(ファミリー劇場『ウルトラマンA』放映開始記念・連動連載!)
『ウルトラマンエース』#13「死刑! ウルトラ5兄弟」 ~超獣バラバ・マイナス宇宙・ゴルゴダ星・ウルトラレーザー!
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『ウルトラマンエース』14話「銀河に散った5つの星」 ~異次元超人エースキラー・裏宇宙・超光速ミサイル№7!
(脚本・市川森一 監督・吉野安雄 特殊技術・佐川和夫)
(文・久保達也)
(2005年執筆)
さて、後編である本話の脚本は、市川森一(いちかわ・しんいち)が担当している。
前編である第13話『死刑! ウルトラ5兄弟』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060803/p1)は田口成光(たぐち・しげみつ)の脚本だったが、ゴルゴダ星や超獣バラバのネーミングをはじめ、十字架にかけられるウルトラ兄弟という発案などのキリスト教にまつわる引用から成る各種設定は市川のものだそうだ。05年6月24日に刊行された講談社『KODANSHA Official File Magazine ULTRAMAN VOL.6 帰ってきたウルトラマン/ウルトラマンA』(ISBN:4063671747)にはそう記載されている。バラバの名は、ゴルゴダの丘でイエス=キリストの代わりに釈放された囚人が元ネタなのだ。
ヒーローの共演・大ピンチを描いた一大イベント編の後編なのだから、本来ならば胸がスカッとするような展開が用意されているはずである。
だが、長じて特撮マニアになって、特撮評論家・切通理作(きりどおし・りさく)の著作『怪獣使いと少年』(93年・JICC出版局 現・宝島社〜00年・宝島文庫に所収・ISBN:4796618384)などの各種マニア向け書籍での研究成果も読んでから視聴すると、この回はどことなく悲壮感がつきまとうのかもしれない。
男女合体変身や異次元人ヤプールなどの新基軸がスタッフたちにあまり理解を得られず、その責任をとるようなかたちでこの回をもって市川はメインライターでありながら、いったん『ウルトラマンA(エース)』(72年)を離れたという指摘もある。とはいえ、脚本執筆は放映の3ヵ月くらい前だろうから、本話の執筆も『ウルトラマンA』の放映が始まったか否かくらいのことであろうし、撮影現場や視聴者の感想が上がってきた時期だとはとても思えないのだが(汗)。
しかし当時、ちょうど30才になったこともあり、これでウルトラシリーズは卒業という想いも氏にはあったとも語っている。そして、それが反映されて、北斗やウルトラマンエースがまさに市川そのものを演じるかたちになっているとの分析もある……
ウルトラ兄弟を人質に地球人に降伏をせまる異次元人ヤプールに対し、防衛組織・TAC(タック)はゴルゴダ星の爆破を決定。高倉司令官が南太平洋上のTAC国際本部より、超光速ミサイルNo.7の設計図を持って、専用の高倉司令官機(タックファルコン)にて着任する。
前回の『死刑! ウルトラ5兄弟』で、ウルトラマンエースが光の速さを超えることで「マイナス宇宙」に突入できたように、TACもまた光の速さを超えることができる「超光速ミサイルNo.7(ナンバーセブン)」を投入するのだ。
超光速ミサイルNo.7は、超獣ブロッケン編である第6話『変身超獣の謎を追え!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060611/p1)で、TACの兵器開発研究員・梶が「その速さは光速に迫り、4次元世界も覗ける可能性がある」と言及したTACの新型ロケットの延長線にある機体! だとして見たいのがマニア心理というものだ(笑)。
そして、その操縦者には我らが主人公・北斗星児(ほくと・せいじ)隊員が任命される。しかし、ゴルゴダ星の直前でアクシデントが発生してミサイル切り離し装置が故障してしまう! といった意地悪なストーリー展開となっていく! 地球へと帰還する「操縦席の部分」と「ミサイルの部分」が分離不可能となってしまったのだ!
