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仮面ライダーV3総論  〜変身ブーム下の『V3』全4クール総覧

『仮面ライダー』初作・総論1 製作前史~全8クール総覧
『仮面ライダー』初作・総論2 〜元〈旧1号至上主義者〉の告白
『仮面ライダー』初作・総論3 〜旧1号編を今あえて擁護する
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 映画『平成ライダー昭和ライダー 仮面ライダー大戦 feat. スーパー戦隊』 ソフト化記念! 元祖・1号ライダー・本郷猛こと藤岡弘・御大や、Xライダー・神敬介、10号ライダーZX(ゼクロス)・村雨良が登場記念! ……とカコつけて(汗)、『仮面ライダー』第1作〜『仮面ライダーJ』までの昭和ライダーシリーズ各作評を、順次UP予定!


仮面ライダーV3』総論 〜変身ブーム下の『V3』全4クール総覧

(文・森川由浩)
(2000年11月執筆)

「『仮面ライダー』第1作・総論1 製作前史~全8クール総覧」よりつづき

  http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20140407/p1


仮面ライダーV3』総論 〜その魅力、キャラクターの成り立ち


 当初は半年・2クールで終了の予定が延長に次ぐ延長を重ね、変身ブームの主軸となったゆえ、2年のロングランになった71年4月スタートの『仮面ライダー』(71)も、73年2月に新シリーズ『仮面ライダーV3(ブイスリー)』(73)にモデルチェンジする。


 既に東映では、『ライダー』以外にも実写ヒーロー作品は、


・前年春から『変身忍者 嵐』(72)
・同じく春から『超人バロム・1(ワン)』(72)
・夏からは『人造人間キカイダー』(72)


 を製作放映開始。


・当年5月よりその新シリーズ『キカイダー01(ゼロワン)』(73)
・4月には『ロボット刑事』(73)


 のスタートも控えていた。


 70年代初頭に始まった第2次怪獣ブームは、「変身」ポーズを旗印にした『仮面ライダー』の超特大ヒットで、巨大ヒーロー・等身大ヒーローを問わず、東映以外の各社も参入して、史上空前の作品数が製作放映されて子どもたちも熱狂。各ヒーロー作品も見せ場である「変身」ポーズに趣向を凝らして、世はまさにマスコミからも「変身ブーム」と呼称される状況になっていた。新作「ライダー」には、それらの追い風でもあり牽引力にもなる強力な作品としての存在価値が求められた。


1クール(1〜12話)・V3誕生編


 前作最終回で滅んだと思われたゲルショッカーは再編成してデストロンとなり、暗躍を始める。その中で仮面ライダー1号・本郷猛(ほんごう たけし)の大学の後輩・風見志郎(かざみ しろう)が、偶然その暗躍を目にしたために地獄を見てしまうこととなる。家族をデストロン怪人に殺された復讐に燃える志郎は、先輩ライダーを庇(かば)って改造人間分解光線を浴び、重症を負う。仮面ライダー1号と仮面ライダー2号のダブルライダーは彼を救う手段として、デストロンのアジト跡で改造手術に着手、新戦士・仮面ライダーV3が誕生した!


 大いなる期待を視聴者に与え、それを裏切らない新ヒーローの爽快な登場の直後には、大きな衝撃が待っていた。怪人カメバズーカの体内に搭載された核爆弾による都市破壊を防ぐため、1号と2号のダブルライダーは怪人を抱えて、都心から離そうとして大空に飛び立った。そして核爆弾は怪人ごと大爆発。ダブルライダーはキノコ雲の大噴煙の彼方に消えるのであった。


 衝撃のプロローグである第1話「ライダー3号 その名はV3!」~第2話「ダブルライダーの遺言状」の前後編、およびそのラストである。だが、本当にダブルライダーが死亡してしまったとしては衝撃があまりに大きすぎることと、『V3』の今後の展開で活かそうという目論見(もくろみ)もあってか、児童誌では「ダブルライダーは生きていた」といった記事を掲載。子どもたちを安心させ、夏に向けての新展開への期待を煽らせた。



