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ウルトラマンエース4話「3億年超獣出現!」 ~漫画と生きた化石が、陰鬱な電波的妄執で実体化!

『ウルトラマンエース』#3「燃えろ! 超獣地獄」 ~一角超獣バキシムと過疎村&TAC基地で大攻防の佳作!
『ウルトラマンエース』#5「大蟻超獣対ウルトラ兄弟」 ~ゾフィー助っ人参戦・大活躍!
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ウルトラマンエース』4話「3億年超獣出現!」 ~漫画と生きた化石が、陰鬱な電波的妄執で実体化!

(脚本・市川森一 監督・山際永三 特殊技術・佐川和夫)
(文・久保達也)


 今では防衛組織・TAC(タック)の隊員である美川のり子隊員に、中学生のころから一方的に好意を寄せ続ける漫画家・久里虫太郎(くり・むしたろう)。彼は同窓会を装って美川隊員を自宅の怪しい洋館に招き入れた。
 そして、卒業式の日に渡そうとして突き返されたというラブレターを再び渡したり、挙句の果てに睡眠薬入りのジュースで彼女を眠らせて監禁したり! しかも、監禁したその一室には骸(むくろ)と化した先客もいて! 90年代後半ごろからストーカーとして命名されて社会問題となった行動に類した偏執的な行動を見せる。


 九里虫太郎。その名は戦前の推理小説家であり、日本の推理小説三大奇書のひとつ『黒死館殺人事件』(1934(昭和9)年)などで有名な小栗虫太郎おぐり・むしたろう)から引用したものだろう。


 本話の作風自体は子供でも楽しめるだろうが、中高生や大人になってからの方がより楽しめることだろう。


 美川隊員に手渡すために自ら考案し、三日間も学校を休んで描き続けた怪魚超獣ガランが、久里が執筆する漫画のとおりに暴れ続けるという描写は、テレビの前の子供や視聴者の興味を惹くには充分すぎるほどの特異さがあった。


九里「中学時代は劣等生もいいとこだったのにな」
九里「美人で秀才の美川のり子くん。僕みたいな劣等生には声もかけてもらえなかった」
美川「ひがみっぽいとこは、むかしと同じだけど(笑)」
美川「いいえ。じゃ、私も中学時代の気持ちに帰って、改めて(ラブレターを)お受けいたしますわ」


 大人の態度であくまで明るく笑顔で切り返す、あるいは根っから陰の世界とは無縁なのかもしれない美川隊員。永遠に埋まらないかもしれないギャップに、九里の方に明らかに近い我々オタク視聴者は、世の無常・非情を感じるかもしれない(笑)。九里は同じく人付き合いが不得手な、前作『帰ってきたウルトラマン』(71年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20230402/p1)第34話『許されざるいのち』(脚本・石堂淑朗(いしどう・としろう))に登場した動植物怪獣レオゴンの産みの親であり、主人公こと郷秀樹の幼友達でもあった水野青年の発展形とも捉えることができるだろう。


 とはいえ、まだなんとか正気を保っていた水野青年とは異なり、70年代に流行した長髪痩身でクールな低音ボイスの九里は、完全にアチラ側の世界へ行ってしまっている。髪をかきあげ、美川隊員の肩にいやらしくさわって、指でアゴをはさんでこちらに向けさせて…… 淡々とした陰気な性格演技もまた怖い。


 久里役の清水紘治(しみず・こうじ)のあまりに病的な演技は、米国の名作カルト映画『コレクター』(65年)の主役や(テレビ放映の際は往年のアイドル歌手・沢田研二が吹替を担当!)、大人気テレビドラマであったTBS「金曜ドラマ」枠の『誰にも言えない』(93年・TBS)に登場した佐野史郎(さの・しろう)が演じる麻利夫(まりお)などを思わせる毒々しさがある。


 正直、メインターゲットである子供たちには刺激が強過ぎると思われる。しかし、「人間を滅ぼすのは人間だ」というヤプールのセリフどおりで、人間の欲望・妄想・執念といった、いわば「マイナスの精神エネルギー」が怪獣化するといった設定は、ややマイルドになりながらも後年の『ウルトラマン80(エイティ)』(80年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971121/p1)などにも立派に継承されて、女児向けアニメ『美少女戦士セーラームーン』(92年)や『プリキュア』シリーズ(04年~)などもこの類いであるし、今ではジャンル作品における定番と化した感もあるのだ。人間の心理それ自体を最大の「怪奇」として描いた、往年の円谷プロ製作のテレビドラマ『怪奇大作戦』(68年)にその源流をたどることもできるだろう。


