(ファミリー劇場『ウルトラマンA』放映開始記念・連動連載!)
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『ウルトラマンエース』9話「超獣10万匹! 奇襲計画」 ~早口のじゃじゃ馬娘がウソもつき、女と涙も武器にする!? 女カメラマンと今野隊員がユカイ!
(脚本・市川森一 監督・山際永三 特殊技術・田渕吉男)
(文・久保達也)
イベント編がしばらく続いたが、本話はスタンダードな通常編であって、本作の防衛組織・TAC(タック)のコメディリリーフ的なデブの今野隊員が主演する肩のこらないコミカルな一編である。
超獣出現! 今野隊員は地上で待機して超獣を写真撮影する任務を与えられる。しかし、その危険な場に現れた女カメラマンを注意しているうちに、超獣は消失! シャッターチャンスも逃してしまった!
分析のために、TAC隊員が超獣の写真撮影を行なうといった描写は、軍事的・合理的なリアリティもある。
しかし、その失敗をTAC隊員たちに正直に報告できずに逡巡(しゅんじゅん)する姿。女カメラマンに写真を焼き増ししてもらおうと何度も付きまとって四苦八苦する姿。あげくの果てに今野隊員はこの女カメラマンにホレてしまう!(笑) そして、彼女に振り回されてダマされ続ける姿が、実にユカイに描けてもいた。
もっとも、本話のサブタイトルには「偽りアリ」である(笑)。本作のレギュラー悪である異次元人ヤプールは、当初は写真から実体化する能力を持った忍者超獣(二次元超獣)ガマスを今野隊員のカメラに撮影させて、それを持ち帰ったTAC基地を襲撃するだけの計画であったのだ。
しかし、少年雑誌のカメラマン・鮫島純子のカメラによって、ガマスが少年雑誌向けに撮影されたことで、結果的にその発行部数分のガマスが出現する恐れを招くことになったワケだ。当初からのヤプールの計画ではなかったのだ(笑)。
ラストでは、山中隊員が「今野が撮影に失敗したから我々は助かったワケだ」などと笑っていた。しかし、その代わりに街にはエラい被害が出てしまったぞ(笑)。
ちなみに、内山まもるが小学館の『小学二年生』に連載していたコミカライズに登場する女カメラマンは新聞社の所属であった。もしも新聞の輪転機に回されていたら、グラビア雑誌の発行部数10万匹どころでは済まない、超獣が数100万匹となっていたワケだ(汗)。
ガマスはある特殊な電話や音波に触れることで実体化するという設定である。劇中ではタクシーの無線や電気カミソリの音に反応して実体化している。本話では印刷にかけられる前の写真から現れた1匹だけで済んでいだ。しかし、写真だけでなく、テレビやパソコンの画面からも出現可能になれば、現代ではタクシー無線や電気カミソリの音で日本全土がさらなるガマス大軍団の総攻撃を受けていたことであろう。ホントに山中隊員、笑っている場合じゃなかったぞ(笑)。
「女カメラマン」の登場は「ウーマンリブ」という語句が台頭し、女性が社会に本格的に進出し始めた70年代初頭当時の世相を反映している。しかし同時に、いくらウソの言い逃れに自分の名前を勝手に利用されたからといって執拗に純子に喰ってかかり、しまいに純子を殴ってしまった主人公・北斗星児(ほくと・せいじ)隊員(汗)。それはさすがにマズいだろう。
ちなみに、純子を形容する「じゃじゃ馬娘」というフレーズは、『A』放映72年の12月からスタートする人間搭乗型の巨大ロボットアニメの元祖『マジンガーZ(ゼット)』(72年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200119/p1)に登場するヒロイン・弓さやか(ゆみ・さやか)に対しても使われていた。現在の観点からは「女性蔑視」とも取られかねないこのフレーズは死語となって久しい。
