をぶつけていたのを彷彿(ほうふつ)とせずにはいられなかった(爆)。
それでも『ジャックと豆の木』のように、開いた本から宙に向かってニョキニョキと伸びていく豆の木の上を、セイバーがバイクで駆けあがっていくデジタル特撮による描写はメチャクチャカッコよかったが。
また、第4章『本を開いた、それゆえに。』で使われた『ピーターパン』のライドブックからはマッチョな妖精(ようせい)が飛び出し、セイバーにハンマー投げの要領でブン投げられて怪人にプロレス技のラリアットをキメて勝利してしまう! つーか怪人倒したのはセイバーじゃなくて妖精じゃねぇか!(笑)
ちなみに、このマッチョな妖精を演じたのは元アイドルで現役女子プロレスラーの才木玲佳(さいき・れいか)氏だが、氏が起用されたのは慶応義塾(けいおうぎじゅく)大学(!)「文学部」の出身だからか?(笑)
さらに、第6章『疾風(はやて)の如(ごと)く、見参(けんざん)。』では『3匹のこぶた』のライドブックによってセイバーの左肩にブタの鼻がモールドされ(爆)、かわいらしいこぶた3兄弟のアニメがオオカミではなくピラニアの怪人を藁(わら)の家へと誘いだし、セイバーが『3匹のこぶた』の物語を朗読(ろうどく)した末に怪人は藁の家ごと爆死する!
第6章は『仮面ライダーエグゼイド』(16年)で監督に昇格して以来、そのアバンギャルドな演出でファンの注目を集めてきた上堀内佳寿也(あみほりうち・かずや)監督の担当回だが、ある意味これまでの監督の演出の中で最もシュールだったかも(大爆)。
一方、敵側がメギド(怪人)を生み出すのに使う本はアルターライドブックとされているが、これによって生まれたキリギリス型のメギドはイソップ童話の『アリとキリギリス』のごとく、多数の巨大なアリにライダーを倒すのをまかせて自分は楽をしていたりするのだ(笑)。まぁこちらも1号ライダーのバイクと2号ライダーの3輪バイクがハイウェイを併走(へいそう)してトンネル内の巨大アリの大群を砲撃で全滅させ、破壊された高架道路を飛び越える! なんてカタルシス満点の特撮演出があるワケだ。
一見世界観はユルそうでもヒロイックな要素に満ちているのはそれこそ先述した『ウルトラマンタロウ』をはじめ、近年のスーパー戦隊シリーズと共通する作風だといえよう。
ところで、今回の敵組織が太古の昔に失われたこの世界を創造した本に代わり、新たな世界を創造する本をつくろうと暗躍するのは『文豪ストレイドッグス』よりも、2016年11月からDMM GAMES(ディーエムエム・ゲームス)で配信されているゲームで2020年4月から8月にテレビアニメ版も放映された――やはり新型コロナウィルスの影響で2週分が再放送となった――『文豪とアルケミスト』(20年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20220213/p1)の敵組織・侵蝕者(しんしょくしゃ)に近いものがある。
侵蝕者は名作文学の内容を次々と改変することでその作品を人々の記憶から消滅させており、これを阻止するためにアルケミストなる特殊能力者が実在した文豪を現世に転生させて侵蝕者と戦う世界観だ。
『セイバー』の敵怪人・メギドたちは白いワンダーライドブックで新たな世界を創造しようとするが、映像では俯瞰(ふかん)してとらえられた都市や山間部などの実景の中央に巨大な本が合成され、その本が開かれた部分が現実世界から異世界に変化してしまい、その境界線に結界(けっかい)が張られることで人々の往来が困難になるという表現で描かれる。
「子供たちは物語と現実の境界線をカンタンに飛び越えてしまう」
第1章『はじめに、炎の剣士あり。』の前半で後述する主人公が子供たちが絵本に夢中になるさまをヒロインにそう語っているが、それが本人たちの意志とは関係なしに悪いかたちで表れてしまうのだ。
多数のシャボン玉が浮かぶその異世界では背景全体がパステルカラーに染まり、空ではクジラや翼竜が舞うといった、まさにディズニーアニメのファンタジー作品を彷彿としてしまうほどに夢にあふれるイメージだ。
だが、時間が経過して本の「書き換え」が完了すると二度と元の世界には戻せず、それまでにその世界を出現させたメギドを倒さねばならないとのタイムリミットの設定でクライマックスに緊迫感を与えている。
『セイバー』における世界の「書き換え」は、やはり『文豪とアルケミスト』で描かれる名作文学の世界観の「書き換え」をどうしても彷彿としてしまうのだ。コレのテレビアニメ版と入れ違いで放映がはじまっただけに(笑)。
もちろん、それら文豪バトルアクションと設定や世界観が相似(そうじ)しているのがいかんというワケではない。むしろそうしたハヤリものを導入することでライト層の目を惹(ひ)きやすくなるだろうし、それで話題となってヒットさえすりゃもうけもんなワケで、こういう発展型パクリ(笑)は個人的には大カンゲイなのだ。
『セイバー』は年間を通して10人以上の仮面ライダーが登場予定だそうだ。第6章までの時点で、
・主人公の1号ライダーで「火」の剣士・神山飛羽真(かみやま・とうま)=仮面ライダーセイバー
・第1章から登場する2号ライダーで「水」の剣士・新堂倫太郎(しんどう・りんたろう)=仮面ライダーブレイズ
・第3章『父であり、剣士』から登場する3号ライダーで、ほかの剣士と比べてやや年輩で子持ち(!)の「土」の剣士・尾上亮(おがみ・りょう)=仮面ライダーバスター
・第2章のラストで魔法のじゅうたんに乗って登場(笑)した飛羽真の幼いころからの親友であり、第4章から変身した4号ライダーで「雷」の剣士・富加宮賢人(ふかみや・けんと)=仮面ライダーエスパーダ
・第6章から登場する二刀流の忍者(笑)の5号ライダー・緋道蓮(あかみち・れん)=仮面ライダー剣斬(けんざん)
と、すでに主人公側だけで5人もの仮面ライダーが登場している!