 美しい星を環境汚染・公害で汚してしまう人間よりも、自分こそ地球の支配者としてふさわしいと考える侵略者が登場する『宇宙猿人ゴリ』(→『スペクトルマン』71年)同様に、高度成長期が陰りを見せて、素朴で楽観的な人間賛歌がやりにくくなってきた当時ならではの、シビアで退廃的な人物描写だともいえるだろう。


 九里を演じた清水紘治は、『ウルトラマンダイナ』(97年)第38話『怪獣戯曲』(脚本・村井さだゆき 監督・実相寺昭雄http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971209/p1)でも、鳴海浩也(なるみ・ひろや)役で怪演。


(後日付記:清水紘治は、最新作『ウルトラマンメビウス』(06年)終盤でも、復活した異次元人ヤプールの人間体(!)として3話にわたって連続で登場していた(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20070408/p1)。ウルトラシリーズの歴史を踏まえたナイスキャスティングでもある。同作の裏設定を披露している『WEB(ウェブ)メビナビ』によれば、ヤプールは本話の九里虫太郎をモデルに変身したらしいとのことだそうだ・笑)



 九里いわく「悪魔からテレパシーをもらっている」とも語っている。「テレパシー」とは今でいう「電波」であり「幻聴」に近いだろう。ちなみに、現実社会でも「電波が聞こえる」と云って犯罪をしでかした事件が起きている。それは『A』のはるか後年の1985年のことであった。その後、「電波」は「幻聴」や、ややアブナいものを意味する語句としても流通するようになった。


 そして、この「電波」。超獣ガランとの初戦では、戦闘中に突如としてTACの戦闘機の操縦や銃器の使用ができなくなるのだ!


 まさにこの「電波」による遠隔操作が劇中では疑われたが、各種計器に物理的な異常はない! そこで、「精神感応・テレパシー・霊の力」(劇中のセリフより)の類いによる妨害だろうと竜隊長は推測する! 「電波」に類似するも、「電波」を超越したものとしての「念波」、つまりはヤプールの念力・霊力・テレパシー(すべて同義!)が、ハイテク電波機器にも影響を及ぼしているだろうあたりがまた、SF的でありながらオカルト的でもあって、両者のイイとこ取りの描写なのだ。


 竜隊長が推測したとおりで、本話のヤプールは物理的な力押しの攻撃ばかりではなく、人間の心にひそむ底知れない欲望と執念・妄想の力を利用することに目をつけたのだ。九里の妄想は漫画として表現されると、次々と現実化していく……


 九里の漫画原稿は、当時の小学館学年誌『小学三年生』と『小学館BOOK(ブック)』(70~74年。のちの『てれびくん』(76年~)の祖形)に、『ウルトラマンA』のコミカライズ連載を行っていた林ひさお氏の筆によるものだ。



 美川隊員が着用する光沢のある緑色のワンピースも、超ミニスカートとなっている。世代人はご記憶のことと思うが、1960年末期から70年代前半にかけては、女児も含めてミニスカートが大流行していたのだ。彼女が久里邸の階段を降りるシーンでは、もうちょっとで見えそうで見えないのがなんとももどかしい(笑)。DVD『ウルトラマンA』Vol.11(asin:B00024JJJ2)の特典映像「TAC同窓会」によれば、美川隊員が『A』劇中で使用したオシャレな私服のほとんどは、なんと美川隊員こと西恵子女史の父君のお手製だったそうである。父君のご職業はテーラー洋服屋)だったそうだ。



 九里邸から救出されて、今回の任務への参加は危険だからと謹慎を命じられてしまった美川隊員。しかし、涙目で北斗と南に訴えて、戦闘機・タックアローで命令違反の出撃してしまうのだ!


