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仮面ライダー滅亡迅雷 ~改心した悪の人工知能ライダー4人が主役の小粒佳品な後日談!

『仮面ライダーゼロワン』最終回・総括 ~力作に昇華! ラスボス打倒後もつづく悪意の連鎖、人間とAIの和解の困難も描く!
『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』 ~公開延期が幸いして見事な後日談の群像劇にも昇華!
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『仮面ライダー』シリーズ映画評 ~全記事見出し一覧
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 2021年11月6日(土)深夜にNHK・BSプレミアムで放映された『全仮面ライダー大投票』で『仮面ライダーゼロワン』が作品部門10位にランクイン記念! 11月10日(水)に後日談・番外編のビデオ販売作品・第2弾『ゼロワン others 仮面ライダーバルカン&バルキリー』の映像ソフトも発売記念! とカコつけて…… 後日談・番外編の第1弾『ゼロワン others 仮面ライダー滅亡迅雷』(21年)評をアップ!


映画『ゼロワン others 仮面ライダー滅亡迅雷』 ~改心した悪の人工知能ライダー4人が主役の小粒佳品な後日談!

(2021年3月26日(金)公開・映像ソフト2021年7月14日(水)発売)
(文・久保達也)
(2021年4月8日脱稿)

*「仮面ライダー滅」と「仮面ライダー迅」の変身前も含めてのカッコよさ!


 レンタルビデオ大隆盛期の平成元年(1989年)に立ち上げられた東映ビデオ製作によるビデオ販売作品レーベル「東映V CINEMA(ブイ・シネマ)」。そのレーベル作品として製作されつつも、映画『宇宙戦隊キュウレンジャーVS(ブイエス)スペース・スクワッド』(18年・東映ビデオ)を皮切りに、小規模で期間限定だが劇場公開も行うスタイルのレーベルとして立ち上げられたのが、『東映V CINEXT(ブイ・シネクスト)』である。
 その最新作として、『仮面ライダーゼロワン』(19年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200517/p1)の後日談スピンオフ作品『ゼロワン others(アザーズ)』の第1弾『ゼロワン others 仮面ライダー滅亡迅雷(めつぼうじんらい)』が、2021年3月26日(金)から期間限定で全国55館の劇場で公開された。


 本作では、『ゼロワン』の終盤近くまで一応の敵組織として登場した「滅亡迅雷.net(ネット)」のメンバーである、


・滅(ほろび)=仮面ライダー滅(ホロビ)
・亡(なき)=仮面ライダー亡(ナキ)
・迅(じん)=仮面ライダー迅(ジン)
・雷(いかづち)=仮面ライダー雷(イカヅチ)


を主役に据えている!


 『ゼロワン』では「AI(エー・アイ)=人工知能」を搭載した人型ロボット=「ヒューマギア」がさまざまな業界で人間とともに働く近未来の世界を舞台としていた。そして、「滅亡迅雷.net」はそのヒューマギアを暴走・怪人化させて人類を滅亡させようとするサイバーテロリスト集団として描かれた。


 だが、「人間とヒューマギアがともに笑いあえる世界」の実現を夢見ている主人公の飛電或人(ひでん・あると)=仮面ライダーゼロワンの誠意に対して迅が、そして亡や雷も次第に「心」を動かされて、最終的に敵キャラから主人公側へと立ち位置がシャッフルをとげていった。
 人間に「悪意」があるかぎり=人類が存在するかぎり、ヒューマギアに安息の日が訪れることはないとして、最終回(第45話)『ソレゾレの未来図』でも最後のひとりとして或人と敵対していた滅も、「心」がめばえた末に或人と和解して、以後の滅は迅とともに世界の「悪意」を監視する立場で行動することとなる結末が描かれた。本作はその後日談としても描かれている。


 テレビシリーズで「滅亡迅雷.net」がアジトとしていた、12年前に「デイブレイク」と呼ばれるヒューマギアたちの大暴走事件が起きた、かつてのヒューマギア運用実験都市の地下を滅と迅が現在でも拠点としていることが、本作冒頭での実験都市の廃墟を俯瞰(ふかん)して描いたCGやテレビシリーズとも同一のセットを舞台にして示される。まず印象的なのが、


「悪意を監視するよりも、悪意が生まれないようにすればいいんじゃない?」(大意)


と、迅がアジトで滅に主張してみせる場面だ。


 迅は滅と会話しながらも終始、「鉢植えの花」を世話しており、次の場面では落葉が散見される森林にその「花」を持参する。そこには、迅の手で植えられたとおぼしき美しい「花」が散見されたのだ。


 個人的には迅のこの描写には、京都アニメーション製作の傑作アニメで、それこそ「滅亡迅雷.net」と同様に当初は人間的な「意志」や「心」をもたない「戦争」のための「道具」であった美少女主人公が手紙の代筆業をこなしていくうちに「愛」を知るに至った『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(18年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20211108/p1)に登場する人物たちの大半が、「花」の名をモチーフとしていたのを彷彿(ほうふつ)としてしまう。
 やはり「花」を愛でることで、ちょっとした心の安らぎまでをも得る……などといった美的な行為は、実務や有用性といったことなども重要なのだがそれをも超えた、衣食を足りてから礼節も知っていく人間といったものの「いたわり」や「おもんばかり」などにも通じていく「人間性」の発露でもあり、観客の方でも本能的にそういう演出意図を感知するからこその「花」の描写の挿入でもあっただろう。


