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映画館で先行公開のオリジナルビデオ『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』(10年)全7作の再編集2クールTV版『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096』(16年)が完結間近記念! ……とカコつけて(汗)、『機動戦士ガンダムUC』最終章『episode7 虹の彼方に』評を今さら発掘UP!
『機動戦士ガンダムUC episode7 虹の彼方に』
(2014年5月17日公開)
(文・T.SATO)
(一昨年2014年6月14日脱稿)
『ガンダム』シリーズこそ今では「重力の井戸」で、それに魂を奪われた連中こそ、今では「オールドタイプ」じゃネ? とも思っているけど、かつて『ガンダム』とそれを手懸けた富野喜幸カントクを崇拝し、アニメ界の革新を夢見た恥ずい過去を持つ筆者は、愛憎あい半ばした気持ちで新旧『ガンダム』を観てしまう。
あの頃みたく、内向的な主人公少年を自分自身の似姿だ! なんて見方はしないけど(笑)。
昔はリアルに思えたことが、それは前時代のロボアニメと比して相対的にリアルに見えただけであって、今観るとリアルではないこともしばしば。
本作『ガンダムUC』でも主人公の民間人少年が偶然、巨大ロボットの機体を生き別れの父から譲り受け、初搭乗で乗りこなし、圧倒的な強さも披露する。
主人公少年がパイロット適性があるという「ニュータイプ」という存在だからで、かつ「最新鋭機」だからとゆー理由もわかるのだが、ちっともリアルじゃない(笑)――もちろんさっさと巨大ロボで戦闘しなきゃ話にならんので、作り手も判っていてあえてこーしているとも推察はするのだが――。
でもコレを10代の時分で観たらドーか?
思春期少年の鬱屈。そんな自分を解放してくれる非日常。多少なりとも主体的・能動的に状況に介入し、事態を積極的に改変していく行為。
ヒーローロボットならぬリアルロボットものも、結局は少々の言い訳をスパイスした「身体拡張」の「全能感」・「カタルシス」を味あわせる装置だから、そーいう時分に観れば当方もベタに共感、ハマったろうとも思えなくもない。よって、上から目線で本作を過剰に否定する気もまた毛頭ナイ。
本作『UC』では、『ガンダム』シリーズに対する意地悪なマニアたちによる根強い批判言説をも意識したのか、「民間人が軍事機密に関わることで死刑もありうる」という現実世界での軍規に即したことにも一応は言及。
そうは云っても、一方で主人公少年が乗艦することになる戦艦に同乗していた金髪の青年軍人クンは、偶然避難していた敵・ネオジオンの姫様・ミネバ嬢を奪取し、色恋&戦争回避を目的に独断で地球に降下、議員の父に斡旋を頼まんとする。
コレも敵前逃亡の重罪じゃネ? とも思うけど、『ガンダム』シリーズではいつものことだし(笑)。
大状況を縮図として描くのが大方のリアルロボットもの。だからリアルな軍隊像としてはオカシくても、軍隊の論理を相対化する視点として民間人を軍人たちと同一の空間に置き、両者の齟齬を描くのは物語としてはアリだとも思う。
その延長線上で、敵味方・双方の軍&政府をも倫理的に批判する存在として、非・富野作品の平成『ガンダム』諸作や『ガンダム』以外のリアルロボットアニメ作品のように、主人公少年たちが属する軍艦や組織をシリーズ途中で軍揮下から離脱させたり、遊撃軍・テロ組織・民間軍事会社にして、複数の理念の相克を描くのも、戦争状況の寓話化・思考実験としてはアリだろう。
富野信者は認めたくないだろうが、本作終盤での文字通りの呉越同舟や、敵の軍人を殺傷せずに機体のみを戦闘不能にする戦い方は、『機動戦士ガンダムSEED(シード)』(02年)や『新機動戦記ガンダムW(ウイング)』(95年)などの平成『ガンダム』シリーズの成果を受けてのものだとも私見する――本作『UC』におけるそれらの描写が大成功していたとも思わないけれど――。
人類が宇宙に進出すると認識力が拡大し、人間同士が誤解なしに理解しあえる「ニュータイプ」に進化するという理想主義的な理念が甘ったるくてイヤになったとおぼしき富野は、90年代には大地に根ざした健全な家族と生活を称揚、それを「ニュータイプ」と呼称する大転換を遂げ、宇宙移民者はニュータイプに進化せず、その寄る辺なさを旧弊な「貴族主義」や「母性主義」で糾合した様が描かれた。
宇宙移民者側の心理の変化が筆者には実にリアルに思えたが、シリーズのスキ間を埋める富野以外の作家が描く本作『UC』でも、開拓小惑星の民衆・労働者描写でその萌芽を描いていたのには感心。
人類は今後も「新人類」などには進化せず、集団同士の力の均衡と闘争の歴史を繰り返すという一部キャラの述懐も、個人的には同意をするし、その諦観や愚行も含めて人間賛歌として捉えてイイ気もする。
が、エンタメとしてはニヒルに過ぎるし、大破局や暴政を防ごうと尽力した人々の営為で、社会のバランスが取れた面もあったろうことを思えば、その役回りを若者たちに振るのも、ある程度まではウェルメイドをめざすべきエンタメ作品の作劇としては間違ってはいないとも思う。
――ただし約20年前に批評家・佐藤健志(さとう・けんじ)が指摘してみせたように、コレは「可能性」を次世代へと都度託しているだけで、問題の根本解決では毛頭ナイけれど――
イカれた「強化人間」や物理法則を超える(笑)「サイコフレーム」なる機器に「残留思念」などの要素は、初作にはなく初作の直続編『機動戦士Z(ゼータ)ガンダム』(85年)以降の要素である。ロートルの筆者としては実にゲンナリするけれど、今さらコレらの諸設定をスルーするワケにもいかないのもわかる。
しかし、初作にはあり続編『Z』では描かれなかった戦災後の庶民や、汚れ仕事も必要悪の職務として行なう敵味方&財団のオールドタイプなムクつけきオジサンたちにも、一理を認める好感度大の描写で帳消し。
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(88年)以降、富野が執着するもオタは見ていない(笑)男女間でのボディータッチ演出などは、本作『UC』ではなし。
ただし富野作品におけるそれらの演出・描写も成功していたとはとても思えなかったし、戦争や作戦や政治をさておいて痴話喧嘩などをしている作劇などは不自然・論外にも思えたので、なくても問題なし。
敵将フル・フロンタルのオカルトSFなウラ設定は、かの人の描写に失敗したときの「逃げ」や「保険」に思えてドーかと思ったけど、映像作品では語られない公式設定(笑)なぞはともかく、完成フィルムだけを観れば、偽物ではなく彼のヒトのベタな再来だと受け取っても問題はナイだろうとも思う。
謎のアイテムの正体と幻の憲章条文を盾に、経済的に「地球」を封鎖し「宇宙」側が優位に立つという、彼の着想にはシビれた。
初作以来の好敵手・シャアらしくないと劇中では批判されるが、『逆シャア』こそ彼らしくないと見る筆者は、初作劇場版『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙(そら)編』(82年)の主題歌である「ビギニング」アレンジ曲に涙腺を刺激されて、情緒の次元でダマされていると思いつつも、彼の決着もここで着いたことに感傷的になる。
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