『スパイダーマン:ホームカミング』 ~クイズ研究会(?)に所属する文化系スパイダーマンの弱者友人たち(汗)
『アベンジャーズ/エンドゲーム』 ~タイムパラドックス&分岐並行宇宙解析!
拙ブログ・トップページ(最新10記事)
拙ブログ・全記事見出し一覧
[アメコミ洋画] ~全記事見出し一覧
[特撮洋画] ~全記事見出し一覧
2022年5月4日(水)からアメコミヒーロー集団・アベンジャーズの一員である洋画『ドクター・ストレンジ』の第2作こと『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』が公開中記念! とカコつけて……。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(22年)評をアップ!
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』 ~新旧3大スパイダーマンvs再生怪人軍団! 全員集合映画を通過後の共演映画の作り方とは!?
(文・T.SATO)
(2022年1月15日脱稿)
マーベル社のアメコミ古典ヒーロー『スパイダーマン』(62年)が、「単体ヒーロー」映画としてではなく、「複数の主役級ヒーロー」が同時に並存して遂にチームを結成した「アベンジャーズ」世界の中で活躍する、天下のアイアンマン社長が提供したハイテクスーツを着用したスパイダーマン主役映画としては、シリーズ第3作目となる本作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(21年・22年日本公開)。
事前には伏せられていたけど、フタを開けたらばナンとビックリ! ふたりの先輩スパイダーマンが途中から助っ人参戦して、合計3人ものスパイダーマンが再生怪人軍団(笑)を相手に共闘して大活躍!
やっていることは、帰ってきたウルトラマンの大ピンチに初代ウルトラマンとウルトラセブンが! 仮面ライダーV3(ブイスリー)の大ピンチに仮面ライダー1号と仮面ライダー2号が! 助っ人に参上してくる、日本でも50年前からある作劇とも変わらない。現役ヒーローの大ピンチにウルトラ兄弟や先輩ライダーたちが集合するのと変わらない。
1970年代の東映変身ヒーローものの各クール(3ヶ月)の変わり目や、90~00年代の新旧2大スーパー戦隊共演ビデオ販売作品などで、再生怪人軍団が大挙登場していたのとも変わらないのだ――もちろんコレは悪口・批判なぞではない。古今東西で万古不易の盛り上がる王道作劇だというべきだ――。
先輩スパイダーマン2名が参戦! 再生怪人軍団も登場!
事前に作品の外側にて、もう20年近くも前に公開された世界観を異にする大ヒット映画『スパイダーマン2』(04年)に登場した、背中にメカ製のタコ型8本脚を生やした同作の定番悪役ことドクター・オクトパスなどが並行世界を越境して客演することは明かされていた。フタを開けてみれば、同作の古典悪役たちが大挙出演!
●『スパイダーマン』第1作目(02年)に登場した、コレまた定番悪役・緑仮面ことグリーンゴブリン!
●『スパイダーマン3』(07年)に登場した、脱獄犯が屋外の素粒子実験場に落ちたところで砂人間と化してしまったサンドマン!
●仕切り直して物語をゼロからスタートした『アメイジング・スパイダーマン』(12年)からは、会社のパワハラ上司に急かされて自身の身体で薬物の人体実験をしたことでトカゲ人間として凶暴化してしまったリザード!
●『アメイジング・スパイダーマン2』(14年)からは、遺伝子操作された大量の電気ウナギに噛まれて電気人間と化してしまったエレクトロ!
つまり、21世紀以降の『スパイダーマン』映画全作から悪役が登場したのだ! しかも、コレらの悪役を演じてきた役者さんたちによる再演でもある!――2名ほどは声のみの出演で、過去映像をCG加工して劇中に登場させているとのことだそうだが、云われても素人眼にはもう全然わからない(笑)――
「タコ」だの「砂」だの「トカゲ」だの「電気」だのといった、全敵キャラの名前が今風の造語や語尾変化形などではなくって、ヒネリのないそのまんまの普通名詞なただの「英単語」じゃねーか!? などというツッコミはしたいけど、コレは彼らの初出がアメコミヒーローのまだ草創期であった古式ゆかしい60年代前半だからであるだろう。
日本で云えば『仮面ライダー』初作(71年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20140407/p1)の第1クールである通称「旧1号ライダー編」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20140501/p1)に登場した「クモ男」や「コウモリ男」や「ハチ女」といった動物や昆虫そのまんまの名前の末尾に「男」や「女」を付与して、敵怪人の名前にしていたことと比定ができる。
ハリウッド映画の簡明さ! 悪者たちの出自にも焦点!