 テレビシリーズ第30話『やっぱりオレが社長で仮面ライダー』~第31話『キミの夢に向かって飛べ!』にかけて、或人の秘書であり黒髪ショートのロリ系美少女型ヒューマギア・イズを、この第30話の当時は「滅亡迅雷.net」以上の強敵として君臨していた青年社長・天津垓(あまつ・がい)=『セロワン』における4号ライダー・仮面ライダーサウザーの手から助けだして、或人とともに


「これからは自分の意志で生きるべき」(大意)


などと説得していた当時、つまり或人に感化されてやや正義の味方寄りに傾倒していたころの迅の姿も、個人的には目に浮かぶ。


 迅は第16話『コレがZAIA(ザイア)の夜明け』でゼロワンに一度倒されている。そして、第25話『ボクがヒューマギアを救う』で復活をとげて以降は、以前のフード付の黒マントの衣装とは一転してストライプ付のスーツ姿となっており、今回もそれを踏襲していた。


「ヒューマギアを人類から解放して自由を与える。それがボク、仮面ライダー迅だ!」


 こう主張するようになって以来、迅はそのファションのみならず表情もかなり穏(おだ)やかとなっており、その甘いマスクには魅了されたものだが(笑)、人々の間に「悪意」が生まれないようにという彼の想いを象徴するかのように、せっせと「花」を育てている描写は実に迅らしくもあり、「いい絵」としても仕上がっていた。


 その場所で、迅は後述するがナゾの人物とその配下たちの襲撃を受ける。そこに滅が割って入り、その連中に対して所持していた武器である日本刀の切っ先を向けて


「迅に手を出すな!」(大意)


などとタンカを切る描写は、実に華(はな)がある。あぁ、いっそ女性に生まれていたなら、ここでキャーキャーと黄色い声援を上げることもできただろうに(爆)。


 滅はテレビシリーズの最終回(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200921/p1)までは、逆立てた金髪を束(たば)ねるようにバンダナを巻いていた。しかし、或人との和解後のラストカット、そして当初はテレビシリーズ終盤放映中の夏に公開予定であったものの新型コロナウィルスの影響で内容を「後日談」に改訂して公開された映画『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME(リアルタイム)』(20年・東映https://katoku99.hatenablog.com/entry/20211114/p1)では、そのバンダナをハズして、黒のボタンシャツと黒いパンツスタイルの上に、変身後の仮面ライダー滅スティングスコーピオンのカラーと合わせるかたちで紫色の羽織に和装の帯を締めた、まさに和洋折衷(わよう・せっちゅう)のスタイルとなって、左手には日本刀も所持していた。
 これはもう、「刀剣ファンタジー」もののゲームやアニメの登場キャラを、良い意味でまんまモチーフにした時流に合ったデザインだと云いきってもよいだろう。『ゼロワン』の後番組『仮面ライダーセイバー』(20年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20201025/p1)に至っては、もう番組そのものが「刀剣ファンタジー」であったりするのだが(笑)。


 仮面ライダーにかぎらずウルトラマンや近年はスーパー戦隊でもシリーズ中盤では恒例イベントとなったヒーローのタイプチェンジは、そのキャラの精神的な成長や心の変遷、主要登場キャラとの関係性の激変などの結果の象徴として、ドラマチックかつシンボリックに描かれるのが当たり前となっている――その意味ではまさにヒーローのタイプチェンジの原点となった「平成」ウルトラ3部作(96~98年)と比べても、単なる玩具販促的な目先の変化だけにはとどまらない高い「ドラマ性」が新たに加えられたともいえるだろう――。
 或人との関係性の変化で「心」がめばえて、「悪意」をもつ人類を滅ぼす側から「悪意」を監視する側に回った立ち位置のシャッフルを、滅のファッション演出も含めた変遷が象徴させてもいるのだから、これはもうカッコよく見えてくるのが当たり前なのだ!


*本来の主人公・或人が「不在」の1週間に起きていた物語!


 テレビシリーズではそんなドラマチックな展開が与えられてきた迅と滅にすっかりホレこんでしまった筆者としては、やはり本作が彼らの後日談として優れていると思えた点はいくつもあった。


 先述したナゾの人物たちと迅と滅は仮面ライダーに変身して戦うも、その力に圧倒されたあげくに迅が連れ去られてしまい、心配した亡と雷がひさびさにアジトに姿を見せてくる。


「仕事はいいのか?」(大意)


との滅の問いかけに、亡は上司の刃唯阿(やいば・ゆあ)=『セロワン』における女性が変身する3号ライダー・仮面ライダーバルキリーが許してくれたからだと答える。雷の方も重要なプロジェクトは弟の昴(すばる)に任せてきたと語ってみせている。


 亡はテレビシリーズ最終回のラストシーンで、対人工知能特務機関「A.I.M.S.(エイムズ)」の技術顧問(ぎじゅつ・こもん)として入隊する描写があった。先述した映画『REAL×TIME』では、当初はテレビシリーズ終盤にあった事件として脚本化されたものなのだが、新型コロナによる公開延期でテレビシリーズ最終回後の後日談として再構築されたことで、出番は少なかったものの唯阿をサポートするさまが追加撮影で点描されていた。亡の返答はこの『劇場版』での描写をさらに受けたものでもあり、カユいところに手が届く、しかも唯阿の温情・人間味をも間接的に意味させたセリフなのだった。


