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『現実主義勇者の王国再建記』『八男って、それはないでしょう!』『天才王子の赤字国家再生術』『王様ランキング』 ~封建制の範疇での王さま・王子さま・貴族による、理想の統治や国家・地方運営を描いたアニメ評!
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深夜アニメ『キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦』1期が再放送中記念! 2期が来年2024年に放映記念! とカコつけて……。異世界でも中世ではなく近代を舞台とした深夜アニメ『キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦』1期(20年)・『86-エイティシックス-』1期(21年)・『ニル・アドミラリの天秤』(18年)・『天狼(シリウス) Sirius the Jaeger(シリウス・ザ・イェーガー)』(18年)評をアップ!
『キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦』1期・『86-エイティシックス-』1期・『ニル・アドミラリの天秤』・『天狼 Sirius the Jaeger』 ~異世界でも中世ではなく、近代や昭和初年代が舞台の深夜アニメ評!
(文・T.SATO)
『キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦』1期
(2020年秋アニメ)
(2021年1月21日脱稿)
「帝国」と「皇庁(おうちょう)」――後者は字義的に苦しい造語で、実態は「王朝」――の2大国が対立している「西欧近代」風の異世界が舞台である。
帝国最強なれども謙虚でクセのない美少年剣士クンと、皇庁最強の戦士に見える金髪ロングの第2王女さま。
戦場でホコを交えるかたちで出逢ったふたり。しかし、互いに休暇時に平穏な中立都市で偶然にも再会したことで、道ならぬ恋とはいかずとも、互いに相手が鬼畜米英ではなく人格も良識もあるヒトであり、立場上はマズいと自覚しつつも偶然の再会を重ねることで、燃え上がることもないけど節度あるかたちでお互いに惹かれていく。
ムチャクチャ面白い! 要は『ロミオとジュリエット』や昼メロや韓流ドラマのオタク版なのだ。しかし、それもミガきあげれば既視感はあっても血肉が宿るものなのだ。
まぁ、洋画であれば互いにモーション・誘惑をかけるのであろう。しかし、オズオズと控えめで好意を表明できずにツンデレで終わるあたりは日本人的、あるいは対人関係にナイーブなオタ的描写だとも区分けはできるかも……。
とはいえ、絵柄が繊細淡泊ゆえに、長身なキャラデザでも適度にイイ意味でリアリティーの階梯(かいてい)は下がっている。
なので、「偶然の再会」が連発されても、それは「ご都合主義」臭にはならずに「ギャグ」としての側面が強調される効果をいや増していく。公園・レストラン・劇場……。何回、再会したのだ?(笑)
舞台背景は深刻であるのに、少年剣士クンの女上官の方は頼りなくてオドオドとしたミーハーなチビ女子だったりして、そのへんはいかにもマンガ・アニメ的なキャラ造形なので、古いタイプのオタだとそこでヒキそうではある。よく訓練されてしまった筆者なぞは大丈夫なのだけど(爆)。
第2王女というからには性格や立場も異なる第3王女や第1王女や女王さま、諜報機関やスパイまでシリーズ後半においては登場。人間関係やストーリー展開も錯綜させつつ、スケールも拡大! 個人的には傑作だと思う。
『86-エイティシックス-』
(2021年春アニメ)
(2021年8月9日脱稿)
異世界近代のミリタリックな量産型ロボットが多数登場するアニメ。しかし、それも表層的な意匠に過ぎなくて、ドラマ&テーマ的には「人種差別」がメインだったという恐るべき作品であった。
この作品もナンちゃって感は皆無のマジメなノリである。しかし、主要人物は10代中後盤なのにもう女少佐だったり隊長だったりして、そこはお約束のウソではある――もちろん、思春期の淡い恋情や、軍事的な失敗もまぁまだ10代の少女だからと劇中内でも劇中外でも無意識に許容されて、加えて想定メインターゲット層の年齢に主要キャラの年齢を近くするための処置でもある。よって、それがダメだとは思わない――。
キマジメそうな銀髪ロングの軍服士官少女がさっそうと軍施設の洋館内を歩いていく。しかし、そこには酒瓶を抱えてクダをまいている兵士たちもいることで軍規の緩みも描写している。
そして、そんな彼女がどんな軍務に着くのかと思いきや……。個室の管制室で多数のモニターを通じて、戦場の隊員たちにテキパキと指示を降していくのだ。
「戦死者はゼロ名」とされているので、多足歩行の無人のAIロボット兵器が相手なのかと思いきや……。戦闘中の戦場にはたしかに兵士たちがいる!
