「ウルトラマンエース」総論
「ウルトラマンA 再評価・全話評!」 〜全記事見出し一覧
(脚本・久保田圭司 監督・古川卓巳 特殊技術・高野宏一)
(文・久保達也)
9才になっても寝小便が治らないことを級友にからかわれる雪夫はサッカーの仲間に加わりたいがために級友たちにそそのかされ、防衛組織・TAC(タック)に
「超獣ドリームギラスが出た!」
というニセの通報電話をかけてしまう。
現在においても絶えることのない典型的ないじめのパターンであるが、車両タックパンサーで駆けつけ、全く異常がないことを知った北斗は「被害者」である雪夫を
「バカモン!」
と怒鳴りつけてしまう(そのあいだに級友たちはコソコソと逃げ出してしまうが、よくあったよなこういうこと……)。
ダンから雪夫がいじめられている件を聞かされた北斗は「なさけねえ奴だなあ」などと口にするが、いじめの原因が寝小便であることを知り、自身も同様に9才まで寝小便に悩まされていたことから雪夫に対する態度が急変(笑)。
「寝小便はちっとも恥ずかしいことじゃない。それよりもウソをついたり、友達の悪口を云ったりすることの方がもっと恥ずかしいことなんだ」
と北斗は雪夫を諭(さと)し、胸にエースのバッジを付けてあげる。
北斗の「寝小便なんかに負けずに、どこまでも頑張るんだ!」と励ましを受けた雪夫だが、またしても前夜同様、夢幻超獣ドリームギラスに追いかけられて全身に水をかけられるという夢を見てしまい、案の定寝小便をしてしまった。布団に残った寝小便の形跡はまるで超獣のような形をしていた。
夢の話をダンに話した雪夫は夢の中に出てくる場所が昨年遠足で行った実在の場所であることをダンに聞かされ、電車で現地に向かう。すると夢と同じ湖からドリームギラスが出現! 航空機二機を撃墜し、湖の中に姿を消したしまった。
雪夫はTACに通報するが、レーダーに反応はなく、ニセの通報の一件があることから隊員たちは信用しない。雪夫を信じた北斗は単身出動するが超獣の気配はまるでなかった。警察からも事故の原因は空中衝突であるとの連絡がTACに入った。
裏切られたと誤解した北斗は雪夫に
「もう友達じゃない!」
と雪夫からバッジを取り上げてしまうのだ!
第29話『ウルトラ6番目の弟』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061120/p1)評でもふれたことを繰り返すが、前作『帰ってきたウルトラマン』(71年)第15話『怪獣少年の復讐』でもゲスト少年・史郎の父が運転する電車が怪獣エレドータスに転覆させられたという話(劇中内実話)に対して、主人公・郷秀樹が
「ウソをつくな!」
と史郎を平手打ちしてしまうシーンがある(!)。
子供の味方・人気者である変身ヒーローがあろうことか無謬ではなく、まだ未完成で発展途上の若者・青年に過ぎず、子供を傷つけてしまう場面を描くことによってドラマ性を高めて、また子供と正面から真剣に向き合うことがいかに難しいかをこれらの作品では問いかけているのである
(もちろん失態があっても、彼らは事態を改善しようと向き合い続けていく……。まあ子供向け娯楽活劇番組としては、やりすぎで重たすぎるという欠点もあるかもしれないが)。
その夜、北斗はダンから「にいちゃん厳しすぎるよ」などと責められる。普段は「北斗さん」と呼ぶダンが今回に限っては北斗を「にいちゃん」と呼んでいるのだ。
もちろん北斗はダンを「ウルトラ6番目の弟」扱いしているのだからダンに「にいちゃん」呼ばわりされても不思議はないのだが、これには大いなる前ふりとしての意図があったのだ。
ダンが部屋から出ていった直後、北斗はウルトラの星から
「弟よ、よく聞け。おまえは過ちを犯したのだ。信じるべきものを信じず、少年の心を深く傷付けてしまったのだ。おまえは償(つぐな)わなければならない」
という警告を受ける。その声の主はエースの「にいちゃん」である、ウルトラ兄弟の長男・ゾフィだったのだ!