滅「大事にされているんだな……」
亡「理解ある人間たちのおかげです」


 『ゼロワン』のシリーズ中盤では、亡の人工知能が実は不破諫(ふわ・いさむ)=『ゼロワン』における2号ライダー・仮面ライダーバルカンの脳内に、先述した垓社長によってチップとして埋めこまれている(!)恐るべき事実が小出しに明らかにされていった。そこまで人間たちに非人間的な「道具」として扱われてきたAIであった亡だけに、「理解ある人間たちのおかげです」というセリフにはその感慨深さが充分に伝わるものがあった。
 もっとも、亡はテレビシリーズ・劇場版・本作と一貫してその無感情で機械的な口調はあまり変わってはいない。その無機質さこそが彼女の魅力であった亡が今さら笑顔ではずんだ声で人間に謝意を示すのはヤリすぎであり(笑)、むしろセリフでの感謝のみで感情表現としてはクールなキャラに少々柔らかさを出した程度が、ちょうどよいバランスの表現にもなる「演技」と「演出」なのだろう。


 亡と唯阿のやりとりを新撮の回想シーンとしては挿入せずとも、滅と亡の会話だけでも亡と唯阿、ひいては「ヒューマギア」と「人間」とが良好な関係性を築きつつあることを示唆(しさ)する演出は実に秀逸(しゅういつ)。ルックスと声が思春期の美少年のようでもあり、性別がない亡の設定にハマリすぎだった、亡を中性的にも見せつつ演じている黒髪ショートの女優・中山咲月(なかやま・さつき)の功績も実に大きい。


 一方の雷は、第14話『オレたち宇宙飛行士ブラザーズ!』で弟の昴とともに宇宙飛行士型ヒューマギアとしてゲストキャラのように登場するも、実は自身の意志とは関係なしに「滅亡迅雷.net」にデータを提供するようにプログラミングされていた存在だった。一度は怪人化してしまって仮面ライダーバルカンに倒されるも、第35話『ヒューマギアはドンナ夢を見るか?』で復元されるまでは画面上には登場しない。しかし、その間にも「滅亡迅雷.net」のメンバーとして存在が常に語られていたキャラである。
 宇宙事業センターに復帰した雷は、映画『REAL×TIME』では或人=仮面ライダーゼロワンの専用バイク・ライズホッパーを大型トレーラーで届けるだけのチョイ役にとどまっていた――亡とともに『劇場版』が「夏映画」として公開されていたならば、本来は出番すらなかったのだが、公開延期による内容改変で急遽登場したことで結果オーライ!――。


 本作はもしも迅の行方不明の件さえなければ、弟の昴と兄弟で「重要なプロジェクト」に参加したであろうほどに、雷が宇宙事業センターでの地位を確固たるものとしていることを、先の滅に対しての「重要なプロジェクトは弟の昴に任せてきた」というセリフは示してくれているのだ。


 ちなみに、雷の代理として「重要なプロジェクト」=「新型衛星WE′RE(ウィア)初号機打ち上げ計画」に参加することになった宇宙飛行士型ヒューマギアを顔出しで演じたのは、『ゼロワン』で1号ライダー・ゼロワンのスーツアクターを1年間務め上げた縄田雄哉(なわた・ゆうや)だそうだ!


 ヒューマギア事業の海外進出に向けて、衛星間通信を可能にする新型衛星のプロジェクトを立ち上げたのは、もちろんヒューマギアの開発者で飛電インテリジェンスを創業した故・飛電是之助(ひでん・これのすけ)から社長を継承した孫の或人である。彼は昴らとともに自ら新型衛星に乗りこんで1週間のミッションを遂行(すいこう)しているのだ。
 今回、テレビシリーズの主人公であった或人の登場は、この件を報じるニュースの中での「写真」のみだった(笑)。東映ビデオが以前から製作してきた『仮面ライダー』近作の後日談を描いたオリジナルビデオ作品では、テレビシリーズのサブキャラを主役とする意外性で、マニア層の興味関心を惹起する方針を取っており、基本的に主人公の1号ライダーはチョイ役にとどまっており、本編ドラマにも深く関与はしないし変身もしないというのが常となっている。
 それは本来のメインターゲットである子供層を対象とはしない高額なビデオ販売作品だからこそ可能な作劇ではあり、子供向け特撮変身ヒーロー作品としては本来あるべき姿ではないのだとしても、傍流としては許容されてしかるべきであり、その意味ではマニア向け市場もすっかり確立しきった日本の特撮ジャンルの成熟・多様さの現れだと取るべきだろう。


 もっとも、『仮面ライダーW(ダブル)』(09年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20100809/p1)の2号ライダー・照井竜(てるい・りゅう)=仮面ライダーアクセルを主人公とした後日談として、「東映V CINEMA」時代のオリジナルビデオ作品『仮面ライダーW RETURNS(リターンズ) 仮面ライダーアクセル』(東映ビデオ・2011年4月21日発売)のクライマックスでは、『W』テレビシリーズ本編のダブル主人公の左翔太郎(ひだり・しょうたろう)とフィリップが当たり前のように仮面ライダーWに変身し、数種類のタイプチェンジまで披露していたのだ。
――同年7月21日には、その前年に公開された映画『仮面ライダーW FOREVER(フォーエヴァー) A to Z(エー・トゥー・ゼット) 運命のガイアメモリ』(10年・東映)の前日譚として、映画の新敵ライダー・仮面ライダーエターナルを主役に据えた『仮面ライダーW RETURNS 仮面ライダーエターナル』もリリースされていた――


 先駆けとなる番外ライダー主役作品がそんな快作だったから、テレビシリーズと比すればビデオ作品はかなりの低予算作品である以上は仕方がないことだろうが、個人的にはその後に続々とリリースされた仮面ライダーのスピンオフ作品でもチョイ役でもいいから1号もライダーに変身させて、2号や3号との共闘を願っていたものだ。


 だが、本作では内容的に1号ライダーを大活躍はさせづらい。なぜならば、「人間とヒューマギアがともに笑いあえる世界」の実現をめざした或人が今回の事件に関与できたのならば、ここで描かれた悲劇は未然に防ぐことができてしまったと思えるからであり、それではそもそもの今回の滅・亡・迅・雷が大活躍する作品自体が成立しなくなってしまうのだ(笑)。
 したがって、本作では或人が衛星軌道上を周回していて地球を不在にしていた1週間の間に起きた事件だったとして、テレビシリーズでもメインライターを務めた高橋悠也(たかはし・ゆうや)がストーリーを組み立てている。


*恐るべき強敵・仮面ライダーザイア!