そして、彼ら歴代悪役の後日談だともいえる物語までもが描かれていく……。と、こう書くと、一見(いちげん)さんお断りな敷居の高い作品に思われてしまうのやもしれない。
しかし、良くも悪くもお高くとまったアート系芸術映画なぞとは程遠い、人種や貧富・学歴の格差などにも左右をされずに全世界の老若男女・ヤンキーDQN(ドキュン)・万人向けに手広く売っていこうとするハリウッド映画のイイ意味での「おバカ」な作り!
ムダに無意味な難解さはカケラもなくって、仮にTV放映されてリビングにて隣室の炊事の喧噪も聞きながら、途中から視聴を開始したとしても、その内容の理解ができてしまうような判りやすさには満ちている(笑)。美男美女やプレーンな顔面であれば正義側の主要人物であり、ゴッツい顔や身体のオジサンキャラであればコレはもう悪役だと、ビジュアルだけでもその人間関係や人物相関図がわかるのだ。過不足のない説明セリフで彼らの過去もわかってくるのである。
彼ら悪役はすでに各作のラストでスパイダーマンにヤラれて死んでいるハズでは? といった疑問は浮かぶ。そこはまぁお祭り映画としては無視してもイイのだ。しかし、それでは観客も作り手も少々腰の座りが悪くなるからなのか、点描程度ではあるけれどもエクスキューズは付けているのも実にていねいだ。
彼ら自身も曖昧な記憶に基づく発言から、ドーも彼らは「死の直前の時点」から作品世界(並行宇宙)を越境して、アベンジャーズも活躍している本作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の世界へと強制的に召喚されてきたようなのだ――いや、ウルトラマン一族が宇宙狭しとあまたの並行宇宙も越境して大活躍するネット配信作品『ウルトラギャラクシーファイト 大いなる陰謀』(20年)における、過去の特定時点の悪役キャラクターだけを分岐させた「並行同位体」のような存在である可能性も残るけど――。
すると、彼らを元いた並行世界へ戻すとなると、彼らは平常心に戻っていて悪事もしていないというのに、戻した瞬間には無残な最期(さいご)を迎えることとなってしまう……。といった道義的な問題を議題に掲げることで、すぐには元の世界へと返してはイケナイとするリクツもつけるのだ。
むろん、それだけでもスパイダーマンとのバトルが発生しない平和な作品で終わってしまう(笑)。よって、一部のキャラには順繰りにやっぱり狂気がよみがえってきて悪事を開始する!
3人のスパイダーマン! ワケありな悪党には救済も!
はてさて、アベンジャーズ版『スパイダーマン』シリーズに連続出演してきたスパイダーマン君の親友でもある、若いころのオタキング・岡田斗司夫(おかだ・としお)やタレントの伊集院光(いじゅういん・ひかる)などを想起させる、コンピューターオタクでもあるデブの東洋人の少年クンはその血筋が魔法使い(!)であったとして(爆)、本作ではアメコミヒーロー集団・アベンジャーズの一員でもある天才外科医の成れの果てことドクター・ストレンジ譲りの魔法で、スパイダーマンの「中の人」ことピーター・パーカー少年を召喚!
すると、『アメイジング・スパイダーマン』(12年・14年)のスパイダーマンが! 間違ったとばかりに、ふたたび召喚してみせたならば『スパイダーマン』(02・04・07年)のスパイダーマンが出現してしまう!――超ご都合主義なのだが、むろん作り手たちもソレをわかっていて、このシーン自体が笑えるギャグとしても演出されている(笑)――
そして、このふたりは事情を承知して、彼らの基本設定や肉親との悲しい別離などの出自もおさらい・補完しつつ、3人のスパイダーマンが夜の高層ビルを舞台に縦横無尽に駆け回って、再生怪人軍団とのバトルを展開するのだ!