そして、変身する剣士たちは決して実在した文豪ではなく、肝心の部分は先述した作品群とは明確に差別化されているのだ。もっとも、個人的には文豪たちの力を秘めたアイテムで変身する仮面ライダーもぜひ観たい! と思ったりするのだが。太宰治とか川端康成(かわばた・やすなり)とか三島由紀夫(みしま・ゆきお)とか……「子供番組」としておおいに問題アリか(爆)。
*主人公トリオの関係性は『仮面ライダーW』の再現か?
主人公の飛羽真は小説家で、汽車の模型が走り回る巨大なジオラマが店内に展示された「ファンタジック本屋かみやま」を経営しており、新しく仮面ライダーとなったことで三足のわらじを履(は)いている(笑)。
ただ、飛羽真のシルクハットにサスペンダー付きのズボンというスタイルは小説家や本屋というよりは、むしろ『仮面ライダーW』の主人公のひとりで鳴海(なるみ)探偵事務所所属の私立探偵・左翔太郎(ひだり・しょうたろう)=仮面ライダーWのイメージに近く、近年の主人公ライダーと比べるとやや年長で落ち着いた雰囲気がある。演じる内藤秀一郎(ないとう・しゅういちろう)氏のルックスも、この翔太郎を演じた桐山蓮(きりやま・れん)氏と『仮面ライダーOOO』の主人公・火野映司(ひの・えいじ)=仮面ライダーオーズを演じた渡部秀(わたなべ・しゅう)氏をたして2で割ったような印象が個人的には強いだけに、よけいにそれを感じてしまうのだ。
『セイバー』のチーフ・プロデューサーである高橋氏は『W』『000』でもプロデューサーとして関わっていただけにこういうタイプが好みなのかもしれないが(笑)、氏が初めてチーフ・プロデューサーとなった『仮面ライダーゴースト』の主人公・天空寺タケルを演じた西銘駿(にしめ・しゅん)氏はまったく異なるタイプだった。
『ゴースト』の西銘氏あたりから前作『仮面ライダーゼロワン』の主人公・飛電或人(ひでん・あると)=仮面ライダーゼロワンを演じた高橋文哉(たかはし・ふみや)氏に至るまで、仮面ライダーの主人公たちはいかにも子供ウケしそうな一見優しそうな好青年という印象の役者が演じることが長らくつづいていたかと思える。
「子供番組」だからそれは正しい選択だし、いまさら『仮面ライダー555(ファイズ)』(03年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20031102/p1)の乾巧(いぬい・たくみ)=仮面ライダーファイズを演じた半田健人(はんだ・けんと)氏とか、『仮面ライダーカブト』(06年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070211/p1)の天道総司(てんどう・そうじ)=仮面ライダーカブトを演じた水嶋ヒロ氏のようなオレ様的主人公を出して子供を引かせてしまうワケにはいかないだろう。
もちろん半田氏や水嶋氏に責任はなく、劇中の巧=たっくんや天道が世界でいちばんオレがエラい(爆)と思うほどのキャラ造形にその原因があったのだが。
ただ、『ゴースト』から『ゼロワン』に至る子供ウケしそうな役者が仮面ライダーを演じつづけた2010年代後半の作品群が、たっくんや天道みたいなキャラまでもが主人公として描かれた2000年代の第1期「平成」仮面ライダーと比べ、視聴率や玩具の売り上げ、映画の興行成績が上回ることになったのか? というと決してそうではない。
単純比較はできないが少なくとも視聴率は明らかに低下したし、2000年代前半のイケメンヒーローブームの時代と比べると世間での話題性や認知度も低くなったとの印象が強いのだ。
『セイバー』の主人公・飛羽真が一見コミカルでありながらも『W』の左翔太郎みたくややとんがった印象も兼ね備えたキャラとなっているのは、『仮面ライダーディケイド』(09年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090308/p1)で盛り返した視聴率や人気を持続させた『W』や『OOO』のころ=第2期「平成」ライダー序盤の時代にあった勢いを取り戻すという「原点回帰」の意味合いもこめられているのではあるまいか?