 満を持して登場した新ヒーロー・仮面ライダーV3。真っ赤な仮面と緑の複眼。その顔面中央を上下に延びる白い蛇腹。大きな白い襟に2本の白いマフラーを垂らし、ジャージ布の明るい緑を基調としたボディに胸腹のプロテクター。白い手袋に赤いブーツ。赤と緑と白を基調にした派手なカラーリングも含めて、そのデザインはとても鮮烈で、絶大なヒーロー性をアピールした。極めつけはライダーの命の源である変身ベルトの「風車」をふたつも備えたダブルタイフーンで、当時の子どもたちに新ヒーローのパワーの高いポテンシャルをも感じさせた。


 そして番組の目玉でもあるV3への変身ポーズ。それは、


「変身、V、3!!」


 の掛け声とともに、2号ライダーの変身ポーズの開始から始まり、途中で1号ライダーの変身ポーズに変わって決める。ダブルタイフーンや変身ポーズは、新ヒーロー・V3に1号と2号の直系かつ合体でもある、由緒正しい血統とオーラも放たせる効果をもたらした。


 仮面ライダーの必殺技・ライダーキックは、「V3キック」と呼称され、前作でも放映中に徐々に向上していったトランポリンアクションは身ごなしやカット割りも含めて洗練されて華麗さを極めるばかりか、「V3反転キック」「V3きりもみキック」「V3フル回転キック」など10種類前後のバリエーションを見せる豪華なものとなった。V3には「26の秘密」もあるとされ、あまたの特殊能力が徐々に披露されていく趣向であったが、この設定は早々に自然消滅して劇中では語られなくなってしまうのは残念なところだ。



 V3に変身する主人公・風見志郎には、土曜夜9時放映のアクションドラマ『キイハンター』(68)にも出演中だった宮内洋(みやうち ひろし)が扮した。氏は本作が皮切りとなり、『秘密戦隊ゴレンジャー』(75)のアオレンジャー、『快傑ズバット』(77)、『ジャッカー電撃隊』(77)のビッグワンなど、文字通り「日本一のヒーロー俳優」となるきっかけを掴んだことは今さら語るまでもないだろう。


 技の1号・力の2号、双方の長所を取り入れたサラブレットヒーローとして、素顔の志郎の性格設定にも先輩双方の長所が継承される。それを微妙な違いでサラっと見せたのは、演ずる宮内洋天性の魅力によるものだろう。


 そして、その爽やかなルックスから来る個性は熱狂的な信者を多く生み、特に女性ファンを多く獲得。中年になっても応援し続ける支援者を確保している。宮内本人も言っていた。舞台公演では「森進一より花束が多い」状況は、こうした『V3』時代から応援し続けている女性ファンの力によるところが大きい。



 このシリーズでは前作と違い、ヒロインを次々と交替させるシステムは取らず、ひとりのヒロインを最終回まで起用した。本作のヒロイン・珠純子(たま じゅんこ)(小野ひずる)は、デストロンの暗躍をたまたま見てしまったことから命を狙われ、志郎に保護される。そこからがふたりの出会いであった。


 今思うに、ロマンチックな出会いでヒーローとヒロインを出逢わせた点には、恋愛ドラマをやりたかったスタッフの希望も少なからず投影されている印象が見受けられる。第1話で志郎の妹が、救助された純子に対して口にした、


「こんな素敵なガールフレンド隠しといたなんて」


 の科白(セリフ)にもどことなくそれが表れている。


 その後、純子は自分のために志郎の家族が惨殺されたのだと責任を感じ、償(つぐな)いの意を表して、彼の孤独な戦いを支える任務に付く。これはほのかな感情が描かれる予定もあったことを伺わせるに十分な設定である。結果として、ふたりは付かず離れずの存在で終わってしまったが。


 だが、それも作品が生き物であることと、本来はヒーローと怪人の戦いをメインとするヒーロードラマ作劇内にて男女劇を展開する難しさや、子ども向け作品としては陽性の作風を損ないかねない恐れもあって、当時のメインスタッフは両者の恋愛への進展を断念したのでは? という推測は成り立つ。王道ヒーローの頂点を究めた第1話に隠された諸要素の断片にそれを見た。