今野隊員が「初恋の人に似ているから……」と純子にデートを申し込む。その彼が立ち去ったあとで、思わず純子が「オエーッ! デブ!」と発するのも、現代のドラマ事情においては許されない表現かもしれない。……いや、かえって女性の偽らざるホンネを描いたとして、一部のフェミニストの間では喝采を浴びたりして(汗)。
ただ、こういったフザケた人物描写が本話で描かれていなかったらば、やや無味乾燥な話になってしまったかもしれない。その意味でも純子を演じた江戸っ子娘的なチャキチャキとした江夏夕子の好演が光っていたのだ。05年の今ならば、お笑いタレント・磯野貴理子あたりが演じたら面白いかもしれない(笑)。
女カメラマン・鮫島純子を演じた江夏夕子は、のちに松方弘樹(まつかた・ひろき)の弟である俳優・目黒祐樹(めぐろ・ゆうき)夫人となっている。こまっしゃくれた口八丁の早口マシンガントークで、調子のイイその場逃れのウソを正論(?)とともに交えて、今野隊員や北斗隊員とのイキな会話のキャッチボールをするさまもまたユカイだ。
北斗に殴られるや、今野隊員の胸を借りて泣き出して、女であることを利用して、その涙も武器にするのかと思いきや…… ホンキで泣いていた(汗)。まぁ、このへんで矛(ホコ)を収めてくれないと、30分でドラマが終わらなくなるので、子供向けエンタメとしては適度な塩梅だろう。
そして、今野のフォローに感じたのか、写真を焼き増ししてくれることに…… 暗室で現像中に純子と今野の頬がふれるシーンも好シーンだ。
その女カメラマンがゾッコン、シビレていた独身で金持ちで親切な編集長――ナレーションによれば(笑)――を演じていたのは、本作のナレーターこと名優・岸田森(きしだ・しん)が結成した劇団「六月劇場」出身で、『恐竜戦隊コセイドン』(78年・円谷プロ)でも同作の防衛組織・タイムGメンのバンノ・チカラ隊長を演じていた痩身髭面の名優・草野大悟(くさの・だいご)。ナレーションでの説明とは異なり、そのいかがわしいトボけたさまは、その役を完全にギャグとして演技していた。電気カミソリをヒゲではなくおデコにあてているのだ(笑)。1991年に没。合掌。
ガマスは忍者超獣の異名を持つだけあって、エースとの対戦では突然に姿を消したり、忍者と同じで吹き矢やマキビシや剣が武器であった。
超獣ガマスは、翌年の円谷プロ製作の巨大変身ヒーロー『ファイヤーマン』(73年)第9話『深海からの挑戦』に、ジュラ紀に生息していたという古代恐竜ロドグロスとしても流用されていた。ちなみにこの回は、前作『帰ってきたウルトラマン』(71年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20230402/p1)第5話『二大怪獣東京を襲撃』~第6話『決戦! 怪獣対マット』の前後編に登場した地底怪獣グドンが、名前もそのままに登場した回であることで、マニア間では有名だ。
対するウルトラマンエースも吹き矢2本を真剣白刃取りして、決め技も両腕にエネルギーを集中させて発射する赤い光線を初披露している。はるか15年以上もあとの平日5分番組『ウルトラ怪獣大百科』(88年)の時期に後付けで付与された、現在の円谷プロの公式設定では「パンチレーザースペシャル」という名称の光線である。しかし、額から発する光線のスペシャル版が、両手から発する光線だということにはいまだにムリやり感があるけれど、好意的に解釈すれば同じエネルギーを両手に転用しているのだとの解釈もできて、そう考えるとそれなりにカッコいいような気もしてくるネーミングである(笑)。
本話が初登板である田渕吉男特撮監督の特撮演出には、細部でいろいろな工夫が見られる。特撮マニア的には本話に賭ける意気込みも感じられてくるのだ。
冒頭、忍者超獣ガマスが手裏剣を放つや、大型戦闘機タックファルコンの長大な機体を貫通! 本当に上半分と下半分に寸断されてしまって、下半分が落下してしまう特撮もまたサプライズ(驚き)なのだ!