もちろん「ファンタジック本屋かみやま」で子供たちに絵本『アリババと40人の盗賊(とうぞく)』を読み聞かせする場面が冒頭で描かれたり、異世界に閉じこめられて現実世界の両親と離ればなれになった少年を名作童話『家なき子』の主人公と同一視して励(はげ)ましたりする描写を第1章でまず描くことで、年少の視聴者に親しみを持たせる演出は好印象だ。
その主人公像とは相反するかたちとなっているが、
・『仮面ライダーゼロワン』の主人公・或人の秘書型ヒューマギアで、機械的な口調で話す清楚(せいそ)で健気(けなげ)なイズ
・『仮面ライダージオウ』(18年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190126/p1)のヒロインで2068年の世界からやってきた黒髪ロングヘアに天女の羽衣(てんにょのはごろも)のような白い衣装を着た未来少女・ツクヨミ=仮面ライダーツクヨミ
・『仮面ライダービルド』(17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180513/p1)の序盤でネットアイドルをやっていたひきこもりの少女(汗)・石動美空(いするぎ・みそら)
といった近年のライダーヒロインが、おとなしかったり神秘的だったり人形みたいだったりと、明らかにマニア受けしそうな(笑)キャラだったのとは一変、『セイバー』のヒロインで飛羽真を担当する『月刊 グリム』(笑)の新人編集者・須藤芽依(すどう・めい)はやたらとハイテンションで終始騒々しく、飛羽真をいじくり回したり異世界の出現におおはしゃぎする描写が多い。
このキャラは『ウルトラマンZ(ゼット)』(20年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200723/p1)の防衛組織・ストレイジに所属する理系少女で、怪獣の細胞コレクションや解剖(かいぼう)が趣味のために怪獣出現や怪奇現象を大喜びするオオタ・ユカ隊員とモロかぶりしている気もするが、それにしてもどちらもあまりにもムダにカワイイ女優を起用しているような(笑)。
近年だと『仮面ライダーエグゼイド』の仮野明日那(かりの・あすな)=ポッピーピポパポ=仮面ライダーポッピーに近いヒロイン像ではあるが、『仮面ライダーW』のヒロインで鳴海探偵事務所の所長だが翔太郎に「女子中学生」と揶揄(やゆ)された(笑)ほどにルックスも言動も子供っぽくほぼ毎回翔太郎の頭をスリッパで殴っていた(爆)鳴海亜樹子(なるみ・あきこ)を、この芽依も彷彿とさせるようでもある。
そして、第1章のラストで青いライオンにまたがって「ファンタジック本屋かみやま」に初登場した倫太郎は、世界の均衡を保ってきた選ばりし剣士たち=ソードオブロゴスのひとりであり、実にスッキリとしたルックスで笑顔が印象的な常に敬語で話す好青年ではある。
「安心して。決してあやしいものじゃないから」
それが逆におもいっきりの胡散臭(うさんくさ)さを醸(かも)しだし(爆)、「めっちゃあやしいんですけど」と飛羽真と芽依が店内の巨大ジオラマを常にはさむかたちで倫太郎と恐る恐る会話する演出は実にリアルだった。
まぁ、シュークリームとかエクレアといったスイーツを大好きな描写が、倫太郎が決して「敵」「悪」ではないと端的に語っているけれど(笑)。
いくらこっちの世界に慣れていないとはいえ、土足の青いライオンに乗って入店してきたり、人間を「ホモサピエンス」と呼ぶ(笑)倫太郎の怪しさは、脳内の図書館「地球(ほし)の本棚」に検索をかけることであらゆる知識や技術、体術などを取得して実践可能とする特殊能力を持ちながらも、常識や既成概念(きせいがいねん)には疎(うと)かった『仮面ライダーW』の翔太郎の相棒・フィリップに近い印象をも感じさせる。
もはや視聴者に対する説明が不要な「どこでもドア」――国民的人気アニメ『ドラえもん』(79年~)のひみつ道具としてすでに日本人の「常識」となり得ている――と芽依が称した、ソードオブロゴスの本部で北極にある(爆)ノーザンベースに時空間移動するゲートを扉(とびら)の向こう側に設置可能な「ブックゲート」の中が多数の本棚で埋まっている描写には、おもわず「地球の本棚じゃん!」と狂喜したファンも多かったのではなかったか?
『仮面ライダーW』放映10周年のイベントがこんなかたちで本編にようやく来たか!? との印象すら個人的には感じているほどだが、翔太郎・亜樹子・フィリップが再現されたかのような飛羽真・芽依・倫太郎の関係性は、『W』放映に前後して頂点に達していた仮面ライダーの人気や勢いを「新時代」にふたたび! とのスタッフの目論(もくろ)みもあるのかもしれない。
*「神秘性」が強調された仮面ライダー!