 しかし、そのふたりの微妙な関係にスポットを当てたエピソードもある。怪人ドリルモグラピッケルシャーク登場の11話「悪魔の爪がV3をねらう!!」~12話「純子が怪人の花嫁に!?」の前後編がそれだ。純子に恋心を抱く黒田が改造されドリルモグラとなり、志郎の正体がV3だと純子に口外し、そのことを純子には知られたくなかった志郎は動揺する。その後、純子が連れ去られドリルモグラの花嫁にされそうになるが、V3に救出される。ライダーの後見人である「おやっさん」こと立花藤兵衛(たちばな とうべえ)の助力もあり、純子はV3の正体が志郎だという話は思い過ごしだと解釈。V3の正体は謎のままに終わるのであった……。


 正面切って恋愛が描かれなくとも、ふたりのほのかな思いが一番描かれていたのが、この前後編のエピソードである。脚本はメインライターの伊上勝(いがみ まさる)ではなく、サブメインライターとして以後もライダーシリーズを支え続ける鈴木生朗(すずき いくろう)が担当。お互いを思いやる気持ちが、男女の愛にもうすぐ変わろうとする寸前の微妙なニュアンスを描いた点も、このエピソードの魅力だろう。とはいえ、最近の白黒はっきりした男女関係のドラマに慣らされた今の視聴者が見れば、生温(なまぬる)いとかトロいとか思われるかもしれないが。



 前作に登場した「少年仮面ライダー隊」も作品世界の変更とともに、その隊員たちも再編成され、新たなる戦いが始まる。その新生ライダー隊・隊員の中心になるのが、珠純子の弟・シゲルである。演じた子役・川口英樹は、71年4月から『帰ってきたウルトラマン』(71)で坂田次郎役を演じ、同作シリーズ後半の10月から72年3月には、『ライダー』の東映側のプロデューサー・平山亨(ひらやま とおる)が担当していた『好き! すき!! 魔女先生』(71)にもタケシ役で跨(またが)って出演。
 同じく71年4月スタートの『仮面ライダー』第1作の2〜5クールに石倉五郎役でレギュラー出演しており、やはり平山が担当していた71年10月スタートのテレビドラマ『刑事くん』(71〜76)にも主人公の弟・三神二郎役でレギュラー出演していた人気子役・三浦康晴と並ぶ売れっ子ぶりを発揮していた。


 彼はこの作品に出演したことにより、『ウルトラマン』『仮面ライダー』という2大シリーズに跨ってレギュラー出演した名子役の誉れをものにした。彼はガキ大将でもなく、石倉五郎みたいなワンパク坊主タイプでもない、明るく素直で聡明な少年タイプであり、純粋に志郎を兄として尊敬して、実姉・純子も慕う少年役を好演した。



 新たなる敵組織デストロン。こちらも『仮面ライダー』1作目の初期2クール同様、第1クールでは特定の大幹部が登場しない。しかし、第1クールでは斬新にも毎回、前後編形式を採用して、2体もの怪人が同時に活躍! そして、2体の怪人のコンビ戦を描くという、以後のヒーローものでもあまり例を見ない、非常に独創的でゴージャス感あふれるスタイルが採られた。


 デストロン怪人は、前作終盤のゲルショッカー怪人同様、合成怪人というコンセプトはそのまま継承した。しかし、「動物」と「道具や機械」との合体怪人となり、改造人間という設定が本来持つメカニカルなコンセプトをより強化。『仮面ライダー』1作目でようやく始まったばかりの近代的な等身大変身ヒーローものの草創期に、怪人デザインのひとつの完成型を早くも築き上げた。そして、後世のジャンル作品の怪人コンセプトに、定期的に「動物」と「道具や機械」との合体怪人が復活し続けるほどの影響を与えることになる。デストロン怪人のメカニカルなディテールと生物的なディテールとの融合は、この時点における怪人スタイルのひとつの頂点でもあったのだ。