こういった「違和感」自体もヒキ(引き)にしているワケである。そして、話数が進むにつれて小出しに真相も明かされていく。
彼女が住まうこの国では、特定民族――実質、有色人種!(汗)――を人間としてはカウントしていないから、「戦死者がゼロ名なのである」と……(爆)。
生来から聡明かつ博愛的なのであろう。彼女はそんな現状に義憤を抱いてもおり、時に学校の授業でもその旨を公言している!――結果・戦果も出している貴族の令嬢なので、周囲は「一理はあっても、こまったもんだ」といった顔をするだけなのだけど――
しかして、戦闘休止中に自身の麾下(きか)にある部隊の隊員たちとも、上下の別なく親しくしようとしても、彼ら部下の隊員たちの反応はドコか冷たい。
人種平等を唱えた彼女も、学校の生徒たちに
「では、自身は彼らとともに戦場で戦ったのか?」
と問われれば沈黙するしかないのだ。といったあたりで、バトル・戦闘シーンで盛り上げてはいても、そこがドラマ的なクライマックス・山場ではない作品であることもわかる。
いや、キワドい作品ではある。人種差別テーマを描いたことそれ自体ではない。人種差別テーマを掲げたことだけで自足してしまうことや、説明不足なだけで内実のないハードぶりっ子ストーリーに堕(だ)してしまいがちな題材である作品でもあるからだ。
しかし、そこは作り手たちの「テクニック」や「センス」なのだろう。そこをギリギリで回避して、一見では本作の世界観の全貌はわからなくても「演出」の力だけで観ていられる。そして、小出しでこの作品の「世界情勢」や「人種差別」についてもわかってくるという作りにはなっているのだ。
設定フェチ&軍事フェチさも濃厚ではある。しかし、そこは雰囲気だけに留めて、まずは「物語」「映画」たらんとする作りがこの作品の良さだとも私見する。
本作は小説投稿サイト上がりが多数を占めるご時世に、ラノベ(ライトノベル)賞に応募して「大賞」を獲得したデビュー作が、シリーズ化されて高い読者投票人気も獲得。数年を経た末に深夜アニメ化された作品であるそうだ。
00年代中盤~10年代前半のラノベ原作アニメは、マンガ的「ナンちゃって感」や「ハーレム・ラブコメ要素」がマーケティング的にも必須に思えたものだ。
それだけに、2010年代中盤以降はそういった作品は鳴りを潜めており、実に隔世の感もある。「ナンちゃって感」や「ハーレム・ラブコメ要素」を十全には備えていないのに、それでも小説投稿サイト出自のヒット作がワンサカと登場して、そのアニメ化版がヒットを飛ばしたことで、オタク向けジャンル作品の題材や人間描写もかえって多彩になったと私見するのだ。
『ニル・アドミラリの天秤』
(2018年春アニメ)
(2018年4月27日脱稿)
戦前戦中における陸軍中野学校出自のイケメンスパイたちが大活躍する傑作深夜アニメ『ジョーカー・ゲーム』(16年)のごとく――このハイブロウな良作をイケメン男性キャラ目当ての女性オタしか観ていないのが、当今オタ事情のいびつなところ(笑)――、大通りには大正モダンな建築物が立ち並ぶ。
しかし、まだまだ低層建築ばかりで、木造の電柱・電線越しに見えている青空もだだっ広くて見晴らしもよい。大通りであっても、まだアスファルトで舗装はされていなかったりもする、実にレトロモダンな昭和初年代の風景を再現!
ググってみると、本作の舞台は大正25年であった!(=昭和11年・笑)
手に取った者に対して精神干渉して「自殺行動」を起こさせる、書き手の感情・情念がこもった書籍を追いかけて回収していく、「帝国図書情報資産管理局」のメンバーが活躍するというのが、本作の基本設定である。
#1では主人公でもある洋館に住まう没落華族の令嬢少女――愛想もイイお姉さんタイプ――が「家」のためを思って良家へ嫁ぐことを決意する。しかし、声変わり前の澄んだボイスで、大いに取り乱した半ズボンの美少年の弟がカラんできて猛反対をされたことで――もうこの姉コンプレックスな弟の存在からして隠微(笑)――思わず、
「キライ!」
と叫んで突き飛ばしたことで、この弟が大きなショックを受けてしまったサマが描かれる。
このことを気にした彼女も街に出て菓子などを購入し、帰宅して弟をお茶に誘おうと扉を開けるや……暗がりの自室で油をまいた弟がマッチに火をつけており……(ヒエ~~!!)。
そこに「帝国図書情報資産管理局」のイケメン男子ふたりが駆けつけてきて、事件は一応解決される。
その過程で主人公少女には、情念がこもっている「書籍」のオーラ(!)が「炎」のごとく見えることが判明! そのことで、晴れて彼女も同「管理局」メンバーの一員となったサマも描かれて、#1は幕となっている――先の良家との「婚約」については、破棄したとの説明が一言だけで済まされている(笑)――。
そのスカウトの際に、イケメン局員が放った一言は……。
「オマエがほしい!」
……キャ~~~!!