さて、第1章の導入部では引き裂かれた本の破片が多数舞い散る中でメギドたちが人々を襲い、幼いころの飛羽真が宙に吸いこまれそうになった少女に手を差し伸べて助けようとするもかなわない地獄絵図が描かれる。
「覚悟を超えた先に、希望はある!」
そう叫んだヒゲヅラの中年剣士が剣を大地に突き刺すや異変はおさまり、倒れた飛羽真の右手にはいつしか赤い小さな本が握られている。
これが飛羽真がよく見る悪夢として語られるが、夢の中で手にする赤い豆本を飛羽真が実際手にしていることから、それは現実世界で起きた出来事であり、飛羽真の記憶から消されたのだと視聴者に想像させて世界観に誘導する作劇的技巧はツカミとしては実に秀逸だ。
第2章で倫太郎によって「どこでもドア」で北極にあるノーザンベースに連れられた飛羽真は、大きな本棚が開いて現れた(爆)ソフィアと名乗る女神(めがみ)のような本の守護者から、15年前に「本」をめぐって勃発(ぼっぱつ)したソードオブロゴスとメギドの戦いについて聞かされる。
「無謀(むぼう)と勇気は違うのですよ」
世界の「書き換え」が完了直前となった街を救おうと主張した飛羽真をソフィアはそう諭(さと)すが……
飛羽真「覚悟を超えた先に、希望はある!」
ソフィア「その言葉は!?」
飛羽真が夢に出てくる中年剣士の言葉を口にするや、ソフィアは激しく動揺する!
第1章の導入部とバッチリつなげることで、飛羽真がかつてソードオブロゴスに所属した伝説の剣士と深い因縁(いんねん)を持つ存在として描くのもさることながら、ソフィアの「その言葉は!?」と同時に宝箱のような箱が開き、その中から仮面ライダーセイバーの専用バイクに変型する黒い本が出てくる描写は実に「神秘性」にあふれているではないか!?
地球から300万光年離れたM78星雲光の国出身のウルトラマンとは異なり、仮面ライダーは「昭和」の時代では敵組織のテクノロジーと同一線上にある存在として描かれたため、いわゆる「神秘性」とは無縁の場合が圧倒的だったし、ファンの方も決してそれを求めてはいなかった。
これが「平成」に入るとやや事情が変わり、特に『仮面ライダーW』以降の第2期「平成」ライダーシリーズを振り返ってみると、
・仮面ライダーや敵怪人・ゾディアーツのエネルギー源を宇宙空間に存在する未知のエネルギー・コズミックエナジーと設定したり、宇宙最高の知能を誇る宇宙の意志・プレゼンターを縦糸的存在として描くなどで宇宙の「神秘」を強調した『仮面ライダーフォーゼ』
・日食の日に大量のファントム(怪人)を生み出すために開かれたサバトなる儀式で生き残った主人公・操真晴人(そうま・はると)=仮面ライダーウィザードが魔宝石からつくられた指輪を駆使する魔法使いの仮面ライダーとなり、アンダーワールドなる精神世界で神話に登場するようなモンスターと戦う「神秘」的な描写が多かった『仮面ライダーウィザード』(12年)
・幽霊退治の専門家・ゴーストハンターの息子であるも、第1話で眼魔に敗れていきなり死亡(!)した主人公・タケルが、死後の世界で出会った仙人から変身ベルト・ゴーストドライバーを与えられてよみがえったり、歴史上の偉人や英雄の力を秘めた眼魂なるアイテムでタイプチェンジして戦ったりと、「神秘」そのものだった『仮面ライダーゴースト』
など、特に2010年代前半に「神秘性」を強調した仮面ライダーの例がよく見られた。
スーパー戦隊の方は最新作『魔進戦隊キラメイジャー』をはじめ、『騎士竜戦隊リュウソウジャー』・『宇宙戦隊キュウレンジャー』(17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20180310/p1)・『動物戦隊ジュウオウジャー』(16年)など、近年でも「神秘性」が強く感じられる作品が多く見られるが、仮面ライダーでは久々といった感がある。
「近未来SF」だった前作『仮面ライダーゼロワン』の第1話は本放映直後に動画無料配信サイト・YouTube(ユーチューブ)で配信されるや再生回数が1週間で200万回(!)を超えていたが、実は同条件で配信された『セイバー』第1話の再生回数は1ヶ月でようやく125万回だったりする(大汗)――ちなみに先述した『ウルトラマンZ』は地上波で放映されない地域が多い事情もあるとはいえ、1週間で100万回前後は稼いでいる。前作『ウルトラマンタイガ』は中盤以降30万回を超えるのがやっとだったが(爆)――。
この違いは作品自体の魅力の差でなければ、動画サイトを観るような幼児ならぬティーン以降の特撮マニアは「神秘性」の強い「ファンタジー」よりも「SF」の方を好むとの傾向(けいこう)があるのかもしれない。
ただ、「神秘性」が強い作風かと思われる先述した『フォーゼ』『ウィザード』『ゴースト』やスーパー戦隊諸作品の商業成績上の成功例からすれば、本来のターゲットである就学前の幼児や小学校低学年の児童に対してなら訴求力(そきゅうりょく)は充分にあると見てよいのではないか?