ちなみに、その直前にタックファルコンの機体の底部が下方にスライドして発射台から放たれるミサイルの名称は、RXミサイルであった。
中盤の第2ラウンドでも、北斗隊員と吉村隊員が操縦する小型戦闘機・タックアロー2機が何度もキリモミ旋回飛行を披露! 機体を上下逆に反転させて飛行を続けてガマスを翻弄する! 従来のウルトラシリーズでも見たことがないような曲芸飛行特撮を見せてくれるのだ。
終盤の第3ラウンドでは、本作『A』から次作『ウルトラマンタロウ』(73年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)前半まで使用された本家・東宝のステージの広大さとミニチュアの尋常ではないストックの面目躍如だ! とにかく広大なセットと精巧な造りのミニチュア(ビル・自動車・電柱・墓場)の無茶苦茶なまでの数の膨大さ! おそらく、それまでの東宝特撮怪獣映画に使用されてきたものの流用であって、新造は少なかっただろうが。
自分の目と頭で考えず第2期ウルトラ低評価の先入観から、既成の俗説をオウム返しにするヌルいマニアたちが、この時期の『ウルトラ』から特撮のレベルが低下しはじめたなどとホザいているが、愚劣というべきだろう。オープニングテロップの特撮スタッフ名を見てもわかるとおりで、基本的に『A』の特撮は東宝の特撮陣が下請け担当したものなのであった。今回の特撮監督・田淵吉男ももちろん東宝の社員である。
むろん、第1話の特撮とも同様に、ビルの隙間からエースVS超獣の格闘場所が広場になっているのがモロにバレてしまうカットがあるのは惜しいのだが(笑)。
しかし、写真の中の超獣ガマスが動めいたり飛び出したりする、難度の高そうな合成カットにも果敢に挑戦している!
ラストのTAC本部での隊員たちの談笑シーン。ドサクサにまぎれて山中隊員が我らが南夕子隊員に肩をかけている。
山中隊員「恋は盲目!」
北斗隊員「女は魔物! ……あ痛て!!」
北斗をツネっている夕子隊員。夕子も負けていないのだ(笑)。
<こだわりコーナー>
*純子の自室やタクシーのカーラジオで流れていたのは、当時は『真夏の出来事』をヒットさせていた平山三紀(現・平山みき)の歌唱である。曲名自体は不明である。筆者は60年代から70年代に流行した歌謡曲にもマニア的な関心を持っている。しかし、彼女の歌は『真夏の出来事』しか知らないのだ(汗)。ただ、この歌は「じゃじゃ馬娘」の純子にあまりにピッタリのイメージである。選曲の妙にはウナらされるばかりだ。(後日付記:72年3月10日発売の『フレンズ』とそのB面曲『20才の恋』であったそうだ)
なお、本話を執筆した市川森一(いちかわ・しんいち)は当時は夜の酒席の場でも脚本を執筆し、さまざまな業界人と交流があったそうだ。30分枠の名作テレビドラマ『刑事くん』(71~76年・東映。桜木健一・主演)では、ヒット曲をモチーフにしたエピソードを多数執筆している。それらを歌唱した歌手もゲストに登場していたものだ。
ちなみに、前作『帰ってきたウルトラマン』(71年)第34話『許されざるいのち』(脚本・石堂淑朗 監督・山際永三)に『花・太陽・雨』が挿入されたのも、歌唱していたPYG(ピッグ。沢田研二(さわだ・けんじ)や萩原健一(はぎわら・けんいち)など、60年代後半に流行したグループ・サウンズのメンバーで構成されていた)と市川が親交が深かったのが縁だったとする説が、書籍『帰ってきた 帰ってきたウルトラマン』(99年・辰巳出版・ISBN:4886413641)にも掲載されている。
ついでに記すと、『A』と同年の72年7月に放映が開始された名作刑事ドラマ『太陽にほえろ!』で、市川が初めて脚本を執筆した第20話『そして、愛は終った』にゲスト主役として出演したのは沢田研二であった。そして、同話も含む『太陽』の最初の1年間の実質的な主人公と、のちの市川の代表作である名作テレビドラマ『傷だらけの天使』(74年)に副主人公で主演していたのも萩原健一であった。
*視聴率16.8%
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