(文・久保達也)
パトロール中の北斗と山中が乗る防衛組織TAC(タック)の特殊車両・タックパンサーが八百屋(やおや)を営むユキが乗る軽トラックと衝突事故を起こす。
双方とも青信号だから進んだと主張するが、駆けつけた警官はろくに事情も聞かないうちにユキに非があると判断する。
警察は必ずしも弱者の味方ではなく、権威の強い方に味方することもあるという実態を如実に象徴するリアリティ溢れる描写であるが、もちろんそんなに深刻な風刺であるはずもなく、不条理な滑稽味を主眼としている。
だが北斗はユキが真剣に無実を訴える様子を見て嘘を云っているようには思えず、密かにユキの軽トラを尾行するが、交通違反をするとは思えない安全運転であった。
また彼女は女手ひとつで八百屋を切り盛りし、北斗や山中に食ってかかるような男まさりである反面、早くに両親を亡くしたのか、ひとりで二人の幼い弟を育て、彼らに対しては実に優しく接している様子を見て、北斗はユキよりもむしろ信号機に疑念を抱く。
それは見事に的中した! 東京都内の信号機が一斉に狂い出し、各地で衝突事故が多発したのだ! それはミニチュアと実際の車を併用して何十台も衝突させ、爆発炎上させることによって再現され、小競り合いをする大勢のエキストラの採用という手間をかけて(人件費はいくらかかった・笑)、一大パニックが見事に描写されている。
そして空に浮かぶ不気味な繭から
「レボ〜〜〜〜ル」
という不気味な声が。
「人間よ、東京を立ち去れ!」
人間を東京から追い出すために、宇宙怪人レボール星人は彼らが守護神(80年代中盤以降ならばともかく70年代のジャンル作品ではあまり例がない伝奇的発想!)と呼ぶ信号超獣シグナリオンを使って東京中の信号機を狂わせていたのだ!
すぐさまTACが出動し、不気味な繭を攻撃するが、レボール星人は警告を無視したとしてまたしても信号機を凶器に使った!
赤信号から高熱光線、青信号から血液蒸発光線、そして黄信号からは発狂光線(!〜放送禁止用語・笑)を出して人間たちを地獄の底にたたき込む!
それぞれのカラーフィルターの中で苦しむ人間たちの描写がまさに壮絶であり、TVシリーズ作品の範疇を超えたスペクタクルとなっている。ここでの阿鼻叫喚のるつぼは、少なくともそれまでのウルトラシリーズでは例がないほどの迫真性に満ち溢れたものだ。
吉村によって光線を出している信号機の地下にある下水道にレボール星人の基地があることが判明(吉村も結構活躍してるんですよ皆様)。
マンホールから潜入した北斗と山中は怪しい機械を操る数名の作業員を発見、格闘の最中に彼らはレボール星人の正体を現した。
赤・青・黄とめまぐるしく変わる照明の中で、トランポリンアクションや細かいカット割りで『仮面ライダー』(71年)のライダーキックばりなアクションを駆使したレボール星人と北斗・山中がスピーディなバトルを展開し、射撃の腕前を発揮する、本話がウルトラシリーズ初参加の深沢清澄演出はカタルシス満点!
巨大バトルの前哨戦として等身大時のバトルが展開されるさまは戦隊シリーズの先駆けでもある。
レボール星人が滅ぶことによって視聴者に一見事件が解決したかに見せかけ、北斗・山中とユキが和解し、談笑し空気が弛緩(しかん)したのをさえぎるかのように超獣シグナリオンを突如暴れさせる描写がこれまた絶妙!
(『帰ってきたウルトラマン』(71年)で新ウルトラマンピンチの描写によく使われたBGMの流用が危機感をあおりたてる!)
シグナリオンが三色の光線でビルを破壊するばかりでなく、爆発によって巻き上がる噴煙までにも赤・青・黄の色をつけるというこれまた特撮監督デビューの神沢信一特撮監督によるイメージの統一が実に素晴らしい!
そして北斗が変身を遂げ、エース登場〜バトル前半戦に至るまでは主題歌のTVサイズが華を添えている。
第45話『大ピンチ! エースを救え!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070310/p1)と並ぶ第4クールを代表する屈指の娯楽活劇編である。
<こだわりコーナー>
*警官役で『仮面ライダー』(71年)のショッカー怪人の声を数多く担当した辻村真人(つじむら・まひと)が素顔で出演している。
ショッカー怪人のかまきり男、ムササビードル、ウニドグマ、クモライオン、カナリコブラなどの役で持ち前の憎々しげな声を披露していたが、ご本人はいたって瓢々とした風貌の持ち主であり、『超人バロム・1(ワン)』(72年)第7話『変化魔人アンゴルゲ』でもアンゴルゲにされてしまう先生役(アンゴルゲの声も氏が担当)で出演しているほか、NHK教育テレビの番組においても、かつては「おにいさん」として出演していたという未確認の情報がある。
*レボール星人が化けた作業員の役で前作『帰ってきたウルトラマン』(71年)で帰ってきたウルトラマンこと新ウルトラマンのスーツアクターとして活躍した菊池英一もこれまた素顔を見せている。レボール星人の声も氏が担当したが、ナゼかオープニングには氏の名前がクレジットされていない! 随分と失礼な話である。
*信号をモチーフとした怪獣としては『スペクトルマン』(71年)第23話『交通事故怪獣クルマニクラス!!』及び第24話『危うし!! クルマニクラス』に登場したクルマニクラスが先輩格。戦隊シリーズの怪人はともかく、こうした無機物をモチーフにしたユニークな怪獣が、近頃はめっきり少なくなってしまいましたねえ……
*特撮班の助監督を務めてきた神沢信一氏が、ついに本話で特撮監督デビュー! 演出も凝っている。以後、神沢氏は平成ウルトラに至るまで、特撮監督や本編監督でも活躍し続けるのはご承知の通り(名義は“沢”の字が“澤”に変更されて、神澤信一名義に)。
*深沢清澄監督も、本話がウルトラ初登板。ヌルいマニア連中たちからはあまり言及されておらず、マニア論壇においてはワリを喰っている印象が強いが、スピーディーなテンポのよいカット割りが得意な御仁で、以後の円谷プロ作品を多数支え続けた。
*特撮同人誌『夢倶楽部VOL.8 輝け!ウルトラマンエース』(94年12月25日発行)によれば、レボール星人をTACガンで全滅させたあとの山中の「チェッ、死んでから何ができるんだよ、馬鹿!」のセリフは脚本にはないそうだ。
また超獣シグナリオンとレボール星人は、それぞれ第46話『タイムマシンを乗り越えろ!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070319/p1)に登場したタイム超獣ダイダラホーシとシリーズ前半のレギュラーである異次元人ヤプールの着ぐるみの改造とのこと。
*山中がユキを指して語った「一姫二トラ三ダンプ」なる言葉は、60年代後半にトヨタカローラや日産サニーの登場で自動車がようやく大衆のものになりだしたころ、大挙出現した悪質運転のドライバーを表現する際に使われたらしい。要するに「カミナリ族」や「暴走族」などと同義語である。
*シグナリオンが街を破壊し始めた際、北斗は「あの八百屋だけは壊させない!」と叫んでシグナリオンを攻撃するが、オイオイ、ほかのもんはどうなってもええんか!?(笑)
*事件解決後、ユキの弟たちが「ただいま〜!」と元気に学校から帰ってくるが、あれだけの「東京大混乱!」だったのだから、学校なんか休校になっているハズでは?(爆)
それどころか「ねえちゃん、今日大きな地震があったんだってね」ってオイオイ!(笑)
*視聴率16.2%