 あの厳しい鬼軍曹キャラである山中隊員も「美川隊員は責任を感じているのです。超獣が暴れるのは自分のせいだと思って……」と適格な人間観察を示して、彼女をかばっている。TACのメンバーは、北斗隊員には厳しかったのでマニア間では悪しざまに云われることも多いのだが(笑)、のちの第14話ほかにもいえることなのだけど、意外と人の心がわかる人たちでヒューマンな描写も多いのだ。


 話は変わって、TACの戦闘シーンでは、今野隊員が新たにバズーカ状の新兵器を用いている。



 超獣ガランも、前話である第3話『燃えろ! 超獣地獄』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060521/p1)の一角超獣バキシム同様に青空を突き破って次元の裂け目から登場している! マニア諸氏も同様の想いだろうが、この青空を破って超獣が出現する特撮描写は、本作『ウルトラマンA』の各話の超獣出現シーンで統一してほしかったと改めて思うのだ。


 怪魚超獣ガランの素体は、石灰岩の中から発見された古生代後期のデボン紀の魚類生物だとされていた。「生きた化石」といった概念を確信犯で誤用した(笑)、「化石」ではなく深い「昏睡」状態にあった「魚類」を、生物科学センターへの輸送中にヤプールが強奪。改造して仕立て上げたのがガランだったのだ。
 全身が「魚のウロコ」に覆われた緑色の巨体。80年代中盤以降の特撮ジャンル作品における怪獣・怪人ならばともかく、当時としてはまだ珍しかった、振り回すことで戦闘時の演技や表情をつけやすい、やけに長大な両腕が強く印象に残るデザイン&造形となっている。


 前話における広大なセットをロング(遠景)で引いて見せていた特撮演出とは異なり、本話での特撮監督・佐川和夫は、工業地帯の「建造物」や「高速道路の高架」で挟んだアングルの中に超獣ガランを配置してみせている、いわゆる平成『ガメラ』シリーズ的な特撮演出の手法を主に取っている。とはいえ、この手法もまた平成『ガメラ』が初ではなく、昭和のウルトラシリーズにも時折りに見られたアングルなので、この手のシーンを安易にはるか後世の平成『ガメラ』的だと評することには異論もあるけれど(笑)。


 九里虫太郎が消しゴムで漫画原稿のガランを消していくと、現実のガランも消しゴムでキュッキュッと左右に消したように消えていく特撮映像も実に見事であった。ちなみに、次作『ウルトラマンタロウ』(73年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)第41話『母の願い 真冬の桜吹雪!』での落書き怪獣ゴンゴロスの回でも、同様の特撮演出が見られる(特撮監督は高橋勝だったが)。


 エースの胸の中央にあるカラータイマーから放った光線・タイマーショットでガランがその右腕を吹き飛ばされるや、久里も右腕を押さえて苦しみ出す! 額のビームランプから一条の光線・パンチレーザーを浴びると、久里の身体にも火が付く! 両腕を大きく振るってL字型に組んで発するトドメのメタリウム光線でガランが大爆発すると、久里の自宅である洋館も炎上していく……



 九里邸に囚われた美川隊員の救出では、『A』ではやや影がウスい吉村隊員が大活躍している!


 本話のラストでも、九里からもらったラブレター(中身は超獣ガランのイラスト・汗)を見つめて苦悩する美川隊員にライターを手渡して、そして続けて灰皿を差し出すという、彼女の気持ちを斟酌して、実に的確に「彼女が今すべき行動」に導いていくというオイシい役回りも務めていた。これによって、吉村隊員の人物像描写と彼の見せ場も与えているのだ。


 燃えていく九里のラブレター…… その炎と燃えカスを見つめて、かろうじて区切りを付けて清々とした気持ちとなれたであろう美川隊員の美しい笑顔で、本エピソードはなんとかハッピーエンドへとクロージングしていく。



 ちなみに、山際監督は敬虔なクリスチャンとしてのボランティアで、刑務所を出所した者の身元引受人となる活動を続けている。この2005年4月には「獄中者の家族と友人の会」を設立している。そんな彼でさえ、久里に対しては断罪するしかなかったようである。


 ……と一応の結末らしき「美談」にして締めたかったところだが、90年代後半の各種の週刊誌でも報道されてきたとおりで、「彼は冤罪だ」と長年の間、氏が擁護してきて、証拠も不十分だとして裁判では無罪までをも勝ち取れた連続殺人事件の容疑者・小野悦男(おの・えつお)なる人物に、現行犯での犯罪が発覚!(汗) 家宅捜索の末に遺体までもが発見されて、実は彼こそが犯罪者だったと判明したことがあったのだ。


