ウルトラマンメビウス#29「別れの日」、#30「約束の炎」 〜30数年後にウルトラの星が見えた男・タロウ客演前後編!
「ウルトラマンA 再評価・全話評!」 〜全記事見出し一覧
(脚本・田口成光 監督・岡村精 特殊技術・川北紘一)
(文・久保達也)
前作『帰ってきたウルトラマン』(71年)の主題歌の最初のフレーズをサブタイトルに据えた本作。だがウルトラの星が決して誰にも見えるものではないことが描かれている。
東京上空に怪しい雲が浮かんでいるのをキャッチした防衛組織・TAC(タック)は危険区域を封鎖する。だが北斗は重病患者を輸送中の救急車を通してしまい、案の定救急車は黒雲超獣レッドジャックに襲われ、患者とその娘や救急隊員を死亡させてしまう。
「おまえの甘い判断で人が殺されたんだ!」と例によって山中隊員が北斗を激しく責めたてる。事の重大さを見ればそれも無理からぬことである。
だが美川隊員は「山中隊員だってもしあの現場に居たら北斗隊員と同じように……」と必死で北斗をかばう。そして竜隊長は「仮にもし自分がその現場に居たら」と仮定し、隊員たちにどうしたかを聞いてみる。
今野隊員は深く悩んだ揚げ句に何も答えない。吉村隊員は「ぼくもあの現場に居たら北斗隊員と同じようにしたと思います!」と力強く答える。
事件が起きる前にはTACは黒雲の正体が超獣であることはつかんでおらず、救急車を封鎖区域から遠回りさせれば患者が病院に到着するまでに死亡する可能性もあったわけなのだ。竜隊長は「非常に難しい判断だったわけだ」と結論づけ、黒雲の正体が判明した以上、同じ過ちを二度と繰り返すなと北斗を諭す。
ともすれば過程を無視して結果責任のみを社員一同で激しく追求し、揚げ句にリストラに追い込むような現代のサラリーマン社会に生きる身にとって、TACのこうした点はあまりに理想的な職場に見える。激しく責任を追求する山中のような者もいれば、一方で優しくかばってくれる美川や、北斗に同調する吉村もおり、全ての意見を尊重する竜隊長の統率力により、北斗が逃げ場を失うこともないのである。よくある「理想の上司」をたずねる調査がもし筆者のところにきたら迷わず「竜隊長」と答えるが(笑)。
TACという防衛組織は北斗隊員ばかりが一方的に責められているとよく云われるが、第14話『銀河に散った5つの星』や第20話『青春の星 ふたりの星』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061008/p1)に本話など、実は北斗がフォローされる話もあるのだ。
北斗に限らなければ、他の隊員のミスや失態を別の隊員がフォローしたりかばったりする話も、第4話『3億年超獣出現!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060528/p1)や第9話『超獣10万匹! 奇襲計画』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060708/p1)、第11話『超獣は10人の女?』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060731/p1)に第22話『復讐鬼ヤプール』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061010/p1)などけっこう例がある。
ベタベタしたり緩んだりしてはいないけど、情はあるのがTACチームの特徴だ。
そういえば『帰ってきたウルトラマン』初期のMAT(マット)の雰囲気は失敗した郷を岸田隊員が激しく責めたて、上野隊員が岸田に同調し、クールな丘隊員は「アタシには関係ないわ」みたく何も云わず(笑)、加藤隊長までもが実に厳しい判断を下し、味方してくれるのは南隊員だけ、とまるで郷の逃げ場がなかったなあ(だからこそ坂田兄妹がいる自動車修理工場に足しげく通ったわけだ)。
まあ第22話『この怪獣は俺が殺(や)る』(なんちゅうかっこいいタイトル!)から伊吹隊長が赴任して以降は次第にアットホームな雰囲気になっていったけど。
TACでは穏便な採決が下された北斗。
だがひとりの少女が「お母さんとお姉さんを返してよ!」と激しく北斗に詰め寄る。死亡した重病患者と同乗の女性はそれぞれ少女の母と姉だったのだ。
厳しい現実が北斗につきつけられ、山中の「おまえの甘い判断で人が殺されたんだ!」との言葉が北斗の脳裏に浮かぶ(実作品ではそれを具体的に描写はしていないので念のため)。
レッドジャックが再び出現。少女はダンとともに封鎖区域に置き忘れてきた自転車を取りに行こうとして北斗に制止される。だがその自転車が「お母さんに買ってもらった大事なもの」であることを知った北斗は少女を残してダンと自転車を取りに行くが、持ち場を離れたことによって暴走族がバリケードを破って封鎖区域に進入し、またもやレッドジャックに殺されてしまう。