先述したセイバーの専用バイクが開いた黒い本の上から登場する「神秘性」にあふれる描写で、
「創刊! ディアゴスピーディー!」(爆)
なる音声ガイダンスが流れる演出に「神秘性がなくなる!」とケチをつけるような輩(やから)は、今となっては『ウルトラマンR/B(ルーブ)』(18年)前半のレギュラー悪・愛染(あいぜん)マコト=ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20181104/p1)くらいしかいないだろう(笑)。
この音声ガイダンスは作品を重ねるごとにどんどんエスカレートする一方だが、2000年代後半にバンダイが番組と連動してこのギミックを玩具に採用したことで大成功をおさめたのが発端(ほったん)だ。
近年ではむしろ子供よりも大人がコレを楽しんでいるかに見えるほどで、筆者の周囲でも『宇宙戦隊キュウレンジャー』の主人公・ラッキー=シシレッドの口グセ「よっしゃラッキー!」を職場で口走るのはともかく、『獣電戦隊キョウリュウジャー』(13年)の恐竜の顔型をした変身アイテム・ガブリボルバーの音声ガイダンス「ガブリンチョ!」を仕事中にやたらと口にする奴までいたものだ(爆)。
それにしても、ディアゴスピーディーなるセイバーの専用バイクの名は、あらゆるジャンルの分冊百科マガジンの発行元として知られ、2019年6月以降に隔週(かくしゅう)で「昭和」仮面ライダーのテレビシリーズ・劇場版・テレビスペシャルを完全網羅(もうら)したDVD付き雑誌『仮面ライダーDVDコレクション』を出しているディアゴスティーニが元ネタとしか思えない。こればかりは「神秘性」とは無縁だな(爆)。
なお、『セイバー』に「神秘性」を与えることにおおいに貢献(こうけん)している本の守護者・ソフィアを演じるのは、1990年代後半に若者たちの間で絶大な人気を博した歌手・安室奈美恵(あむろ・なみえ)やボーカル&ダンスユニット・SPEED(スピード)などを輩出した沖縄アクターズスクールの出身であり、1996年に『学校の怪談R(リターンズ)』(96年・関西テレビ)でドラマデビュー、1997年末放送の『日本レコード大賞』(TBS)で最優秀新人賞を受賞するなど、歌手・女優として活躍をつづける知念里奈(ちねん・りな)氏である。
氏の全盛期がもう20年以上も前ということは、当時中高生だった氏のファンがすでに『セイバー』を視聴する子供を持つ年齢に達している(!)ワケであり、一般層の親を誘致するにはうってつけのこうした戦略もなかなかあなどれないものがある。
*「文豪にして剣豪」が徹底された仮面ライダー!
さて、タイトルロゴで『セイバー』に『聖刃』と併記(へいき)され、「文豪にして剣豪」なるキャッチコピーが示しているとおり、今回の仮面ライダーのデザインや活躍ぶりは「本」と「剣」を最大限に活(い)かすかたちで描かれている。
第1章に登場したゴーレムメギドですらも、敵幹部が所持する黒い豆本から飛び出した多数の本が積み重なって怪人と化すほどだ。
しかも木目調の内装に多数の本棚が並ぶブックカフェみたいな敵のアジトでは、糸に釣(つ)られた謎の手だけの存在がペンで本を執筆(しっぴつ)している!(笑)
ちなみに、ユダヤ教の伝承に登場するゴーレムは本ではなく土をこねてつくられた意志を持つ泥(どろ)人形だが、『仮面ライダーX(エックス)』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20141005/p1)に登場した神話怪人・ユリシーズに似た灰色で無表情な顔のゴーレムメギドの頭部に造形された一対(いっつい)の人間の手は、まさにゴーレムがつくられた存在だと示すもので実に秀逸(しゅういつ)だ――その手を「ロケットパンチ!」のように仮面ライダーにぶつけるギミックも良い!――。巨大化が描かれるのも原点のゴーレムを忠実に継承していて好印象だ。
メギドの3人の幹部たち――妙に日本人離れしたハーフっぽい顔立ちの役者ばかり選ばれているのが世界観に説得力を与えている!――はそれぞれ物語・幻獣・実在の生物を扱った各分野の本から怪人を出す設定だ。
先述した『仮面ライダーX』の当時は早すぎて子供たちに人気がなかった神話怪人――個人的にはリアルタイムでも魅力を感じたのだが――も、この数十年の間に神話・伝承をモチーフにしたアニメやゲームの人気で受け入れられる土壌(どじょう)がすでに形成されたのだから、ゴーレムメギドにつづく神話怪人が続々登場することを期待したい。
飛羽真は第1章で異世界で暴れ回るゴーレムメギドが破壊した建物の瓦礫(がれき)に埋まってしまうが、赤いワンダーライドブックの力でそこから脱出、さらにライドブックから紅蓮(ぐれん)の炎につつまれた赤い竜が出現し、それが聖剣・火炎剣烈火(れっか)となって大地に突き刺さる!
漫画界の巨匠(きょしょう)だった故・手塚治虫(てづか・おさむ)氏も小学生のころに自宅のブ厚い辞書の全ページに描いて親に怒られたという、まさにアニメの原点・パラパラマンガ――場面が連続して描かれた複数の絵をすばやくめくると動いて見える。私事で恐縮だが、筆者は小学生のころ全教科書にこれを描いていた(爆)――のように、倫太郎の連続する動きが全ページに描かれた等身大の本(笑)から現れた倫太郎は、その火炎剣を抜くのは普通のホモサピエンスでは困難だと語るが、飛羽真はそれを見事にひっこ抜く!