「そのままゴルゴダ星に突っ込め!」と命令するTACの最高司令・高倉司令官と、ただちに地球に帰還することを命じる竜隊長。両者が激しく争う様子を無線で聞いていた北斗が放つセリフはこうだ。
「やめて下さい! どうせ、はじめから生きて帰るつもりはなかったんです!」
そして、ゴルゴダ星にたどり着いたエースが兄弟に向けて放つセリフはこうである。
「兄さんたち。私もここで兄さんたちと共に死のう!」
本来ならば、
「待っていてくれ兄さん! 必ずエースキラーを倒して兄さんたちを救ってみせる!」
などというイキのいいセリフを聞きたいところだ。だが、当時の市川が置かれた状況ではそれが許されなかったのだとする見方もある。ウルトラシリーズを書き進めていく中で、市川は正義と悪という二元論で物を見る見方に疑問を呈するようになっており、だからこそ自らを断罪するつもりで自分が描いてきたウルトラマンやウルトラセブンを十字架にはりつけ、最後に彼らと心中するような想いを北斗やエースに託したのだと……
シリーズ終盤である第48話『ベロクロンの復讐』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070402/p1)や最終回である第52話『明日(あす)のエースは君だ!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070429/p1)で『ウルトラマンA』を再び執筆してはいるものの、当時の市川としてはこの第14話を事実上の最終回として執筆したとする見立てである。
こう見ると、ウルトラ4兄弟の必殺ワザのエネルギーと武器――M87光線・スペシウム光線・エメリウム光線・ウルトラブレスレット――を移植された異次元超人エースキラーに散々痛めつけられるエースも、ウルトラ4兄弟の全エネルギーを与えられたことによってエースが放った新必殺技・スペースQによってエースキラーに勝利をおさめる場面も、まるでウルトラ兄弟たちの自殺行為を思わせる。ウルトラ4兄弟のエネルギーを与えられたエースキラーはまさにウルトラ兄弟の象徴であり、それがウルトラ5兄弟の必殺ワザの集大成とも呼ぶべきスペースQによって倒されるのだから。
エースキラーは実験台として、まず見た目も能力もエースそっくりに造られた「エースロボット」を相手にウルトラ4兄弟の必殺ワザを披露した!
名優・岸田森(きしだ・しん)のナレーションにもあるようにまさに凄惨な場面である。自分たちの必殺ワザによってエースが苦しむ様子は兄弟たちにしてみればとても見てはいられない光景であった。こうした苦しみをウルトラ兄弟たちは「正義」の名のもとにさまざまな怪獣や宇宙人に与えてきた。最後にエースキラーがウルトラ4兄弟の残存エネルギーも合わせたエースの最強必殺ワザ・スペースQで木っ端微塵に吹き飛ぶさまは、まさにウルトラ兄弟の「死刑」でもあったのだ。ウルトラシリーズを去る決意をした市川は、こともあろうにシリーズの世界観を否定するかのような作品を置き土産に残していったという分析の類いである……
先人たちの研究にはもちろん敬意を表している。しかし、以上は後年になってからの切通理作をはじめとする脚本家・市川森一研究を通じた色メガネを通じての鑑賞や、「勧善懲悪の否定」や「善悪の相対化」を過剰にありがたがる文脈で見れば……といったお話でもある。子供のころに本エピソードをこのように悲愴な話だと思って鑑賞していた人間はほとんどいなかったはずである。むしろ逆に、シリーズ屈指の一大娯楽活劇巨編の大傑作として捉えていたはずなのだ(笑)。
同人誌『橋本洋二大全集』(98年・森川由浩)において同人ライター・本間豊隆氏のインタビューが引き出してみせたように、第2期ウルトラシリーズをはじめTBSの60年後半~70年代の児童向けテレビドラマを中心に担当してきた橋本洋二プロデューサーが市川の発言を評していわく、「当時からそこまで考えていたかは怪しい。後付けのリクツではないのか?(大意)」という見立てもあって、そのような後年の市川の発言に対する相対化も必要だとは思うのだ。
ウルトラ4兄弟の光線エネルギーやウルトラブレスレットを吸収・強奪した超難敵にして、人型体型でスマートなカッコいい強敵・エースキラー! その姿は単なる各話単位の雑魚(ザコ)的なゲスト怪獣といったイメージではない。それらよりも格上で、正義のヒーローとも拮抗しそうなダークヒーローといった趣(おもむき)もある、ウルトラシリーズ初のヒーローと同格の敵キャラクターでもあったのだ。
――翌年の円谷特撮『ジャンボーグA(エース)』(73年)にも、人型体型のスマートな強敵・ジャンキラーやジャンキラーJr.(ジュニア)といったダークヒーロー的な強敵キャラクターが登場しており、ネーミングからも明らかにエースキラーから着想されたものだろう。これらも子供心にもカッコよくて、別格の強敵そうであり、実に印象深かった!――
このエースキラーの設定は、ウルトラ兄弟の「ネガ(陰画)」や「死刑」や「自殺」である……などといった、ムダに深読み的な意図から来たものではなく、むしろ逆に市川個人のもっとチャイルディッシュで純粋にして単純な発想が発露したものだとも思えるのだ。
すなわち、ウルトラ5兄弟に1体のみでもパワーバランス的に拮抗できる「強敵」という存在を構築するには……といったことから着想された、
●新マン(=帰ってきたウルトラマン=ウルトラマンジャック)の必殺武器・ウルトラブレスレット
●ウルトラセブンの必殺技・エメリウム光線のエネルギー
●初代ウルトラマンの必殺技・スペシウム光線のエネルギー
●ウルトラ兄弟の長男であるゾフィーの必殺技・M87光線のエネルギー
それらを、彼らの胸の中央にあるカラータイマーなどから吸引光線のかたちで強奪する! しかも、それらの超パワー、左手首にハメたウルトラブレスレットやウルトラ兄弟の必殺光線を自由自在に発射もできる!! そういった、人間ドラマや社会派テーマとは無関係な、なんとも少年漫画的な純粋パワーゲーム(!)の発想から構築されたのであっただろう、「エースキラー」という「悪の超人」の実に魅惑的な設定の数々!!