 本作の悪役は先述した天津垓がかつて社長を務めていたZAIA(ザイア)エンタープライズのCEO(シー・イー・オー)=最高経営責任者であり、ロン毛にヒゲを生やした西洋人男性でやや中年太りの体型をしたリオン・アークランド=仮面ライダーザイアである。
 12年前の当時にはZAIAのプロジェクトリーダーだった垓によって人間の負の感情=「悪意」をラーニングさせられて、自らを宇宙に打ち上げて人類を滅亡させようとしたAI搭載の人工衛星・アークの名は、実はこのアークランドなる人物に由来していたというのが実に説得力にあふれる後付け設定だ(笑)。もちろんポッと出のそれまでに積み重ねられてきた作品世界とは縁もゆかりもない人物を強敵だと設定しても説得力には欠けるだろう。やはり劇中では綿密には描かれずとも、劇中世界での過去の大事件にも密接にカラんでいた存在だとして、10数年もの歳月を虎視眈々と生きてきた……と設定した方が、この手の後日談作品のキャラ造形としては実に適格でもあるだろう。


 そして、リオンにおおいなる「悪意」を感じたことで、テレビシリーズ終盤から映画『REAL×TIME』にかけてレギュラーとして登場していたAI衛星アークの使者として、或人の秘書を務めた美少女型ヒューマギア・イズの同型機ともいえるアズも再登場する。
 アズは全身黒を基調としつつも登場するたびにファッションを微妙に変えており、今回はレザーのロングコートの内側にカーテン状に見える赤い衣装を着用している。CEOの「秘書」としてのイメージなのだろうが、アズ役の鶴嶋乃亜(つるしま・のあ)はモデル出身でもあり、読売中高生新聞2020年6月5日(金)のインタビューでは自身が演じるキャラクターをプロデュースするつもりで演じていたというから、彼女自身が撮影現場の服飾担当者と相談しながらファッションの細部も決めているのだろう。
 ちなみに、氏が『REAL×TIME』で二役で演じた2代目イズは或人と同様に今回は残念ながら登場しなかったが、『REAL×TIME』で描かれたように仮面ライダーゼロツーに変身が可能になった2代目イズが登場していたら、やはり今回の悲劇を回避できてしまっただろうから、登場してはいけないのである(笑)。


 リオンはZAIAジャパンのサウザー課(笑)から持ち出してきた変身ベルト=サウザンドライバーで仮面ライダーザイアに変身する! 垓が仮面ライダーサウザーに変身する際には「Prezented by ZAIA(プレゼンテッド・バイ・ザイア)」なる音声ガイダンスがドライバーから流れていたのに対して、仮面ライダーザイアは変身完了時に自分でこのセリフを云っている(爆)。
 ゴールドを基調とした全身で目が紫だったサウザーのスーツを、全身黒に塗装してシルバーのラインを加えて目を赤くして若干(じゃっかん)の改造を加えただけのものがザイアのスーツであった。ついでに武器とする長剣・サウザンドジャッカーも模様を塗り替えるだけで流用している。もちろんビデオ販売作品は玩具販促とは無関係でバンダイからの予算も出ない低予算作品であるのでそーいうことになるのだ(笑)。


 ただ、それは大人の事情でやむなしとしても、垓の出番がZAIAジャパンの社内でリオンと配下の女兵士に痛めつけられ、ドライバーを奪われてしまう場面のみなのは少々残念だった。全体的にダーク寄りの作風だから、ここでこそ垓が「ネタキャラ」ぶりを発揮してもらうことで、一服の緊張緩和がほしかったのだが(笑)。


 ちなみに、東映特撮ファンクラブ限定で2021年4月11日(日)からネット配信されるオリジナル作品『仮面ライダーゲンムズ -ザ・プレジデンツ-』(21年)では、『仮面ライダーエグゼイド』(16年)に当初は敵キャラとして登場して中盤からはやはり味方化するも「ネタキャラ」(笑)へと転じた檀黎斗(だん・くろと)社長=仮面ライダーゲンムと垓社長=仮面ライダーサウザーとのガチンコ対決を描いている。
 この作品で垓社長が変身するサウザーはナゼか全身が黒であり(汗)、今さら塗装を元に戻せないとばかりに仮面ライダーザイアのスーツをそのまま流用しているようだ(汗)。
――後日編註:『ゲンムズ -ザ・プレジデンツ-』の撮影が本作『滅亡迅雷』の撮影とは並行になってしまったからだそうだ(笑)。この事実で、アップ用・アクション用の2種のスーツが用意されることが多い東映変身ヒーローなのに、サウザーには1種のみ、しかも予備のスーツもなかったことがわかるだろう(汗)――。