先述したように、これは導入部で描かれた飛羽真の夢に出てくる中年剣士=かつてソードオブロゴスに所属した伝説の剣士と同じ力であり、その人物が飛羽真の「先代」の剣士にあたることが示されているのだ。
このあたりは第1話でリュウソウレッド・リュウソウブルー・リュウソウピンクの3人の剣士が「先代」から現代の若者たちへと継承されるさまが描かれた『騎士竜戦隊リュウソウジャー』と相似しているといえよう。
火炎剣烈火は飛羽真の手の中で変身ベルト・聖剣ソードライバーへと変化する。鞘(さや)に納められた短剣を思わせるデザインでありながらも、その鞘の部分にはワンダーライドブックを装着するポケットが3つ付属しており、まさに「文豪にして剣豪」を端的に象徴している!
「物語の結末は、オレがキメる!」
作家である飛羽真が叫ぶからこそ説得力にあふれるこのキメゼリフを合図に、圧倒されるほどの数の本がギッシリと並ぶ本棚のイメージを背景に、飛羽真がソードライバーから火炎剣をひっこ抜くやそこから赤い竜が現れる!
仮面ライダーXが登場時に棒状でさまざまな形態に変化する万能武器・ライドルで画面を「X」字状に切り刻(きざ)み、「Xライダー!」と名乗りをあげる演出のように、飛羽真が火炎剣をX字状に振り回すアクションでその形跡は炎となって目の周囲にドラゴンの角を彷彿とさせる鋭角的なオレンジ色のパーツとして装着され、赤いドラゴンが飛羽真の全身にからみつき、そのボディは白を中央に右側が赤、左側が黒と「平成」以降の仮面ライダーで最も多用されたカラーに変化をとげる!
飛羽真以外の剣士たちの変身もやはり同じ本棚のイメージを背景に剣をふりかざすかたちで描かれており、
・倫太郎は青い水しぶきを頭部に、胸部に青いライオンを装着して「水」の剣士・仮面ライダーブレイズに!
・亮は全身が多数の鋼(はがね)色の土塊(つちくれ)に包まれて「土」の剣士・仮面ライダーバスターに!
・賢人は金色の稲妻(いなずま)状の電撃を浴びて「雷」の剣士・仮面ライダーエスパーダに!
といった具合に、「水」=青、「土」=灰色、「雷」=金色と、それぞれの特性を象徴する色を基調とした仮面ライダーに変身する。
亮=バスターの聖剣のみ剣というより斧に近いことから、ほかの剣士が変身時に聖剣を華麗に振り回すのに対し、亮のみ「一刀両断!」とおもいっきり振りおろすアクションでその力強さが強調して描かれている。
また、第6章での蓮=剣斬の初変身ではほかの剣士の変身時に背景にある本棚のイメージが描かれず、駆ける蓮に緑の手裏剣(しゅりけん)などが合体する変身だったが、蓮の終始落ち着きのない言動・行動やその身軽さを駆使したバトルスタイルの象徴として変身パターンを差別化したのではなかろうか?
そうした部分ですらもキャラを掘り下げる演出がなされているのは実に秀逸かと思える。
なお、変身を完了した仮面ライダーたちの背景では本のページがせわしなくめくれつづけるイメージが描かれる。これは飛羽真のキメゼリフ「物語の結末は、オレがキメる!」の象徴として、各ライダーが現在進行中の物語を決着させる存在だと端的に示す絶妙な演出といえるだろう。
セイバーの基本形態・ブレイブドラゴンはその名が示すとおりに右肩に赤いドラゴンの頭部が造形された炎の剣士といった趣だが、頭部の中央にアンテナ状にそびえる先端がとがったパーツはペン先にも剣にも見え、まさに「文豪にして剣豪」を体現するデザインとなり得ている。
ところで、前作『仮面ライダーゼロワン』では『仮面ライダーアギト』(01年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20011103/p1)から『仮面ライダージオウ』に至るほとんどの「平成」ライダー1号のスーツアクターを長らく務めてきた高岩成二(たかいわ・せいじ)氏に代わって縄田雄哉(なわた・ゆうや)氏がゼロワンを演じたが、『セイバー』で1号ライダー・セイバーを演じるのは浅井宏輔(あさい・こうすけ)氏である。
氏は
・『獣電戦隊キョウリュウジャー』のキョウリュウグリーン
・『烈車(れっしゃ)戦隊トッキュウジャー』(14年)のトッキュウ6号とその本来の着ぐるみ怪人の姿・ザラム
・『手裏剣(しゅりけん)戦隊ニンニンジャー』(15年)のアカニンジャー
・『動物戦隊ジュウオウジャー』のジュウオウイーグル
・『快盗戦隊ルパンレンジャーVS(ブイエス)警察戦隊パトレンジャー』(18年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190401/p1)のルパンレッド
など、スーパー戦隊シリーズで近年はレッドを中心に活躍してきたほか、『仮面ライダーエグゼイド』の敵キャラ・仮面ライダークロノスや、前作『仮面ライダーゼロワン』の2号ライダー・仮面ライダーバルカンなども演じてきた。
『セイバー』の作風がどちらかといえばスーパー戦隊に近いだけに、近年のスーパー戦隊で主要な役を多く演じてきた浅井氏がセイバー役に大抜擢(ばってき)されたのでは? と考えてみたりもする。
また、ほかの剣士よりも年輩の仮面ライダーバスターを演じるのは、『仮面ライダーBLACK(ブラック)』(87年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20001015p2)の仮面ライダーBLACKや『電磁戦隊メガレンジャー』(97年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20111121/p1)のメガブラックをはじめ、仮面ライダー&スーパー戦隊の両シリーズで膨大(ぼうだい)なキャラを務めてきた大ベテラン・岡元次郎氏だ!