2クール(13〜30話)・ドクトルG


 1クールを締め括る13話「恐怖の大幹部ドクトル・ゲー!?」で、いよいよレギュラーとしてデストロン大幹部・ドクトルG(ゲー)(千波丈太郎(せんば じょうたろう))が登場。その重量感溢れる大幹部らしい衣裳のデザインと


「仮面ラーイダ、V3」


 という「ライダー」ではなく「ラーイダ」としゃべる、独特のイントネーションの語り口が個性となり、人気を集める。


 試行錯誤で前作とは異なる新しい番組スタイルを構築してきた本作。しかし、やはり前作で新たに番組フォーマットとして磨き上げられてきたものが、本作制作過程でも必要不可欠なものに思われてきたのだろう。それこそが、首領・ゲスト怪人・戦闘員といったタテ関係の、首領寄りのポジションに割り込むことで、上意下達のピラミッド関係をより強調する、奇抜な衣装や不気味な化粧の着ぐるみではないベテラン役者による顔出しの大幹部の存在である。毎回敗れていくゲスト怪人とは異なり、恒常的に怪人たちに作戦指示を下すことでの表情や口調も込みでの演技から滲み出る大幹部の威厳。そんな大幹部がひれ伏してみせることでデストロン首領の強大さもより強調される。それにより、敵組織の厚みや凄みがより表現されるのだ。


 拙稿「『仮面ライダー』初作・総論1 製作前史~全8クール総覧」(http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20140407/p1)でも述べた通り、本稿では各話単位の「脚本」や「演出」以前の、それらよりもっと根底の方にある部分にも言及したい。「脚本」や「演出」、「ドラマ」や「テーマ」の大枠やその方向性を、実は根っ子の方から規定している、作品それ自体の「設定」や「役者の人となり」、そして「映像」に「美術デザイン」などといった、作品のインフラストラクチャーも明らかにする観点から分析したいのだ。


 等身大ヒーロー作品の敵組織内に、明確な地位がある大幹部が存在することでのメリット。それは悪の組織の強大さの表現に貢献する。そして、悪が強大であればあるほど、基本はひとりで敵に立ち向かっているヒーローの戦いの圧倒的な正当性と、孤高の格好いいヒロイズムも強調されるのだ。それらがバックボーンとなることで、敵組織から遣(つか)わされた悪辣な作戦・破壊工作を行う怪人たちを、必殺技で倒してみせることに、因果応報の爽快感・カタルシスも高まっていく。


 正義の等身大変身ヒーローVS悪の敵怪人との戦いを描く子ども向け痛快娯楽活劇の作劇においては、悪がいかにも憎々しげに際立てば際立つほど、必然的に対比としての正義のヒーローがその行動動機も含めて際立つようになる。そして、作品にストーリー展開上のメリハリ・起伏や、敵を倒した際のカタルシスを増大させるためにも、この顔の見える憎々しげな大幹部の投入は非常に効果的なのである。このことが、『V3』第2クールで改めて人間の顔出しの役者が演じる大幹部・ドクトルGを加入させたことで、立派に立証されたといえるだろう。


 大幹部の存在は、以後の『仮面ライダー』シリーズや東映特撮作品のみならず、国産特撮ヒーロー番組全般のスタンダードにもなっていく。そして幹部の演者には、ベテラン俳優の円熟味と威厳溢れる風格も非常に効果的であることが明らかになったともいえる。



 2クール後半に入り、TVの視聴率用語として用いられる「夏枯れ」対策としてのイベント編が開始される。


・視聴者にとっての現実世界における林間学校や臨海学校、町内会などの各種宿泊行事にも通ずる、少年ライダー隊の合宿や遠征を絡めた地方ロケ編
・夏季興行「東映まんがまつり」枠での劇場版新作映画の製作


 これらが進行する中、73年7月期の最大のスポットは児童誌でも既に断片的に情報が公開されていたダブルライダーの復活であった!