 まぁ、双方ともに「ネタキャラ」であり「社長」でもある登場人物を、作品のワクを超えて対決させてみせる、良い意味での「バカ」だとしかいいようがないマッチメイク企画=『仮面ライダーゲンムズ -ザ・プレジデンツ-』。その予告映像が、動画無料配信サイト・YouTube(ユーチューブ)で配信されるや再生回数がわずか2日で50万回(!)を超えたほどなのだから、やはりまずはドラマ的な必然性もなしに両雄を闘鶏・ポケットモンスター的に戦わせるという往年の『ウルトラファイト』(70年)のようなノリを大衆もマニア諸氏も結局は不謹慎にも望んでいるのであって(笑)、本作『滅亡迅雷』でも垓の「ネタキャラ」ぶりを楽しみにしていたお客はきっと多かったことだろうが、その点については少々物足りなかったのは否めないのだ(笑)。



 自身の「意志」をもたずに皆一様にモノクロの迷彩服を着用している兵士型のヒューマギア=ソルドを、リオンは大量生産して世界各国に売却して軍事ビジネスで圧倒的優位に立つというそのためだけに、ソルドが戦うべき相手として「滅亡迅雷.net」をマッチポンプで人類共通の敵=「必要悪」として再度仕立て上げようとする。
 テレビシリーズではあくまでも垓社長個人の人格の偏(かたよ)りから来る経営方針が問題だっただけで(笑)、ZAIA自体には悪徳企業という印象は希薄(きはく)だった。しかし、本作ではリオンが悪徳軍需企業のCEO=最高経営責任者のように描かれたために、ZAIAはつぶすべき立派な「組織悪」だとの印象が濃厚となって、相対的に観客の「滅亡迅雷.net」への同情・感情移入を誘わずにはいられない展開ともなりえていた。


*人類ではなくヒューマギアの「自由」を守る「仮面ライダー滅亡迅雷」!


 先述したように、迅は一度はゼロワンに倒されたあと、テレビシリーズ終盤にようやく画面に登場したZAIA本社開発部の与多垣(よたがき)ウィリアムソンによって復元されて、中盤以降にアークを倒すという目的で「滅亡迅雷.net」に再度合流していた。
 だが、実はリオンによって迅は兵士型のヒューマギア=ソルド開発のためのプロトタイプ=「ソルド0(ゼロ)」としても復元されていたことが、リオン自身の口から明らかにされるのだ!
 復元されて以降は、「ヒューマギアを人類から解放して自由を与える」と主張するようになっていった迅。しかし、その迅を利用して、まったく逆に一切の「自由」を与えられずに、人類の戦争の「道具」にすぎない存在であるソルドたちが大量に生み出されていたとは、なんたる皮肉な運命であろうか!?


 1971年4月3日に放映が開始されて、2021年で記念すべき「50周年」を迎えた『仮面ライダー』第1作(71年・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20140407/p1)の各話冒頭のオープニング主題歌の最後に流れるナレーションでは、


仮面ライダーは人間の自由のために(敵組織)ショッカーと戦うのだ!」


と語られて、世界制覇をねらうショッカーのテクノロジーで改造人間にされた主人公青年の本郷猛(ほんごう・たけし)=仮面ライダー1号が、次々にショッカーが差し向けてくる怪人たちを倒す、基本設定を深読みしてしまえば、いわば「兄弟殺し」「親殺し」が描かれていた。
 ヒューマギアの「自由」を願っている迅を助けにリオンのアジトに滅・亡・雷が駆けつけて、4人が「変身!」してソルドたちを相手に「兄弟殺し」、リオンに「親殺し」を果たそうと繰り出される一大バトルは、まさに『仮面ライダー』の基本設定部分を忠実に継承した、シンプルな娯楽活劇作品としてはともかく、テーマ部分においては「原点回帰」と呼べる要素なのかもしれない。


 同じく『東映V CINEXT』のレーベルで製作された『仮面ライダージオウ』(18年・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20191020/p1)のスピンオフ作品であり、同作の2号ライダーである明光院ゲイツみょうこういん・げいつ)=仮面ライダーゲイツを主役に据えていた映画『仮面ライダージオウ NEXT TIME(ネクスト・タイム) ゲイツ、マジェスティ』(2020年2月28日公開・映像ソフト2020年4月22日発売・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200426/p1)もそうだったが、本作の中盤のバトル場面は都心かと思われる鉄道沿線にある施設や広場を舞台としていた。
 しかも、今回は戦いに巻きこまれた宅配業者を滅が逃がしてやる描写まであり、人っ子ひとりいないような造成地や採石場が舞台ではなく(笑)、近未来に起こりうるかもしれない現実感・リアル感をも醸し出すアクション演出は実に好感がもてるものだ。
 これらの描写は、テレビシリーズの脚本にも参加して本作ではメガホンも執っていた筧昌也(かけひ・まさや)監督のアイデアによるものだそうだ。