……とはいうものの、個々の悪役たちには同情すべき事情があることも描いてきた。よって、作劇的にも彼らを単純には成敗できなくなってしまう。そこで、女児向けアニメ『美少女戦士セーラームーン』シリーズ(92年~・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20041105/p1)や『プリキュア』シリーズ(04年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201227/p1)パターン! 彼らの心の救済を図る方向へと物語は転じていくのだ!
とはいっても、湿っぽくはならない。あくまでも、激しくスピーディーなバトルの最中に問答をするというパターンで、バトルとドラマの両立もできている(笑)。
バトルとドラマの分離を防ぎ、バトルにドラマを織込む!
ちなみに、日本の変身ヒーローものにおいて、バトル中でも敵キャラとの会話を交わすようになったのは90年代中後盤の東映変身ヒーローものであったと思われる。もちろん「週刊少年ジャンプ」の格闘マンガや不良マンガなどでは70年代から始まっていたともいえるだろう。
古い話で恐縮だが、先日逝去された水島新司センセイの大ヒット高校野球マンガ『トカベン』(72~81年)などもTVアニメ版(76~79年)オリジナルの尺増しストーリーだったのだろうが、ピッチャーが入魂の一球を投げようとするや、そこでピッチャーやバッターの回想シーンが入って人間ドラマがはじまり、30分ドラマのエンドでようやく投球したり、キャッチャーミットで捕球をしたりしていた――審判に「ボーク!(反則)」だと判定されそうだ(笑)――。
名作劇画原作(70~76年)でそれを忠実に映像化した名作TV時代劇『子連れ狼』(73・74・76年)などでも、会話を交えながら刀も交えたり、剣戟中に突如として回想シーンのかたちで、その人物の過去や幼少期が長々と描かれて、しばらくしてもう一刀だけするとまた回想シーンに戻るといったかたちで(笑)、各キャラの肉付けや行動原理が補強されたりもしていた。まさにお客さんを飽きさせないために、人間ドラマの最中でも作品の緊張感を持続させることができるように、アクションの中にこそ人間ドラマを織り込んでしまうという、バトルとドラマを一体化させるための手法!
こういった手法の源流・始原はドコにあるのであろうか? ドコかの剣豪小説あたりが元祖なのであろうか? 純文学メインの文芸批評とは異なり、大衆娯楽活劇の系譜的な作劇術についての研究は実に乏しい。……教えて、エラいヒト!
「時間跳躍」や「並行宇宙」の概念が一般化した現代!
そういう意味では、実は本作『ノー・ウェイ・ホーム』はアクション押しのようでありながらも、全編が同時にエモーショナルな作風にもなっていて、ギャグ演出やいわゆるネタキャラ演出も多用はされてはいるものの、次第に泣かせにかかってもくるのだ。
「並行宇宙や分岐宇宙の概念なぞ、この小学校ではボクしか知らないんだろうナ……」なぞと孤独感(笑)を感じていた時代からでも幾星霜。その数十年後の2020年前後の今となってみれば、「並行宇宙」なりタイムリープによる「分岐並行宇宙」の誕生もしくは「歴史の上書き」といった概念は、筆者なぞよりも年下の世代であればヤンキーDQNや体育会系などであっても知っているような(失礼)、実にアリふれた陳腐な小道具ともなっている。
ヤンキーDQN漫画なのに、このへんを骨格にも据えている『東京リベンジャーズ』実写映画版(21年)なども一般若者層やデート客層にも大ヒットをしてしまうのが現代日本なのである(笑)。
――誰がどう見ても片岡千恵蔵でしかない七変化の『名探偵 多羅尾伴内(たらお・ばんない)』シリーズ(46~60年)や『トラック野郎』シリーズなど(75~79年)のラフな作りの映画を楽しんで観るような、ハイソな丸の内東映ならぬ浅草東映系の労働者・庶民・大衆などは、今となっては残念なことに消滅もしくは変質してしまったということでもある(汗)――
アベンジャーズ・シリーズのアメコミ洋画でも、世界各国で超ヒットを記録した『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190617/p1)においては、強敵に勝つために過去へとタイムリープしたものの、お約束で誤ってよけいな歴史改変が発生してしまったところで「分岐並行宇宙」も誕生してしまって、強敵は倒したものの別の並行宇宙から当の強敵が再襲来(爆)してくるような大バトルが描かれてもいた。
そして、同作で新たにいくつか誕生した「分岐並行宇宙」のひとつを舞台とした、さらなる巨悪の出現に対しては正義の味方を助けてみせた敵キャラ(笑)を主人公に据えたネット配信シリーズなどまで製作されている。
「並行宇宙」の存在が劇中で自明とされたことで、実はアベンジャーズ版スパイダーマン第2作こと前作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(19年)でも、メインゲストキャラは並行宇宙の地球こと「アース833」から「アース616」に来た超人ヒーローだと称してもいた。そーいう意味ではシリーズという単位で見れば、「並行宇宙」ネタにも伏線は張られてきてはいたのだ。
「並行宇宙」初出は60年前! 新旧ヒーロー共演が目的!