ゾフィの警告から雪夫の話が真実であったのかもしれないと考え直した北斗は雪夫に謝罪するがときは既に遅かった。北斗に事実を否定された雪夫はショックから口がきけなくなってしまい、北斗はダンからも「にいちゃんのせいだ!」と責められてしまうのだ……
脚本や監督は異なるものの、今回は前回の第34話『海の虹に超獣が踊る』(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20061223/p1)と同様のテーマを扱っていることから前後編のような趣が感じられる。前回は大人にウソをつかれたことからひきこもってしまう少年を描いており、今回は大人に真実を否定されたことから口がきけなくなる少年を描いているのだ。
大人との信頼関係が崩れた子供の結末がどうなってしまうのか、この両作は問題提起を投げかけており、近年なにかと話題にされる少年問題の根本的原因が既にここで提示されているのだ。今回は一見色モノ的印象を受けるものの、実は極めて重い社会派テーマを扱った作品でもあるのだ。
また前回において竜隊長は「子供が生きる力を失おうとしているのだとしたら、それは超獣以上の脅威だ」と語っていたが、今回北斗は雪夫に「超獣以上の脅威」を与えてしまったことになる。「超獣以上の脅威」が現れたのだから、まさにウルトラ兄弟の登場も必然的に描かれることになるわけである。
雪夫に生きる力を与えるため、エースはドリームギラスに敢然と立ち向かう。雪夫が寝小便という水に苦しめられたのと同様に、エースが実は水中戦が苦手で湖底での戦いに苦戦する様子が描かれているのがうまい。
超獣と「超獣以上の脅威」の両方に苦しめられるエースを、ゾフィは湖の水をウルトラマジックレイで蒸発させてこれを助けた。エースはメタリウム光線で超獣と「超獣以上の脅威」に見事に打ち勝ったのである!
本来は深刻なテーマが本編と特撮を巧みに融合させてサラリとした仕上がりになっているのが見事である。同じ悪夢でも『ウルトラマンマックス』(05年)第22話『胡蝶の夢(こちょうのゆめ)』みたいにネタに苦しむ脚本家の悪夢ではねえ。テーマも娯楽性も両方ないわけだし、本当にただの色モノだ(笑・詳細は本誌2006年号『マックス』評(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20060315/p1)にて)。
<こだわりコーナー>
*ブルマアクの怪獣ソフビ・超獣バキシムや超獣アリブンタをはじめ、雪夫の部屋はマニアがよだれを垂らすような「お宝」グッズで埋めつくされているが、壁にはられている『怪獣ジャンボスコープ』(71年・出版社不詳。『ウルトラQ』(66年)から『帰ってきたウルトラマン』(71年)初期までに登場した怪獣100匹が市街地で大暴れする様子を描いた、絵巻物のようなジャンボポスターである)は、05年9月に小学館から発売された『ウルトラマンDNA』Vol.4(ISBN:4091106730)の巻頭付録として復刻されている。
*劇中では「ワッペン」と称されているエースの缶バッジであるが、小学館の学習雑誌で頒布されていた読者サービスである怪獣バッジを見てもわかるように当時はバッジといえば金属製のものが主体であり、このバッジは当時の市販品であるとは思えず、この回のために用意されたものかと思われる。
*TAC本部でコーヒーを入れてくれた美川隊員に対し、今野隊員が
「美川隊員、いい嫁さんになれますよ!」
などとからかったことから、美川は照れて
「まあ〜、ヤな人!」
と云って今野を突き飛ばす(それが原因で北斗の尻の部分にコーヒーのシミができ(笑)、北斗が寝小便のことを思い出すあたりがうまい! ……TACチームのアットホームな心地よい描写だなあ)。
美川を演じた西恵子氏は本当に「いい嫁さん」になってしまわれたようで……現在彼女が喫茶店を経営している事実をもこのシーンは暗示しております……
*古川卓己(ふるかわ・たくみ)監督は日活映画出身で、本項執筆の05年現在は東京都知事の石原慎太郎原作の映画『太陽の季節』(56年)などを担当した大ベテラン。TV時代劇『鬼平犯科帖』(69年)、『右門捕物帖』(69年)、『大忠臣蔵』(71年)なども監督した御仁。
*脚本の久保田圭司氏は、『A』と同時期の大ヒットTVアニメ『科学忍者隊ガッチャマン』(72年)をはじめとするあたまのタツノコプロのTVアニメや、TV時代劇『大江戸捜査網』(70〜84年)などで有名。
特撮では『アクマイザー3(スリー)』(75年)、『宇宙刑事シャリバン』(83年)。
円谷プロ作品でも、TVアニメ『ウルトラマンキッズのことわざ物語』(86年)、『ウルトラマンキッズ 母をたずねて3000万光年』(91年) に参加している。
*視聴率22.6%
各種ウルトラ関連書籍で『A』後半に登場する色モノ的超獣の図版を見ただけで作品自体を食わず嫌いにしている皆様も多いのではないでしょうか。今後も騒音超獣サウンドギラー、鈍足超獣マッハレス、伝説怪人ナマハゲなど、色モノ的超獣が『A』には次々と登場します。
しかし作品そのものは決して色モノではなかった! 長らく誤解と偏見を受けてきた第2期ウルトラシリーズの名誉のために、筆者は今後も微力ながらも尽くしていきたいと考えております……
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(当該記事)