遂に北斗は謹慎処分をくらって自宅のアパートに帰ってくる。茫然自失という趣であるが、そこにダンの姉の香代子が田舎から送られてきた果物を持参して北斗をたずねてくる。香代子は北斗の私服姿を見て「アタシ北斗さんの私服姿って初めて見た。でもTACの制服の方が似合うと思うな」とつぶやく。
一見なんでもないような場面ではあるが、明るく振る舞う香代子に対してボ〜ッとしていた北斗が先の香代子の発言で表情が変わるあたり、南夕子の代役としての務めを香代子に持たせようとした様子が垣間見える。
一方ダンはレッドジャックが暴れる中、少女の自転車を無事に取り戻してきたことを近所の子供たちに誇らしげに語り、今度レッドジャックが現れたら爪を取ってきてくれとせがまれる。
再度レッドジャックが出現、ダンは少女の自転車を借りてレッドジャックに向かうが、助けようとした山中が負傷。ダンは北斗に助けられるが平手打ちをくらい、「今おまえにウルトラの星が見えるか」と北斗にたずねられる。
少女の自転車を勇気をふるって取り戻したとき、ダンにはウルトラの星が見えていた。だが今度はレッドジャックの爪を取ってきてやるなどという勇気というより蛮勇を自慢げに語っていたとき、そして北斗に殴られたとき、ダンにはウルトラの星が見えなかったのだ。
無鉄砲な点が共通している似た者同志の北斗とダン。前話である第29話『ウルトラ6番目の弟』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061120/p1)以降の本作は二人の成長物語としての側面を強くしている。
自分の人に対する甘さが弱点となって二度も人を死なせたということから、北斗は今回ダンに厳しく向き合い、筆は次回以降に譲るがその後ゲストに登場する子供たちにかなり厳しくあたることの伏線となっているのだ。
ダンも無謀な行動を詫び、北斗に「ごめんなさい」と素直に謝る。平成ウルトラ作品で絶賛された「人間ウルトラマン」という壮大なテーマの原点がここにあり、実に濃厚な人間ドラマが既にこの時点で展開されているわけで、なにも近年いきなり始まったわけではないのである。
そして平成ウルトラ作品よりも優れていると思えるのはそんな重厚なテーマに特撮シーンが押し潰されることなく冴えに冴え渡っているということである。
空にたちこめた不気味な黒雲から超獣の声が聞こえるというイメージの素晴らしさもさることながら、再三にわたって登場するレッドジャックは口からの火炎放射で都市を徹底的に焼き尽くす。
その火炎攻撃や赤と青を基調としたデザイン、全身に丸い突起物が見られる造形は第1話『輝け! ウルトラ五兄弟』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060514/p1)に登場したミサイル超獣ベロクロンのリメイク的な趣であり、新たな『A』の物語の始まりに登場するにまさにふさわしい超獣なのだ。
そして対するエースもまた額のビームランプからの光線パンチレーザーを久々に使用し、フラッシュハンド(エースの両手が白熱して光る!)でレッドジャックを痛めつけ、とどめが必殺技である両腕をL字型に組んで発するメタリウム光線との三段攻撃もやはり原点回帰の趣があるのだ。
夕焼けが印象的なラストシーンでダンは北斗に殴られた際に偶然つかんだ王冠を北斗に見せ、笑顔で「これ一生の宝物にするよ」と語る。一同の前に輝くいちばん星……
「だがそのとき、北斗とダンの目にはもうひとつ、キラキラと輝くウルトラの星が見えていたのです」
<こだわりコーナー>
*今回は重要な役回りである母と姉を失った少女やその姉に救急隊員、ダンの近所の子供たちや暴走族など、かなりゲストが多いが、警官役の大泉滉(おおいずみ・あきら)(『ウルトラQ』第6話『育てよ! カメ』以降、特撮作品のゲスト出演多数。『帰ってきたウルトラマン』第30話『呪いの骨神(ほねがみ)オクスター』や、『ウルトラマンA』本話、第43話『冬の怪奇シリーズ! 怪談 雪男の叫び!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070224/p1)、『ウルトラマンタロウ』第8話『人喰い沼の人魂』、第46話『日本の童謡から 白い兎は悪い奴!』にも出演。チョビ髭とユーモラスな演技が印象的)以外はナゼかオープニングに一切クレジットされていない。
少女を演じた子役はなかなかの美形なので、せめてこの子だけでも名前を知りたいのだが……(今どうしていることやら?)
*真船禎(まふね・ていorただし)監督と並び称される、やはり独特の凝ったアングルや長廻しの映像を見せる岡村精(おかむら・せいorまこと)監督のウルトラシリーズ初登板の作品でもある本話。その映像美もとくとご覧あれ!