バスターがパワフルタイプのライダーだけに、かつてはスマートだったものの近年の氏のガッシリ体型は実に説得力にあふれているのだ。
*異世界でのバトルは「新しい製作様式」?
さて、セイバーとメギドのバトルは現実世界が書き換えられた異空間を舞台に展開される。
・『宇宙刑事ギャバン』(82年・東映 テレビ朝日)の魔空空間
・『電光超人グリッドマン』(93年・円谷プロ TBS・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190529/p1)のコンピュータ・ワールド
・『ウルトラマンネクサス』(04年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041108/p1)のメタフィールド
・『仮面ライダーウィザード』のアンダーワールド
・『仮面ライダーエグゼイド』のゲームエリア
など、こうしたバトルステージはすでに1980年代から多岐(たき)に渡って描かれてきた。
怪獣や怪人の出自がコンピュータやゲーム、人間の精神世界となる作品ではそれらは必然的な舞台となるワケだし、『ギャバン』の魔空空間にはたとえ造成地や採石場(笑)が舞台でもビデオ合成で幻想的な背景を自在に描くことでマンネリを打破する意味合いが強かった。
まぁ、『ネクサス』のメタフィールドは同じ怪獣を何週にも渡って使い回したほどに都市のミニチュアセットを製作する予算がない苦肉の策(汗)だったのだが、『セイバー』のバトルステージが異世界なのは予算面やマンネリ打破もあろうがこれまでとは違う事情もあるらしい。
周知のとおり、前作『仮面ライダーゼロワン』は新型コロナウィルスの影響で話数が全45話に短縮されてしまったほどだが、2020年4月に日本全土に緊急事態宣言が発令され、他県への不要不急の移動が厳しく制限されたために、東映の撮影所が所在する都内以外でのロケが困難になったことが異世界をバトルステージにした理由だったかと思えるのだ。
『セイバー』の放映がはじまった同年9月以降も首都圏での感染者数は決して減少傾向とはいえない状況であり、再度の感染拡大で移動制限が出されてまたロケが困難となる可能性は捨てきれないのだ。
だがそうなったとしても、舞台をCGで描きこむのがいくらでも可能な異世界にしておけば製作中断のリスクは防げるワケであり、この苦肉の策は「新しい製作様式」(苦笑)といえよう。
だからといって、「新時代」の仮面ライダーが毎度異世界モノになってもそれはそれで困るのだけれど、本のページが変わることで異空間がロケ先では決して得られないような風景や事象が広がる別世界へとさらに転じる『セイバー』の演出を見ていると、さすがにムリも云えなくなるのだ。
仮面ライダー伝統の必殺キックがトランポリンやワイヤーアクションではなく、ポップアップ絵本――1970年代前半に万創(ばんそう)なる出版社が発行したそれらに親しんだ筆者の世代では「とびだすえほん」と呼ぶのが正しい!(笑)――に描かれたキックポーズのライダーが実体化して繰りだす演出も、屋外での撮影が困難となることを想定して考案された可能性も高いだろう。
最大のウリである「ライダーキック!」が撮れないことこそ仮面ライダーにとって最もイタいワケであり、各種必殺技を放つ前段として挿入(そうにゅう)される、画面左にワンダーライドブックを背景に技のポーズをタメる仮面ライダー、画面右にページがめくれつづける本を配したイメージカットもそうした策の一環では?
それにしてもセイバーが必殺技を放つ際に鳴る音声ガイダンス「必殺読破!」は、なんか1冊本を読み終えるごとに叫ぶ人間が続出しそうで……
*「みんななかよし」 → ライダー対立の逆パターンか??