 また、リオンの側近としての出番が多かった男性のソルドがオオカミ型、女性のソルドがサーベルタイガー型の怪人に変身するのみならず、その他大勢の雑魚(ザコ)ソルド(笑)たちも単なる戦闘員キャラではなく、皆がデザインが異なる、本作『セロワン』の敵怪人モチーフでもあった各種絶滅動物をモチーフにした怪人に変身するのが実にポイントが高く、白昼に都市部で展開される仮面ライダーとの大乱戦を華々(はなばな)しいものとしている。
 まぁ皆、実にあっけなく滅・亡・迅・雷に倒されてしまうので正直、戦闘員的な統一デザインでもいいだろ? とも思ったが(爆)。そもそも4人全員が変身してこうしたヒロイックなかたちで共闘するのは実は今回が初であり(!)、その必然性・説得力のためには相手がヒーローとは明らかに格下の戦闘員ではなく怪人クラスの敵キャラでなければ、4人の強さも描けないのだ!
 それにしても、テレビシリーズではその活躍が多く描かれた、紫のサソリをモチーフにした仮面ライダー滅スティングスコーピオン、赤い鷹(たか)をモチーフにした仮面ライダー迅バーニングファルコンはともかく、銀と黒を基調とした仮面ライダー亡や赤鬼を思わせる仮面ライダー雷は、先の『REAL×TIME』でも活躍がなかったために正直、忘れかけていたほどであり(汗)、今さらながらにテレビシリーズでもう少し出番がほしかったように思えてならない。


 その中盤のバトルの最中、迅の体に異変が起こり、それに呼応するかのように滅・亡・雷も次々に変身を解除されて、全員が一見死んだかのようにブッ倒れてしまう!
 まるで抜けガラと化したかのような4人の体から放出されたエネルギーから空中に変身ベルト「滅亡迅雷ドライバー」が生成される! それが3D(スリーディー)プリンターのような役割を果たし、空間で4人が合体した「仮面ライダー滅亡迅雷」が誕生する!!
 そのデザインは滅スティングスコーピオンとほぼ同系色の全身紫であり目も紫である。両肩の赤い装甲・右腕の装甲にあるサーベル・左腕の装甲にあるカギヅメが、それぞれ迅・雷・亡を象徴するパーツともなっている。しかし、やはりリーダー格の滅が主導しているイメージとして完成された姿のライダーだろう。
 なお、「仮面ライダー滅亡迅雷」のスーツアクターは先述したように、本作では宇宙飛行士型ヒューマギアも演じた縄田雄哉であり、そのアクションはテレビシリーズ終盤で「悪意」に満たされてしまった或人が変身したダークヒーロー・仮面ライダーアークワンを彷彿とさせるものだった。


 「滅亡迅雷.net」にとっても想定外だったこの変身は、リオンが迅を捕えている間に彼らを社会にとっての脅威・必要悪とすべく、なんらかのテクノロジーを加えたゆえのものだった! だが、そればかりではなく、「ヒューマギアを人類から解放して自由を与える」という想いが強いがために、皮肉にも迅が精神的にもリオンの思惑(おもわく)どおりにどんどん術中にハマっていく後半の実にイジワルな展開には、優秀たる作家は良い意味でサディスティックでなければならず、劇中人物に安易に救いを与えずにイジメ抜いてあげなければならないのだとも思わせてくれるものがあった(笑)。


*「滅亡迅雷.net」の「意志」のままに!


 本作の冒頭では人間たちに「悪意」が生まれないようにと「花」を育てていた迅が、一転してリオン=ZAIAとの徹底抗戦を主張するに至る心の変遷が絶妙である。迅の行動動機は兵士型ヒューマギア=ソルドたちを


「ボクたちの弟や妹だ!」


と考えるからこそであり、「ヒューマギアを人類から解放して自由を与える」という迅の主張を初志貫徹するためなのだ。


 実は先述した中盤のバトルが終わる際に、「滅亡迅雷.net」が「必要悪」となった以上は、もはや衛星アークの存在は不要だと主張しだしたリオンの凶弾でアズは死亡してしまう!――まぁ本作では「アークの使者」としてだけの存在だったので、本体である知能データの方はどこかにバックアップされており、次回作の第2弾『ゼロワン others 仮面ライダーバルカン&バルキリー』(2021年8月27日(金)公開・映像ソフト2021年11月10日(水)発売)にも姿を変えてシレッと再登場してくるのかもしれないが(爆)―― 本来は敵であるアズの亡骸(なきがら)をも迅は自身が育てた「花」が咲き乱れる庭園に埋葬してあげるのだ……
 「悪意」が生まれないようにと育てた「花」が咲いている場所に、「悪意」そのもの(汗)を葬(ほおむ)るに至ってしまう、「係り結び」としては実にあんまりなオチ。それは彼の内面にある優しさこそがかえって仇(あだ)となってしまう迅を端的に象徴しているとともに、リオンの「道具」として利用された意味では、アズをも「弟や妹たち」とつい同一視してしまう迅のさらなる優しさを描くことで、迅にリオンへの徹底抗戦を叫ばせる動機に説得力を倍増させているのだ。


 ちなみに、リオンはアズを処刑する際に、或人や滅、映画『REAL×TIME』のメイン悪役・エス仮面ライダーエデン(!)をも例に上げて、これまで世界は一時的には「悪意」に支配されたことがあるのの、優れた人格によって容易に乗り越えられてしまうような「悪意」では人類を滅ぼすことはできない。それよりも人類同士が「悪意」ではなく「正義」と「正義」をぶつけあってもらう=「戦争」の方がよほど有効だ……などと語ってみせていた。
 続編・後日談としてこれまでの流れを総括したうえで、リオンが導き出してみせたこの結論にはまさに一理も二理もある。アズや迅には気の毒だが、リオンが「悪意」ではなく「必要悪」にこだわる動機としては実に説得力にあふれるものなのだ。
 もちろん倒してもよい敵キャラを造形するための勧善懲悪作品として、そしてそれまでの『ゼロワン』シリーズに登場してきた敵キャラとの差別化として、彼の主張には自身の野望のためにはなんでもかんでも「道具」として酷使しようとするリオンの非人間性を如実(にょじつ)に表現もできており、迅がそれに対して徹底抗戦を主張する動機づけとしても立派に機能している。