そして、エースキラーがエースロボットに対してトドメを刺した、初代ウルトラマンでいうところの八つ裂き光輪(ウルトラスラッシュ)のポーズで右腕を大きく振りかぶって右手から放った直線の光線というよりもピンク色の猛烈な電撃が、ウルトラ兄弟の長兄・ゾフィーの幻の必殺技・M87光線なのであった!
映画『ウルトラマン物語(ストーリー)』(84年・松竹・asin:B000H4W1CE)を除けば、2005年現在ではテレビシリーズで唯一、映像化されたM87光線でもある――今後、映像化されることがあるのならば、本話の光学合成に準拠してもらいたい(笑)――。
ウルトラ4兄弟の力を備えた強敵に苦戦するエースの描写も、「悲愴」だの「凄惨」だのといった深読み的な感慨ではなく、純粋に「ハラハラ、ドキドキ」といった感慨を子供たちに与えるためのものなのである。
その難敵を打ち破るために、その敵の力をも上回る力!
十字架上のウルトラ4兄弟のカラータイマーから放射された最後のエネルギーの残り火が、エースの頭頂部のトサカ部分の丸い空洞であるエネルギーホールに結集!
ウルトラ5兄弟のエネルギーが合成された最強必殺ワザ・スペースQで打ち負かす!!
このシークエンスは多分にご都合主義ではある――まだ、ウルトラ4兄弟にはエネルギーが残っていたのかよ!? 出し惜しみしていたのかよ!?(笑)――
しかし、こういった超必殺ワザであれば、ウルトラ4兄弟の力を併せ持った超強敵・エースキラーをも上回って、打ち負かせそうな「計量的な合理性」もある「合体攻撃」にはなるのだ。そして、カタルシス全開の大逆転劇として捉えることもやはりできるだろう――アクション演出的には尺が短くて粘りがないので、少々物足りないので、もう少しジックリ描いてほしかったものの(笑)――。
「ドラマ」や「テーマ」ではなく、「強敵・難敵を設定して、それをどのような方策で攻略するのか!?」といった、良い意味での子供っぽい発想から来たストーリー展開! これには純粋に燃えるものがあるのだ。
大人になってからの再視聴だと、本話の対エースキラー戦のシークエンスは、実際には意外にアッサリとしておりサラリと流されてしまっている短尺のシークエンスには感じられる。しかし、ここは多くのウルトラシリーズのファンとも同様に、子供のころにこのシーンに感じた絶大なるインパクトとその刷り込みこそを「心情的な真実」だったとしておきたい!
エースがスペースQを繰り出す場面では、『ウルトラセブン』(67年)の戦闘テーマのBGMが流れている――よく聴いてもらえればわかるのだが、実際には『セブン』では未使用のバージョンであったりもする(笑)――。しかし、ウルトラ4兄弟全員のエネルギーを集めた必殺ワザなのだから、セブンだけのイメージには限定されない、それらしい楽曲を用いてほしかった気もする。
もちろん「怪獣バトル」だけでなく、「人間ドラマ」面でも本エピソードは充実していた。ゴルゴダ星爆破を高倉司令官に命令されて、任務に赴くことになった北斗を隊員たちが気遣う描写はなんとも美しい。
これまで幾度となく北斗と対立してきたイヤなイヤなイヤな奴・山中隊員が高倉司令官の前で意外にも「私に行かせて下さい!」と主張する!