・TV本編の四国ロケ前後編(6月最終週と7月第1週)の後編である、第21話「生きていたダブルライダー」では、遠距離通信でV3にコールする。


・並行して四国で同時撮影された劇場版『仮面ライダーV3対デストロン怪人』(73)では銀幕の大画面に登場。OP(オープニング)の3人ライダーの3大マシンのジャンプから始まり、3大マシンでの疾走を見せ、本編でも待ってましたと言わんばかりに3人ライダーと怪人軍団の死闘が繰り広げられる。


 同時上映のアニメ映画『マジンガーZデビルマン』(73)も同様に、ヒーローの共演劇が売りものだったこともあり、相乗効果で大成功を収める。これは今思い起こしても、血湧き肉踊るラインナップである。


 ただ惜しむらくは、仮面ライダー1号・2号に変身する素顔の本郷猛(ほんごう たけし)・一文字隼人(いちもんじ はやと)が出演しなかった点だろう。この時期、彼らを演じる藤岡弘(ふじおか ひろし)・佐々木剛(ささき たけし)は既に他の一般ドラマや映画で大活躍していたため、スケジュール調整が付かなかったことは、各種書籍などでマニア諸氏も周知の通りだろう。



 夏休み編放映分のトリを務めるのは、前作『仮面ライダー』の敵組織ショッカーの歴代4大幹部である、ゾル大佐・死神博士地獄大使ブラック将軍が復活を遂げて侵攻してくる27話「生きかえったゾル・死神・地獄・ブラック」~28話「5大幹部の総攻撃!!」の前後編だ。


 そして、ドクトルG最後の決闘を描く前後編の29話「ドクトル・ゲー最後の挑戦!」~30話「ドクトル・ゲー! 悪魔の正体は?」で、『仮面ライダーV3』の前半部は終了する。


3クール(31〜40話)・キバ一族編&ツバサ一族編


 変身ブームの頂点に立った『仮面ライダーV3』。


 しかし、この「ドクトルG編」終了後の


・キバ男爵(郷えい治 *「えい」は「金」偏に「英」)率いる「キバ一族編」(31〜35話)
・ツバサ大僧正(だいそうじょう)(富士乃幸夫)率いる「ツバサ一族編」(36〜40話)


 以上は、1ヶ月単位で呪術的な大幹部が次々交替する新しい試みで、マンネリ打破を目指す。だが、新キャラクターが定着する前に次のキャラクターへと交替してしまい、視聴者が新しいキャラクターと作品世界に馴染めぬ弊害をもたらしてしまう。



 特にこの前後、ヒーロー側に登場させた、前作において身を張って戦い、ライダーをサポートもしていたレギュラーのFBI捜査官・滝和也(たき かずや)的な存在を目指して、ヒーローのパートナーの新境地を期待させた佐久間ケン(さくま けん)(川島健)。彼のわずかな回数での降板には、シリーズ後半の方向性や新たなキャラクターシフトを明瞭に確立できなかったスタッフの迷いが伺える。だが、このケンの存在による試行錯誤も、次の新たなる作品世界への発展に貢献するのであった。



 登場する怪人も、


・キバ一族は牙を持つ動物
・ツバサ一族は翼を持つ動物


 といったモチーフによる統一を見せ、新怪人のコンセプトの発展に挑む。しかし、合成怪人の頂点を極めたシリーズ前半の鮮烈なデストロン怪人のあとを受けるには、カラーリングも地味であり多少パワー不足の印象は否めない。



 この時期は人間が搭乗して操縦する巨大ロボットアニメの元祖『マジンガーZ(ゼット)』(72・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20200119/p1)の人気が『V3』を抜き出した頃でもある。児童誌の展開も、『ライダー』より『マジンガー』にメインをシフトしていくようになる。


 それだけでなく、実写特撮番組の中にあっても、


・新番組『イナズマン』(73)の10月スタート
・『キカイダー01』後半30話(12月放映分)から新登場した女性人造人間・ビジンダーの存在


 など、他作品のトピックの影に本作は隠れてしまった印象を、当時の子どもたちは受けていたことを時代の証言としても記しておきたい。頂点を極めた作品の、その直後の下降の悲哀を感じさせられる秋口であった。