ちなみに、このアメコミにおける「並行宇宙」の概念もググってみると、後発のマーベル社ではなくスーパーマン・バットマン・ワンダーウーマンなどを先行して産み出したDC社の方が先なのだそうだが、ナンと60年も前の1961年9月(爆)が初出だそうである!
いわく、1940年前後に誕生したアメコミ古典ヒーローたちをその約20年後の1960年前後に仕切り直しをしてゼロから物語をリメイクした数年後にはもう、やはり原典のヒーローたちとも夢の共演をさせたくなって(笑)、現行作の世界を「アース1」、原典の世界を「アース2」だとしたそうだ――もちろんその後も、10年20年おきに何度もアメコミヒーロー個々の物語はゼロから刷新して再スタートを切っているので、ますます「並行宇宙」は増えていく――。
……なるほど! 結局は旧ヒーローもなかったことにはしたくないのが人情だから、そうなるとそれまでの旧作世界とはゼロから刷新していたハズの新作の「世界観」とも矛盾を発生させずに、新旧ヒーロー世界を双方ともに傷つけずに肯定ができる手法は「並行宇宙」を越境したのだとする概念の導入が一番ではあるのだろう!
そんなのはテキトーでもイイだろ! すべてを同一世界にしちゃえよ! 『ウルトラマンタロウ』(73年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20071202/p1)よりも以前に『ウルトラマンレオ』(74年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20090405/p1)や『ウルトラマン80(エイティ)』(80年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19971121/p1)が地球に来ていたことになってしまった映画『ウルトラマン物語(ストーリー)』(84年)みたいな不整合がある作品でもイイよ! なぞという意見にも一理はある。
しかし、仮にもリベラルな民主主義者を名乗るのであれば、今でも100人が100人そう思うような浅草東映系の庶民・大衆だというのであればともかく、マニアならぬ一般ピープルやチビっ子までも大多数がソレを矛盾・破綻だとして違和感を抱いてしまっていた厳然たる現状があった以上はその意見にも従って、作品世界の整合性の確保にも最低限は努めて、「並行宇宙(多元宇宙)を守るために戦うのだ!」などといったお題目にて埼玉県寄居のアリゾナ州(採石場・笑)で善悪がド突き合いをしているだけなのに、「コレはスケールが大きい物語なのだ!」などと我々を錯覚させてくれる手法の方がクレバーなのである(笑)。
その伝で、映画『ウルトラマンティガ・ウルトラマンダイナ&ウルトラマンガイア 超時空の大決戦』(99年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/19981206/p1)では、『ティガ』&『ダイナ』世界と『ガイア』世界とは別世界なので、さらにここに『ガイア』がTV放映されている第3の並行世界を導入することで、ティガ・ダイナ・ガイアを共演させていたけれど、それが可能であるならば並行宇宙の概念をもっと拡張して、当時においてはいつまで経っても復活が叶わなかった昭和のウルトラ兄弟たちとも、「SF」的な妙味さえもが付与・両立ができた夢の共演が可能だっただろ! などとフラストレーションを溜めていたことなども思い出す……(遠い目)。
ちなみに、出版社は異なるために、上記のDC社のそれとは異なるものの、マーベル社においても並行宇宙には各々にナンバリングが施されているそうである。スパイダーマンもチームの一員であるアベンジャーズが活躍するアメコミ洋画の並行宇宙は「アース199999」、東映特撮版スパイダーマンが存在する並行宇宙は「アース51778」なのだとか――実にテキトーなナンバリング。後者は明らかに東映版が放映された1978年のアナグラム(笑)――。
ところで、先の前作『ファー・フロム・ホーム』では、劇中世界のことを「アース199999」ではなく「アース616」だとも云っていた。その理由は……(以下略)。