北斗隊員とふたりきりになったときには彼に気遣いの言葉さえかけて、「ミサイル発射間際に搭乗を交代しよう、責任は俺が持つ!」とも進言。
北斗の決意が固いと知るや、ミサイル発射当日の7月7日が北斗と夕子の誕生日であることから、竜隊長がバースデイケーキを注文していたことを打ち明けて、山中隊員の決してイヤな奴な面ばかりではない、ヒューマンな側面も見せてくれるのだ。
その竜隊長は北斗を思うあまりに、ミサイルの第一ロケット(操縦ブロック)の分離装置が故障しても特攻を命じる高倉司令官を殴りつける!!
このシーンの前後は、TAC隊員たち役者陣の細かい芝居も必見だ!
故障を知らせる北斗の通信に、最悪の事態が起きたとばかりに、何ともいえない心配そうな、顔をしかめる表情演技をする吉村隊員と兵器開発研究員の梶。
作戦室の通信席で北斗と交信する美川隊員をはさんで、対峙する竜隊長と高倉司令官。
「故障を知らせる北斗の通信」〜「特攻を命じる強硬な司令官の発言」〜「帰還を命じる隊長の発言」。
高倉司令官と竜隊長の対立に、両者の真ん中手前に着席している美川隊員は、「困惑」〜「悲痛」〜「かすかな笑み」と複雑に表情を変えていく。
今野隊員は高倉に近づき、背後で指をボキボキと鳴らしたりする(笑)。
夕子は尋常ではない様子で、高倉に「帰って下さい! 帰って下さい!!」と叫んでみせる!
隊員同士の対立や「脱出!」ばかりが語られがちなTACではある(笑)。しかし、
●第4話『3億年超獣出現!』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060528/p1)での、「美川隊員は責任を感じているんですよ」という山中隊員のセリフ
●第11話『超獣は10人の女?』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060731/p1)での、夕子を思うあまりに北斗に食ってかかる今野隊員
などなど、実は他の隊員をかばったりフォローしたりする描写がよく見るとけっこうあるのだ。本話はその集大成といった趣であり、チームの結束を固めて『A』を去っていった点に関しては、市川はメインライターとしての責務を果たしていたといえるだろう。
エースキラーを辛うじて倒したエースは地球へと帰還するや、超獣バラバとのリベンジ戦に挑んだ!
右手自体が鉄球ハンマー、左手がカマ、頭頂部に短剣を頂いた超獣バラバ!
エースはその短剣を、真剣白刃取りにして投げ返して刺した!
次に、刺さった短剣をチョップで宙高くに飛ばして、右手で受けとめて、左手に逆手で持ち替える際のエースのポーズも超絶カッコいい!
その技名は、放映当時の学年誌『小学一年生』72年9月号ふろく『怪獣ひみつ百科』によれば、「バラバ返し」だそうだ。
バラバの左右の腕は、のちに次作『ウルトラマンタロウ』第40話『ウルトラ兄弟を超えていけ!』に登場する、あまたのウルトラ怪獣の怨念が合体した合体怪獣タイラントの両腕に転生を遂げている――ただし、腕の左右は反転していた――。
ラストでは、バラバに兄を殺されてしまった少年にもきちんと回収を与えている。今回の事件が解決後に「これ、北斗さんに……」と、その恨みも晴れたのか、TAC本部の作戦室に持ってきた「七夕(たなばた)飾り」には、その当時にブルマアクから発売されていたソフビ人形が何体かぶら下がっている。しかも、そこにはウルトラセブンの人形が3つもあった! やはり七夕だけに「7月7日」ということで 「♪ セブン! セブン! セブン!!」といったところか?(……たぶん違う・笑)
本話のウルトラマンエースへの変身シーンも超絶名シーンであった! 地球のTAC本部の作戦室で通信している南夕子と、遠く離れた「マイナス宇宙」へ向かっている超光速ミサイル№7の中にいる北斗星児。モニター越しのウルトラタッチで、光年の壁を越えた奇跡の変身を遂げるのだ!
しかも、北斗搭乗のミサイル側では地球側からの画像受信ができないが(音声受信のみ可能)、夕子には北斗の映像が観えているという「非対称性」が、ロマンチックでふるっている。神秘のヒーローがまだまだ隠し持っていた、物理的な限界まで超えた「神」にも近き圧倒的な超越性のカタルシス! および、それへの憧憬感覚!