 その際の週刊誌の取材に答えて云わく、氏は小野悦男を断罪するでもなく、彼の毒牙にかかった被害者たちの遺族に詫びるでもなく、自身の活動を相対視するでもなく、あくまでも犯罪者個人ではなく社会が悪い! 個人に犯罪をさせてしまう社会こそが悪いのだ! と主張したことで、揶揄的に報道されていたことを覚えている世代人もいることだろう。


 自主映画や芸術映画ならぬ商業作品である以上は、作品とスタッフの思想をイコールで観てしまってもいけない。その思想の是非の判定もまたマニア各位が各々で判断すべき事項なのだが、実にデリケートで難しいものをハラんだ問題ではある。



<こだわりコーナー>


*「ウルトラタッチ」「ライダータッチ」「ストレンジタッチ」に続いて、第4の変身パターン「フライングタッチ!」も登場! 上と下から交差して互いに空中前転しながら、北斗と南が男女合体変身するパターンだ。幼児のころはともかく小学生にもなれば、第3話以上に変身の瞬間が周囲の人々に見られてしまって、正体がバレてしまいそうなシーケンスであると思えてしまうことだろうが、好意的に脳内補完することとしよう。


 なお、変身シーンにも一工夫を加えて、本作におけるサスペンスや見せ場のひとつにしようとしたのは、本話の脚本家でもあり『A』のメインライターでもあった市川森一(いちかわ・しんいち)の企画書段階からのアイデアでもある。文句があるなら、市川森一先生に云ってくれ!(笑)


*視聴率16.2%


(了)



付記


 『ウルトラマンA』第4話『3億年超獣出現!』評の中で触れた映画『コレクター』も紹介しておこう。


『コレクター』(1965年・アメリカ)


監督 ウイリアム・ワイラー
原作 ジョン・ファウルズ
脚本 スタンリー・マン、ジョン・コーン
音楽 モーリス・ジャール
出演 テレンス・スタンプサマンサ・エッガー、モーリス・ダリモア、モナ・ウォッシュボーン


ストーリー


 蝶の収集を生きがいとする若い銀行員フレディ。ある日フットボールの賭けで大金を入手した彼はもっと美しいものを収集しようと企て、人里離れた一軒家を手に入れる。若く美しい女性ミランダに麻酔をかがせてその別荘に閉じ込めるフレディだったが、何をするでもなく、ただじっと観察を続ける……


 「ストーカー」なる言葉が一般化するずっと以前からこうした輩(やから)が連綿と存在してきたことは事実である。一軒家や麻酔といったアイテムなど、『A』第4話の描写はこの作品に強く影響を受けていると思われる。蝶の収集は、やはり大人気テレビドラマだったTBS「金曜ドラマ」枠の『ずっとあなたが好きだった』(92年・TBS・[asin:B0001X9BN8][asin:B0006FGWT2])に登場した冬彦さん(演・佐野史郎)の趣味としても流用されていると思われる。2005年9月28日にソニー・ピクチャーズエンタテインメントから2千円の低価格でDVD([asin:B000ALVXSW][asin:B0002J5766][asin:B000JVRTHM])が発売されているので、興味がおありの方はぜひに。



(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2006年号』(05年12月30日発行)『ウルトラマンA』再評価・全話評大特集より抜粋)


『假面特攻隊2006年号』「ウルトラマンエース」#4関係記事の縮小コピー収録一覧
朝日新聞 2005年4月3日(日) 受刑者家族の会設立へ監獄法見直し「要望、当局に伝えたい」 ~「獄中者の家族と友人の会」呼びかけ人は山際永三監督
・『小学一年生』72年9月号ふろく「小一怪獣ひみつ百科」 ~美川隊員・西恵子のサイン付(笑)2005.2.2


[関連記事] ~『エース』全話評・主要記事!

ウルトラマンA 再評価・全話評!」 ~序文

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060513/p1

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ウルトラマンエース』#3「燃えろ! 超獣地獄」 ~一角超獣バキシムと過疎村&TAC基地で大攻防の佳作!

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ウルトラマンエース』#4「3億年超獣出現!」 ~漫画と生きた化石が、陰鬱な電波的妄執で実体化!

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060528/p1(当該記事)

ウルトラマンエース』#5「大蟻超獣対ウルトラ兄弟」 ~ゾフィー助っ人参戦・大活躍!

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#ウルトラマンA #ウルトラマンA51周年 #ガラン #3億年超獣出現 #清水紘治 #九里虫太郎



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