 それにしても、亡を技術顧問として入隊させている唯阿が、「滅亡迅雷.net」が再度の人類の敵となることを必死で否定してみせる記者会見を開くのと同じ時間帯に、ZAIAに「宣戦布告」の動画を送りつけてみせる迅は一見あまりにも間が悪い。だが、そういった善意なキャラクター同士でも価値観や立場が異なればスレ違ってしまうこともあるのが、我々が住んでいる現実世界の日常にもあるキビしい現実でもあることを、戯画化(ぎがか)して写し絵として描いてみせるのがドラマというものの機能のひとつでもあり、観客にも「あるある」と思わせるものでもあるのだ。
 それらの事態を完全に見越していたかのように騒然となっている会見場にフラリと現れて、「滅亡迅雷.net」の脅威どころか「A.I.M.S.」不要論まで唱えて、国防庁にもソルドを売りつけようとする、リオンの戦闘面ではなく営業マン的・政治的なしたたかさには、「滅亡迅雷.net」でも到底かなわない「強敵」との印象をまざまざと見せつけてくれていた。


 だが、後半の展開をよく観れば、むしろ迅の方がリオンよりも一枚も二枚も上手(うわて)であったかたちでストーリーを進行させている。迅もまた決してリオンの手のひらの上で踊らされていたのではなく、「ヒューマギアを人類から解放して自由を与える」ために、あえて自らの「意志」で「必要悪」となることで、相手のゲームの盤上・土俵に乗って優利に戦おうとしたのだ!
 加えてこれは、昭和の『仮面ライダー』の原作者として名高い故・石ノ森章太郎(いしのもり・しょうたろう)のカラーというよりも、昭和のテレビシリーズ作品多数を手掛けてきた脚本家の故・伊上勝(いがみ・まさる)、東映のプロデューサーだった故・平山亨(ひらやま・とおる)の作品に顕著(けんちょ)だった主人公の滅私奉公(めっしほうこう)・自己犠牲の精神を継承したものだともいえるだろう。その意味で、迅は名実ともに立派な「仮面ライダー」になったともいえるだろう。


 迅に共感して「宣戦布告」に参加した亡と雷もまた然(しか)りだ。しかし、ただひとり滅だけはあくまでも「悪意」を監視する立場を捨てようとはせず、人類と再び争うことを拒絶する! ある意味での「絶対平和主義」に近い立場に滅を立たせるかたちで仁義を通すことで、ここで滅を他のキャラとは差別化して描くことでも、そのキャラを立ててみせている!
 「どうしてわかってくれないんだ!?」とばかりに迅が滅に必死で賛同を呼びかける場面は、涙が出るほどに感情移入をさせられた。


 本作で最も重要な、そして個人的に最も好きだと思えるのは、滅がついに迅の「意志」に賛同する場面である。


 迅の「宣戦布告」を知って、


「ずいぶんと物騒なことになってるな……」


と滅のもとに現れたのは、映画『REAL×TIME』では滅と共闘する描写までもがあった不破だ。


 迅が育てた「花」が咲き乱れる庭園=迅が「悪意」が生まれないようにと願った場所(!)にひとりたたずみ、表情に迷いを見せていた滅は不破に対して


「もし自分にとって大切な存在を傷つけられたら、おまえならどうする?」(大意)


と問いかける。


 不破はやはりというか、観客の期待どおりに――テレビシリーズ後半では不破も、垓社長と同様に半分は「ネタキャラ」と化していたので(笑)――


「決まってるさ。遠慮なくブッつぶす!」


と、定番ながらもそのキャラクター・個性を端的に象徴してみせるフレーズを炸裂させる。


 すると滅はこれまでにまったく見せたことのない微笑を浮かべて、


「悩む必要はなかったな……」


と、静かにその場を去っていく……


 ……そう。「遠慮なくブッつぶす!」という、『ゼロワン』では定番だったセリフで、滅の背中を押してあげることで、遠慮会釈容赦なく正義のライダーが悪の敵怪人を倒してみせるために「バトル」をせざるをえない状況を正当化しつつ構築もするのだ!


 つくづく娯楽活劇作品とは、非戦や不戦を主張する日本国憲法第9条や絶対平和主義の精神とはどうやっても相反してしまうものなのである(爆)。その端的な事実をさえ認めようとしないのは偽善であり欺瞞である。敗北を転進や玉砕、敗戦を終戦と云い換えてしまうような精神と、思想の左右は違えどメタレベルでは同じなのであって、将来においては過去とは違ったかたちでの、しかし同じような失敗を繰り返すことになるのだろう(汗)。
 といっても、無制限に暴力(戦闘)が肯定されるワケではもちろんない。どういう局面であれば、暴力(戦闘)による抵抗や懲罰や反撃や予防は許容されるのか? それらの厳密な定義についての熟議による検討は必要なのである。
 そして、道義的にも許されないと判断したからこそ、今回は滅もまた戦場へと向かうと判断したのだ……


 この不破の「ブッつぶす!」は、12年前に不破が通っていた中学校に暴走したヒューマギアたちが襲撃してきて同級生がすべて殺害されたというニセの記憶を垓社長に植えつけられて、ヒューマギアに対する不信と憎悪に燃えていた不破が、テレビシリーズ前半ではとにかく


「ヒューマギアをブッつぶす!」


と敵意ムキだしで叫んでいたように、不破が特殊機関のお仕事・職業としての「仮面ライダー」となった動機を象徴するセリフでもあった。


 ヒューマギアの存在と進歩を人類の「夢」だと主張する或人と当初は対立したものの、彼との長きにわたる交流による関係性の変化や、明白となった自身の過去の真相によって心の変遷をとげた不破は、「ブッつぶす!」相手がヒューマギアからアークへと変わったのだ。