引き出しがウルトラシリーズしかないようなマニアが(笑)、真船や岡村監督の映像を指して、実相寺昭雄監督のマネであるとよく評しているが笑止! 60年代までの映画・TV界の牧歌的な映像表現の時代とは違って、70年代前半の映画・TV界は『仁義なき戦い』(73年)のような東映のニューウェーブ任侠映画やアウトローTV時代劇をはじめ、凝ったアングルや細かいカット割りに逆に長廻し、手持ちカメラの多用など映像的実験が流行した時代なのである。真船・岡村監督の映像表現もその文脈において捉えるのが適切なのである。
本話でも、TAC戦闘機のコクピットシーンで、いつもと違いコクピットの外ではなく中側の下方から撮影したりして、しかも超獣の吐く黒雲がコクピットの外を流れていくあたり、臨場感がある。
謹慎を喰らって私服姿で下宿に戻ってきて、ヘコんでいる北斗を望遠レンズで捉えて、ダン少年の呼び掛けでちょっと遅れてムリに愛想よく反応しているらしきあたりの映像と芝居付けもすばらしい。
*女性ファン・女性マニアから見れば、本話の見どころのひとつは、謹慎中の北斗のネクタイ背広姿と自室の風景か?
ダンの姉・梅津香代子の「北斗さんの私服姿って初めて見た」「一人暮らしの男性の部屋なのに意外と片付いているのね」とのセリフが、前作『帰ってきたウルトラマン』(71年)の主役・郷秀樹とヒロイン・坂田アキとの日常生活描写を少し想起させる。
ただし、熱烈な夕子ファンから見ると、浮気者と誘惑者のように見えてしまうようだが(笑)。
岡村精監督・円谷プロ担当作品リスト
『ウルトラマンエース』(72年)
第30話「きみにも見えるウルトラの星」(脚本・田口成光)
(当該記事)
第31話「セブンからエースの手に」(脚本・山田正弘)
http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061204/p1
『ジャンボーグA(エース)』(73年)
第5話「叫べナオキ! いまだ」(脚本・安藤豊弘)
第33話「サンタが悪魔の鈴鳴らす」(脚本・安藤豊弘)
第34話「死神からの殺人予告電話!」(脚本・山浦弘靖)
第45話「ほえる昆虫怪獣・砂地獄」(脚本・安藤豊弘&奥津啓二朗)
第46話「サタンゴーネ最後の大進撃!」(脚本・若槻文三)
*第33話では怪獣ソフビの顔の部分に子供の生首を合成してみたり、第34話では蝶の大群に桂木美加と、すげえコワイ演出です。
『ウルトラマンレオ』(74年)
第36話「飛べ! レオ兄弟 宇宙基地を救え!」(脚本・田口成光)
『A』#24評にて少し言及。http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061015/p1
第37話「怪奇! 悪魔のすむ鏡」(脚本・田口成光)
『A』#22評にて少し言及。http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061010/p1
『怪奇! 巨大蜘蛛の館』(78年・土曜ワイド劇場)(脚本・田口成光)
*『ジャンA』における怪奇編演出を高く評価した淡豊昭(だん・とよあき)プロデューサーが岡村監督を本作に推挙したのだと推測されます。
*視聴率20.5%
(編:『ウルトラマンメビウス』(06年)の話数も同じく第30話『約束の炎』(ウルトラマンタロウ客演の前後編の後編)で、リュウ隊員が白昼に見たウルトラの星というシーンは、『ウルトラマンエース』第3クール・ダン少年編が元ネタ・引用・リスペクトであるので念のため。なぜウルトラの星を見ることができたのかは、『エース』第29話『ウルトラ6番目の弟』評を参照のこと)
[関連記事]
ファミリー劇場『ウルトラ情報局』ウルトラマンタロウ編 〜1
http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071125/p1
[関連記事] 〜30数年後にウルトラの星が見えたもうひとりの男!
ウルトラマンメビウス#29「別れの日」、#30「約束の炎」 〜タロウ客演前後編!
http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061203/p1
[関連記事] 〜エース全話評・主要記事!
「ウルトラマンA 再評価・全話評!」 〜序文
ウルトラマンエース#4「3億年超獣出現!」
ウルトラマンエース#13「死刑! ウルトラ5兄弟」
ウルトラマンエース#14「銀河に散った5つの星」
ウルトラマンエース#17「怪談 ほたるケ原の鬼女」 〜真船演出! #23のプロト!
ウルトラマンエース#18「鳩を返せ!」 〜名作傑作!
ウルトラマンエース#19「河童屋敷の謎」 〜夕子活躍!
ウルトラマンエース#21「天女の幻を見た!」
ウルトラマンエース#28「さようなら夕子よ、月の妹よ」 〜南夕子降板の真相異論!
ウルトラマンエース#30「きみにも見えるウルトラの星」 〜主役窮地の作劇極北!
(当該記事)