(ファミリー劇場『ウルトラマンA』放映開始記念・連動連載!)
(文・久保達也)
『ウルトラQ』(66年)、『ウルトラマン』(66年)、『ウルトラセブン』(67年)をリアルタイムで視聴した人々の証言として、「当時はそうしたヒーロー作品を視聴する年齢層が高く、小学校高学年や中学生も多く観ていた」と書かれているのを目にすることが結構多い。
だが05年5月25日に講談社から創刊された『KODANSHA Official File Magazine ULTRAMAN』のVOL.4『ウルトラセブン』[第1集](asin:4063671720)にまるでこれらの証言をくつがえすかのようなコラムが掲載されている。
TBSの機関誌『調査情報』68年8月号の「テレビっ子に関する六章」と題された研究文によれば、小学5年生1069名に対する調査結果からまとめた当時の人気番組ランキングは
*第1位『ザ・モンキーズ』(67年)
*第2位『アニマル1(ワン)』(68年)
*第3位『巨人の星』(68年)
*第4位『進め! ドリフターズ』(68年)
*第5位『意地悪ばあさん』(68年)
*第6位『コメットさん』(67年)
*第7位『素浪人 月影兵庫』(65年&67年)
*第8位『チャコとケンちゃん』(68年)
*第9位『プロレスリング』(68年・TBS)
*第10位『ハリスの旋風(かぜ)』(66年・*1)
であったらしい。第1位の『ザ・モンキーズ』は『デイ・ドリーム・ビリーバー』などをヒットさせたアメリカの人気ボーカルグループがホストを務めた音楽バラエティドラマであり、『アニマル1』『巨人の星』はスポ根アニメ、『進め! ドリフターズ』はのちに『8時だヨ! 全員集合』(69〜85年・TBS)で長年に渡って子供たちの間で絶大な人気を誇ったザ・ドリフターズが出演するお笑い番組であった。
05年現在の番組に強引に置き換えれば『ザ・モンキーズ』は『SMAP×SMAP』(フジテレビ)、『アニマル1』はバトルもので『ポケットモンスター』(テレビ東京)、『巨人の星』は熱血もので『NARUTO−ナルト−』(テレビ東京)、『進め! ドリフターズ』は『ロンドンハーツ』(テレビ朝日)といったところであろうか。小学生も高学年ともなると変身ヒーロー作品よりも人気アイドルやお笑い芸人が出演するバラエティ番組や、週刊マンガ雑誌で好評連載中の作品を原作としたアニメを好むようになるものである。
つまり当時の小学5年生も現在の小学5年生と同じ視聴傾向を示していたということだ。今の小学5年生の中に『魔法戦隊マジレンジャー』や『仮面ライダー響鬼(ひびき)』(共に05年)、そして『ウルトラマンネクサス』(04年)を観る子がごく少数であるのと同様、68年当時の小学5年生で『ウルトラセブン』を観ていた子が極めて少数であった事実がこの調査ではっきりと裏づけられているのである。
これは自身を振り返っても同じことが云える。筆者が小学5年生であったのは77年のことであるが、その当時観ていた番組といえば『紅白歌のベストテン』(日本テレビ)や『スターどっきり(秘)報告』(フジテレビ)に『8時だヨ! 全員集合』などの歌謡番組やバラエティ、『太陽にほえろ!』(72年)や『夜明けの刑事』(74年)に『Gメン’75』(75年)といった刑事ドラマだった。
アニメといえば『元祖天才バカボン』(75年)や『ルパン三世』(77年)は観ていたが、『惑星ロボ ダンガードA(エース)』(77年)や『超電磁マシーン ボルテスⅤ(ファイブ)』は観ていなかった。そして特撮でも『大鉄人17(ワンセブン)』(77年)や『ジャッカー電撃隊』(77年)』も観てはいなかった。そういうものはもっと小さな子が観るものだと思っていた。もっとも翌78年にウルトラシリーズのリバイバル人気から巻き起こった第3次怪獣ブームによって逆戻りしてしまったのだが……
話を元に戻すが、同じく『ウルトラセブン』[第1集]の中で、68年5月6日から12日にかけてビデオリサーチ社が実施したモニター調査の結果が掲載されているが、当時の4才児から12才児の人気番組ベスト5は
*第1位『ロボタン』(66年)
*第2位『ウルトラセブン』
*第3位『チャコとケンちゃん』
*第4位『おらぁグズラだど』(67年)
*第5位『アニマル1』
であった。つまり幼児や小学校低学年を含めた調査でようやく『ウルトラセブン』が顔を出しており、製作側の視聴年齢を高めようとした努力とは裏腹に、実際に『セブン』を支えていたのはもっと低い年齢層であったことが明らかになったのだ。
『セブン』が放映終了し、69年から70年にかけては変身ヒーロー作品の新作が1本も存在しないという、異様とも思える状況の中で、駄菓子屋で売られていた1枚5円の怪獣ブロマイドやブルマアクの怪獣ソフビの売り上げに大きく貢献し、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』の格闘名場面集として当初製作された『ウルトラファイト』(70年)に熱狂したのは当時3〜4才だった筆者の世代を含めた比較的年齢層が低い子供たちであった。