「私が見える?」
「いや、こちらからは見えない」
「私は見てるわ」
「夕子!」
「星司さん!」
(ふたりが指にハメたウルトラリングが効果音とともにキラめく!)
「星司さん、手を出して。早く出して星司さん!」
無言でタッチするや、北斗側にウルトラマンエースが出現!!
●TAC隊員たちといっしょにいるときは「北斗隊員」
●北斗とふたりでいるときは「星司さん」
周囲の状況に応じて、実は呼び分けるていた南夕子もとってもラブリー。
実はこの呼び方は各話で一貫していた。ラストシーンを観るかぎり、北斗は南の好意には鈍感であるあたり、70年代末期以降~21世紀の美少女アニメなどにも見られる、ラブコメ作品の鉄板(てっぱん)をも先取りしていた(笑)。
ラストでふたりが星空を見上げながら七夕の伝説を語り、「わたしたちはなんなのかしら?」と夕子がつぶやいたりする点は、まさに七夕の日に放映(72年7月7日に放映)されるにふさわしい、「男女合体変身」を素材に据えることで必然的にハラまれてしまっていた「恋愛ドラマ」的な要素でもある。
こうした点を見るかぎりでも、『A』のシリーズ前半のウリであった「男女合体変身」という設定は、空中で互いに向き合って1回転してからの合体変身! といったビジュアル的インパクトも実によかったのだが、地上で互いに駆け寄っての接触変身! に変更されても、それもまた子供たちにも「ごっこ遊び」でマネができるものとなったことだし、変身に至るまでの「制限ルール」付きの「サスペンス」や「恋情要素」も発生させられるのだから、個人的には排除する必要はなかったし、正解ですらあったとも考えている。
<こだわりコーナー>
*本話にかぎって、北斗とヤプールは「新ウルトラマン」(帰ってきたウルトラマン)のことを「ウルトラマン2世」と呼称している。「新しいウルトラマン」やら「新マン」やらと好き勝手に呼ばれているのが市川としては我慢がならなかったのであろうか? まぁ、我々のような細かいことに過剰にこだわるおケツの穴の小さいマニア人種でもない、当時の大のオトナがさすがにそんな小者チックなことはないだろう(笑)。「マニア個人の想い」を「著名人の想い」でもある! などと勝手に仮託して語ってしまうような振る舞いは、「権威主義」とそれの他人への強要以外のなにものでもない唾棄すべき思考だろう(汗)。
ちなみに、第3期ウルトラシリーズの筆頭を飾ったテレビアニメシリーズ『ザ★ウルトラマン』(79年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971117/p1)の企画の初期時点でのタイトルは、『ウルトラマンIII(3世)』であったそうだ。このネーミングも、本話のウルトラマン二世から採られたのではなかろうか?
ただ、「2世」というと、まるで初代ウルトラマンの息子のようで違和感がなくもない(笑)。しかし、少なくとも現在の公式名称である「ウルトラマンジャック」よりかは、他のウルトラマンとのネーミングルール的には不統一になるものの、シャレているとは個人的には思うのだ。
――幼少時から「ジャック」の名称に親しんでいる若き世代も、もう20年以上もの長き世代にわたって大勢存在することも確認している。よって、今さらこの「ジャック」の呼称を否定したり、ネット界隈の一部でよく見られるように、一部の年長世代が「ジャック」の呼称を用いる若い世代を弾圧するかのような封建的な振る舞いをする気は毛頭ないことはくれぐれも強調しておきたい。それでは第1期ウルトラ至上主義者たちがしてきた第2期ウルトラ&第3期ウルトラシリーズに対する弾圧とも同じことになってしまうからだ(爆)――
*それよりもむしろ、北斗がウルトラ兄弟の故郷を「M78星雲」ではなく「M87星雲」と呼んでいることの方が問題が大きい(笑)。ゾフィーの必殺ワザである「M87光線」がセリフで何度か出てくるのでシナリオでつい誤表記してしまったのか? それとも、同じ理由でシナリオ印刷の写植屋さんが活字を拾い間違えてしまったのか? それとも、北斗役の高峰圭二がアフレコの際に読み間違えたのか? 脚本の市川森一が初代『ウルトラマン』では元々は「M78星雲」ではなく「M87星雲」だったが、シナリオ印刷で誤植されたゆえだというウラ事情を知っていて、意図的に「M87星雲」に戻そうとしていたとか?(汗) いずれにしても、幼児のころはともかく、小学生以降の再放送での鑑賞では違和感があった(笑)。