映画『スパイダーマン3』(07年)に登場した悪の黒いスパイダーマンことヴェノムは再登場こそしなかったものの、本作の直前に最新作が公開されたばかりで、スパイダーマンがいない世界で「正義の主人公」(笑)として活躍している方の『ヴェノム』(18年)は、同作第2弾であるヴェノム2号ことカーネイジと戦った映画『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(21年)のラストで、アベンジャーズがいる本作の並行宇宙に転移したことが点描されていたので、本作でも一応は登場する! しかし、出オチ・キャラクターとなっており、ストーリーには一切カラまないことで笑いを取っていた。
――劇中にちょっとだけ登場したサングラスの弁護士も、アベンジャーズが活躍する映画シリーズとも同一世界を舞台としたネット配信ドラマで、マーベル社の盲目の弁護士が変身する、初出は64年のアメコミ古典ヒーロー『デアデビル』(15~18年)の変身前の「中の人」だったそうだ。本家・アメリカでも、このデアデビル役の役者さんがお忍びで鑑賞したところ、映画館でも反応がなかったとのことだそうで(笑)、よって我々が気付けなくても問題はナシなのだが、一般観客に疎外感を抱かせずにストーリーの理解にも支障が生じない程度のものであれば、この程度の点描のお遊びに目クジラを立てる必要はないどころか、むしろこのテの小ネタを積極的に導入していくことは賞揚してもイイくらいでもあるだろう――
クモ男とヴェノム。ベトナム戦争前と80年代出自の相違!
しかしまぁ、ベトナム戦争(65~75年)が始まる前の古き良き牧歌的な1962年のアメリカが出自である『スパイダーマン』各作は、主人公少年が調子に乗って増長したりすると回りまわって肉親に悲劇が起きてしまったりして、良くも悪くも「因果応報」の「道徳説話」的で「ヒトとして正しくあれ」「人に隠れて善行せよ(=見せびらかすようであれば自己顕示欲の発露でしかないのだから)」「大いなる力には大いなる責任が伴なう」「私情で復讐するなかれ」などとやや説教クサかったりキリストの「山上の垂訓」ぽかったりもするけれど、それがまた筆者のようなロートルオタクにとっては心地がよい。
対するに、この欲望肯定&享楽的なヴェノムはアメコミでの初出は、さらに時代が20年以上も降った高度大衆消費社会が真っ盛りで私的快楽至上主義の風潮も進んでいた1984年だそうであり、日本で云うならば欲望肯定・私的快楽肯定な脚本家・井上敏樹などが主に描いてきた90年代以降のチョイ悪なヒーロー像にも比定ができるだろう。
ヴェノムにも善悪の観念がないワケではないけれど、少々の悪事などはOK! 他人にメーワクはかけないのだし、悪人なのだからガブッと丸飲みして食べちゃっても大丈夫だよネ! みたいな。それはそれで爽快だったり悪徳の快楽があったりもするけれど。
――とはいえ、スプラッタ映画的な残酷描写なぞではなく、顔面だけがデタラメに巨大化して大口を開けて噛み噛みもせずに瞬時に飲み込んだ! といった物理的にはアリエない非現実的な描写によってマンガ的な笑えるギャグにはなっている。『ウルトラマンZ(ゼット)』(20年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200723/p1)に登場したお喋りもする顔が付いた黒い杖型の武器・ベリアロクの顔面がデタラメに巨大化して敵をパックンチョする描写もまた、ヴェノムが元ネタなのだろう――
ヴェノムも元の並行宇宙へと帰っていったものの、その身体の極少量の黒いタール状の一部をポトリと落としていって、それが蠢(うごめ)いているところでエンドとなっていた……。といったところで、アベンジャーズ世界でもヴェノムの残骸がデビルスプリンター(笑)となって、誰かさんなりスパイダーマンなりに憑依(ひょうい)をして、黒いスパイダーマンなり新たなるヴェノムが登場する余地も残して、マニア観客の後続シリーズへの興味関心をも喚起しているのだ。
ゲストヒーロー・ドクターストレンジの絡ませ方&宣伝!