さて、仮面ライダーの序盤といえばそれぞれ出自が異なるライダーたちの対立劇が描かれるのが定番だったが、『セイバー』では飛羽真を除くライダーたちは基本的にソードオブロゴスなる同じ組織に所属しているため、もう最初からいきなり「みんななかよし」(笑)という感が強く、組織に懐疑(かいぎ)的で団体行動が苦手な筆者としては正直これはつまらん(爆)。
第4章の冒頭では第3章でメギドによって異世界に連れ去られた亮の幼い息子を必ず取り戻すとした飛羽真に対し、軽々しく「約束」を口にするな! などと亮が詰め寄る描写があるものの、飛羽真が云う「約束」は重いものだと賢人に説得されただけで、亮はいとも簡単に飛羽真を信用するに至るし(笑)。
ただ、飛羽真の「約束」は重いものだとする賢人の根拠として、飛羽真がよく見る15年前の光景=異世界に連れ去られる少女を飛羽真が救えなかった場面が再度挿入される中、宙に吸いこまれそうになる少女と手を伸ばして助けようとした飛羽真が実は「指切り」をしている最中だったことが描かれていたのだ。
「ふたりで遊んでた、か。もうひとりのことは忘れてんだな」
飛羽真が賢人をいつもふたりで遊んでた親友として芽依に紹介する第3章の導入部のラストで賢人がそうつぶやくことで、飛羽真・賢人・そして謎の少女はどういう関係性にあったのか? との縦糸としての謎を提示して視聴を継続する意欲を喚起(かんき)する作劇的技巧こそ、やはり仮面ライダー最大の魅力のひとつだろう。賢人はソフィアに「あれはオレの責任」(!)とまで口にするほどなのだから。
また、第1章からメギドのリーダー的存在として描かれ、飛羽真の夢の中にも出てくる紫色の闇の剣士・仮面ライダーカリバーが第4章のラストではじめて飛羽真たちの前に姿を見せる。第5章『我(わ)が友、雷の剣士につき。』ではカリバーは賢人の父=富加宮隼人(ふかみや・はやと)であり、その隼人は亮の親友でもあったという、主人公側の剣士たちと実に因縁(いんねん)深い敵として語られるのだ。
「また背が伸びたな」
そう云って頭をなでてくれた父を回想した賢人が、父に触れられた部分におもわず手をやる描写が第5章で二度も演出されることで、
「15年前から時間がとまってる感じがする」
とした飛羽真に賢人が共感を示す場面により説得力を与えていた。
セイバーがディアゴスピーディー、エスパーダが3輪バイク型のビークル・ライドガトライカーを激走させて華麗なる共闘を見せるクライマックスバトルがおおいに盛りあがったのも、前段としてそれが描かれたことで高いドラマ性を帯びることとなったからだ。
ちなみに、賢人の父=隼人を演じるのは、
・『仮面ライダー555』の海堂直也(かいどう・なおや)=スネークオルフェノク
・『仮面ライダーゴースト』第46話『決闘! 剣豪からの言葉!』の宮本武蔵
・『ライオン丸G(ジー)』(06年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061229/p1)終盤に登場した真影=シシトラ
・『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル NEVER ENDING ODYSSEY(ネヴァー・エンディング・オデッセイ)』(08年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100211/p1)のキール星人グランデ
・『侍戦隊シンケンジャー』(09年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090712/p1)の腑破十臓(ふわ・じゅうぞう)
など、実に個性の強い悪役を中心に特撮ヒーロー作品に数多く出演してきた唐橋充(からはし・みつる)氏だ。
隼人は第5章では短い回想場面に登場したのみだったが、中盤以降はカリバーの正体としてレギュラー出演する可能性が高いだけに、その展開も含めて期待せずにはいられないというものだ!
さらに、第6章ではメギドの中で実在する生物を司(つかさど)る幹部・ズオスが怪人態に変身して2号ライダー・ブレイズと対戦する。
ブレイズとズオスの剣が激突した際に水しぶきを盛大にあげる演出が、ズオスが「水の剣士か」とつぶやくことに説得力を与えている――CGではなく、実際の水しぶきがより効果を高めている――。それにつづいてズオスは
「15年前にズタズタにしてやったぜ!」
とホザくのだ!
セイバーだけではなく、ブレイズにも「先代」の剣士の存在が語られ、その因縁の敵が継承されることでこれまで穏(おだ)やかなキャラとしての印象が強かった倫太郎に変化の兆(きざ)しがおとずれる。
何かを決意した表情の倫太郎が仲間たちのもとを去っていく第6章のラストシーンは通常のフォーマットとは異なり、エンディングテーマをはさむかたちで描く演出でよりインパクトを高めることとなった。
第5章で激しく動揺を見せた賢人もそうだが、「みんななかよし」だった剣士たちが心の変遷(へんせん)によって今後対立関係へと至り、人物相関図が激変するといった、従来の仮面ライダーとは逆パターンの群像劇となるのでは? なんて個人的には期待せずにはいられない。
ところで、『仮面ライダージオウ』ではイケメンネタキャラ青年のウォズ=仮面ライダーウォズが「この本によれば」とストーリーテラーを務めていたが、『セイバー』では緑のロングヘアにピンクの帽子をかぶり、全身赤い服装でメガネをかけたヒゲヅラのあまりにも胡散臭い(笑)中年キャラ・タッセルがその役割を担(にな)っている。
演じるレ・ロマネスクTOBI(トビー)氏の本業はミュージシャンのようだが、大学卒業後に入社した会社が次々に倒産したためにサラリーマンがイヤになり、最も興味のない国で人生をリセットしようとフランスに渡り……といったこれまでの氏の経緯が個人的には実に興味深い。
いっそのこと、氏についての物語をワンダーライドブックにした方が既製(きせい)の童話や昔話よりはるかにおもしろいのでは?(爆) と思うのだが、地上波の「子供番組」ではムリだろうからネットムービーやオリジナルビデオ作品などで「外伝」的にやってくれることを切望したい。
まぁそれはともかく、『セイバー』の物語はまだはじまったばかりだけれど、いきなりのおもしろさには感服するばかりである。