 9月最終週と10月第1週の「キバ一族編」の33話「V3危うし! 帰って来たライダー1号、2号!!」~34話「危機一発! キバ男爵対三人ライダー!!」の前後編で、待ちに待たれた3人ライダー共演編が、しかも今度は素顔の本郷・一文字も登場して行われた。しかし、前述した『マジンガーZ』、『イナズマン』放映開始、『キカイダー01』にビジンダー登場のインパクトとの比ではなかったように個人的には思う。


4クール(41〜52話)・ヨロイ軍団〜ライダーマン


 そんな他作品の後塵を拝するようになった『V3』のラストの第4クールは、ヨロイ元帥(中村文弥)率いる「ヨロイ軍団編」で有終の美を飾るべく、さらなる作品世界の発展を見せる。佐久間ケンのキャラシフトを生かせなかった反省が生んだとも思える、本作終盤を彩(いろど)るもうひとりのヒーローであるライダーマン・結城丈二(ゆうき じょうじ)の登場である!


 それは、旧1号ライダーが本来持っていた「復讐劇」のコンセプトを徹底させたものだ。彼の出自は悪の組織・デストロンの科学者であり、その脱走者でもある。孤独な生い立ちの過去から哀愁を漂わせ、宿敵・ヨロイ元帥を恨むが、デストロン首領は恩人であると信じ込み、悪にも善にもなれない哀れな存在として戦う。そんな中、V3との出会いによりデストロン首領の本心を知り、人間愛を取り戻すドラマチックなさまは、当時の子どもたちには十分に理解ができなかったことだろう。
 しかし、往時の子どもたちが長じた80年代後半以降、レンタルビデオの隆盛とともに各々が再視聴し、改めて大感銘を受けていったことで、ライダーマン編と本作『V3』のドラマ面も含めての名作としての誉れを堅固にしていった。ある意味では『仮面ライダー』第1作の「旧1号」編の原点にも舞い戻り、それが完遂できなかった要素を完成させたライダーマンのキャラクターとそのドラマ性は、当時よりも後年になってから高い人気を保って、今もなお継続している。


 演じた山口暁(やまぐち あきら)は、『V3』が始まる前に東映の平山亨プロデューサーに自分を主役にと直接売り込みに行ったほどの熱意を見せ、その甲斐あっての起用となった。山口も平山が担当した『刑事くん』(第1部)(71)で主人公の先輩刑事・土居役を演じていたので、平山とは面識があったからだろう。


 そのライダーマンの最期(さいご)は、本作第2話で描かれた都市破壊を防ぐために犠牲となった1号・2号の先輩ライダー同様の目的だった。彼は水爆搭載のプルトンロケットを都内から引き離し、安全圏で爆破させ、V3の目前から消えた。そのとき初めてV3により「仮面ライダー4号」の名が冠された。悪の組織への忠誠から開放され、人間本来の正義心に目覚めた彼は、立派に「仮面ライダー」のひとりであったからだ。



 その後、ヨロイ元帥こと怪人ザリガーナを倒し、首領と対決後、デストロンを滅ぼし、両親と妹、そしてライダーマン・結城丈二の仇を討った風見志郎は、親愛なる藤兵衛や純子たちの前から姿を消した。悪の組織が滅んでも第二、第三の悪が出現する。悪と戦える者は自分くらいだ。仲間たちをこれ以上、戦火に巻き込まないためにも志郎は去ったと解釈したい。


 近年の帰還できる日常や生活があるヒーローではなく、名作西部劇映画『シェーン』(53)などに代表される、事件を解決するや一般庶民の生活共同体からは立ち去っていく、民俗学でいうところの「まれびと」(稀に来る人)の系譜の一連として、V3=風見志郎や当時の変身ヒーローのみならず、往時のヒーローたちを捉えることができるかもしれない。
 そして、彼の最後の勇姿には、「人間は最終的にはひとりなのだ。ひとりでも強く生きる精神力が必要なのだ」という主張を感じ取ることもできるかもしれない。