以上はエンディングテロップ途中の間奏であるミドルクレジットで描かれたシーンである。ポストクレジットではアベンジャーズシリーズの恒例で、同シリーズの後続作の特製予告編も流される。本作の並行宇宙・混乱事件を魔法の呪文の失敗で引き起こしてしまった真犯人(?)こと、数ヵ月後に公開されるドクター・ストレンジ主演映画(16年・日本公開17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20170504/p1)の第2弾『ドクター・ストレンジ/(イン・ザ・)マルチバース・オブ・マッドネス』(22年)。
「マッドネス」は「狂気」の意味だから「狂った並行宇宙(多元宇宙)」といった意味で(笑)、本作での事件がきっとあとを引くのだろう。やはり並行宇宙のもうひとりの大槻ケンヂ博士も登場するのだとか……(それは映画『仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL ビルド&エグゼイド withレジェンドライダー』(17年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20171229/p1)・笑)。
前作のラストでその正体が世界中にバレてしまったスパイダーマン少年。世界中の人々からその記憶を消すための呪文の失敗が、ナゼに並行宇宙の混乱となるのか? 記憶を消しても物理的な新聞や映像の記録は消えないのでは? なとといった疑問はあって当然なのだけど、このテの作品に対してはある程度まではともかく過剰にリアリズムを求めるのはヤボだろう。
観客の疑問がゼロにはならないにせよ、それがあまり浮上はしてこないように、そこはテンポを早くしてサクサクとストーリーを進めてしまう、ゴマカし演出を意図的にもするべきだ。そして、呪文に失敗してくれたからこそ、新旧スパイダーマン3人の夢の共演が観られたワケなので、むしろドクター・ストレンジには感謝しよう(笑)。
――ホントは数ヵ月後に公開予定の『ドクター・ストレンジ』第2作の方が先に公開されて、本作『スパイダーマン』の方があとで公開される予定であったので、並行宇宙が混乱したのは初めてなのか2度目なのかの部分については、脚本をブロックのパーツ的に差し替えた! ……などといったブッチャケたウラ話も製作公式が明らかにしていたりもするけれど。まぁ、結局はフィクション・作りものですからネ(汗)。しかしそれでも、最初からこう作られていたかのように感じさせることこそが、作劇・創作といったモノの真髄なのである!――
本作のラストは「記憶消し」魔法が成功することで、意表外にも寂寥感あふれるラストにもなっていた――映画の神さまのイタズラか、奇しくも公開同月に放映された、アンデルセン童話『人魚姫』(1837年)をモチーフのひとつにしていた女児向けアニメ『トロピカル~ジュ! プリキュア』(21年)最終回とも同じネタなのであった――
日本特撮もカテゴリや周年括りでのヒーロー共演作品を!
