ファミリー劇場『ウルトラ情報局』ウルトラマンA編 〜2・脚本家・長坂秀佳出演!
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(脚本・長坂秀佳 監督・志村広 特殊技術・高野宏一)
(文・久保達也)
原因不明のタンカー沈没事故が続発。現場を捜索していた北斗は空から海で溺れそうになっていたユウジを発見、救出して自宅に送り届ける。
近所の子供たちの話から北斗はユウジの父親がタンカーの沈没事故で死んだ船長であり、母親もまた交通事故で亡くなっていたことを知る。ユウジの姉は心配して集まってきた子供たちをなぜかヒステリックに追い帰した。北斗はそのただならぬ様子に疑問を感じる。
ユウジはじきに布団から起きだし、海岸で貝殻を拾い集める。北斗がその理由を尋ねると、その貝殻を千枚集めれば父親が帰ってくるのだとユウジは云う。ユウジの姉は父が死んだ事実をユウジを悲しませないために隠し、そんな作り話を聞かせていたのだ。近所の子供たちと遊ばせないのも父が死んだことを誰かから聞かされるかもしれないという心配からの配慮だったのだ。
基地に戻った北斗は突然竜隊長に休暇を願い出る。ユウジのことが気にかかってならなかったからだ。その理由と続発する沈没事件が解決しない苛立ちから、山中は北斗をこう怒鳴りつける。
「たるんどる! ブったるんどるぞおまえはっ!」
この怒りはある意味ごもっともである(笑)。だが竜隊長はこう云って北斗に休暇を許可したのである。
「TACは子供の味方だ。子供が生きる力を失おうとしているのだとしたら、それは超獣以上の脅威だ」
隊長が防衛組織を「子供の味方」であると断言する。これでこそ子供の憧れの対象になり得るわけである。敵を倒すことを優先して危機に陥った子供を顧みようとしなかった『ウルトラマンネクサス』(04年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060308/p1)のナイトレーダーとは随分な違いである。そんな非情な組織がマニア予備軍はともかく一般の子供に受け入れられるハズがなく、低視聴率で打ちきりになるのも至極当然というわけである。
しかもナイトレーダーが所属するTLT(ティルト)という機関はスペースビーストの存在をひた隠し、スペースビーストの目撃者や事件に巻き込まれた者の記憶をメモリーポリスという組織を使って消去していたのである。いたいけな少女もその例外ではなかった。そうやって子供に嘘をついたらどうなるかをこの第34話では描いている(笑)。
休暇をとった北斗はダン少年を連れ、近所の子供たちも交えてユウジと遊びの時間を持った。だがユウジはその途中にいなくなり、貝殻を集めにひとりボートで海に出た。
そこにタンカー沈没事故の犯人である虹超獣カイテイガガンが現れた。ユウジが千枚集めると父が戻ってくると信じていた貝殻は、実はユウジの父を殺したカイテイガガンのウロコだったのである!
北斗はユウジに事実を話すが、ユウジの姉が「残酷だ!」と北斗を責めた。北斗はこう主張する。
「貝殻を千枚集めれば父親が戻ってくるなんて、そんな話を信じさせる方が残酷だ!」
そしてユウジはこう叫んで家に閉じこもってしまう。
「ウソつきだ! 大人はみんなウソつきだ!」
第24話『見よ! 真夜中の大変身』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061015/p1)、そして第33話『あの気球船を撃て!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061218/p1)もそうであったが本来であれば善として描かれるはずの母性としての子供に対する思いやりの気持ちが仇(あだ)となってマイナスエネルギーとして作用するさまを描いている点に注目してしまう。
本作を執筆した長坂秀佳(ながさか・しゅうけい)は第29話『ウルトラ6番目の弟』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061120/p1)でもダンの父親に対する憧憬を描いているが、ここでは同じように亡くなっていても母親に関してはほとんど語られずじまいであった。氏の代表作である『人造人間キカイダー』(72年・東映)においても行方不明の光明寺博士を捜し求めるミツ子とマサルは楽しかった父との想い出を回想することはあっても、母を想い浮かべることはないのである。
当時のスタッフたちがなぜこうまでして母性を敵視し、排除したかは大いに気になるところである。南夕子を排除したのもその一環からか? とは考えたくないが……
今回は冬近い荒れ狂う大波が押し寄せる海岸が舞台であり、それこそ父性の象徴として大いに機能している。ユウジは父親を回想する中で豊かにたくわえられたあごひげに触れるが、ラストで人工呼吸で自分を救ってくれた北斗の頬に触れた際にユウジはこうつぶやく。
「北斗さんにもヒゲがあるんだね」
<こだわりコーナー>
*山中隊員の名セリフ「ブったるんどる!!」が登場(笑)。
*マイナー怪獣だが、虹超獣カイテイガガンの独創的なフォルム・デザイン・色彩はもっと評価されて然るべきだ。第10話『決戦! エース対郷秀樹』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060709/p1)に登場した変身怪人アンチラ星人のデザインモチーフは女性の子宮らしかったが、カイテイガガンの隠れモチーフは女性器か?(汗)
*「貝殻を千枚集めたいのは本当は君なんじゃないのか!」と北斗に責められるユウジの姉を演じた山田圭子はこれより少し前に『仮面ライダー』(71年)第84話『危うしライダー! イソギンジャガーの地獄罠』にも怪人イソギンジャガーに改造された父を捜し求めるマキという少女の役で出演している。こちらも海岸が舞台であり、「お父さ〜ん」と叫びながらイソギンジャガーに駆け寄ろうとするマキの姿が描かれている。
なお彼女はのちに丘野かおりと改名し、次々作『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)に山口百子(やまぐち・ももこ)という、当時の人気アイドル・山口百恵(やまぐち・ももえ)をまんまパクった役名で主人公の恋人のヒロインとしてレギュラー出演している。
*弟のユウジは、翌年の東宝製作の巨大変身ヒーロー『流星人間ゾーン』(73年)に、ゾーンジュニア役で出演した佐藤賢二くん。
*北斗がユウジと遊んでいた際にコカ・コーラのケースをぶら下げているのはもちろんスポンサーの中に日本コカ・コーラ・ボトラーズが含まれていたからである。子供向けというより完全に若者向けの飲料を販売するメーカーが第2期ウルトラシリーズのスポンサーとなっていた事実には大いに注目したいところである。
*志村広監督は、本話がウルトラシリーズ初登板。ウルトラと同様、円谷プロ製作の巨大ヒーロー『ミラーマン』(71年)や『ジャンボーグA(エース)』(73年)の監督や、古くは同じく円谷プロの『戦え! マイティジャック』(68年)や『恐怖劇場アンバランス』(69〜70年製作・73年TV放映)の助監督などでも名前を確認できる。
*視聴率20.3%
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http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070109/p1