 ヒーローが苦難と逆境と孤独に打ち勝つ勇姿に、我々はどれだけ勇気付けられたことか。現実の社会に出てみても、世界平和のために戦う彼らの艱難辛苦とは比較にならないだろうが、僭越でも自分をヒーローたちの孤独な苦難と逆境になぞらえて試練に耐えることがある。そんなとき純粋に思う。こうしたヒーロー番組からも学んだ、危急に際しての取り乱してパニックになったり大袈裟に騒いだりしないための身の処し方であり、堪え忍び方であり、心の持ち方なのである。これらが人生において、挫けないための、背筋を伸ばすための、ささやかな杖にもなっているところが微量にはあるのだ。


 『仮面ライダー』シリーズは、基本的にはロンリーヒーローの要素を根底に持っている。成人男性としての余裕や洒脱さがありつつも、どこかで節度もあって禁欲的でもある「美学」にも似た作風から、彼らには及ばずながらも、生き方のモデルの一端や人生の教訓、人間としての理想の姿を看て取っていたところもあったのだな、と時折り思わされることがあるのだ。



 70年代初頭に3年間続いたこの2作品『仮面ライダー』と『仮面ライダーV3』で、『仮面ライダー』シリーズ、そして東映を中心にした等身大サイズの特撮変身ヒーロー番組の王道フォーマットが確立された。
 これを覆す決定的なフォーマットが出現しない限り、『ライダー』『ウルトラ』『戦隊』のブランドヒーローのみの時代は永遠に続くだろう。細かい設定の変化ではなく、主人公などのキャラシフト、敵対する悪の要素からして大きな違いを見せる作品でないと、それは決定的な新ヒーローの誕生とはならないのだ。こうした「フォーマット」を確立したのが『仮面ライダー』であり、以後のヒーローものの大多数がそれに従ってキャラシフトを配置している限り、『ライダー』の国産ヒーローものの「典型」としての地位は揺るがない。それがゆえに王道の『仮面ライダー』シリーズは継続して製作されるのである。



 この3年間に渡る2大シリーズで大きく描かれなかったものに、先に触れたヒーローの恋愛要素がある。ヒロインが一方的にそれに近いものを心に抱いても、主人公がそれを受け容れたりするさまは正面切って描かれることはなかった。


 時代や当時の東映やテレビ局の上層部の「子ども番組観」がそれを許さなかったのだろう。そして、愛に背を向け、他人の愛を守るために戦うストイックな姿もまた、変身ヒーローには確かに似合ってはいたのだ。ただし、同時期の他作品『帰ってきたウルトラマン』・『人造人間キカイダー』・『レインボーマン』(72)ではヒーローの恋愛は描かれてはいる。しかし、当時の変身ブームの筆頭である『仮面ライダー』に求められた要素は、やはり自分の愛を犠牲にしても他人の愛を守るために戦う自己犠牲心のヒーロー像だった。


 だが恋愛の要素は、次作『仮面ライダーX(エックス)』(74・http://d.hatena.ne.jp/katoku99/20141005/p1)初期エピソードでは、積極的に導入されることになる(*1)。しかし、この恋愛要素も初期8話での路線変更によって放棄されてしまう。


 当時のライダーシリーズの製作者たちは、露骨な恋愛描写や悩めるヒーロー像が入ることで、強くて頼れる憧れの兄貴分のヒーロー像から逸脱して、主人公が少々弱々しく女々しく見えてしまうことや、男児たちには照れくさくて恥ずかしく思われてしまうことを危惧したのだろう。そうした判断にもまた相応の理はあるのだ。『仮面ライダーX』の主人公は恋人が死んでしまい、男女の恋情面からは切り離された、旧来のライダー像へと戻っていく。


 製作側での裏事情はともかく、『X』での作劇としてのそれは、恋人に裏切られたことから来る、精神的なタフさ・人生経験・人間的な強さ・老獪さをも身に付けて、さらなる完成された人格と包容力、強敵やズル賢い敵とも知謀も尽くした丁々発止で戦うだけの戦略眼や強さを獲得することにつながったのだと、好意的に解釈したい。


 ヒーローの根拠である「強さ」の裏付けには、愛に裏切られ愛を勝ち得なくとも、腐らずにそれを乗り越え無償の愛に生きる精神力の強さが求められる。その「強さ」は、恋人に限らず他人に裏切られても、それをも恨まず、それに打ち克ってみせること、勝てなくても再び立ち上がることだともいえるだろう。それが『仮面ライダー』シリーズの「ロンリーヒーロー性」を強化し、視聴者を無意識の次元で共感させる大きな魅力となっている。