そうした子供たちが熱望して巻き起こった第2次怪獣ブームの渦中に製作された作品群が、第1次怪獣ブーム期の作品群に比べて年齢の低い層に向け、より親しみやすい作風に仕上げられたのはあまりに当然過ぎる結果である。そうした点を無視して単純に比較論を展開したところで到底説得力が感じられるハズもない。
マニア向け書籍草創期の78年に、朝日ソノラマから発行された『ファンタスティックコレクションNo.10 ウルトラマンPARTII 空想特撮映像のすばらしき世界』(〜『不滅のヒーロー ウルトラマン白書』(82年に初版・95年に増補第4版・asin:4257034505)に合本再録)において、「『ウルトラマンタロウ』(73年)』においてウルトラシリーズは完全に幼児向けの作品になってしまった」とあったが(この記述がのちのマニア間における第2期ウルトラ低評価の原因となった)、ではナゼ幼児向けの作品に変化するに至ったのか、事実考証もまともになされていなかった点にその当時の特撮論壇の弱点があった。
冒頭にあげた「『Q』『マン』『セブン』を比較的年齢が高い層が観ていた」という証言は決して虚偽ではないのだろう。だが考えてみればそうした証言をしているのは現在では中年層となった特撮マニアの人々であり、掲載されているのもマニア向けの雑誌や書籍であるわけで、一般人の感慨とは異なるものだろう。彼らは確かに小学校高学年や中学生で第1期ウルトラ作品を視聴していたのであろうが、結局それは彼らに元々マニア的気質が備わっていたのに過ぎないのではあるまいか?
そうした人々が第2期ウルトラシリーズにリアルタイムで接したとすれば中学生や高校生のころである。そうした年齢に達した人々が当時幼稚園児や小学校低学年であった筆者の世代と同じ感覚でウルトラシリーズを楽しめたハズがあるわけがない。中高生が子供番組を観て「幼児向け」と思うのはあまりに当然過ぎる感覚であり(あるいは「幼児向け」を一番イヤがる年頃でもあろうから、過剰にバイアス(偏見)もかかり)、それを基準にした尺度で作品を論評すること自体が誤りである。
だが平成に入ってからのウルトラシリーズはそんな人々の要望に応え、「大人の鑑賞に堪える」作品づくりが成されていった。それでも夢中になったのは結局幼児とマニアである。もはやそこには小学校低学年の姿さえもなかったのだ。
そして遂に『ウルトラマンネクサス』が当初一年間放映の予定が3クールで打ち切りという前代未聞の屈辱を味わうことになる。第1期ウルトラシリーズも結局は幼児や小学校低学年が中心になって支えていたのだという客観的事実を長年に渡って無視し続けたことが今日(こんにち)の悲劇を招いてしまったのだ……
聞き飽きた感のある「原点回帰」のフレーズではあったが、過去の人気怪獣の大挙ゲスト出演、ウルトラセブンタイプの全身赤を基調としたボディカラーの「M78星雲」出身のウルトラマンが登場するという事前情報に「今度こそは……」と淡い期待を抱いた『ウルトラマンマックス』は、05年7月にスタートするや完全に筆者をとりこにしてしまった。
圧倒的に存在感の溢れる怪獣たちの登場や、バトルのカタルシスの魅力を前面に押し出した作風に対し、筆者は『帰ってきたウルトラマン』(71年)第18話『ウルトラセブン参上!』において、宇宙大怪獣ベムスターから新ウルトラマンによって救われたMAT(マット)チームの加藤隊長のごとく、感慨深くつぶやかずにはいられない。
「ウルトラマンが帰ってきた!」
そう、ウルトラシリーズとはそうした魅力を幼かった我々に与えてくれた作品群であり、決して「大人の鑑賞に堪える」SF作品ではなかったのだ。それを主張するために今回は『ウルトラマンA(エース)』(72年)を選んでみた。本来であれば『帰ってきたウルトラマン』から順を追って第2期ウルトラシリーズについて論評してみたいところではあるが、『帰ってきた』は近年ではかなり地位が向上してきた感があり、ある意味『ウルトラマンタロウ』よりも評価が低いと見られる『A』の魅力を掘り当てた方が良いと考えた。第2期ウルトラシリーズ再評価の一助となり、その『マックス』的魅力をたとえミニマムでも(笑)感じて頂ければ幸いである。
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http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971115/p1
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