本作の内容や在り方は日本の特撮ヒーローものにとってもいろいろと示唆的である。特に個人的に思うのは、すでに究極の大ネタである看板を張れる主役ヒーローたちが「オールスター全員集合」を果たしてしまったシリーズ世界で、それ以上のスケールのイベントはもうできない作品世界を舞台に、それでもイベント性の高い作品を製作しつづけるにはドーすればイイのか!? といったことである。
それすなわち、シリーズ・イン・シリーズ。もしくは、ヒーロー集団の中でのグループ分け・カテゴリー分けである。本作であれば、それは作品世界を異にする先輩スパイダーマンふたりとの共演イベントであったのだ。
コレは日本でいえば、新旧2大スーパー戦隊共演作品が陳腐化してきたところで、恐竜をモチーフとした3大戦隊こと『恐竜戦隊ジュウレンジャー』(92年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120220/p1)・『爆竜戦隊アバレンジャー』(03年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20110613/p1)・『獣電戦隊キョウリュウジャー』(13年)を共演させることで、特撮マニアや子供たちをワクワクとさせた映画『獣電戦隊キョウリュウジャーVS(たい)ゴーバスターズ 恐竜大決戦!さらば永遠の友よ』(14年)などに対応するだろう。
その伝で、TV本編では先輩2大忍者レッドを客演させたのにも関わらず、忍者をモチーフとした3大戦隊こと『忍者戦隊カクレンジャー』(94年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20120109/p1)・『忍風(にんぷう)戦隊ハリケンジャー』(02年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20021110/p1)・『手裏剣戦隊ニンニンジャー』(15年)を共演させなかった映画『手裏剣戦隊ニンニンジャーVSトッキュウジャー THE MOVIE 忍者・イン・ワンダーランド』(16年)のことを残念に思ったマニア諸氏は多かったことだろう。
東映は2010年代前半の春には、仮面ライダーとスーパー戦隊が共闘する映画で大ヒットを飛ばしてきた。しかし、東映の白倉プロデューサーも老いたりか? 電車モチーフの『烈車戦隊トッキュウジャー』(14年)が放映された折りには、同じく電車モチーフの『仮面ライダー電王』(07年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20080217/p1)との共闘映画を構想はしたものの、「それを義務的な仕事」だと感じて実現させなかったそうだ――この発言自体も後付けのハッタリ臭を感じさせなくもないので、真に受けるべきかは留保するけど(笑)――。
そして、挑戦的だったとは云えても、悪い意味でマニアックでニッチなネタの映画『スーパーヒーロー大戦GP(グランプリ) 仮面ライダー3号』(15年)や映画『仮面ライダー1号』(16年)などに走って失速し、春恒例のヒーロー全員集合映画のワク自体を消滅させてしまったのだ。
しかし、当時の歳若い特撮マニア諸氏や子供たちの多数が鑑賞する前からコーフンするような大ネタは、我々ロートルオタクだけが喜びそうな昭和の幻に終わった企画『仮面ライダー3号』の実現なぞではなくって(笑)、まさに『トッキュウジャー』&『電王』が同じモチーフゆえの接点を契機にブツかって、「似て同なるモノ」&「似て非なるモノ」が化学反応を起こすような作品ではなかったか?
それは「義務的な仕事」なぞではないだろう。少なくとも2010年代~今のお客さんの大多数がどのような企画であれば面白そうだと感じてくれるのか!? そして会社の売上的にも貢献するのはどのような企画なのか!? 企画を発想する際に主要なモノサシとすべきはソレだろう!
クルマ&警察がモチーフであった『仮面ライダードライブ』(14年)が放映されていた折りには、警察ライダーでもあるドライブが、往年の『ロボット刑事』(73年)や『機動刑事ジバン』(89年)に『特警ウインスペクター』(90年)~『特捜エクシードラフト』(92年)や仮面ライダーG3(ジースリー)(『仮面ライダーアギト』・01年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20011108/p1)に仮面ライダーアクセル(『仮面ライダーW(ダブル)』・09年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100809/p1)などの東映製作の刑事・警察ヒーローとも共闘する夏休み映画を、ドコぞの一介の特撮マニアが2015年のエイプリル・フールとしてコラージュポスターのかたちで流布させて、筆者も含むマニア連中を狂喜乱舞もさせていた――つまり、ダマされてしまった(笑)――。
オールスター全員集合映画を通過したあとでも、人々が関心をそそられるようなお祭り映画とは、あまりに大勢にすぎて描き分けのしようもないので全員がお団子状態になってしまうようなオールスター全員集合作品なぞではない。このような共通項などでくくって、ある程度の人数に絞り込んだゲストヒーローたちを徹底的に描き込んで、そのキャラを粒立たせてみせたような企画だったと思うのだ!
あるいは、作品の外側での都合から来るカテゴリー分け。5周年・10周年・15周年・20周年……といった節目ごとのアニバーサリー・イヤーの先輩ヒーロー複数組を同時にメインゲストとして現役ヒーローとも共演させるような映画なども毎年、各作ごとに該当記念作を1作ずつズラすかたちで製作していけば(笑)、常に目先の変化・新鮮味を出せることにもなるのだ。そして、そのような作品をこそ観せてほしいモノではないか!?