 その「孤独性」を強調するのが、ライダーたちの出自で多用される、主人公には両親がおらず、兄弟もいない中で、孤独な環境に置かれながらも自立して生きている、という設定だろう。以後の『仮面ライダー』シリーズでも、主人公は孤独であり、兄弟がいても敵に殺されたりといった状況にある。例外といえば唯一、現在放映中の最新作『仮面ライダークウガ』(2000・https://katoku99.hatenablog.com/archive/2000/11)で、主人公・五代雄介(ごだい ゆうすけ)に妹・みのりがいるくらいだろう。


 そしてゲスト出演するキャラクターも、敵の怪人に家族を殺されたりして、孤独な人生を以後は強いられることが多々見られる。それらの描写により、主たる視聴者の児童層に自立心を抱かせることもあるだろう。


 どんな困難に遭っても、孤独に打ち克つ勇気を持つことの尊さ。
 そして孤独ゆえにわかる、困難に遭っている他人の境遇や心情への共感・同情。
 なによりも孤独な人間に手を差し伸べてくれるような、他人の優しさ・暖かさ・有難さ。


 それらを大事にして、他人への思いやりや慈悲の心を失わないで生きるという人類普遍の道徳的なテーゼも、この『仮面ライダー』の主人公たちには結果的に表れていたと思う筆者である。



 それらは、具体的に「○○の話の脚本で明確に描かれている」とか「○○の話の演出で具体的に表現されている」といったものでない。


 基本設定において各登場人物の設計を行い、それらを効果的にキャラクター配置した時点で、既に彼らの関係性とその後の関係性の変遷、人間性や内面の心情は自然と出来上がっているものなのだ。あとをそれらが自然に表現されるように、付け足して作り上げていくのではなく、丸太を彫り刻んで埋もれていた木像を取り出していくようなものなのである。


 埋もれていた可能性の物語が必ずしも全てを発現できていなくても、基本設定やキャラシフトそれ自体に既に孕(はら)まれていたドラマ性や物語、登場人物たちの関係性やその人間性の点描、あるいは、ついついそこに目が行ってしまって妄想の有り得たかもしれない物語を妄想させてくれるポテンシャルを持っていたこともまた、ライダーシリーズの魅力のひとつなのだ。



*1……以後の『仮面ライダー』シリーズでは、『仮面(スカイ)ライダー』(79・https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210102/p1)最終回の本編でカットされた「私、洋さんのお嫁さんになりたかったの」に見られる幻のラストシーン。『仮面ライダースーパー1(ワン)』(80)最終回(https://katoku99.hatenablog.com/entry/20210822/p1)におけるスーパー1こと沖一也(おき かずや)と草波ハルミ(くさなみ はるみ)の愛惜あふれる描写。そして、ビデオ作品『真・仮面ライダー 序章(プロローグ)』(92)で結ばれる風祭真(かざまつり しん)と明日香愛(あすか あい)など(その後に悲しい別れが待っていたが)、徐々に恋愛ドラマやラブシーンなども描かれるようになっていく。
 これは70〜90年代にかけて開放的になっていく時代の恋愛観と、それを受けつつ年長のマニアも増えていった子ども番組観や特撮作品観の変化もあってのことだろう。特に『真・仮面ライダー』に関しては、既に年長者のマニア社会が成立して久しく、家庭用ビデオデッキの大幅な普及達成に伴い、若者向けのレンタルやセル(販売)を前提としたビデオ作品(Vシネマ)の新興期とも巡り合わせて、原作者や製作会社側の「仮面ライダーを大人のエンターティメントにしたい」という思いもあったゆえに、正面切った恋愛ドラマを展開できたのだ。


(文中敬称略)
(了)
(初出・特撮同人誌『仮面特攻隊2001年号』(00年12月30日発行)『仮面ライダー』シリーズ大特集より抜粋)


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