*本話では「ウルトラ兄弟」を「ウルトラ『の』星」などの「文学的表現」に準じたのか、ナレーションも北斗隊員も「の」付きの「ウルトラの兄弟」とも呼んでいる。このような「ウルトラの戦士」や「ウルトラの力」や「ウルトラの光」といった、やや「文学的」な風情のある言い回しは、後年のウルトラシリーズにもすべてではないが時折り継承されている。「SF」的な合理性・統一性には欠けてしまうかもしれないが、「ウルトラ一族」と他の「宇宙人種族」との「文芸」的な「差別化」や「特権性」にはなっていたとは思うのだ。
*本話では「マイナス宇宙」のことを「裏宇宙」とも呼称している。これはつまり、電荷が逆である「反物質」と「物質」が接触すると相殺しあって大爆発~消滅が起きてしまうという「反物質宇宙」のことではないのだろう。「空間」的にはこの「3次元世界の大宇宙空間」の全体が、布団を折りたたんだように「U字側に湾曲」しており、その「湾曲部分」の「布団が向かい合った」ような部分、もしくは「布団のウラ側に当たる」ような「大宇宙の半分」なり「大宇宙の片側の空間部分」といったような意味である! と解釈してみせたいところだ。当時のつくり手はそんなことまで考えてはいなかっただろうが(笑)。
*「放射能の雨」に打たれた北斗と南は、TAC基地内で「人工太陽光線」を照射されて回復する。こんな便利なものが開発されたら本当にイイのにね。
*高倉司令官を演じるのは、故・山形勲(やまがた・いさお。1915〜96年)。テレビ時代劇の悪役としても有名だが、善玉役としての大役もあった。代表作は池波正太郎の名作『剣客商売(けんかく・しょうばい)』(73年・加藤剛主演版)の父親役であり剣豪でもあった副主人公・秋山小兵衛(あきやま・こへえ)だ。『水戸黄門(みとこうもん)』第1〜第3部(69〜71年)と第14部〜第18部(83〜88年)における、五代将軍・徳川綱吉(とくがわ・つなよし)の側用人(そばようにん)でもあった歴史上の有名人・柳沢吉保(やなぎさわ・よしやす)役でも印象的だ。
*高倉司令官は完全に一面的な悪役として描写されてしまっている。TAC隊員たちの美しい結束を描くためには、そして尺の都合や本話では描くべき要素が多いこともあって、下手に彼の人間性を多面的にその「善性」も含めて描くとストーリーが煩雑になってしまうので、これはこれでよいのだろう。
ただし、やはり高倉司令官を演じた山形勲と同様に、テレビ時代劇の悪役役者として有名な故・神田隆(1918〜86年)が演じて、名字も同じであった、『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)の厳格な高倉司令長官などは、『A』の高倉長官とは異なる描写が与えられている。
第13話『大爆発! 捨て身の宇宙人ふたり』で初登場したあと、第36話『飛べ! レオ兄弟 宇宙基地を救え!』で再登場した際には「家族想い」の面を、第39話『レオ兄弟ウルトラ兄弟 勝利の時』で再々登場して地球に接近する惑星を爆破する命令を下した際には「あの星がウルトラの星でないことを、私も祈っているのだ」というセリフを与えることで、その「善性」をも滲み出させる多面的な描写が施されていたのだった――『レオ』のこれらの3話とも、脚本は田口成光氏であった――。
*視聴率17.1%
かくして、メインライターであったハズの市川森一は『A』を去った。以後の作風は微妙に変化を遂げていく。異色作・怪作も生まれていくが、そこには少々の問題点や欠点はあったものの、今まで特撮マニア間で悪しざまに云われていたほどの愚作では決してないのだ! 今になって観返してみると、むしろドラマ的・テーマ的には挑戦作や良作も多いのだ! そのあたりへの再評価としての言及は、次号(冬コミ『2006年号』)に譲らせていただきたい。(#1〜13評は初出・夏コミ『2006年準備号』(05年8月発行))
<#1〜13評・参考文献>
*My First BIG『ウルトラマンA 完全復刻版』(著・内山まもる・小学館 04年8月6日発行・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210124/p1)
*タツミムック『僕らのウルトラマンA』(ISBN:4886415180・辰巳出版・00年7月10日発行)
*『ウルトラマン画報〜光の戦士三十五年の歩み〜上巻』(ISBN:4812408881・竹書房・02年10月4日発行)
*ほか
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