――円谷プロの方も、毎夏恒例の催事イベント『ウルトラマン フェスティバル』(89年~)などではアトラク・アクションチーム側の文芸陣や上層部が主導権を握っているのか、むかしからアトラクショーやその宣伝ポスターなどでは、その時点でのキリのよいアニバーサリーOBウルトラマンたちがフィーチャーされているようで、よくぞわかっていらっしゃる! と感心しきりなのだけど、肝心の本社の方のおエライさんたちにはそーいうセンスが乏しいようであり(汗)――
すでにオールスター全員集合映画を通過してしまったあとの、その同種企画には初の全員集合作品ほどのサプライズがなくなってしまうことが運命・必定でもある後続シリーズにおけるイベント映画の在り方。ドーいうヒーローたちの組み合わせ・ブレンド・配合の企画であれば、観客たちを「またか?」などとは思わせずに喜ばすことができるのか? その答えは本作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』における新旧スパイダーマン3人の夢の共演企画にこそあったといえるだろう!
[関連記事] ~マーベル社アベンジャーズ・アメコミヒーロー洋画評
『スパイダーマン:ホームカミング』 ~クイズ研究会(?)に所属する文化系スパイダーマンの弱者友人たち(汗)
『ブラック・ウィドウ』『ホークアイ』『エターナルズ』『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』『ザ・スーサイド・スクワッド“極”悪党、集結』『マトリックス レザレクションズ』 ~各作が独立でも同一世界で連続性アリ! 平行宇宙越境のヒーロー大集合でも集客! 日本特撮も見習うべきだ!
『ブラックパンサー』 ~アメコミ黒人ヒーロー映画で傑作だが、新型のポリコレ・黒人搾取でもあるか!?
『ドクター・ストレンジ』 ~微妙な世評が多いが、かなり面白い!
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』 ~世界的に好評だが私的にはイマイチ。軽薄ヒーローもの全般にいえる作劇的弱点!
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』賛否合評 ~もはやブランド・権威ゆえ、思考停止で高評価・深読みされてやしないか!?
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』 ~ヒーロー内紛劇は成功したか!? 日本特撮が立ち遅れた原因は!? 世界観消費へ!
http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20160701/p1
[関連記事] ~マーベル社『X-MEN』シリーズ・アメコミヒーロー洋画評
『LOGAN/ローガン』 ~老X-MEN映画に、活劇の教科書を見る! 殺ってもイイ悪党の造形法(笑)
[関連記事] ~DC社アメコミヒーロー洋画評
『スーサイド・スクワッド』 ~アメコミ悪党大集合。世評は酷評だが佳作だと私見!
『ジャスティス・リーグ』 ~スーパーマン・バットマン・ワンダーウーマン共演作は、ヒーロー大集合映画の教科書たりえたか!?
http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20171125/p1
[関連記事] ~ヒーロー大集合映画評
『ガーディアンズ』 ~酷評のロシアのスーパーヒーロー集合映画を擁護する!
『ジャスティス・リーグ』 ~スーパーマン・バットマン・ワンダーウーマン共演作は、ヒーロー大集合映画の教科書たりえたか!?
『仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL ビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー』 ~ヒーロー大集合映画の教科書がついに降臨か!?
http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20171229/p1
[関連記事]
[関連記事] ~3大メタ・ヒーロー作品! 国産ヒーローの歴史を深夜アニメが総括!
『サムライフラメンコ』 ~ご町内ヒーロー ⇒ 単身ヒーロー ⇒ 戦隊ヒーロー ⇒ 新旧ヒーロー大集合へとインフレ! ヒーロー&正義とは何か? を問うメタ・ヒーロー作品!
『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』 ~往年の国産ヒーローのアレンジ存在たちが番組を越境して共闘するメタ・ヒーロー作品だけれども…
『ワンパンマン』 ~ヒーロー大集合世界における最強ヒーローの倦怠・無欲・メタ正義・人格力!
https://katoku99.hatenablog.com/entry/20190303/p1
『スパイダーマンNWH』評 全員集合ネタを通過後の共演映画の作り方とは!?
#スパイダーマン #スパイダーマンNWH #スパイダーマンノーウェイホーム #ドクターストレンジ
[アメコミ洋画] ~全記事見出し一覧
[特撮洋画] ~全記事見出し一覧
拙ブログ・トップページ(最新10記事)
拙ブログ・全記事見出し一覧