 そして不破の「ブッつぶす!」は、今度は滅を真の「仮面ライダー」としての存在へと至らせる……


 テレビシリーズ第25話『ボクがヒューマギアを救う』でも語られたように滅の出自は、顔は若いのに白髪頭で何かヒラめくと頭部の電球がピカッと光る(笑)博士型ヒューマギア・博士ボットによって開発された幼児教育用ヒューマギアであった。そして、その名残(なごり)であったことがのちに明かされるのだが、『ゼロワン』序盤でも迅のことを「息子」扱いにしていたのだ。
――幼児教育用ヒューマギアであったという設定は、作劇的には後付けだったのだろうが実にウマい言い訳だ! もちろん序盤では迅のことを対等の存在ではなく、格下の見くだすべき存在・道具として扱っていた……といった感じではあったのだが(汗)――


 双方の思惑の違いから、滅と迅の関係性はシリーズ中でも二転三転していくが、最終的には人類の「悪意」を監視する立場となった滅のことを迅が「父さん」と呼ぶに至ったほどに、実質的な親子関係を構築できたと見てもよいだろう。


 もちろん滅の問いかけは、テレビシリーズの最終展開でいつしかめばえた「感情」に対する恐怖心のあまりに、滅が或人の秘書・イズを破壊し、それが或人が悪のライダー・仮面ライダーアークワンとして暴走する遠因ともなってしまい、そのアークワンの攻撃から滅をかばった迅が爆発四散してしまい、双方が互いに大切な存在を失ってしまった憎悪で「悪意」に呑(の)みこまれた或人VS滅の構図が、人類VSヒューマギアの全面戦争へと拡大しかねない事態を招いてしまったことに対する贖罪(しょくざい)の念から、リオンとの徹底抗戦に躊躇(ちゅうちょ)せざるをえない滅が胸の内を吐露させたものだった。


 不破の「ブッつぶす!」はそんな滅の内に秘められていた「父性」をREBOOT(リブート)=再起動させたといっても過言ではなく、「大切な存在」=迅を守るためにリオンを「ブッつぶす!」ことは決して誤りではないのだと、あらためて滅にラーニング=学習させることとなったのだ!
 幸か不幸か、少なくとも本作には登場しなかった或人が滅から同じ問いかけを受けたならば「ブッつぶす!」と答えたハズもなく(爆)、それがゆえに本作の場合には今回の事件は解決できずにバッドエンドで帰結してしまっていた可能性もあったのかもしれないが!?(汗)


 先述した中盤での「仮面ライダー滅亡迅雷」への合体変身は当人たちにとっては想定外のものだったが、終盤のクライマックスでは、滅・亡・迅・雷が「ヒューマギアの自由を守る!」という「意志」をひとつにしたかたちで自発的・意志的に変身してみせる!
 4人が手を取り合うや宙に4つの同一の「滅亡迅雷ドライバー」が浮かび上がる。これこそ彼らの「意志」がひとつとなったことを最大限に象徴する極めてドラマ性が高い演出だろう!
 また、「滅亡迅雷ドライバー」には紫地にサソリ・ピンク地にタカ・銀地にオオカミ・赤地にドードー――ドードーマダガスカル沖のモーリシャス島に生息していた絶滅鳥類――が中央の部分を取り巻くように装飾されており、もちろん悪い意味ではなく科学的・SF的にはちっともリアルではないのだが(笑)、まさに滅・迅・亡・雷の「意志」の結晶としてのシンボリックなドラマ性も感じられるデザインではあるのだ!



 全国的には公開されない地域も多く、映像ソフトで初めて目にする人々の方が多数では? と思われるために、あまりに衝撃的なラストについての言及は、今回は割愛しておきたい。
 まぁ、作品タイトルに『仮面ライダー』と銘打(めいう)たれている以上は、それこそ本編上映前に挿入されていた『V CINEXT』の次回作『魔進(マシン)戦隊キラメイジャーVSリュウソウジャー』(2021年4月29日公開・映像ソフト2021年8月4日発売)の予告編に対して純真にキャッキャと喜ぶような子供たちも親や祖父に連れられて一定数は来場していたのだが、おそらくは本作のラストはトラウマとなること必至だっただろう――女子ならば大泣きするようなオチだった(汗)――――。


 筆者が在住する静岡県静岡市では上映がなかったために、今回は県内の浜松市にある大手シネコン・TOHO(東宝)シネマズ浜松まで足を運んだ。春休みの時期とはいえ、近年の「仮面ライダー映画」の観客としてはあまり見かけなかった――「仮面ライダー放映40周年」の企画が連打されていたちょうど10年前の2011年前後の劇場には結構いた――、決してオタクっぽくはない中高生の男女の姿が多くて(!)、「滅亡迅雷.net」、そして『ゼロワン』の人気の高さを改めて実感させられた。


 自ら滅の背中を押してしまったがために再び「滅亡迅雷.net」と対決せざるをえなくなった不破が再度、唯阿とのコンビを組んで主役となる次回作『仮面ライダーバルカン&バルキリー』も実に楽しみだ。この調子で、垓が主役の『仮面ライダーサウザー』や2代目イズが主役の『仮面ライダーゼロツー』(!)も『ゼロワン others』として製作してほしいところである(笑)。

2020.4.8.


(了)
(初出・当該ブログ記事)


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