――黄色い声。劇中内で、こういう奇声・嬌声が上がったワケではなく、筆者が勝手に女性視聴者の内心の声を代弁しております(笑)――
まぁ「メタ」に「メタ」を重ねる「止揚」「アウフヘーベン」な世の中ですから、メインターゲットのオタク女子たちも悶絶しつつも半分笑いながら観ていることでしょう!?
――ちなみに、「アウフヘーベン」(正・反・合の「合」)の出典は、東京都知事・小池百合子ではなく、19世紀のドイツの大哲学者・ヘーゲルですので、念のため(笑)――
オタク女子向け作品も、「もうゲームなどで知ってるよネ?」的に人物紹介をすっ飛ばしてイケメン男子たちが大騒ぎをはじめて、#1からして誰が誰だか区別が付かない作品も多い。
しかし、イケメン新撰組に女子ひとりがまぎれこむ『薄桜鬼(はくおうき)』(10年)や『AMNESIA(アムネシア)』(13年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200126/p1)等々、視聴者と劇中事物との仲介としてクセのないプレーンな女性主人公が存在しているゲーム会社・オトメイト原作の深夜アニメ群は、野郎オタでもワリあいと観やすい作品が多いとも私見する――こういった仲介役が存在していない、イケメン男子だらけの女子向け作品などもけっこう多いので(笑)――。
まぁ、メインターゲットの女子オタたちからすれば、
「頼むから! キモいから! アタシたちのテリトリーにキモオタ男子は入ってこないで!」
と全力で拒否られてしまうだろうけれども――どうもスミマセン(汗)――。
本作の主演声優は、『SHIROBAKO』(14年)主演や『12歳。~ちっちゃなムネのトキメキ~』(16年)副主演の木村珠莉(きむら・じゅり)。それを知ってしまうと、木村が猫をカブって演じているようにも見えてしまって……(笑)。
『天狼(シリウス) Sirius the Jaeger(シリウス・ザ・イェーガー)』
(2018年夏アニメ)
(2018年8月2日脱稿)
『ジョーカー・ゲーム』(16年)や『ニル・アドミラリの天秤』(18年)のように、昭和初年代の帝都・東京を舞台として、海外から来訪してきた特殊機関のイケメンやダンディーおじさんにクール美女からなるプロフェッショナル・チームが、暗躍する吸血鬼たちと人知れず暗闘する作品である。それでもって、そのプロチームの一員たる若造主人公は、『仮面ライダーキバ』(08年)の敵怪人種族・ファンガイアもとい吸血鬼に滅ぼされた人狼(じんろう=狼男)の生き残りという設定だ。
今となっては、エキゾチック(異国情緒)でレトロモダンな風情も漂わせてくる昭和初年の「背景美術」「服飾」「小道具」。それによって、独特の抑えた空気感も醸している。そんな中で、時には事件の捜索、時に怪しげな吸血事件、時に壮絶なアクションを繰り広げている。
けれども、今では倒錯したことに、こーいう8頭身の男性キャラたちがシックな映像世界でアクションしている作品は、女オタしか観ないとも思われて……(爆)。
本作はP.A.WORKS製作で、同社で岡田麿里(おかだ・まり)脚本のガンアクションもの『CANAAN(カナン)』(09年)や、旅館で働く少女を描いた『花咲くいろは』(11年)などの良作を手掛けてきた安藤真裕(あんどう・まさひろ)が監督を務めている。
ググってみると、アニメオリジナル作品であるようだ。実に良作なのだけど、野郎オタに受けそうな話題作にはなりそうにないから、オタ友との共通ネタにはならなさそうでもある(汗)。こういったアニメは、たしかに往々にしてフインキだけの演出アニメになりそうな題材ではあるのだ。
しかし、テキトーなところで早々に視聴を打ち切ろうとは思ったものの、意外と(?)佳作続きなので、今のところは切らずに様子見である。